機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第20話

 

Yユニットを装備したナデシコは計4つの相転移を搭載した無敵の戦艦‥‥とは言いがたく、無理な改装により結構シビアな状態であった。

艦内の機能にも所々、機能不全を起こしている箇所もある。

しかし、ナデシコを整備するにも月のドックは先日の木星軍の攻撃で、大破‥‥当分は使用不能なため、ナデシコは現在ドック艦コスモスと合流するため、合流地点へと向っている。

 

『無茶するな、無理な合体、ケガの元』 byホシノ・ルリ

 

ブリッジには現在、オペレーター娘の2人だけで当直中、そこにユリカがやって来て、ブリッジにルリとコハク以外に他の誰もいなかったため、2人にクルーの行方を聞いた。

 

「ありゃ?皆はどうしちゃったの?」

 

「ネルガルの皆さんは本社からの連絡で、予算関係のチェックをしています」

 

ルリがネルガルの社員達の行方を言って、

 

「後の皆さんは医務室です」

 

コハクがそれ以外のクルーの行方を言った。

 

「医務室?皆食中毒か何か?」

 

ネルガルの社員以外が、医務室へと行ったことにクルー達が何かの病気かと思い詳しく聞くユリカ。

 

「いえ、イネス先生にカウンセリングをしてもらっているそうです」

 

「カウンセリング?」

 

「皆さん、気持ちがぐらついているそうです」

 

「それって敵の正体が同じ人間だって分かったから?」

 

「はい」

 

「敵の正体は『木星蜥蜴』といわれた謎の無人兵器だった、『あ~それなのに‥‥』って感じなのでしょう」

 

「そうね、その気持ちは分かるわ。皆がそんな気持ちということはパイロットのアキトは、私の愛するアキトはもっと、もっともーっと落ち込んでいる筈よね。そしてそれを助けられるのは私だけ‥‥ルリちゃん、コハクちゃん後、よろしく!」

 

ユリカは目を潤ませ、1人妄想の世界へ行ったかと思うと、ブリッジを走り去り、アキトを探しにいった。

 

「進歩ないよね」

 

「愛は人を盲目させるものなんだよ。きっと‥‥」

 

何事もなかったように当直業務をこなす2人だった。

とは言え、ルリもあまり人の事を言えた義理ではない。

彼女もコハクに事についてはかなり過敏になる。

でも、それは恋ではないがコハクに対する依存が高いだけなのだ。

 

 

~ナデシコ 医務室前通路~

 

ナデシコの医務室の前にはイネスにカウンセリングをしてもらおうとナデシコのクルー達が列をなしていた。

 

「僕は軍人だ。だから、例え相手が人間であっても戦争を否定しない。けれど、軍には裏切られた気持ちでもある」

 

ジュンはカウンセリングの順番を待っている間に自らの心境を後ろに並んでいた整備員に語る。

 

「お気持ちお察しします」

 

「アキト~」

 

すると通路の向かいからユリカが来た。

 

「ユリカ」

 

「アキト~どこ~」

 

ユリカはジュンに目もくれず、通り去った。

 

「‥‥」

 

ジュンはがっくりと項垂れた。

 

「お気持ちお察しします」

 

整備員はジュンに同情するように言った。

 

「だから!結局男なんてダメなわけよ。イザって時にはね」

 

ミナトが前に並んでいたホウメイガールズの1人、ハルミに愚痴のように言う。

 

「ミナトさん、何を相談するつもりなんですか?」

 

ハルミはミナトが抱いている悩みが理解出来なかった。

 

「アキト~どこなの~?」

 

ユリカは医務室前の通路に並んでいるかもしれないアキトを探すが、その姿は見えない。

声をかけても返事が無い。

そんなユリカはメグミの前を通り過ぎる。

 

「誰かに必要とされるのが重要だと私はそう思うのよね。声優やったときはいつもそう思ってマイクの前に立っていたから」

 

「へぇ~メグミさん声優だったんですか‥‥」

 

メグミの前に並んでいた整備員がメグミの前の職業を聞いて驚いていた。

 

「うん」

 

「アキト~返事してよ~アキト~」

 

ユリカが医務室の前を通ると、イネスの声が聞こえた。

 

