IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 始まります。




第81話 名・軍・師!!

 

 学園のグラウンド全体を覆う程の大爆発は、やがて真っ黒い煙が少しずつ消えるのと同時に収まっていった。グラウンドは地面が抉れ、木々や草花は薙ぎ倒され燃えカスと化し、校舎は辛うじて倒壊を免れたもののあちこちに皹が入っている。

 

 準也「ふぅ……」

 

 立ち上る黒い煙の外側、そこには地面に突き刺した大剣を壁代わりにして準也が寄り掛かっていた。黒いスーツは所々焼け焦げて穴が空いており、髪もいくらか燃えてしまっている。

 

 千冬「や……やった、のか……?」

 

 その後ろには、疲労で膝をついている箒達がいた。未だ上がる黒煙を見つめながら、千冬はそう聞く。

 

 準也「どうだか……手応えはあったけどね。あぁ煙い煙い」

 

 焦げ臭い匂いに渋い顔をしながら準也がそう答える。と、

 

 ヒヒィィィィィィン!!

 

 黒煙の向こう側から馬の嘶きが響き渡った。咄嗟に立ち上がり身構える箒達。そして黒煙の向こう側から、

 

 コウガネ『お、おのれぇぇぇぇぇ……!!よくもこの私に、傷を負わせてくれたなぁぁぁ……!!』

 

 コウガネがゆっくりと現れた。喉元の傷は多少残ってはいるが、既に半分程が塞がっている。

 

 準也「ちっ、大して効かなかったか……!良い一撃になったと思ったんだけどねぇ……っく」

 

 準也は大剣を構えようとしたが、突然の目眩に襲われる。咄嗟にザックが支えて倒れる事はなかったが、疲労困憊なのがよく分かる。

 

 ザック「お、おい!大丈夫か!?」

 準也「くっ……久々だから力加減を間違えたね、これは……まずいね、非常にまずい……」

 スコール「ザック、貴方は彼を連れて下がりなさい!ここは私達で抑えるわ!」

 ザック「済まねぇ……!おい、動けるか?」

 準也「大丈夫だ……!」

 

 準也はザックの肩に担がれて下がっていく。

 

 コウガネ『逃がすものか……!!』

 

 コウガネはまたも火球を放ってきた。放たれた火球は今までとは違い、着弾前に爆発して細かくなり、流星の如く降ってきた。箒達は必死に火球を払っていくが、続く戦いに疲労は最大にまで達していた。しかしそれでも箒達は戦う。必死に武器を振るって火球が校舎の方へと飛ばないようにしていく。しかし、

 

 箒「はぁ……はぁ……ぐっ!!」

 一夏「やばい、体が……!」

 

 遂に疲労困憊によって体は限界に達し、五発目の火球を対処したところで、全員が膝をついてしまう。

 

 コウガネ『フン、随分と長く抗ってくれたものだな。だがここまでよ……消えろッ!!』

 

 最早抵抗は不可能と判断したコウガネは、これまでの物とは比べ物にならない大きさの火球をいくつも形成した。それを見て箒は悟った、自分達もこれまでだという事をーー。

 

 箒「……ごめんなさい、姉さん。約束、守れそうにないや」

 

 そう呟いて、箒はそっと目を閉じたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつになっても火球が飛んでこない。箒が恐る恐る目を空けると、

 

 コウガネ『ゴ……アアアア……!?な、何故だ……何故、力が抜けていく……!?』

 

 コウガネが苦しんでいるのが分かった。巨体をうねらせてもがき苦しんでいるのが見てとれる。更にその巨体が、ボロボロと灰のように崩れ落ちつつあった。

 

 コウガネ『や、止めろ……!止めろ……!!これは私の力なのだぞ……!何故逃げていく……!?何故だ、何故止められぬのだ……!?私はーー私はァァァァ!!』

 

 もがき苦しむコウガネの体は、やがて完全に崩れ落ち、辺りはその残骸の成れの果てたる灰にまみれ、その中央には、元の姿に戻ったコウガネが倒れていた。そしてすぐにコウガネは目を覚まし、自らの姿に混乱を隠せずにいる。

 

 コウガネ「何故だ……何故力が……黄金の果実の力が消えたのだ……!?」

 準也「そうか……間に合ったか……」

 

 いつの間にか箒達の側に準也が戻ってきていた。早くも回復したのか、普通に歩いてきた。

 

 コウガネ「貴様……私に何をした!?」

 準也「何もしてないよ……俺はな」

 コウガネ「ほざくなッ!!」

 

 よろめきながらもなんとか立ち上がったコウガネは、自身の力を解放して、灰の中から新しい怪物を呼び出した。それはイナゴに似た外見の怪物であり、それが数百体も出現した。

 

