機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第12話

 

 

 

 

 

 

 

~地球圏 月軌道付近~

 

現在ナデシコはナデシコ2番艦、コスモスに収容され、火星で傷ついたその船体を修理中。

火星からの救助者もコスモスに移乗し、ナデシコの修理が終わり次第、コスモスは火星からの救助者を乗せて地球へ帰還する予定である。

そして木星蜥蜴の攻撃も現在は休止中なのでパイロットは束の間の休息を取っていた。

そんな中、アキトは部屋でゲキガンガーのビデオを見ていたが、そこへアカツキが来てアキトを挑発する。

売り言葉に買い言葉でアキトは誘われるままトレーニングルームでアカツキと無重力バスケをやることになった。

慣れない無重力環境の中でバスケをやると言う事で悪戦苦闘するアキト。

そこにルリからのお仕置きを終えたコハクも乱入し状況は一転、最終的にコハクの1人勝ちとなった。

無重力バスケの試合終了と同時に木星機動兵器の襲来があり、エステバリス隊は直ちに迎撃に向った。

 

「深追いはするな!」

 

先程の戦闘の事もあり、ゴートがパイロット達に注意を与える。

 

「「「「「了解!」」」」」

 

パイロットの返事が綺麗に重なる。

 

「フォーメーション、鳳仙花で散開!」

 

リョーコの合図に各機が散開する。だが、アキトはまたしても反応が遅れてしまう。

フォーメーションから外れたアキト機にバッタが殺到する。

 

『おいおい、テンカワ君。何をやっているんだい?…まあ、君らしい実に安全で良い戦い方だ』

 

アカツキがからかうような口調でアキトに通信を開く。

 

『うるさい!!俺は戦いを好きでやっているんじゃない!!』

 

『だったら何でナデシコに乗っている!?』

 

『っ!?』

 

アカツキの言葉にアキトの目が見開かれる。

アカツキの問いを聞いて機動を止めてしまったアキト機。

そこへ真正面からバッタが突っ込んでくる。

アキト機はそのバッタを受け止め、殴りつける。

 

『ちっくしょぉぉぉっ!いいじゃないか、乗っていても!!』

 

何度か殴りつけた時、バッタのスラスターが壊れたのか、アキト機を中心に回転を始め、明後日の方向に飛んでいく。

 

『おい、テンカワ!!バッタを離せ!!』

 

『聞いてないね。アレは‥‥』

 

リューコがアキトに通信を入れるがアキトはパニック状態になっており、リョーコの言葉が耳に入っていないようだ。

 

『うわぁぁぁぁぁっ!!』

 

アキトはバッタを抱いたまま月の裏側の彼方に消えていった。

当然、ナデシコの重力波ビームの圏外であり、エステバリスは外部外部活動用の補助バッテリー運転となる。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

『遭難!?』

 

アキトの現状にブリッジ要員は思わず声を上げる。

 

「それで、テンカワは自力で戻って来れるのか?」

 

ゴートがウリバタケに尋ねる。

 

「無理だな。ナデシコからの重力波ビームが切れるって事は、エステの補助バッテリーで飛ぶしかない訳で…まっ、5分も飛んで終わりだ」

 

アキトも恐らく補助バッテリーに変えているだろうが、5分経っても戻ってこない所を見ると、アキトはかなり遠くへと飛ばされた事になる。

 

「遭難した時はその場から動かないって言うのが常識だから、テンカワ君もそうしているさ、きっと!」

 

暗い顔をしていたメグミを元気づけるようとジュンが声をかける。

 

「そーよ、リョーコちゃん」

 

「…うん」

 

ミナトも同じように暗い顔のリョーコを慰める。

リョーコとしてはあの場に居ながらアキトを救えなかったと言う悔しさがあった。

 

「現在、テンカワ君の現在位置はこの辺りだと推測される。こっちから近づければ帰還の可能性は大ね」

 

イネスが戦術画面を表示させる。

 

「しかし、ナデシコは現在修理中でして…この状態で出撃しては恰好の的です」

 