「貴女もエステのパイロットで直接戦うから、やっぱり‥‥」

 

「パイロット?アキト発見!!艦長命令です!!どきなさーい!!」

 

パイロットと言う言葉に反応してユリカが大声で医務室に並んでいるクルーに退くように言う。

行列が退くと、そこにいたのはアキトではなく、イズミだった。

 

「あら艦長?どうしたの?」

 

「あれ?‥‥アキト来ませんでした?」

 

「アキト君ならリョーコちゃんと一緒よ」

 

イネスのカウンセリングを受けていたのがアキトではななかったが、ユリカはイネスなら、アキトの居場所をもしかしたら知っているかもしれないと思い、彼女にアキトの居場所を尋ねる。

すると、何故かイネスはアキトの居場所を知っていた。

しかし、アキトは今、1人ではなく、リョーコと一緒に居ると言うではないか。

 

「えっ!?」

 

「しかも2人っきり」

 

「なんで、なんでぇー!!」

 

アキトと女の子が2人っきりと聞いて黙っている訳にはいかない。

通路を走りながら、必死でアキトを探すユリカ。

 

「あっ、ちょっと艦長」

 

そこをエリナが引き止める。

 

「すみません、今、私、とても、急いでいるんですけど‥‥」

 

「いえ、実は‥‥」

 

「重大なお話が‥‥」

 

「え?」

 

そこにはエリナだけでなく、プロスペクターとゴートも一緒で彼らは真剣な顔をして、セリフを分けて言う。

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

一方、ユリカが探していたアキトはリョーコと格納庫にてエステバリスの調整をしている整備員達をボォーっと見ていた。

 

「正義の戦いかと思ったら、なんのこともねぇマジな戦争だった。シャレになってねぇ」

 

「でも、俺、戦うって決めたから‥‥そう、自分に誓ったから‥‥」

 

「意外と強ぇんだな」

 

「そんなこと言われたの初めてかも‥‥」

 

「強ぇよお前は‥‥」

 

ナーバスな気落ちになりかけていたリョーコはアキトの決意を聞いてなんとなく励まされたような気持ちだった。

 

 

~ナデシコ 会議室~

 

その頃、アキトの捜索を無理矢理中断させられる羽目になったユリカは、会議室にてエリナとプロスペクターからある事実を聞かされていた。

 

「えぇ~!!ウリバタケさんが使い込み?」

 

エリナとプロスペクターの話ではウリバタケがナデシコの予算を使い込みしている事が予算チェックをしていて判明した。

これまでウリバタケはナデシコの予算や資材を使って変なモノを発明していた。

以前のPHR、PTKもその1つだ。

そして、今回もそれに当てはまるのだが、

 

「と、しか考えられません。今までは目を瞑ってきましたが、今回、予想される使途不明金がこんなに‥‥」

 

電卓で打ち出した金額をユリカに見せるプロスペクター。

 

「げぇっ!?」

 

その金額を見たユリカは驚いた。

どうも今回はPHR、PTKの時の様にウリバタケの使途不明金についてプロスペクターは絡んではいない様子。

そして、今回ウリバタケが使い込んだ予算の額がこれまで以上な大金だった為、ネルガル側としても目を瞑る訳にはいかなかった。

 

「でしょう?聞くところによれば最近彼はある女性乗組員と親しげな仲にあるとか‥‥」

 

「アマノ・ヒカルよ」

 

プロスペクターがある最近ウリバタケと親しくしている女性クルーの名前をを匿名にしようとしたら、エリナが名前をあっさりと暴露した。

 

「ともかく、ここは調査の必要があると思いますが‥‥」

 

「そうですね。提督は連日軍との会議で忙しそうですし、ここは私達で処理しましょう」

 

「賢明な判断です。提督の耳に入ると事が大きくなるでしょうから」

 

ゴートがユリカの案に賛成した。

 

 

~ナデシコ 司令官室~

 

その頃、ムネタケは先日の木星蜥蜴の正体をナデシコクルーに知られたことについて、軍上層部から事情聴取をとられていた。

 

「―――――以上が本部の決定だ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!!」

 

軍の将校が映っていた空間ウィンドウが一方的に閉じられる。

通信を送ってきたのは軍の上層部の将官で内容はというと、先の月面での戦闘時に木星蜥蜴の正体が実は100年前に月を追放された地球人ということをナデシコのクルーはおろか、月の居住者にも知られてしまったことへの叱責である。

一体何が悪かったのだろうか?

