機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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こーしーんでーーす。


第25話

 

 

アキト達がナデシコを脱走してから、半月の月日が経った。

ナデシコはユリカ達ナデシコクルーの手からネルガルの手に戻り、ナデシコは現在ヒラツカにあるネルガルのドックに係留され、人員の補充中である。

あの脱走騒動で、アキト達の他にも100人近いクルーがナデシコを降りてしまったので、ナデシコを動かすには少なくとも後もう半月はこのままヒラツカドックで待機が続くだろう。

ナデシコに残ったクルーもやる気がない様子で、自室や休憩スペースでグテ~っと休憩中のパンダの様な自堕落な生活をしている。

アカツキはネルガルの会長職へと復帰し同じくエリナも会長秘書の役職に戻った。

プロスペクターはホウメイガールズと一緒に資料課へと左遷された。

機密漏洩をした割には、随分と寛大な処分であったが、クビにして下手に動かれては困るので、閑職に回して、そのまま彼を監視しようという決定のようだ。

ゴートはアカツキの下で再びナデシコの乗員を集めるのに奔走している。

最初にナデシコのクルーを集めた時、ネルガルは「人格面に問題があるも能力は超一流」と言うキャッチフレーズでクルーを集めた。

しかし、今度は「人格面に問題がないクルーを集めろ」とアカツキはゴートに指示を出した。

だが、ゴート曰く「人格面に問題はないが能力は劣る」とアカツキに報告したが、アカツキはまた反乱など起こされてはたまらないと言ってそのままクルー集めを続行させた。

アカツキの指示通り、ゴートは新たなナデシコのクルー集めを行ったが、彼にはある不安があった。

それは乗員を集めた後、クビになるのではないだろうか?というものだ。なにせ、彼には軍の兵士に対する乱暴行為があるのだから‥‥

ウリバタケは自宅兼自らの工房に戻り、ナデシコに乗る前同様、違法改造屋をまた始めている。

メグミは声優へと復帰した。

元々人気声優だけあって、既に何本かレギュラーの内定を貰っているようだし、最近ではラジオ番組にも登場している。

イネスはボソンジャンプの研究のため、ネルガルの研究所へと入った。

ホウメイは「契約期間がまだ残っている」と言ってナデシコに残り料理研究をしている。

リョーコ、ヒカル、イズミのパイロット3人娘はそれぞれの機体でナデシコを脱走後、行方不明。

同じくコハクの手によって危機を脱したオペレーターのルリも行方不明とされ、現在行方を捜索中。

アキト、ユリカ、ミナト、ユキナ、ジュンの5人はサセボシティーにある「雪谷食堂」という中華飯店に潜伏中。

といっても、行方不明のリョーコ達とルリ以外にはネルガルの監視がついている。

木星蜥蜴の正体をはじめ、ナデシコのクルー達はネルガルの裏の機密をも知ってしまったので当然の処置といってもいい。

そしてルリを通風孔へ逃がしたコハクはあの後、ナデシコで連合軍兵士相手に奮闘したが、最終的にテ―ザー銃の電流と多数の麻酔弾によって力尽き軍によって捕縛され、ネルガルの研究所へと送られた。

 

 

~ネルガル 某所にある研究所~

 

「気をつけてください。ここに収監された当初は酷く暴れていたもので‥‥」

 

研究員が注意を述べた後、イネスは2人の警備員と共にコハクが収監されている部屋へと向った。

 

「久しぶりね。思ったより元気そうでなによりだわ、タケミナカタ・コハク」

 

イネスが檻の様な場所に収監されているコハクに声をかけると、ベッドで横たわっていたコハクが顔をあげ、イネスに近付く。

ボロボロになった検診衣の様な服を身に纏い、手には頑丈そうな手錠、首には首輪のような機械を取り付けられ、虚ろな目でイネスを見るコハク。

イネスとコハクの間には硬化テクタイトで出来た分厚い仕切りがある。

 

