機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第13話

 

 

 

 

 

ある日の夜、アキトは昔の‥火星に住んでいた頃の夢を見た。

その日、アキトは近所のガキ大将とケンカをして負けた。

そして川原で1人、悔し涙を流していると、そこへユリカがやって来た。

 

「アーキート、どうしたの?ポンポン痛いの?」

 

自分を心配してくれるユリカであったが、今のアキトには煩わしい存在でしかなかった。

 

「うるさい‥‥あっちに行け‥‥」

 

喧嘩に負けて泣いている自分の姿を見られたくないアキトはぶっきらぼうに言ってユリカを拒絶する。

これがただの八つ当たりである事はアキト自身も十分理解している。

でも、男の子として自分のこんな情けない姿を女の子であるユリカにこれ以上見られたくない。

ユリカに変な心配をかけたくない。

そう思うとますます自分が惨めな存在だと感じて、アキトは膝を抱えてしまう。

でもその声の主はやさぐれている自分に対して優しく語りかける。

 

「ねぇ、元気の出るおまじないしてあげよっか?」

 

「えっ?」

 

のぞき込むユリカの顔。

そんなユリカの態度に思わず顔を上げるアキト。

 

「な、なんだよ?元気の出るおまじないって‥‥」

 

「アキト‥‥目、閉じて‥‥」

 

「?」

 

ユリカに言われるまま目を閉じるアキト。

すると、

 

チュ‥‥

 

不意にアキトの唇に何か柔らかい物が押し付けられた。

目を開けてみるとユリカがアキトにキスをしていたのだ。

子供でもこれが恥ずかしい行為だと認識は出来る。

 

「お、お前何を!?」

 

アキトは慌ててユリカから飛び退く。

 

「あははは、元気が出た♪」

 

突然キスをされて動揺するアキトであったが、そんなアキトにお構いなしに飛びつくユリカ。

そして再びアキトの唇にユリカの唇が押し付けられた。

 

「うわぁぁぁー!!」

 

アキトが飛び起きるとそこは火星の川原ではなくナデシコの自分の部屋‥‥。

当然、ガイが死んでからはアキト1人の部屋となっているので、部屋にはアキト以外誰も居ない。

 

「はぁ~もう10年以上も前の事なのに‥‥」

 

アキトは深い溜め息をついた後、自分の唇に手を当て、夢の中の‥‥10年前の思い出の感傷に浸っていた。

でも、何時までも感傷に浸っている訳にもいかない。

もうすぐ勤務時間となる。

アキトは顔を洗う為に手洗い場へと行き、顔を洗っていると、エリナから通信が入る。

 

『早くしないと提督が来ちゃうわよ』

 

「あっ、俺あいつ苦手なんでパスっす」

 

『ヤマダ少尉の事件の事、まだ疑っているの?あれは既に犯人も自首して裁判も終わった事件よ』

 

「分かっていますけど‥‥」

 

アキトにとってガイの事件は何か腑に落ちない点があった。

ムネタケが未だにあの事件と何か関わりがあると思うと、彼の事を完全に信頼は出来なかった。

 

『貴方が来ないとまた艦長がアレコレ気にするわよ?』

 

「なんですか!?ソレ!?」

 

ユリカの事を言われ慌ててエリナの方へと振り向く。

 

『別に、じゃあね』

 

言う事だけ言ってエリナは通信を切った。

アキトはムネタケを信じてはいないが、確かにエリナの言う通り、自分が姿を見せないとユリカが部屋にまで押しかけて来そうなので、渋々ブリッジに上がることにした。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「いきなりで悪いけど、命令よ」

 

ナデシコの主要クルーをブリッジに集めたムネタケが徐に口を開き命令を下す。

 

「提督」

 

ただ、ムネタケが命令を下す前にユリカが意見を述べる。

 

「なぁに、艦長?」

 

「ネルガルは軍と協定を結んだとはいえ、命令いかんによっては我々に拒否権が認められています」

 

「まぁ、一応はね」

 