もちろん軍上層部がそんなことを一々真剣に検討をするはずもない。

真実を知っていてそれを話したアカツキらはその影響力で軍は下手に手出しもできず、バラしたナデシコクルー達に対する直接の信賞必罰権限もない。

バレた人数があまりにも多すぎるからだ。

ましてや、ルリが秘匿回線のハッキングをした痕跡など残すようなヘマをする筈もない。

そうやって追究していくと責任を問える者が誰もいなくなるのだが、最終的には機密漏洩のきっかけを作ってしまったという一点にて詰め腹を切らせる相手を軍上層部は定めたようだ。

それが同じ連合軍の軍人であり、現在のナデシコの責任者であるムネタケだった。

軍はムネタケを降格した後、見た目は栄転である形で、中央から見れば閑職の中の閑職とも言える部署への配置転換を内定していた。

 

「そ、そんな‥‥そんなのって、あまりにも理不尽だわ‥‥パパ‥‥」

 

ムネタケは机の上にある幼き日の自分と、自分が尊敬する父親が写った写真を見て呟いた。

ムネタケは父親と同じ軍人との道へと入った。

当初は父親に対する憧れと正義を信じていた。

だが、軍に身を置き、長い月日が過ぎるとその心は次第に薄れていってしまった。

ライバル達との出世争いや上層部との派閥争い。

火星での大敗北。

前線の将兵が命がけで戦っている中、いつしか自分は出世欲に憑りつかれていた。

今まで何のために他人を利用し、他人を押しのけてまで出世したと思っている。

悪いのは自分ではない。

悪いのは常に他人。

出世できないのは他人が足を引っ張るから。

他人は自分がのし上がる為の踏み台。

あの事件の時も部下にその責任を押し付け、今はこうして自分は閣下と呼ばれる地位に就き、ナデシコの提督となっている。

なのに、そのナデシコに着任したせいで詰め腹を切らされそうになっている。

彼には何とかこの事態を打開する為の策を講じる必要があった。

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

「でもさ、使い込みの問題に何で俺が駆り出される訳?俺、全然関係ないじゃん」

 

ユリカはようやくお目当てのアキトを見つけて、彼の手を引っ張って、最後にウリバタケとヒカルが目撃された格納庫の隅へと向っていた。

確かにアキトの言う通り、ウリバタケの使い込みにアキトは全く関係していない。

アキトの言う事は最もであった。

 

「だってもしも、恋愛がらみだったら、私の手には負えないもん。私ってアキト以外の男の人の気持ちって解らないから」

 

ユリカはそう言うが、それはつまり、ユリカ一筋のジュンは全く眼中には無いと明言しているのと同じであり、この場にジュンが居なかった事が彼にとっては幸いだった。

アキトもアキトでユリカのさりげなくジュンをディスる発言をスルーしていた。

 

「はいはい、それにしてもヒカルちゃんがねぇ‥‥ちょっと信じられないな」

 

アキトからしたらヒカルはエステバリス以外にはアニメや漫画が大好きな女性と言う印象があり、異性に興味を持つ様には見えなかった。

しかし、彼女は火星に着く前に起こったネルガルの社内恋愛についての抗議にちゃっかり参加していたので、全く異性との恋愛について興味がないと言う訳ではないようだ。

 

「そうよねぇ~運命の出会いってそんな簡単じゃないもの。私とアキトは特別なの」

 

「お前なぁ~」

 

アキトがユリカの発言に呆れながら格納庫でウリバタケを探していると、

 

「ステキ~」

 

「結構スゴイだろう?」

 

格納庫の隅でウリバタケとヒカルの声が聞こえた。

早速アキトとユリカは声がした方へと向かっていくと、

 

「うん、こんなテクニシャンだと思わなかった。私もやってみていい?」

 

「それならこっち来て、手つきが大事なんだから」

 

「こう?」

 

「そうそう、でも、もっと細かく動かして」

 

