機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第24話

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコが月軌道で相転移砲(ユリカ命名)を使用した作戦時、Yユニットに木星蜥蜴の虫型ロボの1つ、『ヤドカリ』による騒動で、一悶着はあったものの、作戦は無事に成功した。

月に侵攻してきた木星艦隊はナデシコの相転移砲を受け全て木星艦隊は消滅した。

ただ相転移砲のあまりの威力にユリカは『これは反則だよ』と一言呟いた。

戦闘に勝利し、連合軍からはよくやったという脳天気な通信がバカスカ入ってきている中で、ナデシコクルーの間には何故か重くやりきれない空気が漂うだけであった。

そしてアキトはエリナに『自分はもうジャンプの実験に協力はしない』とはっきり拒否の姿勢を見せた。

ただ、あの作戦の最中、エステバリスのパイロット達、ユリカ、ジュン、イネス、ルリ、コハクは薄暗い妙な空間で麻雀をやった記憶がある。

しかし、ナデシコにはあの様な薄暗い部屋はないし、そもそも作戦の最中に麻雀なんてやっている余裕はない筈だった。

にもかかわらず、確かに麻雀をやった記憶は確かにあった。

作戦終了後、イネスがこれまでの推論から、恒例の説明をしていた。

彼女曰く、

IFSのナノマシンは補助脳と呼ばれるモノを脳内に形成する。

いわゆる記憶や意識なんかもこの補助脳にデジタル化されて保存されているらしい。

無人兵器から見ればナノマシン処理をした人間もコンピューターに見えたのかもしれない。

今回の事件は敵の無人兵器がYユニットのメインコンピューター、サルタヒコをハッキングする過程でナノマシン処理をした人間すべてにハッキングしたと思われる。

意識が1つに繋がった現象があの妙な部屋での麻雀行為であり、繋がったのはコミュニケの為だと言う。

コミュニケがあった為、ナノマシン処理をした人間はデータ的に連結され1つのネットワークが構築されて、ナノマシン処理をした人間の意識をハッキングした際、互いの意識を同時に連結してしまったのだと言う。

しかし、此処で疑問が残る。

エステバリスのパイロット達やルリ、コハク、ジュンはナノマシン処理をしたので分かるが、ユリカとイネスはナノマシン処理をしていない筈である。

そして、敵はナデシコのどんな情報を持ち出したのか?

あのヤドカリは一体いつからナデシコのYユニットに潜伏していたのか?

その事についてイネスは珍しく『不明ね』の一言で片づけた。

更にアキトにはまだ分からない事があった。

それは麻雀をして居た時、火星のユートピアコロニーで助ける事の出来なかったあの少女の姿の牌がイネスの記憶にあった事だった。

また、ルリの方も同じくコハクの記憶の牌に成長した自分と思しき姿の牌と黒髪の青年の牌があったことだった。

勿論ルリには牌に描かれていた黒髪の青年との面識はない。

アキトもルリも当事者に聞きたかったが出来なかった。

何を話せばいいのだろう?

それがアキトとルリが当事者に聞けなかった理由である。

 

その頃、木連の方でも動きがあった。

 

 

~木星優人部隊旗艦 かぐらづき~

 

「和平交渉だと?」

 

「はい、草壁閣下」

 

“草壁閣下”と呼ばれた紫色の学ランを着て角刈りの男が、目の前に立つ白鳥九十九を真っ直ぐに見つめる。

 

「理由を言ってみろ、白鳥少佐」

 

「先日の地球の跳躍施設破壊作戦及び月方面前衛艦隊の全滅に関しての、報告書は読んで頂けましたでしょうか?」

 

「目は通した‥しかしそれがどうかしたのか?」

 

「地球側が生体跳躍と相転移技術を手に入れ、着実に改良している事は、まず間違い無いと思われます。私自身がこの目ではっきりと目撃しました。そうなりますと、人的、そして戦略資源において地球側に劣っている我々の不利は、否めないものがあります。このままの状態で戦況が推移した場合、我々が劣勢に立たされる可能性が高くなります。火星での“都市”が未だ発見されていない現状で、そのような事態になる前にこの戦争の終着点を見定める必要があると思われます」