「‥‥そうでもないですよ‥‥毎日くだらない実験と薬漬けで、ストレスがたまる一方です‥‥おまけに出される食事は食べ物なのかと、疑うほどの不味い物ばかり‥‥」

 

出される食事が口合わないのか、コハクは少々痩せているように見える。

 

「そう」

 

イネスはコハクが収監されている部屋を見渡す。

ベッドのシーツや枕はズタズタに引き裂かれ、壁のいたるところには引っかき傷があり、おもいっきり殴りつけたのか、へこんでいる箇所が幾つもあり、夥しい程の飛沫血の跡もあった。

暴れていたと言うのは間違いなかった。

しかし、10代前半の女の子が此処まで特殊な収監部屋をボロボロに出来るのだろうか?と思えるほど、部屋の中の荒れ具合は、まるで廃墟の様な雰囲気である。

それを見ると、やはりコハクが改めて生物兵器なのだと実感させられる。

 

「ナデシコでは随分暴れたみたいね?‥‥貴女に傷つけられ、負傷した兵は今でも病院のベッドで魘されているそうよ」

 

「いきなり銃を撃ってきたのですから正当防衛でしょう?‥しかもアイツら、ルリの事まで化け物扱いしたんですよ‥‥それで、今日はなんの御用ですか?」

 

「実はアカツキ君が近くボソンジャンプの実験をするみたいでね、その実験に貴女を使いたいそうよ」

 

ボソンジャンプの研究に携わっているイネスからの情報なので確かな情報だろう。

 

「そうですか‥‥まっ、アキトさんが協力しない以上当然の処置でしょうね。それよりもルリや艦長たちは?どうしています?」

 

此処には当然パソコンなどの端末は無いので、今のコハクにはルリがあの後どうなったのか知る由もないので、外に居るイネスに尋ねたのだ。

 

「ルリちゃんは未だ行方不明。艦長はアキト君達と一緒にサセボにいるわ」

 

「そうですか‥‥」

 

コハクはナデシコのクルーがあの後どうなったのかをイネスに尋ね、ルリがあの後捕まらなかった事にホッとした。

あらかたクルーの安否を聞いた後、今度はイネスがコハクに質問をしてきた。

 

「その手錠は分かるとして、その首輪は一体何かしら?」

 

「なかなかのアクセサリーだと思いませんか?捕らわれのお姫様みたいで」

 

コハクは自嘲するかのように言って首輪をイネスに見せ付ける。

 

「ナノマシンの発する特殊な電磁波を感知してその電磁波を無効化する電流を流す拘束具だそうです。ここのマッドサイエンティスト‥‥いや、変態共が作ったガラクタですよ」

 

そして、イネスにこの首輪が一体なんなのかを語る。

 

「成程、生体兵器である貴女を拘束するにはそれぐらいの鎖が必要ってわけね」

 

イネスが納得するように言う。

 

「おかげで薬を打たれると頭がボォーっとしたり、頭痛や吐き気を催して大変ですよ。普通なら、僕の体内のナノマシンが薬の成分を分解し無効にする筈なんですけどね‥‥」

 

「多分薬を使って貴女を洗脳しようとしているのね‥‥考える力を奪い、ネルガルの言いなりになる人形にする為に‥‥」

 

「おそらく‥‥」

 

コハクはそれを聞くとイネスに背を向け、ボロボロになったベッドに横たわった。

 

「貴女はこのままでいいの?」

 

「果報は寝て待て‥‥その言葉通り、今は寝ます‥気分が悪いので‥‥でもこのままネルガルの言いなりの人形になって終わるつもりはありません‥‥きっと、ルリが‥‥艦長が‥‥そしてアキトさんがこのまま何もしない訳がありませんから‥‥」

 

「そうね」

 

イネス自身もあのユリカやアキト、ルリの性格を考えてこのまま何もしない訳がない。

必ずナデシコを取り戻すために何らかのアクションを起こす筈である。

ベッドに横になると、コハクは1分も経たぬうちに寝てしまった。

 

