機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ 作:ただの名のないジャンプファン
月軌道においてその日、連合宇宙軍第二艦隊と木星蜥蜴の艦隊が激しい攻防戦を展開していた。
これが後の歴史で言う第四次月攻略戦といわれる戦いである。
~連合宇宙軍 第二艦隊 旗艦 グラジオラス ブリッジ~
「前方のチューリップに重力波反応!」
「ヤンマ級以上の大型艦、来ます!」
「来るなら来い!いざとなればこのグラジオラスをぶつけるまでだ!」
第二艦隊司令官のトレードマークであるサングラスがキランっと光る。
そしてソレはチューリップから無理やり出てきた。
その艦影は‥‥
「「「「「な、ナデシコだとぉ~!?」」」」」
チューリップを無理矢理出て来たナデシコ。
一方、ナデシコを無理矢理吐き出したチューリップは異常な負荷がかかり、周りに居るカトンボ級駆逐艦を巻き込んで爆発した。
~ナデシコ ブリッジ~
「‥ン‥ン‥‥」
照明が落ち、非常灯が灯る薄暗いブリッジでルリが僅かに身じろぎして、目を覚ます。
(‥‥うぅ~頭が痛い‥‥私、気を失っていたのかな?)
チューリップに入った初日は何もやる気が起きなく、コハクの使っていたベッドで泣いてそのまま寝ってしまったルリだが、暫くして通常業務に復帰したのだった、本人が言うには「何かしている方が、気が紛れると」と言う。
しかし、ゲートアウトをする際の衝撃で気を失ってしまったようだ。
コンソールから身体を持ち上げ、辺りをキョロキョロと見回す。
両隣のシートに座るミナトとメグミもコンソールに突っ伏してはいるが、ちゃんと呼吸している事が見てとれる。
皆自分と同じくゲートアウトの際の衝撃で気を失っている様だ。
「オモイカネ」
《はい、ルリさん》
「良かった、貴方も無事だったのね」
オモイカネの無事を確認し、安堵の息を吐くルリ。
しかし、すぐに俯き暗い表情になってしまう。
《ルリさん、どうしました?》
「オモイカネ‥‥艦内検索‥‥コハクを探して‥‥」
《了解…検索中…》
ルリは火星での出来事は悪い夢だったのではないかと思う。
アレはコハクが巧妙に仕組んだ合成映像で本人はちゃんとナデシコに乗っていて私を驚かそうとしているのではないか?と、自分らしくもない有り得ない仮説を立てるが、藁にでも縋る思いでその希望を期待するルリ。
だが、現実は残酷だった。
《検索終了!!‥‥艦内にコハクさんの反応なし‥‥》
「‥そう、オモイカネ。ありがとう‥‥」
《ルリさん…》
オモイカネも心配げにルリの周囲に空間ウィンドウを展開させる。
「‥‥ゴメンね、オモイカネ。ブリッジの照明をつけて、それから現在の状況を教えて」
非常灯が消えて通常灯が点灯し、映像と解説が書かれた空間ウィンドウが開かれる。
《現在地は月軌道上。周囲では連合宇宙軍の艦隊と木星蜥蜴が交戦中》
「艦長‥あれ?」
上段にあるキャプテンシートで気絶していると思っていたユリカに声をかけるルリだったが、そこにユリカの姿はなかった。
「オモイカネ、艦長は?」
《展望室で他2名と絶賛気絶中です》
「他2名?」
《テンカワ・アキト、イネス・フレサンジュの両名です》
「テンカワさんとイネスさん…?なんでそんな所で皆さん、寝ているの…?」
≪わかりません≫
不思議に思いつつも展望室に空間ウィンドウを開く。
草原を模した展望室にはアキト、ユリカ、イネスの3人が川の字で寝ている。
しかもアキトとイネスはちゃっかり手なんか繋いでいる。
(とりあえず、艦長だけでも起こさないといけませんね)
状況が状況だけにルリはそう判断し、眠っているユリカを起こす。
『艦長、起きてください。おーい、やっほー、朝ですよー、起きてください』
だが3人ともルリの呼びかけには応えず眠ったままだった。
『艦長、艦長、艦長!』