 

「成程‥‥」

 

九十九の言葉に、草壁は腕を組むと、何かを考え込む様に天井を見上げた。

 

「白鳥少佐、君は交渉開始の提案を我々がしたとして、地球側がそれを受け入れる可能性があると思うか?」

 

「私に考えがあります」

 

「‥‥そうか‥‥それではこの件は貴様に一任する。まずは貴様が中心となって、地球側との連絡を取ってみてくれ」

 

「はっ!」

 

九十九は、草壁の言葉に敬礼を返すと、そのまま部屋を出て行った。

 

九十九はかぐらづきにある自分用の部屋でゲキガンガーのビデオを見ながらお茶を飲んでいると、

 

ドタドタドタ‥‥

 

音を立てて通路を走って来る1人の少女がいた。

 

「ちょっと、お兄ちゃん!!」

 

突然の大声と扉が開く音に、白鳥が扉の方を振り向く。

 

「ぶはっ!!ゆ、ユキナ、お前、なんでここに!?」

 

まさか此処に居る筈もない自らの妹、白鳥ユキナの登場に思わず口に含んでいたお茶を吐き出してしまう。

 

「そんなことより地球と和平ってどういうことよ!?」

 

「ああ、その事か‥‥」

 

「『ああ、その事か』じゃないわよ。本当な!?それとも嘘なの!?」

 

「本当さ」

 

「本当って‥‥」

 

九十九の余りにも簡単な答え方に、ユキナは呆然とした。

 

「どうして、どうして、今更地球と和平なんて‥‥」

 

ユキナはやっとの事で、それだけを口にする。

 

「ともかく、そこに座れ、ユキナ」

 

そんなユキナに向って、九十九は諭すように座る事を進める。

そして、九十九を見ながら腰を下ろしたユキナにゆっくりと話し始めた。

 

「確かに、俺達に取って地球は祖先の敵である事に間違いはない。だけど、いつまでも争っていては、我々にも地球にもいい事はないんだよ」

 

「だけど、だけど‥‥」

 

「お前の言いたい事は解る。でもな、このまま戦争が続けば、いつかは我々の方が戦う力を失ってしまう。何故なら、火星にある“都市”を見つけない限り、我々への補給ができないんだ。」

 

「じゃ、じゃあ‥‥」

 

「『“都市”を手に入れれば』って言うんだろ?だけどな、火星を占領してからかなり立つが、未だに見つかっていない。それなら、我々の方が優勢な今、有利な条件で地球と和平を結ぶ事も可能なんだよ」

 

「‥‥」

 

九十九から戦争終結に関しての説明を受けるユキナであるが、その顔は納得できないと言う感情が伝わって来る。

 

「ユキナ、このまま戦争が続いたとして、俺や元一朗が死んでもいいのか?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「このまま戦争を続ければ、その可能性はもっと高くなる」

 

九十九は事も無げに言う。

 

「‥‥でも、本当にそれだけなの?」

 

ユキナは疑いの眼差しをしながら九十九を上目で見る。

 

「な、なんのことだ?」

 

ユキナの言葉に明らかに動揺する九十九。

先程まで妹を諭していた兄の姿から一変している。

 

「じゃあ、これは何?」

 

ユキナはおもむろに立つと、壁に張ってあったゲキガンガーのヒロイン国分寺ナナコのポスターを剥す。するとポスターの下には同じ大きさで撮影されたミナトの写真が貼られていた。

 

「そ、それはだな‥‥」

 

ミナトの写真を見られて気まずそうにユキナから視線を逸らす九十九。

 

「お兄ちゃんは地球女に誑かされているのよ!お兄ちゃんの不潔!」

 

ユキナはそう怒鳴ると九十九の部屋を出て行ってしまった。

 

「ユキナ、待ちなさい。コラ、ユキナ!」

 

九十九も追いかけるが、ユキナの足は九十九が思っていたより速かった。

 

結局九十九はユキナを見つけることが出来なかった。

九十九はやむを得ずユキナとの問題を後にし、地球との和平交渉のための準備に取り掛かり、和平への使者には自らが志願することにしてその事を上官である草壁に報告にしに行った。

