少し口調とか諸々違和感あるかもしれませんが、ご了承ください。
あと、筆者はアプリのストーリーとか全然追えてないので、あくまでIFストーリーと思ってください。
親子、兄弟、姉妹。
これらの関係は、些細な事ですれ違ってしまうものだ。
友人や赤の他人よりも近いからこそ、少しのズレがより大きなズレとなる。
いつも一緒にいたからこそ、それは致命的なズレになる。
「はぁ……」
私──ナツナ・トオナギは悩んでいた。
自室の机に向かい、目の前の窓から空を見上げては溜息をつく。
その悩みは他でもない、姉のこと。
幼い頃は共に青の世界──地球に住んでおり、私が緑の世界──グリューネシルトに渡ってしまったことで数年の空白が生まれた、実の姉。
世界接続によって地球とグリューネシルトが繋がったことで再会を果たした、遠薙深雪のことだ。
「やっと、会えたのにな……」
私は再び大きく溜息をついた。
ずっと会いたかった。本当に会えるとは思っていなかったけれど。
会えて嬉しかった。
なのに。
「なんて話しかけていいかわからない、なんて……変よね」
何年も何年も離れていて、どう接していいのかわからなくなってしまった。
昔は何も考えずに、一緒にいるだけで楽しくて、いつも笑っていた気がする。
遠い昔のようで、定かではないけれど。
「悩んでてもしょうがないか。顔を合わせたら案外普通に話せたりするかもしれないし」
深雪と会ってみよう。
この時間なら、多分部活で美術室にいると思う。
決意が鈍らない内に、私は部屋を飛び出した。
◇◆◇◆◇◆
美術室前。
私は廊下から美術室の中の様子を伺う。
潜入任務とかは正直嫌いだったけど、意外と役に立つものだな、なんて自嘲しながら美術室を眺めていくと、すぐに目的の人物が見つかった。
私の視線の先にいる深雪は、キャンバスに向かって真剣な表情を向け、自分の顔や着けているエプロンに絵の具が付くことも厭わずに絵筆を動かしていた。
「凄い……」
思わず溢れたそんな言葉。
けれど、それと同時に少し寂しい気持ちも湧いてきた。
昔の深雪は絵を描いている時、いつも笑顔だった。
笑って、私に話しかけながら……
「あれ、貴女……ナツナさん?」
物思いに耽っていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、見慣れない女子生徒が立っている。
「やっぱり、深雪さんの妹さんよね?」
見た感じ、美術部員のようだった。
手には水を入れるバケツと筆。服には少しの絵の具が付着している。
作業が一段落して、道具を洗いに行っていたのだろうか。
「深雪さんに用があるなら、呼んできましょうか?」
「えっ、いや……大丈夫、よ」
女子生徒の提案を、咄嗟に断ってしまう。
今会っても、結局何を話せばいいかわからない。
「……深雪さん、凄いのよね」
「え?」
女子生徒の突然の言葉に、思わず疑問の声が出る。
美術室内の深雪の方を見ながら、女子生徒は続けた。
「見て。凄く真剣で、集中してる。深雪さんったら、集中して絵を描き始めると声を掛けても気付かないくらいでね。でも……」
視線を私の方に移し、柔らかく微笑む女子生徒。
「絵が完成すると、凄く柔らかくて可愛らしい顔で笑うの。描いている時の姿が嘘なんじゃないかって思えるほどに」
「…………昔の深雪は、描いてる時もずっと笑顔だった。楽しそうで、嬉しそうで。でも、今は……」
「楽しそうに見えない?」
コクリ、と小さく頷く。
真剣に描いているのはわかる。
集中しているのもわかる。
けど、楽しそうかと言われると……わからなかった。
「そう見えちゃうのは仕方ないかもしれないね。けど、今すぐに見せることは出来ないけど、絵が完成した時のあの笑顔は……心から楽しんで描いていないと、出来ない笑顔よ」
「けど……!」
「なにか、他に理由があったんじゃない?」
「……え?」
「昔の深雪さんが、いつも笑顔だった理由」
意味深な笑みを浮かべて、女子生徒は私の顔を覗き込む。
深雪が……笑顔だった理由……?
「思い当たらないかしら? よく考えて。
「それ……って……」
「それが、答えだと思うわよ? で、会っていく?」
本当は、今すぐ会って話したかった。
けれど、断った。
やるべきことが……やりたいことが、見えたから。
「そ。それじゃあね」
◇◆◇◆◇◆
美術室で絵を描いている時、ふと、廊下に夏菜がいることに気付いた。
扉から顔を半分だけ出してこっちを見てる。
「こっちおいで」なんて言えたらいいんだけど……
「ふぅ……」
最近、というか再会してから、夏菜の顔を真っ直ぐ見れないんだよね……
恥ずかしいとかじゃないけど、何を話していいかわからない、みたいな?
