機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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新作発表


プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋ではけたたましく警報が鳴り響き、機器のあちこちで火花がとび、さらには各所で火災がおきている。しかし、スプリンクラーが故障しているのか、消火はされず火災は勢いと広さを増し、艦内のあちこちで爆発が起きている。

コンソールに突っ伏したまま息絶えている乗組員。

通路に血まみれで倒れ、死んでいる乗組員。

火災が起きても消火がされていないのは、スプリンクラーの故障だけではなく、消火活動をする人間がいない事も含まれていた。

艦内はさながら地獄の様な有様である。

 

「ルリちゃん‥‥ルリちゃん‥‥!!」

 

腕の中の温もりが徐々に失われていく‥‥

それは1つの命の火の灯火が徐々に弱まり死に近づいている証拠だった。

頬から伝い手の平に落ちる液体の感触。

僕はそれを拭うことなくただ彼女を抱き締め、涙を流しながら腕の中に居る彼女の名前を呼ぶ事しか出来なかった。

僕自身も頭から出血しているようで垂れた血がポタポタと床に血溜まりを作るがそんなことを気にする余裕はない。

名前を呼ばれた事に反応したのか、唇が僅かに動き、そして咳と共に口から血を吐き出す。

白い軍服の胸元をたちまち紅く血で染め、苦しそうに息を吐く。

抱き締める腕に力を込め、強く胸に彼女の体を抱く。

やがて瞼がうっすらと開き、光を失いつつある金色の瞳が揺れる。

 

「…カ‥‥イト‥‥‥さん…?」

 

焦点の合わぬ瞳を揺り動かし、弱弱しく手を上げ僕を探す。

僕は彼女の手を握り、僕という存在を主張する。

 

「‥ルリちゃん!?気が付いた?今、助けるからね!!しっかりして!!」

 

その言葉がもはや気休めにもならない事は自分でもよく分かっていた。

彼女の様態からもう手の施し様がないことを‥‥

もう‥彼女は助からないことを‥‥

それでも、僕は目の前の現実を認めたくない、受け入れたくないのだ。

最愛の少女が逝こうとしているのに何もできない自分の不甲斐なさに涙が溢れ、怒りがひしひしと湧いてくる。

 

「‥‥泣かないでください‥カイトさん‥‥」

 

苦しそうに息をしながら、彼女はそう言って微笑む。

 

「‥‥私は…大好きな…貴方の腕の中で死ねる…こうして貴方の温もりに包まれて‥‥私は‥今‥すごく‥‥幸せです‥‥」

 

無理に長い言葉を話したせいか、言い終わらぬ間にさっきよりも大量の血を吐き、むせる。

 

「もういい!!もう話さなくていいから!!」

 

握った手が弱々しく握り返される。

呼吸は益々荒く、弱々しくなり、彼女の最後の時が迫っている事をいやが上にも予感させる。

 

「そんな‥‥嫌だ‥嫌だよ!!ルリちゃん‥僕を1人にしないでくれ‥一緒に海に行こうって‥‥2人で色んな所を旅しようって約束したじゃないか‥‥また‥‥また4人で屋台を押そうって‥‥」

 

思い出されるのは楽しかったあの頃の思い出‥‥。

ナデシコを降りて、拘留とは言え、皆で過ごした長屋での生活。そして4人で暮らしたアキトさんの住まいである4畳半の小さなアパート。

アキトさんがいて、ユリカさんがいて、そして僕の隣にはいつもルリちゃんがいた。

貧乏でお金は無かったし、生活は決して楽なモノでは無かった。それでも、そこには笑顔が絶えず夢と希望に満ち溢れていた。

そんな一時の幸せと平和を過ごした時間が走馬灯のように頭の中を過ぎる。

そうしている間にも彼女の瞼がゆっくりと閉じられていく。

握られた手からも徐々に力が抜けていく。

 

「ルリちゃん?ルリちゃん!!ルリちゃん!ルリィィィィィッ!」

 