しかし草壁からは予想外な答えが返ってきた。

 

「えっ!?既に和平への使者を送った?」

 

「うむ、君の推薦どおり、使者はあのナデシコへと送った」

 

「推薦などしておりません!一体誰を使者に!?」

 

「使者本人は君から頼まれたと報告を受けたのだが?」

 

「えっ?」

 

九十九と草壁は互いに首を傾げた。

 

その頃、1隻のシャトルがかぐらづきを出発し、チューリップの中を航行していた。

 

「お兄ちゃんを誑かす地球女見てなさいよ!」

 

白鳥ユキナはシャトルの中で自分の兄を誑かしたとされるミナトに報復の意思を固め、ナデシコへと向っていた。

そしてユキナを乗せたシャトルは無事ナデシコに回収された。

チューリップを出た瞬間、衝撃で気を失ったユキナであったが医務室で目を覚ました。

その時ユキナは記憶喪失のフリをしていたが、イネスにはバレバレであった。

医務室を後にしたユキナは和平よりも自分の兄を誑かしたミナトを探し艦内をうろついた。

 

「誰が和平なんてしてやるか。お兄ちゃんを誑かすハルカ・ミナト見てなさいよ」

 

やがて大浴場の前を通ったとき、

 

「ああ、コハクちゃん、それにミナトさんもこれからお風呂ですか?」

 

と、メグミの言う『ミナト』と言う言葉に反応した。

 

「はい」

 

「メグちゃん、湯加減はどうだった?」

 

「ちょうどいい湯加減でしたよ」

 

メグミはそういって手を腰に当てフルーツ牛乳を飲み、飲み終えると大浴場を出て行った。

大浴場を出て行ったメグミをやり過ごし、そしてコハクとミナトが脱衣場で服を脱いでいる時、ユキナは大浴場へと潜入した。

洗面道具を持って大浴場へ入るコハクとミナト。

 

「あれ?ミナトさんシャンプー忘れていますよ」

 

「あっ、ホントだ」

 

コハクの指摘と受けてシャンプーを取りに戻るミナト。

その間にコハクはのんびりと湯船に浸かる。

するとフロの中からブクブクと泡が出ている。

 

「ん?なんだろう?」

 

コハクが泡に近づくと、シャンプーを取ってきたミナトも風呂場に戻ってきた。

すると湯船から「白鳥」と書かれたスクール水着を着たユキナが飛び出す。

 

「は、ハルカ・ミナトね?よくも‥‥よくも‥‥よ‥く‥‥も‥‥」

 

ザップーン!!

 

ユキナは茹ダコ状態で再び湯船に沈む。

 

「白鳥‥‥この苗字の人はなぜ僕の入浴の時間を邪魔するのだろう?」

 

湯船からユキナを救助したコハクは白鳥兄妹に不満を言った。

 

のぼせたユキナをベンチで膝枕し、団扇で扇ぐミナト。

コハクは念のため、ユキナが持っていた巾着を調べると中から手榴弾が見つかり、解体してもらうため服を着てウリバタケの元へと向った。

やがてユキナが目を覚ます。

 

「気がついた?」

 

「なんで貴方があの歌を知っているの?」

 

ミナトはゲキガンガーの歌を鼻歌で歌っていた。

 

「白鳥さんから教わったの」

 

「お兄ちゃんは好きだけど、あの漫画は嫌い」

 

「やっぱり兄妹だったんだ」

 

「あっ!?」

 

お兄ちゃんという単語から自分が九十九の妹だということがあっさりとバレてしまったユキナはバツ悪そうな表情になる。

 

「お兄ちゃんを誑かして私達の所をスパイするつもりだったんでしょう!?」

 

とりあえず、気を取り直し、強気の口調でミナトに言うユキナ。

 

「だったらイクとこまで行っちゃっているよ」

 

「い、いくとこって?」

 

「深い関係になっているってこと」

 

それを聞いて顔を真赤にするユキナ。

 

「ふ、不潔だわ!」

 

興奮したせいかまたも倒れるユキナ。

 

「あぁ~急に立つから‥‥」

 

暫くして落ち着いたユキナ。

 

「じゃあ、お兄ちゃんのいい所言ってみて」

 