 千冬「くっ……!あの馬が漸く消えてくれたと思ったところに……!」

 一夏「くっそぉ……でも、やるしかないんだろ……!?」

 箒「ああ……意地でもここは、私達で守りきる!!」

 

 箒達もふらつきながら立ち上がり、それぞれの武器を構え直す。

 

 コウガネ「やれっ!!」

 

 コウガネの号令により、数百体のイナゴ怪人は一斉に飛び掛かってきた。空を覆い尽くす程のイナゴ怪人が襲い掛かろうとしたその時、金色と漆黒が入り交じった波動のようなものが箒達の背後から発生し、全てのイナゴ怪人を跡形もなく消し飛ばしてしまった。

 

 準也「……来たか」

 コウガネ「な、なんだと……!?私の尖兵達が、一瞬で……馬鹿な、この力は……!?」

 

 コウガネは驚きながら、波動が飛んできた箒達の背後に注目する。箒達がつられて後ろを振り返ると、

 

 

 

 

 

 

 牙也「……間に合った、かな?」

 

 

 

 

 

 

 正面に広げた右手の掌に、あの金色と漆黒の波動を纏った牙也がそこにいた。しかし牙也の姿は、今までとは多少だが異なっていた。着ているのは普段通りの黒袴。しかし今までと違うのは、その上から黒と紫に彩られた軽装の鎧と、肩から踵までを覆う程の大きさの黒いマントに身を包み、髪は茶色の長髪となって箒と同じようにポニーテールに纏められている。またその目は右目が漆黒に、左目が金色に輝き、右目からは真っ黒な瘴気が火の粉のように出てきている。牙也は右手を下ろすと、箒達に向き直った。

 

 箒「牙也……なのか?その、姿は……?」

 千冬「何が……起きたのだ?今のは一体……?」

 

 箒達の疑問を他所に、準也は牙也に歩み寄る。すっかり様変わりした姿の牙也に、準也は手を差し伸べる。

 

 準也「やっと……やっと、念願叶ったか」

 

 感極まったのか、思わず目を伏せた準也のその目は涙に濡れていた。牙也はそんな準也の肩を軽く叩き、ニカッと笑って見せる。そしてマントをはためかせながら前に進み出て、箒達を守るように立つ。そして状況を理解できずにいるコウガネを一瞥しながら言った。

 

 牙也「よぅ。てめぇが欲しがった力を、全部奪い返された気分はどうだ?」

 コウガネ「貴様……やはり貴様が……!!何故だ……何故貴様がここにいる!?貴様の全ては、私に吸収されて消滅した筈だ!!」

 牙也「はぁ?思い違いも大概にしろよ。誰がてめぇなんぞの力になるかよ」

 準也「フッ……やはり予想通り、最後まで気が付かなかったか。所詮はその程度だった、という事だな」

 

 準也もまたコウガネを一瞥し、牙也の肩に手を置いて尋ねる。

 

 準也「束ちゃん達はどうした?」

 牙也「そろそろ来るよ」

 

 そう答えて牙也が後ろを向くと、紅椿を纏った束を先頭に、学園の代表達が次々と合流してきた。

 

 束「皆大丈夫!?」

 千冬「束!それに楯無達も……!これは一体、何があったというのだ……?」

 束「う、うん……牙君達の治療をしてたら、突然牙君の体が金色に光って、他の皆を包み込んでいったの。そしたら皆の怪我が一瞬で治って……もう何が何だか私にも分かんないよ……」

 セシリア「敵に倒された後の記憶がはっきりしませんの……何があったのかしら……?」

 鈴「何て言うんだろ、体が暖かい光に包まれるような感覚があったわね……」

 簪「暖かくて……気持ちよくて……凄い心地よかった……」

 

 束達は突然起こった出来事に大きく混乱している。そして準也に気づくと、駆け寄って尋ねた。

 

 束「準也さん……!一体これってどういう事なの……!?牙君って何者なの……!?答えてよ!!」

 

 束は準也に掴み掛かってそう尋ねる。すると準也は悲しそうな表情になりながら答えた。

 

 準也「そうだな……もう種明かししても良い時かな。皆に全部教えてあげるよ……私のーー私達の全てを」

 

 そう前置きして、準也は話し始めた。コウガネの正体と目的、牙也の正体、そして準也本人の正体を。そして今までの出来事は全て、準也の手の内にあったという事を。

 

 束「そ、そんな……!準也さんが、オーバーロードだなんて……!」

 シャルロット「しかも、牙也さんが……黄金の果実そのものだったなんて……」

 準也「私達の問題に君達を巻き込んでしまった事は、今ここでお詫びする、すまなかった。が、そうするより他に無かった。私が気づいた時、既にコウガネはこの世界に根深く浸透していた。だからこそ、奴を今ここに引きずりだす為に、皆を巻き込む必要があったのだ……」

