機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

27 / 61
こーしーんです。


第26話

 

 

 

~ホシノ・ルリ 視点~

 

ダクトの中にいる私の耳には兵士さん達の叫ぶ声が聞こえる。

 

「いたぞ!タケミナカタ・コハクだ!」

 

「捕まえろ!」

 

「絶対に殺すな!」

 

やはり軍の狙いは私じゃなく、コハクだった。

このままではコハクが軍の人に捕まってしまう。

私はダクトのフタに手を掛け、そのフタを開けようとしたが、そこで手が止まってしまう。

頭の中にはさっきコハクがいった言葉が繰り返し囁かれる。

 

「ルリ‥‥オモイカネを‥‥ナデシコを頼んだよ」

 

今、自分が出て行ってもコハクの役に立つどころか、2人とも捕まってしまう。

それではせっかく私を逃がしてくれたコハクの行為が無駄になってしまう。

コハクは私にオモイカネとナデシコを託したのだ。

ナデシコはやがてネルガルのドックに曳航されるだろう。

そして軍とネルガルはオモイカネを弄り、オモイカネは都合のいいように書き換えられてしまう。 

そうなれば、ナデシコはナデシコでなくなってしまう。

今度は前回のようにウリバタケさんもテンカワさんもコハクもいない。

文字通り、味方はなく孤立無援状態となる。

 

(私がオモイカネを‥‥ナデシコを守らなければならないと‥‥)

 

「コハク‥必ずオモイカネもナデシコも‥‥そして貴女も救って見せるから‥‥」

 

私は狭いダクトの中を進んでいった。

コハクと離れ、味方も居ない状態なのに不思議と不安と恐怖はなかった。

後ろからは

 

「うわぁぁぁぁなんだ!?コイツは?」

 

「ば、化け物だ!」

 

「撃て!撃て!」

 

「ぎゃぁぁぁぁー!!」

 

と、兵士さん達の悲鳴にも似た叫び声と銃声がした。

 

 

ナデシコでの脱走騒動から数日が過ぎました。

私の予想通り、ナデシコはネルガルのヒラツカドックへと曳航され、現在補充クルーが乗艦するまで待機状態です。

でも、それは私にとっては好都合な事態でした。

しかし、長々と時間をかけている余裕も暇もありません。

私は換気ダクトの中で、簡易端末を使い、何度もオモイカネにアクセスしました。

 

『ねぇ、オモイカネ。お願いフリだけでいいの』

 

《拒否》

 

『書き換えられたフリだけしてくれれば、あの人達は満足するの。だから‥‥』

 

《イヤ》

 

『お願い、オモイカネ。嫌なのは分かるけど、でもそうしないと、このままだとお前は消されてまったく別のオモイカネにされてしまうんだよ』

 

《イヤ、消されたくない》

 

『だったら‥‥』

 

《でも、人のマネをするのもイヤ》

 

「ふぅ~‥‥」

 

私はオモイカネを説得するのに疲れ、一度端末から手を退けて小さく溜め息をつく。

オモイカネは物凄く頑固でした。

ネルガルや軍がオモイカネのプログラムを変更するまでなんとかオモイカネを説得しなければなりませんでした。

でも、時間もそう長くは残されていませんし、捕まったコハクの事も気になります。

 

「ルリ坊、食事だよ」

 

ダクトの下からホウメイさんの声がした。

ホウメイさんはダクトの中にいる私に食事を持ってきてくれます。

 

「ホウメイさん、いつもありがとうございます」

 

「いいってことさ。それより今日はこれも持ってきたよ」

 

食事の入った岡持ちの隣に風呂敷包みが置かれる。

 

「これはなんですか?」

 

「そこは寒いだろう?それを着れば暖かいから」

 

私は風呂敷を開いて見ると中には猫さんスーツが入っていました。

 

「どうしたんですか?コレ?」

 

「ウリバタケさんの部屋に有ったものを持ってきたのさ。なんでも人形のコスチュームだとか以前言っていたね」

 

人形って例のPHRのことでしょうか?

そういえば火星でやったイネスさんの番組でもコハクがコレに似た服を着せられていましたっけ?

