好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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長い間放置してすいません。
こちらの用事も一段落したので少しずつ書いていこうと思います。

久しぶりなので文もおかしいかもしれませんが、ご了承ください。


エルザの決着と新スタッフ

事の発端はジークの暴露から始まった。

 

過去に清算したとされていたゼレフ教団の凶行に遡る。

当時、教団は周辺の村を襲いながら子供や年寄など力が弱い者を労働力として誘拐していた。その労働力を使って『楽園の塔』と呼ばれる建設物を造っていた。一見すれば教団がゼレフを祀るための建築物としか見えるだろうが、真実はそんなものではなかった。

 

ゼレフが遺したとされる禁忌の魔術を発動させるものだった。

 

Rシステム―――死者の蘇生という自然の摂理に叛逆する冒涜そのものだった。

 

そして、教団はそれを使ってゼレフを蘇らせようとした―――だが、ここで大きな改変が起こった。

奴隷たちの反乱によって教団員は全滅し、邪悪な計画はそこで潰えたかのように思えた。

しかし、奴隷代表のジェラールが魔の力に魅入られ、教団に成り代わって楽園の塔の建設を続けていた。

正気だったころからリーダーシップを利用して奴隷仲間を誘導して建設させていた。

 

そして、それが完成し、発動させようとしている。

 

だからこそ、エーテリオンを使ってジークの弟であるジェラールを塔ごと葬ってしまおうと提案した。

 

 

ここまでがジークの話であるが、ここからは先があった。

 

 

Rシステムの起動には普通では集められないほどの魔力量……27億イデアが必要となる。

そして、聖十魔導師に匹敵する魔導師の肉体を捧げることによってゼレフを蘇らせることを目論んでいた。

 

「何が起こった……?」

「エーテリオンの反応が、消えただと?」

 

先ほどまで上空を照らしていた光と膨大な魔力が消え、遠くから塔を見ていたグレイたちが現実を受け止められずにいた。

 

破滅的な光が跡形もなく消え、雲の割れ目から月光が差し込む幻想的な光景に動けずにいた。

 

エーテリオンの投下、そして消滅

わずか数十秒の間に起きた出来事にその場の全員が唖然とする中、力を行使した張本人の姿が目に入った。

 

「せんせ、ヒッ!」

「なんだよ、全身血だらけじゃねえか!!」

「この出血量、まずいです!」

 

禍々しいオーラを纏った剣を手に持ちながら全身から血を噴き出す超越者の姿があった。

目をそらしたくなるような負傷を負った先生はその場にたたずんで倒れることなく、塔を見つめていた。

 

満身創痍と言える重症の体で佇む姿に戦慄する周囲のことも忘れて私は剣を眺めた。

実際に剣を使ってみた感想だが、使い心地は悪くない。大抵の魔剣と同様に生命力を削る点は同じだが、他のと比べて出せる威力も低く、ある程度のコントロールが利く。

強力な物であれば一瞬で生命力を喰らい、無差別な破壊をまき散らす物が多い。

 

それに対し、この『ホライズン』はそういったコントロールが可能であることが分かった。

久しぶりの大当たり武器に私は口角を上げた。

 

「剣を見て笑ってやがる……」

「怖いよぉ……」

「丸くねえ……」

 

「何で笑ってるのよ……」

「あの武器を気に入ったんだろう……よくある」

「普通じゃありませんよ……マスター・ジョゼが恐れる理由が分かった気がします」

 

少し昂ぶってしまったのを自覚して表情を戻す。

この辺りでホライズンを戻し、次にすべきことを決める。

 

今回、旅行を邪魔する者の排除を決めていたが、この塔の真実を知ってもう一つ、潰す理由ができた。

この塔は『ゼレフ教』なる不快な異教徒どもが建てたものだという。罪もない子供を攫い、無意味に命を散らすだけの生産性のない屑。

何より、私の友を愚弄する社会のゴミが遺した負の遺産だと、評議員のアーカイブをハッキングして知った。

 

こんな物の存在を認めたくない。

 

 

破壊し、二度と顕現できないようにし尽くす。

まずはあの塔を造ったとされるジェラールという男だ。

 

私があの塔に行き、塔を破壊するからルーシィたちは陸に戻るように言う。

 

