好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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過去からの因縁

「見て見て! すっごくきれい!」

 

幸いにも晴天に恵まれた空の太陽できらめく海を前にミラが騒いでいる。

撮影用の衣装で動き回るのはいただけないが、主役であるため少し目をつぶろうと思った。

 

疲れもなく早朝に見せた眠そうな様子も見られない。

その代わり、電車の中で語り合うという予定が潰れたことにご立腹だったのはご愛嬌だ。

後は、撮影前にバテてしまわないかが心配であるというと、ミラは頬を膨らませる。

 

「今日はとことん遊ぶって決めたんだからいーの。あなたも仕事ばっかりじゃなくって楽しまなきゃ!」

 

私の手を引っ張って街の中を散策する様子は実に微笑ましい。マネージャーとして、子供のころから苦楽を共にした仲として、彼女の数少ない安らぎの時間を邪魔させはしない。

 

彼女の笑顔に充てられたのだろう、たとえ軍隊、国が相手できそうだ。

それほどまでにやる気に溢れていた彼はいつもよりも神経を研ぎ澄ませる。

 

彼はパルプンテによって別世界から呼び出した強者からその世界特有の力を学び、身につけている。

運に左右されない、人本来が眠っている力を身につけるのは魔力がないと嘆く彼らしいといえば彼らしいのだ。

 

気配を探る力を街全体に行き渡らせた時、背後からミラに向かって忍び寄る影を察知した。

ミラの笑顔に絆され、気を抜いた結果がこれか、そう思いながら忍ばせていた隠し銃を瞬時に取り出してミラににじり寄る人物の眉間に銃口を突きつけた。

 

「メエエエエエエン! 私だ、落ち着きたまメエエエエエエン!」

「「「師匠!!」」」

 

奇妙な風貌の中年は瞬時に引いた引き金に合わせるように髪をかすらせながら弾丸を見事に避けた。

その取り巻きであろう騒がしい3人に見覚えがあり、一旦落ち着いた。

 

「一夜さん!? それにトライメンズの皆も!?」

「やあミラさん。奇遇だね、この運命に乾杯、メン」

 

今さっき撃たれたというのに立ち直りが早く、早速ミラに言いよる鋼のメンタルを持った男に見覚えがあった。

それはブルーペガサスの一夜その人だった。

 

「先生、お久しぶりです。お元気そうで何より」

 

渋い声で挨拶をしてくる一夜に私は撃ったことへの謝罪する。すると、それに対して決めポーズしながら気にしなくていい、とだけ言う。

器が大きいのか甘いのかは人によって別れるだろうが、少なくとも私はそのさっぱりした性格を気に入っている。

 

過去の一悶着からと言うもの、個人的にも施設としてでもマスター・ボブを始めとした面子に親交がある。

彼らの飛空艇であるクリスティーナの製造に少し関わっていることもあり、たまに出張でメンテナンスしに行っているが、それは些細なことだろう。

 

取り巻きの1人であるヒビキが私たちに話しかけてくる。

 

「ご無沙汰です先生。ミラさんもお変わりなく」

「あら、そんなこと言ったらカレンが拗ねるわよ?」

「あはは、それは怖いな……その節でソラノにも会いたかったな。今のカレンがいるのは彼女と先生のお陰ですから」

 

ヒビキは頭を下げた。

 

今思ってもヒビキたちとのファーストコンタクトは色々と衝撃的だった。

きっかけはソラノがカレンに酷使されている黄道十二門の星霊の噂を聞いてからだ。

 

魔法と出会ってから彼女は星霊と共にいた。それ故に彼女の星霊に対する感情は人一倍強いものとなっている。

もし、進むべき道を違えていた時、その愛情はどのように変質してしまっているかと考えると末恐ろしいものがある。

今では正しく育ったから問題はないけれど。

 

話を戻すが、彼女は私と共にブルー・ペガサスに客として潜入し、カレンの動向を探った。

その結果、お世辞にもまともな人格者とは言えなかったとだけ言っておこう。

色んなところで男を漁り、飽きれば星霊に相手をさせる。

 

モラルも何もない様子に身内からも疎まれ、マスターからも半ば見放されている状況は既に詰みの状態だった。

星霊魔導師としての心構えも素質もない、いずれは星霊から見放されて破滅に向かうのが目に見えていた。

 

何日もソラノを宥めながら星霊人権保全委員会に提出するための証拠を集めていた時、転機が突然訪れた。

接客を生業とするブルーペガサスのマスターは私達に気づいていたのだろう、唐突にゴーサインを出してきた。

突然のサインに驚いたが、察してくれた彼女?に感謝した瞬間、ソラノの我慢が解けた。

 

横柄な態度を取っていたカレンの横っ面に渾身のビンタを食らわせた。気持ちいい乾いた音がキャットファイト開始の合図となったのは言うまでもない。

ソラノの上着を預かりながら互いに髪の毛を引っ張り会いながら罵る二人にギルドはマスターボブを除いて騒然とした。

 