プロスペクターも弱り切ったという顔で告げる。

修理中でナデシコはフィールドも武器もその殆どが使用不能。

当然、ナデシコを収容しているコスモスも動けない。

エステバリスも航続距離の問題でアキトを迎えに行くのも不可能。

沈んだ表情を浮かべていたユリカだったが、すぐに顔を上げるとアカツキに尋ねる。

 

「アカツキさん、コスモスにノーマル戦闘機ってありますか?」

 

「あるけど…どうするんだい?」

 

アカツキが不思議そうにユリカに聞き返す。

 

「アキトを迎えに行きます!!」

 

意気込みながらポーズを決めるユリカ。

しかし、

 

「駄目です!」

 

ユリカの提案を即座に否定したのはコハクだった。

 

「ええ~!!どうしてぇ~?コハクちゃんはアキトの事が心配じゃないの!?」

 

ユリカがコハクに頬を膨らませて抗議する。

 

「勿論心配しています。ですが、主力が退却したとはいえ、この辺りにはまだ木星兵器がうろついているんですよ?そんな中、準備もなしに行けば二重遭難の危険性があります」

 

「うぅ~‥‥」

 

コハクの正論に黙り込むユリカ。

 

「じゃあ、テンカワの奴を見捨てるっていうのかよ!?」

 

ユリカに代わりリョーコが叫ぶ。

 

「見捨てる訳がありません。アキトさんは僕がプロヴィデンスで迎えに行きます」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

全員の目線がコハクに集中する。

 

「でもコハクちゃん、エネルギー供給はどうするの?エステじゃ、アキトの所までは行けないよ?」

 

ユリカがコハクにさっきウリバタケが言っていたエネルギー問題について聞いてきた。

ナデシコは、今は修理中なので動かす事は出来ない。

同様にコスモスもそれは同じだ。

重力波ビームの届かないところでは補助バッテリーで動かすしかないが、先程ウリバタケがったように補助バッテリーのエネルギーでは、アキトの居る宙域まで行けても戻って来る事が出来ない。

増槽を着けたノーマル戦闘機ならば、アキトの下へ行けるだろうけど、装備されている武装や機動性が木星兵器相手ではどうも頼りない。

 

「それなら大丈夫です。プロヴィデンスの背中についているDシステム搭載ユニットを外して外部エンジンユニットを着ければナデシコから離れても4時間は動けます。さっ、ウリバタケさん。ユニットを変換するのを手伝いますからさっさと格納庫へ行きましょう。今は1分1秒も時間は無駄にできませんから」

 

「お、おう‥‥でも、いいのか?」

 

「ん?何がですか?」

 

ウリバタケは何故か顔を引き攣らせてコハクに問う。

しかし、コハクは何故、ウリバタケが顔を引き攣らせているのか分からない。

コハクがウリバタケを連れて格納庫へ行こうとすると、コハクは背後からガシッと肩を掴まれた。

 

「っ!?」

 

コハクが恐る恐る振り向くとそこには電子の鬼(ルリ)がいた。

 

「‥さっき私が言ったことをもう忘れたんですか?‥‥危ないことはもうしないって言ったばかりじゃないですか‥‥どうやら、お仕置きが足りなかったみたいですね‥‥」

 

底冷えする様な冷たい声でルリはコハクに詰め寄る。

此処に来てコハクはようやくウリバタケが何故、顔を引き攣らせていた訳が分かった。

 

「あ、あわわわわ‥‥で、でも今回はアキトさんを助けに行かないといけないし‥‥必ず戦闘があるとはかぎらないし‥‥そ、そうですよね?艦長?」

 

コハクが縋る様にユリカに振る。

 

「そ、そうだよ。ルリちゃん、今回はアキトを助けに行くだけだから‥‥」

 

艦長であるユリカもルリの迫力に押され気味である。

だが、コハクがいかなければアキトが死んでしまう恐れがあるので、此処は何としてでもルリを説得してコハクにアキトの捜索に出てもらいたかった。

 

