機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第21話

 

 

 

 

 

ナデシコは今日も戦っている。

たとえそれが人と人との戦いだったとしても‥‥

戦い続けるためではなく

戦いを終わらせるために‥‥

生き残るために‥‥

 

 

パチャ、ピチャ‥‥

 

 

水が跳ねるような音が聞こえた気がして、ルリは目を覚ます。

しかし、そこには水が有る筈も無く、ナデシコの自分の部屋、そして、自分の身体にはコハクが抱きついて眠っている。

 

「ンぅ~ルリ~‥‥」

 

ルリは微笑みながら眠るコハクの頭を優しくなでた。

 

今日も今日とて木星蜥蜴との戦闘で最前線に出て戦うナデシコ。

戦闘の合間を縫ってルリは人類の歴史を振り返る。

人の歴史は戦争の歴史と言っていいほど、戦争で埋め尽くされていた。

ルリは人の平均寿命から残りの自分の寿命を計算し、残りの余生も戦争の歴史で埋め尽くされるのかと思いながら、オモイカネに自分の過去のことを聞いた。

 

「教えて、オモイカネ。私の過去を‥‥」

 

≪あなたがナデシコに乗ってから、同じ質問が1257回≫

 

≪答えは同じです≫

 

「それでも教えて」

 

ルリの言葉に応じて、オモイカネがルリに関する様々なデータを表示する。

自分の育ての親であるホシノ夫妻やルリ個人のデータ。

そして、ネルガルへ引き取られる直前のルリの経歴。

 

『7年前、身元不明のルリは、ネルガル傍系の電算部門研究所に勤める、養父母に引き取られた。養父母は、研究所内で6年後に完成予定の新造戦艦『ナデシコ』のクルーとしての知能的訓練を施し、高額の養育費を謝礼として受け取って、ネルガル本社へ引き渡した』

 

ルリは表示された自分の経歴を読む。

 

「私だってそんなことは覚えている。私が知りたいのは、それ以前の事」

 

≪答えは同じです≫

 

「それでも聞きたいの」

 

≪空白≫ 

 

≪不明≫

 

表示された結果を見て、ルリは小さく溜め息をついた。

 

「答えが変わるはずがない。オモイカネは何も記憶していない。そして私も覚えていない」

 

ネルガルが知っているルリの経歴以降の経歴をオモイカネが知る由もなかった。

そして、ルリ自身もネルガルに引き取られる前の事を覚えていなかった。

 

 

その日の夜、ルリは夢を見た。

ゆりかごの中にいる幼い自分。

そしてゆりかごを覗く、男の人と女の人、顔は逆光のためかはっきりと見えない。

 

「ルリ‥‥私が君の父だ‥‥」

 

「ルリ‥‥私があなたの母です‥‥」

 

「ちち‥‥はは‥‥」

 

幼いルリは男の人が言った「ちち」と女の人が言った「はは」という言葉を繰り返し言って、手を伸ばす。

すると今度は年老いた男の声と共に老人のシルエットが見えた。

老人の顔はやはり、逆光の為、見えない。

 

「ルリ、私が最初のお前の教師『アルキメデス』じゃ」

 

「あ、アル…アルキ‥‥」

 

「ア・ル・キ・メ・デ・ス、π」

 

「アルキメデス‥‥パイ‥‥」

 

「「よくできたルリ、偉いよルリ、かわいいよルリ」」

 

万歳をして喜ぶ父と母のシルエット。

 

ルリが最初に覚えた言葉は「ちち」「はは」「アルキメデス」「π」の4つ。

尚、パイはおっぱいのパイではなく、円周率のパイだ。

そして3歳の頃に覚え、気に入った言葉が「バカ」だった。

 

夢は断片的ではあるが、過去の自分を徐々に思い出させていく‥‥。

自分が何かを覚えるたびに、万歳をして喜ぶ父と母のシルエット。

最初の教師、アルキメデス、π。

5人目の物理学教師、アインシュタイン。

一緒に学び、なんとなく自分に似た他の子供達。

チェスやパズルをして遊んだ丸いロボット。

そして‥‥パチャパチャと水の跳ねる音‥‥

 

