機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ 作:ただの名のないジャンプファン
先日、ナデシコにて「一番星コンテスト」なるものが開催された。
木星蜥蜴の正体が実は無人の機械ではなく、昔月を追放された地球人だと分かって以降、クルーの士気は下がる一方で、とうとう退艦するクルーまで現れた。
そんな気分を取り除こうということで、軍とネルガルの広報部がプロスペクターにイベントを計画、開催を要請した。
ナデシコの女性クルーが歌やモノマネ、水着姿を披露して男性クルーがその審査を行なうと言ったものだったが、その実態はネルガルの宣伝部と軍の広報部が画策した現艦長であるユリカの更迭と新艦長を決めるイベントだった。(但しこのことをナデシコで知っていたのはプロスペクターのみ)
ルリはとコハクは飛び込みでコンテストに参加した。
途中木星蜥蜴の攻撃で一時中断する事態も発生したが、撃退後にコンテストはなにごともなかったように再開された。
ルリとコハクはデュエットで参加すると思いのほか受けて1位をとったが、2人とも艦長なんてガラじゃないし、そもそもエントリー制での出場であるのだが、自分達は正規のエントリー手続きをせずにゲリラライブを行ったので、ルリとコハクの投票は全て無効票となり、その後のじゃんけん勝負でユリカが勝ち、結局ナデシコの艦長はそのままユリカが継続する事になった。
こうして何も変わることなく、ナデシコはまた木星蜥蜴との戦闘に身を投じた。
そして現在はインド洋にて作戦行動中のナデシコは‥‥
戦線より後方100キロにて軍の後方支援任務が、今回ナデシコが軍から下された命令であった。
しかし、随行する味方の艦はなく、戦力はナデシコ1隻だけ‥‥軍はまだオモイカネの暴走事件のことを引きずっているようだった。
前方では軍が木星蜥蜴と戦闘を行っている中、ナデシコのブリッジでは若干緩い空気が流れ、ユリカが暇を持て余し、歌を歌っているとエリナがそれをやめるように言う。
「~♪~♪」
「艦長下手な歌はやめなさい。作戦行動中でしょう」
「‥だって後方支援って言ってもなんか私達、仲間外れにされているような気がしますし」
ユリカがナデシコの現状に口をとがらせて愚痴る。
「そりゃ、そうでしょう。この有様じゃ‥‥」
やはり、ブリッジでは作戦行動中の軍艦のようには見えない光景が広がっていた。
パイロット3人娘は雑誌を読み、アキトは格闘ゲームをプレイし、アカツキは株式を見て、ゴートはクロスワード、プロスペクターとジュンは将棋をしている。
一見平和そうに見えるこの時間もルリのある報告とこの後の出来事がそれを吹っ飛ばした。
「後部格納庫でボース粒子異常増大」
「「えっ?」」
ルリの報告を聞き、エリナとユリカの声が重なる。それと同時に爆発とその衝撃がナデシコを襲う。
「前線より入電、チューリップより出現した大型戦艦が1隻、一直線にナデシコへ向ってきます」
メグミが前線からの連絡を伝える。
それによると、木星蜥蜴の援軍である木星戦艦は、前線に居る地球連合軍には一切興味がない様子で、むしろナデシコが目標みたいだった。
「再び、ボース粒子の増大を確認、今度はYユニット左舷、先端部」
ルリの報告と同時にまたもや爆発が起こる。
「本艦の被害状況は?」
「後部格納庫及び左舷Yユニット第三ブロック全壊」
コハクがユリカに被害状況を報告する。
「でもおかしいですね、爆発のわりに被害が少ないですね」
ルリはこの2度起きた爆発の被害があまりにも小さい事に疑問視する。
『なんだ?なんだ?今の爆発は?』
爆発に驚きウリバタケがブリッジに通信を入れる。
『ディストージョン・ブロックが無かったら今頃皆お陀仏だったぜ』
「「ディストージョン・ブロック?」」
聞きなれない単語にユリカとエリナはその正体をウリバタケに聞く。