「はぁ~‥‥わかりました。でも、今回だけですよ」

 

ルリも人の命が関わっていると言う事で今回はコハクの出撃を認めた。

 

「「「「「はぁ~」」」」」

 

周囲が緊張の呪縛から開放され、深い溜息を吐く。

 

「そんなに彼女のことが心配ならルリ君。君も一緒に行けばいいじゃないか。確かプロヴィデンスにはパイロットの他に人が乗れるぐらいのサブスペースがなかったっけ?」

 

ニヤリとアカツキが笑いながらルリにコハクと一緒に行けばいいと提案する。

アカツキは明らかに面白そうに言っている事が窺える。

それを聞き、獲物を狙う肉食獣の様な目つきになる2人の人物がいた。

 

「「コハク!!(ちゃん!!)」」

 

「はぅ!?」

 

生体兵器なのに肉食獣の様なユリカとルリの2人の視線にあてられて子羊のように怯えるコハク。

彼女の眼前には凄絶な笑顔を浮かべたユリカと氷のような無表情をしたルリがいた。

 

「な、なんでしょう‥‥?」

 

「「私を一緒に連れてって!!」」

 

ユリカとルリの声が重なり、そして2人は顔を合わせると、互いにその目から火花が出ているように見えた。

 

「アキトは私の王子様だから私がお迎えとして着いていくのが当たり前です!!それにルリちゃんはまだ、子供でしょう?まだ木星兵器がうろついている所なんて危ないよ!!だから、此処は私に任せて!!」

 

「テンカワさんの捜索には私のオペレート能力が1番役に立つはずです。それに私はコハクの姉です。妹1人を危険な場所には連れて行けません」

 

コハクの頭の上で交わされる激論。

コハクは誰かに助けを求めてブリッジにいる皆に視線を向けるが、誰も目を合わせてくれない。

それは言い出しっぺのアカツキも同様だ。

援軍は見込めない。

それに事態は一刻を争う。

そこで、2人の隙をついてこの場からの脱出を此処と見ようとするが、コハクはあっさり見つかり呼び止められる。

 

「「コハク(ちゃん)何処に行く(のかな)(んですか)?」」

 

仁王立ちする2人の前に引き据えられ床に正座させられるコハク。

 

「お、おいそれよりも早くテンカワの奴を助けに行ったほうがいいんじゃねぇか?」

 

ウリバタケが正論を持ち出し、コハクを助けようとするが、

 

「「ウリバタケさんは黙って(て!)(っていてください!」」

 

「お、おう‥‥(うひゃ~おっかねぇ‥‥)」

 

2人の猛攻の前にあえなく撃沈。

 

「こうなればパイロットであるコハクに決めてもらいましょう」

 

このままで無駄に時間を費やすと言う事でルリがコハクにパートナーを選んでもらおうと提案する。

 

「そうね、そうしましょう」

 

「えっ?」

 

ルリの提案にユリカも賛成し、コハクは苦渋の決断を迫られることとなった。

 

「ね、念のために聞くけど、僕1人で行くって選択肢は‥‥?」

 

「「ありません!!」」

 

「あぅ~」

 

コハクの提案はあっさりと却下された。

 

「「さっ、コハク!(ちゃん!)どっちを選ぶの!?」」

 

決断を迫る2人にコハクは、

 

「じゃ、じゃあ‥‥じゃんけんで‥‥」

 

と、弱々しく提案したコハクであった。

 

 

~ナデシコ 格納庫 重力カタパルト~

 

背中のDシステム搭載ユニットから外部エンジンユニットに換装されたプロヴィデンスがナデシコの重力カタパルトに設置された。

 

「…どうしたんです?さっきから随分と大人しいですけど?」

 

コハクは振り向いてサブスペースに乗っている人物に声をかける。

 

「…う、うん、コハクちゃん‥その‥‥ごめんね‥‥」

 

パイロットスーツを纏ったユリカがサブスペースから顔を覗かせて、突然コハクに謝る。

 

