インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
あれから数日後の放課後、ここはIS学園内にある第三アリーナ。そこにある会場席は今、クラス中の女子生徒達や職員達で埋め尽くされていた。
彼女達は、まだか、まだかと言わんばかりに待っている。理由は,もうすぐ行なわれるクラス代表決定戦で、だ。好奇、憎悪と言った視線が幾つも見受けられるが共通しているのは、クラス代表決定戦という試合を待っているだけだろう。
「…………」
そんな中、ここは、とあるピット内、そこには一夏と更識姉妹がいた。他の面々は今、そこには居ない。布仏姉妹は会場席で見守り、千冬と真耶は放送室でISの微調整や様子を調べるために待機し、箒と鈴は会場席にいる。
彼と彼女達しかいないのは、彼は従者としてであり、更識姉妹は利用する意味での守るためでもあり、更識姉妹は側近である一夏の晴れ舞台を見るためでもあった。
生徒会長の権限を使ったのだが簪は対象外でありながらも一夏が十蔵にお願いし、特別な計らいで許してもらったのだ。
それに、彼の相手はセシリアであるが一夏の相手ではない。彼はセシリアよりも死地を二回潜り抜けた猛者なのだ。プレイヤーと殺人鬼であるが彼女は一般市民でしかない。
一夏はISスーツを纏っているが軽く準備運動をしている。そんな彼を楯無と簪はそれぞれの視線を向けていた。楯無は一夏を畏怖し、簪は心配そうであった。
姉妹とはいえ、行動は違う。片方は一夏の行動を知り、片方は一夏の目的を知らないが想いを寄せている。彼女達がどう思っても一夏には知らない。
彼はもうすぐ、セシリアと戦う。それだけであった。彼はセシリアを潰すことしか考えていない。彼は無言で準備運動をしていた。備える意味でもあるが余裕さえも感じさせている。
『では、これより織斑一夏対セシリア・オルコットのクラス代表決定戦を行ないたいと思います」
刹那、スピーカーから声が聴こえた。同時に微か、というよりもアリーナの方から歓声と微かにブーイングが響く。三人にも聴こえたが一夏は反応すると準備運動を止め、眉をひそめる。
来たか、そう思ったのだ。しかし、更識姉妹から見れば警告に思われた。セシリアへの警告さえも感じたのだ。賽は投げられた、彼女には慈悲はない。
彼女は一夏を怒らせたのだ。ジェイソンも使ったのは一夏が命令したのではないかと思った。それだけでも彼を怒らせたことは容易に判る。
が、時間は戻らない。彼女はもう、明日があるかどうかも判らないのだ。更識姉妹はそう思ったがそれを口にしなかった。
『両選手、三分後にアリーナで待機できるよう、ISを起動して下さい』
再び声が聴こえた。その言葉に一夏は反応すると、腕輪を付けている腕を高らかに上げる。
「ジャック・ザ・リッパー……」
彼はそう呟いた。刹那、腕輪が渦上のような物へと変化し、彼の周りに発生する。そして、渦は徐々に大きくなっていくが彼を包む。
彼の姿は見えない。が、渦は風のように消えた。同時に彼はISを纏っていた。黒を基準としつつも、真っ赤な血が滴り落ちているような模様が幾つもあった。
ウィングスラスターも浮いているがコートを思わせる。ジャック・ザ・リッパーとも思えたが一夏はISを軽く動かす。初陣でもあるがセシリアには慈悲を与えるつもりはなかった。
そんな彼を更識姉妹は複雑な思いで見ていた。彼の闇を垣間見たようにも感じた。ISが彼の心を映し出しているようにも思えた。が、それを口にしなかった。
彼の闇は広い、とも感じていたからだ。しかし、応援だけはできる。
『それでは時間になりましたので、両者はアリーナへと来て下さい』
スピーカーの声に一夏は反応すると、彼はスラスターを噴かしながらアリーナへと続く通路へと向かった。しかし、彼は更識姉妹を見ずに、だった。
が、更識姉妹も彼が自分達を見ずに向かったのにはショックを受けなかったが反応は違う。楯無は眉をひそめながら目を逸らし、簪は哀しそうに見ているが手を絡めるように祈る。
簪は、一夏が勝ってほしいことを祈っていた。それは、想いを寄せている意味でもあった。楯無の方は目を逸らしているのは、セシリアが悪いがもう手遅れだと思っていた、が、一夏に怯えているために何も言えなかった……。
「っ……!」
一夏がアリーナへと来たのと同時に、向こう側のピットからは一機のISが出てきた。それは軽装であるが青を基準としたISであった。近くに浮いている四基のウィングスラスターが特徴的であった。