「ん~貴女みたいな妹さんがいるところかな?」

 

「ふざけている!」

 

「ふざけてないよ。だってお兄ちゃんを思ってここまで来たんでしょう?それって凄いことだと思う」

 

「だって‥‥」

 

「私なんだか嬉しいんだ。貴女に会えて‥‥だからこんなことやめなよね?」

 

ミナトはユキなの巾着を取り出す。

勿論中身は空であるが‥‥

 

「この爆弾で暗殺を謀った?」

 

事実を言われ、顔を背けるユキナ。

 

「ダメだよ。自殺覚悟なんて。貴女がいなくなったら悲しむよ、お兄さん」

 

「あ、あの‥‥お兄ちゃんと話ませんか?」

 

「な、なにを?」

 

 

~地球連合軍統合作戦本部~

 

「ナデシコが地球に‥‥わかりました」

 

コウイチロウはデスクでナデシコが地球に帰還した連絡とある極秘命令を受けた。

 

「ユリカ‥‥」

 

コウイチロウはこの極秘任務について思う所があるのか、表情は優れなかった。

しかし、軍人である以上、上からの命令には従わなければならなかった。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

ブリッジには主要クルーとユキナが集まり、木星との交渉を始めようとした。

ユキナが乗ってきたシャトルには虫型の通信機が積まれており、通信機は歩きながらブリッジへとやってきた。

 

「この機械でリアルタイムな通信をやっちゃおうってわけ?」

 

「ホントは『和平交渉のために』って渡されたんだけどね‥‥」

 

リモコンを弄ると、虫型のロボットの上に付けられた小さなチューリップらしき物体が開く。

しかし、開くだけで画面には何も映らない。

 

「あ、あれ?」

 

ユキナはリモコンを必死に弄るが、やはり何も映らない。

見かねたルリが虫型の通信機に近づくと、

 

ゲシ!ゲシ!ゲシ!

 

ケリを入れた。

 

「あ、あんた、何するのよ!」

 

「こういうのは蹴りを入れれば直るんです」

 

なおルリの行動を見て、ユキナは勿論のこと、ミナト、プロスペクター、ユリカ、ジュンはドン引きしていた。

やがて、通信機の通信機能が回復すると映像の先には白鳥九十九が現れ、ミナトとシャレを含む会話をした。

ちなみに九十九のシャレにイズミは厳しい点数をつけた。

ミナトと九十九の会話している姿を見てユリカはユキナをこのままナデシコの客人として持て成し、ネルガルを経由して木星との和平をしようと決めた。

その時、ナデシコのレーダーが接近する艦隊を捉えた。

ブリッジには警報が鳴り響く。

 

「なに?どういうこと?」

 

「本艦周囲に艦隊出現」

 

ユリカが回りを見るとコウイチロウが提督を務めるトビウメの他にナデシコと宇宙軍の主力戦艦を合わせたような形の新鋭戦艦がナデシコの周りを固めていた。

 

「ゆうがお、はるしょう、ひめしょう‥‥どうして!?」

 

連合軍の新鋭艦隊がナデシコと合流するなんてユリカは聞いておらず、どうして連合軍の新鋭艦がナデシコの周囲に展開しているのか理解できなかった。

しかも陣形はまるでナデシコの逃走を防止するかのような陣形である。

これは合流ではなく、もはや拿捕と言った方が正しい。

 

『久しぶりだな、ユリカ』

 

「お父様」

 

突然、父、コウイチロウが映った空間ウィンドウが開き驚くユリカ。

 

『大きくなったな』

 

「えっ?」

 

『胸が‥じゃないよ』

 

「お父様~」

 

父から胸の事を指摘され無意識に自らの胸を手で隠すユリカ。

 

『だから全般的にだってば。それより、白鳥ユキナちゃんを安全に保護するように上から命令が下された』

 

「保護するって?ユキナちゃんは既にナデシコで保護しています」

 

ユキナを抱き寄せるユリカ。

何だか雲行きが怪しくなってきているのを感じたのか、ユキナは不安そうな顔をしている。

 

『悪いことは言わん。すぐに引き渡せ』

 