私から体術を習っていたソラノと男漁りに精を出していたカレンとでは肉弾戦もすぐに実力差が表れ、カレンに馬乗りになってボコボコにしていた生徒の晴れ舞台を酒を飲みながら観戦していたのはよく覚えている。

そうしているうちにあるヒートアップしたカレンが星霊を呼び出して襲いかかってきたが、ソラノも星霊で応戦し、圧勝した。

 

徹底的に打ちのめされ、見かけの美貌さえも腫れた顔面で見る影もなくなったカレンに残されたのは圧倒的敗北感だった。

そこからソラノはカレンに星霊魔導師の面汚し等の罵倒を延々と続け、カレンは癇癪を起こして泣き喚いていた。

 

「あの時以来からヒビキとの仲も良好になったよね」

「うん。あの時はカレンのことを諦めかけていたけど、先生の叱咤で目が覚めてね。二人で色々と話し合ったんだ」

「あの頃はお前もウジウジしてまどろっこしかったんだよ……別に心配なんかしてなかったからな」

 

カレンが泣いていた時にヒビキがソラノから庇おうとした姿勢に私は思うところがあり、一通り叩き伏せて二人の関係から見える交際に対して大いに口を出した。日が暮れるまでの説教の果てにその件については水に流した。

 

その数日後くらいにカレンがこれまでのことを反省し、魔導師を止めることとなって黄道十二門のレオとアリエスをソラノに託した、ということがあった。それ以来、カレンはギルド経営に従事していると偶に飲みに付き合っているソラノから話を聞いていた。

 

「今度ギルドにお越しください。カレンもあの時のお礼がしたいとのことなので」

「道を違えていた仲間を私たちの代わりに正してくれた礼もできなかった。あなたは男だが、ご来店した日には精一杯のおもてなしを約束しましょう。その時にはミラさんもご一緒に」

「「「ブルーペガサスへのお越しをお待ちしております!!」」」

 

あの時はただの成り行きだったのだが、こうまで言われると行かなければ逆に失礼だろう。

なので、今度はソラノたちを連れて行くことを約束し、その場で別れる。

 

聞けばブルーペガサスも週刊ソーサラーに掲載される夏のビーチ特集の撮影に来ているとのことだ。すぐに再会するだろう。

 

「ブルーペガサスの人って面白いわね。それに優しかったわ」

 

ミラが笑いながら漏らした感想に同意した。確かに彼、特に一夜の魔法は面白い。

 

香水に魔法を付与してステータスの上昇、鎮痛などサポート系の魔法に長けている。

突発的な対応には向いていないが、匂いの開発によって魔法の質も変わるというのだから不思議である。

 

実は、近々、一夜との共同研究で魔法の香水を売りだそうかと思っているのはここだけの話だ。

少し話から脱線しているとミラが私の頭をパシッと軽く叩いてきた。

顔を見ると、少し拗ねたように頬を膨らませている。

 

「こんな時まで仕事のことなんか考えなくていいの。折角の自由時間なんだから」

 

フェアリーテイル、養護施設では見せないような顔だった。

最近ではすっかり大人びたと思っていたが、こうした子供っぽい姿を見るとどこか安心する。

 

気分はまだまだ幼い少女の従者、たまにはこういうのもいいだろう。

その後の雑誌撮影まで二人で並んで色んな場所を散策した。

 

 

 

その日の夜、ミラの撮影も終わったということで羽休めに歓楽街をエスコートしてやる。

一応は変装させているが、ミラの容姿はそこいらのモデルよりも優れているために目立つ。

前髪を下ろして目元を隠し、伊達眼鏡をさせても体のラインで民衆の注目を浴びる。

 

私という異性がいるのを確認して何人かが声をかけようと諦めていく姿があった。

それでも未だに諦めていないのか機会を窺い、付きまとってくる者もいる。

あまり気にしないように振る舞いながらミラの思うままに買い物や食事をしていく。

 

「妬ましいぃ……妬ましいのう……」

「あれってミラ・ジェーンじゃないのか? 今日、ここで撮影って言ってたし」

「てことは、あのマネージャーもいるのか? 噂ではしつこいファンを握手会で半殺しにして血祭りに上げたという……」

 

周りから聞こえてくる声に私は少し危機感を覚えた。もしかしたらミラ・ジェーンだとバレているかもしれない。

 

「あはは、そろそろ魔法で変装したほうがいいかしら」

 

確かにその方が今のような視線に悩まされずに済むかもしれない。

それでも、ただでさえ疲れている彼女にそんな負担を強いるのは憚られる。

自然体で羽を休めてもらうようにするのは私の仕事なのだ。

 

「そんなこと気にしなくてもいいのに……でも、うれしい」

 

顔を紅くさせてお礼を言ってくる彼女を一瞥し、再びエスコートを再開しようとした時だった。

 

 

 

敵意、おもむろに向けられた害意に私は無意識に唱えた

 

 

―――パルプンテ

 

 

 

笑顔の魔神が次元をこじ開け、何もない空間から出てきて標的へ拳を振るう。

 

 

 

「ギャホ?」

「え」

 

 

 

サルに類似した部下を引き連れた人物を中心に、歓楽街のど真ん中で大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

