インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「…………」
翌日。ここは一年一組の教室。今の時間帯は授業の始まる十分前であるが教室内にいは女子生徒達がいた。が、彼女達は困惑していた。理由は昨日テレビで報道された内容である。
倉持技研と政府の汚れたやり取りと、その一分始終を綴ったように記された日記の内容に驚きを隠せないでいたのだ。
真実であり、日本全土に大きな衝撃を与えていたのだ。千冬が関わった倉持技研が政府との金のやり取りを行なったからだ。しかし、それ以上に怖い出来事が遭った。
それは二日前に起きた倉持技研の連続殺人事件。それだけでも戦慄していたがそれと関わる出来事であり、序章に過ぎないのだ、と。
周りは倉持技研のことで困惑しながら近くにいる者達と話をする中、中央の席には一人の少女が新聞を広げながら哀しい表情を浮かべていた。
ISの完成を見送られた簪である。近くには従者の本音がいるが簪を見て困惑している。もう一人の従者であり、ジェイソンを使って殺させ、日記を流した一夏は居ない。
彼は今、ある場所にいるため、遅れて授業に参加することになっている。
「……うっ」
簪は新聞を見て、つらそうに言葉を詰まらせる。
『倉持技研、政府とのやり取り疑惑発覚か!?』
『倉持技研の二日前に起きた殺人事件は政府への怒りか!?』
『政府の重役達、警察による家宅捜索!』
『倉持技研、全ての融資先から白紙に戻される!』
新聞には倉持技研の内容がどこも載っていた。しかし、自分のISのことまでも書かれている。日記はどこから出てきたのかは判らないが簪は新聞に目を通していた。
しかし、倉持技研は兎も角、日本政府は日本全土からバッシングを食らい、殆どの役人(主に賄賂や汚職まみれの者達)が辞職や警察に逮捕された。
揉み消すことはできなかった。日記が重要な証拠となったのだ。話を戻すが倉持技研は事実上倒産し、金を受け取った研究員達は逮捕され、または路頭に迷うことになった。
しかし、日本政府は旧政府達を完全とは言い切れないが、入れ替えという意味で多くの重任が登用された。総理大臣も新たに登用された。
その人物は壮年の男性であり、義理人情に厚く、国民を尊重する人でもあった。政府は多くの立て直しに追われることになったが暫くの間は大人しくなるだろう。
「……っ」
が、簪は新聞を読んで微かに涙を溜める。新聞には政治のことだけでなく、倉持技研の企業のことまでも書かれたいたからだ。因果応報であるが自分のISが政府や倉持技研のせいで見送られたからだ。
千冬は噛んではいない。彼女は頼んだだけであるが政府はそのことを黙っていたのと、倉持技研もそのことを黙っていたからだ。ファンから見れば彼女は被害に遭ったに過ぎないだろう。
しかし、簪は違う。最大の被害者であるからだ。彼女はISが見送った理由を知ってしまっのだ。刹那、彼女の頬に涙が伝う。堪えきれない意味でもあったのだ。
彼女は新聞を見ながら涙を流す。好きな人や尊敬した人の悲報での涙ではない。見送られた理由を知ったための涙でもあった。
「かんちゃん……」
そんな簪を近くにいた本音が慰める。彼女は哀しそうであるが同情しているのだ。簪のISがダメになったことは兎も角、利用されたことや捨てられたことがショックなのだろう。
しかし、周りにいた女子生徒達は簪を見て何かを思う。表情は哀しい、気にもしない、といった表情をそれぞれ浮かべている。自分も同じ立場であったのなら、つらいのだ。
いや、専用機持ちでないのないため、同情はできないが同情は微かにある。ISを気に入っている者なら専用機持ちは憧れでもあり、超えたい存在だ。
「(……っ、ざ、ざまみなさい……!)」
そんな簪をセシリアは微かに嘲笑っていた。
が、彼女は微かに震えていた。イギリス政府からの厳重注意と、イギリス政府が一夏に専用機を謝罪の意味で与えてくれるのと、一夏(何か思惑がある)が専用機を受け取ると了承したことだ。
セシリアから見れば屈辱しかなかった。しかし、ジェイソンの襲撃で弱気になりつつあった。いつもなら威張れるがそれができなかった。
彼の存在がセシリアに大きな暗い影を落としている。効果はてきめんであったが一夏の罠でもあった。簪(利用する意味で)を困らせた彼女に一泡吹かせたかったのだ。
セシリアは簪を見て微かに喜び、同時に震えている中、簪に近づく者がいた。
「ちょっといいか?」
