今回はロザリーちゃんですよー
陽の光のない暗い景色。
金色の長い髪が風に靡いた。
少女が笑う。
『…………でね』
でも何故か、その顔はよく見えない。
『…………ないでね』
忘れてはいけないはずなのに。
忘れられるような、軽い思い出じゃないのに。
『私のこと、忘れないでね』
何故思い出せないんだろう。
大切な、彼女の顔を。
頭痛がして目を覚ました。
また、あの夢だ。
知らない景色なのに、何故か懐かしい感じのする夢。
「……ったく、なんだってんだよ」
枕元の時計に目をやると、表示された時間は9時少し過ぎ。
学園のある普段なら遅過ぎる時間だが、今日は日曜で休みだ。
ただ、今日は予定があるからな。
そろそろアイツが来る頃合いだろう。
ベッドから起き上がり、ゼリー飲料を喉に流し込みながら私服に着替える。
着替えている間に空になったゼリー飲料の容器をゴミ箱に叩き込み、机の上に置いてあるチェーンを首からかける。
「コレも、馴染んだもんだな」
黒い指輪の通ったチェーン。
昔、幼い頃のたった二ヶ月ほどの記憶がゴッソリと無くなった。
所謂記憶喪失というやつだが、この指輪は、その二ヶ月の期間中にどこかで手に入れたものらしい。
記憶が無くなった期間の前は持っていなくて、後には既に持っていたからだ。
何か記憶の手がかりになるんじゃないかと、こうしてずっと大事に持ち続けている。
「それに、なんか大事な意味がある気がするんだよな……」
呟きながら、チェーンをシャツの内側に隠す。
以前美海に見つかった時にアレコレ聞かれたから、そういう面倒な事態を回避するためだ。
身支度を終えてカバンに手をかけると、そのタイミングでインターホンが鳴った。ジャストタイミングだ。
玄関に向かい扉を開けると、そこに立っていたのは黒を基調とした服と金色の髪の少女。
頭にちょこんと乗っている黒い帽子が印象的だ。
「よお、ロザリー」
「おはよっ♪さ、早く行こっ」
ロザリー。
黒の世界、
今日はコイツに誘われて、新しく出来たショッピングモールに行く予定だったのだ。
しつこく誘われたので渋々了承した。まあ悪い気もしないしな。
ショッピングモールは俺の家の最寄りのバス停からバス一本で行けるらしく、バス停でバスを待つ。
「楽しみだなー♪どんなお店があるんだろ?」
「特に調べてはいないが……随分と規模の大きなショッピングモールらしいし、色々ありそうだな。ロザリーはやっぱりファッション関係を見て回りたいんだろ?」
「そうそう!青の世界のファッションってレベル高いからさー♪たっのしみー♪」
よほど楽しみなのか、とても上機嫌なロザリー。
まるでロザリーの周りに音符でも実際に飛んでいるかのようだ。
5分ほどしてバスが来た。
二人で乗り込み、そのバスに揺られること15分ほど。目的のバス停で下車すると、すぐ目の前に大きなショッピングモールがそびえ立っていた。
「…………でけぇな」
「う、うん……ちょっと想像以上かも……」
呆気に取られる俺とロザリー。
大きいとは聞いていたが、まさかここまでとは。
「とりあえず、中入るか。案内図とかもあるだろうし」
「そだね!ほらはやくはやくー!」
俺の言葉を聞くや否や、俺を置いて駆け出すロザリー。
まったく、しょうがないな……
……まあ、振り返った満面の笑みのロザリーを見て「ああ、悪くない」って思ってる時点で、俺もどうしようもないやつなんだろうけどさ。
ショッピングモールに入ると、まず目の前に大きな噴水の広場が広がっていた。噴水の前にはモール内の案内板が設置されており、広場から三方向に道が伸びている。
噴水の向こう側にはエスカレーターも見えた。
「さて、まずは服とアクセサリー辺りか?となると……三階か」
どうやら階毎に特色が分かれているらしく、一階は飲食店多め、二階はゲームなど娯楽用品、三階は服飾関係……というようになっているようだ。