「やっぱり面白い子ね。タケミナカタ・コハク‥‥」

 

イネスはフフっと口元を緩める。

そしてコハクが寝てしまったため、イネスも研究所を後にした。

 

 

~サセボシティー 雪谷食堂~

 

長崎県にあるサセボシティーにある雪谷食堂はここ最近お客の出入りが多くなり、特にお昼時になると満席となり、そして今日も雪谷食堂は満員御礼である。

特に可愛い看板娘達が入ったとあれば尚更である。

 

「ご注文をどうぞ♪」

 

「俺、酢豚定食」

 

「餃子定食」

 

「タンメン」

 

「チャーシュー麺大盛り」

 

「あ、俺やっぱり半ライス追加」

 

「こっちビール追加」

 

「味噌ラーメン」

 

「俺、醤油 あ、ネギ抜いてね」

 

「俺も味噌」

 

「あ、やっぱり半チャーハン追加」

 

「俺、日替わり定食」

 

「俺も」

 

普通に聞いていたら全然わからないほどのオーダーが一気に飛び交った。

この場合、漫画やアニメなら「こちらのテーブルまとめてラーメン」なんてベタな展開だが、

 

「復唱します。そちらから‥‥以上、ご注文に間違いはありませんか?」

 

一瞬の沈黙の後に喝采が巻き起こる。

1つの間違いもなく注文をそらんじたユリカに賞賛の声が浴びせられた。

 

「へぇ~やるねぇ」

 

ユリカの給仕能力に感心する店主のサイゾウ。

 

「でしょ?伊達に連合大を主席で卒業ですから」

 

「アイツが人のために役立っているのを始めて見た・・・・」

 

ユリカを持ち上げるジュンにやる気のない声で水を差すアキト。

そんなアキトはラーメンのスープが入った鍋をぼんやりと眺めている。

彼の顔はナデシコに乗っている時と比べ、ぼんやりとしている。

 

「何言ってんだ、ユリカはナデシコの艦長として立派に‥‥」

 

ジュンはユリカを弁護しようとしたが、

 

「その立派な結果がこれか?」

 

「ウッ‥そ、それは‥‥」

 

アキトに現実を突きつけられ、反論のしようがないジュン。

事情を知らなければ、今のユリカの姿を見る限り、彼女が戦艦の艦長だったなどとはとても気づかないだろう。

オーダーを取り、注文の品をテーブルに運ぶ姿を見れば今のユリカはすっかり食堂のお姉さんである。

まぁ、潜伏生活をする身としてはこの方がバレにくくて良いのだが‥‥

 

「まっ、俺達の間抜けもあるけどな‥‥‥正義の味方になろうとしたら、地球がお呼びじゃなかったか‥‥」

 

いつまでもやる気のないアキトにサイゾウが渇を入れるかのようにお玉でアキトの頭を叩く。

 

「こら!いつまでもスープだけ見ていてもダメだろう!さっさとラーメンの準備をしろ!」

 

「は、はい!」

 

「お前も皿洗いながらウロウロするな!これも洗っとけ、変なものを叩いちまった」

 

「は、はい」

 

とばっちりをくらうジュンであった。

 

「酢豚定食あがったよ!」

 

「は~い♪」

 

雪谷食堂は今日も忙しく、繁盛していた。

 

お昼時間が過ぎ、食堂にとっては最も忙しい時間帯も過ぎて、ミナトとユキナは洗濯物を取り込んでいた。

 

「本当、洗濯日和よねぇ♪」

 

「日和?」

 

「ナデシコの中じゃ乾燥機使わなきゃ、ならなかったけど、こうやってお日様と自然の風で乾かすと‥‥」

 

ミナトは干し立てのシーツを縁側で洗濯物を畳んでいるユキナに持たせる。

 

「ほら、フカフカでしょ?」

 

「う、うん」

 

ユキナは太陽の匂いとふかふかのシーツを握りしめながら少し感動している。

 

「あんたなら良いかもね」

 