「理由を教えてください。ナデシコではいけない理由を。最強を誇るこの戦艦より安全な場所があるというのですか?」

 

『理由など必要ない!上が決めたことだ!』

 

コウイチロウにしては珍しくユリカに声を荒げる。

 

「理由が無いと言うなら‥‥グラビティーブラスト発射準備」

 

『なぁ!』

 

突然自分達にグラビティーブラストを発射しようとするユリカ(娘)に声をあげるコウイチロウ。

 

「艦と艦の中間にお願いします」

 

勿論ユリカは連合軍の艦艇を撃沈するつもりはなく、あくまでも脅しの為に撃つつもりだった。

 

「了解」

 

ユリカの命令を受け、発射準備を始めるコハク。

 

『待ちなさい、ユリカ!お父さんの話を聞きなさい!』

 

「発射!」

 

『ユリカ!』

 

しかし、グラビティーブラストが発射される寸前にナデシコのシステムが突然ダウンする。

 

「全システムがダウンしました」

 

「相転移エンジン停止」

 

「え~」

 

突然機能を停止した事に慌てふためくユリカ。

 

「あたしじゃないよ~」

 

ミナトが両手をあげて否定する。

 

「ど、どうして!?あーっ!」

 

ユリカがキャプテンシートの方を見るとアカツキがマスターキーを引っこ抜いていた。

 

「安心したまえ、マスターキーを抜いても墜落はしないさ。重力制御でのシステムダウンは緩やかに設定されているから無事どこかに着陸または着水するさ」

 

「どうして?そのキーは私にしか抜けない筈なのに‥‥」

 

「いいや、正確には君ともう1人‥‥ネルガルの会長以外には‥だ」

 

「どういうことだ?」

 

アキトがアカツキに尋ねると、

 

「鈍いなぁ、僕がその会長だよ。驚いたかい?ハハハハ‥‥」.

 

「「ええええっ!」」

 

アキトとユリカはアカツキの正体を聞き、驚いている。

しかし、そのほかのクルーは、

 

「ばか」

 

「なんだやっぱりか」

 

「はいはい」

 

「まるでゲキガンガーだ」

 

「あ、あれ?バレてた?」

 

高笑いをしていたアカツキであったが、意外にも自分の正体を知っている人が多く、かえって場は白けていた。

 

『バレバレでしたよぉ~元大関スケコマシのアカツキさん』

 

アキトとユリカ以外には自分の正体が知られたようで、面白くないといった顔をするアカツキ。

 

「ま、まぁそんなことはどうでもいい。僕にとっても予想外だったが、今からナデシコは僕の指揮下に入る。冷静に考えてもこのお嬢さんはやはり軍に守ってもらった方が良いと思うけどね‥ああ、不満がある者は艦を降りてもらって構わないよ。退職金と救命胴衣ぐらいは渡すからさ」

 

連合軍の艦隊に囲まれてシステムが全てダウンした以上、おとなしく従うしかないナデシコの一同であった。

ナデシコは海の上に静かに着水した。

 

『アカツキ会長、私がそちらへ向います。ユリカ達の説得もありますし、無駄に事を荒げる必要もないでしょう?』

 

「‥‥そうだね」

 

やがてトビウメからコウイチロウと共に武装した兵士達がナデシコへと乗り込んできた。

 

「心配せんでいい。父親としてお前を悪いようにはしない‥‥木星の娘はどうした?」

 

ユリカは黙ってコウイチロウを睨んでいた。

そしてブリッジにはいつの間にかユキナの姿は消えていた。

やがてコウイチロウとアカツキ、ユリカ、プロスペクター、ゴートが話し合いのためナデシコの応接室へと集まった。

応接室に入る前に厳重な身体検査が行われ、武器の携帯は勿論、コミュニケも外された。

 

「身内にも信用がありませんな」

 

プロスペクターはやれやれといった感じでコミュニケを外した。

とは言え、木連の正体が月を追放された地球人であると言う機密をナデシコのクルーにバラした前科があるので、これは当然の処置でもあった。

 

 

~ナデシコ 応接室~

 

応接室へ入りコウイチロウがアカツキを前にして話し出した。

 

「似てきましたな貴方のお父上に‥‥」

 

