インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「とりあえず、食事にしましょう」
数分後、ここは学園寮の一夏と楯無の部屋。二人は玄関に居た。後ろには一夏、前には楯無がいた。一夏は相手に背中を向けるのは嫌であるのと、楯無が後ろから抱き着くのを警戒してのことであった。
楯無は一夏を見て微かに困惑する。無理も無いとはいえ、彼は従者であり、自分の後ろを従いていくだけである。当主である身としてはあれであるが仕方ないことであるだろう。
「はぁ〜〜っ!?
楯無は一夏の行動に戸惑いつつも溜め息を吐く。が、さっきのことを思い出し、微かに頬を紅くする。さっきのこととは、彼が自分を支えてくれたことである。
それは何度も遭ったがさっきは違う。あれは自分を心配しているような行動ではないかと思っていた。が、一夏は単に支えてくれただけであり、何も思ってはいない。
楯無は誤解しているが一夏は楯無を見て、訊ねた。
「……どうした?」
一夏の言葉に楯無は我に返ると、慌てて首を左右に振る。
「な、なんでもないわ!? た、ただ、考え事をしていただけよ!?」
楯無は笑うがわざとらしい。そんな楯無に一夏は眉をひそめる。わざとらしいことに気づいた。が、それを見た楯無は一夏の様子に気づき肩を震わせるが話題を変える。戻す意味でもあるが、楯無は一夏に言う。
「そ、それよりも食堂に行きましょう! 私、お腹ペコペコなの!」
楯無はそう言うと、扉を開け、部屋を出る。
「あっ……」
刹那、楯無は通路の方を見ると、ある少女と目が合ったが微かに困惑した。一方、その少女は楯無を見て顔を引き攣らし、目を逸らす。その少女は簪だった。
簪は楯無から目を逸らすのはいいとして、彼女はそのまま楯無の横を素通りした。
「かんざ……」
楯無は何かを言い掛けていた。が、簪は聞く耳を持たず、そのまま奥の方へと歩いていった。楯無は簪の後ろ姿を見ているが挨拶は愚か、言葉を掛ける気配はない。
しかし、それは姉妹仲が冷えきっているのが原因でもあった。それがさっきの行動を意味している。楯無は簪を見て、微かに目を逸らし、肩を震わせる。
「…………」
そんな楯無と簪の更識姉妹を見た一夏は気づく。いや、最初から気づいていたが彼から見れば仕方ないこと気づいていた。更識楯無、元の名は刀奈とその妹、更識簪。
この二人はいっさい違いであるが姉妹である。しかし、二人の仲はギクシャクしていた。理由は楯無が原因でもあるが更識家全体の悩みの種であった。
二人はこのまま仲違いしながら成長するのか? 誰もがそう思っている。家の方は二人の仲を取り持つことも考えているが暗部のことで忙しく、その時間が少ない。
一夏も一応、従者であるが二人の仲を取り持ってほしいと源次に言われたのだ。布仏姉妹は二人とは年が近いこともあり、話し相手にもなるが上手くいかない。
一夏は異性であるが二人の仲を取り持つ立場であるが彼はムダな行動は嫌いであった。取り持つ気はなかった。が、何度見ても気が重くなるのを感じた。
仲が悪いとはいえ、第三者である自分の立場を考えてほしいもであった。一夏はそう思っているがそれを口では言わない。言えばめんどくさくなるのと、楯無を怒らせるだけであった。
「……あっ、ごめんなさい」
楯無は一夏に気づき、軽く笑う。哀しそうにも見えるが簪のことを思い、そう浮かべてしまった。簪に悪いことをしたのは自分であり、自業自得である。
が、簪を守るためでもあった。彼女には青春を謳歌してほしい、裏社会ではなく、表社会で生活してほしかった。楯無は姉として簪を心配している。
同時に楯無の顔ではない、仲が良かった頃の刀奈に戻っているようにも思えた。一夏はそれに気づくが何も言わず眉をひそめる。
「簪ちゃんとのこと、気にしているの?」
「……さあな」
一夏は楯無の言葉に素っ気無く応える。一夏の言葉に楯無は哀しそうに微笑みながら項垂れる。が、楯無は和解したいことに変わりは無い。
「……それよりも、食堂には行かないのか?」
「……あっ、そうね」
楯無は一夏の言葉に顔を上げるが微かに笑う。それも作り笑顔であるが一夏には気づかれていた。
「それじゃあ、織斑君、私達は食堂へと行きましょう?」
楯無はそう言いながら先に行こうとした。刹那、一夏は彼女の手を掴む。
「えっ?」
楯無は一夏の行動に驚く。が、彼は楯無を自分の引き寄せながら抱き締める。
「っ!?」
そんな二人を奥から見ている者がいたが一夏はそれに気づくことは無く、彼女を抱き締めたまま扉を閉めた。
「お、織斑君……?」
