好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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妖精の尻尾と雷竜とのぶつかり稽古 後編

フェアリーテイルの面々は言葉を失い、エリックたちは遠い目ではるか上空に跳び上がった保護者を見て悟った。

二人の巻き込まれた憐れな見知らぬ少年に黙祷を捧げた。自分たちも首根っこを掴まれてはるか上空、昼なのに星が見える場所まで『高い高い』されたこともあり、名も知らぬ少年たちに同情を感じずにはいられなかった。

 

 

全員が空を見上げていると、ギルドの中から鎧を着込んだ少女が慌てた様子で詰め寄ってきた。

 

「お前たち! 何者だ!」

 

急に出てきて臨戦態勢気味に威圧してくる少女に訝しげな視線を向ける。恐らくは上空に消えた二人の少年のことだろう。

 

地盤が沈むほどの跳躍と共に二人を連れ去ったと見ればその反応も分からなくはないが、先に切っ掛けを作ったのはあちらなのだ。

殺気を向けられて黙っている道理はない。

 

「あぁ? そっちが先に仕掛けてきたんだろ。こっちにはまだ小さい奴がいんだぞ」

「そうだとしてもこの惨状を起こしたお前たちをそのままにはできない。話くらいは聞かせてもらうぞ」

「んだとこら……」

 

エリックたち、とりわけミラがいの一番に少女に噛みつき、少女は厳かな口調で構える。

喧嘩っ早い性格を抑えようにも目の前の少女を前にするとどういうことか熱くなってしまう。

 

お互いに一触即発の空気が流れ、微量に魔力を流し始める。

 

 

 

「双方とも拳を収めい」

 

瞬間、緊迫していた空気が重みの含んだ声で魔力が霧散した。

 

「マスター」

「そう殺気だつ必要もなかろうて。すまぬの、うちのガキ共は少々気が短くての」

 

鎧の少女がマスターと呼ぶ小さな老人はいつの間にかエリックたちの間に立っていた。

神経を研ぎ澄ませていたのにも関わらず、老人の接近を察知できなかったことへの動揺もあるが、それと同時に好々爺の雰囲気を見せる老人の実力にミラたちは冷や汗を禁じえなかった。

 

(このじいさん、明らかにやべえな)

 

僅かな間に強者としての威厳を見せつけた老人は身構え始めたエリックたちに体を向け、歯を見せて笑った。

 

「見た所、遠い所から来たんじゃろう? ここで羽を休めていくとええ」

「ぅ……」

 

纏う魔力、気配からして目の前の老人が一流の魔導士であることは明らかだ。もし、敵対しようものなら自分たちだけでやるには勝ち目など皆無。

それほどの実力者でありながら敵意の無い、隙だらけの姿に肩透かしを食らった気分だった。

 

長らく村人から迫害を受けてきたストラウス姉妹は悪意や敵意に鋭く、エリックは完全とは言えないものの感情の機微を読むことができてきた。

その彼らを以てしても目の前の老人からは敵意を感じることがなかったのだ。

相手の言動に嘘がないことを確認し、エリックたちも矛を収めた。

 

 

「うちのガキ共にはわしも手を焼いていての、たまにこういうことが起こってしまうんじゃよ。わしからもよう言うとくから勘弁してくれぬかの?」

「ん……まあ、こっちはその気はなかったから別に……」

「思い返したら先生も半ば拉致したようなものだし、何とも言えないしな」

 

冷静になったことでこちらにも非があることを自覚し、ため息を吐く。

傍から見れば急に現れた第三者が少年を拉致して空へ飛び立ったようなものだ。実に難易度の高い誘拐だと思う。

 

自分たちは彼の異常性に慣れ始めたこともあり、そこらへんの常識がいつの間にか消えてしまったのだと人知れず戦慄した。

 

「その先生……じゃったか? 彼はどのような思惑があってナツたちにあのようなことを……」

「おおかたノリと反射的に」

「そんなアバウトな理由で!?」

「先生のことだから殺すようなことはしねえよ。多分、そろそろ高度が落ちて雲の中に突入したんじゃねえか?」

「もっと言えば、二人は気絶して漏らしているかも」

「お、おう……」

 

今まで『彼』を見てきたエリックたちだからこそ確信している。

ナツと呼ばれる少年たちの首根っこを捕まえて空高く跳びあがったのは反射的なのだろう、と。その軽いノリに付き合わされた自分たちが確信しているのだから間違いない。

 

