ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜 作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官
爽快さや無双とは無縁の小説ですが、それでもお気に入り登録してくださった皆様には、心のそこから感謝申し上げます。
これからも皆様の応援を励みに、誠心誠意執筆活動に従事したく思います。
勝利条件は、リオレイアから逃走し、エリア10に逃げ込むこと。
敗北条件は単純明快。死だ。
はっきり言って……いや、はっきり言わなくても、分が悪い。悪すぎる。
だけど、心が折れるほどのものではない。
そりゃあ怖いさ。ボクは転生者とはいえ生身の……しかも裸同然の人間。対するリオレイアは「森丘」を己が領域とする飛竜だ。
両者の力量差には、圧倒的な、絶対的な差がある。
だけどそれは、諦める理由にも、絶望する理由にもなり得ない。
リオレウスに胴体を齧られようが、ドスランポスに生きたまま喰らわれようが、生存を諦める理由には、なんであろうとなることは無いのだ。
何故って…そもそも、それらを苦痛に感じるのは、まだ手前が生きるのを諦めてない証拠に他ならないのだから
故に、ボクは足掻く。
さぁ、陸の女王陛下…。
「……
ボクは死んではやらないよ?
リオレイアはボクの誘いを理解してか、強靭な脚で素早く大地を蹴って噛み付いてきた。
ボクは大きく横に転がり、それを躱す。
だが直後、流れるように身を捻ったリオレイアの尻尾が、ボクに向けて振るわれる。
今度は先程のような事故では無い。故意に振られた本気の尻尾だ。少し掠りでもすればボクの脆弱な体など木っ端微塵にされてしまうだろう。
迫る尻尾に対し、ボクは敢えてリオレイアの足元にスライディングで飛び込むことでそれを躱した。尻尾回転系攻撃は懐に入れば当たらない。基礎中の基礎だ。
だが、いつまでもリオレイアの足元という超危険地帯にいるつもりはない。スライディングの勢いのままリオレイアの股下を潜り抜けると、すぐさま立ち上がって半身を捻り、女王と向き合う。
女王は自らの攻撃が躱されたことが不満なのか、ボクの無事な姿を確認して低く唸る。
一方のボクも余裕ぶってるけど内心かなり冷や汗をかいていたり。
さっきのも一瞬でもタイミングがズレていれば即死だ。そしてボクはその性質上即死からはどうしたって逃れることが出来ない。
綱渡り……いや、半透明なテグスの上を命綱無しで渡るような精密な作業。一瞬の油断が、一ミリのズレが命取り。
だけど、ボクはここを切り抜けなければならない。
リオレイアの口元に、赤き炎が灯る。ゲームでは飽きるほど見た、典型的な火球ブレスの予備動作だ。
だが、これはゲームではない。命のやり取り……と、言うにはちょっと一方的過ぎるが……である。当然、相手は生き物だ。決められた枠組みに従った動きしかしない訳ではない。予想外の動きもするし、思わぬ反撃を繰り出すこともある。
リオレイアの口内から、紅蓮の火球が解き放たれる。
ボクは当然、それを横に回避する。
火竜は……いや、火竜に限らず様々なブレスを吐くモンスターは、ブレスに反動がある性質上、ブレスを吐き出す直前にある程度ブレスの軌道を定めておかなくてはならない。だからこそ、横に回避すれば避けるのは容易とまではいかないが、不可能では無いのだ。
だが、当然モンスターの方もその特性は理解している。
故に、モンスター達はブレスを横に薙ぎ払う、や、隙を晒した相手に放つ、またはブレスの反動を利用して後ろに飛ぶ、など様々な相手にブレスを当てるための工夫をしてくるのである。
そんな中で、リオレイアがとった手段は「数撃ちゃ当たる」。つまり、連続で放つブレスであった。
三連続の業火が、「森丘」の若草を焼き払う。
ボクはなんとか一発目と三発目のブレスの間を掻い潜って直撃を避けたが、それでも高温の火球は近くを通過するだけでも肌を炙り、地面に着弾すると共に爆ぜ、熱を帯びた風圧でボクを煽った。
リオレイアの十八番の一つ、三連火球ブレス。
ただ横に避けるだけでは逃れられない、リオレイアのサブウェポン的な存在だ。
そして、これから繰り出されるのが、リオレイアのメインウェポン。
正真正銘、文字通りの必殺技。
その名も……
"サマーソルト"
リオレイアが二歩ほど下がった直後、彼女の15メートルを軽く超える巨体が、大きく縦方向に一回転する。その光景は圧巻。ぶっちゃけこうして目の前にして見ると理不尽としか言いようがない。
体が回転するに従って、リオレイアの特徴の一つである毒の棘を備えた太く長い尻尾が、地表を抉り、石飛礫を飛ばしながら、大きく一回転した。
その威力は今までの他の攻撃の比ではなく、尻尾によって弾き飛ばされただけの小石でさえ、弾丸のような勢いで飛び、硬い岸壁にぶつかって砕け散った。
今のに直撃したら、小石のように砕け散るのは自分であったのは言うまでもない。
もし仮に運が良く、万が一の奇跡が起きてなんとか生き延びていたとしても、リオレイアの尻尾の裏に無数に生える毒棘が全身に突き刺さり、毒に蝕まれて苦しむ時間が長くなるだけだろう。
もちろん、ボクはサマーソルトを必死で回避した。
極端な話、サマーソルトは強力すぎて、リオレイアの攻撃は「サマーソルト」と「突進」、「その他」という分類をしても大袈裟ではないほどの攻撃だ。直撃はおろか、掠ることすら許されない。
ゲームにおいては、リオレイアの攻撃は直線的であり、結局は多くの場合は横にずれれば回避可能だ。もちろん、例外もあるが。
だがしかし、この場合それが必ずしも適応されるかというと…怪しいところだろう。
まあ、どちらにせよ、即死の危険が最も高いサマーソルトや火球ブレスは、なんとしても避けなければならない。
いや、リオレイアが相手である場合、今の僕に必死で避けなくていい攻撃など一つもないのだが…。それどころか、リオレイアすら意識しないほんの一挙一動がボクの命を奪いに来る。
リオレイアが相手では、そもそもその体に触れた瞬間に終わりといっても過言ではないかもしれない。
ボクはリオレイアの猛攻を掻い潜りながら、逃げるための道筋を立てるために全力で思考を巡らす。
まず、人間がどんなに必死で逃げたとしても、その圧倒的体力差によって瞬く間に距離を縮められ、簡単に捉えられてしまうだろう。これが大前提。
ゲームではエリアチェンジで簡単に逃げられたが、現実はそうはいかない。それこそモンスターが通らないような隙間を使わない限りは、狙われたらずっと追って来る。
仕様はモンスターハンターワールドだ。
逃げるために小細工を打つにも、今のボクは文字通りの身一つ。そもそもそれをするための道具がない。道具を作るための道具もない。
故に、小細工でも逃げられはしない。
ならばどうする?