「またか‥‥」

 

夢の中の水が跳ねる音で、目を覚ますルリ。

そこに空間ウィンドウが開く

 

『ルリちゃんちょっといいかな?』

 

空間ウィンドウに映ったメグミが横になっているルリに尋ねる。

 

「敵の攻撃ですか?」

 

『ううん、違うの。ルリちゃんにお客様が来ているの』

 

「私にお客様?」

 

自分にお客など来る筈がないのだが‥‥

ネルガル関係の人だろうか?

そう思いルリが身支度を整え、後部格納庫へ行くと、プロスペクターとユリカが待っていた。

そしてナデシコの後ろからは帆船を模した空中艦が飛んでいた。

 

「ピース?」

 

ルリが空中艦の船体に飾られた電飾の英文字を読む。

 

「そっか、平和だからピースなんだ」

 

「ピースランドはスイスとならぶ永世中立国でして、前身はギャンブルOKのテーマパークで国王は経営者の曾孫にあたるプレミア国王」

 

「うん、昔、子供の頃行ったことがある」

 

「喜ぶのは子供だけではありません、先の戦争のどさくさに独立しまして、なにしろギャンブルの国、エンターテイメントの国ですからお金が集まり、ついでに出来たピース銀行は今や正体不明の振込口座が一杯、誰だって余計な所得は隠したい、無駄な税金は払いたくないですからね」

 

「ネルガルもね‥‥」

 

ユリカの皮肉にプロスペクターは思わず視線を逸らす。

どうやらネルガルもこのピース銀行にお世話になっている様だ。

 

「まぁ、どちらにせよ。スイス銀行とピース銀行は秘密厳守ですから」

 

「でも、ピース銀行に口座を持っている人がナデシコに居る?」

 

「ですから今回の御用はルリさん」

 

「私口座なんてありません」

 

ルリはピース銀行に口座なんて開設していないし、これまでの人生でピースランドに行ったこともなければその国の人間と関わりを持ったこともない。

 

「いずれにしても銀行を怒らせると怖い、今の世の中銀行と金庫で動いていますから丁重にお迎えください」

 

ピースランドの空中艦から馬車を背負った形の戦闘機が後部格納庫に着艦した。

馬車から出てきたのは、羽根付き帽子に長髪、マントに身体に密着する真っ白なズボンそしてロングブーツを履いた中年の紳士だった。

老紳士の服装はコスプレではないかと本気で思うぐらい、今の世の中に不釣合いな格好だった。

羽根付き帽子の男はルリの前に進むと、おもむろに膝を床につけて敬礼する。

 

「お迎えにあがりました、姫」

 

「「ひめぇぇぇえええっ!!?」」

 

余りの驚きで、プロスペクターとユリカは飛のきながらルリに視線を向けていた。

ユリカ、プロスペクター、ルリは事情を詳しく聞くため、ピースランドの使者をナデシコの応接室へと案内した。

 

応接室へと案内された使者はまず、自分が仕えているピースランド王家の事情から話した。

それによると子宝に恵まれなかったピースランド国王夫妻は人工授精による治療を望み、某国にある医療機関へと依頼したのだが、その施設がピースランドとは無関係なテロ事件に合い、当時受精卵だったルリは行方不明となってしまった。

その後は子宝に恵まれはしたものの、国王夫妻は生まれていたはずのルリのことを諦めきれず、行方をずっと捜し求めていたと言う。

 

「生みの父、母‥‥」

 

ルリの頭の中に万歳をして喜ぶ父と母のシルエットが浮かんだ。

ソファーに腰掛け、テーブルに置かれた己の過去に関する資料を眺める。

 

「お父上とお母上が姫様をお待ちです!一度、我が国へおいでください!」

 