「ん?」

 

お兄ちゃんと一緒になるなら‥という言葉を前に付けるのをやめた。

 

「地球にも良い奴いるじゃん‥‥」

 

「悪い奴も多いけどね」

 

そう言うと2人はクスクス笑い合った。

 

 

~トウキョウシティー 録音スタジオ~

 

「はい、本日の録音(とり)はここまで、お疲れ様でした」

 

「お疲れさまでした~♪」

 

今日の収録がようやく終わった。

 

「ふぅ~」

 

仕事が終わりメグミは大きく溜め息をつく。

なぜなら今日はナデシコを降りた後、初めて行う声優の仕事だ。

いわゆる現役復帰というわけである。

 

ナデシコ脱走事件の後、メグミもナデシコの乗員から市井の一般人に戻った。

かつて売れ始めていたにも関わらず突然、声優業界から去り、ナデシコに乗ったこともあり、声優に復帰したからといって、すぐに仕事があるとは思っていなかったのだけど、新しくお世話になったプロダクションの尽力からか、すんなり仕事が決まって驚いていたりする。

しかし、不安もあった。

自分は民間船とはいえ、一度は軍艦に乗った身。

偏見による白い目で見られないか?

ノコノコと声優業界に戻ってきた自分を不快に思う人がいないか?

そんな不安を抱えて今回、復帰最初の仕事に臨んだのだが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 

「メグミちゃん、ご苦労さん」

 

「あっ、プロデューサさん」

 

「戻ってきてくれてありがとう。とても1年もお仕事してないなんて信じられないくらい~♪」

 

「そんな、今日も心臓ドキドキですよ」

 

「ブランクもかんじさせないし、これからお仕事をどんどん取ってきても問題なさそうね~♪」

 

「ありがとうございます」

 

プロデューサーの言葉からなんとか声優業を続けていけそうだ。

メグミはプロデューサに頭を下げお礼すると帰宅の徒についた。

 

それから何日が経過したのだろう?

ナチュラル・ライチの収録は問題なく続いていくのだが、回を重ねていくたびメグミはその内容に疑問と不安を抱き始める。

そんなある日、今日の分の収録が終わり、録音部屋から出ると、

 

「メグミちゃん~♪」

 

アニメのプロデューサが待っていた。

 

「プロデューサさん」

 

「メグミちゃんのランプータン、いいよね~♪ 監督さん褒めていたよ~」

 

「良かったよ~」

 

「はい、ありがとうございます」

 

無邪気に賞賛してくれるプロデューサと監督になんとも言えない作り笑顔で答える。

 

「お疲れさま、メグミちゃん」

 

「あっ、マリさん、少しお話があるんですけど‥‥」

 

「えっ?」

 

メグミは同じ声優のマリに相談を持ちかけた。

 

 

~スタジオ近くの喫茶店~

 

メグミの言葉にマリは驚いた。

 

「ランプータンの役を降りたい?」

 

「推して下さったプロデューサさんやマネージャーさんには申し訳ないんですが‥‥」

 

メグミは突然、今やっているアニメの役を降板したと言い出した。

 

「でも、モックーン編に入ってから視聴率も良いし、何よりメグミちゃんのお陰でランプータンは良いキャラクターになったと思うんだけどなぁ」

 

マリはメグミを引き留めようとするが、

 

「でもイヤなんです!」

 

メグミは思わず叫ぶ。そして今まで思っていた疑問をぶつける。

やはり、彼女は今やっているアニメ役を降板する決心は固く、単に悪役のアフレコをするのが嫌だとかそんな理由ではなかった。

 

「どうしてライチが戦うアニメになっちゃったんですか!いくら戦争をしているからって敵にモックーンなんて如何にもな名前をつけなくて良いじゃないですか!こういう時だからこそ、暢気で暖かいアニメがあったっていいじゃないですか。どうしてライチがこうなっちゃったんですか!」

 

メグミはこれまでの疑問をマリにぶつける。

 

「メグミちゃん‥‥」

 

メグミにはどうしても耐えられなかった。

どう考えたってモックーン編になってから、ライチは地球の人達へ木星に対する無意識の先入観を植え付ける戦意高揚のアニメ番組に成り下がっている。

木連の人達にも九十九やユキナのように優しい人達はいる。

いや、きっといる。

それなのになぜわざわざ憎む事を焚き付けなければいけないのか!?