………そうだ、空を飛ぼう。
いや、別に狂った訳ではない。実際かなり危ない賭けになりそうだが、もうこうなったら一か八かの勝負に出るしかない。
というのも……ボクの体力がかなり消耗してきたのだ。ほんの少しだけ一般人よりいい動きができるからといって、モンスターでもハンターでもあるまいし、無尽蔵の体力がある訳ではない。現状、リオレイアの攻撃を避けるだけで精一杯なのに、この上疲れたら即★デッドである。
もちろん、その状態で逃げても女王からは逃れられない。
ならば、可能性に賭けてみようじゃ無いか。
前世のことなんて全く覚えてないけど、こう見えて自分の運には自信があるんだ!
……え?この状況に陥っている時点で運も何もあったもんじゃ無いって?キーコーエーナーイー……。
さて、では勝負時だ。
サマーソルトを終えて着地したリオレイアに、背を向けて走る。
生き物というのは、本能的に背を向けて逃げる相手には追いかけたくなるもので、案の定リオレイアも大地を蹴ってボクに追走する。
ある程度距離はとっていたものの、それはあくまで「ある程度」であり、リオレイアの地上走破力にかかればその差は物凄い速度で埋まっていく。
さらにいうならば、ボクが走った先にあるのは岩壁だ。逃げ道はなく、このままでは間違えなくボクはリオレイアとサンドイッチにされ、ぺったんこに潰されるであろう。リオレイアも当然そうなると思っていた。
だが、そんな彼女の顔に突然布が覆い被さる。
それはボクの羽織っていたローブだ。つまり現在、ボクは生まれたままの姿である。誰得ぅ〜。
ボクはそのまま岩に向かって走り、そして、大きくジャンプして岩壁を蹴り、三角飛びの要領でリオレイアの翼の付け根の辺りを飛び越す。この辺りが一番越えやすいのだ。
一方、視界を遮られたリオレイアは、止まるタイミングを見失い、轟音と共にそのまま顔面から岩壁に突っ込んだ。ただし、壊れたのは岩壁の方である。とんでもないな雌火竜。
ドゴォォォォオオオオンッ!!
空気は震え、大地は揺れ、岩がさながら散弾銃のように無差別な方向に飛び散る。それは即ち、それだけの力が、リオレイアの頭にも掛かっていることを証明していた。
……しかし、それは陸の女王たるリオレイアのプライドを、著しく傷つけた。
そして、リオレイアは、誇り高き飛竜の女王は、自らのプライドを傷つけた相手を決して許しはしない。
岩壁から抜け出したリオレイアはゆっくりとこちらを向く。
その表紙に顔を覆っていたローブが落ち、リオレイアの怒りの形相が露わになった。……あのローブ頑丈だな。
(………っ!)
息を飲む。
その表情は、何よりも恐ろしく、何よりも凶悪で、何よりも気高く、そして、何よりも美しかった。
「……怒った顔も魅力的だよ。」
ボクが薄っすらと微笑みながらリオレイアに語りかけると、彼女は炎を滾らせながら、咆哮で返事をした。
「グオォォォォオオオオアアアァァァァッッ!!!」
それは邂逅時の咆哮よりもさらに一段と大きく、より情熱的だった。
そして、ボクは知っていた。
リオレイアは……正統派飛竜骨格のホバリングが可能な飛行型飛竜は、怒りの咆哮の後、必ず空へと飛び上がる習性があると。
リオレイアが羽撃き、後ろへ飛ぶ。
リオレイアの巨体が空を飛ぶほどのエネルギーは、木の枝を大きくしならせ、無数の葉を吹き飛ばす。
ボクはその瞬間に、
軽く、平たい薬草は、怒れるリオレイアの羽撃きによって巻き起された猛烈な風圧に煽られ、他の木の葉に混じって何処へともなく飛んでいく。
……狙い通りエリア10方面に煽られたが、その行き先はわからない。
敵を見失って苛立たしげに吠えるリオレイアを尻目に、ボクは女王からの逃走に成功した。
………ちなみに、着地位置はアオキノコに変身することによってある程度調節できる。いくらなんでも風だけには任せない。木の上に引っかかったら洒落にならないからね。