機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

20 / 61
更新です。


第19話

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

「確かに何者かが乗っていた形跡があるわね‥‥」

 

ムネタケが先日、カワサキシティーにて鹵獲された赤いゲキガンガーに似たロボットのコックピットを見ながら呟く。

 

「しかし、そのようなことがあるのでしょうか?木星兵器はすべて無人兵器だった筈‥‥それに普通の生物がチューリップを通過できないって、イネス先生が言っていた筈では?」

 

整備班からの報告を受け、ムネタケとジュンが格納庫に来て横たわっている赤いゲキガンガーを見て呟く。

 

「おだまり!ともかく、艦内に潜伏中の敵パイロットの身柄を確保するのよ!それも内密に!!」

 

「はぁ~」

 

ムネタケの命令にジュンはやる気のない返事をし、ウリバタケは、

「どうぞご勝手に」と、自分らは一切関わらない姿勢を見せる。

 

「なんで俺達、整備班がそんな面倒なことをやらないといけないんだ?保安部にでもまかせればいいじゃねぇか」

 

「「「「おおおおおおっー」」」」

 

ウリバタケの言葉に他の整備班は感心し、拍手までしている。

確かにウリバタケの言っている事は最もな意見だ。

 

「そんなことそれば全部バレちゃうじゃない!パニックになるでしょう!ダメよ!上からも内密って言われているんだから!」

 

ムネタケが血走った眼でウリバタケに怒鳴る。

 

「まさかこのデカブツ、連合軍の新兵器じゃねぇだろうな?俺達、ナデシコと戦わせて実験データを取ろうとしてたんじゃねぇだろうな?」

 

「そうなのかしら?」

 

ウリバタケがムネタケにこの赤いゲキガンガーが連合軍の新兵器なのかを尋ねるが、ムネタケは知らない様子だ。

 

「まぁしかたねぇ、俺達の艦は俺達で守るか!」

 

「「「「オオ!」」」」

 

ウリバタケが重い腰を上げ、侵入者確保に動き出した。

 

 

~ナデシコ レクレーションルーム~

 

「意外ですなぁ。ネルガルの方針では当分は軍と歩調を合わせるということでしたのに、月にテンカワ・アキトを迎えに行くなんてよく許可が出ましたなぁ」

 

プロスペクターがスカッシュ卓球をしながらエリナに話しかける。

 

「4番艦が軍の管轄下に置かれる前にプロジェクトの移行を行うつもりらしいわ。最も私はテンカワ・アキトの方が重要だけどね」

 

「会長秘書さんも女性というわけですな」

 

「ゴホッゴホッ‥‥なによそれ!あのねぇ男と女見たらすぐに色恋沙汰にするのはこの艦の悪い癖よ。私はただ純粋にあの子を研究対象として見ているの、OK?」

 

飲んでいたジュースが気管にはいったのか、エリナはむせたが、程なく呼吸を整え、プロスペクターに詰め寄り、色恋を否定するエリナ。

だが、その顔は少し赤い。

 

「OKじゃあ、ありません!」

 

いつの間にかユリカがレクレーションルームに来ていた。

 

「これ以上アキトに変なことしないでください。もし、したら‥‥」

 

エリナが苦手なユリカであったが、愛しのアキトを守るために果敢に彼女に挑む。

しかし、

 

「どうするの?」

 

「えっ?」

 

「殴る?蹴る?引っ叩く?」

 

思いもよらないエリナの反撃にたじろぐユリカ。

やはり、エリナは苦手なユリカだった。

 

「わかったわ」

 

「えっ?じゃあ‥‥」

 

「ちゃんと、わかるように説明してあげる」

 

エリナの発した『説明』という言葉に対してナデシコの通路で、白衣姿の女性が敏感に反応していた。

 

 

場所を代え、和室型の談話室でお茶を入れ、コタツに入り説明をするエリナと説明を受けるユリカ。

 

「百聞は一見にしかず。火星から月軌道中ボソンジャンプで何かがあった‥‥」

 

「つまり私とアキトの愛の力が奇跡を起こしたわけですね?イネス先生はさしずめ愛のお邪魔虫」

 

パコっ

 

「イタッ!!」

 

ユリカの後頭部に衝撃が走る。

ユリカの後ろにはイネスがスリッパの片方を右手に持っていた。

 

「やっぱり来たわね、説明屋さん」

 

「当人によれば、アキト君は過去に火星から地球へボソンジャンプした経験がある。つまり彼は特別な存在といいたいのでしょう?‥‥はい、失礼」

 

そう言ってコタツに入るイネス。

 

「そうですねよ。つまり私にとってアキトは特別な存在」

 