「まだ姉さんがいるんだ!」

「シモンだっているんだぜ!? なのに置いていけるかよ!」

「ナツもエルザだって!」

 

そちらも回収するから心配しなくてもいい。

全員は私が責任もって連れて帰ると言うと、グレイたちは大人しくなる。

 

それでも初めて見る子たちは絶対にひかない。

気持ちはわかるが、これから放つパルプンテを考えるとこの場に居座られるのはハッキリ言って邪魔である。

なので、私は言った。

 

今の私は非常に不愉快だ、なので、この場にいるというなら巻き込まれても知らんぞ。

 

 

先ほどの世界の終りかと思えるような光景を作った本人の言が響いたのか、全員が顔を真っ青にした。

どうやら分かってくれたようだと思い、満足する。

 

後で評議員が嗅ぎ付けられるようだが、私の名を出して置いて欲しい。罪人を引き渡すが、尋問できるかは怪しいくらいに壊してしまうことも伝えてもらおう。久々の残虐ファイトは腕が鳴るし、加減が分からない。

 

「「「ア、アイ……」」」

 

全員がハッピーみたいな返事をしたことに首を傾げながら足に力を籠め、まあいっかと思って塔に向かって跳躍した。

血塗れになりながらも三日月のように口を吊り上げて愉悦を堪能する狂人を止めるすべなど彼らにはなかった。

 

 

 

 

ジェラールは心は荒れていた。長年に渡って用意していた計画を実現寸前にまで事を進め、打ち砕かれたのだから。

 

計画通りにエーテリオンは塔に当たって膨大な魔力を手に入れるはずだった。そのためにエルザに猿芝居までして時間を稼いだというのに。

 

「シモン! しっかりしろ!」

「エルザ! 何が起こったんだ!?」

 

 

異変を察知したエルザに加えて飛び出すように現れたナツとシモンが集まってくるが、ジェラールにとってはそれどころではない。激情に任せて放った渾身の魔法はナツに当たる直前でシモンがかばって直撃、瀕死の状態に追い込まれている。

 

だが、今のジェラールにとってシモンはどうでもよかった。

自らが温め続けてきた計画が最終段階の時点で霧散した事実は到底受け止めきれないものだった。

 

頭の中が沸騰しているような怒りにジェラールは先ほどまで見せていた余裕も跡形もなく消えていた。

 

「おのれええええええぇぇぇぇ!! どこのどいつがあああぁぁああぁぁあ”あぁぁあ”!! くそがああぁぁぁぁ!!」

 

これまで見たこともないジェラールの怒りにエルザは本能的に恐れ、シモンをかばうように覆いかぶさった。

その怒りがいつまで続くかと分からない、そう思っていた時だった。

 

「先生!?」

「いつの間にー!?」

 

エルザとナツは音もなく表れた超越者の姿に目を見開いた。私は軽く挨拶して瀕死の見知らぬ大男の様子に注目する。今にも死にそうな彼に覆いかぶさるエルザをどける。

 

「この人、シモンは私の仲間です……ナツを庇ってこんなことに……」

「そうだよ! 何とかなんねえのかよ!?」

 

どうやら事態は結構深刻だったようだ。その証拠にシモンという青年の生命反応も弱まっている。

もちろん、私の気を少しずつ送って馴染ませながら治療していけば助かるだろう。

ただ、こんな事態を引き起こしたであろう目の前で怒りに震える顔面刺青の青年に対してため息を吐いた。

 

 

 

ジェラールはずっと恐れていた。その恐怖は十年以上も前から続いている。

自分がゼレフから神託を受けた後、彼はおぞましい何かに襲われた。

 

その時の記憶がないにも関わらず、体が覚えている恐怖に体を震わせてきた。

それ以来から体を鍛えると不安が和らぎ、精神が安定することを知った。それでも内なる恐怖から逃げることなく魔法を極め、聖十魔導師にも食い込んだ。全てはゼレフ復活のために。

 

それ故に、その野望を台無しにされた怒りは計り知れない。人生を全て否定されたような虚脱感と激情にかられたジェラールは怒り故に冷静さを失っていた。

 

突然現れたのは聖十の時に『超越者』の通り名で知っている孤児院の創始者だった。

曰く、超越者の怒りは天変地異そのものだと。

 

