好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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大きい力を抑えるには更に大きい力でねじ伏せるとばっちゃが言ってた

アカネビーチ近くの街は騒然としていた。

突如として街の中心部が大規模破壊に見舞われ、歓楽街としては壊滅的なダメージを負った。

 

その原因は誰かの魔法が暴走したのだとか、そう広まっている。

住民は所詮は噂だと信じていないようだったが、彼らは知らない。

 

 

時に真実は噂以上に奇であることを

 

 

 

 

 

 

 

ミラに対する劣情、悪意といった下卑た感情を感じた瞬間に私は我慢できなくなって、つい魔法を使っちゃたぜ。

私は魔神に巻き込まれた形で潰されたが、致命傷とはならなかった。ただ、元凶となった類人猿たちは綺麗に潰されており、全身複雑骨折で運ばれていった。

 

かくいう私も守衛所に取り調べで連れ込まれたが、二、三の質問だけで終わり、今は釈放手続きを待っている。

外の騒がしさとは別世界と言える石でできた静寂の個室の中で取り調べ官と一対一で机を間ににらみ合うのは私といえど気まずいものがある。なので、目が合ったら笑いかけるも、尋常じゃない汗をかきながら愛想笑いした後、真っ青な顔になって再び沈黙する。

 

さっきからこの繰り返しだから気が滅入ってくる。仕方ないからそのまま沙汰が来るのを待ち続けた。

 

その後、勲章やら何かをつけた所長と名乗る中年男性が汗だくになって取調室に駆け込み、頭を下げて私の釈放の準備が整ったと言ってきた。

一応、容疑かけられたし街もわざとではないけれど破壊したのも事実である。そんな容疑かけられている私にする態度じゃないと苦笑しながらも最後の取り調べ段階に入る。

 

釈放の準備はできたものの、最後の取り調べ過程を終えなければならない。

 

というのも、嘘発見器の前で一般市民への害意がなかったことを宣言して引っかからなければいいだけだった。

もちろん、一般市民への害意はなかったため正直に答えて見事にこれをパス。

普通に釈放されて事なき得た。ただ、所長さんと取り調べ担当官が最後に汗ダラダラに流して顔を真っ青に震えていたのが気になった。

 

最近は風邪が流行っているだろうか、施設の子供たちにも注意喚起しなければ。

 

そんなことを考えながら守衛所を後にすると、外ではミラが待っていた。

心配そうに待っていたが、私を見て安堵に一息ついていた。

 

 

 

ただ、そこで事態が困ったことに転がっていることに気づいた。

ずっと補足していたエルザやナツたちの反応が街から消えている。この街に来てから気配と“覇気”、“円”でナツたちがいたのを知っていたが、その反応がカジノからパッと消えていた。

 

私とていつも気を張っているわけではなかったのだが、その息抜きの最中に事態が色々と動いてしまったようだ。

まだ発覚してないが、カジノの客の生体反応がおかしい。今までは普通に反応を感じられていたが、今ではその反応が布みたいな何かに覆われてうまく捕捉できない。

 

上手く認識できていないことから考えると、間違いなく魔法であろう。

 

 

こっちとしては休暇で来たのだが、これ以上邪魔されたくはない。

 

“見聞色の覇気”を全力で展開させてナツたちを発見した。以前に海軍の英雄と名乗る人から教えてもらった。

それ以来、この力は長い間からお世話になっており、見聞色と武装色、なぜか覇王色までも開眼した。

曰く、覇王色の人間は騒ぎを起こしまくる問題児の証と言っていた、解せぬ。

ついでに六式とかいう武術も習い、今でも鍛え続けている。

 

 

ちなみに“円”は相当昔に召喚した別の世界の住人に教えてもらった。

トランプを武器にしたトリッキー型の戦闘スタイルには何回も苦汁をなめさせられ、100回以上は死んだ。

相手も相手で戦いが好きだったから好きなだけ戦い、念能力を鍛えていった。

ちなみに、私は強化系だったので肉体操作と自然治癒力の強化を私の能力とした。

 

あの人たちは元気かな?

