IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 福音編はこれで完結。シリアス感大丈夫だよな……?




第38話 血二溺レ、消エル希望(後編)

 

 旅館の大広間。外はすっかり暗くなりいくつか星が煌めく中、大広間の中央に置かれた椅子に、春輝が手足を縛られた状態で座らされている。その周りには、専用機持ちや教員達も集められた。

 春輝「おいおい、僕をこんな風に拘束して何をしようって言うのさ?」

 シュラ「それは……貴様自身が一番理解している事ではないのか?」

 ザックをヒガンバライナーに乗せ、千冬達より先に帰還したシュラが春輝に鋭い眼差しを向けて言った。ちなみにザックは現在、別室で治療を受けている。

 春輝「僕が?何を馬鹿な事を……僕はあいつが戦っていた場所から離れた小島で保護されたんだぜ?何が出来るって言うんだよ?」

 シュラ「ふん、今さら惚けても無駄だ……その場に居合わせた者が別室にいる。我は其奴の証言が正しい事を既に確認済みだ」

 束「終わったよ」

 そこへ束が待機状態の白式を抱えて大広間に入ってきた。その顔は誰から見ても分かるぐらいに悲しい目をしていた。

 シュラ「ご苦労。結果は……その顔から察するに、「当たり」だったようだな」

 束「うん……」

 束は今にも泣きそうな顔であった。

 

 千冬「今戻った……」

 そこへさらに、千冬達も戻ってきた。千冬の顔もまた、束と同じくらい悲しい目をしていた。

 シュラ「……聞くだけ野暮かもしれんが、一応聞かせてもらおう。牙也は、見つかったか……?」

 

 

 

 

 

 千冬「……皆、すまない……牙也を見つけ出す事は、出来なかった……」

 

 

 

 

 千冬は目に涙を浮かべながら頭を下げて答えた。

 千冬「それと、捜索メンバーに養護教諭がいたから、あのフィールドに残っていた血を簡単に調べてもらった結果ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー出血量から鑑みるに、牙也の生存確率は限りなく0に近い事が分かった……こんな事は言いたくないが……牙也は、既にーー」

 

 

 

 シュラ「それ以上は言うな、織斑千冬。皆察したのだろう……」

 そこでシュラが手で千冬の言葉を制す。

 見ると、ほとんどの人が涙を流して悲しんでいた。特に交流のあった専用機持ちの内、鈴は崩れ落ちるように膝をついて涙して一夏に抱き締められ、セシリアとシャルロット、簪も同じく崩れ落ちるように膝をついて涙していた。ラウラは報告を聞いて自身の涙を隠すように顔を背けた。この報告を聞いて涙を流さない者は、春輝を除いては他にいなかった。

 千冬「シュラは、何か情報を見つけたのか……?」

 シュラ「ああ……それと福音も回収した。今その情報源は治療中だから後で問い詰めよう、それよりもーー」

 シュラは福音の待機状態であるネックレスを千冬に渡すと、春輝に目を向けた。

 シュラ「貴様は分かっているか……?貴様の愚行が原因で、牙也という大きな戦力、そして仲間を失った事を……」

 春輝「ふん、戦力が減ったのならその都度投入すれば良いだけの話だろうに」

 シュラはそれを聞いて頭を抱えた。いや、抱えずにはいられなかった。

 シュラ「やはり貴様は大馬鹿者のようだな……我は以前こう言った事を忘れたか?『戦極ドライバーは我一人で作っている』と」

 春輝「それがどうかしたのかい?」

 千冬「大馬鹿者め……つまり『量産が出来ないから、戦力逐次投入は不可能』という事だろう?」

 シュラ「そうだ。故に、アーマードライダー一人の喪失はIS使い数百人にも匹敵するほどに大きな損失だという事だ。易々と投入などとは出来んのだよ、自称天才」

 春輝「ぐっ……」

 シュラの威圧に押され、口ごもる春輝。

 一夏「ところで束さんは、白式取り上げて何調べてたのさ?中身見て随分七面相してたけど……」

 束「ああ、シュラ君に頼まれてね……シュラ君の予想通り、とんでもない物が出てきたよ……」

 そう言って束は再び悲しい顔を見せた。

 鈴「何が出てきたんですか?」

 束は口を噛みしめながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「戦極ドライバーとブルーベリーロックシード……しかも、ドライバーはこいつ専用に作られた物で、ロックシードは牙君が使ってた物だった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「な……!?何故春輝が戦極ドライバーを持っているのだ!?」