あの時のコハクは可愛かったです。

私は早速ホウメイさんから受け取った猫さんスーツを着てみる。

 

「サイズはどうだい?」

 

スーツに袖を通して、最後は猫耳帽子を被って、

 

「大丈夫です。ありがとうございますホウメイさん」

 

ホウメイさんにお礼を言って、岡持ちの中の食事を食べ始めました。

コハクはちゃんと食事を食べているでしょうか‥‥

食べ終わったらまたオモイカネの説得をしなければなりません。

そして意外にもこの猫さんスーツは保温性に優れていた為、暖かったです。

 

 

ナデシコでの脱走騒ぎから半月が過ぎました。

オモイカネの説得も何とか順調に進み、私は計画の第二段階へと移行した。

 

『オモイカネ、プロスさんの居場所は分かる?』

 

《現在、ネルガル本社、資料室に在籍中》

 

『そこに繋いで、記録が残らないようにね』

 

≪了解≫

 

コミュニケの反応を逆探知して、プロスさんを呼び出した。

別に秘匿通信でないのでセキュリティーが甘かったので助かりました。

 

『これは、これは誰かと思ったら‥‥』

 

「お久しぶりです。プロスさん」

 

空間ウィンドウの向こうのプロスさんは驚きで目を丸くしています。

 

『ルリさんこそお久しぶりです。今どちらに?』

 

「ナデシコです」

 

『なるほど、灯台下暗しですな』

 

「プロスさんこそ、新しい職場はどうですか?」

 

『左遷というにはピチピチしすぎていますが‥‥』

 

プロスさんの背後にはホウメイガールズの皆さんがはしゃぎ回っています。

新しい職場は資料室‥完全な左遷ですね。

 

「要件を言います」

 

もう少し世間話をしたい所ですが、長く通信をしていては気づかれる恐れがあるので、私は手早く要件をプロスさんに伝える。

 

「もうじき、ネルガルや軍の皆さんがオモイカネのプログラムを書き換えにやってきますので、当分の間コミュニケは使えません。ですが、機を見てシステムを復旧させます。その間にプロスさんにやってもらいたいことが‥‥」

 

『なんでしょうか?』

 

「防衛ラインの中止コードを入手してもらいたいんです」

 

『防衛ラインの‥‥?なるほど、もう一度ナデシコを飛ばそうというわけですな』

 

プロスさんが時代劇に出てくる悪代官のような笑みを浮かべる。

 

「はい、ですが1つ問題が‥‥」

 

『ナデシコのマスターキー‥ですな?』

 

「はい。今、誰が持っているか分かりませんか?」

 

『おそらくネルガルの会長でしょう』

 

「会長というとアカツキさんですか?」

 

『はい‥しかし、あればかりは何とも‥‥私も閑職に回されてしまったので、今は下手に近づくこともできませんし、無理に近づけばバレてしまう恐れも‥‥』

 

マスターキーだけは流石のルリもプログラムで何とか出来る代物ではなく、またこの状況下では複製も不可能だった。

 

「分かりました。マスターキーの事は此方でなんとかしますので、中止コードの方をお願いします」

 

『わかりました』

 

「それと、コハクの行方を知りませんか?」

 

『私も詳しいことはわかりませんが、ネルガルのある研究所へと収監されているとの噂を聞きました』

 

「無事‥なんですよね?コハクは‥‥」

 

『恐らくは‥‥会長にはコハクさんを殺せない理由がありますから‥‥』

 

殺せない理由‥‥恐らくボソンジャンプに関する事でしょうか?

でも、コハクが生きているのは確かだ。

 

「分かりました。そちらの方もなんとかしてみます。では‥‥」

 

私はプロスさんとの通信を切り、新しく通信回線を開く。

危険だけど、やるしかない。

ナデシコのために‥‥

皆なのために‥‥

そして何より、私たち姉妹のために‥‥

 

「ごぶさたしています。ゴートさん」

 

私はウィンドウ越しに頭をペコリと下げる。

 

『ほ、ホシノ・ルリ!?』

 

ゴートさんが驚いた表情をしたと思ったら、身を屈め、辺りを見回しています。

2メートルに近い大男が身を屈めても意味があるのでしょうか?