ジェラールはそれを与太話だと鼻で笑った。

 

前任の聖十魔導師は彼に喧嘩を売って勝負に負けた後、精神を病んだという話も聞けば聞くほど噂で誇張されたような信じられない内容だった。

 

そんな冗談みたいな存在の登場にジェラールは結論を急いで滅ぼすべき敵を見定めた。

 

「貴様かあああぁぁぁ!!」

 

 

流星<ミーティア>で瞬時に近づき、背後に回り込むんで魔力をこめる。

憎悪の表情を浮かべ、ナツとエルザでさえも反応が遅れるほどの速度で近づいた一撃を防ぐ者は誰もいない。

呑気にシモンを治そうとしているマヌケの頭を撃ち抜いてやろう。

 

「消えろ。クズが」

「しまっ……!」

「ジェラール!!」

 

手加減だとか遊びとかの以前にこの男の存在が気に入らない。

こいつを消してから再び計画を練り直そうとしていたジェラールは憎き男の後ろから頭部に全力の一撃を叩き付けようとした。

 

 

しかし、流星のごとき光の速度の世界の中でジェラールは強い衝撃に体を地面に叩き付けられた。

 

「ぐ……がはぁ……!!」

 

巨大な岩が生身の体に落ちてきたような衝撃、視覚外から予期していなかった威力の一撃にジェラールの意識が一瞬だけとんだ。

だが、鋼の精神で意識をつなぎ留め、自分の現状を見定める。

 

自分を抑えつけた物を見て驚愕した。自分を地べたに抑えつけていたのは件の超越者の手だった。

それだけでは驚愕し得ないだろうが、問題は超越者の佇まいそのものだった。

 

「まあ、そうなるな」

「そいつは俺が倒すんだああぁぁ!!」

 

エルザとナツはある程度予想できていたようで、それほど動揺している様子は見れなかった。

 

彼は腰を下ろし、シモンを左手で触診しながらもう片方の右手でジェラールの頭を押さえつけていた。

それも、ジェラールに視線すら動かさず、純粋な腕力だけで押さえつけていた。

まるで、もののついでと言わんばかりにぞんざいな扱い。とても戦っているときの佇まいとは思えない。

まるで押さえつけられた獣のような格好にジェラールの額に青筋が浮かんだ。

 

「嘗めるなあああああああ!!」

 

魔力と長年鍛えてきた筋肉を総動員して不遜にも押さえつけている手を押しのけようと力むが、その力は片手とは思えないほど重い。欠かさずに行ってきた筋トレを通じてもここまで重いものは知らない。

とはいえ、このまま終わるわけにはいかないと言わんばかりに体を震わせながらゆっくりと手を押しのけた体を起こしていく。

 

「くうおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

このまま完全に振り払い、今度こそ油断なく最大魔法で葬ってやろうと考えていた時だった。

自分の頭にのしかかる圧がけた違いに増し、上がっていた頭が勢いよく地面に叩き付けられた。

 

「が……は……っ!」

 

地面が陥没し、叩き付けられた頭を中心に床に亀裂が走った。

 

(なんだ、このバカげた力は……!)

 

命を削るかのように込めた力が呆気なく押さえつけられ、地べたに再び頭を垂れる。

その間にも片手間で行っていたシモンの手術も既に終わり、メスやら縫合道具が消えたり現れたりする光景にジェラールは彼をエルザと同じ系統の魔導師と当たりをつける。

 

そうしている内に、手が離れたと思いきや石ころのように投げ出された。

ぞんざいに投げられたジェラールが塔を破壊しながら壁に激突する傍らでシモンの治療が終わり、心臓が再び動いたのを感じた。

 

それでも呼吸が浅く、まだ危ういことには変わりない。帰って応急処置をした方がいいと思うが、恨めしそうに睨むジェラールを見て顎に手をやる。

睨んでけん制しているナツに向き合ってジェラールの相手をするように頼んでみる。

 

「おう! あんな奴余裕だぜ!」

「シモンを頼みます!」

 

二人は了承したため、シモンを肩に担いで塔から飛び降りる。

 

重力に従って急降下した行先は暗い海

 