少し時間はさかのぼり、アカネビーチのカジノ店

夜でも賑わうカジノにエルザたちはギャンブルに興じていた。

 

とある事情で人間界に残された星霊が持っていたチケットを分けてもらったわけでなく、単純に福引で当てた旅行券をチームで組んでいるナツ、グレイ、ルーシィとエルザで来ただけである。

 

現在はバーのカウンターでルーシィとグレイが話をしている。

エルザとナツは別行動でカジノで遊んでいる。

 

「偶にはこういうのもいいな」

「最近はファントムとかガジルとか……」

「あぁ……あのリサイタルか」

「ミラさん拘束してリサイタルしようとした所を先生に見つかって、魔法を使ってフェアリーテイルが爆発したもんね、文字通り急に、何の前触れもなく」

「じいさん呆然としてたけど先生がポンと弁償してガジルを引きずって拉致して一旦は落着したけどな」

 

ガジルにグレイは笑いながらご愁傷様と軽く言うと、ルーシィは前々から気になっていた疑問を聞いてみた。

 

「先生って本当に何者? 強さとかお金持ちはもちろん、何でもできるし超人みたいで」

「認識は間違ってねえよ。あの人が魔法の才能がないのは間違いないけど、代わりに執念が凄まじい」

「執念?」

「魔法使いたくて魔法道具の開発したり、魔法を使える過去の遺産を求めて冒険したり……その過程で様々な学問身に着けるうちに、それが面白くなって今じゃあほとんど研究者みてえなもんだ。今じゃああの人がいねえと研究が進まねえんだと。その辺の事情はよく分かんねえけど、たまにウチに先生紹介しろって依頼も来るからな」

「やっぱりすごいんだ……それで魔法の才能がないって……」

「その代わりに先生は人が本来から持つ力を研究して自分のものにして今の実力を手に入れたんだ」

 

疑わしそうにルーシィが聞くと後ろから声が聞こえ、振り向く。

そこにはドレスアップしたエルザが佇んでいた。

 

「戻ってきたのか」

「遊ぼうとしたら気になる人物を見つけて、連れてきた。ほら、隠れてないで出てこい」

「あ、あの……私は……」

 

エルザがドレス姿の女性を引っ張り出してグレイたちの前に突き出す。

見覚えのない人物にルーシィが首を傾げていると、隣から驚きの声が上がる。

 

「ジュビア!? お前、なんでこんなとこに!?」

「すいませんグレイ様……来ちゃいました」

「知り合い?」

 

グレイの反応から只ならぬ関係だと思って尋ねると、それに答えたのは意外にもエルザだった。

 

「この者は元ファントムのメンバーだ」

「ファントム!? 私を誘拐しようとしたギルドでガジルがいたところの!?」

「未遂には終わったがな。既にマスター・ジョゼがファントムを解体したとはいえ、こちらで言うところのS級魔導師の実力を持ったジュビアが今朝から私たちを付けていたのだ……遊びの最中でも見張られるのは嫌だから捕まえてきた」

「お前、家で待ってろって言っただろ」

「すみません~」

 

半べそかいて謝るジュビアにグレイは苦笑して頭をかきむしる。その様子からしてグレイはジュビアと何かしらの関係があるようだった。

ルーシィとエルザがグレイに視線を向けて知っていることを話せ、と訴えているのに気付いて観念する。

 

「ファントムが解体する少し前にこいつがマグノリアで行き倒れてるのを見つけて、介抱してたら色々あって家に住みつくようになったんだよ」

「……ガジル君が任された直後、ジュビアは『休憩所』の怒りに触れて襲撃を受けました。私たちは成す術もなく無力化された所を逃げて来たんです」

「数人でギルド一つを襲撃……うん、なんか想像できちゃった」

「ルーシィもあっちに馴染んできたな」

 

グレイが冷や汗をかきながら呟く。

同じチームがエルザのように常識をなくしていくことを懸念しながら話を進める。

 

「で、こいつがフェアリーテイルに入りたいって言うから機会を待ってたんだけど……なぜか今日、ここで見つかったわけだ」

「できればグレイ様のところで永久就職」

「止めろ」

 

グレイの家にお世話になっている内に何気ない彼の優しさに惹かれ、ジュビアは人目もはばからずグレイへの好意を見せつける。

ルーシィは苦笑し、エルザは警戒を解き、生暖かい視線をグレイたちに向けていた。

 

 

しかし、背後から巨大な影が挿し、彼らを包み込んだ。

 

 

 

 

「久しぶりだね姉さん」

 

 

 

過去というものは思わぬ所で今に繋がってくる。

彼女は自らの過去と対面し、その心も闇に閉ざされた。

 

 

 

「ショウ……なのか?」

 

 

過去からの因縁が今になって立ちはだかる。

 

ただそれだけなのだ。




会社が忙しく、常に時間に追われます。
そのため、自分で作った作品なのに幾つかの設定を忘れてしまったので、現在は過去作を追憶中です。

基本的に主人公は唯我独尊で突き進むので物語も原作ストーリーはほぼスキップしていく予定です。

それでは、また次回お会いしましょう!

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