インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
数分後、ここは、アメリカの町外れにある、とある大きな刑務所。そこは全体が白い壁で囲まれ、堀の中は更に柵で囲まれている。四方には監視塔が建てられている。逃走者を許さず、脱獄者を見逃さないためでもあった。
監視塔にいる刑務官は目を光らせ、ライトで辺りを照らしている。辺りは闇に包まれているがライトだけが微かな光であり、刑務所の周りの。監視する意味の目の役割をしている。
夜だけであるがライトが唯一の頼りだろう。しかし、外は静かであるが刑務所内も静かである。が、中にいる者達は皆、凶悪犯であった。殺人は愚か、多くの前科を持ってる者達ばかりであった。
今の時間帯は夜であるが彼等は眠っている。昼間のように暴れる気配はなく、充分に睡眠を取っているようにも思えた。同時に脱獄しょうと夜更かしをしている者いるだろう。
しかし、その刑務所は他の刑務所とは違う。なぜなら、地下三階もあるからであった……。
「…………」
そんな刑務所の中にある、地下三階には一人の青年がいた。一夏である。一夏は目の前にある大きな扉を睨んでいた。厳重に閉ざされた扉であり、認証がなければ入れない物であった。
それは、とある凶悪な犯罪者が隔離されているからだ。上にいる地上の投獄された囚人達よりもタチが悪く、更には可愛いものである。この扉の向こうにいる者は凶悪犯である。
が、一夏はその者に用があった。ゲームを制するには彼の補佐が何より必要であった。一夏はその者に逢うために、主催者にその者がいる場所を教えられたのだ。
不信感しかないが、ムダな行動ともとれるが、ゲームで有利になると言われたからだ。同時に主催者から強制的に脱落させると脅されたからだ。
一夏から見れば歯軋りするような物であるが一夏はその者、レクター博士に逢うべく、扉に近づいた。
「ふむ……日本では大幅な政府への不信感……世界初の男性操縦者はイギリス政府から送られたISを専用機とし、イギリス政府はこれに歓喜している、か」
その扉の向こう側の少し先には鉄格子があった。が、鉄格子の向こう側、つまり内側は異様であった。牢屋と言えば、遮断する壁がないトイレと、カビ臭い簡易ベッドしか置かれていない。
が、その部屋には赤い絨毯が敷かれ、高級感溢れるベッドや、色んな形かつ美しいデザインが特徴的な食器が収められている食器棚に、難しい本が収められている本棚、何かを調べるための机や回るイスも置かれていた。
更には冷蔵庫や台所も備えられており、テーブルやイスもあるが食事用とも思える。部屋の天井近くの隅には換気口が設けられていた。更には浴室もあるが部屋自体も広い。まるで貴族が住んでいる部屋としか思えなかった。
そして、そのイスには一人の壮年、いや、還暦を迎えつつある、オレンジ色の囚人服を着ている老人が座っていた。彼は新聞に目を通しているが海外で起きている事件を見てそう呟いている。
見た目は老人であるが外国人の特徴であるサファイアブルーの瞳は輝いているようにも思えた。衰えてはいないが、新聞に書かれている内容を興味津々に見ているようにも思える。
「更には日本にある企業、倉持技研と政府は裏で賄賂等の軽いやり取り……む?」
老人は手を顎に当てる。興味津々とも言えるが老人は不意に気配を感じ、視線を鉄格子の向こう側へと移す。そこには、一人の青年が立っていた。
眉をひそめているが腕を組んでいる。一夏であった。彼は扉の前で風のように消え、風のようにここに現れたのだ。
「君は……どうやって入ってきた?」
老人は一夏に訊ねる。訝しんでいるのだ。彼が、この牢屋へと入ってきたことに。が、一夏は口を開いた。
「あんた、レクター博士か?」
「……なぜ、私の名を?」
「……あんたに逢えと、ある奴が俺にそう言った」
「私に? ふむ……なぜかは判らないが、君は?」
「……織斑一夏」
「織斑一夏? …、君が世界が騒いでいる男性操縦者、織斑一夏か?」
老人、レクター博士は何かを思うのか、微かに笑う。彼が男性操縦者であることにだ。それも自分に用があることに少し不信感にも思っていた。
が、知られていることに少し喜んでいるのも事実だ。自分は裏社会の更に裏とも言える、裏社会の人間だ。そんな自分が表社会の人間である一夏と邂逅するのは夢のまた、夢。
レクター博士はそんなことを考えている中、一夏に訊ねる。
「それよりも君がなぜ、こんな老人である私の所に来た? 用があるのかい?」