「えっ?どうしたんです?急に謝ったりなんかして?」

 

「コハクちゃん、ホントはルリちゃんと行きたかったんじゃないかと思って‥‥」

 

「そんな事ないですよ。それにアキトさんもユリカさんが来てくれた方が嬉しいと思いますよ♪」

 

コハクの言葉にユリカの顔がパッと輝く。

 

「そうだよね!?コハクちゃんもそう思うよね!?アキトは私が大好きだもんね♪」

 

「はい♪それでは‥‥」

 

『いってらっしゃい…』

 

突然、ルリが空間ウィンドウに現れたかと思うと、カウントダウン無しでカタパルトが起動する。

 

「えっ?ルリ‥‥うわぁぁぁぁー!!」

 

「ひょぇぇぇぇぇっ!!」

 

コハクとユリカの悲鳴が重なり、2人の乗ったプロヴィデンスは宇宙へと射出もとい放り出された。

 

「ふぅ~…」

 

コハクとユリカの悲鳴を聞きながら、ルリはブリッジで溜め息を吐く。

 

「ルリルリ‥ちょっとやり過ぎなんじゃない?」

 

ミナトが自分のシートでカウントダウン無しでいきなりプロヴィデンスを射出したルリの暴挙に顔を引き攣らせる。

 

((絶対、ルリちゃんだけは怒らせないようにしよう…))

 

それはその場に居合わせたクルーの総意でもあった。

 

 

~月軌道 アキト機 コックピット~

 

アキトはさっきの無重力バスケでの経験からエステバリスのパーツを外す爆発ボルトの反作用を利用してナデシコへ帰還しようとしていた。

 

「あんなのがヒントになるなんて、まるでゲキガンガーみたいだな…」

 

ある程度の加速が得られたところでソーラーセイルを開き、さらに加速を得る。

だがそれでもアサルトピットに残された酸素がナデシコのセンサー範囲に到達するまで保つかどうかは微妙だった。

 

(何やってんだろうな…俺…皆に迷惑かけてばっかりで‥‥)

 

溜め息を吐くアキト、そして1人でいる孤独感からネガティブな考えと陥る。

 

「…俺、ナデシコに居ない方がいいのかな…?地球に帰れたら、ナデシコを降ろして貰おうかな…」

 

アキトがそう決意を固めつつあった時、センサーに突然機動兵器とおぼしき機影が現れる。

 

「っ!?敵か!?」

 

今の状態じゃ文字通り手も足も出ない、アキトにとって絶体絶命のピンチであったが突然通信回線が開き、聞き覚えのある声と見慣れた顔が映る。

 

『アキトさん』

 

『アキト~!助けに来たよ~♪』

 

『ユ、ユリカそれにコハクちゃんも!!』

 

空間ウィンドウに現れた2人のいつもと変わらぬ笑顔が今のアキトには辛かった。

 

「お前等…どうして…?」

 

コハクはアキトの様子がおかしい事に気付く。

 

「どうしてって…コハクちゃんのプロヴィデンスなら重力波ビームの圏外でも活動できるから…」

 

ユリカはそれに気付かず、助けに来た方法を説明しようとする。

 

「違う!!どうして俺なんかを助けに来るんだよ‥‥まだ木星兵器が居て危険なのに…どうして俺なんかの為に‥‥」

 

最後の方はかぼそく呟くように言うアキト。

 

「アキト…」

 

アキトの声が震えている事に気付き、ユリカも様子がおかしい事に気付く。

牽引ワイヤーでアキトのエステバリスを牽引してナデシコへ帰還する最中、

 

「アキト、一体どうしちゃったのかな…?」

 

「‥‥」

 

ユリカが心配げに呟く。

コハクは何も答える事無くプロヴィデンスを操縦している。

無理もない月での戦闘で皆に迷惑を掛け、克服したと思っていた木星蜥蜴に対する恐怖がまた再発したのだから。

暫くの間沈黙の時間が続いたが、不意にアキトがコハクに尋ねてきた。

 