けれどメグミの抱く不安と疑問は全く予想外の回答を示される。

 

「貴女は一生懸命ランプータンを演じればいいの。その方がエリナも喜ぶと思うけどな‥‥」

 

「マリ、待った?」

 

「エリナ、こっちよ」

 

「えっ?」

 

聞き覚えのある声、そしてその名前‥‥。

メグミが後ろを振り返るとそこにはエリナの姿があった。

 

「マリさん‥‥どういうことですか?」

 

「彼女、私の親友で会社の同期なの」

 

エリナは自分とマリとの関係を告げた。

その言葉にメグミは愕然としていた。

 

「知らなかったの?」

 

「うちのプロダクションはネルガルの社内ベンチャーなのよ。広報部だけじゃ出来ない大きなイベントとかしていたら自然とね‥‥」

 

マリは自分の社員証を見せる。

そこには忘れもしないネルガルの社章がちゃんと入っている。

メグミはようやく気づいた。

自分にまわってきた仕事の全ては実はネルガルの差し金だったのだ。

メグミを声優業界に復帰させて監視しやすくするためのネルガルの工作だった。

つまり‥‥

 

「私達ネルガルはナデシコクルーの下船後の生活を出来る限りサポートしているの。だからあなた達は胸を張って活躍してくれればいいのよ。もちろん、火星や木星のことは他言無用よ」

 

「エリナ、彼女は大丈夫よ。ナチュラル・ライチだって彼女のランプータンが登場してから視聴率が上がっているもの♪」

 

そんな賞賛の声もメグミには胸を切り刻むナイフの様に思えた。

メグミは感極まって喫茶店から走って逃げた。

 

「待ちなさい!逃げたって何も変わらないのよ!貴女達ナデシコのクルーは本来なら、重罪人なのよ!」

 

追い打ちをかけるエリナの声が逃げるメグミの心を抉るのであった。

 

 

メグミは失意の中、町を当てもなく歩いていた。

勿論メグミの後ろには当然ネルガルの監視がついているが、当のメグミ本人は気づいていない。

すると、

 

「メグミチャン」

 

メグミは突然声をかけられた。

声のした方を見ると、そこには小学生くらいの男の子が立っていた。

 

「メグミチャン、ちょっとツキアッテ」

 

男の子はそう言うとメグミを路地裏に連れて行こうとする。するとメグミの後ろから眼鏡をかけた男2人が慌ててメグミの後を追う。

ネルガルがメグミの監視のために放った工作員である。

 

「ちょっと、邪魔ダナ‥‥ヨウがあるのはメグちゃんダケ‥‥」

 

男の子が後をつけてくる男たちに立ち塞がるように立つと、突然男の子の口や頭、腕から大量のロケット花火が打ち出された。

 

「えっ??」

 

目の前の事態についていけないメグミ。

 

「メグミちゃんこっち、今のうちに」

 

すると路地から野球帽を目深にかぶったウリバタケが姿を現した。

メグミはネルガルの工作員をまいてそのままウリバタケとともに路地に姿を消した。

 

 

~トウキョウシティー とある公園~

 

「私、監視されていたんですか?」

 

「ああ、そうさ。ナデシコの元クルーには可能な限りネルガルの監視が付いている」

 

「可能な限りって‥‥」

 

「俺らみたいに居場所がわかっている奴らはもちろん、未だ逃亡中って奴らの場合は監視と言うより捜索、追跡ってところだろうなぁ」

 

そう言ってウリバタケはポケットからコミュニケを取り出す。

 