簪は泣きながら、本音は簪を慰めながら声がした方を見る。箒がいた。彼女は腕を組んでいるが表情は険しいどころか少し哀しいようにも思えた。
箒が簪の所に来たのは、慰めるためではない。彼女の目的は、ある人物に対しての質問であった。
「篠ノ之さん、どうしたの?」
簪が訊ねると、箒は頷く。
「ああ、すまないが一夏はどこだ?」
「えっ?」
箒の言葉に簪は瞠目した。が、箒は一夏がいないことに気づいていた。想いを寄せているのもそうであるが彼女は一夏がどこにいるのかを簪に訊ねているのだ。
彼女は一夏と共に行動することが多い。羨ましくも嫉妬さえも感じた。が、今は一夏のことを訊ねている。
「……ごめん、織斑さんは今、織斑先生から呼び出しを受けているの……」
「何? 千ふ……織斑先生から?」
簪の言葉に箒は訝しむ。が、簪は先を続ける。
「うん……なんでも、織斑先生から呼び出しを受けたんだけど、なんでも話があるって」
「話? いったい何のだ?」
簪は首を左右に振る。
「私にも判らない……でも、私には、なんとなく判る……」
「何か知ってるのか?」
「……うん……」
簪はそれ以上は続けられなかった。何かは判った。が、それ以上は言えなかった。躊躇しているのか、言葉を詰まらせているのかは簪にしか判らない。
しかし、簪は予想はついていた。一夏が千冬に呼び出された理由を。未だ目に涙を浮かべているがそれが彼女の哀しみでもある。
簪は一夏を心配しているが従者の彼が誰よりも怖いことは判っていた。同時に自分を守ってくれたことで微かな想いが芽生えている。いや、彼の心は誰にも開かない。
ジェイソンは兎も角、自分や姉、両親や従者達、千冬、箒や鈴等の幼馴染みに対して冷たく当たっている。彼の心情は判らない。が、簪は千冬に呼び出された一夏を心配していることに変わりはなかった。
だが、箒はそれ以上に簪に嫉妬しているのか、或いは一夏を心配しているのかは判らないが表情を引き攣らせていた……。
「とりあえず、織斑先生に織斑君、それでいいですね?」
その頃、一夏は千冬に呼び出されて、ある所の室内に居た。それは学長室であり、学園長である十蔵と話をしていた。が、一夏を呼んだのは千冬ではない。
十蔵が千冬に対し、一夏を呼び出すよう言いつけたのだ。が、彼が一夏を呼んだのには理由がある。倉持技研での件でもあるが、それとは別にもう一つの用件があった。
が今は、倉持技研での話だ。それは千冬にも関係しているが彼女は図十蔵の話に耳を傾けているがどこか困惑している。政府とのやり取りを知ったからであった。
彼女から見ればつらいだろうが一夏は姉のことも気にもせずに、十蔵の話を聞き続けていた。彼は億劫そうであるがそれでも退室する考えはなかった。
「倉持技研での話は聞いた通りですが、織斑君、君が乗る筈だった白式は、証拠品のために警察が回収することになりました」
十蔵が言葉を続ける。が、千冬は顔を引き攣らせていた。悔しい、そう感じているのだ。倉持技研の日記に記されたことも原因であるが警察の仕事でもあり、文句は言えないのだった。
千冬はつらい思いをする中、一夏は口を開く。
「……それで?」
一夏は十蔵の話を聞いていたが逆に聞き返す。十蔵はつらそうであるが答えた。
「君に白式を乗せるのは私から見ればつらい。君も倉持技研の薄汚い欲望にまみれたISは乗りたくない筈です」
「……まあ、そうなるな」
「……君の意見も尊重するが、私は君を呼び出したのには、ある理由があります」
「……まさか」
十蔵は別の話題を出す。変える意味でもあるが、一夏と千冬はそれぞれの反応を見せる。
千冬は十蔵の言葉を待っているがつらそうであった。まさか届いたのか? そう思ったのだ。
一夏は何も気にしてはいないが何かに気づく。まさか……あれのことか、と。無論、十蔵の口から聞かされるまで解らない振りをした。が、いよいよあれが来たのか、と内心警戒しているが、白式に乗らずに済むと思っていた。
そして、十蔵は一夏を見据える。一夏は、彼は知っている。そう思ったのだ。しかし、あれが来たのだ。それを伝えるためでもあった。
同時に倉持技研のISを乗る彼に大きな傷を負わせないで済むと言う安心感もあった。十蔵は学園長でありながら教師でもあり、生徒を守るという重い義務をきちんと受け止めている。
そして、彼は無言の後、言った。
「……はい、今朝来ましたよ……イギリス政府から送られた専用機、ジャック・ザ・リッパー、が……」