「「そうじゃない!」」

 

エリナとイネスの声がシンクロし、ユリカの妄想だらけの結論を否定する。

 

「彼のジャンプ経験は貴重なデータなの、今後、生体ボソンジャンプの研究を進めれば、高度な有人兵器を木星蜥蜴の本拠地へと送れる‥‥戦況は一変するわ」

 

エリナはボソンジャンプこそがこの戦争を終結させるための鍵になると言う。

 

 

~ナデシコ 食堂~

 

食堂にゲキガンガーの音楽と共に現れたのはダンボールで出来たゲキガンガーの着ぐるみ(ウリバタケ製作)を着たジュンだった。

その姿を見た食堂フタッフは唖然とした表情でジュンを見ていたが、ジュンが食堂スタッフと眼が合うと、詰め寄ってきた。

多少怯えているホウメイ以外の食堂スタッフ達。

 

「何か異常はありませんか?」

 

((((あんたの姿が異常だ))))

 

と、スタッフ全員が心の中で、呟く。

 

「さあ?何も無かったと思うけど、何かあったのかい?」

 

ホウメイがジュンに聞く。

 

「僕のことはどうか内密に‥‥極秘任務ですので‥‥では‥‥」

 

ジュンは食堂を去っていった。

 

「内密に‥‥そりゃしますよね‥‥」

 

「ゲキガンガーって伝染性?」

 

食堂スタッフ達はジュンの行動に何一つ理解できなかった。

 

ナデシコ艦内は整備班の班員達がばら蒔いたゲキガンガーグッズだらけとなっていた。

 

「敵のパイロットはかなりのゲキガンマニアだ!きっととびつく!さあ、どんとこい!」

 

ウリバタケが格納庫で整備員達と共に叫んでいた。

 

 

~ナデシコ 女性用大浴場~

 

コハクは休憩時間を利用し、入浴しようと、浴場に来て脱衣所で服を脱いでいた。

 

「あれぇ、コーくん。まだ、ブラ着けてないんだ」

 

「っ!?」

 

慌てて両手で、胸を隠しコハクは振り向いた。

 

「コーくん、もう11歳だよね。そろそろ着けてもいい頃だと思うよ」

 

「そ、そうでしょうか‥‥?」

 

声をかけたのはミナトで、話ながら手早く服を脱いでいく。

 

「私もちょうどコーくんと同じくらいの時かな。なんだか気恥ずかしかったなぁ。男子の目線とか、妙に気になっちゃって、でも嬉しさもあったかな、誰かに気づいてほしかったりもして‥‥」

 

ミナトの胸にはシンプルなデザインの白いブラがあった。

 

「う~ん」

 

ミナトがコハクの胸を繁々と見る。

 

「な、なんですか?」

 

「コーくんの胸、なんかルリルリよりも少し大きくない?」

 

以前浴場で見たルリの胸よりも今見ているコハクの胸の方が、大きいことを指摘するミナト。

 

「そ、そうですか?」

 

「そうよ」

 

八か月という長い時間を外で過ごしていたコハクとチューリップの中に居たルリとでは、やはり成長の差が出たみたいだ。

まぁ、個人差も関係しているだろうけど‥‥

 

「そうですか‥‥あ、あのこのことはルリには黙っていてください」

 

「やっぱり大好きなお姉ちゃんのため?」

 

「いえ、嫉妬に狂った変質者‥もとい、姉から自分の貞操を守るために‥‥」

 

どことなく疲れたように呟くコハク。

コハクの胸の成長は時間と個人差の他にルリも関係しているのかもしれない。

 

「こ、コーくんも大変だね」

 

なんとなく察したのか同情するように言うミナト。

 

「そうだ、お風呂上がったら、着けてみない?ブラ。コーくんに似合いそうなのを選んであげるから」

 

「‥ちょ、ちょっとだけなら‥‥」

 

コハク自身、まだブラの必要性を感じていなかったが、背伸びをしてみたい年頃のせいか、ブラを着けることを了承した。

 

「じゃあ決まりね♪」

 

ミナトは嬉しそうに言った。

 

コハクは湯船の中に入り、小さく体を浮かす。

すると、足先が浮き、顔が天井を向く。

 

「フゥ~気持ちいい」

 

湯船の中でリラックスしていたコハクの足先に何かが触れた。

 

「ん?なんだろう?」

 

コハクは湯船に浮かぶ洗面器ぐらいの大きさの黒いモジャモジャに近づいた。

 

(そういえば浴場に入ったとき、人の気配を感じたけど‥‥ヒカルさんかイズミさんかな?)