いくら殺しても死ななそうな人ばっかだから大丈夫なんだろうけど。

 

 

過去に浸るのもここまでにして、今はナツたちを追うことにしよう。

私はパルプンテ神の呪いであるが、ナツたちのトラブル体質も大概である。私は彼らの行く末を少し心配しながらミラには用事があるから先にマグノリアへ帰っていくように言った。

 

 

その瞬間、ミラはホテルの備品の枕を私に投げつけてきた。

 

 

 

 

 

 

ミラにはまた日を改めて遊びに行こうと伝えると不承不承ながらも納得してくれた。

遊びに来たのに厄介ごとに突っ込んでれば、そりゃ怒るか。そう思いながら私は暗い海を泳いでいる。

舟でこぐよりこっちのほうが確実に速いのだが、やはり面倒は面倒なのだ。

 

そんなことを思いながらナツが向かった先を泳いでいくこと数十分、ついに目的地らしき所が見えてきた。

孤高の絶海に面した場所に巨大な塔が建っているのは壮観でもあり異様さが目立っていた。

異様な気配が立ち込めているのを見ると、悪い予感は当たってしまったようだ。スキルがある時点で諦めていたからダメージは少ない。

 

そんなことを思いながら泳いでいると海の上を浮かぶ一隻のボートを見つけた。そこにルーシィやグレイの姿の他にも初めて見る姿もあった。一緒に塔を傍観しているから敵ではないのだろう。

私が海から勢いよくボートに乗り込むと乗っていた全員が目を見開いてこっちに注目してきた。

 

「え、なんでここに!?」

「今海から出て来たってことは、まさか泳いできたのか!?」

 

ルーシィたちの疑問に答えてやりたいのは山々だが、見た限りだと事態は切迫しているようだ。

それに、ハッピーがナツと一緒にいないのが気になる。別行動を要するほどとなると事の重大さもかなりのものだろう。

 

「この人が最強の……こんな所で会うなんて思ってませんでした」

 

髪をカールにしている厚手のコートを纏った女性が私を見て呟いている。

 

「この人何なの? 急に出てきたけど、みゃあ……」

「知り合いって感じだけど……」

「それにしちゃあ状況が分かってないみたいだぜ」

 

この三人も見たことがない。猫っぽい少女と日焼けしたような少年とポリゴンっぽい何か。

見ないうちにエキセントリックな知り合いが増えたものだ。

 

私とて見た目を重視しろと言うわけではなく、基本的に善人であれば口出しするのも無用だろう。

 

「そんなことよりも大変なんだよ! ジェラールって奴があの塔にエーテリオンを落とすって言うんだ! 中にはまだエルザとナツとシモンって人もいるのに!」

 

ハッピーは思い出したように今の状況を端的に説明してくれた。そもそもなんでこんな状況になったかも知りたいが、今すべきことは分かった。

 

エーテリオン、現存する魔法の中でも破壊力があり、使用するにも評議員の生体リンクによる許可も必要だったはず。保守派の評議員が使用するからには相当な理由があるのだろう。

 

だが、こんな近くで放たれたら余波でボートが壊れてしまう。それだけは避けたい。

 

「いえ、そんな程度で済むとは思えないんですけど……」

「この人はいつもこんな感じだよ。常人とはズれてるからなぁ」

 

何やら外野が言っているようだが、時間は待ってくれない。

遥か上空から巨大な力のうねりを感じる。ハッピーの話は本当だったようだ。

 

「そんなっ!?」

「冗談だろ、まだエルザたちがいるんだぞ!」

 

空から太陽が出たように暗い海を照らす。

 

ふむ、話だけは聞いていたが実に興味深いな。一生に一度見れるか分からない魔法だ。それを今回目の当たりにしたのは“二度目”だ。

前回は私に直撃されたが、今回は客観的に見れそうだ。

 

「んな呑気なこと言ってる場合!? 状況解ってます!?」

「何でそんな冷静なんだよ!」

 

実際に見てみたいが、状況も状況だ。このまま海に投げ出されるのは遠慮願いたい。

 

 

ならどうするか。

 

 

 

より巨大な力でかき消すに限る。

 

 

 

私は虚空に手をかざしてスキルである『武器庫』から一振りの剣を取り出す。

その様子に周りは目を見開いて固まるが、私はそれに構わず力を込める。

 

 

この剣はパルプンテで当たった超レアな武器

 

 

 

呪剣『ホライズン』

 

 

 

かつては武器を造る神が自らの手で作り、星を削って今の球の形にし、水平線を創ったとされる創世の剣

故に、ホライズンと名付けられた。

 

