インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「………」
あれから数時間後、ここはアリーナの中にあるピットに続く通路。そこには数人の生徒達と大人達がいた。
生徒は一夏、更識姉妹、布仏姉妹、箒の六人。千冬と十蔵の二人であった。八人は通路を歩いているが誰一人、声を出さない。
十蔵が先導するように歩いているが一人だけ、違和感しかない服を着ている者がいた。一夏だ。彼は紺色のISスーツを着ている。理由は、あるISに乗るためでもあったのだ。
放課後なのは自由時間にも近いからであった。一夏や千冬は兎も角、楯無と布仏姉妹は生徒会として確認するのと、簪は一夏のISが気になったのと、箒は単についてきただけである。
しかし、八人はそれぞれ、様々な表情を浮かべている。千冬と箒は困惑し、簪と布仏姉妹は何も言わずに哀しそうであり、楯無は一夏の少し後ろを歩いているが顔を引き攣らせている。
十蔵と一夏は険しい表情を浮かべているが誰一人、未だ言葉を発しないでいる。
「ここです」
すると、十蔵が立ち止まると、そう言った。その言葉に一夏達は立ち止まるが十蔵は、横を見る。一夏と彼女等は十蔵が見ている方を見る。そこは、あるピットを出入りできる扉であった。
白を基準としているがとても大きい。ISを運ぶにはうってつけであった。が、彼等は、その扉の中にある、あるISが置かれている。
それは持ち主を待っているようにも感じられるが、その持ち主ともなる者は一夏であった。彼は扉を見て眉をひそめている。が、十蔵が先を続ける。
「織斑君、ここにあります。君が乗るであろう、イギリス政府が送ってきた専用機、ジャック・ザ・リッパーが」
「…………」
一夏は扉の方を見続けるが、十蔵は更に先を続ける。
「とりあえず入りましょう。一刻も早く、お目にかかりたいのでしょう?」
十蔵は一夏を促す。主役は一夏であるようにも感じるが、乗るのは一夏でもあるからだ。十蔵の言葉に周りは様々な反応を見せるが一夏は十蔵の言葉に軽く頷くと、扉の中へと入るように足を動かした。
刹那、一夏が近くまで来たのをを反応するように扉が左右に開く。自動ドアであった。が、その向こう側はピットであった。倉庫とも言えるが部屋の奥には一人の女教師と、一機のISが座っているように待機していた。
教師は真耶であった。彼女はISを調べるためにパソコンを操作している。彼女は扉の音に反応したのか振り返る。
「織斑君、それに学園長や織斑先生に生徒会長……更識さん達も?」
真耶は簪達を見て首を傾げる。彼女等まで来たことは想定外であったのだろう。が、一夏は眉間に皺を寄せていた。真耶に向けている訳でもない。
彼は、真耶の近くにあるISを見ているのだ。黒を基準としているが赤黒く、真っ赤な血が滴り落ちているような模様が幾つもあった。背中にはコートらしき物があるがスラスターなのかを疑う。
「あれが……ジャック・ザ・リッ、パー……?」
簪がそう呟く。が、十蔵と千冬、真耶や一夏を除いた周りの女子達は黒いIS、ジャック・ザ・リッパーを見て微かに様々な反応を見せる。
簪と布仏姉妹はISを見て困惑し、箒は軽く顔を引き攣らせる。楯無はISを見て何かを思うが一夏に相応しいISだとも感じた。彼の誰を寄せ付けない雰囲気と、一人でいることが多く、独断で行動する彼にはジャック・ザ・リッパーが相応しいと。
ジャック・ザ・リッパーは元々、夜にしか現れない。ISが黒い者それが理由だろう。が、赤い血は殺された女性達の流した血を模しているようにも思えた。
しかし、それも更に一夏に相応しいとも思えた。あの血は彼が(客観的にであるが)殺した倉持技研の血を現しているようにも思えたのだ。
楯無はあのISが、ジャック・ザ・リッパーが彼に相応しいISであることを確信してしまった。彼女は微かに奥歯を噛み締めるが、視線を千冬の方へとやる。
千冬はつらそうであった。弟の彼が乗るべきISは白式だった。だが、白式は倉持技研の件で警察に回収されてしまっているため、戻ってくるのには一週間はかかるのだ。
そのため、イギリス政府が送ってきてくれた専用機、ジャック・ザ・リッパーが事実上の一夏のISとも言える専用機になる。千冬にはつらいのだ。
が、彼女が悪い訳ではないが仕方ないことだ。同時に簪のことを思えば、更に仕方ないことだ。姉として、妹の心配をするのは当たり前だ。
しかし、いまだギクシャクしており、和解する手掛かりはない。楯無はそのことを重く受け止めながらも一夏を見る。
彼の背中しか見えなかった。彼は何かを考えているようにも感じるが同時に恐怖しているため、楯無は目を逸らす。怖い、と。