 

コハクはてっきりイタズラ好きのヒカルか人を驚かせるのが好きなイズミが湯船に潜っているのかと思った。

 

「隠れているつもりでしょうけど、バレバレですよ」

 

コハクがそう言うとモジャモジャが突然浮かび上がった。

すると浮かび上がったのはヒカルでもなくイズミでもなくゲキガンガーのパイロット服を着た男の人だった。

 

「なっ!」

 

「ま、待て。自分は決して怪しい者ではない。抵抗しなければ手荒いマネは‥‥なっ!」

 

浮かび上がった男が早口で言うが、言い切る前に言葉が切れた。

コハクは入浴中で当然、一糸纏わぬ裸姿‥そして男の人と向き合う形でいる。

当然目の前の男の人も今のコハクの姿を見ている。

すると彼女の顔がみるみる赤くなる。

それは男の人に自分の裸姿を見られた羞恥か?

それとも裸姿を見られた怒りか?

それとも両方か?

 

「死ね!変態!」

 

コハクは髪の毛の一部を拳の形に形成しおもいっきり男の鳩尾に叩き込んだ。

 

「ぐふっ」

 

ザパーン!!

 

男は再び湯船の中に沈んだ。

 

「どうしたの?コーくん」

 

湯船での騒ぎで身体を洗っていたミナトがコハクの元に来た。

 

「ミナトさん変質者です!」

 

ミナトが湯船にぐったりと浮かぶ男を見て、

 

「この人誰?」

 

と、聞いてきた。

 

「わかりません。ただ変質者であることには変わりません!」

 

コハクは湯船に浮かんでいる男を終始睨んでいた。

 

「ねぇこの服、あのアニメの人が着ていた服に似てない?」

 

やはりミナトもこの男が着ていた服にコハクと同じことを思い言った。

 

「やっぱりミナトさんもそう思いますか」

 

とりあえずこのまま湯船の中に置いていたら、溺れてしまうので、ミナトとコハクは男を脱衣所のベンチに横たえて、裸でご対面というわけにもいかないので、既に服を着て、男が目を覚ますのを待っている。

 

「う、ううん‥‥ここは‥‥?」

 

男は気がついたらしく、うっすらと瞼を開けた。

 

「大浴場よ。しかも女性の‥‥」

 

ミナトが男の顔を正面から覗き込んだ。

 

「あ、あなたは!?」

 

「人に名前を聞くときはまずは自分からでしょう」

 

「し、失礼しました!」

 

男が半身を起こし、敬礼する。

 

「自分は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体、突撃優人宇宙部隊、少佐、白鳥 九十九であります!」

 

「木星‥なに?」

 

「木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体であります」

 

「いや、漫画やアニメの話じゃなくてさ」

 

「いえ、決して漫画やアニメではありません!」

 

きっぱりと、力強く白鳥九十九と名乗った男は否定した。

 

「あのねぇ人類はまだ火星までしか行った事ないの。その木星なんとか連合なんて、漫画やアニメ以外の何だって言うの?」

 

「それは歪められた歴史です。現に自分は木星からやってきたのです!」

 

白鳥九十九の顔は真剣そのもので、彼が嘘を言っているようには見えなかった。

 

『非常警戒警報発令、非常警戒警報発令!保安員、及び戦闘員以外は拳銃携帯の後、現状待機せよ。繰り返しお伝えします』

 

メグミが艦内放送で警戒放送をし、武装した保安員達が通路を走り回っていた。

 

「コレってやっぱり‥‥」

 

「コレですね‥‥」

 

ミナトとコハクは2人で押しているワゴンへ視線を移す。

沢山の洗濯物が詰め込まれたワゴンの中にはあの白鳥少佐が隠れている。

 

「すみません。自分のせいでこんな‥‥」

 

警戒警報を聞いた白鳥少佐が顔を出した。

 

「気にしないで困った時はお互い様よ。それよりダメよ、顔を出しちゃ」

 

「は、はい」

 

ワゴンの中にブラや下着が入っているため、白鳥少佐は鼻にティッシュを詰めている。その姿は軍人らしくないが、彼が初心で誠実な男性の証拠でもあった。

そもそもなぜ2人がこんなことをしているのかと言うと、脱衣所で白鳥少佐からおおまかなことを聞き、木星蜥蜴の正体は地球人と同じ人類だと言う事がわかった。

しかし、そんなことが艦内で知られればパニックが起こり、士気も低下する。

もし、白鳥少佐が捕まり事実が公になると不味い、だから隠す。

隠してしまえば白鳥少佐はいなかったことになる。

それはつまり白鳥少佐を殺すことになる。

大人の都合のために、そんな勝手が許されていいのか?