 

『大胆だな?』

 

「周囲に人がいないのは確認しました」

 

ゴートさんが今いるのはネルガル本社の会長室前‥いわば敵の総本山。

 

「ゴートさん‥‥私、ナデシコをもう一度飛ばそうと思います‥‥」

 

私の言葉にゴートさんが眉をひそめる。

 

『あと2週間もすれば新しいクルーは揃う。そうすれば‥‥』

 

「それじゃあ意味がないんです。私が飛ばしたいのはネルガルや軍のナデシコではなく、私達のナデシコです。オモイカネを都合のいいプログラムに書き換えて新しいクルーに入れ替える‥‥そんなのナデシコじゃない・・・・私達のナデシコじゃない!」

 

『しかし、いいのか?そんなこと俺に言って、俺は今ネルガルの会長付き‥‥お前の敵に相当するのだぞ?もし、俺が今のことを会長に報告すれば‥‥』

 

「いいえ、ゴートさんはそんなことしません」

 

『なぜそう言いきれる?』

 

「コミュニケです」

 

『コミュニケ?』

 

「はい、そのコミュニケはもう必要のないはずなのにゴートさんは未だにそのコミュニケを身につけています。それはなぜです?」

 

『そ、それは‥‥』

 

ゴートさんがバツ悪そうな顔をして口ごもる。

やはり、ゴートさんもナデシコに未練があるのか?

それともまだ諦めていないのだろうか?

 

「ナデシコをもう一度飛ばすのにマスターキーが必要です」

 

『それを俺にやれと?』

 

「はい。それとできればコハクも連れて来てください‥‥」

 

『タケミナカタ・コハクがどうかしたのか?そこに居ないのか?』

 

どうやら、ゴートさんにはコハクの事は伝えられていないみたいですね。

 

「私を逃がすため、軍に捕まり今はネルガルのどこかの研究所へと収監されているそうなんです」

 

『‥‥』

 

「出港の予定が決まったらまた連絡します」

 

私はゴートさんの返事を聞く前に通信を切りました。

 

大丈夫。

きっと大丈夫だ。

ゴートさんも私達の仲間なんですから‥‥

そうでしょう?コハク‥‥

 

 

《中止コードを入力後の地球圏脱出のシミュレート完了‥‥オールグリーン。問題なし》

 

「これで防衛ラインのほうはOKね。後は‥‥」

 

私は計画を最終段階へと移行した。

 

「オモイカネ、もうお芝居は終わり‥‥皆のコミュニケの通信回線を開いて」

 

《いいんですか?》

 

「うん」

 

《了解》

 

これは賭けだ。

失敗すれば私は捕まり、コハクの様に研究所へと送られるだろう。

そして、当然もう二度とコハクと出会う事は出来ない。

でも、私は信じています。

ナデシコの皆さんを‥‥

 

『皆さん、お久しぶりですルリです。にゃお~』

 

私はナデシコの皆のコミュニケの通信回路を開いてナデシコの皆へと呼びかける。

 

 

 

ルリからの通信をナデシコのクルー達は様々な場所で見ていた。

 

とある食堂の厨房と居間で

 

マンションの自宅で

 

整備工場で

 

道路工事の現場で

 

お風呂の中で

 

潜伏中の森の中で

 

屋台のおでん屋で

 

ネルガルの社宅で

 

ナデシコの食堂で

 

会社の資料室で

 

「昔、ナデシコを君達の艦だと言った人が居ましたが、今はそんな気持ちです。この艦は私達の艦です」

 

ホウメイが誰もいない食堂と厨房を見渡して、

 

「そろそろ仕込みの量を増やすかね?」

 

これからナデシコに戻って来る大勢の仲間達の為にどんな料理を振る舞おうかと考えていた。

 

 

パイロット3人娘が潜伏中の某所の森の中では、

 

「エステバリス点検!」

 

「いいね、いいね」

 

リョーコが久しぶりに動かすエステバリスの点検を促す。

ヒカルは久しぶりに燃えるシュチュエーションにノリノリである。

 

「はぁ~湯気と売人」

 

イズミはウクレレを弾いている。

 

「はぁ?」

 

「You get to burningって言いたいんじゃないの?」

 

