好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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毒を以て鉄を制す(前篇)

今頃は島の異変も消えたことで任務も達成されたことを確認し、マグノリアへ帰ったころだろう。

私は私で遺跡に降り注ぐ月の光を液体に変えて瓶の中に集めている。

科学と同じ要領で特殊な機器を用いてムーンドリップのつまった瓶を鞄に放り込んでいく。

 

その数が9本になったところでムーンドリップを集める最適な条件が変わり、これ以上の収集は無理となった。

 

今回はただデリオラとムーンドリップのために来ただけなので住人への挨拶は別にいいだろう。距離からしても泳ぐには問題ない。そう思って準備運動しながら暗い海を見ると、奇妙な気配を感じた。

 

海のあちこちに漂う油膜のように少し別の何かを感じる。

海と完全に一体化しているわけではなく、散りばめられたようになっているのも気になる。

何より、力強い生命力に似たものを感じる。

 

興味を抱いた私は余った空瓶を取り出して生命力のエネルギーが溶け出した海水だけを集めていく。

海の中に溶けた部分は素潜りで集めた。

 

一通り集められるところまで集めた後、今度こそ私は帰ることにした。

 

 

今日は珍しく目的の意に沿った効果が表れた。これ以上の運は続きそうにないので魔法は止めておこう。

防水性の鞄なので泳いでも問題ない。鍛錬ついでにバタフライでマグノリアへと帰る。

 

ドルフィンキックの一蹴りごとに軽い津波が起こり、彼の泳いだ後に渦潮を作っていったのを本人は気付いていなかった。

 

 

 

 

舞台は戻ってマグノリア

 

そこでは未だかつてない衝撃が襲っていた。

フェアリーテイルのギルドが襲撃された。幸いにも無人のギルドを深夜に襲撃されただけで怪我人は皆無だった。

そのため犯人の目星をつけているにもかかわらず、マカロフは不動の意を示す態度に一部の好戦的なメンバーは不満を募らせる。

 

だが、相手がどう出るかわからないため、しばらくの間は単独行動を禁じられるようになった。

見えない悪意にギルドは異様な空気に包まれる。

 

 

 

「なんだか大変なことになっちゃったね」

「プゥ~」

「この先どうなっちゃうんだろ……」

 

ルーシィは自身の契約精霊であるニコラことプルーと帰路についている。

ギルドが襲撃された、自分の身近に悪意を持った敵がいることに不安を抱くメンバーの一人である。

 

今までは闇ギルドやガルナ島のようにクエストでの戦いに出くわしたが、それはあくまで仕事と区切りをつけることができていた。

ただ、今回は事情が違う。

 

この街で暮らし、買い物をし、帰る場所となっているマグノリアに見えぬ悪意が潜んでいる。如何に魔導師といってもその恐怖は拭えない。

 

「まあでも夜に出歩かなければいいだけだし、大丈夫よね」

「プゥ~」

 

気の抜けるような声に不安も和らいだのか笑みを浮かべ、街はずれの山に建つ『休憩所』が見えたとき、安堵感が生まれた。

 

プルーをしまって家に入る前に掟ともいえる帰りの挨拶をしてから戸を開けた。

 

「ただいま~」

「お邪魔してるぞ」

「ふほーしんにゅー!!」

 

そう言って家に入った時、リビングでくつろいでいるエルザやなぜかぐったりしているナツとグレイ、ハッピーの姿に叫んだ。

 

「はしたないぞ。無暗に大声あげるのは子供の教育としてはよろしくない」

「それならちゃんと不法侵入しないでほしいんだけど……」

「ちゃんと今日に伺うことは先生に言ってあったぞ。こら、また爪を噛んでいるな。癖になったら大変だ」

 

膝の上で指をしゃぶっていた幼児を優しい笑顔で注意する姿にルーシィは意外そうに目を丸くした。

エルザの意外な一面を目に焼き付けながらも問題の男どもに目を向けた。

 

「で、ナツたちはなんでこんなことに?」

「気にするな。この家に入るときにドアを蹴破ろうとした結果、『あの世とこの世の狭間の空間』に強制転移させられて体感時間で言うところの1ヶ月を空腹なし、景色なしの空間を彷徨ったらしい」

