インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第78話

「や、止めて下さいまし! た、助けて! 誰か助けてえーーーーっ!!」

 

 アリーナ全体を包む黒い煙からセシリアの悲痛の叫び声が響き渡る。煙の中で何かが起きていた。その何かは判らない。が、いまだに彼女の悲鳴が痛々しいものであった。

 しかし、煙の中であるため、その言葉は間違っていると言い替えればいいだろう。そんな彼女の悲鳴に会場席にいる女子生徒達は戦慄していた。

 泣きじゃくる者、泣きつつある者、身体をガチガチと震わせる者で分けられている。共通してはいないが共通していることが一つだけあった。

 全員、青褪めている。煙の仲で何かが起きていることを理解しつつも、お目にかかりたくはなかった。黒い煙がそれを遮らせているが余計に怖さを増させている。

 

「お、おい、何が起きたんだ!?」

「わ、私にも判りません! 煙が邪魔で中で何が起きているのか映し出すこともできません!」

 

 放送室では千冬と真耶が何かを話している。黒い煙での話であった。彼女等は黒い煙の中で何かが起きているのかを知りたかった。あの中にはセシリアだけでなく、一夏もいるのだ。

 二人しかいないが二人だけの世界を築いているようにも思えたのだがセシリアには地獄であった。彼女には良い印象はないが千冬達は助けたかった。

 教師として、生徒を助けたかったのだ。しかし、それさえもできない。黒い煙が彼女を破滅へと誘っている。いや、既に誘われているのだ。

 

「お、お願い……ゆ、許して、もう止めてえぇーーーーっ!!」

 

 セシリアの悲鳴が更に響き渡る。が、微かに弱まりつつあった。彼女は何かに追い込まれていることを物語らせている。これには女子生徒達は更に戦慄した。

 聴きたくないと想う者達も現れはじめる。しかし、セシリアの叫び声は消えることはない。彼女に何が遭ったのかは誰にも判らない。判るとすれば、彼女は助からない程のダメージを与えられていることだろう。

 

「あ……も、もう……い、いやぁぁーーーーっ!!」

 

 周りは困惑する中、更なる叫び声が響き渡った。刹那、何かの砕ける音が響き渡る。轟音のようにも思えたが女子生徒達は、ヒッ!? と声を上げる。

 中には震わせる者達もいたが嫌な予感がすると判断できていた。しかし、なぜかそれを聞いただけでも背筋が凍る、身体の震えが止まらないでいる。

 彼女達だけではない、放送室にいる千冬は冷や汗を流し、真耶は青褪めている。ピットにいる楯無は生唾を吞むが、簪は身体を震わせていた。

 何か起きた。それだけでも判るが、勝ったのはどちらかまでも判断できた。が、誰もそのことを言えないでいた。戦慄が走っているだけでもあれだが、沈黙も流れている。

 生唾を吞むことさえも許されないように時間が過ぎていく。しかし、誰も言葉を発しなかった。刹那、黒い煙が徐々に消えて行く。そして、影も見えた。

 二つであるが片方は立っており、もう片方は倒れているが微かに動いている。

 

「あれは……!」

 

 放送室にいる千冬が声を上げる。会場席にいる女子生徒達も驚くが煙は僅かに残っているが人影は周りに姿を現すように晒された。

 立っていたのは……手にナイフを持っている一夏であり、倒れているのはセシリアであった。

 

「ひ……ひぐっ、うぐっ……!」

 

 セシリアは泣いていた。自分を抱き締めながらガチガチと身体を震わせていた。ISは解除しているが負けたことを意味している、しかし、恐怖で泣いている。

 彼女の悲鳴の跡を意味しているようにも思えたがそれを、セシリアを追い詰めたのは紛れもなく一夏である。彼はセシリアを無言で見ているが武器はナイフであった。

 彼が何をしたのかは想像がつくがなぜか躊躇する。会場席にいる女子生徒達はそう思っていた。煙の中で何が起きているのかを、想像したくもないのだ。

 が、知りたいと言う欲望もあった。放送席にいる千冬と真耶も女子生徒達と同じ気持ちであった。更識姉妹も同じ気持ちであった。なのに知りたくもない気持ちもあった。

 

「…………」

 

 彼女達がそう思っている中、一夏は無言で見ていた。無表情であるが、どこか不気味にも思えた。そして彼は無言で身を翻すと、ピットへと戻って行った。

 セシリアは、まだ泣いているが歯をガチガチと音を立てている。横になりながら震えている。が、誰も彼女に手を差し伸べる者はいなかった。

 理由は,誰も一夏とセシリアの間に何が起きていたのかを想像したいにも関わらず、一夏に恐怖していた。

 

