まだ情報が少ないので若干キャラ崩れとかありそうですが、そこら辺は承知していただけると幸いです。
最初は、なんとも思ってなかった。
あたしの実技の悩みを解決する糸口として、環先生が組ませてくれたαドライバー。
ただ、それだけだった。
夜遅くに自分の部屋で、机に突っ伏して思い浮かべる彼の顔。
ドクンと、胸が鳴った。
「なんで、だろ……」
机の端に伏せられている写真立てを、カタリ、と立てる。
同じチームのメンバーと彼が笑顔で写る中、一人だけ少し素っ気ない表情をしているあたし。
意識して彼から一番遠い立ち位置で撮った、集合写真。
それを見ていると、自然と頬が緩んだ。
「ねぇビッテ……これ、なんなんだろうね?」
自作のロボットに、返答があるはずのない問いを投げかける。
当然、求めていた答えは来ない。
先輩たちなら、何か答えを持っているだろうか。
聞いてみたくても、ずっと勉強と研究ばかりだったあたしには、こんな時に頼れる交友関係が多くない。
頭に浮かんだのは、今のチームメイト。
けれどなんとなく、彼女たちに聞く気にはなれなかった。
求める答えが期待できない、とかでは決してない。
ただ、聞いてしまうと『今の関係』でいられなくなってしまうような、そんな気がしたから。
「そうだ……」
一つ思いついたことがあった。
何も、あたしと接点の多い人じゃなくてもいい。
彼と接点の多い人たちに聞いてみるのもいいかもしれない、と。
彼は風紀委員長で、あたし達とチームを組む前はチーム天音のαドライバーで。
生徒会長なんかとも、かなり接点が多かったはず。
…………こう考えてみると、彼の顔の広さに改めて驚かされる。
チームを組んでみて改めて意識したけれど、この学園ではよく彼の話を聞く。
αドライバーとして非常に優秀、風紀委員長として日々邁進し、それでも気取ったところは全くなく、人のためなら自分に得がなくても協力してくれる、まさに絵に描いたような『良い人』。
彼のことを話すプログレスの中には、頬を赤く染めながら話している子も結構多い。
「……なんか、また胸が……」
ズキリと痛んだ。
最近はこんなことばかり。
彼のことを考えていると不意に胸が痛くなって、でも考えないようにしても、気付けばまた考えてしまっている。
多分、あたし一人じゃ答えは出せない。
早速明日にでも、彼と接点のある人達に会いに行ってみよう。
「そうと決まれば、早く寝よ」
放課後はチームでの訓練がある。
朝の時間や昼休みなんかを活用する必要があるなら、今のうちに少しでも休んでおこう。
あたしはモゾモゾとベッドに潜り込む。
目を閉じると瞼の裏に浮かぶのは、やはり彼の笑顔だった。
◇◆◇◆◇◆
翌朝。
まずは校門前で挨拶をしている生徒会長を発見。
凄く明るくてフレンドリーで、それでも実力は間違いなくトップクラス。
彼とは入学時点からの友人。
「おはようございます」
「おはよー!って、貴女は確か……」
「はじめまして。ココ=コルフィンと言います」
「○○君の新しいチームメイトさんだよね。はじめまして。生徒会長の日向美海です」
自己紹介の後に頭を下げたあたしに続いて、生徒会長も頭を下げて……顔を上げて、えへへ、と朗らかに笑った。
会長の口から彼の名前が出た瞬間、また胸がチクリと痛んで、顔を少し伏せてしまう。
あたしのその反応を見て、会長はその笑顔に心配そうな雰囲気を纏わせて、あたしに問う。
「○○君と、なにかあった?」
あたしは驚きで弾かれるように顔を上げた。
やっぱり、と会長は言う。
「私でよければ、相談に乗るよ?」
願ってもない申し出が会長から提示された。
けれど、いざその段階になると、なんと相談すればいいのかわからなくなってしまう。
気付けばいつも彼のことを考えてしまっていること?
彼のことを考えると胸が痛むこと?
それとも単に、彼との関係性が変わってしまいそうなこと?