「こいつが使えればみんなとも連絡が取れるんだが、ネルガルもバカじゃない。オモイカネを都合良く弄くり回しちまっているだろうからなぁ」

 

ウリバタケは手に持ったコミュニケを弄ぶ。

当然押しても反応しない。

 

「これが使えないって事はルリルリの台詞じゃないけど、ナデシコは既に俺達のナデシコではなくなってしまったって事だろうなぁ‥‥」

 

ナデシコを降りてからナデシコやオモイカネがどうなったのかウリバタケには知る由もなかったのだが、コミュニケが使用不可と言う事は、オモイカネはきっとネルガルが弄ってしまったのだと予測するウリバタケ。

 

「そんな‥‥」

 

「まぁ、お互い第二の人生を楽しもうや。監視付きだけどな」

 

「そんな簡単に割り切れませんよ!」

 

「けど、これから先の方が人生長いんだ。過去のどうしようもないことを引きずっても辛いだけだぜ?」

 

「‥‥」

 

確かにそうかもしれない。

でも心は全然納得していない。

いや納得など出来ない。

出来る筈がない。

 

「いつまでこんなことが続くんですか?」

 

「さあな‥秘密が秘密じゃなくなるまでかな‥‥地球も木星も互いが手に手を取り合い、共に見当てぬ大宇宙へと目指す‥‥っていうのが漫画・アニメの王道なんだがなぁ」

 

現実はウリバタケの言う様なアニメ・漫画のようにそう簡単にはいかない。

 

「‥‥」

 

ウリバタケの言う秘密が秘密じゃなくなる日‥それは一体いつのことになるのだろうか?

けれどわかっていることはただ1つ‥‥

自分とナデシコとの絆はこのコミュニケと同じように切れてしまったのだ‥‥

 

 

その夜、メグミは枕を涙で濡らしていた。

すると枕元に置いてあったコミュニケが光り、そこから自分の名前を呼ぶ声がする。

 

『メグミさん‥メグミさん‥‥』

 

メグミは耳元で囁かれる声に目が覚め、コミュニケを見る。そこには小さな空間ウィンドウが開いており、映っているのは猫の着ぐるみを着たルリだった。

 

『お久しぶりです‥‥ルリです。にゃお~』

 

メグミがルリからの通信を受ける少し前。

アキトは夜、店が閉まってからチャーハン作りの練習をしていた。

 

「親方。味、見て下さい」

 

そして出来上がったばかりのチャーハンの試食をサイゾウに頼んだ。

 

「まぁ、見てくれは合格だな」

 

サイゾウはアキトの目つきを見て何を思ったのか、素直にアキトが差し出した皿を受け取った。

そしてレンゲで一掬いして口に放り込んだ。

 

「‥‥」

 

アキトは不安ながらも自信に満ちた顔で答えを待っていた。

やるだけやった。自分の力を全部出し切った。

これならダメでも悔いはない、そういう顔だった。

サイゾウはアキトの作ったチャーハンを一口食べ、レンゲを置き、素っ気なくこう言った。

 

「10年早い」

 

「そう‥ですか‥‥」

 

「しかし、100年早い連中が大きな店を構えているご時世だ。十分だ、合格だよ」

 

「親方‥‥ありがとうございます」

 

「逃げるの‥やめたみたいだな?」

 

「えっ?逃げていますけど?相変わらず‥‥」

 

「バカ、自分から逃げるのをやめたって言ったんだよ。よっぽど良い師匠についたんだな」

 

「はい!」

 

アキト自信で満ちた顔で返事をする。

すると、沈黙していたアキトのコミュニケが作動し、ルリの姿が映ったウィンドウが開く。

 

「ルリちゃん!?」

 

「な、なんだ?こりゃ?」

 

『皆さん、お久しぶりです。この映像は皆さんだけに届くよう、音声ならびに映像信号にちょっと細工をしたので、その分見にくいですがご了承ください』

 

空間ウィンドウには猫の着ぐるみ姿のルリがいた。

その姿を様々な場所で元ナデシコクルー達が見ていた。

 