最終的にその国に留まるか否かは別として、ルリはピースランドの招待を受けざるを得なかった。

 

「お姫様か‥‥」

 

部屋の机で突っ伏しているルリ。

時代錯誤な単語と突然の事態で少々戸惑う。

そりゃあいきなり自分は一国の姫だったなんてアニメ・漫画の様な非現実的な話をされても困惑する。

 

「と、とりあえずお姫様がどんなモノなのか調べてみたらどうかな?」

 

コハクがフォローを入れ、オモイカネにお姫様の資料を請求する。

 

すると、

 

【魔女っ子プリンセス ナチュラルライチ】

 

「「‥‥‥‥」」

 

リクエストに対して画面に表示されたのは、魔法少女のアニメだった。

 

「オモイカネ‥‥」

 

「あなたって以外と‥‥」

 

「「バカ?」」

 

2人の辛辣な言葉に、オモイカネは慌てて魔法少女のアニメを閉じて、歴史資料としての実際のお姫様の資料をかき集めて表示する。

色んな国のお姫様の歴史や作法、衣装、言葉使いの映像をぼぉーっと眺めているコハクにルリが話しかけてきた。

 

「コハクはあまり驚かないんですね」

 

多少寂しそうに、ルリがコハクを見る。

 

「いや、驚いてはいるよ。けど、正直この場合なんて言っていいかなと思って‥‥」

 

コハク自身も困惑している。

ルリに本当の家族が見つかった。

それは喜ばしい事なのだろうけど、その反面羨ましい様な寂しい気持ちもあった。

もし、このままルリがお姫様となりナデシコを降りてしまったら、自分は1人になってしまう。

でも、ようやくルリには本当の家族が見つかったのだ。

本当の家族との仲を血の繋がらない半ば偽りの家族である自分が引き留める権限はない。

 

「私は喜んでいいんでしょうか?」

 

「喜んでいいと思うよ。ルリの本当の家族が見つかったんだから‥‥」

 

コハクの『本当の家族』と言う言葉がルリの胸に突き刺さる。

コハクには家族と言うモノは居ない。

嘗ての自分もそうだった。

似たような境遇を持つ者同士だからこそ、ナデシコで出会い、ルリとコハクは姉妹となり家族となった。

そんな中、自分には本当の家族が存在し、それが見つかった。

ルリとしてはコハクを裏切ってしまった様な気持ちだった。

 

「コハク‥‥」

 

「僕のことは気にしなくていいから、直接家族の人と会って話をしてくるといいよ。これは僕の問題じゃなくて、ルリ自身の問題なんだからルリが自分で決めて‥‥」

 

そう言うとコハクは部屋を出てしまった。

その後ろ姿はやっぱり寂しそうだ。

 

「‥‥コハク‥‥私は‥‥私はどうしたらいいのかな?」

 

『会え』と背中を押してくれたことには感謝する。

だけど、引き止めて欲しかったとルリは心の隅で思った。

でも、それは贅沢な我儘なのだろうか?とも思う。

しかし、両親という存在が全く気にならないと言えば嘘になる。

会わないで後悔するなら、会って後悔した方がいい、そうに違いないとルリは自分自身に言い聞かせた。

ルリが再び空間ウィンドウを眺めている時、コミュニケが着信を知らせて新たな空間ウィンドウが展開され、プロスペクターの姿が現われる。

 

「ルリさん、少々よろしいですか?」

 

「はい」

 

「実はですね、明日ピースランドに行かれる時にルリさんの護衛をお付けしようと思っているんですが、いかがなものでしょうか?」

 

「護衛‥ですか?」

 

「はい、やはり戦争中な訳ですし、ルリさんに何かありますと、私達としても困ってしまいますので‥‥」

 

「そうですか‥私は別に構いませんが‥‥」

 

ルリは自分に護衛が着くことを了承した。

 

「それでは、ルリさんのご希望の方はいらっしゃいますか?」

 