怪しげな会話が聞こえ、盗み耳を立てていたユリカとアキトだが、ユリカは段々顔を赤らめ、終にはアキトを押した。

 

「うわっ!?とっとっと‥‥」

 

「ん?何やってんだ?お前?」

 

声をかけてきたウリバタケとヒカルの手にはエステバリスの模型が握られていた。

どうやら、アキトやユリカが考えていた様な事ではなかった様だ。

 

「うわ、凄いリアル」

 

「でしょう?私もウリピーに作り方を教わっていたの~♪」

 

格納庫の隅にはウリバタケが製作したエステバリスのジオラマがあった。

それもかなり精巧な作りとなっている。

 

「35?」

 

アキトがウリバタケに模型のスケールを聞く。

 

「48、どうだい?お前さんにも1つやろうか?」

 

「いいの?」

 

「おうよ、模型の世界は永遠の浪漫、そしてただのオモチャではなく、れっきとした大人のホビーだからな」

 

そういってウリバタケは手にしたエステバリスの模型に小型ドリルで穴を開ける。

 

「な、なにやっているんです?」

 

「何って?被弾後を再現しているのさ。こうしてドリルで穴を開けた後、デザインナイフでこう、ウリウリすると‥ほらリアル~♪」

 

穴の開けられたエステバリスの模型を見て、引き攣った顔をするアキト。

確かにリアルな作りであるが、エステバリスに乗る身としては被弾した事などあまり考えたくもないし、何より縁起が悪い。

それが例え模型であってもだ。

一方、ユリカは作業台に乗っかっていた制服姿のルリとハクニャンバージョンのコハクのフィギュア、そして自分のフィギュアを手に取り見比べている。

 

「ところで艦長。何かご用ですか?」

 

ヒカルに尋ねられてウリバタケに対する用件を思い出したユリカ。

 

「そうだ、ウリバタケさん」

 

「ん?」

 

「使い込みの原因ってまさか模型じゃないですよね?」

 

ユリカはウリバタケにストレートで使途不明金の使い道を尋ねる。

まさか模型にあんな大金をつぎ込むとは思えないが、一体何に使用したのかは聞いておく。

 

「げぇっ!?」

 

「使途不明金が『げぇ』って金額なんですけど‥‥何に使ったか話してもらえますよね?」

 

ユリカが問い詰めるとウリバタケはその訳を話した。

 

「これを作るためにお金を?」

 

シャッターで閉ざされた格納庫の向こう側には月面でアキトが乗っていたエステバリスの月面フレームを改造した機体があった。

 

「そうだ、ずっと前から俺が密かに開発してきたウリバタケオリジナルフレーム名づけて『エックスエステバリス』略して『エクスバリス』。俺が独自に改良したジェネレーターを搭載し、重力波エネルギーの変換効率をこれまでの5倍にアップ、エステバリスの機動性と月面フレームの攻撃力を兼ね揃えた超兵器さ、これなら木星の巨大ロボットだって目じゃないぞ!!」

 

確かに性能で言えば木星のゲキガンガーロボにも対抗できそうである。

 

「でもな‥‥」

 

自慢気にエクスバリスの性能を解説していたウリバタケがいきなり意気消沈する。

 

「「でも?」」

 

「蜥蜴相手だと思っていたのに、人間相手じゃヤル気も起きん‥‥」

 

無人兵器相手なら、相手を破壊しても心は全く痛まないが、自分の作った兵器が木星人とは言え、人を殺す事に関して、ウリバタケにも思う所がある様だ。

そこへ、

 

「これよ!これだわ!これならいけるわ!」

 

いつの間にか後ろにはムネタケが立っていて、エクスバリスを誉めていた。

 

「提督として命令するわ。この新兵器を完成させてちょうだい、大急ぎで!!」

 

「どういうことです?」

 

「実は通達があってね、私降格させられそうなの‥‥」

 

「「「えっ?」」」

 

「このままじゃ提督としての地位も危なくなりそうなの。あんた達に敵の正体を知られた責任をとらされてね。でも私はイヤ、お間抜けなあんた達のせいでそんな目に遭うなんてまっぴら、だからこのエステバエックスで‥‥」

 

「エクスバリスだ!」

 