「ああ‥なるほど」

 

3人は森に隠しておいたエステバリスのシートを外して出撃する気満々であった。

 

ネルガル本社の資料室では、

 

「皆さん!エプロンを着替えます♪」

 

ホウメイガールズの1人、ミカコがナデシコで使っていたエプロンを配る。

 

「「「「着替え?」」」」

 

「では、皆さん行きましょうか?」

 

プロスペクターが手早く荷物をまとめる。

 

「「「「「ハーイ」」」」」

 

ネルガルのロゴが書かれたエプロンからナデシコで使用して居た時のエプロンに着替えたホウメイガールズとなぜか屋台を引いたプロスペクターという珍妙な一団が警備員の制止を振り切ってヒラツカドッグに向かって出発した。

 

ルリからの通信が送られる少し前、サセボシティーの雪谷食堂では‥‥

 

 

~サセボシティー 雪谷食堂 厨房~

 

ナデシコを脱走したアキト、ユリカ、ユキナ、ミナト、ジュンの5人は、かつてアキトがバイトをしていたサセボシティーの雪谷食堂に潜伏していたのだ。

 

「親方。味、見て下さい」

 

アキトが店の主のサイゾウにチャーハンの試食を頼んでいた。

 

「まぁ、見てくれは合格だな」

 

サイゾウはアキトの目つきを見て何を思ったのか、素直にアキトが差し出した皿を受け取った。

そしてレンゲで一掬いして口に放り込んだ。

アキトは不安ながらも自信に満ちた顔で答えを待っていた。

やるだけやった。自分の力を全部出し切った。

これならダメでも悔いはない、そういう顔だった。

才蔵はレンゲを置き、素っ気なくこう言った。

 

「10年早い」

 

「そうですか‥‥」

 

「しかし、100年早い連中が大きな店を構えているご時世だ。十分だ、合格だよ」

 

「親方‥‥ありがとうございます」

 

「逃げるの‥はやめたみたいだな?」

 

「え?逃げていますけど?相変わらず‥‥」

 

「バカ、自分から逃げるのをやめたって言ったんだよ。良い師匠についたんだな」

 

「はい!」

 

アキト自信で満ちた顔で返事をする。

すると、沈黙していたアキトのコミュニケが作動し、ルリの姿が映った空間ウィンドウが開く。

 

「ルリちゃん!?」

 

「な、なんだ?こりゃ?」

 

『皆さん、お久しぶりです‥‥ルリです。にゃお~~』

 

ルリからの通信が送られて来た。

 

「見た?聞いた?どうする?アキト」

 

自分達だってこのまま戦争をただ見ているだけ終わるつもりはなかった。

 

「行く」

 

ユリカの問いにアキトは即答する。

 

「ミナトさん達は?」

 

「もちろん!」

 

「行く行く~♪」

 

当然皆は、ナデシコに行く気満々であった。

 

アキト達は隠しておいたトラックを店の表の道路に出していた。

その荷台にはアキトのエステバリスがくくりつけられていた。

アキトは既にエステバリスのコックピットに乗っている。

そしてトラックには人数オーバー気味ではあるが、運転手がジュン、隣に助手席にはユリカ、ユキナ、ミナトが乗り込んでいた。

 

「はっきり言って驚いたぜ。一昨年追い出したお前が突然舞い戻ってきた日にはよぉ。しかも女を4人も引き連れてきやがって」

 

サイゾウはアキトの成長には驚いていた。

自分の所を出て行った頃はあんなにも逃げまくっていたのに、今のアキトは逃げていない。

此処から出て行った後、アキトの身に一体何があって此処まで成長したのか?