「本艦クルーの総意に反するような命令に対しては、このミスマル・ユリカが艦長として拒否致しますのでご了解下さい」

 

「戦うだけの手駒にはならないって事ね」

 

「はい」

 

ユリカが決意を宿らせた眼差しで頷く。

 

「おあいにくさま、アナタ達への命令は戦う事じゃないわ」

 

「はぇ?」

 

戦闘か無理難題を押し付けられると思っていたユリカだったが、今回の任務は戦闘ではないと言う事で思わずキョトンとした表情を浮かべる。

 

「今回の任務は、敵の目をかいくぐって救出作戦を成功させる事よ」

 

扇子を開きながら今回、軍上層部から下された命令の内容を伝えるムネタケ。

 

「「救出作戦?」」

 

ジュンとゴートの声が揃う。

 

「木星からの攻撃がなくとも尊い命を守るというナデシコの使命は‥‥まっ、果たさなきゃダメよねぇ‥‥?」

 

そう言って世界地図をモニターに表示させる。

 

「このように現在2637個ものチューリップが地球上にはあるのよね」

 

世界地図の上に赤の光点で地球に落されたチューリップが示される。

 

「で、北極海域‥ウチャツラワトツスク島‥‥此処に取り残された某国の親善大使を救出するのがアタシ達の仕事よ」

 

「質問」

 

ユリカはまるで学校の先生に質問するかのように手をあげてムネタケに質問をする。

 

「今度はなぁに?」

 

「なんでこんな所に取り残されたんですか?」

 

ユリカの隣でジュンが『最もだ』というように頷く。

恐らく他のクルーも同じ疑問を抱いているだろう。

だが、ユリカの質問は最もである。

北極海域と言えば、外は強烈なブリザードが吹き荒れる最悪な環境下で、おまけに気温はマイナスの極寒の世界。

普通の人ならこのような環境で取り残される事は無いだろうし、そもそもこんな劣悪な環境の島に行きたいとも思わない筈だ。

ムネタケは扇子を口元に当て、わざとらしい悲しげな声で呟く。

 

「大使は好奇心旺盛な方でねぇ‥‥北極海の気象データ、漁場諸々を調査していたならば、バッタに襲われ、さあ大変~」

 

「はぁ~」

 

「ウチャツラワトツスク島付近の海域は今の時期、毎日のようにブリザードに覆われていて通り過ぎるだけでも大変なのよ。他に質問はないかしら?」

 

ムネタケがクルーを見回す。

皆はいくら好奇心が旺盛でもなんでブリザードが吹き荒れるこの季節にそんな所に行くのかと言う疑問を感じながらも人命に関わる救出作戦なら仕方ない、といった表情を浮かべている。

そんな中、アキトとユリカの視線が合うが、2人は気まずそうに互いの視線を逸らす。

 

「では、作戦を始めるわよ、艦長!!」

 

「は、はい!やりましょう!」

 

こうしてナデシコは親善大使が居るとされる北極圏、ウチャツラワトツスク島へ向う事となった。

作戦区域までパイロット達は自由時間。

その為パイロット3人娘は食堂で食事の後、食休みをして、アキトも今回は厨房スタッフではなく、エステバリスのパイロットとしてパイロット3人娘同様に食堂で待機していた。

 

「とりあえずオレ達、パイロットは暇だよなぁ~」

 

本当に暇そうに言いながら、リョーコがテーブルに上半身を預ける。

 

「英気を養えってか?」

 

「英気を養ってええ気に‥‥ハハハハ‥‥」

 

リョーコにならって、ヒカルもテーブルに身体を預けて、すっかりお寛ぎモードに入っている。

イズミも良く分からないが、イズミもイズミなりに寛いでいる。

 

「ふぁ~」

 

アキトが欠伸をしながら仰け反ると、

 

「鍛えられていないなぁ。まったく‥‥」

 

アカツキがアキトに話しかけてきた。

 

「テンカワ君、ちょっと付き合ってくれないかな?‥‥といってもそんな意味じゃないからね」

 