『よくぞ聞いてくれました。こんなこともあろうかと、艦内で被害を受けたブロックをディストーション・フィールドで隔離するシステムをコーくんと共に開発しておいたのさ、こんなこともあろうかと‥‥こんなこともあろうかと‥‥くぅ~一度言ってみたかったぜ、このセリフ』
「あぁ~!!あんた、Yユニットの整備ほったらかしてそんなことしていたの!?」
「敵艦の状況は?」
「前方、距離42キロ」
「敵影センサーに捕捉、モニターに映します」
モニターに映し出された艦影は先日月で見かけた木星戦艦と同型のものだった。
「どうされますか?艦長」
プロスペクターがユリカに尋ねると、
「逃げましょう」
ユリカはあっさり逃げの一手を打ち出す。
「「「「えええっ!?」」」」
「ミナトさん、最大速度で上昇してください」
「いいけど、それだと宇宙に出ちゃうわよ?」
「構いせん」
「了解、エンジンフルパワー」
ミナトは航海計器を弄る。
「ボース粒子の以上増大を確認、今度は‥‥ブリッジの真下です!」
「ナデシコ急速上昇」
ナデシコは勢いよく上昇する。すると先ほどまでナデシコが止まっていた空間に突然爆弾が現れ爆発した。
まさに危機一髪であった。
あとほんの少しユリカの命令が遅れていたら、ナデシコのブリッジは吹き飛ばされているところだった。
さてさて、外の景色はすっかり夕日のインド洋から漆黒の星の海へと変わる。
成層圏すら抜けたナデシコはどこへ行くでもなく宇宙空間を逃げ回っていた。
なぜなら敵の戦艦が律儀にも一生懸命追いかけて来ている為である。
「敵艦、速度を上げ、本艦を追尾」
「しつこいわね」
モニターに移る木星戦艦を見てミナトが言う。
地球軍の艦艇はインド洋に沢山居たにも関わらず、木星戦艦はそれらに目もくれずにナデシコを追って来る。こうなるとやはり敵さんの狙いは完全にナデシコのようだ。
まぁ、そういう意味ではナデシコが敵に過大評価されている事はラッキーだったかもしれない。
あの兵器が連合軍に使われたらたまったモノではない。
恐らく今頃は戦線がズタボロにされ崩壊されていただろう。
とはいえ、ナデシコ自身にとっては全然嬉しくない。
未知の兵器で攻撃されている以上、その正体と対処方法がわからなければ逃げるしかないのだ。
「逃げるなよ。反転して正面から戦おうぜ」
リョーコは戦わず、逃げたことに不満な様子。
「で、謎の新兵器の爆発でドッカーン」
「リョーコはラヴラヴの爆発で‥‥」
「「ドッカーン ハァ~ごちそうさま~」」
ヒカルとイズミがリョーコを茶化すと、リョーコは顔を赤くして2人を追いかける。
「待て、テメェら!!」
そんなパイロット3人娘はほっといて、被害区画を調査しているイネスにユリカが尋ねる。
「イネスさん爆発の原因何かわかりましたか?」
『今行くからちょっと待てて、詳しく、優しくコンパクトに説明するから』
イネスは早口でそう言うと、通信を切ってしまった。
それから少しして、
トン
ブリッジに玩具の太鼓の音が鳴る。
イネスは昭和時代によく公園で見かけた紙芝居屋の格好と紙芝居型の電子板でブリッジ要員に今回の事態を説明する。
ブリッジの皆は手に水飴やチョコレートといった駄菓子を持っている。
「被害を受けたブロックから爆発物の残骸を発見、調べたところ木星軍の使用している実弾と材質が一致し、同じものと思われる」
「爆弾?じゃあ外からの攻撃じゃないの?」
ヒカルの質問にイネスがおさらいも兼ねて木星兵器の説明をする。
「皆さん、先日来から木星軍が投入し始めた大型ロボットは覚えていますね?さてお立会い、このロボット相転移エンジンを内蔵した強力な兵器ですが、それだけではあらず、ないより恐ろしいのはチューリップの介在なしにボソンジャンプができるということ」
「つまり、チューリップを使わずにロボットが瞬間移動できるなら‥‥」
ユリカがペロキャンを舐めながらイネスの説明を聞いて解釈をして、
