インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第83話

 翌朝、ここは一年一組の教室。今日は火曜日であるが平日でもあった。朝と言っても八時半を回る前であり、授業前でもあった。が、教室には、このクラスの生徒達がいるが一人を除いて、全員、女子である。

 しかし、周りはなぜか怯えていた。恐怖で支配されているようにも思えるが彼女達が目を逸らしたくも逸らすことのできない存在がいたのだ。

 このクラスで、いや、学園全体で一人だけの男子生徒である織斑一夏にであった。彼は教卓前の席に着いているが俯いたまま腕を組んでいる。

 目を閉じているが眉間に皺を寄せている。周りの畏怖とも思える視線に微かに怒っていた。無理もない、その理由は昨日行なったクラス代表決定戦でのことだ。

 あれはセシリアとクラス代表を賭けた試合であった。自分はジャック・ザ・リッパーでセシリアを軽く痛めつけたのだがそれは学園中の女子生徒達や女性職員達を恐怖に陥れるものであった。

 黒い煙でセシリアを倒したこと、同時にセシリアの悲鳴が黒い煙の中から響き渡ったのだ。あれでも彼女達を怖がらせるには充分すぎる物であった。

 黒い煙の中で何が起きているのか? 知りたくも知りたくない、と女子生徒達は思ったのだ。共通でもあるが知りたいことに変わりはない。

 

「……っ」

 

 そんな中、セシリア……彼女は黒い煙の中で攻撃を受けたのだが彼女もいる。が、肩を震わせてながら俯いている。青褪めているが思い出しくもないのだろう。

 そんな女子生徒達の視線に一夏は背中で受け止めているが、文句を言う気もなかった。ムダな行動であり、彼はムダな行動は嫌いであるからだ。

 一夏はそう思っているが彼を心配している者達もいた。

 

「織斑さん……皆、見てる……」

「うう〜〜」

 

 簪と本音である。彼女達は一夏を心配そうに訊ねていた。彼を良く知る彼女達だからこそ、そう言える。しかし、彼女達だけではない、彼を心配している者が他にもいる。

 

「……一夏……」

 

 一番前の窓側の席に座っている箒であった。彼女は一夏を心配そうに見ているが声を出せないでいる。理由は彼女も一夏を怖がっていた。が、この前のことも原因であった。

 一夏の拒絶的な反応と、彼に対して失言してしまったことに。お前は特別な存在だ、彼女は一夏にそう言ってしまったのだ。これには一夏も怒る筈であった。

 箒は最初は気づかなかった。が、時が経つにつれて、徐々に後悔したのだ。自分だって篠ノ之束の妹である事に気づいたのだ。自分も特別な存在である事に気づいたのだ。

 自分は人のことを言えないことを言ってしまったのだ。箒はそれを知って後悔した。しかし、箒はそれ以上にあることを思い出す。それは、彼にまだ謝罪していないことに。

 できることなら謝りたい、そう思っていた。なのにそれができない。理由は簡単だ、この前みたいに腕を捻られるのと、彼が怒っていると思っているからだ。

 どちらもそうであるがそれ以上に,ある感情も沸いてくる。更識簪とニ組にいる鳳鈴音の存在。彼女達は一夏に好意を寄せている。簪はセシリアの件で一夏に対し、微かに好意を寄せている。

 鈴の方は最初から知っているようにも思えた。女の感と言う物であるが彼女もまた、一夏に対して好意を寄せている。箒は焦った。彼女等は恋の障壁と思っているのだった。

 あながち間違っていないが更に増えることを彼女は知らない。箒は簪に対して嫉妬の視線を向ける。簪の方は一夏のことを心配しているが困惑している。

 箒の視線ではない、周りの視線にであった。気づいていないのだが不幸中の幸いであるだろう。

 

「オ、織斑さん……周りが見てるけど、大丈夫なの?」

「……ああ……」

 

 簪の問いに一夏は深く頷く。気にしていないようにも思えるが本当のことである。一夏はそれで好都合であった。ジャック・ザ・リッパーのお陰で彼女達は怖がっている。

 誰も近づくことはできないのだろう。干渉もして来ないだろう。一夏はジャック・ザ・リッパーを相棒にして良かったのと、セシリアを恐怖させ、周りを怖がらせることもできた。

 同時にその日にレザーフェイスを連れた青年を倒し、事実上の二人目の撃破に成功したのだ。これで残るは自分を含めて残り五人。二人は判ったが後の二人であるチャッキーとピンヘッドはまだ判らない。

 それでも返り討ちにすればいい、一夏はそう思っていた。自分にはジェイソンがいて、ジャック・ザ・リッパーがある。これだけでも心強いが警戒を緩めた訳でもなかった。

 

「……簪」

 

 一夏はそう考えている中、顔を上げると、簪を見ながら訊ねる。無表情であるが訊ねていることに変わりはない。簪は一夏の言葉に驚く。

 因みに簪様ではないのは、生徒として接するためであり、暗部の従者であることを伏せるためであった。

 

