インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「……っ」
「…………」
「うう〜〜」
「あっ……」
数分後、ここはIS学園近くにある学生寮の一夏と楯無の部屋。その部屋には更識姉妹と、その姉妹を心配して部屋へと来た布仏姉妹の四人がいた。
レザーフェイスにより割られたベランダの窓は片付けられており、変わりに雨戸が閉められている。が、室内は電気を点けて明るいが暗い空気が流れていた。
理由は彼女等はそれぞれの表情を浮かべていたからだ。楯無は表情を暗くしながら項垂れ、虚は少し困惑し、簪と本音はオロオロとしていた。それで室内も重苦しい空気に包まれているからだ。原因は彼女等にあるが、更にその原因があった。
彼女等は誰かを待っていた。誰が言わずとも、一夏である。彼は、彼女達は名前を知らないがレザーフェイスと、来たことも知らない青年との死闘を繰り広げている。
が、一夏が勝ったことや青年が敗死したことを知らない。それでも彼女達は待っていた。一夏が戻ってくることを。簪は一夏の無事を祈り、布仏姉妹は同じ従者としての帰還を祈っていた。
しかし、楯無は違う。彼女は一夏の拒絶的な言葉を聞いてショックを受けている。信じてもらえなかったことがそうであるが楯無は一夏がどこに行ったのかも判らないからであった。
本当なら、いつもの楯無なら場所を把握する筈であった。が、一夏の言葉が余程のショックの方が大きく、それが彼女を遮らせていた。楯無は待つことしかできないが内心、悔しい思いで一杯であった。
そして、室内には沈黙が流れる。誰一人、言葉を出せないでいる、一夏が戻って来ることを願っているからであった。
「戻ったぞ」
刹那、近くの壁から声が聞こえた。これには簪と布仏姉妹は驚き壁の方を見やり、楯無は目を見開きながら声がした方へと振り返る。そこには、壁には一人の青年が凭れ掛かりながら腕を組んでいた。
その青年は、一夏である。彼は黒い上着とズボンはない。ISスーツしか纏っていなかった。
「お、織斑さん!」
簪は驚きながら一夏に駆け寄ると、彼の前に立ち止まる。彼女の顔には不安が残りながらもどこか安堵しているようにも思えた。一夏の無事の帰還が何よりの証拠であるからだ。
そんな簪に一夏は無言で軽く頭を下げる布仏姉妹も簪同様、不安そうでありながらも安堵していた。
「織斑君!」
そんな中、楯無だけは違った。彼女は怒っていた。理由は一夏が言わなくても判るが、簪と布仏姉妹は楯無の声に驚くが楯無は彼女をよそに一夏に歩み寄る。
「貴方ね!」
楯無は更に詰め寄る。簪と布仏姉妹は驚くが楯無は怒りながら言葉を続ける。
「貴方、どうして私達を頼らないのよ!? なぜ、一人で危険なことをしているのよ!?」
楯無は怒りながら言葉を述べる。しかし、楯無の言葉は正論であった。彼女は一夏が一人で言ったことにであるがそれ以上に勝手な行動に怒っている。
自分に何か遭ったらどうするのか? 死んだらどうするのかに怒っていた。しかし、そんな楯無に虚が宥める。
「お、落ち着いて下さいお嬢様! 織斑さんは、こうして戻ってきたのですよ!?」
「だからってそれじゃあ許さないわよ!? それに相手は化物なのよ!?」
「私と本音はお嬢様から聞かされたから判りません! ですが、それを相手にしたのは織斑さんです! 普通なら織斑さんの無事を喜ぶのが先ですよ!?」
「でも! 相手は織斑君一人で戦えるかどうかも……!」
「ジェイソンがいる」
「……えっ?」
楯無の言葉を遮るように、一夏が口を開く。眉間に皺を寄せているが楯無に対しての呆れでもあった。それでも一夏は言葉を続ける。
「俺にはジェイソンがいる……奴は俺の背中を預けるに相応しい」
「そ,それはどういう意味よ!?」
「解らないのか? ……俺はアンタや簪様を守ると言ったが、頼るとは一言も言ってない」
一夏はそう言うと楯無は目を見開いた。彼は楯無を頼ろうとはしなかった。なぜなら彼女が来れば相手が逃げる危険もあったからだ。
同時に楯無は学園を守る義務もあるが自分の関係しているゲームとは違う。あれは殺し合いであり、楯無がどうこう出来る相手かどうかも解らないのだ。
現に楯無はブギーマンの時に、多くの従者を喪っている。相手が未知の敵でもあるが楯無には荷が重過ぎる。逆にジェイソンは殺人鬼であり、対等に渡り合える。
一夏は楯無とジェイソンのどちらかを選ぶのならば、後者を選ぶ。三年も一緒にいるのもそうであるが相棒でもある。かれのおかげで窮地を乗り切れたことは少なからずあるのだ。