 

 準也はそこまで言って目を伏せる。信じられない事実に、束も千冬も他の皆も驚きを隠せない。

 

 準也「が……牙也はその事実を嘆く事も、僕に怒りをぶつける事もしなかった。ただただ何を言うまでもなく、その事実を受け止めていた……その時私は気づいたんだ。あぁ、私はこんな真実を、これからずっと牙也に背負わせてしまうのだとな……」

 牙也「別に背負う程の物でもないさ」

 

 準也の言葉に牙也が反応を返す。その表情は先程と同じく満面な笑みであった。

 

 牙也「むしろ俺は父さん……あんたに感謝してる。あんたに作られて、人間の世界の中で少しの間だけだが育てられ、人間のなんたるかを知れた。それにーー」

 

 牙也は箒と簪を見つめながらこう言った。

 

 

 

 

 牙也「何より、これから俺の一生を掛けて愛する人達に出会えたからね」

 

 

 

 

 その言葉に、箒と簪は一瞬にして顔を赤くした。牙也は「へへっ」と笑うと、改めてコウガネに向き直る。が、コウガネのその表情は余裕を見せていた。

 

 コウガネ「フン、黄金の果実の力を取り返したところで、私には勝てんよ。何故なら……私こそが、本物の黄金の果実だからだッ!!」

 

 コウガネはそう叫ぶと、自身の体から小さな種を取り出して、それを今まで放置されていた春輝の体へと埋め込んだ。すると、

 

 春輝?「アァァァァァァァァ……!!」

 

 死んだ筈の春輝が奇妙な声を上げながら起き上がってきた。そしてコウガネを守るように立ち塞がる。更にその体がボコボコと音を立てて変質し始めた。やがて春輝の体は原型を無くし、それはさっき箒達と激戦を繰り広げたオーバーロードーーデェムシュの姿となる。偽デェムシュは剣を構えて攻撃の姿勢を取る。

 

 牙也「違うな。お前は黄金の果実なんかじゃない。ただの金メッキーーいや、その金メッキさえも偽物の存在。つまり何の変哲もない、ただの模造品なんだよッ!!」

 

 それをまた一瞥し、牙也は戦極ドライバーを腰に付けてロックシードを解錠した。

 

 《ゼロ》

 

 《ロック・オン》

 

 牙也「変身ッ!!」

 

 《ソイヤッ!ゼロアームズ!夢・幻・無・双!!》

 

 牙也は『仮面ライダー零 ゼロアームズ』に変身して偽デェムシュに殴りかかった。偽デェムシュもそれにパンチで答える。そして二人のパンチが交差する。

 

 偽デェムシュ『グオッ!オ、オノレッ!』

 

 牙也のパンチを受けた偽デェムシュは、右手に炎を出現させて牙也に投げ付けた。炎は爆発して、牙也の全身を包み込む。

 

 箒「牙也!」

 

 と、箒の叫びに呼応したかのように、炎はいつの間にか牙也の右手にあった鍵型のロックシードへと収束していく。

 

 コウガネ「そ、そのロックシードは……!?」

 準也「フッ……お前が織斑春輝に命じて茜から盗ませたお陰で、漸く完成したロックシード……牙也達を次代へと導きーー世界をも塗り替えるロックシードだッ!!」

 

 牙也に代わって準也がそう言い、牙也はそのロックシードを遂に解錠した。

 

 

 

 

 

 《フルーツアイランド!》

 

 

 

 

 

 その音声と共に、牙也の頭上には複数のクラックが開き、そこから今まで牙也達が使用した全てのアーマーが現れた。そしてアーマーは次々と偽デェムシュへと突撃し、牙也から強制的に距離を取らせる。

 一方牙也の戦極ドライバーには、フェイスプレートが消滅して新たに鍵穴のようなものが現れた。牙也はコウガネに向き直り、その鍵型のロックシードを鍵穴に差し込んで捻った。

 

 

 

 

 

 

 《ロック・オープン!》

 

 

 

 

 《絆アームズ!名・名・名・名・名軍師!!》

 

 

 

 

 

 

 出現した全てのアーマーが牙也の回りに集まり、そして牙也と融合する。ゼロアームズの鎧は弾け飛び、中から現れたのは、先程まで牙也が着ていたあの黒袴と軽装の鎧、それに『絆』の文字が意匠として施された兜だ。マントをはためかせ、牙也はコウガネ達を指差しながら叫ぶ。

 

 

 

 

 

 牙也「俺の謀略で……俺は、仲間を勝利へと導く架け橋となる!!」

 

 

 

 

 

 





 やっと出せたよ、零の最強アームズ……鎧武が大将軍なら、こちらは名軍師と来ました。

 次回、牙也の謀略が次々と解き放たれるーー!


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