「爆弾だろうとミサイルだろうと送りつけられる‥‥」
アカツキがスルメを齧りながら結論を言う。
「その通り、つまり敵は爆発物をナデシコ艦内に直接送りつけてきたというわけ」
「じゃあ、ディストーション・フィールドじゃ‥‥」
「防げないわね‥‥この兵器に対する防御手段は皆無と言っていいわね。敵の砲撃の精度はわからないけど、ブリッジや機関部に直接攻撃を受けたらナデシコはお終いね」
イネスは今回、この敵の新兵器の前に現時点では防御手段は皆無であり、現在ナデシコは絶賛ピンチの真っただ中であると言う。
すると、
「ボソン砲‥‥」
ユリカがボソっと呟く。
「「えっ?ボソン砲」」
「あ、いやなんか名前があった方がいいかなっと思って」
ユリカは敵の新兵器の名前を『ボソン砲』と命名した。
「ボソっと感心‥‥ボソン‥ほぉ~‥‥」
イズミのギャグには誰も突っ込まなかった。
~かんなづき 艦橋~
木星戦艦、かんなづきの艦橋では反撃もせず、逃亡したナデシコの姿を見て副長の高杉三郎太が高笑いをする。
「わっはははは、いきなり逃げ出すとは流石は地球人、肝っ玉が小さいぜ、我らが跳躍砲に臆したとみえる」
「甘いな」
「は?」
しかし、かんなづき艦長の秋山は高杉の推測を否定する。
「あの判断の早さのせいでで跳躍砲の第3弾が外されたのだ。敵艦長の能力はあなどれん」
「買いかぶりではないですか?」
「まっ、よく言うではないか『獅子はうさぎを倒すにも虎穴に射る』、とな‥‥『デンジン』の方もいつでも出せるようにしておけ!」
「了解!」
かんなづきは月での作戦ではダイマジンの輸送任務という裏方で終わったが、今回は新兵器『跳躍砲』を搭載し、ナデシコ撃破の命を受け、出撃してきたのだ。
そのため、艦長の秋山、副長の高杉をはじめ、乗組員の士気は高かった。
~ナデシコ ブリッジ~
「打つ手なしか‥‥」
イネスの説明を受けて、珍しく絶望感の様な重い空気が漂うナデシコのブリッジ。
「いいえ、突破口ならあるわ‥‥敵がその気ならとっくにやられている筈‥‥おそらくそのボソン砲にも弱点がある‥‥」
しかし、イネスはまだ手があると言う。
木星蜥蜴が人類だからこそ、絶対無敵、完璧なモノなどある筈が無く、例え、強力な兵器と言えど、弱点は存在した。
「そうか、射程か!」
ゴートがボソン砲の弱点を指摘する。
「正解、敵は接近しながら攻撃してきたということは、敵はまだ遠距離のボソン砲攻撃は出来ないようね‥‥1発目、2発目のボソン砲の攻撃で敵艦とナデシコとの距離から推定される射程は100キロ前後って所ね」
「今の内にエステで突っ込むかい?」
リョーコが攻撃を意見するが、
「まぁ、到達するその前に見つかってドッカーンだね」
イズミが当然もたらされる事実を言う。
「敵がフィールドを張っているいじょうグラビティーブラストを打ち合っても単なる消耗戦‥‥こりゃ、やっぱ打つ手なしか‥‥」
「なに言ってんだ、ロン毛!」
アカツキの「打つ手なしに」反論するリョーコ。
例え、ボソン砲の弱点が分かったとしてもナデシコがすぐに反撃する手段が見つかった訳ではない。
「はいはい、お静かに大体の状況はわかりました。ここは1つ艦長のご意見を‥‥」
プロスペクターがユリカに対策を聞くが、ユリカは目を瞑ったまま何も言わない。
「まさか貴女、いきなり『くかぁー』とか言って居眠りギャグをかまそうとしてない?」
「‥‥‥」
「ミスマル・ユリカ!」
「あはははは、いやだなぁ~そんなことあるわけないじゃないですかぁ~」
笑ってあきらかに誤魔化しているユリカ。
「考えてた、考えてた」
イズミがユリカの考えを読みとる。
「えぇ~それではしばらく休憩していい考えがあれば発言してください」
プロスペクターの一言でこの場はひとまず解散となった。
尚その間、ルリとコハクは興味なさげにチョコレート菓子を齧っていた。