考えれば考えるほど、思考が纏まらなくなってしまう。
そんなあたしを見かねてか、会長があたしの肩に手を置いた。
「なんとなくだけど、ココちゃんの悩み、わかっちゃった気がする」
「え……?」
あたしはまだ、何も言っていない。
悩みがあることも、どんな悩みかも。
会長は、あたしの様子を見ていただけだ。
「○○君は、いつも優しいよね」
会長の言葉に、頷く。
彼はいつも優しい。
最初からそうだった。訓練に集中し過ぎて約束の時間を過ぎても待ち合わせに現れなかったあたしを探しに来て、それでも少しも怒らずに受け入れてくれた。
「○○君は、みんなに優しいよね」
もう一つ、頷く。
彼と共に行動していると、どれだけ些細な相談にも真摯に向き合って、全力で解決に向かおうとする姿を何度も見る。
たとえ、自分にとってメリットが全くなくても。
「だから、みんな○○君のことが好き」
『好き』と言う言葉を聞いて、また胸が痛くなる。
彼のことを、頬を染めながら話すプログレス達の姿が浮かんだ。
これは。
この気持ちは……
「答え、出そうかな?」
曖昧な笑みを浮かべる会長。
少し首を傾げながら、右手の人差し指で顎の辺りを掻くような仕草をする会長は、年相応に見えて……けれど、それでいて大人びて見えた。
間違っているかもしれないけれど、答えは出た。
これは誤った解答かもしれない。違う解があるかもしれない。
けれど、あたしの中の解答欄には、確かにその解答が書かれていて。
だからこそ、もうあたしに、この問題を解くことは出来ない。
あたしの解答は、これで確定。
たとえ誰かに赤ペンでバツを書かれたとしても、変えるつもりはない。
「ありがとうございます」
会長に頭を下げ、短くお礼を言う。
顔を上げたあたしの表情を見て、会長は安心したように表情を綻ばせた。
そしてその表情に上から苦笑いを重ねて言う。
「多分、大変なのはここからだよ?」
「そんな気はしますね」
あたし、多分今日初めて笑ったかもしれない。
それが苦笑っていうのが、なんともあたしらしいというか。
そんなタイミングで、チャイムが鳴った。
そういえば、放課後とかではなく朝だった。
けどまだ予鈴だ。走れば間に合う。
「急がなきゃ、ね」
会長も同じ考えなのか、あたしに笑いかけて学園へと走り出す。
あたしも、朝より少し晴れやかな気分で走り出した。
◇◆◇◆◇◆
放課後、チームでの訓練を終えて。
自室であたしはまた頭を悩ませていた。
この気持ちの正体に答えは出た。
けれど、それだけ。
会長の言う通りだった。
「どうすればいいのよ……」
気持ちを自覚してしまうと、余計に大変だった。
みちるが楽しそうに彼と話していると心がムズムズするし、ラフィが彼をからかえばその度に少しイラッとしてしまうし、セルティが彼を抱えて撫でていると引き剥がしたくなってしまう。
エルゼは……今回の悩みにはあんまり関係ないかも。
ようするに、チームの訓練に集中出来ない。
自覚してしまったが故に、彼のことを視線で追ってしまう。
「気持ちを伝えられれば、いっそ楽になるのかしら……」
けど、出来ない。
そんな勇気、あたしには無かった。
今までそういうことは考えたこともなかったし、どうすればいいのかもわからない。
『そんな時は、ラブレターがオススメですわ!』
ふと、以前学園内で聞こえてきた言葉が浮かんできた。
その時は、また恋バナか……なんて思っていたりもしたけれど、今のあたしには割と必要な情報だったかもしれない。
「ラブレター……」
確かに、面と向かって伝えるよりハードルは低そう。
便箋とかは今手元にないけれど、文面だけでも考えてみようか。
なんて思っても、そう簡単に行かないのは世の常で。
あたしの悩みは増すばかりだった。
ストレートに気持ちを書こうとすれば恥ずかしくて筆が止まり、遠回しに書こうとすれば遠回し過ぎて伝わる気がしない文面に。
ラブレターを書くというのも、楽じゃない。
何か手段はないかと考える。
気持ちを伝える手段。けれど、あたしに出来るのは機械弄りとエクシードくらいで……
「そうだ、エクシード……!」
『その時必要な物を一つだけ生み出す能力』。