プロスペクターの言葉に、ルリは一瞬考えた後、答えをプロスペクターに告げた。

 

「そうですね、それではテンカワさんをお願いします」

 

本音としてはコハクに着いて来てほしかったが、オペレーターである自分がいない間、コハクはナデシコに必要不可欠な人員であり、ルリと一緒にピースランドには行けない。

 

「ほう、テンカワ君ですね。分かりました。それではその様に手配しておきますので、はい」

 

プロスペクターはそう言うと、通信を切った。

ルリがアキトを選んだ理由。

それはルリ自身がパイロットの中で一番時間を共有していたのがアキトでもあり、オモイカネの暴走時にもアキトを頼ったからでもあった。

ピースランドに向う日、ルリはダメ元でコハクも誘ったが、「僕が一緒に行くとルリは正しい判断が出来ないだろうから‥‥」 「それにルリが留守中、誰がナデシコのオペレートをするの?」と言ってルリとピースランドに行くのを辞退した。

ルリは不満な顔をしながらも、アキトと共にピースランドへと向かった。

 

「それじゃ行ってきます」

 

アキトがプロスペクターに向かって声を掛ける。

 

「はいはい、よろしく頼みますよ。くれぐれも粗相の無いように」

 

そしてアキトがルリの護衛役と言うことでユリカは、

 

「どうして、なんで、アキトがルリちゃんの護衛なの~?」

 

と、大声で不満をぶちまけていた。

 

「戦争下、ピースランドのお姫様ともなれば、護衛の1人でも必要でしょう?」

 

プロスペクターの答えが的を射ているだけにユリカは一瞬怯むが、

 

「でもでも、何でアキトなの!?」

 

それでもなお食い下がるように言葉を言い続けた。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「コーくん、本当にルリルリと一緒に行かなくて良かったの?」

 

ブリッジからピースランドへと行くルリの乗ったアキトの空戦フレームを見送るコハクにミナトが聞いてきた。

 

「いいんです」

 

「でも、もしかしたらルリルリはもうナデシコに帰ってこないかもしれないのに‥‥」

 

「例え、そうであってもそれはルリが選んだことです。家族と一緒に居たいって‥‥それにもう二度と会えなくなるわけじゃないですし‥‥」

 

「コーくん‥‥」

 

ミナトやルリには平気なことを言っていたコハクであったが、内心ルリ以上に不安だった。

火星で八ヶ月という長い期間別れその後再会を果たしたが、もしルリがピ-スランドに留まればそうそう会えるものではない。

何せ相手は一国の姫なのだから、下々の身分のコハクが「会いたい」と言ってそう簡単に会える相手ではなくなるのだから‥‥

ましてやコハクはネルガルの所有物‥いつまで自由に外を出ていられるか分からない身だ。

そんなコハクをミナトは心配そうに見つめていた。

 

 

「でも、なんで俺なの?」

 

その頃、アキトはエステバリスのコックピットにてルリが自分を指名したことに疑問を感じ、彼女にその理由を聞いた。

てっきり自分よりもコハクと一緒に行くものとばかり思っていたからだ。

 

「プリンセスにはナイト‥‥お姫様には騎士がつきものだそうです」

 

「どこで覚えたの?」

 

「ビデオで見ました」

 

「そうなんだ‥‥」

 

2人を乗せた空戦フレームは王宮の正門前に着地した。

事前にナデシコから連絡が言っている為か、王宮の前にエステバリスが着陸しても混乱は起きなかった。

下には赤い絨毯が敷かれ、正装した近衛兵がズラリと左右に並んでいた。

 

「さっ、どうぞ姫様。ご案内いたします」

 

大礼服に身を包んだ執事がルリとアキトを謁見の間へと案内する。

 

「はぁ、よろしくおねがいします」

 

まだ現実感が無いなと、ルリはどこか上の空で執事についていった。

アキトも『場違いだな』と思いつつルリの後を追った。

 