アカツキの『付き合ってくれ』の言葉に対して何か別の意味を捉えたらしく、リョーコは頬を僅かに赤く染め、ヒカルとイズミそれに同じく食堂で休憩していたウリバタケの3人はヒソヒソ話をしていた。

 

 

~ナデシコ シミュレータールーム~

 

「実は君に聞きたいことがあってね」

 

月面ステージ上でアカツキの青いエステバリスとアキトのサーモンピンクのエステバリスがシミュレーションによる模擬戦を繰り広げていた。

 

「聞きたいこと?なんだよ?」

 

「君と艦長のコトさ。艦長は随分と君にご執着じゃないか?もしかして、君と艦長は付き合っているのかい?」

 

「あ、あれは、ユリカの奴が勝手に‥‥」

 

「でも、嫌な気分でもないんだろう?ここしばらく、君の動向をチェックさせてもらったけど、全く意識をしていない、嫌っている訳でもないのだろう?」

 

「勝手に決めるな!!だいだい、それはっ‥‥!!」

 

「それともう1つ。コハク君についてだ」

 

「コハクちゃん?」

 

アキトの返答を聞く前にアカツキはコハクについてアキトに質問する。

コハクの名前が出てきてアキトは一瞬思考が停止してしまいせっかく捕捉したアカツキ機をロストしてしまった。

 

「くそっ‥‥それで?」

 

「艦長や他の人にも聞いたのだけど、コハク君は随分と君に目をかけているそうじゃないか?」

 

アカツキの言う通り、コハクは何故か自分の事を気にかけてくれる。

最初にナデシコに乗った時も自分を勇気づけてくれたし、体術の稽古や体力作り、エステバリスの操縦技術のアドバイスなど、コハクの指導やアドレスのおかげで今ではかなりアキトの腕は上達している。

 

アカツキ機は遮蔽物の影に隠れ一向に出てくる気配がないが、アキト機も遮蔽物に隠れ動かない。

お互いに動向を窺っている感じだ。

 

「実は君達がチューリップの中にいる頃、僕もコハク君にエステの戦闘技術や格闘術を教えて貰ってね‥‥そこでだ、コハク君の事は僕に任せて、君は艦長と付き合ったらどうだい?あんなにも艦長は君にアプローチをかけているんだし‥‥なあに彼女の事は悪いようにはしないさ」

 

アカツキ機が吸着地雷をアキト機の隠れている遮蔽物に投げつける。

急いでその遮蔽物から離れるアキト機。だが、地雷が爆発しその際ライフルを落としてしまった。

辺りは爆煙視界が遮られる。

すると上からアカツキ機がライフルの銃床で殴りつけてくるが、アキト機はそれを躱しナイフでライフルを持っているアカツキ機の右腕を切り落とすが、アカツキ機も残った左腕でナイフを抜き、今度はナイフ同士の近接戦闘となった。

コハクに教わったと言うだけあって左手一本でもアカツキはアキトと互角の勝負をしている。

 

「彼女は、君に強くなって欲しいみたいで、その為だけに、君に訓練を施しているだけなんだろうけど、でも本当にそれだけかい?」

 

「ん?どういう意味だっ!?それはっ!?」

 

「ちょっとは期待しているんだろう?コハク君に誉めてもらって、男として認めてもらって‥‥」

 

「っ!」

 

アカツキの言っている事は決して間違いではなかった。

事実、体力も力もつき、エステバリスの操縦技術も上っている。

それは、全てコハクが居たからこそだ。

そんなコハクに対してアキトが全く意識をしていない訳がなかった。

それが例え10歳も年下の少女だったとしても‥‥

 

「それで今後、君はどうしたいのかな?彼女もいずれは大人になる。あと5、6年も我慢すれば結婚も出来る。そのとき君はどうする?彼女を抱きたい?それとも、愛を囁きたい?それとも今から手を付けて、予約をするかい?」

 

「っ!?」

 

 

