ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜 作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官
痛む身体に鞭打って、近くに落ちていた手頃な木の枝を杖代わりに立ち上がる。
全身の節々が悲鳴を上げ、ミシミシと骨が軋むような音が聞こえてくる気がするが、それでも無視して木の枝を地面に突き立て、それを支えにしてなんとか二本の足で立つことに成功した。
こうして立っているだけでも、膝が笑うし、目眩が激しい。
全身痣まみれで、所々に見られる切り傷や擦り傷から血が滲むが、傷はさほどでも無い。行動に支障が出る程の重傷は存在しないので、無理をすれば逃走は可能だろう。
よし。行こう。
これまでに使い過ぎて磨り減ったなけなしの気合を入れ、立ち上がり、前へと足を踏み出す。
…しかし、景色はいつまで経っても動かなかった。
ただ、間近に地面があるだけだった。
……あれ?
カビ臭い土の匂いが間近にあった。ついさっきまで確かに立っていた筈なのに、気付けば何故かボクはうつ伏せになって倒れていたのだ。
疲れてるのかなぁ………疲れてるんだよ!!と一人ボケツッコミを頭の中でかましながら、再び立ち上がろうとする。
しかし……
(あれ?何で……体…が、動かない?)
ボクの体は、その意思に反して一切の行動を起こそうとはしなかった。まるで金縛りにでもあったかのように、手を上げようとも、足を動かそうとも、体を捻ろうとも、しかし一切の動きを、自分の体はしてくれなかった。
そして気付く。
ああ、体力の限界か…。
アドレナリンの効果で無理矢理抑えられていた、これまでの逃走劇で散々溜まった疲労が、いざエリア11へと逃げようと腰を持ち上げたその瞬間に、簡単には逃さないと言わんばかりにこの身に一斉に襲いかかってきたのである。
それは仕方がないことだ。寧ろ、今までよく持ち堪えたと賞賛さえされるべきだろう。
そうして無様に地面に転がっているボクの、そう遠く無い位置に、ライゼクスに向かって放たれたリオレイアの火球が炸裂する。
高温の炎は、水っぽい草木をもあっという間に燃やし尽くし、連鎖的に燃え移ってその勢力を広げていく。それは勿論、ボクの方向にだって例外じゃあ無い。
ゆっくりと迫り来る熱に体の危機察知が働いたのか、或いは元々一時的なものだったのかはわからないが、そこで運良く金縛りのような行動不能状態からは解放された。ボクはすぐさま隣に倒れている木の枝を手に取り、杖代わりに再度立ち上がる。
目眩が激しく焦点が定まらず、さらに脳を内側から揺さぶられるような鈍い頭痛と、内臓がひっくり返るような吐き気が襲い掛かり、枝を支えにしているにもかかわらず、膝がガクガクと震えて立っていることもままならず、この状態では逃げるのにも一苦労だろう。
ようやく立ち上がったボクだが、身体が信じられないくらいに重く感じられ、再び地面に崩れ落ち、内臓がひっくり返るような激しい嘔吐感に耐えかねて胃の内容物を吐き戻した。
幸いだったのは、吐くものがほとんど存在しなかったことだろう。
……荒い呼吸を繰り返し、なんとか立ち上がる事ができるまでに息を整える。
…疲れが一気に押し寄せて来たといっても、いくらなんでもこの症状は酷過ぎる。何らかの能力のペナルティーが一気に来たと考えるべきだろうか?
状況的には「
いや、ボクは何故だかはわからないけど自分の転生特典の情報をある程度知る事が出来るのだから、それを使って調べればいい。どんな能力にもペナルティーは存在するものだ。
調べた結果、どうやらこの頭痛が「
対象の頭に触れながらの直接操作ならばここまでのデメリットは無いが、遠隔操作だと一気に副作用が強くなるらしい。因みに、強制力を上げようとしても副作用は強くなるそうだ。
遠隔操作+高強制力だとさぞかし苦しいのだろう。
まあ、そうとわかっていても使わない訳には行かなかった。リオス夫婦でも呼ばない限りライゼクスは抑えきれない。そして、抑えきれなければ、奴の目はボクに向き、ボクは抵抗すら許されずに殺されていた事だろう。
そして、この嘔吐感は、「
これも使わなくてよかった場面など一つとして無かった。
つまり、今ボクがこうなっているのは、必然なのだ。
「…はぁ……はぁ…っゴホッ……!」
激しく肩を上下させながら荒っぽく息をして、這うように地面を移動する。立ち上がるのはもう無理だ。ならばみっともなくとも這いつくばってでも逃げるべき。
湿っぽい土に掌と膝をついて、前へと進む。
……遅い。
だが、その進みは、あまりに遅かった。
いや、そもそも、ボクは正しく進めているのだろうか?前に動いているのだろうか?…それすらもわからない。
