IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結) 作:神羅の霊廟
ーーーーーーーーーーーーや
ーーーーーーーーーーばや
ーーーーーーーー牙也
箒「起きろ牙也!朝ごはんが出来たぞ!」ベシッ
牙也「いてっ!?」
頭を思い切りシバかれ、意識が強制的に覚醒する。強烈な痛みにドヒュンッという擬音が聞こえそうな勢いで牙也は飛び起きた。
箒「それにしても珍しいな。お前がこんな遅くに起きるなど」
牙也「そうだなぁ……ふぁぁ」
寝ている間にボサボサになった髪を掻き、牙也はふと箒に目をやる。そして無意識にその美しい白髪に手を伸ばして優しく触れた。
箒「……どうした?まだ寝惚けてるのか?」
牙也「違ぇよ。なんか……懐かしい夢を見たもんでな」
箒「なるほど」
箒はそれだけで瞬時に理解し、「ほら早くしろ、朝ごはんが冷めてしまう」と牙也を急かした。牙也はクラックを開いて中から着替えを取り出すと、ささっと着替えて身嗜みを整えた。そして部屋を出て向かったのはーー
箒「来たか。皆大人しく待っていたぞ」
巨大で武骨な石造りのテーブルが置かれた広いスペースだった。そこは天然の洞窟にいくらか手を加えて作られたリビングのような場所であり、テーブルの周りには大勢のインベスが鎮座し、目の前に置かれたヘルヘイムの果実の山を見てジュルジュルと涎を垂らしている。
牙也「行儀悪いぞ、お前ら。落ち着いて待てねぇのかよ……?」
箒「仕方ないだろ、お前の号令無ければ食べられないのだからな」
そう言いながら、奥に設計されたキッチンから二人分の朝ごはんを持って箒がやって来た。そしてそれらを牙也と自身が座る席の前に並べる。炊きたての白米に豆腐とワカメ入り味噌汁、鮭の塩焼き、ホウレン草のお浸し、沢庵といったラインナップである。
牙也「今日も旨そうでなにより」
箒「『旨そう』ではない、『旨い』のだ。忘れるな」
箒はそう言って牙也から見て左側の席に座る。牙也も倣って着席した。彼の背後には、巨大な玉座が存在感を示すように鎮座している。
牙也「そんじゃ、いただきます」
箒「いただきます」
牙也の号令と共に、インベスは皆一様に牙也の真似をして手を合わせた。そして合わせ終えると我先にとヘルヘイムの果実に飛び付いていった。
牙也「お前ら落ち着いて食え、喧嘩すんなよ。数はまだあるんだからな」
そう言いながら牙也は自身に用意された朝ごはんに手をつけていく。箒もまた自身が作った朝ごはんに手をつける。
箒「うん、旨い。今日もよく出来たな」
牙也「あぁ、全くだ。にしても、オーバーロードになっても普通に人間の食事ができるなんて、どういう訳なんだろうな」
箒「さぁな。お前が分からんのに私が答えられる訳がないだろう」
本来オーバーロードに覚醒すると、段々と人間の食べ物が食べられなくなり、最終的にはヘルヘイムの果実しか受け付けなくなってしまうのだが、この二人は未だ普通に人間と同じように食事が出来ている。本人にもその理由は分からなかった。
牙也「……そういや、何年だっけ?皆と別れてから」
箒「……もうそろそろ200年になる筈だ。時が経つのは早いものだ」
そんな他愛ない話をしながら、牙也は朝ごはんに舌鼓を打つ。
さて、あれから牙也達の世界がどうなったか、簡潔に説明していこう。
牙也達がいた世界は常磐ソウゴーー仮面ライダージオウの協力もあって崩壊を免れ、元の喧騒を取り戻した。しかしソウゴや士、海東が去った後も、牙也達は引き続き事態収拾に奔走していた。突然世界が元に戻った事による反動を落ち着かせる為だ。アナザー零の出現により世界の様相は大きく様変わりしており、それを落ち着かせるには流石の牙也達であっても数年の月日を要した。
そしてそれがある程度目処が立つと、牙也は箒と共にヘルヘイムの森で修行に入った。牙也は自身に内包されたオーバーロードの力を完全に己の物とする為、箒はアナザー零及び仮面ライダーサタンとの戦いで突如目覚めたオーバーロードの力を、ある程度理解し使いこなす為。それぞれの目的の下、二人は思い思いに修行を重ねた。その間、二人には新たな出会いがいくつかあった事を記しておく。