『アキトさん‥‥アキトさん‥‥もっと‥‥もっと、僕にアキトさんを下さい‥‥アキトさん‥‥』

 

 

アカツキのその言葉に先日偶然目撃してしまったルリとコハクの行為に図らずもルリの立ち位置に自分の姿を置き換えてしまったアキト。

自分に抱かれ、自分を求め、自分の腕の中で乱れるコハクの姿を思わず想像してしまった。

 

「っ!?そ、そんな挑発!!」

 

アキト機が突き技を繰り出すが、アカツキ機はそれをナイフで防ぐ。

 

「答えられないよねぇ~今の君には!!自分の気持ちさえハッキリできないような優柔不断な奴に、僕は負けるわけには行かないんだよ!!まして、そんな奴にコハク君を任せられる訳がないだろう!!」

 

「くっ‥だ、黙れ!!」

 

アカツキ機とアキト機が互いに突きを繰り出すと、同時にナイフは互いのコックピットへと突き刺さった。

眼前のモニターには『DRAW』の文字が表示される。

ぐったりとシートに身体を預けるアキト。

先にアサルトピットを降りたアカツキは、

 

「ふぅ~ちょっと汗をかいちゃったなぁ~どうだい、テンカワ君。一緒に風呂でもいかないか?裸の付き合いってヤツでも?」

 

「いや、俺はいい‥‥」

 

「そうかい。じゃ、お先に‥‥」

 

そう言ってアカツキはシミュレータールームから出ると風呂へと向っていった。

アサルトピットから降りることも出来ないまま、アキトは俯いていた。

模擬戦とは言え、戦闘中に一瞬であるが、コハクと身体を重ねる自分の姿を想像してしまった事に自己嫌悪さえ覚えてしまった。

 

「俺‥‥最低だ‥‥」

 

アサルトピットの中でアキトはポツリと呟いた。

 

 

~ナデシコ コハク・ルリ 共同部屋~

 

今回、コハクの引き篭もりは前回よりも重症で根も葉もない噂よりも自分の恥かしい姿をアキトとユリカに見られたことが一番の原因となっていた。

 

「あ~もう、こんなことなら強引にでもルリを引き剥がせばよかった」

 

部屋のベッドの上で頭を抱え、悶えながら後悔していた。

あの時はルリに多大な心配をかけたということで、お仕置きを甘んじて受けたが、まさか自分達の部屋に他の人が入ってくるのは予想外だった。

しかもロックしたドアをマスターキーで開けて入室してくるとは予想外中の予想外だった。

 

コハクが部屋で苦悩している時ブリッジでは‥‥

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「間もなくベーリング海に入ります。ブリザードの為、視界0」

 

今日も救助対象の親善大使が居る北極海域は激しいブリザードが吹き荒れている。

 

「逆に見れば敵に取っても最悪と言う訳だ。必ずしも悪くはない。」

 

ゴートの言う通り、この激しいブリザードのせいでナデシコの視界は奪われたが、それは逆に相手も同じ条件であり、まさかこの激しいブリザードの中を突き進んで来るとは思ってもいないだろうと相手も油断しているかもしれない。

 

「視認に切り替えてもそれほど障害になる岩礁もない。中央から突破できそうですね」

 

ジュンも今の所作戦は順調であることをユリカに報告する。

 

「うん、エンジン出力最小‥このまま目的地まで進みます」

 

ブリザードの中、ナデシコは親善大使が居る島を目指す。

そんな中、

 

「ねぇ、ルリルリ」

 

ブリッジでミナトがルリに話しかける。

 

「はい?」

 

「コーくん、また病気なの?」

 

ミナトはまたブリッジに姿を見せないコハクを心配し、同じ部屋のルリにコハクのことを聞く。

 

「いえ、少しお仕置きが過ぎて塞ぎこんでしまっているだけです」

 

「えっ!?それ大丈夫なの?」

 