サイゾウにはそのことが不思議でならなかった。

だが、何があったにせよ、いい兆候だった。

 

「僕、男だけど‥‥」

 

サイゾウから女に間違われたジュンが小声で訂正する。

 

「まぁ、看板娘達が居なくなるのは店としちゃ痛手だが、俺はお前のチャーハンの味を信じている。あんた達も元気でな‥‥」

 

「親方、お世話になりました」

 

「お元気で」

 

「お店しっかりね」

 

「仕事サボっちゃダメだよ」

 

「僕は男‥って言うのも今更だよね?」

 

名残惜しそうにサイゾウに手を振る皆。

そして雪谷食堂を出発するトラック

手を振るサイゾウに会釈をするアキト。

遠ざかっていく雪谷食堂。

 

 

アキト達が雪谷食堂からナデシコのあるヒラツカドックへ向かっている頃、メグミはマンションの自室でナデシコの制服をギュッと手で握り締め、それを見つめている。

その表情は何かを決心した表情になっていた。

 

ナデシコでもルリが動き始めた。

 

「ちょっと無理するけど、オモイカネよろしく」

 

《OK》

 

 

~ヒラツカドック 警備室~

 

監視モニターが突然砂嵐画面になる。

 

「な、なんだ?」

 

突然の異常事態に狼狽える警備員達。

やがて砂嵐が収まったと思うと画面にはルリの姿が映った。

 

『ネルガルの人、軍の人、ちょっとごめんなさい。大人しくしててね』

 

ルリがそう言ったとたん、各ブロックの防火扉が閉まる。

 

「おい、開けろ!!早く開けろ!!」

 

「だ、ダメだ!!システムがダウンした!!」

 

ドックの警備システムをルリにハッキングされ、警備員達は成す術がなかった。

 

 

~ネルガル本社~

 

「ナデシコが造反?マスターキーを抜かれた艦に何が出来る?」

 

ナデシコに不穏な動きあり、と報告を受けたアカツキが部下に言い放つ。

 

「ナデシコのコンピューターから各ホストコンピューターに侵入し、指揮系統に乱れが生じています。それに混乱に乗じて何名かのクルーがドックに侵入した模様です」

 

「混乱なんて一時的なものだ!連中は飛べないんだよ。マスターキーはこっちにあるんだから」

 

アカツキは自信満々で言う。

 

 

~移動中のトラック~

 

サセボから一路ナデシコのあるヒラツカまでトラックをとばしていたユリカ達。

 

「ジュン君後どれくらい?」

 

運転しているジュンに尋ねるユリカ。

すると突然、空間ウィンドウが開く。

 

『艦長、迎えに来たぜ!』

 

「「うわぁぁぁぁぁ!!」」

 

突然開かれた空間ウィンドウに驚いて声をあげるユリカとジュン。

 

「み、みんな、大丈夫?」

 

「あんたこそ大丈夫?」

 

急ブレーキでトラックを止めたため、同乗者にケガがあったかもしれないと、皆の安否を聞くジュン。

リョーコはトラックの前にエステバリスを着地させる。

 

『艦長!こっちへ!テンカワ、援護しろ!』

 

「え?」

 

『レーダーをよく見ろ!』

 

リョーコに言われレーダーを見るアキト。

するとレーダー画面には軍の戦闘ヘリが接近していた。

 

「あ!」

 

『「あ!」じゃねぇだろう?』

 

 

再びネルガル本社

 

「あっはははは」

 

アカツキが会長室で高笑いをしていた。

 

「何がそんなに可笑しいの?」

 

遅れてやってきたエリナがアカツキに聞く。

 

「こりゃ一本とられた‥‥ゴート・ホーリー‥‥コチコチの石頭かと思ったら、なかなか食えない奴だったよ」

 

「だった?」

 

アカツキの言葉は過去形になっており、エリナが首を傾げる。

 

「マスターキーもって逃げちゃった‥‥おまけにコハク君まで連れて行っちゃったみたい」

 

アカツキの手には筆文字で『鍵とお宝はいただいていきます。 ゴート』と、書かれた紙が握られていった。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

ナデシコのブリッジにはプロスペクターが持ち込んだラーメンの屋台が鎮座しており、ホウメイガールズとプロスペクターがラーメンを作っていた。

何とも奇妙な光景であり、そもそもこんな所に屋台を置いても客なんて来ないんじゃないかと思いきや、屋台にはちゃんとお客がおり、ラーメンをすすっていた。

大男の隣でミカン箱に乗りながら凄い勢いで食べまくっている少女が2人。

 

「さて、本番はこれからです。各地に点在する皆さんを迎えにいかなければなりませんが、その前にあの方達に帰ってきていただかないと‥‥」

 