アッカンベーをしながらルリは展望室中に空間ウィンドウを何枚も展開し、サイズも拡大して表示する。
「う、ううん…」
その時、ユリカが僅かに身じろぎしうっすらと目を開く。
「艦長?」
「…んん?…ルリちゃん…?」
ルリの呼びかけに寝ぼけ眼で答えるユリカ。
「ひょえぇぇぇぇっ!?」
ユリカが目を開いたら、展望室中に展開されていたルリのアッカンベーの姿が映し出された沢山の空間ウィンドウの数々。
起きぬけにそれを目にしたユリカは思わず悲鳴を上げる。
『艦長、通常空間に復帰しました。艦長どうしてそんな所にいるんです?』
ルリがユリカに何故、ブリッジではなく、展望室に居るのかを訊ねる時、ルリは何時ものポーカーフェイスに戻っていた。
「えっ?」
辺りを見渡すと、確かにそこはブリッジではなく、展望室で隣にはアキトとイネスが手を握って眠っていた。
「ダメ!」
ユリカはアキトとイネスの手を引き離す。
『艦長?』
「えっ?あはははは‥‥外の様子を見せて」
『了解、展望室から外の様子をスクリーンに投影します』
ルリはユリカの前に周囲で繰り広げられる艦隊戦を空間ウィンドウで中継する。
「うわぁぁぁぁー」
突如、空間ウィンドウにはバッタのドアップ姿が映し出される。
「現在、月軌道上で連合軍と蜥蜴の戦闘宙域の真っ只中です」
ルリは外の様子を見せながら現状をユリカに伝える。
「グラビティーブラスト広域放射、直後にフィールド出力最大で展開し全速後退!」
ルリは指示通りにグラビティーブラストを広域放射した。しかしユリカは周りに味方である連合軍の艦艇が展開している事をすっかり忘れていた。
~ナデシコ ブリッジ~
『何考えてんだ!?貴様ら!!』
トレードマークのサングラスが割れて、腕を包帯と三角巾で吊っている第二艦隊司令官が怒鳴り散らす。
『幸い、逸れたから死人こそ出なかったからいいものの…いいか!?そちらが攻撃を続けるなら第二艦隊の名誉にかけて迎撃する!!以上!!』
司令官は怒鳴るだけ怒鳴ると一方的に通信を切る。
「はぅ…だから誤解なのに…」
スクリーンの前で小さくなっていたユリカが呟く。
「誤解で済んだら戦争も楽だよ…」
ユリカの隣で一緒に怒鳴られていたジュンがボソリと呟く。
「ルリちゃん地球側の被害状況は?」
ユリカに言われ、地球軍の被害状況をまとめ、空間ウィンドウに表示するルリ。
艦艇被害状況
航行不能・・・・3
戦闘不能(助走可能)・・・・5
損傷・軽微・・・・6
損傷率・・・1%
人的被害
死者・・・・0
重傷・・・・5
軽傷・・・・50
※但し戦闘における被害を除く
「ほんと不幸中の幸い。怪我人もたいしたことなさなそうだけど‥‥そりゃまぁ、怒るよね‥‥」
「あの人達掠めて撃っちゃったのは事実ですからね」
「あ~あ、今頃軍人さん達に助けて貰えたかもしれないのにね?」
「せめてブリッジにいてくれたなら状況も確認できたろうに…」
メグミ、ミナト、ゴートの言葉を聞いたユリカが益々小さくなる。
「ねぇ、アキト?」
「な、何だよ?」
ユリカがエステバリスで待機中のアキトに通信を開く。
「アキトは何がどうなったのか知らない?」
「…えっ!?」
「知りたいな、知りたいなぁ~♪」
「ヒ、ヒカルちゃん」
恰好のからかいの的になったアキトは憔悴仕切った顔で何かに思い当たる。
「そ、そうだよ!!イネスさんだよ!!こんな時にあの説明好きが現れてくれてもいいだろ!?…イネスさーん!」
アキトが必死の形相でイネスを呼ぶ。
しかし、その本人はと言うと‥‥
「…ン‥ン…」
空間ウィンドウに現れたのは展望室で熟睡したまま、身をよじるイネス。
そしてその直後空間ウィンドウがイネスの眠っている姿から[しばらくお待ち下さい]の表示に変わる。
「ちょっと!!イネスさん!!おーい!!」
[しばらくお待ち下さい]の空間ウィンドウに叫び続けるアキト。