「はぁ~」
アキトが窓の外の景色を見ながら深い溜め息をつく。
「どうした?溜め息なんてついて、まだ負けると決まったわけじゃないぞ」
アカツキがアキトを慰める。
「そうじゃなくてさ‥‥せっかく海にきたから、戦闘が終わったらホウメイさんに釣りを教わるつもりだったのに‥‥」
「そりゃ残念。海は海でもここは宇宙の海だからね」
「火星じゃ魚っていなかったから、釣りってやってみたかったんだよね」
「えっ?アキト!今なんて言ったの!?」
ペロキャンを持っていたユリカがアキトの言葉に反応する。
「それよ、それ、どうしておもいつかなかったんだろう!?さすがアキト。ねぇ、今言ったこともう一度言って」
「え?ホウメイさんと‥‥」
「そこじゃなくて」
「釣り?」
「そう!それ!釣りよ、釣り!」
アキトの一言で何か攻略法を思いついたユリカ。
~ナデシコ ミサイル・弾薬庫~
弾薬庫でユリカの命令を受けたウリバタケ達は搭載されているミサイルの設定を時限発火に変更し、同時にエステバリスの整備もこなしている。
「急げ、エステバリスは全機0G戦フレームに換装しろ!」
「班長、ミサイル全部時限発火にするんですか?」
整備員の1人がウリバタケに尋ねる。
整備員としては訳が分からなかった。
普通ミサイルは発射時に自動着火して目標に向かって飛んでいく。
しかし時限発火の設定にしてしまえばただばらまかれるだけで、相手がこっちに来てくれなければミサイルは爆発しないのだ。
つまりミサイルではなく機雷となるのだ。
そんな方法であの敵艦を退ける事が出来るのだろうか?
そう思い、整備員はウリバタケに質問をした。
「艦長がそう言っているんだよ。あのお姫さんがよぉ」
「はぁ、しかし‥‥」.
「いいからさっさとやれ!!」
「は、はい~!!」
ウリバタケにメガホン越しでどやされ、整備員は再び作業を開始する。
ミサイルは全弾数が時限発火に切り替えられた。
~ナデシコ 格納庫~
格納庫に待機中のエステバリスにはウリバタケが開発した『フィールドランサー』が装備されている。
「なんだよ?この槍?」
アキトが見慣れない装備について近くにいた整備員に聞く。
「セイヤさんの玩具、なんでも一瞬だけフィールドを中和出来るとか‥‥」
「熱血斬り出来る?」
「バカ言うな」
整備員に呆れられてしまったアキトだった。
~ナデシコ 厨房~
食堂ではホウメイとホウメイガールズがせっせせっせとお弁当の用意をしていた。
もちろん、出撃するパイロット達の為である。
「ほら、急いで急いで!あの子達が出撃しちまうよ!お腹を空かせたまま出撃させちまったら可哀想だろ?携帯食じゃ味気ないからね!!」
「「「「「は~い♪」」」」」
やがて、弁当の準備が出来ると、
「よし、準備完了、カタパルトデッキに持って行ってやんな」
「私、アカツキさんの持っていきます~」
「私、アキトさんの♪」
「「「「「いや、それは不味いんじゃ‥‥」」」」」
「大丈夫♪艦長やルリちゃんには負けないから♪」
「私、リョーコお姉様いいなぁ~」
ホウメイガールズが誰に弁当を持って行くのか騒がしくなった。
そんな光景をホウメイは目を細めて見つめた。
(パイロット達にとってはもしかしたら最後の食事になるかもしれないんだ。だから笑顔で渡してあげた方がいいさねぇ‥‥)
戦艦と違い、エステバリスの方が、遥かに生存率が低いのだ。
出撃は常に死と隣り合わせ‥‥
ならば、せめて死ぬ前には美味しい物食べてから逝ってほしい。
勿論生還するのが一番なのだが、戦場では何があるか分からない。
故にホウメイは出撃するパイロット達には一食でも多く食事を振る舞いたいと願っているのだ。
~ナデシコ ブリッジ~
『弾頭は全て時限発火にした』
『厨房の火は落としたよ。これでいいのかい?』
『艦内をまわって不必要なエネルギー消費を抑えてきたわ』