確かにコハクがした事はミナトもルリに多大な心配をさせたと思っており、コハクがルリにお仕置きをされるのも当然だと思っていたのだが、此処まで塞ぎ込むとは逆にコハクの方を心配してしまう。

 

「大丈夫です。2、3日もすれば元気になりますから」

 

ルリのお仕置きの言葉を聞き、この前、偶然にも遭遇してしまったあの場面を思い出してしまうユリカ。

 

「ちょっと、ちょっと!!ミスマル・ユリカ!!‥艦長!!」

 

ボォーっとしていたユリカにエリナが声をあげる。

 

「は、はい!!」

 

「今は作戦行動中よ!!ボォーとしない!そんなんだから10歳も年下の少女に彼を奪われるのよ」

 

「っ!?」

 

背後に『ガーン』という文字が浮かび上がるかのようにショックを受けるユリカ。

 

「エリナさんって操舵士なのにどうしてあんなに偉そうなんですか?」

 

ジュンがプロスペクターにエリナのことを聞く。

まぁ軍人気質のジュンが不思議に思うのも無理はない。

艦の中では、提督に次ぐ地位の筈の艦長を一操舵士であるエリナが何故あそこまでの態度を取れるのかが不思議でしかたがない。

 

「なんといっても会長秘書だった方ですのでどうも高ビーな所がありまして‥‥」

 

プロスペクターがジュンに小声で教える。

 

「貴方達もよ!さっさと持ち場に戻りなさい!」

 

「「は、はい!!」」

 

2人は慌てて自分のシートに座った。

 

「いいわね、艦長。ピシッとしなさい、ピシッと!!」

 

「はぁ~」

 

(アキトはやっぱりコハクちゃんの事が好きなの‥‥?)

 

ユリカの心配を尻目にナデシコは敵の接触もなく現在順調に航行中‥‥

 

「前方障害物オールクリアー。これよりオートパイロットに切り替えます」

 

《お疲れ様です。ミナトさん》

 

操舵手のミナトの近くにオモイカネが労いの言葉が書かれた空間ウィンドウが表示される。

 

「はぁ~」

 

ユリカはまだ先程エリナに言われたことをまだ引きずっていた。

そこへ、

 

「艦長、艦長」

 

ルリがユリカに声をかける。

 

「ん?どうしたの?ルリちゃん」

 

「皆、お昼ご飯を食べに行きましたよ。艦長は?」

 

ルリはブリッジに残るユリカに昼食はどうするのかを訊ねる。

 

「いいよ。ルリちゃんも行ってきなよ」

 

「はい」

 

ルリがブリッジから出ると、ブリッジにはユリカ1人が残された。

不意にユリカはコハクのシートを見る。

そこには何時ぞやのゲキガンガーの人形がコハクの代理として座っている。

ユリカは自分よりアキトの傍にいるコハクのことをまた考えてしまう。

コハク本人はアキトに対しては、恋愛感情を抱いていないようだが、アキト自身はどうなのだろうか?

いくらアキトでも今のコハクに手を出すとは考えられないが、今後、何年もの先もそうだとはいいきれない。

それにこのままの関係で5、6年も経てばコハクは結婚可能年齢になる。

そうすればアキトは自分よりもコハクの方を選ぶかもしれない。

自分よりも10歳も年下の若い女の子‥‥。

若い奥さん‥‥。

過ごした時間という面では自分に一日の長があるが、若さと言う点ではコハクの方がかなり有利である。

いずれアキトとコハクが結ばれる。

もし、2人の間に子供が出来たら、アキトとコハクはつまり‥‥そう言う事をしたと言う事だ‥‥。

そんな考えがユリカの脳裏を支配する。

手っ取り早くアキトにコハクをどう思っているのかを訊ねれば早いのだろうが、怖くて聞けない。

もし、アキトがコハクの事を異性として好きだと自分に伝えたらと思うと胸が張り裂けそうになる。

ユリカの脳裏にはいつぞや脳裏に過ぎった白いタキシード姿のアキトとウェンディドレスを着たコハクの姿が浮かび上がる。

続いてはお腹を大きくしたコハクとそのお腹を優し笑みを浮かべて撫でるアキトの姿。

 