そんな疑問をコハクはミナトに聞くと、ミナトが白鳥少佐を逃がしてあげようということになり、コハクもこうして協力しているのだ。

 

「それより、あのロボット飛べますか?整備班の人達がバラバラにしていましたけど?」

 

コハクが白鳥少佐に尋ねる。いざ、格納庫に行って脱出出来ませんでしたでは、シャレにならない。

 

「テツジンは頭部が脱出ポッドになっています。彼らが頭部を解体していなければ‥‥」

 

一応、あの赤いゲキガンガーの頭は脱出ポットになっている様だが、流石にその脱出ポットがバラバラにされていないかまでは確認できていないので、直接行って確かめるしかない。

願わくば、赤いゲキガンガーの頭部がバラバラにされていない事を祈るしかなかった。

 

「隠れてっ」

 

ミナトが小さく、素早く言った。なぜならワゴンの先にゴートが立っていたのだから。

 

「艦内放送がきこえなかったのか。ブリッジか部屋に戻っていろ」

 

ゴートは眉をしかめ、ミナトに言う。

 

「聞こえたわよ。それより何が起こっているの?敵でも侵入したの?」

 

理由は知っているが敢えて知らないフリをするミナト。

 

「それは言えん」

 

「そう」

 

「コレはお前のためだ」

 

「貴方っていつもそう‥船を降りろとは言うけど、それは私のためだからって、そう言っていつも逃げ道を用意する‥‥ズルイのよ、貴方は」

 

「とにかく部屋に戻れ」

 

「いやっ、離してよ!」

 

ミナトがゴートに捕まれた手を振りほどこうとするが、屈強なゴートに捕まれては、女のミナトが振りほどくことが出来るわけがなかった。

 

「いいから、戻るんだ」

 

「いやよ!この手を離して!人を呼ぶわよ!!」

 

「意地を張るな。部屋に戻れ」

 

「貴様!その手を離せ!」

 

ワゴンから勢いよく白鳥少佐が飛び出した。

 

「女性は国の宝ぞ。婦女子に手を上げるとは男児の風上にもおけぬ奴め!」

 

頭にブラジャーを乗っけた間抜けな格好だが、手にした拳銃には説得力があった。

ゴートはミナトから手を離し、そのまま手を上に上げた。

 

本当はこっそり白鳥少佐を返す予定だったのだが、この際しかたない。

 

「ゴートさんごめんなさい」

 

コハクがゴートの鳩尾に拳を入れて気を失わせると、格納庫へ急いで直行。

驚くウリバタケ達を尻目に赤いゲキガンガーの頭部に乗り込んだ。

 

「どう?動きそう?」

 

「なんとかなりそうです。通信機は無事なので、母艦の近くまで辿りつければ、なんとか」

 

「そう。よかった」

 

「では、行きます。ミナトさんは降りてください」

 

「ダメよ。貴方だけ乗って出たら、撃ち落とされるか、また捕まっちゃうわよ」

 

ミナトが白鳥少佐の口を人差し指で止めた。

 

「いえ、自らの身の安全のため女性を利用し危険に晒しては木連男児の名折れ、たとえこの身が‥‥」

 

「ああ、それなら大丈夫よ。貴方が安全なところまで逃げ切れたら、シャトルの1つでも貸してもらえれば、1人で帰れるわ。こう見えても操舵士なの♪」

 

「し、しかし‥‥」

 

「もう、ゴチャゴチャ言わない!!これね、発進スイッチは」

 

そういうとミナトはコックピットのスイッチを押すと、赤いゲキガンガーの頭部は発進した。

 

「な、なぜ分かったのですか!?」

 

「伊達に操舵士やってないわよ。スイッチ類の配置は地球も木星もあまり変わらないわね」

 

ノリノリなミナトとは裏腹に白鳥少佐は「自分は木連男児として‥‥」と、1人苦悩していた。

 

『オモイカネ、ナデシコに伝言‥‥追ってこないで……差出人は木星蜥蜴で‥‥』

 

≪了解しました。追えば人質の命は無い‥ですね?≫

 

『ちょっと違う気もするけど、とりあえずそれでお願い』

 

「ミナトさん、皆さんに伝言を残しました。たぶん追ってきません」

 

「「えっ?」」

 

ミナトと白鳥少佐の声が、重なる。2人ともコハクが乗っていたことにはまったく気がつかなかったようだ。

 

「コーくん、居たの?」

 

「はい、最初から居ましたよ」

 

「ごめんね、勝手に決めちゃって」

 

「いえ、気にしないでください」

 