「敵艦の速度そのまま、本艦との相対距離変わりません」
「それでは作戦を始めたいと思います」
各部署の状況報告を受け、ユリカが作戦を発動し、ナデシコはエンジンをきる。
ディストーション・フィールドも消失し、重力推進も停止した。
もちろん重力制御も切れるので艦内は無重力状態になる。
その証拠にミナトやルリ、コハクの髪の毛も宙に舞いだした。
これは相手のエネルギー反応を探知して位置を特定するパッシブセンサーに反応しなくなったことを意味していた。
「エンジンを止めれば敵のセンサーに引っかからないけど、敵の攻撃を受ければ‥‥勝算は有るの?艦長」
エリナがユリかに聞く。
「信じていますから‥‥相手は人間なんですよね?だから信じています‥‥」
ユリカには自分の立てた作戦に絶対の自信があった。
~かんなづき 艦橋~
「敵艦、センサーより消失」
突如、かんなづきのセンサーからナデシコの反応が消える。
「なにっ!?」
オペレーターの報告を受け、高杉が驚いた声をあげる。
「電波、赤外線、重力波‥全てのセンサーから敵艦の反応が消えました」
「アクティブセンサーまで消して音無しの構えか‥‥やってくれる」
「しかし、それでは時空歪曲場まできって丸裸状態‥どういうつもりでしょう?」
「どうせ、跳躍砲には防御など無意味だ。それより危険なのは本艦の方だ」
「は?」
秋山は現在、ピンチになっているのはナデシコではなく、かんなづきの方だと言うが、高杉は秋山の言っている事が分からず、ポカンとした顔になる。
「当艦は今現在、各機関が全開‥‥パッシングセンサーで敵艦から丸見えだ」
「っ!?」
秋山の指摘を受け、自艦の置かれた状況を理解する高杉。
今の状況‥ナデシコは全機能を停止した為、暗闇で息を潜めているが、反対にかんなづきは暗闇で両手に明りの点いた懐中電灯を振り回しながら歩いているようなものだ。
「調子こいていると痛い目に遭うぜ。加速停止、敵の出方を見る」
かんなづきは速度を抑え、ゆっくりとナデシコへと迫る。
~ナデシコ ブリッジ~
「敵艦加速を停止、本艦と同速度で移動中」
ルリが敵艦の状況を報告する。
「ほぉ‥一気に詰めてくると思ったのだが‥‥」
「向うも慎重ですね‥‥」
ゴートとジュンがモニターを見ながら言う。
これが無人兵器ならば、速度を変えずに突っ込んできたのだろうが‥‥
「艦長、シートベルトしないと危険ですよ」
計器を見ながらコハクがユリカに注意を呼びかけるが、
「そんなこと‥‥」
節電モードで人工重力発生装置もきっているため、ナデシコは現在無重力状態、そしてユリカはそれを忘れていたのか?
それとも知らなかったのか?
「先に言ってよ~!!」
シートベルトをするのを忘れブリッジの中を浮遊していた。
「艦長、エステバリス隊発進準備完了」
「直ちに発進してくださ~い!!」
メグミの報告を受け、漂いながら発進命令を下すユリカ。
~ナデシコ 格納庫~
「スタートはマニュアルだ!いいな?」
『『『『『了解』』』』』
最初のチューリップの遭遇戦以来のマニュアル発進にアキトは、
『俺、この発進嫌なんだよな』
『なんか間抜けだね、私達』
『コラ、ちゃんと車間距離を保て!』
嫌々言いながらも発進するエステバリス隊。
しかし、その姿はエステバリスでローラースケートをしている様にしか見えない。
『いや~なんとも珍妙な発進だね』
「お前もさっさと行け!」
『はいはい』
いつまでも出撃せずにもたついているアカツキにウリバタケが怒鳴る。
宇宙に出たエステバリス隊はソーラーセイルを張り、宇宙を漂う。
『アキト頑張って!』
「それより本当に大丈夫なんだとうな?プカプカ浮いただけで、やられたんじゃシャレになんねぇぞ」
『うん、大丈夫。あの人達だって同じ人間だもん。だから上手くいくよ』
「はいはい」
~かんなづき 艦橋~
「重力波砲発射!」