「そんなのダメ!!」

 

ユリカが手をつき立ち上がるとその手は1つのボタンをポチっと押していた。

 

「えっ?」

 

警報が鳴り響き、ユリカの眼前に空間ウィンドウが開く。

 

《敵発見!》

 

《迎撃!返り討ち!》

 

《自動迎撃システム作動》

 

グラビティーブラストの発射口が警報と共に開くと敵もいないのにグラビティーブラストが発射された。

その為、これまで順調に敵の目をかいくぐって来たナデシコであったが、あっさりと敵に発見された。

ナデシコは一先ず、敵の目から逃れるために、深い渓谷の底に着底して敵をやり過ごしている。

 

「重力探知による敵の数と位置です」

 

モニターにはナデシコを中心とした敵の分布図が表示される。

敵は念入りにナデシコを捜索しているみたいで、この敵の分布状況からナデシコで動くのはあまりにも目立ってしまう。

 

「ホント、信じられません!!敵を態々呼び寄せなくてもいいのに!!」

 

開口一番、エリナがユリカを睨みつけながら声をあげる。

 

「済んじゃった事はいいんじゃないの~?人生前向き、前向き~♪ハハハッ!」

 

「貴方ねぇ!!」

 

この状況でも軽い態度にお気楽思考のアカツキに対してエリナが益々声を荒げる。

 

「責任を追及されるのであれば、持ち場を離れた私の責任です。プログラム管理は私の職分です」

 

「いえ、火器管制は本来僕の管理担当ですし、迎撃プログラムも簡易的なロックをかけておくべきでした。なにより作戦中にも関わらず、引き篭もっていた僕がいけないのです」

 

今回の警報を受け、コハクも部屋から出てきてルリに何があったのかを聞いて急いでブリッジに上がった。

そして、

 

「「ごめんなさい」」

 

ルリとコハクが揃ってエリナに頭を下げる。

緊急警報のため、強制的に引き篭もりを断念させられたコハクがいつの間にかブリッジに居たのに対して誰も突っ込む人は居ないというのはコハクの存在が薄いのか?それとも気づかないだけなのか?は定かでない。

 

「うひょひょ~ルリルリとコーくん、ひょっとして艦長庇ってたりなんかして~」

 

「バカばっかもここまでか?」

 

ウリバタケとヒカルが茶々を入れるが、

 

「「バカ」」

 

2人の少女はそんな大人達を簡単にあしらう。

 

それからナデシコは敵に探知された障害物の無い西側水道航路を断念し、障害物の多い東側水道航路を選択して進んだ。

 

「まっ、座礁する確率は72%……シビアと言えばシビアな数字よね」

 

イネスさんの計算では障害物のある東の水道を通っての作戦の失敗率は72%らしい。

失敗率が7割以上なのだから、かなりの困難である。

しかも、当然と言うべきか東側の水道にも敵はいた。

作戦の失敗率を下げているのは外を吹き荒れる北極圏独特のこのブリザードの気候、氷山などの障害物だけではなかったと言う事だ。

ただし、戦艦が待ち構えていた西側水道とは違い、東側はバッタで構成される無人兵器群ではあったのが不幸中の幸いだった。

敵も氷山などでの座礁を防ぐために東側の水道には大きな艦船を配置していなかったことは幸いと言えば幸いなのだろう。

障害物が多いのでゆっくり進むナデシコ。

 

「こんなトコで足止め食っている場合じゃないのよ。親善大使が飢え死にしないように急いで頂戴」

 

ムネタケがボソリと呟く。

 

「んも~、そんな事言ったって‥‥」

 

「その前に暖房とかの燃料がなくなって凍え死んじゃうんじゃないですか?」

 

ミナトがムネタケの呟きに不満げな声を漏らし、コハクはブリザードが吹き荒れるこの悪天候な状況下で親善大使が今も生きているのかを尋ねる。

 