すぐ後ろ、先程までボクがいた茂みに、巨大な火球ブレスが着弾する。
ただの一撃で青々とした茂みは黒く焼け焦げ、瞬く間に灰燼と帰す。爆風がボクの体を煽り、ボクはその衝撃によって顔面から土に突っ込んだ。
「ブフッ……ッ!ペッペッ……!クソ…が。」
顔面から土に突っ込んだボクは、勢い余って口の中に入ってしまった、少し饐えていてカビ臭い土を吐き出すと、それと共に悪態も吐く。ただでさえ激しい吐き気が襲いかかってきているのに、さらにその上でコレはキツイ。
だが、それでも止まったりはしない。
いつ流れ弾が直撃するかわからない状況で、悠長に止まってなんかいられない。
前へ…前へ。
死にたく無い。生き延びたい。
考えるのはただそれだけだった。
そして、そのなけなしの願いをも、この世界は簡単に許そうとはしない。
「うぐっ…ああぁ!」
ズシャリと肉が裂ける音と共に、左足に激痛が走る。振り返ると、ボクの左足の脹脛に、欠けた爪のようなものが突き刺さっていた。
上空を見上げれば、丁度ライゼクスに飛び蹴りを当てたリオレウスが、ライゼクスの放電によって反撃を受けていたところだった。これは恐らくだが、その反撃によってリオレウスの爪の先端が欠け、重力に引っ張られて落下したのだ。
ボクの左足に向けて…。
「くっ……!」
動こうとする度に、左足に激しい痛みが熱となって襲いくる。
だが、左足に突き刺さった爪の先端を抜くわけには行かない。今抜けばリオレウスの爪に含まれている出血毒も合間って血が吹き出すことだろう。
つまり、ボクはこの枷をつけたまま、エリア11に辿り着かなくてはならない。或いは、物凄い万能性をもつ「げどく草」を入手するかだ。
取り敢えず、近くに落ちていた植物の蔓で太腿付近を強く縛って応急止血する。
タイムリミットは出血多量で死ぬまで。
いや、行動不能になるまでだから、実際はもっと短いだろう。
左足を引き摺りながら、半ば匍匐前進のように地面を這い進む。
また、地面にブレスが着弾する。
今度はライゼクスの単発雷ブレスだ。幸いにも、そこそこ離れた場所に落ちたためにボクに電撃が襲いかかってくることは無かったが、それでも凄まじい轟音が響き渡り、頭の中に反響して頭痛を加速させる。
進む。
ボクが動いた軌道をなぞるように、左足から溢れ出た赤い血潮によって道が引かれる。
それはボクの命が刻一刻と死に向かっていることの証であるが、同時にゆっくりとでも前へと進むことが出来ていることの他ならぬ証明でもあった。
進む。進む。進む。
気が遠くなる。
今のボクの命は、ただ運にのみ左右されていた。それがどれだけ異常な状況なのか、このボクでもよくわかる。
…寒い。
息が苦しい。
何処と無く暗く、
深い虚無感の中に、
孤独と寂寥の念だけがハッキリと濃く。
これが、"死"なのだろうか?
後悔の涙は流れない。ボクは精一杯頑張ってきたから。
だから、時間が戻ることもない。
死ぬ……
–––––––【巫山戯るな】
っ!!
湧き上がってきたのは、激情、憤怒と言う名の感情。
無差別で無分別な怒りだった。
考えろ。思考を止めるな。
何か在るはずだ、この状況を打開する何かが。
そうだ!ボクはこのエリアに入った時にランゴスタを一匹この手で殺めている。「姿を奪う」条件はそれだけで満たされたはずだ!
ならば、ランゴスタに変身する事も……
答えは「不可能」。
体の損傷が一定以上だと変身は出来なくなる。そりゃあそうだ。もし出来たら、変身と解除を繰り返し続ける事によって殆ど無限再生能力になってしまうじゃないか。
それに、「変身酔い」が酷すぎる。これ以上使えば何が起こるかわからない。
「
クソッ!転生特典ならもう少し役に立てよ!!
何か…無いのか!?何かっ!!
……っ!?
「
…役に立たないハズレ能力とか言っておきながら、何気にこれまで一番役立ってくれている能力。
……ある。
方法が、あるんだ…。
ただ、それをするには……心も、体も、少しばかり人間をやめないといけないかもしれない。
成功率も決して高く無い。言うなれば賭けだ。
ここに来てから、幾度となく試した、命を使った賭け。
ああ、どっちも、今更だよなぁ。
ボクの手元に「焦げたドスバイトダガー(劣化型)」が召喚される。
それを観察し、しっかりと切れ味が残っていることを確認すると、無理矢理に上体を起こし、自分の左足を見つめた。
裸足で此処まで走って来たことにより、既にズタズタで傷だらけの足。それに追い打ちをかけるように巨大なリオレウスの爪の先が突き刺さっており、そこを中心として皮膚が紫色に変色している。
「
「フゥー……」
心を鎮めるように、ゆっくりと息を吸い、次の瞬間、カッと目を見開いた。
そして、
ブチッ……!
その左足を、自らの手で、切り落とした。
ボクは◯ん◯んを◯めるぞジョジョー!!
そこを伏字にするな!