「何が言いたいのです?提督」

 

突然自分の父の事を言われ、ムッとした顔をするアカツキ。

 

「テンカワ君の両親は当時のネルガルの会長‥‥つまり貴方のお父上とCCの開発に携わっていましたな」

 

「‥‥」

 

「あの日、火星に駐屯していた軍が一斉に退去命令が出された‥そして軍が撤退した直後に火星でテロ事件が起き、その混乱の中で彼の両親は死んだ‥‥あの時もネルガルが裏で糸を引いていたのではありませんか?今回と同じように‥‥」

 

「何のことだかさっぱり分かりませんね。提督」

 

アカツキはコウイチロウの言葉をあっさり受け流す。

しかし、コウイチロウの思わぬ造反者に内心焦っていた。しかしそんなことは顔に出さない。

だが、造反者はまだいた。

 

「ならば私がお話しましょう」

 

突然、コウイチロウの後ろに控えていたプロスペクターが話し出した。

彼はさりげなく胸のルリちゃんブローチを触ると真相を話し始めた。

 

ユリカ達が応接室へ入った後、クルーは全員その場で待機を余儀なくされた。

最初にコウイチロウがナデシコを拿捕しようとした時とは異なり、拘束も軟禁もされていなかった。

ただあの時とは違いマスターキーがなくシステムがダウンしている以上、丸腰の彼らには何もできない。

艦内は不安な空気だけが流れていた。

 

「これから私達、どうなっちゃうんでしょうね」

 

メグミが不安そうに表情で呟く。

 

「‥‥」

 

そんな中、ミナトは自分よりもユキナの身を案じていた。

ユキナは連合軍の兵士が乗り込んでくる前にアキトがブリッジからこっそりと連れ出していた。

途中アカツキの抵抗はあったものの、コハク直伝の武術で難なくいなして逃げおおせたのだ。

もちろん現在、ユキナの捜索隊は出ているが、ナデシコは太平洋上なので格納庫さえ抑えていれば逃げ出すことは出来なかった。

話し合い‥‥という名の事後承諾をさせた後、ゆっくりとユキナの探索をするらしい。

すると突然砂嵐の空間ウィンドウが開き、そこからプロスペクターの声がした。

 

「当時、CCの存在はネルガルの中でもトップシークレットでした。ネルガルはボソンジャンプに関する技術と市場の独占を狙っていました。しかしCC研究の中心人物であったテンカワ博士はCCの公表にこだわっていた。そして暫くし、博士夫妻は謎の死を遂げた‥‥」

 

「いきなり何を言い出す?余計なお喋りは君のためにならんぞ」

 

ネルガルの社員であるプロスペクターにとってアカツキは会社の上司それも最上位にあたる人物にも関わらず、彼はそのまま話し続ける。

 

「火星でテロ事件が発生し、テンカワ夫妻が殺された時、私は火星支部で司令代行を務めておりまして、突然軍が撤退を決め、その直後に勃発したテロ事件‥‥しかしテンカワ夫妻の死後、テロ事件はあっけなく終結しました。まるで最初から終結することが約束されていたかのように‥不審に思った私は会社のコンピューターにアクセスして調べたのです」

 

「もういい、やめろ」

 

アカツキがうるさそうに手を振るが、プロスペクターは喋るのをやめない。

 

「ネルガルトップの決定はテンカワ夫妻の暗殺でした。」

 

「全ては火星の遺跡のためだ。遥か古代に太陽系内に文明を築いた何者かが残した遺跡。それはボソンジャンプのコントロール装置だった。来たるボソンジャンプ時代の独占を狙った父が下した判断だ」

 

アカツキもアキトの両親の死にネルガルが関わっていた事を認めた。

誰も居ないナデシコの機関室でそのことを聞いていたアキトの顔に怒りの感情が浮かぶ。

アキトはユキナを伴ってブリッジから出るとここに隠れていた。

最初はそんなつもりはなかったのだ。

でも、いつの間にかアキトはユキナを連れて逃げていたのだ。

火星や月での出来事から木星人を憎んでいた。

だからユキナのこともどこか複雑な気持ちで見ていた。

 

(この子もアイツらの仲間なんだ‥‥)