「…ああ、その心配はないわね」

 

ムネタケはまるで親善大使がこのブリザードが吹き荒れる極寒の寒さの中でも生きていられるかのように言う。

それに先程、ムネタケは「飢え死に」と言った。

普通このブリザードが吹く様な環境では、「凍死」「凍え死ぬ」と言う表現が的確な筈なのに‥‥

 

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

ムネタケの呟きにブリッジクルーの目が集中する。

 

「と、とにかく急ぐのよ!」

 

自らの失言に気付いたムネタケが声を張り上げる。

 

ある程度、親善大使のいる島まで接近したナデシコ。

そこからはエステバリスによる捜索と木星兵器の迎撃が行われた。

5機のエステバリスが雪の舞う北極海の空に出撃していった。

その姿をコハクはジッと見つめていた。

 

「自分も行きたいって顔ですね、コハク」

 

ルリがコハクの耳元で呟く。

 

「えっ!?そ、ソンナコトナイヨー」

 

「声、裏返っていますよ」

 

「うぅ~ルリのイジワル~」

 

頬膨らませてソッポを向くコハク。

そんな2人の様子をミナトは苦笑しながら見ていた。

 

その後、救出担当のアキトからのビーコンと応答が切れ、ブリッジは重たい空気となったが、

 

「帰ってくるよ。あの人は必ず‥‥ですよね?ユリカさん」

 

コハクがアキトは必ずナデシコへと戻ると信じ、ユリカにその真紅の瞳を向ける。

 

「そうだよね!アキトが蜥蜴に負ける訳ないもんね♪」

 

「はい」

 

根拠はないが、ユリカの力のある答えに満足そうに笑みを浮かべるコハク。

その後、エネルギーが尽きたので、流氷を筏代わりにして親善大使を救出してナデシコに戻ってきたアキトだが、その親善大使の正体が白クマということにクルーは唖然としていた。

 

「提督、親善大使ってコレの事なんですか?」

 

「ごぉぉぉ~」

 

アキトのエステバリスの掌で鳴く1匹の白クマ。

身体には何かの機材や機器がとりつけられ、首輪には『親善大使』と書かれた名札がある。

 

「えっ?いや‥それは‥‥あっ、ま、まさか軍が多大な予算をかけて、実験用器材を組み込んだモルモットの白クマを命がけで保護しろなんて言ったら‥‥だーれもやんないだろうからね~ホホホホ‥‥」

 

ムネタケは高笑いをしながら親善大使の正体を言うが、それを聞いてユリカは額に青筋を浮かべていた。

 

その後、アキトの手によって救助された白クマは軍の基地に着くまで格納庫の一角に設けられた檻の中で飼育された。

 

「ごぉぉぉ~」

 

「よ~し、よしよし‥‥」

 

「こ、コハク‥危ないですよ‥‥相手は熊ですよ、熊‥‥」

 

「えぇ~大丈夫だよ。ルリも触ってごらん。この子の毛皮、モフモフしていてとっても気持ちいいよぉ~」

 

コハクは白クマの毛皮に顔を埋めながら白クマを撫でている。

実験動物として、生まれた頃からずっと人の手によって育てられた白クマなのか、この白クマは結構人懐っこい。

その為、白クマもコハクに撫でられて気持ちよさそうに声を出す。

 

「じゃ、じゃあ‥‥」

 

ルリも恐る恐る白クマへと手を伸ばしてその毛皮を優しく撫でる。

 

「はぁ~‥‥確かにモフモフしていて気持ちいいですね~」

 

「でしょう?」

 

「「モフモフ‥‥」」

 

そして白クマはナデシコ内でコハクとルリに一番よく懐いていた。

また、コハクとルリも白クマの柔らかい毛皮の虜になった。

そんな姿を見た男性クルーの一部は、

 

(俺もあの白クマになりたい)

 

(クマのくせに‥‥)

 

と、白クマを羨ましく思う者も居た。

 

 

 

・・・・続く

 

 

 




ではまた次回。
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