「おお!ルリと申したな。我が子よ。よくぞ生きていてくれた」

 

ルリが声に釣られて顔を上げると、階段の上に設けられた玉座には華美な装飾に身を固め王冠を乗せ、目からは滝のような涙を流している人物がいた。

 

「貴方が父?」

 

父と呼ばれたことで感極まったか、王は玉座から立ち上がる。

 

「そう!私がお前の父だ!!そしてこちらがお前の母!!」

 

指し示された先、ルリと同じ色の髪を持つ女性の姿。

確かに母と言われるだけあって容姿がそこはかとなくルリに似ているようにも見える。

 

「あらあら、まぁまぁ。立派になって」

 

微笑みながらハンカチを目元に当てている王妃。

 

「そしてお前の姉弟たちだ!!」

 

「「「「「ようこそルリさん!我らのお姉様!!」」」」」

 

5人の皇子の内、2人が金髪、残り3人が王妃、ルリと同じ色の髪をもつ王子達の歓迎はかなり芝居がかっていた。

それでも血が繋がっているのか、目元はルリに似ていた。

 

「此処じゃない‥‥」

 

ルリは両親とされる父と母の姿を見て、夢に出てきた両親と違い小さく呟く。

アキトは芝居がかった紹介に呆れたというか、演出過剰なんじゃないかと思った。

そして国王の姿が、ガイゼル髭を蓄えた、超がつくほどの親バカな某連合軍提督の姿と被って見えた。

ただ、国王の声はナデシコの違法改造屋の整備班班長と似ていた。

 

「みんな一緒じゃぁぁぁぁ!」 

 

玉座から続く階段を駆け下り、涙を流しながらルリの両手をがっしりと握る。

 

「ここにずぅぅっといていいんだよ」

 

感激に咽ぶプレミア国王は純粋な喜びで満たされている。

アキトは国王とは思えないその姿に対し、完全にドン引きである。

国王は潤む瞳でルリを見上げているが、いったん醒めた心はそれすら演出のように捉えてしまう。

 

「父。お願いがございます」

 

相手が一国の王と言うことにも配慮し、ルリは丁寧な言葉で話しかける。

 

「おぉ、何でも行ってみぃ」

 

「‥‥少し、時間をください」

 

今の自分に冷静な判断は無理かなと、ルリは決断を先送りにすることにした。

 

ルリとアキトはピースランドの城下町を観光とクルーに頼まれたお土産を買うため、歩いていた。

街にはいろんな国の有名な建造物を模した建物があった。

中国の万里の長城、イギリスのビックベン、フランスの凱旋門にエッフェル塔、イタリアのピサの斜塔にコロセウム、オランダの風車。

 

「ルリちゃん、まだ買うの?」

 

積み上げられたお土産の入った箱を崩さないように運ぶアキトであったが、量があまりにも多い為、ヨタヨタ歩きになる。

 

「後は、セイヤさんにスパナ、ホウメイさんには香辛料、イネスさんには熊のぬいぐるみ」

 

メモに書かれたお土産リストを読み上げルリ。

スパナと香辛料はあらかじめ、本人達に希望の品を聞いていたが、熊のぬいぐるみはサイズなどを聞いていなかったのでファンシーショップで選ぶことにした。

ルリは自分と同じぐらいはあろうかという熊のぬいぐるみを選んだが、さすがにこれを背負って歩けないと判断したアキトが手のひらサイズの熊のぬいぐるみにしようと言った。

そして昼時、2人は近くにあったイタリアレストランに入った。

 

「あ、ソ~レ~ミ~ヨ~ピースランド名物5つ星、元祖本家のピザとパスタだ」

 

店主は得意げに料理を出す。

 

「元祖本家って‥‥ピザとパスタは‥‥」

 

「イタリアのナポリです‥‥この国はどこかのマネばかり‥‥」

 

外を歩いて分かったが、この国はよく著作権に引っかからないのか不思議なくらい世界中の名所や名物を自国のオリジナルだと謳っている。

それは今自分達が居るイタリアンレストランも同じだった。

 