「突っ込みどころがありすぎて意味不明なんですけど!?」

「聞いてなかったのか? この家で礼儀を欠くと超常現象に巻き込まれ、最悪では精神を壊すほどの攻撃を受ける。ナツたちは本当に運が良かったと言えよう」

「ひええぇぇぇ……」

 

初めて聞かされた住まいの裏事情にルーシィは震えあがる。今まではよかったが、普段から危険と隣り合わせのギリギリの状況に置かれたかを知ったからだ。

 

 

しばらくして復活し始めたナツたちを交えて今回の騒動のことを話し合う。

 

今回、フェアリーテイルに宣戦布告紛いなことを仕掛けたのは『幽鬼の支配者≪ファントムロード≫』とみて間違いないらしい。さらに言えばギルドに鉄の棒を打ち込んだのは鉄のドラゴンスレイヤーであるガジル・レッドフォックスという者らしい。

 

マカロフもまた、それに気づきながらも手を出さないのはギルド間の争いで息子と称するギルドメンバーが傷つくのを避けているからだ。

 

決して臆病風に吹かれているわけではないと知りながらも、ナツのような好戦的な者としては納得いかない話である。

 

「どちらにせよ。マスターが仰られるのであれば我々はそれに従うしかないのだ」

「先にやってきたのはファントムだろうが! じっちゃんもビビってねえでやり返せばいいんだよ!」

「ジーさんだってビビってるわけじゃねえよ。今は攻め時じゃねえってことだよ」

「んなもん関係ねえ! 戦争だ! 戦争!」

 

ナツが興奮して火を噴き散らすと、一部の家具に火が移り、焦げた。

その瞬間、ナツが座っていたソファーから屈強な両腕が生えてきてナツの首根っこをつかんだ。

 

「ぐえ!」

「ナツ―!!」

「なにこれー!?」

 

ハッピーが救出する間もなく、部屋に置かれていたタンス、食器棚、絵画から鍛え抜かれた手足だけが生えてきてはナツに殺到し、全員で袋叩きにする。

 

「この野郎! 燃やしてガボォ!」

 

ナツが魔法を使おうとするとキッチンの蛇口から器用に水が飛び出てナツの炎を鎮火する。

チームワークがいいのか家具たちは水に巻き込まれないように離れたためにナツだけが水に押し流されて部屋の中央に転がされた。

 

なお、家具たちは無関係なエルザたちや子供たちを丁寧に応対して安全地帯に誘導している。

 

一人暴れたナツはビショビショの姿で腕を組んだシャンデリアに潰された。

 

「ぐえー!!」

 

最後の仕上げとばかりに家具たちはナツを取り囲み、再度袋叩きにする。

 

 

その光景を見て、関わらないように努めるエルザたちは何事もなかったかのように話を進めようとする。

 

「『夜には一人にならないように』とのことで、師匠の家を提案してここに来たのだ」

「ここに住んでるのならもう安全じゃないのか? 持ち主もそうだけどナツレベルならここの家具だけでなんとかなるだろ」

「そもそも、この家って本当になんなの? 明らかに普通じゃないよね!?」

「だが、油断はできん。この家にまで手を出そうものなら師匠も黙ってはいない。そうなればただの戦争じゃすまされん。一方的な虐殺になる。それを防ぐためにも今日はここで晩を取るぞ」

「でも、ここって一晩過ごすと今まで住んでいた住人の形をした血の跡が辺り一面に浮かぶって言ってたけど、大丈夫なのかよ……」

「エルザ聞いて!! この家普通じゃない!」

「私たちは客として認められているはずだ。だから大丈夫……なはずだ」

「断言しろよ!!」

 

もはや並みの要塞よりも屈強で魔境である家で泊まることとなる。

だが、とエルザは一つ思い出したと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「今回の件、もしかしたらすぐに解決するかもしれん」

「なんで?」

 

 

 

「エリックたちが帰ってくる」

 

 

 

 

 

フェアリーテイルにはチームが複数あり、それぞれのチームで特に仲がいい者同士が集まっている。そんなチームの一つである『シャドウ・ギア』はレビィ、ジェット、ドロイがある。

 

主戦力はレビィであり、優れた頭脳と文字から作られる魔法は貴重な戦力たる所以だ。

 

そのチームが現在、窮地に立たされていた。

 

「ギヒ、妖精のケツも大したことねえな。一撃でこのザマかよ」

「ジェット、ドロイ……」

 