「……これが、か?」
楯無がそんなことを考えているのをつゆ知らずに一夏は十蔵に訊ねる。彼はISを見ながらでもあったが十蔵は口を開く。
「はい。あれが君の乗るべきIS、ジャック・ザ・リッパー、です」
「……成る程」
一夏はそう言った後、ISに近づくように歩み寄る。なんの反応もないISではあるが一夏はISを見下ろす位置にまで来ると、立ち止まった。
「………」
一夏はISを見据える。ISからはなんの反応もないのは当たり前であるが何かを感じていた。不気味、そう感じたのだが自分と同じようにも感じたのだ。
夜にしか活動しない、人を殺す。それが共通点でもあった。
「お、織斑君?」
すると、真耶が彼に訊ねる。一夏は真耶を見る。彼女は少し困惑しているが作り笑顔をしていた。
「こ、このISにはなんの異常も見られませんでした。乗っても大丈夫です」
「……そうか」
「は、はい。乗り方は簡単でしょう?」
「……ああ」
真耶は一夏に質問する。が、彼は相槌を打つことしかしなかった。これには真耶も困惑するが彼は真耶を見据え続けていた。
「織斑君、お手を触れなさい」
十蔵が彼に言った。真耶の助け舟とも言えるが彼は十蔵の方を見る。十蔵は微かに微笑んでいた。彼なりの気遣いでもあるが一夏は十蔵の言葉に何も言わず頷くと、ジャック・ザ・リッパーを見据える。
ISは、ジャック・ザ・リッパーは待機状態でもあるが持ち主を待っているのには変わりなかった。そして、その持ち主は彼、一夏となる。
一夏はジャック・ザ・リッパーに手を伸ばす。刹那、触れると同時にISから幾つものの画面が映し出される。持ち主を特定したり、合わせるように計算している。
そして、一夏はジャック・ザ・リッパーを見ながら何も言わない。これが自分の専用機になる。そう思っていたからだ。
「……一夏」
しかし、そんな一夏を見た千冬はつらそうに呟くと、項垂れた。そして、箒は一夏を見て何も言わなかったが彼が白式を使わなくなったことでつらそうであった。
悪いのは倉持技研であるが千冬のを使ってほしい、と思っていたのだ。そう考えても後の祭りであるが何も言わなかった。そしてピット内はISが、ジャック・ザ・リッパーが一夏のISとなるまで、誰も言わなかった。その場を動かなかった……。
「いっくん……ごめんね」
その頃、ここはとある更衣室の前、そこには一人の女性が扉に何かをしていた。それは束であった。彼女は更衣室の中へ入ろうとピッキングしていた。
彼女は一夏とは再会した。が、彼の拒絶を聞いてショックを受けた。あの時逃げたのも、空からの監視を気にしてしまい、逃げたのであった。
「ごめんねいっくん、本当にごめん」
彼女はそう言いながらピッキングを続ける。更衣室に入る理由は一夏の持ち物を調べるためでもあった。それは彼の身に何が起きたのかや、空白の三年間を知るためでもあった。
彼の持ち物に何かの手掛かりがあるのかもしれない。そう思ったからだ。同時に彼の行動を監視していたが暗部に入ったことや暗躍していることを知っている。
束から見れば怒りが沸いてくるが一夏のことを思い、千冬にも告げ口できなかった。彼が暗躍していると教えれば、彼女が傷付くと思ったからだ。
束は自分の無力さを噛み締めているが、一夏のために何かをしょうとしていた。今の行動がそうであるが犯罪でもある。最悪の場合、一夏に嫌われてしまう。
刹那、扉の開く音が聴こえた。束は驚くがつらそうに頷くと立ち上がり、中へと入る。更衣室だけであって、左右にはロッカーが幾つもあった。
中央にはベンチがあるが座るためでもあるのだろう。しかし、束は辺りをきょろきょろする。
「いっくんの服がしまっている場所……」
束は一夏の制服がしまってあるロッカーを探す。しかし、どれも同じであるため、見つけるのには一苦労する。一夏のためならなんと思っていなかった。
が、彼女は知らない。一夏は、更衣室に侵入してくる者がいるかもしれないと思い、ある者を更衣室に待機させていたのだ。無論、束はそのことを知らない。
「いっくんのは……うん?」
刹那、束は後ろから気配がしたのを感じた。束は見つかったかと思い振り返った。
「ひっ!?」
刹那、束は恐怖で顔を歪める。なぜなら、目の前には奴がいた。ジェイソンである。
「…………」
ジェイソンは無言で束を見ている。そう、一夏が待機させた者は彼であった。
すると、効果はてきめんだったのか束はジェイソンを見て身体を震わせる。
「あ、ああ……う、わぁぁぁぁぁっ〜〜!!」
そして、束の悲鳴が更衣室ないに木霊した。同時に幸いなことに更衣室を出入りできる扉は後ろにあった。束は悲鳴を上げながら踵を返して更衣室を出て行った……。