3人を乗せた赤いゲキガンガーの頭部は星の海を飛んで行った。

 

「ねぇ、ホントに大丈夫?」

 

「全然問題ありません!」

 

「でも、膝‥ガクガクと震えていますよ」

 

コハクが指摘したとおり、白鳥少佐の膝はガクガクと痙攣しているかのように震えている。

その理由はコックピットにある座席をミナトとコハクに譲り自分は空気イス状態で操縦しているためである。

月軌道を過ぎ、木星蜥蜴の制宙圏に入ると、前方に木星艦隊が待機していた。

白鳥少佐は通信機で艦に連絡を入れると、1隻の戦艦の格納庫へ赤いゲキガンガーの頭部を着艦させた。

 

コハクとミナトが見た木星戦艦『ゆめみづき』は戦艦というよりは移動型の宇宙ステーションといった印象だった。

 

「艦長、御無事で」

 

「心配しました、艦長」

 

「おかえりなさい、艦長」

 

白鳥少佐が赤いゲキガンガーの頭部から降りると、ガクランの様な服を着た若い男性達が白鳥少佐を囲んでいた。

その後、白鳥少佐がミナトとコハクを紹介し、持て成しのため、一室へと案内した。

案内された部屋は襖に畳といった和室だった。

 

「申し訳ありません。貴女方を返すメドがつくまでは、こちらの部屋を使ってください。本来でしたら、もう少し歓待するべきところなのですが‥‥」

 

白鳥少佐が申し訳なさそうに口ごもる。

木星側にとって2人は敵側の人間なのだから、白鳥少佐が好意的でもおおっぴらに歓待できるはずもなかった。

 

「白鳥さん、本当によかったの?私達のこと?」

 

「当然です!貴女方は命の恩人なのですから」

 

「恩人‥ねぇ‥‥」

 

相変わらず背筋をピンと伸ばし、堅苦しい答え方をする白鳥少佐にミナトは苦笑する。

少佐の堅苦しさが、妙に子供っぽく初々しさがあるのはミナトの前で頬を赤く染めているせいだろう。

 

「ねぇ、白鳥さん。ちょっと聞いてもいい?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「教えてもらえない?白鳥さんたちのこと‥‥木星のことを‥‥なんで戦争なんて始めたのかを‥‥」

 

白鳥少佐は俯き、暫く黙っていたが、やがて意を決したように話した。

 

「分かりました。お話しましょう。我々のことは、貴女方にとってあまり耳障りの良くない話になりますが‥‥」

 

白鳥少佐の話は今から100年前まで遡った。

当時の地球は既に月までの入植が進んでおり、次の目標が火星への移民計画まで進められていた時、月の自治区で独立運動が勃発した。

地球側は工作員を月へと送り込み、月を独立派と共和派に内部分裂させ、独立運動を頓挫させた。

月を追放された独立派はまだ開拓途中の火星へと逃れたが、地球連合政府は徹底抗戦的な独立派の勢力を一掃すべく、火星へ核ミサイル攻撃を行った。

運良く核からの攻撃を逃れた、独立派残党の人々は未知の領域であった木星圏へと逃れた。

白鳥少佐の話の結論から2人にはある事実が浮かび上がった。

 

「そ、それじゃあ、貴方達は‥‥」

 

「はい、お察しの通り、我々は月の独立派の末裔‥‥元は貴女方と同じ地球人です」

 

蜥蜴転じて人と成す‥‥つまり地球連合軍もナデシコも人間相手に殺し合いをしてきたのだ。

 

「辛うじて木星圏へたどり着いた我々の祖先は木星の衛星を中心にコロニーを建設し、100年の歳月をかけ、国家を建設するにいたりました。それが、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体なのです」

 

「まってください。その話、ちょっとおかしくありませんか?」

 

コハクは木星の過去についての疑問を白鳥少佐に聞いた。

 

「命からがら木星圏へ逃げたのびた100年前の人類が、木星に国家を建国し、現在まで繁栄を維持できるのはおかしいです。ましてや地球に戦争を挑めるほどの兵力と国力が持てるなんて‥‥」

 

「その通りです」

 

白鳥少佐は静かに頷くと、コハクの疑問にも答えてくれた。

 

「木星圏へたどり着いた我々の祖先は、人材も資材も何もかもが不足で、生きていくこともままならない状態でした。恐らくあのままでしたら、今の我々は存在していなかったでしょう。しかし、祖先達は木星の水素とヘリウムの奥に、アレを見つけたのです」

 

「アレ?」

 