実体験を話しているとき、老人が自分たちのことを生きる屍をみたような返しをしたのはなぜだろうか。

老人の目に鏡のように映る自分たちの目が死んでいるのは気のせいなのだ。

 

「あ、やっと落ちてきた」

「いつもこんなもんだろ」

 

いつの間にか世間話に興じていると、強い力の波動を空から近づいてくるのが分かった。

正確には落ちてきているのだろうと思いながらも老人は周りの惨状を生み出し、エリックたちから『先生』と仰がれている人物に内心の懸念を抱いていた。

 

(さっきもそうじゃが……この妙な魔力は何じゃ? 邪とも聖とも取れぬこの気配は……)

 

 

魔導士の魔力はその個人によって魔力の質というものがある。

身体で言う所の指紋、声、顔の輪郭とそれぞれがそれぞれの特徴を持っているものである。

長年、様々な魔導士と出会い、魔力を感じてきたフェアリーテイルのギルドマスターであるマカロフ・ドレアーもそのことは承知済みなのは言うまでもない。

 

 

ただ、彼は本来であれば地上に存在し得ない『神気』を感じたことがなく、僅かにでも神の気に触れた彼は言い知れない感覚を覚えた。

大抵、魔力の性質はその人の性格に大きく反映されるものであり、善人か悪人かを感覚で掴むことができるはずであったが、マカロフはこの時において区別がつかなかった。

 

 

否、善と悪とはまた別の気配を感じ取ってしまった。

それはまるで……

 

(いや、そんなことは問題ではない。この子たちが好いているのであれば悪人という訳ではなかろう)

 

 

自分の考えを否定するかのように結論付け、まずは話を聞こうとギルドに招こうとしたとき

 

 

 

 

「こっち向けやああぁぁぁ!」

 

雷鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

 

反射的に二人の子供を掴んで雲の上にまで達し、さらに空高く放り投げたからもういくらか後に二人も落ちてくるだろう。

私が先に地上に降りてきたと同時にミラたちから説教を食らって反省する。自分で投げておいて言うのもあれだが、二人の子供を回収せねばと思っていた時だった。

 

金髪のイヤホンをかけた青年が雷を纏ってこっちに向かいながら雷の魔力を放つ。

私たちの手前で爆散して土煙を巻き上げる。

 

 

煙が晴れると、そこに好戦的な雰囲気を纏った青年がこちらを見据えて構えていた。

 

「あんた、随分と強そうじゃねえか。ここに来た記念でオレとやり合おうぜ。な?」

 

そんな記念などこちらは求めてないため、却下である。これは適当にやり過ごすか身内にでも丸投げしたほうがよさそうだ。

 

「ラクサス!! 貴様なんということを!」

「このバカタレ! 客人に向かって魔法など何を考えておる!?」

「折角の客人なんだろ? だったらフェアリーテイル流の歓迎してやるってんだよ」

 

あっち側の少女と老人も諌めるが、青年は右から左へ受け流す。

というより青年のギラついた目は明らかに異常である。遠目でも瞳孔が開いているのと異常なまでの興奮状態に陥っている。

 

 

多分、神気に充てられたのだろう。

たまにパルプンテ神の気に充てられて暴走する者がいるのだ。この世界の人間にとっては未知の魔力だからだろうか?

これがきっかけで戦いに発展した事態など数えきれない。

 

なんとも迷惑な話だ。

 

 

ただ、こういう時の対処法は至ってシンプルだ。

 

 

「さあ来いよ。オレを楽しませーーー」

 

 

 

こういう時に有効なのはいつだって

 

 

誰にだって

 

 

 

有無を言わさず先手必勝さ。

 

 

力強く踏み込んで瞬時にラクサスと呼ばれた青年の懐へ潜り込んで

 

掌底を体にねじ込んだ。

 

 

「ごはっ!!」

 

青年の口から吐き出された唾液を置いてけぼりにして体はギルドの壁に激突した。

 

「「「んなーーーーー!!」」」

 

ラクサスの方向を見てフェアリーテイルの面々が驚愕の声を上げる。

 

だが、これで終わるような相手ではなかったようだ。衝撃の瞬間に後ろへ跳んで勢いを殺していた。

興奮しているわりには意外と冷静だ。

 

 

なら、手っ取り早く決めようか。

 

 

パルプンテ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーーーッ!!