ウリバタケが怒鳴り、名前を訂正する。

 

「兎も角、その新兵器の性能をアピールして軍の上層部に私の価値を再認識させーる!!」

 

「テメェの地位を守るため俺のエクスバリスを利用する気か!?」

 

「イヤといわせないわ!」

 

ムネタケにしては珍しくウリバタケに覇気をぶつけた。

 

「っ!?」

 

ムネタケの覇気を浴び思わず怯むウリバタケ。

 

「私は私の為なら、手段を選ばない!!それが私のやり方なの!!ともかくその新兵器を一刻もはやく完成させるの!!いいわね!?」

 

「‥‥」

 

アキトはムネタケの言った『私は私のためなら、手段を選ばない』の件の言葉を聞いて以前からムネタケに抱いていた不信感がますます強くなった。

何しろムネタケは彼が死んだあの事件に関わっていたかもしれないから‥‥

そこで、アキトはムネタケにガイの事件の真相を聞き出そうと、食堂の営業時間が終わった頃、ムネタケを食堂に呼び寄せて話をすることにした。

 

「成程ね、最後の勝負にすることにしたわけか、テンカワの奴」

 

厨房から食堂の様子を見ていたホウメイはアキトの行動を理解していた。

暗くなった食堂のスクリーンにはゲキガンガーが流されている。

 

「その暑苦しいアニメ、消してくれない?特にあの主人公、台詞聞いているとイライラするの」

 

ムネタケはそう言うが、そこはかとなく、ムネタケの声とゲキガンガーの主人公、天空ケンの声は似ていた。

当然、ナナコの声をルリがアフレコした訳ではない様にムネタケが天空ケンの声をアフレコした訳ではない。

偶然の一致である。

 

「このままでいいッス」

 

アキトはこのままゲキガンガーを流し続けて良いと言う。

 

「あたしの命令が聞けないの?」

 

「エクスバリス‥動かす奴が居なくなってもいいッスか?」

 

月面フレームに乗った経験のあるアキトだからこそ、エクスバリスを動かす事が出来るのは今の所、ナデシコではアキトぐらいだろう。

その事からムネタケも目を瞑り、アキトが自分を呼んだ理由を聞く。

 

「で、話って何?」

 

「このゲキガンガー3が好きだった男の死についてです‥ヤマダ・ジロウ‥‥魂の名はダイゴウジ・ガイ‥‥」

 

「ダイゴウジ・ガイ?…誰だっけ?」

 

バン!!

 

ムネタケのその言葉にアキトがキレかけてテーブルを思いっきり叩きながら椅子から立ち上がる。

 

「ま、まってよ‥思い出すから‥‥」

 

アキトのその迫力にムネタケも思わずたじろぐ。

 

「えっと‥‥えっと‥‥ああ、あの事ね」

 

ガイの名前を聞いてムネタケの脳裏にはあの日の事が思い出される。

あの日‥‥ヤマダ・ジロウこと、ダイゴウジ・ガイが射殺された日‥‥

世間では既に犯人は捕まり、裁判も終わっていたが、ムネタケの脳裏には自らが拳銃で射殺した1人の青年の姿が思い出される。

やはり、ガイはムネタケの手によって射殺されていた。

しかし、ムネタケが真相を喋らない限り、真実は闇の中だ。

 

「あんたもくどいわね。そんな昔の事まだこだわっていたの?あの事件はもう裁判も終わって決着がついた筈よ」

 

「それ、間違いないんですか?あの裁判通りなんですか!?」

 

「間違いないわ」

 

「ホントに?」

 

「本当よ」

 

「本当の事を知らされない悔しさ、今の提督ならお分かりになる筈です!!教えてください提督!!ガイはどうして死ななきゃならなかったんだ!?」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

アキトとムネタケの視線が合う中、

 

「何も話す事は無いわ。真実は1つなんだから」

 

「‥‥」

 

ムネタケのその言葉を聞いてアキトは力なく椅子に腰かけた。

 

「勝負あり‥か‥‥」

 

その様子を見ていたホウメイはムネタケが逃げ切ったと判断した。

 

 

翌日、ウリバタケは昨日と同じく、格納庫の隅でジオラマ製作をしていた。

 

