Ange Vierge SS集   作:咲月蒼華

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盾として(ルルーナ)

守らなきゃ。

私は、『盾』なんだから。

傷つけさせちゃいけない。

私は、『守りの要』なんだから。

傷付けさせない。

私が、『盾』である限り。

 

私が守るから。

--------この命に代えても。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「リーリヤー?起きてるー?」

 

トントンと扉をノックする。

時刻は午前5時。

学園に行くには少し早過ぎる時間だね。

この時間に起きてるのは訳があってー。

 

「訓練するんでしょー?リーリヤが言い出したんだからねー?」

 

そう。ちょっと前に、私のパートナーのαドライバーさんとリーリヤの間に、まあ色々あって。

昨日突然「訓練しましょう特訓しましょうこのままではいられません朝練しましょう!」とかリーリヤが言い出したもんだから、付き合うために起きたんだけど…………

 

ガチャリ。

 

鍵の開いていた扉を(不用心だなぁ)そっと開けると、その中には幸せそうに眠るパジャマ姿の相棒の姿。

…………うん、わかってた。わかってたよ。

朝練とかリーリヤが言い出した時点でこんな気はしてたよ。

 

「さて、どうしよっかなー」

 

ホントは起こしてやろうかと思ってたんだけど、あんまりにも幸せそうだから気が引けるんだよねー。

かといって、今から二度寝とかしてたら学園に遅刻しそうな気がするし、盾の手入れは寝る前にしたばかりだしー。

 

「ま、たまには朝の散歩とかもいいかもねー」

 

せっかくこんなにゆったり過ごせるんだし、自然も豊かだしね、地球。

 

リーリヤを起こさないように静かに扉を閉める。

 

グリューネシルト統合軍の軍服に袖を通し、外に出る。

うーん、流石にまだ5時とあって、ちょっち肌寒い、かな?

 

「まあ歩いてればそのうちあったかくなるよねー」

 

どの辺りを散歩しようかと、少し思案する。

せっかくだから、普段あまり行かないところがいいと思うんだけど、あんまり遠くまで行くと後で面倒だし……

 

「確か近くに森とかあったっけ。早朝の森林浴とか、いいかも?静かそうだし……」

 

そこまで言ったその瞬間。

件の森の方向から絶叫が聞こえてきた。

 

『リゼリッタぁぁぁぁぁ!あなた、こんな朝っぱらから何してくれてんのよぉぉぉぉ!?』

 

「……………………」

 

うん。静か『そう』だったね。

うん。さっきのはイメージで言っただけだから。実際に早朝森林浴が静かとは限らないよねー。

 

無難に近くの砂浜でも行こっか。

 

そう決めて歩き出す。

舗装された道を歩き、5分ほどで目的の砂浜に到着した。

 

「やっぱり、良い景色だね」

 

水平線から顔を出す朝日。

日の出からは少し時間が経っているから、太陽はその全身を水平線から現していた。

朝日を反射して輝く海。

グリューネシルトでは、見たことのなかった景色。

 

世界水晶の力を取り戻せば、グリューネシルトでも見ることが出来るのだろうか。

そうだと嬉しい。けれど、今のところ世界水晶の力を取り戻す有効な手立ては見つかっていない。

他の世界の水晶を奪う以外では。

 

「まあ、それは論外なんだけどね」

 

この地球にきて、色んな世界の人々と触れ合った。

赤の世界の天使や女神は凄く優しいし、白の世界のアンドロイドはほとんど機械とは思えないほど感情表現豊かだ。

黒の世界の魔女には、何度も魔法を見せてもらった。

青の世界の人々は皆友好的で、一時は攻め込んできていたというのに、グリューネシルトの軍人にも積極的に接してくれる。

 

全部、私の『守りたいもの』だ。

 

この世界に来てから、守りたいものがたくさん増えた。きっとこれからまだまだ増えるのだろう。

それを犠牲にしてグリューネシルトを復興したって、嬉しいわけがない。

 

「ここにいましたか、ルルーナ……」

 

水平線をノンビリと眺めていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「あ、リーリヤ。おはよー。相変わらず寝ぼすけさんだね。昨日約束した時間、もう20分も過ぎてるよ?」

 

背後に立っていたのは、今日朝練をしようと言い出した張本人。リーリヤ・ザクシードである。

まだ目が覚めきっていないのか、右手で目を擦りながら歩いてくる。

 

そんな様子を微笑ましく見ていた私の表情が、一瞬で険しく変わった。

 

リーリヤの背後。浮かぶ黒い影。

世界が繋がった原因、世界崩壊を引き起こすもの。

『ウロボロス』。

 

リーリヤはまだ寝ぼけているせいか、気づいていない。

私が気付いた時には、すでにレーザーの発射態勢に入っている。

 

咄嗟にエクシードを発動しようとして、歯噛みする。

昨日、盾の手入れをした際に呼び出したまま、部屋に置きっぱなしだ。

遠隔で一度エクシードを解除してから発動して呼び出すのでは、間に合わない。

 

 

守らなきゃ。

大切な友達を。

 

守らなきゃ。

かけがえのない相棒を。

 

守らなきゃ。

あの眩しい笑顔を。

 

 

 

ーーーーーーこの命に代えても。

私は、『盾』なんだから。

 

「リーリヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

リーリヤの身体を突き飛ばす。

鍛えている軍人とは思えないほど、その身体は軽かった。

リーリヤが目を見開くのが、見えた。

 