 ラウラ「そう言えば、牙也の出撃前にシュラが言っていたな、拠点に誰かが侵入した、と」

 シャルロット「まさかその犯人が彼で、シュラさんでも気づかないようにドライバーを……!?」

 シュラ「いや、違う」

 シャルロットの意見をシュラは否定した。

 シュラ「拠点からは何も盗まれなかった。いや、盗まなかったと言うべきか……」

 簪「どういう、事なんですか……?」

 シュラ「こいつはドライバーを盗む為に侵入したのではない……ドライバーの設計図が目的で侵入したのだ」

 束「設計図……?まさかこいつは……!?」

 シュラ「ああ……我等に隠れて、自分専用の戦極ドライバーを作っていたのだ……!」

 千冬「そして、完成した物をこっそり白式に入れていた、という事か……」

 春輝「ぐ、偶然だ!そんなの、証拠も何もーー」

 シュラ「少し前に拠点に戻って設計図を調べたら、貴様の指紋が見つかった。言い逃れは不可能だ」

 春輝「で、でもだからって僕がそれを使ったのを見た奴がいるってのか!?」

 シュラ「いるさ、一人だけな。入ってこい」

 シュラが襖に向かって声を掛けると、

 

 

 

 

 

 

 

 ガラッ

 

 ザック「治療してくれてありがとな。お陰でだいぶ楽になったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな音を立てながら、ザックが入ってきた。

 春輝「!?」

 鈴「シュラ、こいつ誰よ?」

 シュラ「実際にその場にいて、牙也と戦っていた者だ。重要な証拠を握っていたから、治療も兼ねてここに連れてきた」

 ザック「ザック・ヴァルフレアだ。そいつの所業を、俺はこの目で全部見たぜ。おいシュラ、なんならここで全部話そうか?」

 シュラ「いや、今話す必要は無い。明日学園に貴様を連行する、それまでちゃんと生きていてくれればそれで良い」

 ザック「そうかよ……」

 シュラ「さて……織斑春輝。貴様さっきこいつを見て顔色が変わったな。こいつに覚えがあると見えるが」

 春輝「し、知らない!こんな奴知らない!」

 ザック「ったく、今さら否定しても遅いんだよ。ギリアの奴が、あの時の会話を全部録音してたからな」

 そう言ってザックはズボンのポケットからボイスレコーダーを取り出して全員に見せた。

 春輝「そ、そんなの見せかけの証拠だろう!皆はこんな奴の事を信用する気なのかい!?紫野の奴に負けて、自暴自棄になるような奴に!」

 

 

 

 

 

 ザック「おっと、皆。今のこいつの言葉、聞こえたよな?」

 

 

 

 

 すると、ザックが春輝を指差して全員に問いかけた。突然の問いかけに戸惑いつつも、全員がぎこちなくだが頷いた。

 ザック「お前、墓穴掘りやがったな。馬鹿な奴だ……」

 春輝「どういう意味だ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザック「俺はあいつとのーー牙也との戦いの結果を、『誰にも』話してないんだぜ?にも関わらず、なんでお前は……お前だけは、俺が牙也に負けた事を知ってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「っ!?」ギクッ

 春輝は「しまった」というような顔をしたが、既に遅し。

 シュラ「どうやら決まりだな……出来る事なら貴様の首をこの手ではねたいと思っていたが……轡木、どうする?」

 すると、スクリーンに轡木とその妻と思われる女性の姿が映った。

 轡木『シュラ君の気持ちは分からないでもないよ。でも、今回の事は我々に一任してくれないか?勿論、君達の証言をしっかり聞いた上でね』

 轡木は静かな口調でそう言うが、その目には明らかに怒りの炎が灯っていた。

 千冬「申し訳ありません、学園長……私の指導が行き届かなかったばかりに……」ペコリ

 轡木『顔を上げて下さい、織斑先生。今回の件で、私は皆さんを責めるつもりはありません。ただしかるべき対応をして、彼には相応の罰を受けてもらおうと考えています。シュラ君はそれで良いかな?』

 シュラ「無論だ。むしろ我としては轡木の言う『相応』以上の罰を与えてほしいとは思っているがな……」

 轡木『善処するよ』

 

 

 

 

 ガラッ

 

 すると突然襖が開いた。全員が襖に注目するとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「シュラ…………今の話は、全て本当なのか……?」

 