 

そんな視線で見ていたのは事実だ。

でも、気づいた時には身体がかってに動いて彼女を連れて逃げていた。

自分でもその行動の真意が分からない。

 

「‥‥」

 

ユキナは不安そうにアキトの上着を掴んでいる。

 

「怖い?」

 

「そ、そんなことは‥こ、怖くなんか‥‥」

 

「大丈夫、俺が守ってあげるから」

 

敵中でたった1人で気丈に振る舞いながらも、初対面の男に守ってもらわなければいけない心細さで泣きそうになっている少女を見ているとアキトは木星人に対する憎しみをぶつけることは出来なかった。

守らなくてはならない‥‥今度こそは‥‥

それは理屈ではなく、そんな簡単な感情なのかもしれない。

そんな中、自分の両親の死の真相を告げられた。

 

「そんなことのために、俺の両親を!?」

 

会社の利益と言う理由の為だけに自分の両親が殺された事に憤慨し、思わず声をあげるアキト。

 

「お兄ちゃん‥‥?」

 

これがネルガルのやり方だ。

これが同じ地球人のやることだ。

木星の人が地球人を恨む気持ちが少し分かった気がしたアキトだった。

そして、話題はユキナの身柄についてとなる。

 

「あの娘は‥‥白鳥ユキナはどうするつもりですか?」

 

コウイチロウがアカツキに尋ねる。

 

「木星蜥蜴は実は大昔に月を追放された人間でした。そんなことが世間にバレたら士気はガタ落ちだ。そんなことが出来る訳ないじゃないか」

 

木星蜥蜴が月を追放された地球人類だと言う事実を知っているのは地球でもごく一部の人間だけであった。

現に軍の将官だったムネタケでさえも知らない事実だったのだから‥‥

 

「つまり殺せと?」

 

「おいおいもっとスマートに『処理する』と言ってほしいね」

 

「そうですか‥‥と、言うわけです。皆さんどうしますか?」

 

『っ!?』

 

プロスペクターのこの発言で、咄嗟にその場にいる全員が気づいた。

この場の会話をナデシコ中に配信されていたことを‥‥

 

「アキト、逃げて!!!」

 

ユリカが叫んだのを兵士が抑えようとした。しかしそれよりも早くゴートが反応をして、兵士の銃を奪い応戦したのだ。

 

「やめないか!」

 

アカツキがソファーから立ち上がると、コウイチロウがどこからかとりだしたのかフライパンでアカツキを殴り、彼を気絶させる。

 

機関室に隠れていたアキトはユキナを連れ出そうとする。

此処に居てはいずれ見つかり、ユキナは殺されてしまう。

エステバリスを奪って例え格納庫の扉をぶち破ってでもナデシコを脱出し、ユキナを守らなければならない。

機関室を出た直後、アキトは見つかった。

彼の背後には銃を構えたエリナがいたのだ。

 

「ネルガルに逆らうのは止めなさい。貴方はコハクに次いで生体ボソンジャンプを成功させた貴重なサンプルなのよ」

 

「だからどうだって言うですか?」

 

「ネルガルに協力しなさい。そうすれば地位も名誉も欲しいだけのお金も用意するわ。‥貴方が望むのならコハクだって貴方にあげるわ‥コハクの事をあんなに欲しがっていた貴方にとってこれは損な取引じゃないはずよ」

 

「さっきの話を聞いてもまだ『ネルガルに協力しろ』って言うんですか?地位や名誉そして金‥そんなくだらないモノの為に俺の両親は殺されたんだ‥挙句の果てにコハクちゃんを物扱いなんてして‥‥」

 

「貴方は今、ネルガルと軍の両方を敵に回そうとしているのよ。そんなことをして無事で済むと思っているの?」

 

「勝ち目があるとか、損だとか得だとか。そんなの関係ない。俺は行きます。撃ちたければ撃てばいい」

 

アキトがユキナを連れてエリナに背を向けて歩く。

 

「行ってはダメよ」

 

「行きます」

 

「行っちゃダメ」

 

エリナは片手で構えていた銃を両手で構えなおす。

ただその手は小さく震えている。

 

「撃ちますか?俺の両親を殺したのと同じように」

 