失いたくない。消えてゆく命を呼び戻そうとして、力の限り彼女の名を叫ぶ。

共に過ごした時間、移ろい行く季節の中、数え切れぬほどに呼んだその名を叫ぶ。

 

「…初めて…名前‥呼び捨てにして‥くれまし‥‥たね‥‥」

 

目を閉じたルリちゃんが安堵したように呟く。

 

「っ!?」

 

彼女の言葉を聞いてまたもやルリちゃんとの思い出の1つが蘇った。

 

『カイトさん、いつまでも「ルリちゃん」は嫌です。子供扱いしないで下さい』

 

『えぇー で、でも、最初に会ったときからずっとこの呼び方だったしさぁ‥‥今さら呼び方を変えるなんて恥ずかしいよ』

 

『付き合っている男女の間では男性が女性の名前を呼び捨てにするのは世間の常識だと聞きましたが?』

 

『い、一体誰からそんな情報を?』

 

『自称「愛の伝道師」と名乗る落ち目の会長さんやミナトさん、メグミさん、三郎太さん、ホウメイさん、皆さん同じようなことを言っていました』

 

『そ、その件につきましては前向きに検討し、努力するよ』

 

僕はルリちゃんから視線をそらし気まずそうに言う。

 

(うぅ~なんか、腹に一物を抱えた政治家の言い訳みたいだ‥‥)

 

『はい、努力してください』

 

しかし、そんな僕の言葉をルリちゃんは信じてくれた。

結局、ルリちゃんの名前を呼び捨てで呼ぶことはなくいつもの癖でルリちゃんの名前をついつい「ちゃん」付けで呼んでしまい、そのたびにルリちゃんは訂正を要求し、僕はいつもはぐらかしてきた。

それでもいつかは恥ずかしさを感じる事もなく普通に、当たり前に彼女の名前をそう呼べる日が来るとそう信じていた。

でももう、その日はもうやってこない‥‥永遠に‥‥

それでも‥‥

 

「ああ、何度でも名前を呼ぶよ!!君望むならいくらでも!!だから、目を開けて!!ルリ!!」

 

「‥‥カイト‥‥さん‥今まで‥ありがとう‥ございました‥‥さよう‥なら‥‥」

 

握られた小さな手が僕の手をすり抜け床にパタッと落ちる。上下に呼吸をしていた胸がその動きを止める。

口元に微笑みを張り付けたまま、その唇が開かれる事はもう二度とこない。

彼女の綺麗な金色の瞳が僕の姿を写す事も永遠に無い‥‥

その瞬間、僕は永遠に彼女を‥‥最愛の少女を失った。

 

「ルリィィィィィィィィッ!」

 

まだ微かに温もりを残す身体を力一杯抱き締めて叫ぶ。

喉が‥‥体が‥‥焼けるように熱い。

頭の中が真っ白になっていく。

感じるものは彼女の最後の温もりのみ‥‥

彼女を失い、永遠とも刹那とも感じられる時間が過ぎ、ようやく頭に思考が戻ってくる。

息絶えた彼女を抱いたまま艦長席に座る。

 

「オモイカネ‥‥艦内の生存者は?」

 

《検索中‥‥検索終了‥‥艦内の生存者は1名‥‥生存者はあなただけです》

 

「‥‥味方の‥残存戦力は‥‥?」

 

《検索中‥‥リアトリス級戦艦、ライラックは中破、戦闘行動に若干の支障あるも航行に支障なし‥‥木連型駆逐艦、かげしまぼし依然奮戦中 》

 

「オモイカネ、ライラックのアララギ司令に打電‥‥『我が艦隊の任務は十分に達成された‥‥貴官は残存艦を連れ当戦闘宙域より撤退されたし‥‥』と‥‥」

《了解》

 

電文を受け取ったアララギ司令の姿が空間ウィンドウに表示される。

 

「大尉!この電文はなんだ!?」

 