分かりやすくて助かる。
ロザリーとエスカレーターで三階へ。
ズラリと並ぶ服飾関係の店に、ロザリーは分かりやすく目を輝かせる。
「わぁー……すっご……ねぇ、どこから行こっか!?」
「好きなとこから見て回ればいいんじゃねぇか?どうせ最終的には全部見るんだろ?」
「そりゃもちろん!あったりまえでしょー?」
「だろうと思ったよ……」
軽い溜息をつきながらロザリーの後について歩く。
もうこのままロザリーの気の済むまで回らせてた方が良さそうだとそう思っていたら、ロザリーがおもむろにこちらを向いた。
「そうだ!せっかくこんなにお店があるんだから、君が私の服選んでよ!かわりに私が君の服選んであげるから!」
「はぁ!?」
とんでもないことをおっしゃる……ファッションセンスなんて全く無いんだぞ俺。
その俺にこんなに大量の服から選べってか。
「遠慮しとくよ。俺そういうセンスないしな」
「えー!いいじゃん、選んでよー!えーらーんーでー!」
「駄々っ子かお前は!?」
俺の右腕を掴んでブンブンと振り回すロザリー。
ちょ、やめてくれませんかねぇ!?
「わかった、わかったから!」
「ホント!?」
「ただし、文句は受け付けないからな」
「アイアイサー!」
俺から少し離れて敬礼するロザリー。
まったく、なんでこんなことに……
しかし、ロザリーの服を選ぶ、ねぇ……
「それじゃ、見て回ろっか!」
「おう」
ロザリーは俺の手を引いて、まず1件目のショップに入る。
目を輝かせながらあちこち見て回るロザリーを横目に、俺は俺で服を眺めていく。
ロザリーって、普段黒系の服しか着ないよな……黒の世界出身だからってのもあるんだろうけど、他の色とかどうなんだろうか。
…………せっかくの機会だし、な。
◇◆◇◆◇◆
そんなこんなで、数多くの店を回ること2時間半ほど。
時刻はお昼に差し掛かり、ようやく全ての店を見終わった。
「んー……!いやー、楽しかった!さてさてそれではぁ……君はこのロザリーちゃんに、どんな服を着てもらいたいのかなー?」
「なんかイラっとする聞き方だな……ほれ」
ニヤニヤしながら聞いてくるロザリーに、服の入ったカゴを差し出す。
結局最後の店で決めたから、わざわざ他の店に戻る必要もなかった。
「ほうほうほう……じゃ、試着してくるからちょっと待っててねー!」
カゴの中身を確認して何度か頷いたロザリーは、そのカゴを持って試着室に入ってカーテンを閉める。
さて、選んだはいいがどんな感じになるかな……
10分ほどして試着室の中から「終わったよー!」という声が聞こえてきた。
そしてついにカーテンが開いた。
「じゃじゃーん!どーかなー?」
カーテンを開けて現れたロザリーは、普段着ている黒基調の服とは打って変わって、明るい色でまとめた服装になっていた。
薄いピンクで、ところどころにフリルをあしらったワンピースに、薄いオレンジの上着を羽織っている。
「普段とはかなり色味が違う服だけど、どーかな!?似合ってるー?」
…………選んだ俺が言うのもなんだが、ヤバい。
グッジョブ過去の俺。
「おう、似合ってるぞ。普段黒基調の服が多いみたいだったから、雰囲気の違う服を選んでみたけど、これはこれでいいな…………」
「私もこれ結構気に入っちゃった♪」
スカートの端を摘んで少しまくってみせるロザリー。太ももが眩しい……
っと、いかんいかん。
「とりあえず、ずっと着てるわけにもいかないだろ?元の服に着替えたらどうだ?」
「んー、そだね。それじゃ、ちょっと待っててねー」
再び閉じられるカーテン。
少し名残惜しい気もするが……まあ仕方ない。
また10分ほどして、いつもの服に着替え直したロザリーがカーテンを開けた。
ロザリーの持っているカゴには、綺麗に畳んだ先程の服が入れられている。
