摩天楼と呼ぶべきビル群の隙間から覗く青空を見ても何も感じず、あの空は偽物なのだとしみじみ思う。あの日、初めて映像じゃない青空を見て、今も空を見上げるたびに感じる感動を今は感じなかった。
「悪魔になって困った事は最初の内は空を見上げるのがきつかった事だわ。私、空を見上げるのが本当に好きだから」
独白するように呟きながら対戦相手であるリアス・グレモリー達の方を向く。四人が四人とも空を見上げることなど叶わず、上からの力によって地面に押さえ付けられていた。継続的に彼女達を地面に押し込んでいる力の正体は重力。私の魔術による物よ。
「確か対戦前のインタビューで何と言っていたかしら? ”たとえ主力を除いたメンバーでも私達は全力で戦います。ハンデが必要だと判断した上の考えを消し飛ばして見せるわ”、だったわね。……足りなかったわね、ハンデ」
確かに生まれ持った魔力の量は素晴らしいわ。滅びの魔力なんて興味深い。でも、貴女はスペックだけなのよ、リアス・グレモリー。持ち前の威力に任せた力任せの一撃に過ぎないのよ。力があっても、それを効率的に運用しないと多くの力は無駄になる。腕力があればホームランが打てる訳じゃないのと同じでね。
私は地面に張り付いて起き上がれない相手を実際に見下し、呆れている事を表明するように肩を竦める。主力が居ないメンバーだなんて記者も節穴ね。
「目立つ功績がないから弱いと思った? 研究職だから現場での力がないとでも予測した? 甘い、甘いわ。私、これでもジェイル様の魔術の師匠で、眷属内ではゼっちゃんと同格なのよ?」
さてさて、此処で私が止めを刺してもジェイル君の評価には今一なのよね。だってワンマンチームとか評価されないし。とりあえず私一人で楽勝でしたよと示すために動けない彼女達の上空に魔力の刃を無数に出現させ、周囲を囲むビルを破壊する。崩壊するビル群が動けない彼女達に倒れ込み、続いて放った黒い重力球がそれらを全て引き寄せて四人の上には小さな欠片すら落とさない。
「……どういうつもりかしら?」
「あら、分からないの? 一方的な蹂躙じゃショーとして成り立たないでしょう」
私が解除したことで重力から解放された四人がふらつきながらも立ち上がる。戦車の駒の力で頑丈になった塔城小猫は足元が少しはマシだけど、貴方達少し紙装甲過ぎない? 特に女王は戦車の特性も持つのに情けないとしか思えない。
「じゃあ、皆。打合せ通りに……」
「私達を舐めた事、後悔させてあげるわっ!」
「ふふふ、お喰らいなさいっ!」
彼女達に有利なルールになるのは予想通り。こんな場合の動き方は事前に決めていたから私達に動揺はなく、向かって来る滅びの魔力と雷の魔力に対しアウラが動く。振り上げた鞭が威力は高めの魔力へと打ち付けられ、中級堕天使程度なら一撃で絶命するであろう威力の二つの魔力は跡形もなく霧散した。
「……うわー。格上相手の実戦で使ってみて改めて思ったけど、凄いね、これ」
「ええ、私の作品ですから」
アウラの鞭には仕掛けがある。とある超越者の死体を弄って力を解析した結果、彼本来の力ではなく魔力を無効化する力の開発に成功したの。欠点は発動時間は一瞬だからドンピシャのタイミングで当てなければならない事と、鞭の核に加工した心臓を使っているから量産は無理な事。素晴らしい物は一つで十分だから構わないのだけどね。
「じゃあ健闘を祈るわ、皆」
王と女王ご自慢の魔力を無効化されて固まっている四人に光り輝く半透明の球体を命中させると巨大化してして其々の体を包み込む。中から壊そうと拳や剣、魔力を使うけど罅一つ入らない。慌てる四人を後目に私が指を鳴らせば此方側のメンバーの体も光る球体が包み、もう一度鳴らせば私とアウラと球体に入ったままにリアス・グレモリー以外は消え去った。
「さてさて、皆の勝負が終わるまでのんびりしましょう」
「うん、そーだね」
歪んだ空間から椅子を取り出し、天に映し出した皆の様子に視線を向ける。誰が一番に終わらせるか楽しみね。
「このっ!」
驟雨の様に降り注ぐ雷撃の中、フランは立ち尽くす。けど、何も出来ないんじゃなくって何もしないだけ。彼女に微かにでも触れる前に雷は光の粒になって吸い込まれていく。実体のない攻撃を吸収する『ガルバニズム』は魔力重視って言うか魔力しかないタイプには天敵よね。シトリーの所は長刀使ってたし、天使や堕天使だって光の剣や槍を使った武術くらい習得してるのに……そんなに父親から受け継いだ力の片方が好きなのかしら?