その間にもクルーの疑惑の視線は益々強まる。だが、アキトの助け船は意外な所から現れた。
「あ~っ、もぉーうるせぇー!!テンカワが何処で何してようといいじゃねえか!!オレはテンカワを信じる!!」
リョーコが突然大音量で通信に割り込んで来る。
責められるアキトを見るに見かねて割って入ったリョーコだったが、その行動が墓穴を掘った事にまでは気付いていなかった。
「「へぇ~」」
ニヤリと笑いリョーコを見つめるヒカルといつの間にか空間ウィンドウを開いていたイズミ。
「な、何だよ…?」
そこで、自分が墓穴を掘った事にようやく気付いたリョーコ。その頬が僅かに赤く染まる。
「「オレはテンカワを信じるぅ~?」」
何時ぞやの火星の時の様にリョーコの台詞の声真似をするヒカルとイズミ。
「う、煩いぞ、お前等!今は待機中…!」
「「テンカワ、テンカワ、テンカワ…」」
「クゥゥゥゥゥ…」
顔を真っ赤にして肩を震わせるリョーコ。癇癪を起こす一歩手前で、彼女の助け船もまた意外な所から現れた。
「…敵、第2波来ます」
木星蜥蜴とルリだった。
「よ、よし!行くぞ、オメーら!オレに続け!」
顔を真っ赤にしたまま、リョーコはいち早くカタパルトに飛び乗って宇宙へ飛び出していく。
リョーコが自らの発言で墓穴を掘っていた頃、連合軍陣営左翼側では‥‥
~ナデシコ2番艦 コスモス 格納庫 重力カタパルト~
「聞いたかい?ナデシコがどうやら戻って来たみたいだよ」
「そうみたいですね‥‥はぁ~」
「ん?どうしたの?溜め息なんてついて」
「これからナデシコへ戻ると思うとなんか気が重くて‥‥」
「どうして?ナデシコには君の大切な人がいるんじゃないの?」
「確かに大切な人なんですけど、恐らく‥いや、絶対ルリに怒られるよぉ~!!」
ヘルメット越しに頭を抱え、苦悩するパイロット。
「それならあんな別れ方をしなければ良かったじゃないか」
「自分でも後悔しています‥‥」
「ハッハッハッ、君も若いのに苦労しているねぇ~」
「その言葉そっくりそのまま貴方にお返しします。貴方だって危険な前線に態々出て来なくてもいいのに‥‥」
「実際にその現場で、直接見なければ分からないこともあるんだよ。特に大きなビジネスチャンスがある時にはね。それじゃあ、そろそろ行こうか?」
「はぁ~‥了解」
コスモスのカタパルトから2機のエステバリスが発進していった。
~月軌道 戦闘宙域~
「各自散開! 各個撃破!」
リョーコの指示が飛ぶ。
「作戦は?」
「状況に応じて!!行くぜ!!」
「「「了解!」」」
各機は敵を求めて散らばっていく。
「いっただき~♪」
ヒカルが真正面から迫るバッタの一群と接敵する。
射撃でバッタのフィールドに穴を開け、自機のフィールド・アタックで撃破する必勝の攻撃をするヒカル。
しかし‥‥
「ええ~、ウソ~!10機中3機だけぇ~!?」
予想外の低スコアに驚くヒカル。
フォローに回ったイズミがライフルを放ちながら呟く。
「バッタ君もフィールドが強化されているみたいね」
「進化するメカ?」
ヒカルの呟きに不適な笑みを見せるリョーコ。
「上等じゃねえか…こちとら、ド突き合いの方が性に合ってんだよっ!」
リョーコは次々とバッタを殴りつけ、破壊する。
「それよか、テンカワはどうした?テンカワ!!」
戦闘が始まって以来、アキトと一度も通信を交わしていない事に気付くリョーコ。
急いで広域センサーを起動して、アキトを捜す。
その頃、アキトは戦闘宙域の外れでバッタの放つ執拗なミサイル攻撃に追われていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…、うわぁぁぁぁぁっ!」
背中にミサイルを受け、反転してバッタに銃撃を浴びせる。だが、ろくに照準していない弾丸はバッタに当たることもなく、かすりもしない。
