インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第88話

「待ってたわよ、織斑君」

 

 一夏が扉をしまるや否や、楯無はそう言った。一方、一夏は楯無を見て何も言わないが眉間に皺を寄せていた。ふと、彼は不意に辺りを見渡す。

 横長い机に、難しい資料等が収められている窓の付いてる本棚があった。クーラーは兎も角、ここは生徒会長室であることに変わりはない。

 ここには自分や楯無以外、誰もいない。が、自分は楯無に呼ばれたことにも変わりはない。一夏はそう思いながら楯無を見る。楯無は険しい表情を浮かべながら腕を組んでいる。怒っているのだろう。

 しかし、それもそうだろう。自分は独断で動いたからだ。当主である楯無から見れば怒るに違いない。が、なぜそれを知っているのかを気にする。

 

「私は貴方を呼ぶために五時間目と六時間目の間の休憩時間を使って貴方や簪ちゃん、本音のいる教室へと向かった」

「…………」

「それなのに貴方は居なかった。本音から聞いたら五時間目は休むと言ったからよ。私から見れば貴方は独断で動いたことになる」

「……それで?」

「判らないの? 貴方は、学園の生徒だけど、私の従者でもある。当主である私から見れば許されないことよ?」

 

 楯無はそう言った後、彼に近づく。彼の前に立ち止まると、彼を見上げる。自分よりも少し背が高い。偏見であるが男子は女子よりも背が高いことが一般的だからだ。

 首が遺体とかそう言う問題ではない、楯無は一夏を見上げる。一方、彼は楯無を見下ろしているが表情は険しいままであった。本来の彼としか思えないが今の彼はなんのために動いているのかは判らないのだ。

 

「織斑君、訊きたいことがあるわ」

「……なんだ?」

 

 一夏はそう答えた。予想はつくがあえて聞き返したのだ。

 

「……どこ行ってたの?」

 

 楯無は一夏に訊ねた。が、一夏はそれを答えるつもりはなかった。レクター博士と逢ったことは愚か、ゲームのことを話せない。

 ジェイソンに逢った時点でゲームのことを教えているようにも思えるが全容を明かした訳でもなく、どこから来たのかも教えていない。矛盾しているようにも感じられるが、向こうは干渉するつもりないでいた。

 一夏から見れば不信感しかないが利用されることは目に見えており、こちらも利用するつもりでいたからだ。前から決めていたことであるが。

 

「織斑君、どこに行ってたの?」

「………」

「答えて」

「……断る」

「っ……!」

 

 一夏はそう言った。それを聞いた楯無は下唇を噛んだ。やはり言う気にはなれないことには気づいていた。彼はどこかへと言った。それは紛れもない事実であるが独断での行動である。

 楯無はそれが許さなかった。しかし、一夏はそれを言わない。答えてくれと言っても言わないだろう、と、楯無は思った。が、どうしても知りたいのであるがそれができない。

 理由は彼にもプライベートがあると思ったからだ。彼がどこに行こうが関係ないのだろ。それでも知りたいと言う気持ちもあった。今は無理であるが楯無はどうしても知りたい、と自身がそう望んでいることにも気づいていた。

 が、それもできない、彼が自ら答えるまでは、それはできないのだ。楯無はそう思いながらも話題を変えようと考えた。それは、楯無から見ればつらく、そして驚愕の事実を突きつけられたようにも思えたからだ。

 一夏はもう、後戻りできない、そう悟らせる出来事でもあった。それを、楯無は言う意味で彼に訊ねた。

 

「……それに、話を変えるけど、あの大男を倒したのでしょう? ……それに」

 

 楯無は俯く。それ以上は言えなかった。が、言わなければ彼は再び、殺人を犯すのだろう。楯無はそう思いつつも頷き、言うために顔を上げ、言った。

 

「近くにいた、青年らしき子を殺したんでしょう?」

 

 楯無の言葉に一夏は眉をひそめる。大男とはレザーフェイスのことであり、青年とは、自分が殺した奴のことだ。あの時、楯無に怒った後に教えたのだ。

 楯無と簪、虚と本音は驚いたが楯無は彼が倒したことに驚きを隠せない一方で、楯無は一夏の行動に戸惑いながらも怒っていた。勝手なこととはいえ、許されないことだった。

 楯無は一夏の腕を両手で掴む。一夏は驚きはしないが眉をひそめ続けている。が、楯無は一夏を怒りと哀しみが入り混じったような顔で見ていた。怒る気配は愚か、それさえも感じない。

 

「織斑君、貴方はなんで、そんなに平気なの?」

「……何がだ?」

「何がじゃないわよ……!? あ、貴方は自分の手を汚したのよ……人生を棒に振るかもしれないのよ!?」

 

 楯無は悲痛な声を上げながら指摘した。なぜなら楯無は一夏の行動に怒りを感じながらも戸惑っていた。彼はなぜそんなに平気なのだろうか? 彼は許されぬことをしたのだ。

 世間から見れば許されず白い目で見られる危険もあるのだ。彼はそれを知っているのか? 楯無はそう思って訊ねていたのだ。

 