以前はそんなに細かい指定は出来なかった。
爆弾を呼び出しても着火するための火は出せない、といった具合に不安定なものだったけど、ここ最近の訓練や彼から貰ったアドバイスで、色々と細かい指定が出来るようになってきていた。
先に挙げた例で言うなら、着火装置付きの爆弾を呼び出す、といった具合に。
それなら……
『気持ちを伝える』ために『あたしの気持ちが記された手紙』を呼び出すことが出来るかもしれない。
リンク無しで出来るかは不安だけど、試しにやってみよう。
(あたしの、気持ち……)
彼への気持ちを思い浮かべていく。
呼び出す対象は手紙。エクシードを、発動した。
ポス、とあたしの手に収まる封筒。
上手くいったのか……恐る恐る、慎重に封のシールを剥がして中の便箋を見る。
便箋には、思い浮かべても恥ずかしくて文字に出来なかったあたしの気持ちが書き連ねられていた。
「…………ダメ、恥ずかし……」
内容を確認するために最後まで読んだけれど、恥ずかしくて顔から火が出そう。
でも、キチンとあたしの伝えたい気持ちだとわかって。
「ホント、変わったのね。あたし」
便箋を封筒に戻して封をする。
時計に視線を向けると、7時を回ったくらい。
明日までこれを維持するのは、きっと難しい。
それに、時間をおいてしまったら、きっと決意が鈍ってしまう。
だから。
あたしは、手紙を持って部屋を飛び出した。
◇◆◇◆◇◆
彼の部屋に着いたのは、10分ほどしてからだった。
扉を控えめにノックする。
ゆっくりと、扉が開かれた。
「こんな時間にごめんなさい。少し、お邪魔してもいい?」
まずは突然の訪問の謝罪を。
そして話がある旨を伝える。
すると、彼は嫌な顔一つせずに中に通してくれる。
彼に促されてベッドに腰掛けると、彼は机の前の椅子に座ってあたしの方を向いた。
「…………」
何も言えなくなってしまうあたし。
そんなあたしを急かすでもなく、彼はただじっと待っていてくれる。
沈黙が続いても、気まずさは無くて。
あたしは、大きく深呼吸をした。
立ち上がって、彼の前に立つ。
「こ、これ……」
口を開いて出た言葉は、意味を成すこともない震えた言葉。
同じく震えた手で、手紙を差し出す。
彼は一瞬目を見開いて、そっと手を伸ばして手紙を受け取った。
封を開け、便箋を取り出し、中身に目を通していく。
心臓が暴れ回るように高鳴っている。
答えを聞くのが怖い。
今の関係が壊れてしまうのが怖い。
彼は手紙の文字を一文字一文字丁寧に追っていき、最後まで読んだのか、便箋を折り畳んで封筒に戻した。
そして、ゆっくりと口を開く。
「まずは、ありがとう。ココの気持ちは凄く嬉しい」
そう言って、彼は封筒をあたしに差し出す。
「けど、この手紙は受け取れない」
その言葉で、目の前が真っ暗になるような気がした。
自分が今どんな状態なのか、立っているのか、それともへたり込んでしまったのか、それすらわからない。
「どう……して……?」
かろうじて出た言葉は、ただそれだけ。
掠れて、震えている声。
暗くなった視界の中で、彼はフッと微笑んだ。
身体が暖かい何かに包まれる。
あたしの耳元から、優しい声が聞こえた。
「これ、エクシードで作り出したものでしょ?持った瞬間にわかったんだ。ココの力を感じたから」
その優しい声と暖かさに包まれていると、暗くなった視界が明るくなっていくような気がする。
彼はそのまま続けた。
「ココの気持ちは嬉しい。だからこそ、ココの気持ちはきちんと残る形で受け取りたい。エクシードで作り出したものは、どうしても消えてしまうから」
「それ、じゃあ……」
「好きだよ、ココ」
涙がジワリと浮かんできた。
嬉しくて、嬉しくて。
多分今までで一番嬉しかったかもしれない。
あたしを抱き締める彼の背中に、あたしも手を回す。
「形に残るように、また書いてくれる?」
「それは、恥ずかしいから嫌」
「残念」
残念と言いながらも、『わかってた』と言いたげに笑う彼。
そんな彼につられて、あたしも自然と笑ってた。
手紙を書くのは嫌だけど……
「あなたのこと、好き」
「うん。僕もだ」
言葉に出すのは、嫌じゃ無くなったかもしれない。