 箒がふらつきながら入ってきた。

 鈴「ちょ、箒!?あんた寝てなきゃ駄目よ!」

 セシリア「そうですわ!でないと傷が……!」

 箒「シュラ、答えてくれ……!今の話は全部、事実なのか……!?」

 箒はシュラに掴み掛かって聞く。

 シュラ「…………っ」

 が、シュラは辛そうな表情をして顔を背けた。それで察したのか、箒は膝から崩れ落ちる。絶望したような表情であった箒は、やがてゆっくりとその目線を春輝に向けた。そしてゆっくりと立ち上がって春輝に一歩一歩近寄る。春輝は逃げようとするが、縛られている為に身動きが取れない。やがて箒は春輝の正面に立ち、春輝を睨み付けた。

 箒「…………」

 春輝「な、なんだよその目は……!?僕じゃない、あいつがーー紫野の奴が悪いんだ!」

 箒「……えせ」

 春輝「え?」

 箒「……返せ」

 箒が春輝を睨みながらボソリと呟く。そしてゆっくりと近付きーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「……返せ。牙也を…………牙也を返せっ!!」ゴッ

 

 春輝「ふがっ!?」

 

 唐突に怪我した右手で春輝をブン殴った。それも一発に留まらず何発も何発もーー。その目からは、絶えず涙が流れていた。

 千冬「全員で篠ノ之を止めろ!二人を引き剥がせ!」

 慌てて千冬がそう命令して教員や専用機持ちが二人を引き剥がしにかかり、十分間の格闘の末、漸く二人を引き剥がす事ができた。引き剥がしにかかっている間も、箒は「牙也を返せっ!!」と叫びながら春輝を殴ろうとしていたため、束がやむなく筋弛緩剤を箒に注射した上で抱き締め落ち着かせようとするほどの騒ぎとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 箒side

 

 私には信じられなかった。牙也が……牙也が、死んだなどと……。牙也が出撃した後私は少しの間仮眠をとっていたので、その間何があったかは分からない。次に起きた時、なにやら大広間の様子がおかしかったので、襖からこっそり聞き耳を立てていたが、千冬さんの言葉を聞いて一瞬頭の中が空っぽになった。そして大広間に入り、シュラに真意を聞いた。それが本当である事を知った時、私は思わず春輝に殴り掛かっていた。その後の事は覚えていない。ただがむしゃらに春輝に殴り掛かっていたのを教員達が必死になって止めようとしていた事、私と春輝が引き剥がされた後そのまま泣き疲れて短時間だが眠ってしまった事を、あとで一夏から聞いた。学園長の一言でーー何を言っていたかは覚えていないがーー解散となり、私は山田先生の肩を借りてやっと仮設医務室に着いたのだが、牙也の事を思うと眠れず、私はこっそり窓から外に出て、怪我の痛みを堪えながら歩き、気づけば海岸に出てきていた。

 

 「…………」

 

 海岸に座り込み、空を見上げる。空はすっかり夜になり、そこには星がいくつも輝いており、満月ではないが珍しくはっきりと月が見えた。それを見た時、私の脳裏には牙也との会話の数々が思い出された。

 

 牙也『どうか……どうか、俺に力を貸してほしい。お前の力が俺には必要なんだ……!』

 

 牙也『アッハッハ、やっぱり箒はからかいがいがあるな!』

 

 牙也『まだそんなもんじゃねぇだろ!?お前の力ってのはそんなもんなのか!?』

 

 牙也『大丈夫だって。俺はちゃんと帰ってくるさ。約束だ』

 

 その言葉一つ一つを噛みしめるように思い出すと、本当に懐かしく思えた。そして同時に、一つの後悔が生まれた。

 

 (結局、言えなかった……私の、牙也への思いを)

 

 あの時先延ばしにしてしまったせいで、言い損ねてしまった。私の、牙也への、純粋な思いを、私自身の本心を。なんであの時、言えなかったんだろう……?なんで先延ばしにしてしまったんだろう……?そんな後悔だけが、頭の中をよぎる。

 

 

 「…………ああ」

 

 気づけば、私はまた涙を流していた。

 

 「……あああ」

 

 お願いだ、牙也……帰ってきてくれ……!

 

 「……ああああ」

 

 私を、私を…………置いて、行かないでくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

 「あああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、臨海学校は終わりを告げた。無事の終了と引き換えにーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫野牙也の死亡という、あまりにも大きすぎる犠牲と、最早治らないであろう心への爪痕を全員に残してーー。

 

 

 

 

 

 





 次回からは、学園祭編。いよいよ物語は佳境にーー。


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