そのカゴをサッと奪い取る。
「えっ、えっ!?」
「気に入ったんだろ?買ってくるよ。せっかく俺が選んだんだしな」
ポカーンとしているロザリーをよそに、ササっと会計を済ませる。
女物の服って結構するのな。
「さて、これからどうすっかね……」
店を出てまずは今後の予定を決めようとロザリーに話しかける。
「んー、そろそろお昼食べ行かない?確か一階にたくさんあったよね?」
「そうだな。それじゃあ……っと、スマン、ちょっと待っててくれ」
予定を確定させようとしたタイミングで、ポケットの中でスマホが震えた。
取り出して画面を確認すると、知り合いのアルドラの名前が表示されていた。
今日は緊急事態以外は連絡してくるなって言っておいたはずだから……緊急事態か。
「もしもし」
『おお、お楽しみのところ悪いな。緊急事態だ』
「だろうな。内容は?」
『ユーフィリアのエクシードを利用したウロボロス探査機が、未来でのウロボロス発生を探知した。場所はお前らが今いるショッピングモール付近。今青蘭学園からも応援のプログレスが出撃した。ただ、間に合うかがわからないから、万一の時はロザリーの幻術で一般人の誘導とウロボロスの対処を頼みたい』
「了解した。他には?」
『今のところはそれだけだな。一応、こっちからの連絡は受けられるようにしてくれ』
「了解」
電話を切り、ロザリーの元へ戻る。
「おかえりー。なんだったの?」
「ウロボロスの発生予知の報告だ。どうやら、この付近にウロボロスが出現するらし……」
電話の内容をロザリーに教えようとしたところで、悲鳴。
どうやら、もう来たらしい。
「くそ、もう来たか!とりあえず、ウロボロスがここに来てる。青蘭学園から応援のプログレスがこっちに向かってるらしいから、俺らで少しでも被害を抑えるぞ」
「おっけー!ロザリーちゃんの幻術にかかれば、ウロボロスの相手と避難誘導同時にこなせちゃうもん!」
「その意気だ。いくぞ」
ロザリーとともに、悲鳴の聞こえた方向に走る。
少し走るとウロボロスがそこかしこに見られた。
「よし、そんじゃ行くぜ。αフィールド、展開!」
俺を中心に、四角錐型のフィールドが広がる。
プログレスへのダメージを肩代わりするためのフィールドだが…………
「!? αフィールドが……!?」
今展開したばかりのフィールドに、ノイズが走るとともに消滅した。
「どうなって……」
呆然としていると、スマホに着信。
先程のアルドラからだ。
スピーカーホンをオンにして、隣のロザリーにも聞こえるようにする。
「もしもし。今、不可解なことが……」
『わかってる。αフィールドの不調だろう?どうやら、今回のウロボロスの中に、αフィールドの維持に影響を齎す妨害電波のようなものを発しているヤツがいるらしいことがわかった。戦闘はなるべく避けて、避難誘導を優先してくれ』
「わかった」
「りょーかい!」
ロザリーは幻術で自らの分身を生み出し、逃げまどう一般人の避難をサポートし始める。
分身の数人はウロボロスの牽制へ向かった。
「ロザリー……頼むぞ……」
何も出来ないことに歯噛みし、俺も避難誘導を始めようとしたところで、気付いた。
ロザリーの頭上で待機しているウロボロスに。
「ロザリー!上だ!」
咄嗟に叫ぶ。
俺の言葉でウロボロスに気付いたロザリーは、後ろへ身体をずらす。
先程までロザリーがいた空間をレーザーが通り抜ける。
掠ったのか、ロザリーの服の胸元が破ける。血が出ていないことから、ロザリー自身には当たっていないようだ。
「…………!」
ロザリーは服を幻術で普通に見えるようにコーティングし、ウロボロスへと向かう。
だが俺はそれどころではなかった。
見てしまったのだ。先程の一瞬で。
ロザリーの首にかかっていたネックレス。そこに通された黒い指輪を。
「あれは……」
俺のものと同じもの……?
