インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第87話

「であるからして、ISは機動力が要だ」

 

 その頃、ここはIS学園の一年一組の教室。今の時間帯は六時間目の真っ最中であった。今の時間はISについての授業でもあった。千冬が授業を執っているが生徒達はまじめに取り組んでいる。

 真耶は窓側にある机近くのイスに座りながら、千冬の授業を細かくメモしている。簪や本音、箒やセシリアも黒板に書かれた内容をノートに録っている。が、何気ない授業であるが当たり前でもあるだろう。

 刹那、教室を出入りできる自動ドアが開き、周りは扉の方を見る。女子生徒達は戦慄した。セシリアは肩を震わせ、箒は驚く。簪と本音、千冬は目を見開く。

 彼女達は戦慄しているが驚愕している。そんな彼女達が見ているのは、ある人物であった。その人物は一夏であった。険しい表情を浮かべながら腕を組んでいる。

 彼はアメリカから、この場所へと風のように移動してきたのである。険しい表情を浮かべているのは。周りが原因ではない。彼はさっき逢った老人、レクター博士の言葉で驚いてしまったのと同時に、警戒しているからであった。

 彼女達から見れば怒らせたと思われているが彼を怒らせた訳ではない。一夏はレクター博士を警戒しながらも教室へと足を踏み入れた。

 

「お、遅いぞ織斑? そ、それにどこ行ってた?」

 

 そんな一夏に千冬は担任として彼に指摘する。怒っているが姉として心配しているからでもあった。彼は単独での行動を好み、更識姉妹や布仏姉妹以外とは行動を供にしない。

 千冬から見れば嫉妬しかないが今の彼が信頼している彼女らに任せるしかなかった。しかし今は、担任としても彼に言っている。

 

「織斑、更識妹から聞いたが五時間目は兎も角、なぜ、六時間目は遅刻した? 普通なら、連絡を入れなければならないだろ?」

「…………」

 

 一夏は千冬を見据えるが、不意に目を逸らし、舌打ちした。これには千冬も肩を震わせる。一夏は単にレクター博士のことで怒っているのだが、千冬は弟にまだ嫌われていると勘違いしていた。

 千冬は生唾を吞む。それさえも許せされないと思っていたが、その行動をしたくなったのだ。そんな一夏と千冬に周りは生唾を吞み、肩を震わせている。

 一触即発が起きるのではないのかと危惧していた。千冬は元より、一夏はそうなってもおかしくない。彼はもう、恐怖や畏怖の対象であり、そう思われても仕方ないだろう。

 周りは一夏に対してそう思っている中、簪と本音、千冬と箒も一夏のことを心配していた。彼はどこに行ってたのだろうか、と。簪と箒は想いを寄せている意味であり、本音は仲間として、千冬は姉として心配しているのだ。

 しかし、今はそれどころではない、周りは一夏と千冬の織斑姉弟を気にしていた。誰一人、ノートを録ろうとしておらず、ペンも動かしていない。

 それほど、二人を気にしているのだ。千冬は一夏を見ているが一夏は目を逸らし続けている。このまま続くのか? 誰もがそう思った。

 刹那、チャイムが鳴った。これには周りも微かに驚いた。六時間目の終了を告げる物であった。が、授業がの終わりをも告げている。生徒達はチャイムを聞いて肩を伸ばしたい気分であったがそれどころではなかった。

 二人はそのままであったからだ。が……そんな二人に真耶が困惑しながらイスから立ち上がり、二人に言う。

 

「あ、あの、織斑先生に織斑君?」

「……や、山田先生? 何か?」

 

 真耶の言葉に千冬は戸惑いながら真耶の方を向く。彼女は困惑しているが答えた。

 

「ジュ、授業は終わりました、そ、それで」

「あっ……チャイムが鳴っていたのか?」

 

 千冬は未だ流れるチャイムに困惑しながら気づく。一夏を見ていたとはいえ、それに気づかなかった。姉とは言え、教師としてはあるまじきことであった。

 千冬は教師としての自覚を覚えつつも、周りを見る。

 

「今日の授業はこれまで! 諸君、帰りの用意をするように!」

 

 千冬は周りにそう言った。周りは千冬の言葉に驚きつつも頷いた。これから放課後であるが部活動もある。帰宅するということもあるが彼女等の自由だ。

 しかし、千冬は一夏に対して、こう言った。

 

「織斑は放課後残れ」

「……なぜだ?」

 

 一夏は千冬の言葉に眉をひそめる。が、千冬は一夏を見て微かに身体を震わせるが、気を取り直すと、あることを言った。

 

「べ、別にお前に怒る訳ではない、お前とは話をしたいだけだ」

「……断る」

 

 一夏はそう言い放った。これには千冬も目を見開くが、一夏は腕を組む。

 

「……俺はムダな時間や行動は嫌いだ、アンタとの話はそれに当てはまる」

「わ、私はただ……」

「言い訳等聞きたくない……アンタとは話をしたくないだけだ」

「……っ」

 