「‥‥コハクちゃん‥‥1つ聞いてもいいかな?」

 

「何です?」

 

「火星でコハクちゃんは『大切なモノの為に』って言っていたけど、それって何?」

 

「‥‥」

 

アキトのその言葉を聞いてコハクはゆっくり息を吐いて語りだす。

 

「‥‥アキトさん、今から聞くことは他言無用にしてください‥‥ユリカさんも‥‥」

 

「あ、ああ」

 

「いいけど‥‥」

 

「僕には生まれてからつい最近までの記憶がありません‥‥いや、それ以前に僕は人間ではありません‥‥」

 

「「っ!?」」

 

突然人間じゃないといわれ息を呑む2人。

 

「それってどういうこと?」

 

ユリカがその言葉の意味を聞く。

 

「‥‥僕はクローン技術とナノマシーン技術を使って作られた‥‥生体兵器です‥‥」

 

アキトとユリカはショックの余り、口が聞けなかった。

生体兵器‥そんなものはアニメ・漫画や映画、ゲームの中の産物だと思っていた。

でも、コハクは今、はっきりと自分は人ではなく生体兵器だと告白する。

 

「事情を知らなかったとはいえ、ナデシコの皆は僕を『ヒト』として受け入れてくれた…。そして、ルリは事情を知った後も僕のことを妹と‥‥家族と言ってくれた‥‥以前ユリカさんが言っていたようにナデシコは"僕が僕でいられる"唯一の場所なんです‥‥だから僕はナデシコが好きです」

 

「‥‥」

 

「コハクちゃん‥‥」

 

「…アキトさん‥アキトさんはナデシコ、好きですか?」

 

コハクはアキトにナデシコについて尋ねる。

 

「えっ?‥‥ああ、好きだよ」

 

アキトは少し考えた後、ナデシコに対する自分の感想を述べる。

 

「だったら、それでいいじゃないですか。自分の好きなモノを‥‥大切な場所を守るために‥‥アキトさんが戦う理由‥‥アキトさんがナデシコに乗り続ける理由がそれじゃあいけませんか?」

 

コハクの言葉を聞いてアキトが肩を震わせる。

 

「‥‥ユリカ‥‥俺はナデシコに乗っていてもいいのかな?‥‥こんな俺にもナデシコを‥‥自分が自分らしくいられる場所を守れるかな‥‥?」

 

「もちろんだよ、アキト!!アキトは私の王子様だもん!!絶対、絶対出来るよ!!それに、ほら!!」

 

ユリカの声と共に、白い船体が3人の前に現れる。

 

「‥‥ナデシコ?何でここに!?修理中じゃなかったのか!?」

 

アキトが驚いて叫ぶ。

 

「「「「「「「アキト~!!(テンカワ~!!)無事か~!」」」」」」」

 

アキト機のコクピットがクルー達の空間ウィンドウで埋め尽くされる。

アキトの瞳から思わず涙が零れ落ちる。

 

(‥何だ‥‥俺の大切なモノ、守りたいモノはこんなに近くにあったんだ‥‥)

 

(それにガイも地球の為に‥‥ナデシコを守る為に戦いたかった‥‥でも、あいつは戦争をしたかったわけじゃない。ただ、自分の大切なモノを守るために戦っていた‥‥俺もガイやコハクちゃんの様に自分の大切なモノ、大事な場所を守る為に戦う!!)

 

そう決意したアキトはナデシコ残留を決めた。

図らずもアキトは瓢提督の言葉の意味を無自覚で理解していた。

 

「まさか、修理中のナデシコで救助に行くと言い出すとは思わなかったな」

 

アカツキが騒がしいブリッジの中で呟く。

ユリカの代わりに艦長席で指揮を取っていたジュンが

その呟きを聞き、アカツキに答える。

 

「何と言うか、彼がいないと面白くないんですよね。僕も、皆もね」

 

そう言ってジュンはアカツキに微笑む。

 

「やれやれ、皆お人好しだねぇ~」

 