やがてバッタに距離を詰められ、フィールドを纏った体当たり攻撃を浴びるアキト機。そして何度目かの体当たりでライフルを落としてしまう。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
アキトの叫びはブリッジにも届いていた。
「テンカワ機、完全に囲まれました」
ルリの報告がブリッジに響く。
「…どうしたんだよ、俺…手が…手が動かない…!うわぁぁぁぁぁっ!」
アキトの悲痛な叫びに耐え切れなくなったメグミが声を上げる。
「早く救援を!」
「言われなくても向かっているよ!!」
メグミの叫びをリョーコの叫びが遮る。
「…どうしちゃったんだよ…もう平気になったはずなのに…怖くなんてなくなったはずなのに…どうして‥‥?」
IFSインターフェイスにおいた右手がカタカタと震える。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハッ!?」
アキトの脳裏にはコロニーで知り合い、約束を果たすことも守ることの出来なかった少女‥‥
群がるバッタ‥‥
爆発するクロッカスに残った瓢提督‥‥
そして自分に戦う術を教え、瓢提督同様、爆発するクロッカスに残った金髪の少女‥‥
それらの姿がアキトの脳内にフラッシュバックした。
「こ、コハクちゃん‥‥」
アキト機は敵の真っ只中にあり、リョーコ達が救援に向かっているが間に合いそうにない。
ナデシコのグラビティーブラストではアキト機を巻き込んでしまう恐れがある為に使用できない。
アキトはまさに絶体絶命だった。
バッタの包囲網が狭まっていき、やがてバッタがアキト機目掛けて襲い掛かってきた時、どこらかともなくレールカノンを装備した白い機体と9門のビーム砲を備えた円錐形の機動兵器、更にそれよりも小さな2門のビーム砲を装備したスクエア形の小型機動兵器がビームでアキト機に攻撃を仕掛けてきたバッタを全て撃破した。
その後、白い機体は小型機動兵器と共に敵の群れの中へ突っ込んでいった。
「スゴイ‥‥」
ブリッジで誰かが呟く。
ルリの目線はその純白の機動兵器に釘付けになっていた。
「艦長、本社のほうが艦長にお話があるそうなんですが‥‥」
ブリッジで戦闘を見ていたユリカにプロスペクターが話しかける。
「しゃ?」
ユリカはジュンにブリッジを任せ、プロスペクターと共に通信室へと向った。
「テンカワ!」
白いエステバリスと小型機動兵器がバッタをひきつけている間にリョーコ達がアキト機の元へ急いでいた時、突然青い機動兵器が立ち塞がる。
エステバリスのようだが自分達の乗っているものとは違う機体のようである。
「戻りたまえ。ここは危ない!全員離脱したまえ!」
「誰だ、貴様!」
リョーコが突然現れ、自分達に命令するエステバリスのパイロットに叫んだ瞬間、
背後からグラビティーブラストが放たれる。
「なにっ!?」
だがそれはナデシコの物とは比べ物にならない程、強力な一撃だった。そのグラビティーブラストの様子はブリッジからも捉らえていた。
「敵2割の損耗を確認」
ルリが先程の多連装のグラビティーブラストによる成果を報告する。
「ウッソ~!?」
ミナトが目の前の光景に信じられないと言った様に声を上げる。
「…多連装のグラビティーブラストだと!?」
ゴートも席を立って食い入るようにその様子を見つめている。
多連装のグラビティーブラストを装備したコスモスと純白の機動兵器の登場で戦局は一変し、木星兵器は一端後退した。
木星兵器の脅威が一時去り、ナデシコは船体修理の為、ドック艦でもあるナデシコ2番艦、コスモスへと収容された。
白いエステバリスと機動兵器が戦場を縦横無尽に駆け回り、残敵を掃討しているその間に青いエステバリスがアキト機を抱えてナデシコへとやってくる。
