IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結) 作:神羅の霊廟
始まります。
イチカ「ククク……まずは二人、使い捨ての尖兵を手に入れたぜ」
目の前にいる二体のバグスターーーサラシキバグスターとノホトケバグスターを見ながら、イチカは社長室の椅子でふんぞり返る。
イチカ「さぁて、次はどいつを尖兵に仕立て上げてやろうか……ククク、この世界は俺への対抗手段が無くて助かるぜ、好き勝手出来るからなぁ」
机の上に並べられた複数の『NOISE SOLOMON』ガシャットを手に取りながら、イチカは次の襲撃の手立てを練る。
しかしこの時、イチカは気づいていなかった。そんな自分の野望が、ある誤算で脆くも崩れ始めていた事にーー。
「牙也が昨日から整備室に籠りっきりになってる?」
姉さんからそんな報告を聞いて、私は首を傾げた。今までそんな事しなかったのに、何故今になって……
束「うん……なんかキーボード一心不乱に叩いてて、声掛け辛い雰囲気だったよ」
「何か手立てを見つけたんでしょうか……?」
束「そうだと嬉しいんだけどねぇ……」
「ところで姉さん、ゼロの方はどうなの?」
束「さっき目を覚ましたよ、今ちーちゃん達が事情を聞いてる。見に行ってみる?」
「お願いします」
私は一先ずゼロの話を聞く為に、姉さんに連れられて取調室に向かった。
束「ちーちゃん、入るよ」コンコン
取調室に到着し、姉さんがドアをノックすると、「入れ」と中から千冬さんの声が聞こえてきた。まず姉さんが中に入り、後を追って私も中に入る。中にはドア側に千冬が座っていて、小型のテーブルを挟んで反対側にゼロが座っている。するとゼロは右手の親指と人差し指を立てて左右に回転させた。それを見た千冬さんは立ち上がり、私を見て「ここに座れ」と言わんばかりに目配せをする。不思議に思いながらも、私は渋々椅子に座ってゼロに向き直る。
「……怪我は大分治ったみたいだな」
ゼロ「ええ、お陰様でね。束ちゃんには感謝してるわ」
右手の指を曲げ伸ばししながらゼロが笑みを見せる。姉さんは不本意そうな顔をしているが、ゼロは気にしていない。
ゼロ「ところで聞くんだけどさぁ……あの織斑一夏そっくりな子、貴女達の差し金じゃないでしょうね?」
「……もしそうだとしたら?」
ゼロ「後で報復に来ようかしら」
千冬「勘弁して欲しいなそれは。だいいち私達はお前の拠点を知らない。とある会社を作って簑にしている事は知っているが、その会社の場所までは知らん、今までお前が秘匿しているからな。それにーー」
そこまで言って、千冬さんはまだ包帯が巻かれている私の左腕を掴んでゼロに見せた。
「痛い痛い!痛いですよ!」
千冬「……奴が私達の味方なら、ここまで奴に痛め付けられる理由などあるまい」
ゼロ「なるほどね……分かったわ、信じてあげる(ちっ、これを口実にして攻められるかと思ったけど)」チッ
一瞬舌打ちをしたように見えたが、見てないふりをする事にした。奴に不意討ちされた事を根に持っているのだろうな。
ゼロ「それで、どうするの?」
千冬「……何がだ?」
ゼロ「奴よ。どうせ倒さなきゃいけないんでしょ?だったら私が力を貸してあげても良いのよ?」
千冬「どうしてお前が私達に味方する?」
ゼロ「何故って?決まってるじゃないの、奴が私と貴女達共通の敵だからよ。生憎私はね、大事な会社を襲撃されて、大事な部下を沢山殺されて、それでも黙っているような弱虫じゃないのよ。貴女達は学園を守る為に奴を倒す、私は大事な居場所を取り戻す為に奴を倒す。形は違えど、利害は一致してるでしょ?」
束「簡単に言うけどさ、奴の怖さを分かって言ってんの?奴に倒されてここに漂着したんでしょうに」
ゼロ「うっ……痛い所突いてくるわね、流石束ちゃん。勿論分かってるわよ、痛い程にね。でも、それでもやるしかないのよ、私達は。対抗策が何も無いからって突っ立って倒されるのをじっと待ってるよりかはまだマシよ」
束「……ごもっとも。流石は元家族、思考回路がそっくりだね」
ゼロ「あらそう?やっぱり家族なのね……」
ゼロは感慨深そうに言うが、あえて気にしない。
ゼロ「それで、ご返答は?」
千冬「少し待て、学園長や牙也にも話してみなければ決められない。篠ノ之、牙也にこの話をして意見を聞いてきてくれ、私は学園長に意見を聞いてくる。束はしばらく話し相手にでもなってやれ」
束「は~い……」
姉さんは嫌そうな顔だが、渋々了承して私と交替で椅子に座り、私と千冬さんは取調室を出てそれぞれの行き先へと向かった。