「我々は『プラント』と呼んでいます。地球外生命体が残した技術の遺産です。未だ詳しい解析は出来ておりませんが、その技術を研究・調査することにより、我々は今の力を手にいれることが出来ました。そして卑怯な地球に正義の鉄槌を下すため、日夜戦っているのです」

 

卑劣な地球‥‥正義の鉄槌‥‥

2人はこの言葉を聞き、この人達があらためて木星蜥蜴なのだと改めて痛感した。

 

「艦長、『かんなづき』より通信が入りました」

 

そこへ、通信兵が伝令としてやって来た。

 

「秋山さんから?」

 

通信文を持った兵から通信文を受け取った白鳥少佐が内容に目を通す。

 

「ふむ、どうやら秋山さんが援軍に来るようだ‥‥」

 

「秋山閣下が‥でありますか?」

 

「ああ、元一郎もかんなづきに乗艦しているらしい」

 

「では、これで我々の勝利は‥‥」

 

「ああ、確実だな。しかし、本艦は既に機動兵器を失った状況により、後方支援だ」

 

「それはやむをえませんね」

 

兵は少し残念そうに言った。

そして、ミナトとコハクはそんな2人のやり取りを複雑そうに見ていた。

 

暫くすると『ゆめみづき』に似た木星戦艦『かんなづき』が到着した。

 

『よぉ白鳥、心配したぞ』

 

『お前らしくないミスだったな』

 

モニターには白鳥少佐と同じ白いガクラン風の服を着た2人の男達が映った。

1人は長髪でゲキガンガーの登場キャラに似ていた。

そしてもう1人は恰幅のいい男だった。

 

「心配をかけ、申し訳ない秋山さん、元一郎」

 

『なぁにテツジンの仇は俺のダイマジンが討ってやるぜ』

 

『ゆめみづきは予定通り、艦砲射撃による援護を頼む』

 

「了解」

 

ゆめみづき、かんなづきを加えた木星艦隊は月の地球軍コロニーへ進軍を開始した。

 

ゆめみづきがかんなづきの到着を待っている頃、月に到着したナデシコはアキトと合流した。

そしてプロスペクターはナデシコの隣にある戦艦を見て呟く。

 

「ほぅ~あれが『シャクヤク』ですか?」

 

「シャクヤクの発進準備が整い次第、プランBを発動させるわ」

 

「選抜クルーとシャクヤクを使って火星を奪還、ナデシコはその間の陽動に使う‥‥と」

 

「拗ねないの。ボソンジャンプには大量のCCが必要なの。それに火星の『遺跡』を手にいれればボソンジャンプの独占権を確保できる。そうなれば会社の利益は大幅に上がるわ」

 

エリナがシャクヤクを見つめるプロスペクターに言うが、プロスペクターは何も言わずにシャクヤクを見ているだけだった。

そこへ酔っ払ったムネタケがやってきて自分にもその話を聞かせろといってきた。

エリナは司令官室でムネタケに木星蜥蜴の正体を教えた。

そしてその会話と映像はプライベート回線をルリがオフにし、ナデシコ全クルーに知れ渡った。

当然その話を聞いたナデシコのクルー達はショックを受けたのは言うまでもなかった。

 

やがて月のコロニーへ進撃し、攻撃準備が整った木星艦隊。

 

「いかに敵が強大とでも!」

 

『優人部隊は最後の切り札!鉄の拳が叩いて砕く!』

 

ゆめみづき、かんなづきの乗員すべてが声を重ね、同じセリフを言う。

 

「ダイマジン、GO!!」

 

月臣はボソンジャンプの光と共に、かんなづきを後にした。

 

「くらえ!ゲキガンパンチ!」

 

ボソンアウトしたダイマジンはコロニーに設置されているフィールド発生装置のアンテナにロケットパンチを加え、アンテナを破壊、これによりコロニーを包むフィールドが消失した。

 

「無限砲!撃て!」

 

白鳥少佐の号令でゆめみづきの主砲が発射された。

放たれたエネルギー弾は地下艦船用ドックの真上に直撃、瓦礫はドックで作業中だった、ナデシコ4番艦 シャクヤクを押し潰した。

 

木星蜥蜴の攻撃が開始されたとき、アキトは走ったひたすら走った。

だが、今回は逃げるためではなく、戦うため、守るために走った。

走りついた行き先はコロニー防衛のため設置されたエステバリスの格納庫兼発進口、そこには重武装のエステバリスが整備待機してあった。

 

「待っていましたよ、テンカワさん!この月面フレームには小型の相転移エンジンを搭載しており、エネルギー供給は問題ありません。ですが、その分重量があるので多少動きが鈍ります。それと対艦用ミサイルは補充が出来ませんので、くれぐれも慎重に使ってください」