首をすぼめるアカツキだが、その声にも喜びが混じっている事に気付いたジュンであった。

アキトを無事救助後、ナデシコは再びコスモスに収容され、ユリカ達がナデシコの格納庫の一角にある更衣室で着替え終わると、プロスペクターから重大発表があるのでブリッジに至急戻ってほしいと言われ、ユリカ達は急いでブリッジへと上がった。

ブリッジに上がるとプロスペクターが重大発表の内容を集まったクルーに説明する。

 

「えぇ~本日よりナデシコに派遣された新しい提督とクルーをご紹介します」

 

するとブリッジのドアが開き入ってきた人物を見て皆は目を丸くする。

 

(あれだれだっけ?)

 

(さあ?)

 

(どっかで見たことのある顔だよね‥‥)

 

(確かアイツだ!)

 

(ねえねえ、誰なの?あの人?)

 

(オレが知るかよ)

 

意外な人物の登場にざわめくクルー達。

一部のクルーは面識のない者もいたが、それでもその思いは1つだった。

 

(((((((キノコだ!)))))))

 

「えー、今日からナデシコに乗って頂く事になりました、ムネタケ・サダアキ大‥‥」

 

「‥‥むっ?」

 

プロスペクターが大佐と言おうとするとムネタケがプロスペクターを半眼で睨み着ける。

 

「失礼しました。ムネタケ・サダアキ"提督"です」

 

「「「「「「「提督~!?」」」」」」」

 

呆気に取られる一同。

当のムネタケは両手でピースサインを作り、さかんに自らが提督である事をアピールしている。

この八ヶ月の間にムネタケは大佐から少将へ昇進し、『閣下』と呼ばれる地位に就いていた。

その彼が再びナデシコへと派遣された。

しかも提督として‥‥。

そしてもう1人、ムネタケの隣に居た黒髪の女性が1歩前に出て挨拶をする。

 

「エリナ・キンジョウ・ウォン、副操舵士として新たに任務に着きます」

 

「何で会長秘書が乗ってくるんでしょうねぇ‥‥」

 

エリナの背後でプロスペクターがボソッと呟く。

 

 

~ナデシコ 秘匿通信室~

 

「まさか、本当にナデシコに乗って来るなんてね。てっきり質の悪い冗談だと思っていたわ‥‥」

 

エリナがコンソールに向き合ったまま、背後に立つ男に話しかける。

 

「コハク君にも似たような事を言われたよ。でも、僕はいつでも本気だよ。それとも、迷惑だったかな?」

 

「ええ、とっても‥‥これね‥‥」

 

「これかい?」

 

スクリーンにはアキトが自室でゲキガンガーのビデオディスクを見ている様子が映し出されている。

 

「これが火星で観測されたテンカワ・アキトの生体ボソンジャンプの瞬間よ」

 

エリナがそう言うと、アキトの姿は部屋から展望室へと一瞬で移動した。

 

「フフフフ、いいわ‥‥彼‥‥」

 

「ようやく見つけたアダムってところかな?」

 

2人は怪しげな笑みを浮かべ、モニターを見ていた。

 

 

その夜、ユリカはアキトと通路でばったり出くわした。

アキトの手にはナデシコ食堂で使用しているオカモチがあり、その中には湯気を立てるラーメンが入っている。

 

「あれ、アキト?どこ行くの?」

 

「コハクちゃんの所、今日のお礼にね」

 

「フフっ、アキトらしいね。私も一緒に行ってもいい?」

 

「ああ、いいよ」

 

ユリカとアキトは連れ立って歩き出した。

やがてルリとコハクの共同部屋の前に来ると部屋の中からなにやら声が聞こえる。

 

「い、いや……やめて……ルリ…お願いだからもう、許して‥‥」

 

部屋の中からコハクがルリに許しを請う声が聞こえる。ただその声がなんとなく色っぽく聞こえる。

ユリカが部屋のドアに手をかけると部屋は鍵がかかっておらず開いていた。

不審に思ったアキトとユリカは顔を見合わせると、部屋の中へと入った。

 