そう考えた瞬間に、頭に鋭い痛みが走る。
『君、どうしたの?迷子?』
暗い路地の光景が脳裏に浮かんできた。
泣きベソをかいていた俺に話しかけてきたのは、金髪の少女。
そうだ。
俺はあの時、知らない世界に迷い込んだんだ。
そしてそこで、一人の少女と出会った。
なんで忘れていたのだろう。
大事な約束も、していたのに。
「(きっと、そういう運命だったんだろう)」
他世界の存在を明るみにしないため。そのために、その世界での記憶を残すわけにはいかなかった。
「(でも、思い出せた)」
他世界の存在がすでに明るみになっていることもあるかもしれないが、思い出すことができた。
「ハッ、妨害電波がなんだってんだよな」
今も戦っている、パートナーに視線を向ける。
「傷付けさせたりなんかしない。絶対にだ」
決意を新たに、再びαフィールドを展開する。
ノイズなど走らない。走らせない。
「ロザリー!一気に決めるぞ!」
「おっけー!それじゃ、派手にいこっかー!」
「「エクシード・リンク!!」」
◇◆◇◆◇◆
あのあと、青蘭学園からの応援も駆けつけて、無事にウロボロスを掃討。
今回の一件は幕を閉じた。
「あー、つーかーれーたー」
「おつかれ、ロザリー」
ショッピングモールからの帰り道。
フラフラしながら歩くロザリーに苦笑する。
この子は、俺のことを覚えているのだろうか。
わからない。けれど、あの指輪はそういうことだと、そう思いたい。
「なあ、ロザリー」
「ん?どしたのー?」
不思議そうに首をかしげるロザリーを、俺は何も言わずに抱きしめた。
「ふぇ!?え、え、どしたの!?」
俺の腕の中でワタワタと狼狽えるロザリー。
その表情に、愛おしさを感じる。
「スマン、ロザリー。俺、ずっと忘れてた」
「え……?」
「『忘れないでね』って、そう言われたのに。大切な約束もしたのに」
「そ、それって……」
ロザリーから少し身体を離して、首にかかっているチェーンの先の指輪をロザリーに見せる。
あの日……俺があの世界からこっちに戻ってくる日に、少女から受け取った指輪。
『これ、この世界の石でできた指輪なんだって』
恥ずかしそうに指輪を見せる少女。
『わたしの魔力を込めてあるから……向こうに行ったら、私だと思って、大切にして』
目元に涙を浮かべながら、少女は笑う。
そして、俺たちは大切な約束をした。
「絶対、お前を世界で一番綺麗に輝かせてみせる」
『私も、同じ指輪を持っているから』
「お前を、ずっと側で支え続けるから」
『もし次に会うことが出来て、その時二人共がこの指輪を持っていたら……』
記憶の中の少女。
彼女から言われたあの言葉を、今度は俺から届けよう。
随分と、遅くなったけれど。
「結婚しよう」
「遅い、よぉ……!バカァ……!」
ロザリーは、ボロボロと涙を流していた。
俺の服の胸元を握りしめて、小さな肩を震わせて。
「ずっと、ずっと待ってたんだから……!君があの時の子だって、わかった時から、ずっと……!」
「本当にすまなかった。けど、もう忘れたりしないから。もう離さないから……」
「絶対、だからね……」
「ああ。今度こそ、約束だ」
「それなら、許したげる」
フフッと笑うロザリーと、自然に手を繋ぐ。細い指に、指を絡ませて。
出会ったあの日と同じ、夜の静寂に包まれたまま、俺たちは歩いた。
ポカリと空いていた空白の時間を、埋めるように。
今回はちょっと新たな試みとして挿絵を入れてみたりしました。
画力に関しては突っ込まないでください(^ω^)
表示されていなかった方は、小説閲覧ページ上部の
メニュー→閲覧設定→挿絵表示を有り
に設定すると表示されると思います(^ω^)