 

「了解」

 

整備員から説明を聞きアキトを乗せた月面フレームは昇降エレベーターを使い地表へと出た。

目の前にはゲキガンガーを模した巨大な敵の機動兵器。

だが、不思議と恐怖は感じない‥‥まして負ける気もアキトにはなかった。

 

「心がむなしいぜ、地球人たちも俺達と同じく、愛があれば」

 

月臣が壊したコロニーの施設を見ながらそう呟いていると、前方から敵の機動兵器が現れた。

 

「くらえ!」

 

アキトは肩に装備されている大型対艦ミサイルを1発ダイマジンに撃ち込んだ。

 

「なんの!‥‥うわぁぁ!!」

 

フィールドを張っていてもその威力は凄まじく、月臣はボソンジャンプした。

 

「パターンさえ、分かれば勝てる!」

 

アキトは険しい目でダイマジンを睨んだ。

 

 

~地下艦船用ドッグ ナデシコ~

 

「急げ!4番艦に付く物が1番艦に着ねぇわけがねぇ」

 

ウリバタケがナデシコ整備員とドックの作業員を指揮し、シャクヤクに搭載予定だったYユニットをナデシコへ搭載しようとしていた。

 

『とはいえ、いいのか?』

 

ウリバタケは命令を下したユリカへ通信を入れる。

 

「かまいません。やっちゃってください」

 

『わかった。3分待て』

 

ユリカは即座に許可を出し、作業を継続させる。

 

「無理よ!シャクヤクとは電装系が違うのよ!」

 

エリナはナデシコにYユニットを搭載するのには反対した。

 

「でも。あっちの艦は潰れちゃったし、勿体無いじゃないですか」

 

ユリカは笑顔でエリナに言った。

 

「くそっ、カタパルトが使えれば、エステで出撃できるのに‥‥」

 

リョーコが残念そうに呟く。

 

「でもアキト君、人間と戦っているんだよね‥‥」

 

ヒカルが寂しそうに呟いた。

 

「くそっ」

 

その頃、月の地表では激しい戦闘がまだ続いていた。

月面フレームから放たれるレールガンの弾丸をボソンジャンプで交わすダイマジン、しかし、ジャンプアウトした直後、ランチャーミサイルが命中する。

 

「くっ、正義は負けん!」

 

「いちいち五月蝿いんだよ!」

 

アキトは容赦なく、攻撃を加える。

 

「これが火星の人達の分だ!」

 

胸部にレールガンの直撃を数発受け、ダイマジンは倒れた。

 

「まだだ!まだ!まだ!まだ!」

 

アキトは倒れたダイマジンへレールガンを撃ち続ける。

 

『アキト、もういいよ。もうそのぐらいして』

 

戦闘の様子をモニターで見ていたユリカがアキトを止める。

 

「まだだ!ユリカ!お前も火星で、見ただろう!?無抵抗の人達をこいつらは殺したんだ!何も知らなかった人達を!それで何が正義だぁ!!」

 

『やめてアキト君』

 

コックピットにミナトが映った空間ウィンドウが開く。

 

「人質をとるなんて汚いぞ!木星人!!」

 

『違うの!アキト君、私達は決して人質じゃない。話を聞いて、この人達は‥‥』

 

「知っているよ。昔、月を追放された地球人なんだろう?」

 

『だったら‥‥』

 

「ミナトさんも火星のことを忘れたわけじゃないだろう!?」

 

『っ!?』

 

アキトの言うとおり、ミナト自身も火星で木星艦隊が地下街を攻撃し、地下に居た人達を殺したことを忘れてはいなかった。

 

『でも、アキト。この人達だって昔、酷い目にあったんだよ』

 

ユリカが再びアキトを止めるが、

 

「それで『許せ』だって!?100年前のことなんて関係ない!これはもう、僕達の戦争なんだ!」

 

ユリカとミナトの説得もアキトにはまったく効果がなかった。

 

「ダメだ、こりゃ‥アキトさん完全に頭に血が昇っちゃっている‥‥」

 

ミナトと同じくゆめみづきで戦闘の様子と今までの通信の会話を聞いていたコハクがアキトの状態を見て呟く。

 

「コーくん何とかならない?」

 

すると、ミナトがコハクに何とかアキトを止められないかと問う。

 

「何とかと言っても‥‥」

 

「コーくん、前に火星で瓢提督に掴みかかったアキト君を止めたことがあったでしょう。アキト君、コーくんの言うことなら聞いてくれると思うし‥‥」

 

「私からもお願いします。ダイマジンのパイロットは私の親友なのです」

 