私も両親から受け継いだ知能が自慢だし気持ちは分かるけどね。でも、遊び過ぎよ。詳しい情報のない、姫島家の出身である母親から受け継いだ術を警戒してるフランだけどもう動く頃ね。
「アウラ様、一応耳を……」
「うん。分かってる」
敵を知り己を知れば百戦危うからず、敵や自分達が何をどの程度出来るのか把握するのは当然のこと。連携する仲間の力の詳細を知らないとか有り得ないわ。
「ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥナアアアアアアアアアアアッ!!!」
フランの絶叫が映像だけではなく遠くからも聞こえてくる。遠くからのは安全だけど、映像のは少しは効果が有るから注意しないと駄目よね。実際、リアス・グレモリーは身を竦ませていた。
『虚ろなる生者の嘆き』と名付けられた叫び声に付随した能力の効果は敵味方を問わずに思考力を奪い、抵抗力の弱い者は呼吸困難すら引き起こす。一応私達は慣れてるけど、この何時果てるか分からない甲高い叫びには身を竦ませられるわ。
……事前に画面の向こうで観覧してる相手には効果がないようにしておいて正解だったと私が思う頃、ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返し魔力を使う余裕さえない姫島朱乃の脳天めがけ、蓄積した力を放出しながらメイスを振り下ろす。
「ウゥアアアアアアアアアアアアッ!!」
モードレッドの魔力放出の様に緑の雷を噴射しながらの一撃はターゲットを逃すことなく地面に叩き落とした。
『リアス・グレモリー様の『女王』一名リタイア』
「ウー!」
あっ、一転して嬉しそうな声で微笑んでいるわ。ジェイル君もあのギャップにメロメロなのよね。さて、次も終わりそうね。私は続いてアーシアの戦いに視線を向ける。本来後衛の僧侶である彼女だけど戦車相手に優位に立っていた。
「
拳を天高く掲げての叫びと同時にアーシアの両腕に手甲が出現する。この情報はまだ流していないから塔城が驚く中、アーシアは身体能力強化の魔術を発動した上で腰を落とし、弦を引き絞るかのように足に力を溜めていく。
「……行きます」
何かする気なら何かする前にアーシアを倒すとばかりに動き出したけど、小柄な体型だから戦車でも素早さはそれなり。でも、甘いわ。アーシアは僧侶の力で強化された魔術を使って身体能力を強化しているの。……貴女、中途半端なのよ。
頑丈な種族でもないから戦車の強化分程度の腕力や耐久力しかないし、体格が恵まれてないからリーチも短い。鱗も分厚い筋肉も無いなら防具を着込むべきよ? ゼっちゃん? あの子は肉体の質が規格外だから防具は要らないわ。
「鋭く行きますっ!」
溜めに溜めた力を解き放ち、自らを矢のように放ったアーシアの腕は正面の相手と同時に一直線に伸ばされる。
「うぐっ!」
でも、攻撃を与えたのはアーシアだけ。互いに小柄とはいえアーシアの方が僅かにリーチが有り、握り込んだ拳に対して放ったのは貫手。真っ直ぐ伸ばされた指の先は元々肉が薄い塔城小猫の鳩尾に吸い込まれる様に命中して苦悶の表情を浮かばせる。反対に彼女の拳はギリギリ届かなかった。
「激しく行きますっ!」
以前のアーシアなら相手を攻撃するなんて出来なかったでしょう。でも、それは結局仲間が傷つくのだと知り、時代劇で侍が真剣勝負に懸ける想いを知った今の彼女に容赦はない。大きな隙が生まれた小柄な体型に連打が撃ち込まれ、浮き上がった体を下から蹴り上げて高く浮かせる。顎に蹴りを食らったから脳が揺れて意識が一瞬飛んだ彼女の上に跳んだアーシアは空中で身を捻り、全開の癒やしの力を変換した破壊の力を注ぎ込んだ渾身の一撃を叩き込む。
「重く行きますっ!」
あの一撃はゼっちゃんに匹敵するわね。無防備な腹に叩き込まれた拳は矮躯をコンクリートが陥没する程の勢いで叩き落とす。本来ならここで追撃の魔力を放つべきだけど、根が優しいままのアーシアには無理だったようね。
『リアス・グレモリー様の『戦車』一名リタイア』
「残るのは彼だけね。どうなるかしら?」
転移前に渡された赤い切れ端を手で弄くりながら空を見上げる。今まさに亜種の禁手と亜種の禁手がぶつかり合おうとしていた……。
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女王なのに僧侶の役割しかできてない”じょおう”って身体居るよね