そうして修行を重ねる事更に数年、牙也は完全にオーバーロードの力を己の物とし、箒もまた牙也に勝るとも劣らないレベルでオーバーロードの力を使いこなせるようになった。更にヘルヘイムの森で修行を続けた事が幸いしたのか、はたまたオーバーロードインベスと知っての事か、牙也達は森にいたインベス達にすっかりなつかれ、今では数多のインベス達を統率する立場となっている。
そうして修行を重ねつつ、裏で牙也は単身でヘルヘイムの森を調査し、植物の性質や特徴等をレポートにまとめていた。そこで牙也は遂に、自身のいた世界とヘルヘイムの森がくっつく原因となったクラックを発見する事が出来た。これを発見した後、牙也はこの世界とヘルヘイムの森の分離を目的として、様々な研究を行った。このままヘルヘイムの森がくっついている状態をほっとく訳にはいかない。いずれは完全に分離し、ヘルヘイムの脅威を取り除かなければ。たとえその結果、自身と自身の大事な仲間や家族を引き剥がす事になろうともーーそれが牙也の願いであり、決意でもあった。牙也はヘルヘイムを統率する者として、本格的に動き始めたのだ。
がこれには当然、束をはじめとして牙也と長く面識のあった者達から反対の声が上がった。ヘルヘイムの森との分離は、彼女達からすれば牙也との永遠の別れを意味するものであったからだ。まだ共にいたい、最後まで一緒にいたいーーが、牙也の決意は揺らぐ事は無かった。
牙也「皆の気持ちは痛い程良く分かる。けど、皆も知ってる通り、ヘルヘイムの森はこの世界をまだ侵食し続けてる。そしていずれは、この世界を呑み込んで滅ぼしてしまうだろう。俺は……俺が生まれたこの世界を、ヘルヘイムの二の舞にはしたくない。もう、あんな地獄を見たくないんだよ。分かってくれ」
牙也、そして牙也と共に行く決意を最初からしていた箒の説得が決定的となり、束達は遂に折れ、その計画を了承した。勿論『たまにはこの世界に戻ってきて、自分達と色々な話をする事』という交換条件もちゃっかり出して。
こうして計画は牙也と束を筆頭に推し進められ、苦節数十年、ようやく二つの世界を切り離す事に成功した。そして牙也と箒は多くのインベスと共に、家族や仲間に惜しまれながら生まれ故郷を去ったのであった。
そして現在に至る。
牙也「もう200年か……長いようで短いようで……」
箒「とにかく色々あったな、この200年。あの戦いを知るのは、もはや私達だけとなった」
牙也「そうだな、俺達だけだ。が……物語はまだ終わってない」
箒「覚えてくれる人がいる限り、か」
牙也「あぁ」
昔を懐かしみながら、二人は引き続き朝ごはんを食べる。
牙也「忘れられない限り、物語に終わりはない。そういう事だ……こらお前ら!食べ終わったんなら食器くらい片付けていけ!」
食べ終わって食器も片さずさっさと逃げようとするインベス達を注意する牙也。これも日常風景となっていた。インベス達も牙也の言う事は聞くのか、自分達の使った食器を洗って片付けていく。
箒(……随分馴染んだな。お前も、私も)
その様子を見ながら、箒はほっこりとした表情を見せる。
??「お食事中のところ失礼致します」
と、牙也達の近くに一体のインベスが近寄ってきた。そのインベスは見た目こそシカインベスに似ていたが、その体は漆黒に包まれ、枯れ草色の外套を羽織り、腰に剣を差していた。
牙也「エフィンムか。今のタイミングで来るあたり、また面倒事でも起きたか?」
エフィンム「はっ。それ故急ぎ神王様と王妃様のご判断をいただきたく参りました」
牙也「なるほど。で、その面倒事は何だ?」
エフィンム「はい、少々お耳を拝借」
二人が耳を近づけると、エフィンムと呼ばれたそのインベスは二人にゴニョゴニョと耳打ちした。と、二人の表情は真剣なものになった。
箒「牙也」
牙也「あぁ。エフィンム、ひとまずその周辺を封鎖しろ。誰一人として近づけさせるな。それと、それの調査は俺と箒で行う」
エフィンム「神王様と王妃様自らですか……!?お待ち下さい、それは危険です!ご希望でしたら私が一軍を連れてーー」
箒「馬鹿者、それこそ危険だ。もしお前が一軍を連れて行った先で非戦闘員と出会えば何が予想される?」
エフィンム「し、しかし……」
牙也「必要になればお前達を呼ぶ。それまではお前は皆と共にここをよく守れ。これは命令だ」
エフィンム「……はっ。それが命令とあらば従いましょう。では失礼致します」
エフィンムは納得いかない表情だったが、『命令』と言われた事で大人しくなり、命令遂行の為戻っていった。