レクター博士は両手を祈るように指を絡ませながらテーブルの上に肘を突く。彼は察知したのだ。
「……なぜだ?」
一夏はレクター博士の言葉に眉をひそめる。気づかれたと思ったのだ。が、レクター博士は不敵に笑いながらそれを教えた。
レクター博士は気づいたのだ。一夏が自分に逢いに来た理由を。大抵の人間は捜査依頼をしにくるFBI捜査官達だ。難しい事件を起こした容疑者を独自でプロファイリングしたり、犯人の心理を依頼したりする。
いや、レクター博士は元は精神科医であるが過去等は話さないでおこう。プロファイリングされている理由は犯人がなぜ、そのような行動を起こしたのかを精神的に調べる物であるからだ。
「私の専門は精神科医であるがそれは過去の遺物であり、思い出だ。しかし、君は誰かを捜しているようだね?」
レクター博士は一夏に指摘した。これには一夏は更に眉をひそめる。感付かれている。いや、彼は知っているようにも思えた。そんな一夏にレクター博士は不意を突くように更に言葉を続ける。
「君が捜しているのは恐らく、人を殺した者達。それも警察には見つからず、足もつかない凶悪犯達……それも君と同じ、狢の穴の存在」
「……!?」
レクター博士の言葉に一夏は目を見開く。更に感付かれたのだ、自分が人を殺したことを、それだけでなく、他のプレイヤー達を殺したことも知られてしまった。いや、教えてはいないがレクター博士は自分が人を殺したことに気づいているのであった。
一夏は彼を、レクター博士を危険視し始める。それでもレクター博士は先を続ける。
「私は探偵ではない、精神科医であるが私は君や、君が捜している者達に興味があるのだ」
「……どういうことだ?」
「君の目だ。君の目は私に逢いに来た目であるが、誰かを捜しているようにも思える。それに、君の精神は今、非常に危ういと感じたのだよ?」
「……危ない? 俺が?」
「そうだ。今の君は誰かを求めている、本来の君はとても優しく、自分よりも誰かを優先する……勿論、昔の君ならね?」
「……なぜだ?」
「なぜと言われても、君は変わった。勿論、あの事件が君を変えたからだ……三年前の、ね?」
レクター博士の言葉に一夏は更に舌打ちし、目を逸らす。そこまで判られていることではない、思い出したくもない過去を詮索されたようのも思えたからだ。
「君は三年前、ある事件で行方不明となった。勿論、世間は騒いだよ。かの有名な織斑千冬の弟がドイツで行方不明になった、と。それも現れるまで生死は不明、死んだとも噂されていたよ」
「…………」
「私の所には捜査依頼が来なかったよ。管轄外であるが、私はある事件を調べてほしいと言われたからね」
「……ある事件?」
一夏の言葉にレクター博士は頷く。
「ああ。だがその事件は守秘義務が課せられているから言えない。君を調べたのは男性操縦者が現れた後だ」
「…………」
「調べていくうちに、君は両親が蒸発、姉と二人暮らしであるが寂しい思いをしていた。しかし、今は言わない方がいいのだろうね?」
「……そうしてくれ」
一夏はそう言うが軽く再び舌打ちした。しかし、一夏はあることを思い出す。
「それよりもあんたに頼みたいことがある」
「何かな?」
レクター博士の言葉に一夏は深く頷く。
「ああ。あんたに逢いに来ただけだ」
「……ほう」
レクター博士は興味がわいてきたのか、口元を微かに上げる。いや、笑っていた。事件の依頼なら兎も角、男性操縦者と言うスペシャルゲスト的な存在の織斑一夏からの逢いたいということは、またとない驚きでもあり、興味もわくのだ。
レクター博士はそう思いながら一夏の言葉を待った。そして一夏は言った。
「……それだけだ、じゃあな」
一夏はそう言うと、風のように消えた。これにはレクター博士も驚く。人が風のように消えたのだ、幽霊ではないかと疑う。しかし、レクター博士は逆に笑い出した。
「ふふっ、興味深いよ,、織斑一夏……興味深い」
レクター博士はそう言いながら笑い続けた。彼は他の奴等とは違う、自分に逢いに来ただけであるがそれも興味を示したくなるのだ。大抵は依頼か食事用の材料等を持ってくる看守くらいだ。
彼はそのどちらでもなく、逢いにきただけでも興味がわいてくる。いや、彼の変わりように興味がわいた、と言い替えればいいだろう。
そして、レクター博士は彼のことを少し気に入ってしまった。また逢える、そう思ったのだ。あの言葉は、また来るという意味もあったからだ。
今度はちゃんと招待しょう。レクター博士はそう思いながら笑い続けた……。