楯無は一夏の行動に戸惑うが彼を見上げる。彼は眉をひそめているが何も言わず、楯無を見続けている。楯無は一夏を見て微かに頬を紅くするが、目を逸らす。
彼の行動は驚きとしか言いようが無いが恥ずかしいのだ。そんな楯無に一夏は口を開く。
「アンタ、何を考えている?」
「えっ?」
楯無は一夏の言葉に驚くが一夏は眉をひそめたまま言葉を続ける。
「アンタ、このまま行けば、簪様に逢うことになるぞ?」
「っ!?」
一夏の言葉に簪は目を見開いたが突然のことで言葉を失う。一夏は気づいていた、自分は簪との仲が悪いことに。気づいているのかもしれないがそれを指摘されると、何も言えない。
「図星か、まあいい,アンタ、そこを考えていなかったのか?」
一夏は楯無の手を離すと、腕を組む。楯無は一夏の言葉に楯無は肩を震わせる。簪とのことを指摘されると何も言えなくなった。が、楯無の泣き所でもあった。
楯無は一夏の言葉につらそうに俯くが彼に背を向ける。
「そ……そうよ」
楯無は一夏の言葉に気づき肩を震わせながら何も言わない。楯無は一夏に簪とのことを話していない。いや、彼がそれを指摘しなかったことがそうでもあるが楯無から見れば想定外であるだろう。
言わなければならないが何れ判ることであるだろうと、楯無はそれにもきづいていた。が、突然のことでもあるが楯無は簪との話を彼に言う。
「私は簪ちゃんとは仲が悪いわ……」
一夏は溜息を漏らす。やはり、そうか、と思っていた。一夏はそれを言わないが楯無は先を続ける。
「簪ちゃんとは最初は仲が良かった、でも、暗部のことですれ違いが多くなった。簪ちゃんは暗部の仕事に入りたがっていたけど、私達はそれをさせたくなかった……」
「…………」
「でも、簪ちゃんには表社会にいてほしいのもそうだけど、跡取りは基本的に一番上の子が相続する。どこの世界でも基本的な基本」
「……それでアンタは?」
「ええ、私は次期当主として全てのことで優秀でなければならない……朝昼晩、勉学や暗部のイロハを叩き込まれた……でも、簪ちゃんもそれに習おうとした……でも」
楯無はそれ以上は何も言えなかった。理由は、ある言葉を思い出したからだ。それは簪を追い詰め、姉妹仲に亀裂を起こせる原因でもあった。
楯無はそれを言えないでいた。部外者とはいえ、一夏は従者であり、知らなければならない。しかし、我が儘がそれを遮らせている。知られたくない、それが理由でもあるがそれが楯無を追い詰めている。
楯無は何も言えず肩を震わせ続ける。唇を震わせているが楯無は一夏に対して背を向け続けていた。そんな楯無に一夏は何も言わない。
「…………」
刹那、一夏は腕を組むのを止め、あることを言った。
「頼ればいい」
「えっ?」
楯無は一夏の言葉に驚くが振り返る。一夏は眉をひそめているが言葉を続ける。
「頼ればいい、誰かに」
「そ、それって……」
「それ以上は言うな、それにアンタが一人で抱え込むな。俺は簪様のことはあまり知らないが、アンタのことも知らない」
「…………」
「それに、アンタの仲を取り持ちたいのは布仏姉妹やアンタの両親や暗部の奴等も同じだ。が、俺はアンタらがどうなろうが関係ない」
「……お、織斑君」
楯無は目を見開いているが驚きを隠せなかった。勿論、楯無は一夏の言葉が信じられなかった。彼が誰かに頼ればいいと言ってきたからだ。
楯無から見れば驚きでもあるが一夏は言葉を続ける。
「俺は別にどうだって構わない。が、俺だって一応、仲間だ……悩みくらい聞ける」
「お、織斑君……貴方」
「それ以上言うなって言ったろ? 俺はムダな行動や時間は嫌いだが簪様との仲は取り持ってやる」
「っ!?」
楯無は更に驚く。しかし、一夏は言葉を続ける。
「無論、俺はアンタに見返りもを要求するが、それだけは覚えておけ」
「あっ……」
楯無は一夏の言葉に気づき、項垂れる。やはり彼はあのことを調べたがっている。それに簪との仲を取り持つための見返りなのかと思えばつらかった。
楯無は一夏の言葉に微かに期待したがそれを聞いて落ち込んでしまった。が、一夏はそれに気づきながらもそれを撤回する気はなかった。二人の間に重苦しい空気が流れるがそれも仕方のないことだろう。
だが……。
「い、一夏……!」
そんな二人のいる部屋の扉の前では、一人の少女が肩を震わせていた。そう、それは一夏の幼馴染みである箒であった。さっきの声の主は箒であるが、彼女は一夏の行動を見て驚きを隠せないでいた。
しかしそれは、更なる悲劇の幕開けに過ぎないことを一夏と楯無、更に簪の三人は知らない……。
次回の金曜日での投稿はお休み致します。次回は土曜日からの投稿となります。