 

 

 

どこかで悲痛な叫び声が聞こえた。失敗だ。

 

幸先の良くない結果に辟易していると、ある程度は回復したであろうかラクサスのいた場所から雷が飛び出し、私の背後に回り込んだ。

 

「随分とやる気じゃねえか!?」

 

後頭部に迫る拳をしゃがんで避けて振り返る頃には既に雷が私に向かってきていた。

自然の雷ほどじゃないにしろ速度が思いの外速いため避けるのは無理だ。

 

腕でガードするとピリっときた。嫌な感覚に腕を振るっているとラクサスは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ほぉ、今のを難なく防ぐか。今のはウチのギルドでも耐え切る奴はそうそういねえと思ったんだがね」

「ラクサス! それ以上はやりすぎだって!」

「あんたも意地はってないで! ラクサスはやるっつったらやる奴なんだよ!」

 

壊れた扉からギルドの面々がヤジを飛ばす。反応からしてラクサスはかなりの実力者なのだろう。

魔力からしてもエリックたちよりも上なのだろう。

 

 

まあ今回の件は私の責任であるには違いない。この騒動は私が抑えよう。

 

「だ、だがラクサスはそこらの魔道士と違う! そう簡単に収まるとは思えん!」

 

そんなに案ずるな鎧の少女よ。私とて腕に覚えくらいはある。

負け戦をするつもりなど毛頭にないのだ。

 

それに、奴の弱点は既に把握済みだ。負ける要素は今の所皆無だ。

 

その言葉にラクサスの笑みは消え、雷の魔力が高まる。

辺りを巻き込む膨大な魔力にエリックを含めて全員が戦慄した。既に喧嘩で済まされる領域ではないと荒れ狂う魔力を見て思った故に。

 

「いつまでも余裕こいてんじゃねえぞっっっ!!」

 

怒号とともに雷と同化し、私の元へと迫ってくる。

直線的でなく不規則に動いているのは撹乱のためだろうか。

 

 

捉えられない速度ではないが、タイミングを合わせるのは神経を使う。

なので、ここは普通に弱点を突かせてもらおう。

 

体に纏う魔力と気配を任意的にコントロールして隙があるように見せる。普通なら露骨な魔力の動きに不審に思われるが、興奮した相手とあれば引っかかるだろう。

 

 

「レイジングボルト!!」

 

案の定乗ってきた。どんなに不規則に動いても狙う場所は一つ。私は懐から持っていたペットボトルから水を口に含む。

 

吸い込まれるように特定の隙に向かってきた雷を殴り消し、攻撃のために一瞬だけ静止したラクサスの顔面に口の中の水をぶつけた。

プシャっと顔にかかって動きを止める。

 

その一瞬の隙にラクサスへ肉薄して柔道の要領で地面に倒す。

 

「ぐっ!!」

 

もちろん、これだけではダメージとしても弱いし、こんな正気を失った状態も本人としても不本意だろう。

 

 

 

 

私はラクサスの首に足を絡ませ、窒息させる。

 

「く、は ……」

 

急に息ができなくなったラクサスは必死に空気を求めながらも私の足に手をかけて外そうともがく。

しかし、それだけでほどくほど私は甘くない。

 

過去にはアクノロギアの首に絡みつき、血流を止めて壊死させようと努力したこともあるくらいだ。

一度だけ尻尾を締め上げたら激痛のあまり三日三晩暴れまわり、尻尾の先っぽだけだが変色させたこともあった。もちろん、その間は岸壁に叩きつけられようが私は意地だけで締め上げ続けた。

最後には尻尾ごとブレスでコンガリ燃やし尽くされ、逃げられてしまったのだ。

 

 

「は、な“……せ……」

 

話を戻すが、ラクサスの顔は既に酸素不足で真っ青になっている。

苦し紛れに電撃を浴びせてきたが、私にとっては静電気くらいにしか感じられなかった。

一瞬だけ骨が透けて見えたが、ダメージはない。

 

気にせず締め上げる。

 

 

 

「ごぼ……ぐ、が……」

 

ついに言葉も発しなくなり

 

 

 

ラクサスの手足が落ちた。

 

 

 

彼の魔法には少し興味があったが、今回は事情もあったため手短に片付けた。

騒然とするギャラリーを尻目に、雷との勝負は静かに幕を下ろした。




ネタ魔法が出るといったが、ラクサスにではない。
なので、ほとんどステゴロでボコしました。
あまり見せ場なかったですけど。
ラクサスの弱点についてはおいおい説明します。

パルプンテに無意味など存在しない。
遠くの地でパルプンテは物語を動かす。

それが真理


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