本社との協議を終えアキトを心配したユリカ、そして新型のエステバリスの操縦者を出迎える為、ナデシコの主要メンバーもやってくる。
格納庫に着いたと同時に整備班がアキト機に取り付き、コックピットからアキトを引き摺り出している時、ウリバタケは青いエステバリスに取り付いていた。
「何だ!?何だ!?これは!?新型かよ!?顔が違う!ジェネレーターもコンパクト!!おまけにお肌もスベスベ~」
「「「一生やっていろ!」」」
パイロット3人娘はウリバタケの行為を異常者のように見て言い放つ。
「でも新型なんていつ作ったんだ?」
リョーコが謎の新型機に疑問を抱き、
「あたしらのエステちゃんが新型だって聞いていたのにね。プンプン」
ヒカルは自分達がだまされたと思い、不満を言う。
『そいつは違うな』
青いエステバリスのコクピットが開き、そのパイロットが姿を現す。
「お前は誰だ!?」
ウリバタケがメガホンで現れた男に呼びかける。
「僕はアカツキ・ナガレ。コスモスから来た男さ」
コクピットから飛び降り、集まったクルーの前に降り立つアカツキ。
髪を掻きあげ、ポーズを決める。
そこへ、残敵を駆逐してきた白いエステバリスがナデシコの格納庫へ着艦した。
背中や腰部には先程エステバリスの周りを飛んで、攻撃していた機動兵器がくっついている。
「おぁ~こいつも新型かよ!しかも今までに見たこともない兵器を搭載してやがるぜ!しかも!砲戦フレームとは一味違うずっしりとした重装なフォルム!スムーズな動作に柔軟な関節部! しかもこのサイズであれだけの高出力! おまけにお肌は真っ白でツルッツルぅ~!!」
今度は白いエステバリスにも張り付いて狂喜乱舞しているウリバタケ。
「アカツキさん、先程は助かりました。ところであの、白いエステは何なんですか?それにパイロットさんは誰ですか?」
ユリカ達は新型機に張り付いているウリバタケを無視し、アカツキに白いエステバリスとパイロットについて尋ねる。
「ちょっとは僕の方にも興味しめせよなぁ‥‥まあいい、紹介するよ」
そう言ってアカツキは白いエステバリスの説明をする。
「この機体は次世代エステバリスの試作機で開発コード『プロヴィデンス』、主力搭載兵器は無線式全方位攻防システム、通称『Dシステム』。従来のエステバリスとは全く別のコンセプトで開発された機体だよ‥‥ただあまりにも気難しいジャジャ馬なんで、今乗っているパイロットにしか扱いきないんだよね‥‥」
ウリバタケは依然としてこの機体に興味を示しているが、クルーの関心はそのパイロットに向けられていた。
「で、その肝心なパイロットは誰なんだよ、ロン毛?」
「…ロ、ロン毛?」
ことさら不機嫌な顔を作るリョーコのオーラに圧倒されるアカツキ。
「この機体のパイロットは元々ネルガルのテストパイロットでね、この機体もDシステムもこのパイロットが設計したものさ。それに実戦デビューしてまだ半年だけど、もう二つ名を与えられているんだよ。その名も“金色の戦乙女(こんじきのワルキュー)“って呼ばれているよ」
「金色の(こんじきの)‥‥」
「ワルキューレ?」
リューコとヒカルが二つ名を分けて言う。
「でも、なんでそんな二つ名が?」
メグミがアカツキに尋ねる。
「由来はパイロットの特徴と転戦理由かな?‥‥いつも木星兵器に押され気味の戦線に移っては常に前線の陣頭に立ち、敵を殲滅して味方を勝利に導いてきたからね」
「なるほど」
「ワルキューレってことは、パイロットの人は女性の方なんですか?」
ルリがアカツキに尋ねる。
「うん、そうだよ。おっ、どうやら降りてくるみたいだ」
アカツキの言葉にクルーの視線がプロヴィデンスのコクピットに集中する。
そこに現れたのは白いフルフェイスのヘルメットにヘルメット同様、白いパイロットスーツを着たパイロットだった。
「随分と小柄な人ですね」
「まぁ、女なんだし小さくても不思議じゃねぇだろう」