とうとう白鳥少佐からもお願いされてしまったコハク。

 

「うぅ~‥‥わ、分かりました。やってみます」

 

コハクは意を決し、アキトの乗る月面フレームに通信を入れた。

 

「これで終わりだ!!」

 

アキトが最後の大型対艦ミサイルを倒れたダイマジンに照準をロックする。

発射ボタンに手を掛けた瞬間、アキトの前に空間ウィンドウが開く。

 

「こ、コハクちゃん!?」

 

アキトは突然空間ウィンドウに現れたコハクの姿を見て驚きの声をあげる。

空間ウィンドウに現れたコハクは涙に濡れた真紅の瞳でアキトを見つめ、祈るように胸の前で両手を組み、小さな薄紅色の唇を震わせ言った。

 

『アキトさん!お願い、もう、これ以上戦うのはやめて!僕は以前言った筈だ、復讐とか言っているアキトさんは嫌いだって‥‥』

 

少女の頬を、つぅーっと涙が伝った。

 

「っ!?」

 

コハクの存在を知らない かんなづき では大混乱に陥った。

 

「だ、誰だ?この少女は!?」

 

「う、美しい‥‥」

 

「き、キサマ!我々にはナナコさんとアクアマリンがいるだろう!恥を知れ、恥を!」

 

ナデシコでも全クルーがモニターに釘付けになっていた。

 

『『『おおおおおおおおおおお!?』』』

 

「ろ、録画! 録画の準備を!」

 

「ううううう、うろたえるなお前ら!!まずはテメエの眼にしっかり焼き付けろ!!」

 

アキトはミサイルのロックを解除し、ダイマジンに通信を入れる。

 

「行けよ‥‥」

 

「‥‥君の名は?」

 

「名前を知っている奴とは戦いたくない」

 

「‥‥そうか‥‥同じ陣営で生まれていたら、君とは親友になれたかもしれない」

 

ダイマジンの頭部が外れ、ゆめみづきへと飛んでいった。

 

 

~ゆめみづき 艦橋~

 

「我が友の命を救っていただいたことを感謝します」

 

ハンカチで目尻を拭うコハクに白鳥少佐は頭を下げてお礼を言う。

 

「ね、ねぇコーくん‥‥さっきのは演技なの?」

 

あまりにもリアルだったのでミナトはコハクにさっきの涙が本当なのか、演技なのかを聞いた。

 

「半分は本当ですが、半分はエリナさんから教えてもらった『男をモノにするための演技』です」

 

「あ、そう」

 

(エリナさんったら、コーくんに何を教えているのよ)

 

「シャトルの用意が出来ました。どうぞ、お戻りください」

 

1人の若い兵がミナトとコハクにシャトルの用意が出来たことを伝える。

 

「ありがとう、それじゃあ白鳥さん、また逢いましょう」

 

「はい、願わくば戦場でないことを」

 

ミナトと白鳥は互いに握手した後、ミナトとコハクの2人は用意されたシャトルでナデシコへと戻った。

 

 

~ナデシコ ルリ・コハクの共同部屋~

 

ナデシコへと戻ったコハクはやはりルリに心配をかけたということで、お説教を受けるハメになった。

顔や態度には表さなかったが、オモイカネからコハクが人質になったことを知らされたルリは気が気ではなかった。

だから無事戻ってきたコハクに嬉しかったのだが、危険なことをして、自分に心配をさせたコハクを許すわけにもいかなかったのだ。

格納庫で待機してコハクが戻ると速攻で彼女の手を引いて部屋と戻るルリ。

 

「さあ、何か言い訳はありますか?」

 

コハクを正座させ、その前に仁王立ちで、いい笑みを浮かべるルリ、額には青筋が浮き出ている。

 

「あ、あの‥ルリ、こ、これには深い訳が‥‥」

 

「どのような訳が?」

 

(だ、ダメだ。今のルリには何を言っても聞いてくれそうにない‥‥まだか‥‥)

 

コハクが諦めかけたとき、救いの神が現れた。

 

「ごめんルリルリ。コーくんを巻き込んだのは私のなの」

 

「ミナトさんが?」

 

ミナトがすまなそうに空間ウィンドウを開きルリに謝る。

実はコハクはナデシコに帰るシャトルの中で、ミナトに弁護を依頼していたのだ。

そしてオモイカネも今回はコハクの弁護に回り、コハクはルリのお仕置きを回避することに成功したのだ。

しかし、ルリは何故か大層悔しがっていたという。

その理由は涙を流し、自分に許しをこうコハクの姿を見ることができなかったのが、大きな理由だった。

 

 

 

・・・・続く

 




ではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。