整備室に着くと、なにやら中からブツブツと小さく声が聞こえる。何か悩んでいるのだろうか?やや大きめにドアをノックしたが、返答は返ってこない。そっとドアを開けて中に入ると、牙也はブツブツと何か言葉を繰り返しながらパソコンとにらめっこしていた。キーボードを叩くカタカタという音が部屋に響く。
「……」ソロー
牙也は私が入ってきた事に気づいてないようだったので、こっそり忍び足で近づき、
「……ほいっ」ツーッ
牙也「くぁwせdrftgyふじこlp----!?」
おお、なんか意味不明な叫び声が。
牙也「ぜえ、はあ……なんだ箒か。敵襲かと思った」
「集中し過ぎだ、肩の力を抜け。急ぎとは言えど、焦り過ぎてはどこかでミスをする。落ち着いてやれ」
牙也「ああ、分かってる。それで、何の用だ?」
「ああ……ゼロが、一時的な同盟を提案してきた」
牙也「受けてやれ」
「即答か。しかし良いのか?仮にも敵同士だぞ?」
牙也「今は敵味方どうこう言ってる暇なんか無い、少しでも味方になってくれる奴がいるなら積極的に組み入れろ。それに、あいつだって現状が理解出来ない程バカじゃない」
「なるほどな……しかし大丈夫なのか?奴の事だ、イチカを倒したら即刻牙也を殺そうとするだろう。それも承知の上でか?」
牙也「まあな、共通の敵がいなくなればその時点で同盟はチャラになる、その瞬間を逃す程あいつはお人好しじゃないし。けど、易々とはあいつの攻撃は受けんよ」
「そうか……何かあったら、すぐに連絡するからな」
そう言って私は整備室を出た。その時牙也が発した言葉は、私には聞こえていなかったが。
『クロト……お前の知恵と勇気と才能を、未熟な俺に分けてくれ。俺の目の前で、二度と惨劇を起こさせない為に』
千冬ちゃんと箒ちゃんが出ていって、取調室は私と束ちゃんだけになったわ。束ちゃんはムスッとして私を見てる。それが何て言うか可愛らしくて、私はニコニコと笑顔を返す。
束「……」
「……不本意そうね。まあ恩人が裏切っただなんて分かったら、嫌でも距離を置きたくなるのは分かるけど」
束「……なんであんな事をしたんですか?」
「あんな事って?」
束「……どうして牙君に、ヘルヘイムの果実の力を……!もっと他にも手立てはあった筈なんじゃ……!」
「……仕方なかったのよ。あの子を不治の病から救い出す為には、あの方法しか無かった。結果は知っての通りだけど」
束「牙君がそんな事望んでたと思ってんの!?貴女は一応牙君の母親なんでしょう!?母親なら、もっと別の方法くらい……」
「……たとえあの子があのまま死ぬ事を望んだとしても、私はその望みを叶える事は出来なかった、と思うわ」
束「どうして……!」
「あの子には、どうしても生きていてもらわなければいけなかったから……それが、あの人の願いだから……」
束「あの人?」
「あの子はいずれすぐに、あの子の誕生の真実を知る事になるわ。たとえどんなに残酷な真実であったとしても……あの子なら、乗り越えていける。私はそう信じてるから」
束「真実?真実って何よ!?」
「だから、それまで私は絶対に死なない。私の願いを、あの子が叶えてくれる事を信じてるから」
束「何がーー」
「私から言えるのはここまでよ。いずれ貴女達にも分かるわ、全ての真実が」
束ちゃんはまた聞きたそうにしているが、私が言えるのはここまで。束ちゃんがその後も色々聞いてきたけど、私は黙秘を貫いた。
(馬鹿な親でごめんね、牙也。貴方の知らない私達家族の秘密……私の心が霧に溶けて消え行く時、全ての真実は明かされるから……後は貴方次第よ、牙也)
すると再び取調室のドアが開いて、千冬ちゃんと箒ちゃんが戻ってきた。
千冬「戻ったぞ……って束、どうした?」
束「……なんでもない」ムスッ
ムスッとした顔がやっぱり可愛くて、私はまたクスッと笑ってしまった。
「それで、お二人の返答は?」
千冬「……全て牙也に一任せざるを得ない、との事だ。学園長はまた何も出来ない事を嘆いていたな……それで、牙也の方は?」
箒「『受け入れろ』と即答しました。今は少しでも戦力を増やしておくべきというのが牙也の考えです」
千冬「そうか……聞いての通りだ、ゼロ。一時的だが、同盟関係を結ぶ事にする」
「それなら良かったわ、それでなんだけど……念のため、私にも奴の情報をくれない?」
千冬「分かった、ただしこれは他言無用だ、それだけは頭に入れておけ」
「はいはい」
こうして奴ーーイチカの情報を得て、私は一旦地下牢に入れられた。内応を防ぐ為なのかしらねぇ……ま、そんな事死んでもごめんだけど。とは言え私のゲネシスドライバーとゴールデンエナジーロックシードは千冬ちゃん達が没収してたのが手元に戻ってきたし、これでいつでも動けるわね。あとは……牙也、貴方に全てが掛かってるわ。
次回もお楽しみに!