ユリカが第一印象を述べるが、ウリバタケが女と言うことで小柄なのは納得している様子。
しかし、同じ女性パイロットであるリョーコとヒカルは違和感がある様だ。
「でも、パイロットにしては小さすぎない?」
「ああ」
ナデシコクルーの代表としてまずユリカが前に出て挨拶をする。
「始めまして!あのっ、さっきはアキトを助けて貰ってありがとーございました!私は、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカです!ブイッ!」
「え、えっと‥‥」
ユリカのテンションに戸惑っているのか、オドオドしているパイロット。
そして被っていたヘルメットを取ると、そこには皆の知っている顔があった。
ヘルメットの下には長い髪の毛をヘヤピンで纏めているコハクの姿がそこにあった。
「「「「コハクちゃん!!」」」」
ルリ以外の皆は声を上げ、驚き、
「っ!?」
ルリはコハクの顔を見て思わず一瞬試行が停止してしまった。
「えっと‥‥その‥‥皆さん‥ただいま‥‥」
バツ悪そうに挨拶をするコハク。
「ルリちゃん?」
そこにユリカを押しのけ、ルリがコハクへと近づく。
ユリカは普段のルリっぽくない雰囲気を感じ、恐る恐るルリに声をかけるが、ルリはそれを無視して、コハクの前に立つ。
そして‥‥
パンッ!!
乾いた音が格納庫に響いた。
ルリがコハクの頬を思いっきり引っ叩いたのだ。
しかも目には涙を浮かべている。
叩かれたコハク自身もそれを見た格納庫にいる全員も唖然とした。
「ふざけないで!!勝手に危険な事をして!!私がどれだけ心配したと思っているんです!?それにロボットに乗って戦場に出るなんて!!なんで‥‥なんで、そんな無茶を‥‥なんで!?」
「‥ゴメン‥ルリ。でも、あの時はああするしかなかった‥‥そうしないと皆が死んでいた。僕はナデシコを‥ルリを守るために‥‥」
コハクがそこまで言うと再び格納庫に乾いた音が木霊する。
パンッ!!
「ふざけないでっ!!」
ルリは再びコハクの頬を引っぱたき、生涯にして初めてじゃないかと思うぐらいの大声をはりあげ、コハクの言葉を遮断した。
そして両手でコハクの胸倉を掴む。
「私は今まで、コハクに守ってもらおうと思った事なんて無いっ!!ナデシコを‥私を守るため!?ええ、確かにナデシコも私も無事です!!でもっ!!でもっ!!私を無視して勝手なことを言わないでっ!!」
「‥‥」
コハクは何も言えない。
いや、言えるはずがない。
この場合何を言っても‥謝っても今はルリを傷つけるだけだ。
ナデシコを‥ルリを守った代償に、そのルリの心を傷つけた。
その事実を痛感しているだけに、何も言えない。
「何か言いなさいよ!!何か言い訳してよ!!ぐすっ、ぐすっ……ばか!コハクのばか!‥‥いっしょに、なかま、おなじ、ひとが、いて、うれし、かった……の、だから……いっしょに……いた、い……のに……私を無視して勝手なことを!!」
ルリは泣きながら、今までの悲しみと不安を全て怒りに変えてコハクにぶつけた。
「危ないことをして‥‥勝手なことをしてごめんなさい‥姉さん‥‥」
コハクがルリを「姉さん」と呼んだのはこれが始めてである。
始めて姉さんと呼んでみると、心の奥が暖かくなるような、そんな感じすらした。
「‥僕を‥こんな僕を妹と‥‥家族と言ってありがとう」
「‥‥」
ルリは一応、泣き止んだようだがまだとても怒っている。
「ぐずっ………姉を泣かす悪い子にはお仕置きです」
そう言ってコハクの手を引き、ルリは格納庫を後にした。コハクも無抵抗のままルリに引かれていった。
「成程、彼女がナデシコに帰りたくても帰りたくない理由ってのが、分かった気がするよ」
アカツキはルリによって引かれていくコハクの後姿を見ながら呟いた。
その後姿は味方に勝利をもたらしてきた戦乙女の面影は全く無く、姉に怒られている年相応の少女の姿だった。