「あっ……な、何かな?」

「……気にするな」

「えっ? ……で、でも……」

 

 簪は戸惑う。恥ずかしがりな彼女から見ればそう言われても困惑しかないだろう。刹那、一夏は簪の手を握る。

 

「えっ……」

 

 簪は突然のことで目を見開く。しかし、頬を微かに紅潮させた。一夏の突然敵な行動に戸惑うよりも時が止まったようにも思えたのだ。それ以上に好意を寄せている一夏に手を握られて戸惑うのだ。

 本音は一夏の行動に恥ずかしそうに長い裾で目を隠す。が、箒は驚いているが下唇を噛みめながら目を逸ら、両手を拳に変えると力を入れた。周りは一夏の行動に驚くが恐怖していることに変わりはない。

 

「お、織斑さん……あの」

 

 簪は戸惑うが一夏は無表情で見ている。微笑んでいるようにも思えないが彼が笑う所は見た事がない。いや、彼の笑う所はまだ見ていないと言い替えればいいのかもしれない。

 簪はそう思いながらも恥ずかしそうに俯く。このまま手を握られたままなのか? そう思っていた。刹那、チャイムが鳴った。授業の始まりを告げる物であった。これには周りも我に返ると、席に着き始める。

 簪や本音、箒も席に着く。簪は一夏に手を放させてもらったためであった。そして少し後に通路側にある一番前の席の近くにある扉が自動で開く。

 二人の女教師が足を踏み入れた。このクラスを受け持つ千冬と真耶である。真耶は出席簿を持っているが二人は教卓前まで歩くと、教卓前で、このクラス全体を見渡せるように振り返る。

 

「なんだ、この空気は?」

 

 千冬は、このクラスの雰囲気に気づく。女の感でもあるが歴戦の猛者である彼女だからこそだろう。

 

「あ、あのぉ……」

 

 一方で真耶の方はと言うと、この雰囲気に困惑していた。彼女は生徒を思うが故であるがこの雰囲気には慣れていないのだろう。二人の女教師は、クラスの生徒達が暗い雰囲気になっていたからだ。

 恐怖と困惑で支配されているようにも思えたのだ。無論、それを千冬は知っている。

 

「まさか諸君、昨日のことで怖がっているのか?」

 

 千冬は眉をひそめながら指摘した。刹那、生徒達は電流が流れるような衝撃を受ける。が、千冬は判断できていた。クラス代表でのことで彼女達は怖がっていることに気づいたのだ。

 しかし、それは一夏とセシリアが戦ったのもそうであるが彼女達が戦った訳ではない。千冬はそう言いたかったがあえてそれを指摘した。

 

「諸君、あの試合は織斑とオルコットが戦った。諸君等が戦った訳ではない」

「…………」

「勿論、私や山田先生を含めた先生方も怖い。織斑の戦い方と、織斑の使った、イギリス政府から譲られたIS、ジャック・ザ・リッパーの機能が凄まじかっただけだ」

 

 千冬は不意にセシリアを見る。セシリアは千冬が見ていることに気づいたが不意に肩を震わせ、俯いた。何か言われると思ったからだ。勿論、千冬はそんなことを考えておらず溜め息を吐くと、再び全体を見渡しながら先を続ける。

 

「諸君らはあれを怖がるのは無理もない、が、あれと同じような試合は沢山ある。相手を完膚なきにまで叩きのめすことで決着のつく試合はごまんとある。諸君らはそれを目撃したに過ぎない」

 

 千冬はそう言ったが正論である。なぜなら千冬はあれで良かったと思っていた。いい試合もあれば悪い試合もある。あれは良くも悪くもいい試合であり、悪い試合でもある。

 珍しいことではないが千冬は彼女達はそれを知って良かったと思っていた。同時に一夏には白式を使うのはもう無理であることには気づいていた。

 そして彼女は一夏を見る。一夏は俯いているがそれでも言った。

 

「織斑、お前がイギリス政府から貰ったISを使え……だが、一人で何もかも背負うな、私達を頼れ」

 

 刹那、一夏は顔を上げ、千冬を見た。彼女は険しい表情を浮かべているが瞳は哀しそうであった。姉としてでもあるが今は教師としてでもあった。

 弟を心配していることに変わりはない。しかし、そんな千冬を一夏は無表情で見ていた。心が揺らいでいる訳ではない、逆に千冬に呆れていた。

 何を今更、と思っていた。

 

「……話が長過ぎたのかもしれないな、すまない」

 

 

 千冬はそう言うと頷く。が、直ぐに険しい表情を浮かべながら言葉を続けた。

 

「授業を始める前にクラス代表の件が先だ」

 

 千冬はそう言ったがクラス全体の空気は更に変わった。それは、このクラスを担う存在が一夏かセシリアのどちらかを意味させている。無論、それはどちらかは既に決まっている。

 それは……彼しかいない。周りはそう思っているが千冬が代弁するように口を開いた。

 

「……諸君も判るように、クラス代表は……織斑一夏、だ」

 

 

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