「お譲ちゃんそういう事は食ってから言ってくれ、さあ食ってくれ!」

 

「は、はい」

 

店主に押され気味なアキト。

2人はピザを一切れ口に運ぶ。

 

「ウッ‥‥」

 

「‥‥」

 

口に入れたとたん、2人は固まる。

 

「どうだい?うちの自慢のピザは?」

 

店主が味を聞いてくる。

2人は口にしたピザを口の中に無理に捻じ込む。

 

「お、俺火星育ちだからよくわかんないや、ハハハハ‥‥」

 

アキトは引き攣った笑みを浮かべながら曖昧に答えるが、ルリは、

 

「不味い」

 

味の感想を率直に言った。

ナデシコに乗艦当時のルリならばこんなことは言わなかっただろうが、ナデシコで食べる楽しみを知った今のルリにとってこのピザはあまりにも不味かった。

見かけは美味しそうなのだが‥‥

 

「あぁ?」

 

店主は「不味い」と言われて顔を引き攣らせている。

 

「不味いです。それもすっごく」

 

ルリは、あまりの不味さのせいか不機嫌な顔をしていた。

 

「な、なんだと‥‥?」

 

そして段々と癇癪を起こし始める店主。

 

「ル、ルリちゃん」

 

止めようとするアキトを尻目にルリはピザが不味い原因を指摘する。

 

「コショウと唐辛子、要するに香辛料とチーズとオリーブオイルの使いすぎ、質も良くない。なんでも舌を刺激すればいいと思っているのは三流のコックです」

 

「が、ガキと火星育ちが俺の料理にケチを~」

 

店主は拳をプルプルと震わせている。

 

「このピザとパスタ、火星だろうと木星だろうと人間が食べれば誰でも不味いと思うでしょう。これを食べて美味しいと思う人は舌が壊れています」

 

この言葉が引き金となり、

 

「営業妨害だ!つまみ出してやる!」

 

とうとう店主は実力行使に出た。

店主はルリに掴みがかろうとするが、

 

「やめろ!この子に手を出すな!」

 

アキトがルリを掴もうとした店主の手を止める。すると店主はアキトにドロップキックをしてアキトを蹴り飛ばす。

アキトはそのまま後ろのテーブルに突っ込む。

店主は尚もアキトに追撃を食らわすが、コハクに連日鍛えられていたアキトにとって最初の一撃は不意打ちだったため、食らったが、その次からは話が違った。

掴みかかろうとした店主の腕を掴み、勢いを殺すことなく店主を思いっきり一本背負いで投げ飛ばした。

店主は壁に激突し、「ウ~ン」と唸り声をあげ、伸びた。

すると騒ぎを聞きつけ、厨房から店員達が駆けつけてきた。

 

「マスター!」

 

「親方!」

 

「師匠!」

 

「先生!」

 

口々に伸びている店主に声をかける店員達。

やがて怒りの矛先はアキト達に向けられた。

 

「このガキ、よくもやりやがったな!」

 

「先に手を出したのはその人です」

 

ルリがこちらの正当性を主張するが、店員達の怒りは収まるはずもなく。

 

「うるせぇやっちまえ!!」

 

店員達はアキト達に近づく。

 

「この子には指一本触れさせない!俺が相手だ!!」

 

アキトがルリを庇うように立ちふさがる。

 

「ナイト気取りか?いい気なもんだ」

 

「どこかのお姫様でもあるまいし」

 

指を鳴らしながらアキトに迫る店員達。

やがて店内で乱闘が始まった。

1対1ならば問題はなかったのだが、4対1では今のアキトには不利で結局ボコボコにされた。

 

夕方、公園の噴水の縁に腰掛、濡れたハンカチで傷口や顔についた汚れを拭くアキトがいた。

 

「あぁ~こんな所に来てもケンカかぁ、何がピースランドだ」

 