なんだか気まずい空気になっちゃって、いつも何も進展せずに別れちゃう。
そうなるのが、少し怖い。
私が絵を描く手は、すっかり止まってしまっていた。
ちらっと入口の方を見ると、夏菜は他の美術部員の人に声を掛けられて何か話しているようだった。
別のことに意識を向けようと、絵を描く手を動かし始める。
集中してしまえば、気にならない。
描いている間だけのその場凌ぎでしかないけれど、それくらいしか思いつかなかった。
しばらくして、夏菜と話していた子がこっちに歩いてきた。
夏菜は今日は帰ったみたい。
どうしても気になってしまって、私は咄嗟に声を掛けてしまった。
「あの、妹と……夏菜と、何か話したんですか?」
「気付いてたなら、こっち来れば良かったのに」
返ってきたのは、苦笑だった。
なんだか少し、はぐらかされたような気がした。
「ナツナさんがなんだか悩んでるみたいだったから、少し相談に乗っただけよ。姉妹ほど距離が近くなっちゃうと話しづらいこともあるだろうしね。…………ましてや当人だし」
最後の一言は聞き取れなかったけど、そういう事もあるのかな……
私も夏菜に言いづらいこと……あった。今まさに悩んでいることは、夏菜には言えない。絶対、言えない。
「姉妹だけあって、似たもの同士ね。貴女達」
「え?」
「悩みがあること、丸わかり」
また、苦笑。
その全てをわかっていそうな雰囲気が、不思議と心地良かった。
「大丈夫よ。深雪さんの悩みは時間が解決してくれるわ。きっと、もうすぐ」
「そう、でしょうか……」
「そうよ」
賭けたっていいわ、と。
そう微笑まれると、言葉が出てこなかった。
「それより、そろそろ片付けないと遅くなっちゃうわよ?」
そう言われて時計を見て、下校時刻が近くなっていることに気付いた私は、慌てて片付けを始める。
絵筆を水の入ったバケツに入れて、水道に向かった。
◇◆◇◆◇◆
深雪がいなくなった美術室の中で、女子生徒が1人佇んでいる。
目の前には、深雪の描いていた絵。
「なんだ、全然集中出来てなかったのね」
女子生徒はそう言って苦笑して、美術室を後にする。
美術室には、見る人によっては気付けないほど微妙に、線の歪んだ絵が残されていた。
◇◆◇◆◇◆
片付けを終え、寮に戻りながら考える。
夏菜とのこと。
時間が解決してくれるとは言われたけれど、やっぱり何かしたい。
そう思って、私はスマホを取り出して夏菜にメッセージを送ろうとした。
その時。
「深雪〜!」
遠くから、私を呼ぶ声。
聞き覚えのある声。
ずっと昔から何度も聞いていて、聞きたくても聞けない時期があって……今、1番聞きたかった声。
声のした方に向き直ると、黒いリボンで結ばれた銀のツインテールが見えた。
「夏菜!?」
物凄いスピードで走ってくる夏菜は、その手に何かを握りしめていて……あれは……
「み、深雪!」
「はい!?」
側まで駆け寄ってきた夏菜に大きな声で名前を呼ばれて、思わず私も大きな声を上げちゃった。
夏菜は凄く緊張してるみたいで、私も緊張してきて……
2人とも、何も言えない時間が続いた。
先に口を開いたのは、夏菜だった。
「あの、深雪……その……」
夏菜は顔を赤くして、それでも意を決したようで、言葉を続けた。
「絵の描き方……教えてくれない?」
そう言って、夏菜は握っていた物──ペンや絵筆などの画材を私に見せてきた。
きっと、この時の私は目を丸くしていたと思う。
だって、夏菜からこんなことを言ってくるなんて思ってなかったから。
いつの間にか緊張は何処かへ消えてしまっていて、私は笑ってた。
「な、なんでそこで笑うのよ!」
「だって、なんだか嬉しくなっちゃって」
画材を握っている夏菜の手を、その上からさらに握る。
夏菜の顔が、さらに赤くなった。
「いくらでも教えてあげるよ。昔みたいに、一緒に」
そう言って、私たちは2人で笑い合った。
会えなかった期間の分を、取り戻すように。