夜のマグノリアの市街地の裏道でジェットとドロイが倒れ、残るレビィは倒れはしていないが、流血する腕を抑えて苦しげな表情を浮かべる。

対する相手は幽鬼の支配者であるガジル本人だった。

 

鉄の棍棒に変えた腕を見せびらかしてレビィに続ける。

 

「歯ごたえがなさ過ぎて達成感ねえな。こんな雑魚なら他の奴に任せてもよかったじゃねえか」

「バカにして……っ! こんなことしてどうなるか分かってるの!?」

「妖精のケツと戦争だろ? 安いエサででかい獲物が釣れるぜ」

 

ギルド協定も頭に入っていない、まともじゃない相手を前にレビィは必死に策を巡らせる。

既に手遅れもかしれないが、このままでは完全に戦争になってしまう。相手の兵力はフェアリーテイルの倍近くあるのだ。それで戦争になれば自軍にも多大な犠牲を払うかもしれない。

 

最悪な状況を間違っても自分たちの手で引き起こしてはいけない。

そう思っていた時だった。

 

 

「そう言えば、てめえらと丘にある養護施設、随分と仲がいいらしいな」

「……それが?」

 

養護施設、それだけでレビィは底知れない不安に陥った。

目の前のまともじゃない男が何を考えているのか、想像もしたくない。

 

それはこの街における禁忌だ。それを破れば戦争なんてものでは済まなくなる。

この街の住人なら子供でも知っている暗黙の掟を目の前のまともではない男が守るだろうか。

どうか夢であってほしい、そう思ったレビィの期待は見事に裏切られた。

 

 

 

 

「狼煙は幾つあっても損じゃねえよなぁ。ギヒっ!」

「な、なんてことを……!?」

 

邪悪な笑みを浮かべたガジルの一言にレビィは頭が真っ白になった。

決定的な一言に言い逃れはもうできない。

これ以上、状況が悪くならないために動こうとした時だった。

 

 

 

 

「おもしれえ話、してんじゃねえか? 聞こえたぜ」

 

路地裏に別の声が響いた。ガジルとレビィがその声の方向へ向くと、巨大な翼を生やした蛇を引き連れた男が立っていた。

口角を吊り上げながらも、発せられる雰囲気はただ事ではない。殺気と怒気がないまぜになった心中を察することはできない。それなりに付き合いの長いレビィは確かに感じ取った。

 

「エリック……」

「退けレビィ。こいつは俺が片づける」

 

短く言った一言にレビィは顔を伏せて従った。倒れたドロイたちを回収したのを確認したところでガジルが笑みを浮かべてエリックに好戦的な笑みを向ける。

 

「てめえも妖精のケツか? 一人でおれに挑むとはイカれてんのか?」

 

どこまでも自分の有利が続いているような物言いにエリックは見下したような笑みを浮かべた。

 

「ドラゴンの力に溺れて振り回されるバカを相手に先生の手を煩わせる必要はねえってことさ」

「あ”?」

「鉄のドラゴンスレイヤーなんだってな? 粋がって弱い奴しか相手にしてこなかった小物が同じドラゴンの力を宿すなんて名折れもいいところだ。今後は鉄のトカゲとでも名乗っとけよ。ドラゴンスレイヤーの面汚しが」

 

余裕の笑みを浮かべていたガジルの顔が憤怒に代わる。

 

「言ってくれるじゃねえか。それはつまり、俺にぶっ殺されてえって言ってんだよなぁ!!」

「粋がったガキの調教だ。お前にいつまでもドラゴンスレイヤーを名乗られるとこっちが恥ずかしいんだよ」

 

それを最後にガジルはキレた。額に浮かんだ青筋が破裂しそうなくらいに浮かび上がり、足に力を入れた。

 

「上等だコラァ! 妖精のケツの前にてめえらの首を晒してやるよクソがぁ!」

 

 

ガジルは腕を鉄に変え、エリックへ飛びかかる。

その様子にエリックは一言つぶやいた。

 

 

「ここでやられてろ。それが一番の慈悲だ」

 

 

粋がったドラゴンが魔神の怒りを買う前に、さっさと始末することを決めたのだった。




私>>>次元の壁>>>>スプリガン>家具>聖十魔導師

家具は作中でも屈指の強さです。
ポッと出のサブが最強なのはこの作品あるある

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