国の名前とは裏腹に結構好戦的な連中に対して愚痴る。

 

「ごめんさい‥私のせいで‥‥」

 

ルリは自分の言った言葉からアキトがケンカに巻き込まれ、傷ついたことに深く謝罪した。

 

「お姫様を守るのがナイトの仕事だろう?とはいってもやられっぱなしだったけどな‥‥稽古をつけてくれているコハクちゃんに申し訳ない‥‥それにしても‥不味かったな、あのピザ」

 

「この世のものとは思えませんね」

 

夕陽を見ながら改めて昼に食べたピザの感想を言う2人だった。

 

翌日、アキトとルリは再び空戦フレームに乗りある場所へと移動していた。

 

「スカンジナビアのフィヨルド?なんでそんな場所に?」

 

「父に聞いたんです。生みの親がいるなら育ての父、母がいるはず‥でも私には覚えがない‥‥」

 

やがて目的の場所に着く。

その建物は林の中に造られたレンガ造りの建物で、今は廃墟と化し、庭は草が伸び放題、建物にはツタが寄生するかのように絡まっている。

幸い正面玄関の扉には鍵が掛かっていなかったので、2人は難なくその建物に入ることができた。

建物の中を一歩進むごとに、授業風景が、皆で布団を並べて一緒に昼寝をしたことなど、かつての姿が鮮明にルリの脳裏に蘇る。

やがて、扉に動物の絵が描かれた通路に出るとルリは衝動的に走りだした。

そして魚の絵が描かれた扉の前で止まる。

恐る恐る扉のノブの手を掛け、回すと扉が開いた。

部屋は夢で見たのと同じで、あの丸いロボットが出迎えてくれたように見えたが、よくよく目を凝らして見ると、そこは長い歳月ほったらかしにされた部屋で、部屋の真ん中にある小さな朽ちかけの椅子、隅に置かれたベッドはマットが取り払われ、骨組みのみ、壁紙は雨水のシミで黒ずんでおり、一部は腐っていた。

当然あの丸いロボットの姿も見えない。

 

「ルリさん‥だね?」

 

突然後ろから声をかけられ振り向くと、そこには長身に髭面の男性が、アキトと一緒に立っていた。

 

「国王から連絡があった。貴女が私に会いにここへ来ると」

 

「貴方が‥父?」

 

男はルリの問いに虚を突かれた顔をする。

 

「父?父‥か‥‥そうと言えばそうかもしれないな」

 

やがて男はルリの誕生について話をし始めた。

 

「その日、テロを受けた医療機関から身元不明の受精卵が持ち込まれた。ほとんどの受精卵は既に死んでいたが、無事だった者には生きる権利がある。それがたとえ、実験体だとしてもね」

 

「実験体?」

 

実験体という言葉にアキトが眉を顰める。

 

「ちょっと遺伝子を弄るだけで人はガンを克服できる」

 

「遺伝子操作なんて随分古い考えですね」

 

ルリが皮肉を込め男に言う。

 

「だが、結局人類の未来はそれしかない。未来の科学に適用できる頭脳、病気に犯されない体、これから進出する外宇宙へ適応するには遺伝子操作しかない!‥‥此処は空気も綺麗で水も汚染されていない。大気も比較的綺麗な所だ。子供達を育てるにはぴったりの環境だ。私達はここで幼児教育を施した。子供達は乾いた綿のように知識を吸収していった」

 

「遺伝子を組み替えたんですね?」

 

「人間は余計なことを覚えすぎる。私の子供達は必要なこと以外は覚えない。脳の要領を無駄使いしない。その証拠がルリさん貴女だ。貴女はその若さで事実上ナデシコを動かしている。貴女は他の人間よりも優れている。私は貴女を誇りに思う」

 

「他の子供達は?」

 

ルリはこの施設で自分と一緒に勉強していた子供達の行方を尋ねる。

皆は今頃どこで何をしているのかが気になったのだ。

 