逆に楯無は、まだない。彼女は自分の背中を守れるくらいの預けられる存在かどうかも怪しいのだ。彼女が暗部の当主であることは解っているが自分は彼女を守る対象であり、頼ろうとは考えていない。
もしも頼った場合、彼女は殺される可能性もあるからだ。一夏は彼女を守るためでもあるが利用するためでもあるのだ。
「更識、俺はアンタに頼ろうとは考えていない、ましてや当主の命であっても、俺は背く」
「……あ、貴方ね!」
「それに……!」
楯無は一夏に怒ろうとした。が、一夏がそれを遮る。それも、眉間に皺を寄せたままで……。これには楯無も肩を震わせる。彼の瞳には怒りと軽蔑が混じっていたからだ。
自分への怒り、そう気付いたのだ。しかし、一夏の怒りは楯無にもそうであるが彼女に対して、こう、言い放った。口で言わなければ解らない、そう判断したのだ。
「更識……アンタは俺に干渉しょうとしたり、俺に頼れと言っても、俺はアンタの指図は受けない……それに、俺のことを干渉するな……命が落としたくなければな……!」
一夏はそう言い放った。これには楯無は瞠目するが、簪と布仏姉妹は驚きを隠せなかった……。
「はい……ええ、判っています」
その頃、ここは、とある部屋。その部屋は一夏と楯無の部屋の少し離れた所にあるが、その部屋は鳳鈴音と、鳳鈴音のルームメイトが生活している。
しかし、その部屋には鈴しかいなかった。同時に彼女は電気を点けておらず、部屋を暗くしながらどこかに電話していた。スマートフォンの明かりを頼りにしているが彼女の表情は暗く、困惑している。
スマートフォンの向こう側にいる者と会話しているが彼女から見ればつらいものであった。なぜなら……彼女の処女を奪うような物であった。
『いいか、お前は織斑一夏とは幼馴染みであることは調べで知っている。そのためにお前をIS学園へとやった』
「ですがそれは、私がIS操縦者としての経験を積むためであり、一……織斑に近づくためではありません」
「それは違うな。お前は我が中国政府の飼い犬だ」
「……っ」
鈴は顔を引き攣らす。が、スマートフォンの向こう側にいる者、役人は先を続ける。
「鳳、お前は我が中国政府が織斑一夏をこちら側へと連れてくるのが目的だ。IS学園の生徒でもあるが、お前は我が国のスパイでもある』
役人の言葉に鈴はつらそうに目を伏せる。なぜなら鈴は中国政府が日本に、IS学園に放ったスパイであった。入学式当日に上から呼び出しを受けたのはスパイになれと言うことであった。
これには鈴も拒絶するが、役人は鈴に対し、逆らえばISを取り上げる。それだけでなく、お前の離婚した両親の命はない、と脅してきたのである。
流石の鈴も下唇を噛んで頷くしかなかった。ISは元より、両親の命を奪われるようなことはされたくなかったからだ。鈴は泣く泣くスパイになったのだが彼女の目的は織斑一夏を連れてくること。
それは難しい物であるが彼女自身でなんとかしろということであった。それは身体を使ってでも連れて来いということであった。
政府の身勝手な要求かつ脅しにも近い要求に鈴は頷くことしかできなかった。相手は絶対的な権力の者達だ。逆らえば何かをされるのは目に見えている。
鈴は自分の保身を怨みながらも両親の身の安全を優先していた。が、政府はその少女の純粋な願いを踏みにじり、考えようともしていなかった。
鈴はつらそうに項垂れる中、役人は最後に、こう言い放った。
『いいか鳳、お前の目的は織斑一夏との接触だ。それに連れて来い、できなければ命がないと思え……』
役人のその言葉を最後に、役人は通話を終える。スマートフォンからは声は聞こえなくなった。が、鈴から見ればつらい現実を受け止められないでいた。
「……っ」
刹那、鈴の頬に涙が伝う。それは彼女の哀しみを意味していた。両親を守りたい、それが娘である自分自身の切願でもあった。一夏とも接触したいがそれができない。
「ウグッ……エグッ」
鈴はスマートフォンを持ったまま膝を落とす。そして嗚咽を上げながら口を押さえた。泣くのを堪えているようにも思えるが時既に遅しである。
鈴はスパイ活動はできないのと、一夏への罪悪感で泣いていた。
「誰か……一夏……助けて……うぐっ、えぐっ……!」
鈴は誰かに助けを求める。不意に一夏を思いだすが彼に知られたら、嫌われると思っていた。鈴は罪悪感で泣く中、誰にも聞かれず、誰も手を差し伸べることもできない。
部屋には鈴しかいないのだ。そして室内は暗いが、鈴の嗚咽で更に暗いようにも思えた……。