「ちょっとあんた!」

 

そこへ、ムネタケがエクスバリスの進捗状況を尋ねに来た。

 

「出たー!」

 

「模型ばっかりにうつつ抜かして、私のエステバエックスはどうなってんのよ!?」

 

「出来ているよ‥‥」

 

ウリバタケによれば既にエクスバリスは完成していると言う。

 

「ホント?」

 

「けどな‥‥」

 

しかし、ウリバタケの様子からエクスバリスには何か問題がある様だ。

 

「けど、なに?」

 

2人はエクスバリスが置いてある格納庫へ行き、ウリバタケがムネタケにエクスバリスの件を報告する。

 

「失敗作?」

 

「言ってなかったっけ?エネルギー増幅に問題があるって‥重力波エネルギーの変換効率を上げたんだけどさ、ジェネレーターへの戻りが酷くて、機体が耐えられねぇみたいなんだ。必殺の武器として『エクスキャノン』つまり、小型のグラビティーブラストを取り付けたのは良いんだけど、こいつが発射可能になるまでエネルギーのチャージをしていたら、まぁ、たぶん『ドカン』といっちまうだろうな。まぁ、こっちが趣味で勝手にやっていたことだから文句を言われる筋合いはねぇし、まぁ、諦めるんだな‥‥うぉっ!?」

 

「バカ言わないでよ!!」

 

ムネタケはウリバタケの胸倉をつかんで叫んだ。

 

「こっちはエステバエックスに最後の望みをかけてきたのよ!!崖っぷちなの!!限界なの!!もうギリギリなの!!簡単に『諦めろ』だなんて、あんたなんにも分かっちゃいないわ!!」

 

ムネタケの目は血走っておりウリバタケを絞め殺そうとする勢いだ。

 

「ストップ!」

 

そこにムネタケの行動に『待った』をかけた人物が来た。

 

「見苦しいですよ、提督。提督も軍人の端くれなら、引き際ぐらい心得て下さい。お父様の名前に傷が付きますよ?」

 

ムネタケは、かつては正義があると信じていたが、出世欲と派閥争いで初心の正義を信じる心は次第に薄れていったが、父を尊敬する気持ちは忘れてはいなかった。

止めに入ったユリカに言葉に冷静になったのか、ムネタケはフラフラと格納庫を後にし、その日は1人、食堂に閉店まで居た。

 

「あの‥‥そろそろ閉店時間なんですけど‥‥」

 

「あたしにもね‥‥あったのよ‥‥正義を信じていた頃が‥‥」

 

時折、ホウメイが閉店である旨を伝えているが聞こえていないのか、聞き流しているのか上の空みたいなムネタケだった。

 

 

そしてやってきたドック艦コスモスとの合流日

 

ムネタケはブリッジに上がる前に薬品貯蔵庫の扉を壊し、1本のナノマシーンの注射を自らの腕に注射した。

 

「識別信号確認、前方にコスモスを確認」

 

「合流座標を確認、作業班は待機」

 

ブリッジで接舷作業を指揮していたユリカの後ろにムネタケがフラリと現れた。

その眼は虚ろで、今にも倒れそうである。

 

「敵だわ‥‥」

 

ムネタケはモニターに映し出されたコスモスを見てポツリと呟く。

 

「えっ?敵?」

 

ムネタケの言った『敵』と言う言葉にユリカが反応したが、周辺の宙域には敵の反応も姿もなく、居るのはナデシコとコスモスの2艦だけである。

 

「エステバエックス発進よ!」

 

「提督?」

 

ムネタケはブリッジから格納庫へと行き、エクスバリスに乗り込んで、ナデシコを発進した。

 

『ムネタケ提督、ムネタケ提督、応答してください、ムネタケ提督』

 

メグミがムネタケに通信を入れるが、一行に返答はこない。

 

「いくわよ。地球の平和を脅かす木星蜥蜴め!」

 

ナデシコからエステバリス全機がムネタケを連れ戻しに出た。

 

「急ねぇとコスモスがやべぇぜ」

 

「でもどうするの?」

 

「墜すわけにもいかないでしょう」

 

「提督殿は保護しろってさ」

 

「あいつ、どうしてこんな真似を?」

 