 一夏がそう言うと、千冬は下唇を噛んだ。そんな千冬に一夏はそれ以上は言わずに、席に戻ると、机の横に掛けておいた鞄を机の上に置き、教科書等を入れはじめた。

 そんな一夏に簪と本音は何も言わず困惑し、真耶は千冬を、箒は一夏を心配そうに見ており、セシリアは身体を震わせていた。周りは震えているが言葉を失っている。

 誰も一夏に逆らえない、いや、恐れているが故であった。そんな周りに一夏は何も言わずに教科書を鞄の中に入れていた。直ぐに終わったのだが彼は簪と本音を見る。

 

「簪、本音、予定はあるか?」

「えっ……」

 

 簪は惚けた声を上げ、本音は目を見開いた。突然のことが原因でもあるが簪と本音は互いを見合う。そして、二人は一夏を見やると簪は首を左右に振る。

 

「……な、ないよ?」

 

 簪がそう言うと、一夏は無言で見ていたが軽く頷いた。

 

「……だったら、俺と帰るぞ?」

「えっ?」

「ふえっ?」

 

 簪と本音は一夏の言葉に惚けるが一夏は言葉を続ける。

 

「……いやか?」

「い、いやじゃないけど、そ、それに……」

 

 簪は本音を見る。彼女達は用事はなかった。が、一夏の言うことを聞く方がいいのかを悩んだ。簪から見れば彼は自分を守ってくれる従者であるが本音は仲間である。

 彼は仲間であるがどうすればいいのかを悩んだのだ。一夏はムダな時間を過ごしたくないのだ。簪と本音はそう思っているのだが一夏はじっと見ていた。

 

『織斑一夏君、至急、生徒会室へとお越し下さい。繰り返します、織斑一夏君、至急、生徒会室へとお越し下さい』

 

 刹那、放送が鳴った。誰かを呼び出す音であった。それも一夏を呼び出す声が聴こえた。これには周りも驚くが周りは一夏を見やる。一夏は放送を聴いて微かに眉間に皺を寄せる。

 ムダな行動はしたくないのに、声の主を知っていた。女性の声であるが幼い。この学校の生徒であり、生徒会関係の人、それも一夏に録って関係ある者である。

 自分が従者であり、守るべき者の更識楯無、彼女の声であった。自分に用がある、それだけでもムダな行動ができなかった。自分は部下の立場であることを理解しているが一夏は溜め息を吐くと、鞄を持って踵を返し、教室を出て行った。

 

「一、……っ」

 

 千冬が呼び止めようとしたかったが楯無が呼んでいる以上、彼をここでの話でムダなことを時間を潰させたくなかった。千冬はそう思いながら自分は真耶と共に職員室へと戻る為に片付けの準備をする。

 周りも戸惑いつつも、片付けの準備をした。が、簪と本音、箒は一夏を心配しながら片付けを始めた。

 

「…………」

 

 その頃、一夏は廊下を歩いていた。下駄箱がある玄関の方へは向かっていない。彼が向かっている所は生徒会長室であった。楯無に呼ばれたことが原因でもあるが彼はそれで歩いている。

 途中、疎らであるが女子生徒達共すれ違う。が、彼女達は一夏を見て震えていた。理由は試合でのことでもあり。すれ違う、という意味もあったが端の方へと移動している。

 しかし、彼はそれを気にもしなかった。彼は単独で行動することが多いが恐れられているのは慣れている。それだけなく、それで良かったのだ。

 自分を恐れれば、周りは寄って来ない。寄ってくるのは自分と同じプレイヤーだけで充分であった。更識家の面々だけは心を許せるが利用するためでもあるのだ。

 自分が、一夏が信頼を寄せているのはジェイソンだけだ。彼が自分の背中を預けるに相応しく、彼ならゲームを制することができる。一夏はそう思っていた。

 

「……ここか」

 

 一夏は不意に立ち止まると、身体の向きを変える。そこには、目の前にはなんの変哲もない扉があった。が、そこはそこら辺の教室とは違う。

 その教室は生徒達の味方とも言える生徒会室であった。そこには生徒会関係の者達がいる。それも、一夏の顔見知りでもある者達がいる場所でもあった。

 一夏はその教室を睨んでいたが扉に手を掛けると、ゆっくりと開けた。そして、生徒会室の前には一人の女性がいた。腕を組んでいる楯無であった。

 それも険しい表情を浮かべながら腕を組んでいた。それは、当主でもあり、生徒会長でもある者としての自覚や怒りでもあった。一夏は楯無を見て何も言わないが楯無も何も言わない。

 しかし、異様な空気が流れることは間違いなく、部屋には彼女しかいない。いや、一夏もいて二人であるが、一夏は足を踏み入れると、後ろ手で生徒会室の扉を閉めた。

 そして、バタンと言う音が虚しくも、微かに響くだけであった……。

 

 

 


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