箒「……やはりまた、か。切り離す方法があるとはいえ、難儀なものだ」
牙也「それが宿命だ、俺達がどうこう出来るもんじゃない。けどそれでも……被害を最小限に抑える為の対策は立てられる」
牙也はそう言うと残っていた朝ごはんを一気に掻き込んだ。箒も急いで朝ごはんを食べきる。
牙也「さ、片付けたら行くぞ。エフィンムが暴走しないか心配だ」
箒「真面目なのは良いが、それが過ぎてやり過ぎる事が多々あるのがな……」
牙也「だが忠臣である事は事実。あいつがいるからこそ、俺達は安心して調査が出来るんだ」
箒「違いないな」
二人は笑い合い、朝ごはんの食器を仲良く片付けるのであった。
エフィンム「……おぉ、お待ちしておりました」
二人がその場所に到着した時、既に周辺はエフィンムと中級インベスの一軍によって完全に封鎖されていた。封鎖を担当していたライオンインベスに案内され、二人はエフィンムの元へ来た。
牙也「ご苦労様。で、これか?」
エフィンム「左様でございます。今までにない大きさでした故に、指示を得なければならぬと思い……」
箒「なるほど、エフィンムが慌てるのも納得だな」
二人の目線の先にあったのは、今まで見た物とは比べ物にならないほど巨大なクラックであった。その大きさはヘルヘイムの大木ほどの大きさと太さがあった。その内部は真っ黒く覆われ、全容は見えない。
エフィンム「しかし……本当にお行きになるので?」
箒「くどいぞ、エフィンム。牙也の性格は、お前もよく理解している筈だ」
エフィンム「はい、それはもう……故に心配なのです」
牙也「エフィンム。未知の場所で生き残る為に大切な事がある。何だと思う?」
唐突に牙也はエフィンムにそう問い掛けた。
エフィンム「は?はて……そのような物があるのですか?」
牙也「俺はな、『こちらから敵意を見せない事』だと思ってる。会っていきなり敵意を向けられて、『さぁ話し合いしましょう』って言われて、信じられると思うか?」
エフィンム「それは無理があります」
牙也「だろ?お前が行くのを止めたのも、そこにある。お前の格好見てみろ。剥き出し状態の剣に、明らかに姿が異形のそれ。敵意向けられてもおかしくねぇぞ」
エフィンム「な、なるほど……それを見越してのあの命令でしたか」
箒「まぁあくまでこれは『話が通じれば』の話だがな。通じなければまた別の手段を取るまで。そうだろ、牙也?」
牙也「あぁ。エフィンム、お前のその忠義は俺達も認めてる。が、時にその忠義が仇となってしまう時ってのもあるんだ。そこのところ、よく覚えておけ」
エフィンム「はっ。このエフィンム、深く肝に命じます」
牙也「それにな。エフィンム、お前がいるからこそ、俺達は安心して調査に向かう事が出来るんだ。お前のその忠義は、信じられる物だからな」
箒「うむ、その通りだ。お前の実力は私と牙也のお墨付きだ、胸を張れ」
エフィンム「神王様、王妃様……分かりました、このエフィンム、必ずやこのヘルヘイムの森を守り抜いてみせましょう!」
牙也「うん、その意気だ。それじゃあエフィンム、俺達が戻るまで、ここの統治はお前に任せる。頼むぞ」
エフィンム「ははっ!」
エフィンムは綺麗な敬礼で答える。二人は揃って「うむ」と頷くと、改めてクラックの前に立った。
箒「この先、どんな世界があるのだろうな」
牙也「さぁな。けどワクワクするぜ」
箒「私もだ。まぁ本音を言うと、お前と一緒なら何処であってもワクワクするというものだ」
牙也「そりゃ嬉しいな」
牙也はそう言って箒にその右手を差し出す。箒もまたその右手を左手でとり、ニコッと笑みを浮かべた。
牙也「それじゃ、行ってくるぜ!」
箒「皆、しっかりやるのだぞ!」
エフィンム「行ってらっしゃいませ!」
牙也と箒は、二人揃ってクラックへ飛び込んだーー。
物語は、時に思わぬ形で続いていく事もある。この二人の物語もまた、我々の知らぬ形でこれからも続いていくのだろうーー。
Fin
はい、という訳で長きにわたって投稿してきた『紫の世捨て人』も、これにて完結となります。読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
今後もちょくちょくではありますが、様々な作品を投稿できたらな、と思います。
それではまたお会いしましょうーー。