「そのままの意味ですよ。アララギ司令‥‥」

 

「艦長は?‥ホシノ少佐はどうした?」

 

アララギ司令はルリちゃんの安否を確認するが僕の腕の中で眠るように息絶えているルリちゃんの姿を見て絶句した。

 

「っ!?ホシノ少佐‥‥」

 

「殿は‥‥本艦が務めます‥‥」

 

「‥‥分かった‥‥だが、必ず帰還しろよ!大尉。戦いはこの先まだまだ続く。ホシノ少佐の仇を討つ為にも必ず生き残れよ!!」

 

「‥‥善処します」

 

アララギ司令に敬礼し通信を切る。

通信を切った後の僕はどんな顔をしていたのだろう?‥‥きっと酷く醜い顔をしていただろう。

 

(火星の後継者‥‥僕から‥‥全てを奪った悪魔ども‥‥貴様らも僕と一緒に来てもらうぞ‥‥)

 

「‥‥オモイカネ、エンジン出力全開!!目標、前方敵艦隊!!」

 

《しかし艦の被害が激しくもうグラビティーブラストは撃てませんよ?》

 

「かまわない!!敵艦隊突入後、相転移エンジンを暴走。弾薬庫内にある残弾のミサイルに自爆シークエンスを強制入力!!‥‥敵を1隻でも‥1人でも多く道連れにしてやる‥‥!!」

 

《‥‥‥》

 

「‥‥オモイカネ‥‥すまない‥‥最後に僕の我侭に付き合ってくれ‥‥」

 

《‥‥了解‥敵艦隊に向け全速前進》

 

ナデシコBは既に死に絶ええつつあるエンジンをフルに稼動させ敵の真っ只中へ突っ込んでいく。

 

「ルリ‥‥これからもずっと一緒だからね‥‥」

 

僕は腕の中で既に息絶えた彼女の身体をギュッと抱きしめる。

 

「‥向こうに行けば、アキトさんにユリカさん‥三郎太さんにハーリー君‥皆に会えるかな?」

 

自分の死が刻一刻と迫っているのに不思議と恐怖は湧かない。

被弾するたびに艦が大きく揺れる。

ルリちゃんの身体を抱きしめながらもシートから倒れないようにバランスをとり、眼前の敵を睨みつける。

一方、ナデシコBがまさか特攻を仕掛けてくるとは思ってもいない火星の後継者の艦隊旗艦では、

 

「何故沈められない!?積戸気隊に攻め込ませろ!!」

 

司令官の命令で火星の後継者部隊の主力人型機動兵器、積戸気がハンドガンや対艦ミサイルを撃ちながらナデシコBへと迫る。

しかし、ナデシコBは被弾してもその足を止める事無く艦隊へと向かっていく。

 

「オモイカネ、残りのエネルギーは全て機関に回せ!!」

 

≪了解≫

 

「突っ込んで来るつもりだぞ!!落とせ!!」

 

此処で漸くナデシコBの行動を理解した火星の後継者の司令官が声をあげる。

 

「遅かったな!!」

 

敵の旗艦を捉え、思わず笑みがこぼれる。

 

「躱せ!!躱せんのか!?躱せえぇぇぇぇ!!」

 

「っ!?き、来ます!!」

 

敵旗艦の艦橋ではナデシコBの行動で騒然となるが、既に時遅しだった。

ナデシコBの行動は当然、退避行動に移っているライラックでも確認できた。

 

「アララギ司令!!ナデシコBが敵艦隊へ突っ込んで生きます!」

 

ライッラックのオペレーターがアララギに叫ぶ。

 

「何っ!?」

 

アララギの眼には小規模な爆発を繰り返し、敵弾に被弾しながらも怯む事無く敵艦隊に突っ込んでいくナデシコBの姿が写った。

やがて敵艦隊の中に入ったナデシコBは眩い光を放ち大爆発を起こし周りの敵艦を巻き込み星の海にその姿を消した。

 

 

 

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