暖かい日差しが降り注いだ。
空を見上げると、4色の輝きが今もなお並んでいた。
「ここに来るのも、今日で最後なのね」
体育倉庫の前、集まった三人の少女----銀髪の一人が呟いた。
少女の視線の先には、「魔王城」と書かれた紙が風に揺られていた。
「そう、ですね……」
金髪を風に揺られながら、片翼の天使が俯く。
その傍で、マントを羽織った黒髪の少女も倉庫を見上げた。
「…………」
「メルビナも、泣きたかったら泣いてもいいのよ?」
「な……!我を愚弄するか!この程度のことで、我が泣いたりするわけ……!」
「ふぅん、『偉大な魔王様』にとって、家臣との別れは『この程度』のことなのね」
「そ、それは……」
銀髪の少女に言われ、黒髪の少女----メルビナは慌てて片翼の天使の方を向く。
それに対して、片翼の天使は柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、メルビナさん。クレアさんも、意地悪な言い方はダメですよ?」
「いいのよ。メルビナはこうでも言わないと言い方を改めたりしないんだから。レミエルこそ、もう少しメルビナには厳しめでいいんじゃない?」
片翼の天使----レミエルの言葉に、銀髪の少女----クレアが言う。
苦笑するレミエル。
「ふ、ふん!クレアこそ、物思いに耽ったりして、泣きたかったら泣いてもいいんだぞ?」
「…………そうね。少しだけ、泣きたい気分かも」
クレアの発言に、メルビナは目を見開いた。
普段のクレアなら、こんなことは絶対に言わないだろう。そのことを、メルビナは長い付き合いから知っていた。
「私はね、この場所に三人で集まるようになった頃、正直なところ、ここには嫌な思い出がたくさんできると思っていたわ。落ちこぼれが集まって、愚痴でも零しているのが関の山ってね」
メルビナに向けていた視線を、再び『魔王城』に向ける。
クレアのその瞳には、たしかに水滴が浮かんでいるように見えた。
「けれど、違った。バカみたいにはしゃいで、たまに他の子達も混ざったりして……嫌な思い出しか出来ないと思っていたのに、蓋を開けてみれば綺麗な思い出ばっかり。忘れられない、忘れたくない思い出ばかり」
「クレア…………」
「いつのまにか、ここはこの世界に来てから、一番大事な居場所になっていた。何の変哲も無い、ただの倉庫だと思っていたのに」
メルビナとレミエルに、視線を戻す。
「貴女達はどう?ここは、貴女達にはどんな場所だった?」
クレアの問いに先に答えたのは、レミエルだった。
「私も……私も同じです。一人じゃ何も出来ない私を、受け入れてくれた。一人じゃないって教えてもらえた、そんな場所で…………私にとっても、とても大切な場所です」
レミエルの声は、少しだけ震えていた。
そして、クレアとレミエルの視線がメルビナに向く。
メルビナは「うぐっ……」と少し後ずさりしたものの、観念したのか話し出した。
「我にとっても、悪くない場所だった。我が覇道の片隅に刻んでやっても良いと思うくらいにはな!」
そんなメルビナらしい回答に、クレアとレミエルは苦笑する。
こんな光景も、今日で最後。
ウロボロスを打倒して、世界崩壊の危機は去った。
各世界間の距離は徐々に元の距離に戻りつつある。
Dr.ミハイルら白の世界の研究者達の観測結果によると、今日中に元の世界に帰らないと行き来出来ない距離まで離れてしまうらしい。
だから、今日が最後。
「最初の頃と比べて、レミエルは随分と成長したわよね。ウロボロス掃討作戦でも大活躍だったみたいじゃない」
「そ、そんなことないです……結局、私はαドライバーさんがいないと何も出来ないままですから。赤の世界に帰ってしまえば、私はまた飛べない天使に逆戻りです」
レミエルの自信なさげな言葉に、ヤレヤレといった雰囲気のクレア。
「自信がないのは変わらないのね。レミエルらしいけど」
「そんなことで大丈夫なのか?」
「そうですね……誰かが見守ってくれていれば、大丈夫だと思うんですけど……」
その言葉に、クレアは一度目を見開き、ふたたびヤレヤレといった表情で呟く。
「……しょうがないわね」
「え……?」
「私が見守ってるわ。レミエルのこと」
どこか素っ気ないような、そんな口調でクレアは続ける。
「私の能力は知っているでしょう?千里眼。世界すら越えて何もかもを見透かす能力よ。貴女からは見えないかもしれないけど、私がいつでも見守っててあげるわ」
「でも……」
「おい、クレア。その千里眼、狙ったものを見れるわけじゃないんじゃなかったか?ホントにレミエルのことを見守れるのか?」
「うるさいわね……それぐらい、克服してみせるわよ。他でもない、レミエルのためなんだから」
メルビナの意地悪げな言葉に、クレアはレミエルの方を見ながら返す。
少しだけ、頬を染めて。
「クレアさん……」
「なるほどな。それなら見守るだけでなく、会いに行こう」
「メルビナさん……?」
「どうやってよ」
クレアの最もな質問に対し、メルビナは腕を組み、得意げに言った。
「赤の世界との道を切り開く!偉大な魔王たる我と、この魔剣の力で!」
ただ聞いただけでは、ただの絵空事。
けれど、このメンバーにとっては、それだけではなかった。
「いいじゃない。なら、私はきっちりレミエルを探し出さないと」
自身を置いてけぼりに進んでいく話に、レミエルはポカンとしていたが、やがてその顔には満面の笑みが浮かび上がる。
「そうですね。では、私はお二人が迷ったりしないように、迎えに行きます。大空に、翼を広げて」
「ええ、約束よ」
「約束だ!」
「はい、約束です」
三人は笑い合う。
これが今生の別れではない。そう信じて。
「また、会いましょう」
三人は、最後まで笑い合っていた。
涙は見せない。最後ではないから。
また会える。必ず。
◇◆◇◆◇◆
数年後、赤の世界。
「レミエル様レミエル様レミエル様ぁぁぁ!」
レミエルの自室に、ドタドタと駆け込んでくる小さな天使。
その慌てようは、尋常ではなかった。
「どうしました?そんなに慌てて」
「そ、空に、亀裂が、入って……!」
小さな天使に連れられ、窓際に行くレミエル。
見上げると、なるほど確かに空に大きな亀裂が入っていた。
何があったのか。
レミエルは部屋を飛び出そうとして、その声を聞いた。
「レミエルぅぅぅぅぅぅ!約束通り、来てやったぞぉぉぉぉ!」
その声は、数年ぶりに聞く、懐かしいもので。
レミエルは自然と微笑んでいた。
小さな天使の頭を撫でて、優しく言う。
「安心してください。あの人たちは、私のお友達です」
「お友達……?」
「はい。とっても、大切な」
レミエルは小さな天使から離れると、翼を広げる。純白の右翼を。
そして、光り輝く左翼を。
「約束、でしたね」
レミエルは飛ぶ。
あの頃のように。
今は、自分自身の力で、空を舞う。
「お久しぶりです。クレアさん、メルビナさん」
三人はまた、笑い合った。
ラストにメルビナがとんでもないことしてるのはつっこまないでください(汗