「可哀想だが失敗もある‥‥」

 

男の話からどうやら、自分以外の子供達は既に死亡している様だ。

 

「この方法もとっくの昔に禁止された。この施設もご覧の有様さ‥‥だが、ルリさん貴女は数少ない成功例だ。けれど貴女が、国王の娘とわかった以上その幸せもあるだろう?」

 

そういって男は懐から1枚のキャッシュカードを取り出した。

男が言うにはルリは4歳の時、ネルガに引き取られていったが、それまで貯められていた莫大な養育費と生活費は手つかずのまま貯蓄され、今でもそのお金はピース銀行の口座にあり、このカードはその口座のキャッシュカードだと言う。

 

「父と母は?」

 

「ああ、これのことか‥‥」

 

男がリモコンを出し、ボタンを押すと

 

「「よくできたルリ、偉いよルリ、かわいいよルリ」」

 

聞き覚えのある声がして振り向くと、男と女のシルエットが万歳をしていた。

それは紛れもなく、ルリが夢で見た両親の姿だった。

 

「子供には両親が必要だ。子供を決して怒らない良い両親がね‥‥普通の人間ではとても務まらない」

 

「‥‥」

 

映像に震える手を伸ばすルリ、その様子をアキトはただ呆然とみているしかなかった。 

 

「ありがとう、生かしてくれて」

 

ルリはぽつりと、呟いた。

だが、アキトにはその声は冷めている感じに聞こえた。

 

「それは当然のことだよ」

 

男は当たり前のことをしてやったと言わんばかりの態度である。

その時、

 

パンッ!!

 

部屋に乾いた小さく木霊する。

 

「だけど、こんなことまで誰も頼んでない」

 

ルリが静かに呟き、男の頬を力いっぱい引っ叩くと、カードをベッドの上に置き、服が汚れるのも構わず古びた椅子に腰掛ける。

 

「そのお金はおじさんが使ってください」

 

ルリが座り、微かに椅子が軋みを上げる。

成長したルリには、この小さく古い椅子は弱々しい。

 

「…………ばか」

 

項垂れるルリは泣いているのか、髪の毛で顔が隠れ表情が伺えない。

 

その時、

 

パチャ‥‥

 

ルリはあの懐かしい水の音を聞いた。

 

窓に駆け寄り、耳を澄ます。

そしてルリはそのまま部屋の外へまっしぐらに駆け出す。

 

「ルリちゃん!?」

 

ルリは建物の裏口に着き、扉を開けようとするが、鍵が掛かっているのか、それとも錆付いているのか扉はビクともしない。

追いついたアキトが扉を蹴ると、目の前の小川には沢山の鮭が川を遡っていた。

アキトも鮭の川登を見るのは初めてその光景に感動していた。

満足のいくまで鮭を見ていたルリが、アキトに言った。

 

「テンカワさん‥‥」

 

「なんだい?ルリちゃん」

 

「帰りましょうか?ナデシコに‥‥」

 

「えっ?でも、本当にいいのかい?」

 

アキトはルリの回答に意外性を感じる。

ピースランドに残れば、お姫様として生きていけるのに、態々危険が伴くナデシコに戻ると言うのだから‥‥

 

「はい‥‥それに‥‥」

 

「それに?」

 

「それに、私が居ないとコハクがまた無茶をしますから」

 

アキトに微笑みながらナデシコに戻る理由を話すルリ。

確かにルリの言う通り、コハクは色々と無茶をするのはアキトも経験済みである。

 

「‥そうだね」

 

ルリの言葉にアキトも釣られて笑みを浮かべる。

結局ルリは、ピースランドに留まることなく、ナデシコへと帰った。

ナデシコに戻ってきたルリをコハクは驚いていたが、やはりルリが戻って来てくれたことが嬉しかったのか、思わず抱き付いた。

そして抱き付かれたルリもまんざらではない様子だった。

 

 

 

・・・・続く




ではまた来年。良いお年をお迎えください。
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