「織斑君、お願い、もう自分だけで解決しょうとはしないで……それに私達を頼って……頼って!」

 

 楯無は懇願した。それも昨日とは同じであるが彼女なりの切なる願いでもあった。彼は、このままでは破滅してしまう。そうなれば、彼は一生裏社会で生きてきたことになる。

 いや、暗部に入った時点で後戻りできない、楯無は一夏を心配すると共に危惧していた。できることなら自分や周りに頼ってほしい、ジェイソンだけでなく、自分達を頼ってほしい、そう願っていた。

 何回目かは判らない、それでも彼の心が開くのを、彼の凍った心を氷解させたかった。当主としてではなく、一人の少女としての純粋な願いでもあった。

 が、そんな楯無に一夏は眉をひそめていたが口を開く。

 

「……断る」

 

 しかし、残酷なものであった。彼は拒んだ。彼の本音であった。これには楯無も目を見開いた。が、ムダであることに気づきながらもショックを隠せないでいた。

 楯無はがっくりと項垂れた。一夏は誰にも頼らない、ジェイソン以外、心を開かない、と思ったのだ。彼女はそう思い項垂れ続けているが彼の腕を掴んでいる手は放していない。

 同時に、彼女のつらい思いを表しているのか、楯無は両手に力を入れていた。悔しい思いで一杯であった。が、それをしなければならない理由があった。

 自分は当主であるが彼は従者。どちらも年は違うが近くも同い年に近い。それだけが理由ではないが彼を守る義務もあるからだ。楯無はその義務を担っているのだと、自身に言い聞かせていた。

 そんな楯無の考えていることをよそに一夏は楯無を見下ろし続けていたが口を開く。

 

「更識、俺は誰とも関わらないと言う気はないが俺は誰の手も借りたくない」

「……そんなの、間違っている和よ……」

「そう解釈してもいい、が、俺はジェイソン以外、心を開かない」

「……そうは言っても、貴方は間違っているわ……」

「そうだとしても、俺はそう考えている。俺は自分の背中を預けるのはアイツしかいない」

「……この前も、言ったような気がするわよ……!」

「……そうかもな」

 

 一夏がそう言った後、楯無は顔を上げる。彼女は悲痛で顔を歪めていた。彼の心は開かないのか? と、思ったのだ。彼はどうやって心を開くのかは判らないのと、実の姉や幼馴染み達にも冷たく接している。

 まるで誰とも関わる気はないと思わせているようにも感じた。このまま、彼は孤独になってしまう。暗部の者としても、いや、解雇しても裏社会の人間となってしまうと感じているのだ。

 もう一つ、彼の笑っている所は見たことない。彼は常に険しい表情しかしない。笑うことを忘れているようにも思えたからだ。笑ってくれと言っても、彼は笑わないのだ。

 

「織斑君、貴方に訊きたいことがあるわ……」

「……なんだ?」

「……なぜ、笑わないの?

 

 楯無の言葉に一夏は眉間に皺を寄せながら目を逸らす。その質問は愚問であった。直ぐに答えられる者であった。

 

「……笑うのを忘れた、それだけだ」

「っ……そ、そうなの?」

「……ああ、俺は笑うことを忘れた……俺は、そんなことをムダと考えているからだ……」

「そんなの、間違ってるわ……!」

 

 楯無は一夏の答えに否定した。

 

「織斑君、笑うことを忘れたのは違うわ……貴方は、それをしたくないだけじゃないの……!?」

「……何?」

「だってそうでしょ……人が笑わないのはおかしいわよ……!」

 

 楯無はそう言った。刹那、楯無は一夏に抱き着く。これには一夏は驚かないが楯無は無我夢中でそのような行動をしたに過ぎなかった。それでも楯無は言葉を続ける。

 

「織斑君、できることなら私を頼って……それにもう、自分の腕を汚さないで……暗部の仕事は兎も角、できることなら普通の学園生活を送りなさい……!」

 

 楯無はそう言った。命令でもあった。一夏に学園生活を送ってほしいという願いでもあった。青春を謳歌しろ、裏家業に身を置くのはいいとして、ここは普通に学園生活を送れという命令でもあった。

 そんな楯無に一夏は何も言わない。普通なら拒むのであるが彼はそれを言えないでいた。

 楯無が抱き着いていることが原因でもあるが彼は答えは決まっていた。いつでも言えるのを敢えて言わないでいた。

 そして楯無を見る彼の目は冷たかった。ムダだと判りながらも彼女が離れるまで、何も言わず、行動を起こさないでいた。彼は楯無が離れるまで、その場を動かないでいたが楯無は一夏から離れるまで、そのまま一夏に身体を預け続けていた。

 

 

 そして、彼はもうすぐ、ある殺人鬼と死闘を繰り広げることになる。その殺人鬼はチャッキー……。


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