世界を創ったとされる剣であったが、それをパルプンテ神が武器の神と取引をして奪い取った。

理由は定かではないが、パルプンテ神の横暴に怒る武器の神は怒りと恨みを武器に込めて贈ったという。

 

この武器は呪いを身にまとい、使い手の生命力と引き換えに極大の力を解き放つ。

 

 

その一撃は魔を切り裂き、無に還す。

 

 

 

普通の人間なら手にするだけで生命力を食い尽くされ、問答無用で死に至る。

 

 

生命力を奪われる虚脱感はあるが、死ぬほどではない。

安全だと確認した私はその剣に自分の持てる力を注ぎ込む。

 

 

「な、なに……これ……」

「こんな力知らない……い、嫌だ!」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!」

 

つぎ込んだ生命力に比例して膨れ上がる力の奔流にあたられたか、見知らぬ3人は正気を失う。

ルーシィたちは顔を真っ青にしているだけで正気を保っている、強くなっている証拠だ。

 

ルーシィたちの成長を感じながら、剣に力を込め続け、頃合いを図る。

 

 

 

 

―――ウバエ、コロセ……ハカイセヨ

 

 

 

 

剣から声が響いてくる。蟲に脳を食い散らされるような激痛と共に体から血が溢れていく。

由緒正しき聖剣をここまでの物に堕とすとか、パルプンテ神はマジ邪神。異論は認めん。

 

 

 

体からきしみ始めた音が聞こえ始めた頃、蓄えた力の総量を確認した。

 

 

頃合いだ。

 

 

私は体から流れる血飛沫をまき散らしながら天の光に向けて一振り、剣で凪いだ。

 

 

 

それは静止した世界

 

 

 

現実世界ではたった数秒といえる刹那の時が歩みを止め、世界を止めた。

 

直後に衝撃音が木霊する。

 

 

 

 

一筋の剣閃が遥か上空に飛翔し、天の光に向かう。

それはまるで、津波に飲まれゆく人を連想させるほどの物量差だった。

エーテリオンの光が剣の一振りとぶつかり合い、飲み込んだ。

 

瞬間、エーテリオンが裂けた。

 

 

 

光は空の割れ目の中に飲み込まれ、虚空に続く永遠の闇の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある漁師がその時の状況を語った。

 

 

その日はたまたま、沖に出て漁をしてきた帰りだった。

いつもと違って波は荒れ、暴風が吹き荒れた。

 

 

何事かと思ったのも束の間、空から光が落ちてきた。

 

 

それは神々しく、何より恐ろしかった。その時、漁師として危機に直面する勘が告げていた。

騙されるな、あれは神々しい“死”だと。

 

 

なにが起こったかも分からぬまま、死を待つだけだった数十秒は走馬灯しか見えていなかった。

海に生き、海で死んでいくのは定めなのか、そう思った時だった。

 

 

光は一瞬にして漆黒に塗りつぶされ、その黒は世界を切り裂いた。

 

 

 

その時のことを幾ら思い出しても何が起こったかなんて分からない。

何もかもが超常で、自分が関わるなどおこがましいとさえ思えた。

 

 

 

何が起こったか分からなかったが、これだけは理解している。

 

 

 

あの日、神々しい『死』は禍々しい『魔』によって切り裂かれ、救われたのだと。

 

 

晩年に至るまで、漁師は自分を救ってくれた『魔』に祈りをささげ続けたという。




閑話休題~事情聴取での一コマ~



所長  「あなたは子供ですか?」

私   「YES」

嘘発見器「嘘です」

所長  「あなたはこの街を悪意を持って破壊しようとしましたか?」

私   「NO」

嘘発見器「本当です」

所長  「あの犯人をどうしようと思いましたか?」

私   「手始めに四肢を潰して逃走手段と犯行手段を奪った後、死も生ぬるい生き地獄を見せながら体内に蟲を放ち、酸の海に放り込んでやろうと思いました」

嘘発見器「本当です」

所長  「つまり、犯人グループに悪意を持って殺害しようとしたと?」

私   「殺すつもりはありませんでした。ただ、自分のやったことには責任を持ってほしいと思っていました。悪意はありません」

嘘発見器「本当です」

所長  「分かりました。事情聴取はこれで終わります。ですから早く帰ってくださいお願いします何でもしますから」

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