直後。

 

身体全体に、灼けるような痛みがはしる。

何本ものレーザーが私の身体を貫いた。

 

「…………え?」

 

何が起きたのかわからない、といった表情のリーリヤが視界の隅に見える。

天地が、逆転した。

 

「ルルーナ……?」

 

リーリヤは、ようやく何が起きたのかを理解したようで、呆然と声を漏らす。

 

「リー……リヤ……だい、じょぶ?」

 

掠れた声でそう絞り出すと、リーリヤの瞳に涙が浮かんだ。

 

「ルルーナ……なぜですかどうしてなんですか!?貴女なら、他に方法が……!」

 

「私は『盾』、だからね……シュッツ・リッタは置いてきちゃったけど、役割は、果たさなきゃ……」

 

「役割とか、『盾』だからとか!そんなのいいんです!私は、私はルルーナが側にいてくれれば……!」

 

リーリヤが泣きついてくる。

こんなにも取り乱すリーリヤを見るのは、久しぶり。

 

「ダメ、なんだよ……大切なモノを失いたくない。もう、私のせいで……私が守れなかったせいで傷付くモノは、見たく、ない……」

 

視界が霞む。

その視界の隅に、先程のウロボロスが映った。

今度は、リーリヤも気付いてる。

 

「ウロボロス……あなたのせいです。許せません許しません、万死に値します!私の大切な友人を、相棒(パートナー)を!私の大切なルルーナを傷付けた罪を、その身をもって償うといいです!」

 

早口で捲し立てるリーリヤ。

その瞳には憎悪と殺意が浮かぶ。

 

「『ヴィヒター・リッタ』ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

自らの専用武器の名を叫ぶ。

リーリヤの右腕に、大きな槍が現れる。

 

リーリヤは『ヴィヒター・リッタ』を構え、ウロボロスに突撃する。

交錯と同時に破壊、殲滅していく。

5分ほどで、何体ものウロボロスが全て破壊される。

 

「ルルーナ!」

 

リーリヤが駆け寄ってくる。

霞む視界の隅、大粒の涙を流すリーリヤがそこにいた。

 

遠くから多くの足音が聞こえてくる。

戦闘音を聞いて、起き出して来たのだろう。

 

「リーリヤ……なんて顔、してるの?顔、グチャグチャだよ?」

 

震える声で言いながら、リーリヤに笑いかける。

 

「笑って。私は、リーリヤの底抜けに明るい笑顔が、大好き、なんだよ。あの笑顔を、守りたかったの。だから……お願い。笑って」

 

「無理……です……無理に決まってるじゃないですか! 私のせいでルルーナがこんな目にあって、それで笑うなんて……出来ません……!」

 

涙に濡れたその顔は、悲しみに満ちていて。

それは、私が守りたかったリーリヤの表情ではなくて。

それでも、大好きなリーリヤで。

私も、涙が止まらなくなった。

 

「このままお別れなんて許しませんよ、ルルーナ……!絶対、絶対助けますから!」

 

リーリヤの宣言の後ろで、他の生徒が慌て出すのが聞こえた。

私達のことを視認できるところまでやってきたのだろう。

 

「お別れなんて、しないよ。だって、まだリーリヤとチョコマシュマロ、食べてないもん」

 

茶化すようにそう告げる。

リーリヤは一瞬目を丸くした。

この世界に来て、私達が好きになった青の世界のお菓子。

私がチョコで、リーリヤがマシュマロ。

青の世界の人に聞いたら、この二つは組み合わせで食べても凄く美味しいとのこと。

だから、前に約束したんだ、リーリヤと。

『一緒に、チョコマシュマロを食べよう』って。

 

「約束は、『守らなきゃ』ね」

 

「ルルーナ……」

 

「ずっと食べたかったけど、色々忙しかったからね……」

 

話していると、少しずつ、瞼が重くなってきて。

私の周りに多くのプログレスが駆け寄ってくるのを認めた後、私は意識を失った。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

目が覚めると、真っ先に目に映ったのは白い天井だった。

 

「保健室って、来るの初めてな気がするなぁ……」

 

厳密には、身体計測とかで来てるから初めてじゃないけど、怪我をして利用するのは初めてかな。

 

「すー、すー」

 

ふと、ベッドの隅からそんな寝息が聞こえてきた。

上半身を起こして見てみると、見知った赤い髪が。

 

「リーリヤ……」

 

ずっとここにいてくれたのだろうか。疲れ切っているようで、目を覚ます気配はない。

 

辺りを見渡して、ある事に気づく。

枕元の机に置かれた。甘いお菓子。

 

「これって…………」

 

白くてふわふわした小さなお菓子の上にかけられた、黒っぽいお菓子。

 

「チョコマシュマロ……」

 

私が目覚めた時に、すぐにでも食べられるように用意したのだろう。

それに手をのばしかけて、やめる。

 

「リーリヤも、待っててくれたんだもんね」

 

綺麗にラップをかけられたそれに、手をつけた跡は一切なかった。

それは、リーリヤが私の目覚めを待ってくれていた証拠。

 

「約束、したしね」

 

『一緒に食べる』。

それが約束だ。

だから。

 

もう朝だよ、リーリヤ。

まったく、お寝坊さんだなー。

そんなので軍人が務まるのー?

 

統合軍に入って、リーリヤとタッグを組んだ。

そんな昔のことを思い出しながら、リーリヤの頭を、そっと撫でた。

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