~デシコ ブリッジ~
「アカツキ君の言う通り、少なくとも火星での戦いから地球時間で八ヶ月が経過しているのは事実ね」
ブリッジに集まったクルーにイネスが電子黒板を使い説明を始める。手には指示棒を持ち、ご丁寧に頭には博士帽を被っている。
「ちなみに、その間にネルガルは連合軍と和解し、新しい戦艦を作って月面奪還作戦を展開中。で、私の見解では…」
「あー、まあまあ…。細かい所はまたの機会に」
イネスの説明が長くなりそうだと直感したプロスペクターが話に割って入る。
説明を途中で遮られ、イネスは面白くないといった表情を作るが、プロスペクターは気にする様子もない。
「で、ネルガル本社は連合軍と共同戦線をとるという事になりまして…ね、艦長?」
「…はい、それに伴いナデシコは地球連合軍・極東方面艦隊に編入されます…」
ユリカが沈んだ表情でプロスペクターの言葉を受け継ぐ。
「「「「「「「ええ~っ!?」」」」」」」
その言葉にクルーの間からどよめきが上がる。
「私達に軍人になれっていうの?」
ミナトが険しい表情でユリカとプロスペクターを見つめる。
「そうじゃないよ。ただ、一時的に協力するってだけさ」
アカツキがミナトの手を取る。
「誰?あんた?」
ミナトは自分の手を取っているキザな男に名を聞く。
「アカツキ・ナガレ。コスモスから来た男さ‥‥まぁ、さしずめ自由の旗の下宇宙を流離う海賊みたいなもんさ‥‥ホント…君みたいな人に無骨な軍隊は似合わないんだけどね」
「…火星は?」
ミナトはアカツキの手を振払い、詰問口調で続ける。
「…そうだよ。火星は…火星は諦めるんっスか!?」
ミーティングが始まって以来、俯いたままだったアキトが顔を上げる。
「もう一度乗り込んで勝てますか?」
「それは…」
「勝てなくても、何度でもぶつかる等という事に何の価値もありませんし、当社としてもそのような損害は負い兼ねます」
プロスペクターの言葉に再び俯くアキト。
「…戦略的に見れば、連合軍と手を組むのが妥当かもしれない」
「俺達は"戦争屋"ってか~!?」
「それが嫌なら降りればいいじゃないか。給料貰ってさ」
ジュン、ウリバタケ、アカツキの言葉をアキトはただ俯いて聞いていた。
「…で、コハクはどういう事なんだよ?何でアイツがエステのパイロットなんてやってんだ?」
話が一段落した所でリョーコが口を開く。
「コハク君はナデシコが火星で消息を絶って一週間くらいした頃、突然ネルガルに現れたんだよ。火星からどうやって脱出したのかは僕も聞いてない。その後、さっきも言ったとおりコハク君はネルガルで、エステバリス・カスタムとプロヴィデンスの設計・開発、それとテストパイロットをしていたんだ」
「で?コハクはこの後もエステのパイロットを続けるのか?」
リョーコがコハクにこのままアキトの様にサブオペレーターを兼任しつつエステバリスのパイロットをやるのかを聞き、
「そうですな、その方が戦略的にも有利ですし、どうです?サブオペレーター兼任ということで‥‥お給料も危険手当等がつきますので、今よりももっと上がりますよ」
プロスペクターがコハクにこのままエステバリスのパイロットを継続させようとすると、
「ダメです!」
ルリがそれを却下する。
「しかし‥‥」
「ダメです!」
「ですが‥‥」
「ダメです」
「でも‥‥」
「ダメです」
「‥‥」
「ダメです」
ルリはあの交渉術に秀でたプロスペクターに有無を言わせずコハクがエステバリスのパイロットになることを阻止した。
・・・・続く
※今回コハクが搭乗したエステバリスの外見はその名前の通り、ガンダムSEEDに登場したプロヴィデンスガンダムをベースに大きさはエステバリスより一回り大きく、顔の部分は、スーパーロボット大戦OGシリーズに登場したゲシュテルベン改2号機の顔をイメージして下さい。