「バカ!あんた、殺されちゃうわよ!」

 

エリナの目には涙が浮かぶ。頬も紅潮し、普段のエリナとは思えない別人の顔だ。

 

「行かないで‥‥」

 

「すみません」

 

アキトは短く、すまなそうに言うとユキナと共に駆け出した。

彼にはエリナが自分を撃たないと言う確信でもあったのだろう。

残されたエリナは銃を下ろして俯いた。

彼女の目と頬には涙が光っていた。

 

 

一方、コハクはプロスペクターがアキトの両親のことを話している間、密かにルリを連れてブリッジから脱出していた。

あのままブリッジに居ればルリまでもがネルガルか軍に捕まる可能性があった。

もし、そうなればどうなる?

研究所へ送られて実験動物にされるか、下手をしたら殺処分されてしまうかもしれない。

 

(どこだ?どこに行けばいい?プロスさんと合流する?それとも隠れる?でもどこに?)

 

2人は走った、とにかく走った。

ナデシコの艦内をメチャクチャに‥‥

こうしてみるといつも見慣れている筈のナデシコが別の艦に見えてくる。

チラッとルリを見ると無理矢理に走らせてしまった為か、ルリは息を切らして辛そうだ。

やがて通路の奥から複数の足音と男達の声が聞こえる。

 

「気をつけろ!外見は10代の少女だが、相手は改造人間だ。どんな能力を持っているかわからんぞ!」

 

「隊長、発砲は?」

 

「抵抗したら殺さない程度に許可する」

 

男達の会話からは物騒な単語も聞こえる。

 

「どうやら連中は僕のことを探しているみたいだ」

 

「そうとも限りません。私も‥‥改造人間ですから‥‥」

 

「ルリ‥‥」

 

やがて通路の前と後ろから男達の声が聞こえる。そしてその声は段々と此方に近づいてくる。

 

(挟み撃ちか‥どうすれば‥‥どうすればいい‥‥)

 

コハクは周囲を見渡す。

このまま此処に居ては必ず見つかる。

連中と戦うにしてもルリを巻き込んでしまう。

そんな時、通路の天井にあった通風孔に気づく。

背中に羽根を生やして飛んで、通風孔のフタを思いっきり引っ張って強引に開ける。

 

「ルリ早く!」

 

「いえ、ここはコハクから」

 

「フタを戻さないといけないでしょう?そして、ルリにフタを戻す力はないでしょう?さっ、早く!!」

 

コハクの言葉が事実なだけにルリはコハクに従うしかなかった。

ルリを抱いて彼女を強引に通風孔のダクトに入れる。

 

「さあ、コハクも早く!」

 

ダクトに入ったルリが手を伸ばし、コハクもダクトに入るよう促すが、

 

「‥‥」

 

「コハク?」

 

コハクはルリの手を握らず、ルリの事をジッと見つめるだけだ。

 

「ルリ‥‥オモイカネを‥‥ナデシコを頼んだよ」

 

「えっ!?コハク?それはどう言う‥‥」

 

コハクは微笑むと通風孔のフタを閉めた。

 

「待って!!コハク!!コハク!!」

 

ルリは火星の時と同じ‥‥いや、今回はそれ以上の不安感に襲われた。

 

「いたぞ!タケミナカタ・コハクだ!」

 

「捕まえろ!」

 

「絶対に殺すな!」

 

兵士の怒鳴り声が聞こえたと思ったら、少しの間を置いて、

 

「うわぁぁぁぁなんだ!?コイツは!?」

 

「ば、化け物だ!」

 

「撃て!撃て!」

 

次に聞こえてきたのは兵士の怯える声と銃声と兵士の断末魔の悲鳴だった。

 

「くっ‥コハク‥必ず‥必ずナデシコもオモイカネも‥そして貴女も何とかしますからね‥‥それまで絶対に無事でいて‥‥」

 

ルリは泣き叫びたい衝動を抑え、その声から逃げるようにダクトの奥へと進んだ。

ただ、ダクトを進むルリは泣かないようにグッと下唇を嚙みしめたが、それでも目からは薄っすらと涙が流れていた。

 




ではまた次回。
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