秋山がグラビティーブラストの発射命令を下し、かんなづきからグラビティーブラストが発射される。
「重力波砲の射程には何の反応もありません」
しかし、その射線上にナデシコはおらず爆発の反応はなかった。
「いつまでも同じ針路にはいないか‥‥」
「艦長!!」
敵はエンジンも切って慣性で直進するしか仕方がないはずである。
それなのにその軸線上にグラビティーブラストを放って反応がないというのはおかしい。
だが、秋山は驚いた様子は一切なかった。
「別に驚く事はない。こちらのパッシブセンサーに反応しない推進方法を持っていただけの話だ。でなければ、動けなくなるのがわかっていて最初から相転移炉を切ったりはしまい」
「ですが‥‥」
「心配するな。あくまでも慣性以上の速度は出せんのだ。予測の範囲内だ。いずれは戻ってくる」
「わかりました」
敵がどうやって針路を変更したかはわからない。
けれど相転移エンジンを停止してこちらのセンサーに反応させずに大幅な針路変更など出来るはずもない。
それほど大幅に加速なり軌道変更すればそれは高エネルギーを伴い、センサーに反応するはずだ。
ならば、行われた針路変更はごくわずかの筈‥‥
このままかんなづきが加速して直進しても索敵範囲内にナデシコは居る筈である。
「不意打ちをしようにも火力が足らねぇ‥‥だが、このままずっと息を潜めているわけには行かないはずだ。どうする?快男児」
秋山はナデシコの次の一手に思いを巡らせながら、どこかワクワクしている自分を抑えきれなかった。
~ナデシコ ブリッジ~
「本艦上方、敵グラビティーブラスト通過」
「おぉ~怖っ」
ナデシコはエンジンをきった後、潜水用の圧搾空気で針路変更をしていた。
海の無い木連側にとっては考えつかない行動だった。
「敵艦、針路、速度そのまま」
「敵艦の針路に全ミサイル放出」
「了解」
ユリカの命令を受け、コハクがミサイル発射口を開口、座標ポイントに向け、ミサイルを放出する。
「艦長なにも全弾使わなくても‥‥あれでミサイルというものも決して安い物ではありませんので‥‥」
プロスペクターが電卓の数値をみて嘆いている。
「ダ~メ、大物を釣るには蒔き餌をたっぷり使わないとね」
「蒔き餌って敵は魚じゃなくて人間なのよ!」
エリナがユリカにツッコム。
「そう、敵も人間なんでよね?だからちゃんと考えて行動してくれる筈‥さっ、そろそろ針路を元に戻さないと‥ミナトさん針路変更をお願いします」
「了解」
ナデシコが圧搾空気で針路を戻す。
その頃、放出されたミサイルが接近するかんなづきを捕捉。
一斉点火し、四方八方から攻撃する。
フィールドで直撃は防げたが、ブリッジには警報が鳴り、非常灯が点灯する。
~かんなづき 艦橋~
「おのれ、地球人め!」
「落ち着け、この程度では本艦はビクトもせん!」
「ミサイルの放出地点から敵艦の位置を割り出せ!」
高杉が声をあげ、オペレーターに指示を出す。
「予想地点出ました」
「よし、予想地点に針路をとれ!」
「まて、これは罠だ!針路を変えるな!」
「罠だということは分かっています。ミサイルの網で待ち構えたつもりでしょうが、こちらも敵の位置を‥‥」
「いつまでも同じ位置にいると思うか?このままうかうか進めばミサイル網の中心へ進むことになる。そこに敵の重力波砲を浴びれば大量のミサイルが誘爆する。そうなれば本艦の時空歪曲場も持たん」
「では、敵はどこに?」
「また戻ってくる。針路そのまま全速前進!」
~ナデシコ ブリッジ~
「敵艦、針路そのまま加速し、ミサイル網の脇を通過」
「アテがはずれたわね」
「どうします艦長?」
「大丈夫です。アキト達が上手くやってくれます」
『本当に大丈夫なのか?攻撃始めて俺しかいなかったらシャレになんねぇぞ』
アキトは未だこの作戦に不安がある様子。
するとエステバリスのセンサーがかんなづきを捉える。
『よっしゃ!エステバリス続け』