「や、山田先生……あ、あれを……!」

 

 放送室にいる千冬は震えながら真耶にあることを言う。それは一夏勝利の知らせを会場全体に伝えるためであった。それを聞いた真耶は聴く耳を持たなかった。

 なぜなら彼女は青褪めていた。千冬の命令を聞いていなかった。

 

「や、山田先生……!」

 

 千冬は真耶の肩を揺らす。これには真耶も我に返るが慌てて近くにあるマイクを手に取ると、口元を近づけた。

 

『オ、オルコット選手、シールドゼロにより、オ、織斑選手の勝利です!!』

 

 真耶はそう宣言した。誰の目から見ても明らかであるが義務でもあった。が、誰も喜べなかった。それもその筈、周りは織斑一夏という人物を楽観視していた。

 ただの男性操縦者としてであったが、今は畏怖の対象へと変えた瞬間を目撃した者達に過ぎなかった。彼女達はまだマシだろう。が、セシリアは一夏の怖さを印象づける意味での生け贄となってしまったのだった……。

 

 

 

 

「お、お疲れさま……ね」

 

 その頃、一夏はピットに戻るや否や、楯無がそう言った。彼女は顔を引き攣らせているが警戒している。簪は一夏を見て微かに震えているが怖いのはいつも通りであったにも関わらず、改めて怖いと感じていたのであった。

 一方で一夏は無言で頷くと、ISを解除する。ISは渦のように形を変えると、一夏の右手首へと集中するように集まっていく。そして、黒い腕輪へと変わった。

 

「…………」

 

 が、一夏は無言で腕輪を見ていた。同時に違和感もあった、彼には疲れの色は見えなかった。余裕があるようにも思えるがいつものことだと認識していた。

 彼の凄い所でもあるが熟練した操縦者でなければ、いや、彼は熟練した操縦者としか思えなかった。更識姉妹はそう思ったが楯無が一夏に近づく。

 

「どう? 使い心地は悪くなかった?」

 

 楯無は一夏にそう言った。皮肉っている訳ではないが彼の感想を聞きたかった。数日前にもそう言っていたが相手を完膚なきにまで叩きのめしたことを訊きたかったのだ。

 そんな彼女の言葉に一夏は首を左右に振る。

 

「悪かったの?」

「……いや、悪くはない」

「だったらどうして?」

「……俺は、奴を完膚なきに叩きのめしたからな……」

 

 一夏はモニターの方を観る。モニターにはアリーナの様子が映し出されているがセシリアが横になっていた。いまだ震えているが恐らく、まだ怖いのだろう。

 一夏から見ればいい気味であるが彼はそれを喜ぶ様子もない。単に潰したかっただけとも思えるが楯無から見れば、背筋が震える。彼は異常だ、そう思ったのだ。

 

「……あ、あの」

 

 そんな中、簪が一夏と楯無に訊ねる。二人は簪を見るが彼女は恥ずかしそうであった。

 

「どうした?」

「……あ、あの織斑さん……喉、渇いて、ない?」

 

 簪は恥ずかしそうに言った。せめてもの気遣いであるが彼女は一夏に恐怖しつつも勇気を出して訊ねたのだった。そんな簪に楯無は驚くが,一夏は眉をひそめる。

 

「あっ……ご、ごめんなさい……ダメだった?」

 

 簪は一夏を見て縮こまる。怒らせた、そう思ったのだ。簪は一夏を見て哀しそうに項垂れる。やはり、彼は心を開かない、そう思ったのだ。

 

「ご……ごめんなさい、わ、私……本音や虚さんの所に行くね……!」

 

 簪はそう言った後、踵を返し、ピットを出ようと駆け出した。楯無が呼び止めようとしたが簪が自動で開く扉の方へと駆け寄る。

 刹那、扉が左右のに開く。が、開けたのは、扉が反応したのは簪が近づいてきたからではない。簪の他にももう一人、誰かが近づいてきたことに反応したからだ。

 

「ひっ!?」

「なっ!?」

「……!?」

 

 その者を見た一夏と更識姉妹は驚きを隠せない。一夏は瞠目し、楯無は微かに声を上げる。そして、近くには簪がいるが彼女は怯え始める。

 目の前にいたのは、大男であった。しかし、それはジェイソンではない。その大男は顔に人間の皮膚を縫い合わせたような頭巾を被っているのだ。

 エプロンを付けているが手にはチェンソーを持っていた。そして、その人物は殺人鬼、レザーフェイスであった。刹那、レザーフェイスは簪を見下ろす。

 

「き、きやぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

 同時に簪の悲鳴がピット内と通路に木霊した……。

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