『今まで、連絡できなくてすみません。ネルガルが書き換えたソフトをオモイカネに演じさせるのに手間取ってしまいまして‥‥』

 

「コンピューターがお芝居していたってこと?」

 

メグミが自室でルリに聞く。

 

『はい、でもオモイカネは人の真似が嫌いなので、説得に苦労しました。皆さんにこれだけは伝えたくて‥‥ナデシコは生きています』

 

「ルリルリ、そんなカッコしてそこさむかったんじゃない?」

 

ミナトがルリの着ている猫さんスーツを見てルリに尋ねる。

 

『はい、でもこのスーツをホウメイさんからもらってからは平気です。私ってこう見えてしぶといんです』

 

そう言ってルリが微笑む。

ルリがコハクの前以外で微笑んだのはこれが初めてかもしれない。

 

「ルリルリが笑っている‥‥」

 

あまりの事でウリバタケは手に持っていたスパナを落とした。

 

ルリは皆に微笑んだ後、こう語りかける。

皆の心に届くように。

自分たちの気持ちを‥‥

 

「昔、ナデシコを君たちの艦だと言った人がいましたが、今はそんな気持ちです。この艦は私たちの艦です。喜びも、悲しみもナデシコに刻んだのは他の誰でもない、私達自身」

 

以前、火星にて瓢提督が最後に言っていた事をナデシコのクルー達に伝えるルリ。

 

「もうすぐナデシコは別のクルーの方々が乗り込みます。でもそこにはユリカさんもアキトさんもいない。オモイカネもオモイカネでなくなる‥‥私達の刻んだ思い出は別の何かで上塗りされてしまいます。私達は何も成し遂げていません。私は嫌です。ナデシコがナデシコで無くなる前に成し遂げるべきなのではないでしょうか?」

 

続いてルリはナデシコの現状伝える。

そして自分の想いをクルー達に伝える。

最後にルリはもう一度、ナデシコのクルー達に言う。

 

「私は渡したくありません。みんなの居場所を‥‥ナデシコは私たちの艦です」

 

ナデシコのクルー達に合流を促しルリは通信をきった。

ルリにとってはこれまでの一生で初めてとなる大博打だ。

此処まで来てはもう失敗は許されない。

ルリはナデシコのクルー達を信じ、ナデシコで待った。

 

 

~ネルガル 某所にある研究所~

 

「ミスターゴート‥こんな時間に何の御用ですか?」

 

警備員は突然訪問予定が無いゴートが訪れた事に不審がる。

ゴートはアカツキがコハクを使ってボソンジャンプの実験を行うので、身柄を受け取りに来たと言う。

警備員が確認の為、ゴートに背を向けてネルガル本社へ電話をかけていると、ゴートはその隙をついて警備員を殴り倒す。

そして、警備員から鍵を奪うとコハクが収監されている部屋に向かう。

鍵を使ってコハクの手錠と首輪を解除して彼女と共に研究所を脱出しようとした時、コハクの奪還がバレたみたいで、警備員達が集まって来る。

しかし、相手が悪かった。

コハクは此処に収監され、変な実験と薬の検体の毎日‥しかも提供される食事は不味い。

イネスに言っていた様にかなりのストレスが溜まっていた。

ゴートとしては警備員達にご愁傷様としか言いようがなかった。

研究所は阿鼻叫喚の地獄となった。

ナデシコの時はルリを逃がす為、色々制限があったが、今のコハクはまさに鎖から解き放たれた狂犬状態だった。

ルリは戦えなかったけど、ゴートの場合自分の身は自分で守れるぐらいの力はあったので、コハクは気兼ねなく暴れる事が出来たのだ。

しかし、負傷者はいたが、死者が出ていない事から理性はまだ残っていた様だ。

研究所を生き地獄へと変貌させたコハクはゴートと共に研究所のくるまを奪ってナデシコが停泊しているヒラツカドックへと向かった。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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