「な‥んで‥‥お仕置きなら、昼間あんなに‥‥」

 

電気もつけていない暗い部屋で、ルリは仰向けになったコハクの上に跨っていた。

そして2人の姿はなんとも扇情的な姿だった。

下はスカートを履かず下着一枚、上はシャツのボタンを全開にした状態の2人の少女がベッドの上で戯れていた。

年齢か胸の大きさのせいか彼女達はまだブラを着けていないので、互いに乳房が丸見えである。

 

「あれは八ヶ月の間危ないことをしていたお仕置きです。今からのは火星の時と‥‥私より身長も胸も成長した罰です」

 

ルリがサディスティック的な笑みを浮かべる。

確かに八ヶ月という長い月日を外で送っていたコハクはルリよりも身長と胸の大きさが著しく成長し、反対にチューリップの中で八ヶ月という長い月日を僅か数日間の感覚しかなかったルリは全然成長をしていない。

 

「そ、そんなっ!?前半はともかく後半はルリのひがみじゃ‥‥」

 

「‥‥」

 

コハクはルリの顔を見て「やってしまった」と言う顔になる。

 

「あっ、いや、冗談です!!ごめんなさい!!口が滑りました!!ゆ、許して!!ルリ!!」

 

「許しません」

 

ルリがコハクの胸を手で強く揉み、もう片方の乳房に口をつけ、赤ん坊が母親の母乳を飲むかのように吸いつく。

 

「や、やめ‥‥ル‥ルリ‥‥ルリ‥‥」

 

ルリの行為にコハクは顔を赤らめながらルリの名前を呟く。

しかし、コハクの力をもってすれば、ルリぐらい簡単にねじ伏せる事は可能なのだが、コハクはそれをやらない。

いや、性格にはやれないのだ。

強力な力を持つ生体兵器の筈のコハクなのだが、ルリが相手だとどうしても力が出ないのだ。

その為、コハクはルリに無抵抗で彼女にされるがままの状態となっている。

ルリとコハクのとんでもない場面に出くわしてしまったユリカとアキト‥‥

2人とも顔は既に湯で蟹状態だ。

 

「あっ!アキトさん、ユリカさん!た、助けてください~!!」

 

ユリカとアキトの存在に気付いたコハクが助けを求めてくる。するとルリはコハクの胸を揉んでいる手を止め、口をコハクの乳房から離し、ゆっくりと2人の方へ顔を向けた。

 

「‥‥見ましたね~?」

 

暗闇の底から獲物を引きずりこむような声で2人に聞くルリ。(部屋も暗いので怖さ倍増)

すると真赤な顔から一転ユリカとアキトの顔が真っ青になる。

 

「うわぁぁぁー!!」

 

「ひょぇぇぇ~!!」

 

「アキトさーん!!ユリカさーん!!」

 

2人は悲鳴をあげ、その場から慌てて逃げた。

後ろからはコハクの悲痛な声が聞こえるが、2人には戻ってコハクを助ける勇気はなかった。

 

「「ゴメン、コハクちゃん」」

 

アキトとユリカは本人がいないいにもかかわらずコハクに謝るが、今のルリを敵に回してはいけない。

本能的にそう告げていたからだ。

余談であるが、アキトがコハクの為に作って来たラーメンはちゃんと無駄にすることなくユリカが食べた。

 

翌日、アキトとユリカは昨夜のことは悪い夢だと思い通常業務に徹していたが、通路でルリと擦れ違うとルリがボソッと小さく2人に囁いた。

 

「昨夜のことを他の人に言ったら‥‥わかっていますよね?」

 

「「っ!?」」

 

この一言に改めてルリの恐ろしさを噛み締めたアキトとユリカであり、2人はその場で勢いよく首を縦に振った。

ルリのお願い(脅迫)のおかげで今回は噂が流れなかったが、被害者のコハクはというとアキトとユリカに恥ずかしい姿を見られた為、また引き篭もり生活に逆戻りしていた。

 

 

 

・・・・続く

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