『行っきます~』
リョーコの号令一下、エステバリス全機がかんなづきへと向う。
~かんなづき 艦橋~
「敵人型戦闘機急速接近。敵艦も本艦前方に捕捉」
「やるな。敵は最初から人型戦闘機の迎撃可能範囲に我々をおびき寄せることだったか。迎撃、虫型戦闘機を発進させろ!」
かんなづきからバッタが射出される。
パイロット3人娘、アカツキのエステバリスはバッタの包囲網を突破しフィールドランサーをかんなづきのフィールドに突き刺す。
「敵人型戦闘機、本艦の時空歪曲場に取り付きました」
「艦長!」
オペレーターの報告を受け、声をあげる高杉。
「かまうな、迎撃は虫型戦闘機に任せろ!」
「敵艦の位置判明!」
「よし、敵艦に向け、跳躍砲発射準備!」
かんなづきがボソン砲の発射準備を開始する。
目標はナデシコの機関部‥‥。
『ボソン反応‥‥あそこか!?』
アキトがボソン砲の発射口に向う。
「敵1機歪曲場内に侵入」
「跳躍砲に近づけるな!」
「くっ!」
高杉は上着を脱ぎ捨てると格納庫へと走る。
「三郎太!」
「デンジンを借ります!」
『わぁぁぁぁぁー!!』
アキトはボソン砲にランサーを突き刺す。
すると爆発が起こり、かんなづきのボソン砲はナデシコの機関部に爆弾を転送する前に使用不能となった。
しかし、その直後アキト達の前に高杉の乗ったデンジンが現れる。
『さあ来い、デンジンが相手だ!』
『けっ、デカけりゃいいってもんじゃないぜ』
『今度はリクガンガー?』
『ウドの大木』
『正義は必ず勝つ!』
ロケットパンチを出すもあっさりと避けられ、今度は接近戦を挑むデンジン。
しかし、
『そうはいくか!いかにも背中が弱点手か?』
アカツキがデンジンの背中にランサーを突き刺す。するとデンジンが爆発し始める。
『おいおいマジかよ?』
エステバリス隊はデンジンから急速に離れる。
まさか、本当に背中が弱点だったとはデンジンの背中を突き刺したアカツキ本人も予想外だった‥‥
『艦長、申し訳ありません。緊急跳躍!』
「三郎太!」
デンジンはボソンジャンプを繰り返しながらかんなづきから離れていく。
そしてデンジンは爆発した。
「あいつ、艦を守るため跳びやがった‥‥」
艦橋に重い空気が流れ始めた。
かんなづきの誰もが最悪の結末を予想した。
しかし‥‥
「艦長!副長から入電です」
『ただいま、救命ポッドで漂流中であります‥‥できれば回収していただけるとありがたいのですが‥‥』
通信から高杉の申し訳なさそうな声が聞こえる。
彼は無事に脱出し生きていた。
そんな高杉からの通信を秋山はどこか嬉しそうに聞いた。
「すぐ回収してやれ、まったくどうしようもないなぁ、ウチの副長殿は‥‥」
そう言って秋山は艦橋を後にした。
~ナデシコ ブリッジ~
「敵艦、急速後退。撤退する模様」
かんなづきは切り札である跳躍砲を破壊され、次いで機動兵器であるデンジンも失い、更に高杉の救助もあり、これ以上の戦闘は難しいと判断し撤退した。
「我が方の被害なし、エステバリス隊全機健在」
「追撃は無用です。エステバリス隊を回収後、地球へ向け帰還します」
ユリカも深追いは避け、エステバリスに帰還命令を出す。
帰還命令を聞くと、エリナは鼻歌を歌いながらブリッジを後にした。その様子をユリカは首を傾げながら見ていた。
「艦長、敵艦から通信です。『貴君の勇猛な作戦に敬意を表する。卑劣極まりない地球連合にも貴君のような快男児がいるのには驚いた。必ずやまた戦場で合間見れん。かんなづき艦長 秋山源八郎』‥だそうです」
メグミが秋山からの通信を読み上げると、
「むっか~快男児って何よ!?私こんなにかわいい女の子なのに~!」
と、不満の声をあげた。
しかし、秋山にとってナデシコの艦長がまさか女性だとは知る由もなく、木連では戦艦乗りは男性と決まっていたので、彼がナデシコの艦長を男だと間違えるのも無理はなかった。
ではまた次回。