シモンと自分の体を気でガードして海からの衝撃を緩和、ついでに体温ももっていかれないようにする。

水の感触を確かめて、蹴りだした。

 

瞬間、海で最も速い生き物と化し、一筋の泡だけを残してその場から消える。それを目で追える者はいない。

 

 

なるべく抵抗を受けない泳ぎ方で二時間泳ぎ続けた所で、陸地が見えた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設でシモンを治療し、見舞いに来てみると先客がいたので気配を消して窺ってみる。

 

「怪我の戻りも順調だな」

「あぁ、大分痛みも消えて歩けるようになった。予定では完治に一週間後らしい」

 

一週間の時が経ち、施設の救護室を訪ねたエルザとベッドに横たわるシモンは穏やかに話していた。

シモンが急患として運ばれた時の施設は多忙を極めた。エリックとソーヤーは白衣に身を包んで手術の手伝い、他の面子は入院準備に駆り出されていた。

 

医療の知識や手腕は『私』が持っていた。エリックは修行の甲斐あって雑菌のみを殺す毒を作ってもらい、ソーヤーは行動も迅速なため、こういったアシスタントとして重宝している。

 

 

「復帰したらここで働こうと思う。ここの主人には恩があるし、ここにいればカグラも見つけられるかもしれんしな」

「妹だったな……その方がいいかもしれん。どんなに離れても絆は消えないが、やはり別れは寂しいから少しほっとしてる」

「……ジェラールは?」

「見つかっていない。意識失った状態で塔もろとも海の中に消えたから探しようがない」

 

 

エルザもシモンもどこか寂しそうな表情を浮かべた。

ジェラールが変貌したと言っても昔の仲間だったのだ、思うところがあるのだろう。

 

結局、ジェラールはナツとエルザに倒され、破壊された塔と共に海に沈んだ。

思念体として評議員に潜み、エーテリオン投下へ誘導したこととウルティアの裏切りによって聖十魔導師の2角が落ち、面目丸つぶれだった。その責任をジェラールを捕まえることで払拭しようと必死なのが目に見えてわかる。

 

昔から評議員の茶々に嫌気がさしていた自分にとっては痛烈愉快な話だった。新聞片手に爆笑して酒を仰いだ姿で全員から白い目で見られたのを覚えている。

 

「ただ、ここにいる子供含めて主人たちはどうなってるんだ? 魔力だけでも明らかに聖十のジェラール以上のがウジャウジャといるんだが」

「特異体質とかで大きい魔力を内包し、暴走させて行き場を失った子供も引き取っているからな」

「夜の天井に手形や人型があったりするんだが……」

「この家の仕業らしい。色々とルールあるから絶対に聞いておけ。マクベスとリチャードがそれで一週間は遭難した」

「魔境かよぉ!!」

「ちなみに、この家で家具に負けたのが隣のベッドにいるガジルだ」

「余計なこと言うんじゃねえ!」

 

恩はあるし、待遇としてもかなり優良には違いない。しかし、職場と働く人間に色々と問題がありすぎる。

万年スタッフ不足ってそういうのが原因じゃないのか、問い詰めたいところだが、自分にえり好みできる立場ではないので心の中だけに秘める。

 

そして、目が覚めた時から何故か一緒の部屋で入院していたガジルとは少し交友関係ができていた。

 

「幽鬼の鬼No.1の魔導師を負かす家具ってなんなんだ……もうやっていける気がしないんだが」

「シモンは器用だから家具を壊したりしないだろう。なら問題はない。こいつは自業自得だ」

「わざとじゃねえつってんだろ! 皿洗いで間違って割っちまっただけだ! ていうか、あの家具はなんなんだよ、マスター・ジョゼよりもやばい気配してたぞ」

「えぇ……」

「考えたら負けということだ」

 

その時のことを思い出したのか戦慄した様子で冷や汗をかく。覚えがあるのかエルザも冷や汗を流していることから、かなりやばい話題と感じて何も言えなくなった。

 

少し空気が悪くなった医務室を出て再び研究へと戻る最中にエリックたちとすれ違う。

 

気配を消したままだと気付き、解除して地下の研究室へ向かう。

 

 

 

スタッフも増えて少し余裕もできた。また日記でも始めよう。

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