春が来た。
昔から、春は出会いと別れの季節だというけれど、実際のところ、それを強く実感する機会は少ないだろう。
学校が変わってしまっても。
たとえ遠くに離れて暮らすことになっても。
同じ世界で生きていく限り、今生の別れなどはそうそうないのだから。
いつかまた、会うことができる。
そう。
『同じ世界で生きていく限りは』。
「懐かしいな」
長い髪が、潮風に揺れる。
最近はサイドアップに結ぶことが多かったけれど、今日は『あの日』を思い出して、久しぶりにツインテールにしてみた。
薄い水色のワンピースは、4月という時期には少し早過ぎるような格好ではあったが、それはその場所も相まってか、とても自然なものに見える。
少女は思い出す。
ここで出会い、ここで別れた仲間達との物語を。
天才と呼ばれた魔女が。
祈りの歌を紡ぎ出す妖精が。
崩壊の未来を知るアンドロイドが。
仲間想いの心優しい軍人が。
そして、どこにでもいるような、普通の学生であった少女が。
何もかもが違うように思えて、それでいて何もかもが同じであった少女達が。
この学園に集い、努力し、そして世界を救った、あの嘘のような物語を。
空を見上げても、そこには蒼空が広がるのみで、かつてそこにあった4つの輝きはなかった。
今でも、たまに少女は思うことがあった。あの物語は、全て夢だったのではないかと。
長い長い、夢だったのではないかと、不安になることがある。
彼女達と会うことはもう叶わず、そして彼女達を結びつけた不思議な力は、既に消えていた。
彼女達との物語が夢でなかったと断言する証拠は、一見無いように思えた。
けれど、嘘じゃ無い。
夢などでは決してない。あの輝かしい日々は確かにあったのだ。
少女は、静かにポケットに手を入れる。
そこから取り出されたのは、4つの、小さな思い出だった。
「みんなは、元気にしてるかな……」
天才魔女とともにいた不思議な生物を模した髪飾り。
紅玉の妖精を示す、どこまでも紅い宝石。
機械らしさのある幾何学模様の入った、小さなブローチ。
銃弾の形をした、写真を入れられるロケットペンダント。
この思い出達が、あの日々が夢でなかったことを教えてくれる。
みんな、きっと元気にやってるよね。
「美海ちゃん」
ふと、後ろから声を掛けられる。
振り向くと、大きな花の髪飾りが特徴的な、物静かな雰囲気の女性が立っていた。
「沙織ちゃんも、やっぱり来たんだね」
「うん。懐かしいな……」
沙織と呼ばれた女性は、昔を懐かしむように空を見上げる。
その声色は、どこか寂しそうだ。
「ここで、みなさんと会って……」
あの日。
5年前の今日、私達は出会った。
青蘭学園の入学式で。
「ここで、皆で笑いあって」
青蘭学園での毎日は、慌ただしく、騒がしかったけれど、それでもそれが楽しくて。
「ここで、みなさんと努力して」
世界接続という異変。
その元凶であるウロボロスを打倒するために、仲間達と切磋琢磨して。
「ここで、皆とお別れした」
ウロボロスを打倒して。
異変の元凶は消えた。
けれどそれは、青蘭学園の全員が望んでいたことであり、恐れていたことでもあった。
異変が解決するということは、世界の繋がりが消え、各世界の距離が元の距離に戻るということ。
決して繋がることのない、遠い距離に。
「……行こっか。沙織ちゃん」
「……はい」
二人は、洋上の学園に背を向ける。
次にここに来るのは、いつになるだろうか。
毎年来てもいいかもしれない。
あの日々を思い出しに。
「それぞれが呼び合って目覚めだす、絆……」
呟くように。
囁くように。
美海は自然と口ずさんでいた。
あの4人と。
何度もステージで歌った歌を。
皆で話し合って、作り上げたあの歌を。
忘れない。
例え、もう会うことが出来ないとしても。
例え、もう一緒に歌うことが出来ないとしても。
あの大切な日々を。
大切な友人たちを。
共に過ごしたこの場所を。
絶対に、忘れない。