やがてエクスバリスはナデシコとコスモスとの中間の位置でエネルギーチャージを開始した。

 

「正義の力、思い知れ!」

 

「どうする?」

 

「力づくでも連れ戻す」

 

アキトがスピードを上げ、エクスバリスに近づこうとするが、

 

『ダメだ。戻れ!エネルギーチャージを始めちまったらもう遅い』

 

と、ウリバタケに止められる。

映像は無理だが、音声のみはエクスバリスと繋がった。

 

「ありがとう‥‥ガイ‥‥」

 

すると、ムネタケはポツリとガイに礼を言う。

何故、ムネタケがガイに礼を言うのか皆は不思議に思った。

 

「ゲキガンフレアー!!」

 

やがて、エクスバリスはエネルギーが逆流し、ウリバタケが指摘した通り機体がその強度に耐え切れず、眩い光と共に爆発した。

ナデシコのブリッジには爆発したエクスバリスの光景が映った。

皆が唖然としている中、

 

「エクスバリス‥シグナルロスト‥‥」

 

「提督が脱出した形跡は‥‥ありません‥‥」

 

ブリッジにルリとコハクの声が冷たく木霊した。

ムネタケの死は試作開発されたエクスバリスの運転によるエンジンの暴走による事故死と断定した。

たぶんそれが誰も傷つかず一番穏便に済む方法だと思ったからに違いなかった。

それはムネタケを切り捨てようとした軍も含まれていた。

何故、ムネタケが試作品のエクスバリスに搭乗したのか?

その理由をナデシコは『先日の機密漏洩により、士気が低下。提督はその士気を上げようと陣頭指揮を執る為に試作機、エクスバリスへの搭乗を自ら志願』と言う文章を軍へと送った。

いささか疑問が残る報告書にも関わらず、軍としてはその件でさえもどうでもいい事で処理された。

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

「信じていたモンに裏切られるってやっぱ辛いよな‥‥」

 

ウリバタケが寂しそうに呟く。

 

「提督のことですか?」

 

エステバリスの模型を手にしたアキトがウリバタケに尋ねる。

 

「それもそうだが、俺達だって同じようなもんだろう?平和を守る戦いが、ただの戦争だったんだから」

 

ふとウリバタケはヒカルが作っていた模型に目を向ける。

実はウリバタケはヒカルに告白するも、『ウリピーとは恋愛ではなく友達でいたい』と言われフラれていたのだ。

 

「辛いよな‥‥」

 

「そう‥っすね」

 

再び、黙々とジオラマ製作を続けるウリバタケ。

 

「よし、完成だ」

 

出来上がったジオラマは雪山での戦闘を模したものだった。

 

「うわぁぁ~リアル」

 

「だが、所詮模型は模型だ。本物の戦争じゃない。こちとら人殺しの機械を愛しン十年だ。模型とリアルの区別はついているつもりだ」

 

「大人‥ですね」

 

しみじみと鑑賞に浸っていると、そこへユリカが来た。

 

「ウリバタケさん!前から思っていたんですけど、これってリアルじゃありません!」

 

ユリカの手には先日のルリとコハクのフィギュアとユリカのフィギュアがあった。

 

「はぁ?」

 

「ルリちゃんとコハクちゃんはこんなナイスバディーじゃないですし、私の場合はもっと胸ありますもん。アキトならわかるよね?」

 

確かにルリとコハクのフィギュアは本人達よりもバストの大きさが異なっていた。

 

「こ、こら、誤解されるような発言をするな!」

 

「とにかく作り直してください、ついでに腕だってもうちょっと細くして‥‥」

 

ボキッ

 

ユリカが自分のフィギュアを弄っていると腕の部分がもげた。

 

「「げっ」」

 

自分の姿を模したフィギュアを壊したユリカの行動にアキトはドン引きし、ウリバタケは、

 

「貴様!人の作ったモンになんてことしやがる!」

 

と声をあげて怒鳴った。目尻には薄っすらと涙まで浮かべている。

 

「うわぁぁんごめんなさーい」

 

「神が許しても俺が許さーん」

 

「アキト助けて!」

 

「俺を巻き込むな!」

 

格納庫に3人の声が響いた。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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