そして、手には大型ライフルがあるがその持ち主は、ISを纏っているのはセシリアであった。彼女は一夏を見て下唇を噛む。憎悪の籠った視線を向けていた。が、それは弱々しかった。
彼女は色んなことで疲れていた。ジェイソンの件やイギリス政府からの叱責を受け、更にはイギリス政府が一夏にお詫びという意味で専用機を与えたことに。
セシリアはプライドをを傷付けられたようにも感じた。が、それは自らが行なったことであり、同情の余地はない。しかし、それ以上に大きな決意があった。
一夏を完膚なきに叩きのめすことであった。彼を潰し、ジャック・ザ・リッパーを与えたイギリス政府への怒りでもあった。が、一夏はセシリアの視線にたじろいではいない。
それどころか、慧別な眼差しを向けていた。しかし、会場の方では色んな意味で騒がしかった。
「何、あのIS?」
「薄気味悪いわ」
「あれって、ジャック・ザ・リッパーって言うISよね?」
「ジャック・ザ・リッパーって……昔のイギリスで起きた連続殺人事件の星でしょ?」
「あんなのって、女性から見れば薄気味悪いわ」
「イギリス政府も、なんであんなのを造ったのかしら?」
会場席からは女子生徒達の声が飛び交う。それは驚愕、戦慄、恐怖とも言えた。が、ジャック・ザ・リッパーを知っている者達から見れば仕方ない。
ジャック・ザ・リッパーは女性ばかりを狙っているのと殺害したからだ。同棲である彼女達から見れば恐怖の対象である。殺されるという感情さえも抱かせる。
が、それ以上にセシリアはその女子生徒達の言葉を代弁するように一夏を指差しながら口を開いた。
「お、男のくせに我が祖国のイギリス政府が作ったISを使うなんて、許しませんわ!」
「……お前が原因だろ?」
「そんなのはどうだってありませんわ! それに男のくせにISに乗れるなんて許しませんわ!」
「……それは俺にも判らない上、仕方ないだろうが……」
「っ……そ、それよりも貴方にチャンスを上げますわ!」
「……なんだ?」
一夏の言葉にセシリアは不敵に微笑む。
「ええ。貴方がこの場で土下座すればいいのですわ? そうすれば私は何もせずに棄権しますし、その代わりクラス代表をも差し上げますわよ?」
セシリアは一夏にそう言った。が、それは一夏のプライドをズタズタにするためでもあった。彼女はかつ自身はあるからだ。彼は自分よりも操縦時間が遥かに少ないからだ。
土下座すれば許す。それは彼のプライドを傷付けるためでもあるのと、このアリーナにいる全ての女子生徒達にも晒させる意味でもあった。
彼のプライドがズタズタなるだけでなく、軽蔑の眼差しを向けられるからだ。それは滑稽であるがセシリアは一夏を馬鹿にしている。ジェイソンへの恐怖はまだ消えていないが八つ当たりの意味でもあった。
「ひ、酷い……!」
「……っ!」
そんなセシリアをピットにあるモニターで観ていた簪は悲痛の声を上げ、楯無は下唇を噛む。姉妹はセシリアの一夏へのお願いに怒りと戸惑いを見せた。
それは一夏を辱めにする意味でもあり、追い詰める意味でもあるのだ。彼女等は一夏を心配する。簪だけであるが楯無も一応であった。しかし、自分達は何もできない。
試合を見ることしかできなかった。この試合は一夏とセシリアのクラス代表を賭けた試合だ。部外者である自分達が口を挟むことはできないのだ。
「「い、一夏……!」」
それだけではない。会場席にいる箒と鈴も同じであった。二人は一夏の幼馴染みであるがセシリアの言葉の意味を知っている。一夏を辱めにすることにも気づいたのだ。
「い、一夏……っ!」
放送室にいる千冬もそうであった。セシリアの言葉の意味を理解している。とは言え、自分の弟が恥ずかしめを受けるのは姉として許せなかった。
しかし、自分は見守ることしかできない。千冬はそう思うと、奥歯を噛み締め、目に涙を浮かべる。姉の自分が横槍を入れたいができない。
そう思い、悔しくてたまらなかった。そんな千冬に真耶は慰めるが千冬は涙を浮かべ続けていた。
「どうしますの? 降参しますか?」
彼女達の一夏の思いをセシリアは知らない中、彼女は更に促す。同時に会場席では微かに期待している者達もいた。一夏の土下座姿。滑稽だろうが男性達にも見せたかった。
男性達は嘆き悲しみ軽蔑するだろう。女尊男卑主義者は嘲笑うだろう。会場席にいる女尊男卑主義者である者達は一夏の無様な姿を見たい、そう思っていた。
しかし、そんなセシリアや周りの思惑や、自分を心配している者達の思いを知らない一夏は無言でセシリアを見ていた。無表情であるが、彼はセシリアに対して、こう思ってしまう。
殺す……と。彼はセシリアに対しそう思った。が、それは彼の逆鱗に触れさせる意味でもあったのだった……。