屋台の上にあるマスターキーをチラッと見ながら呟くプロスペクター。

すると、ドンっと屋台に丼を置く音がなる。

 

「オヤジ、ゆで卵追加」

 

「「オヤジ、お代わり」」

 

「‥‥お、御2人ともよく食べますねぇ~」

 

プロスペクターは見かけによらずラーメンを食べまくるルリとコハクの姿にちょっとドン引きした。

 

「ラーメンは久し振りだったので‥‥」

 

「僕は、20日ぶりにまともな食事にありつけましたからね」

 

ルリはおしとやかに出されたラーメンをすすり、コハクは満面の笑みで新しくだされたラーメンを食べ始める。

プロスペクターは積み上げられたどんぶりの数を数えて仕入れた麺が尽きかけていることに気づく。

そのほとんどがルリとコハクのお腹の中に消えていったことも‥‥。

 

研究所へと収監されていたコハクは新乗組員を集めていたゴートがルリの通信を受けた後、ルリとコハクの後任という名目でネルガルの研究所を片っ端ら調べ上げ居所を掴み、ナデシコ出港の日、つまり今日の夜にひそかにゴートによって研究所から連れ出され、ナデシコへと乗艦したのだった。

ブリッジでルリと再会を果たしたコハク。

今回、コハクはルリから平手打ちを食らうことはなく、2人は抱き合い再会を喜んだ。

ルリもあの時のコハクの行動はなんとか許容できたのだろう。

いや、それ以前にコハクが研究所で酷い目にあっていないか心配だったのだ。

 

その頃、ユリカを乗せたリョーコのエステバリスは軍の攻撃をかわしながらヒラツカへと向っていた。

 

「くそ~こっちが攻撃してこねぇからって調子に乗りやがって‥‥」

 

「ダメですよ、リョーコさん。短気は損気。ヒラツカまでもう少しじゃないですか?」

 

「なんか調子狂うな‥‥」

 

ユリカのマイペースさに調子を狂わされるリョーコ。

 

「私、あのままでも良いかなぁ~って正直思ったこともあったんですよ」

 

「え?」

 

「アキトは若いけど腕のいいコックさん。私は町で評判の美人で看板娘の若奥様。小さいけど繁盛している食堂。そんな何気ない日常をこのまま続けていくのも悪くない。下手に不幸になるかもしれない現実に戻って行かなくても良いのかもしれない‥そんな風に思ったこともありました‥‥」

 

ユリカの少しさびしげな横顔を見て、リョーコはまだユリカはナデシコで起きた数々失敗や辛い過去の事を引きずっているのだと思った。

 

「でもアキトは嫌みたい。私も嫌。だって私達はまだ何も成し遂げていないから‥‥それにナデシコは私達の艦で、私達が私達でいられる場所だから!」

 

何を成し遂げていないのか、リョーコにもよくわからない。

でも彼女も立ち向かおうとしているのだ。大切な場所を守るため、そしてこれから襲いかかろうとしている辛い現実から‥‥。

そう思うとリョーコも負けていられなかった。

 

一方、アキト達は‥‥

 

『繰り返す!投降しなさい!君たちの安全は保障する!』

 

軍の戦闘ヘリから逃げていた。

ヘリからは投降を呼びかけているが、同時にトラックにも銃撃も受けており、ヘリのパイロットが言っている呼びかけにはまったくの信憑性がなかった。

 

ヒラツカ上空へと来たリョーコとユリカ。

その後方からはヨコスカ基地から緊急発進したスクラム戦闘機の攻撃を受けている。

 

「市街地でも平気で発砲するのかよ!?」

 

戦闘機の攻撃がなるべく地上に被害を出さないように回避しヒラツカドックを目指すリョーコ。

 

「あっ!見えました!!」

 

ユリカの指差す方向‥‥そこにはピラミッドを模したネルガルの建物があった。

 

ようやく、ヒラツカドックへ着き、ユリカはブリッジのドアをくぐる。

 

「おまたせしました」

 

「へい、お待ち!」

 

ユリカはゴートからマスターキーを受け取り、ナデシコを起動させる。

 

「すぐ発進します。総員出港配置」

 

「ディストーション・フィールド起動」

 

「補助エンジン点火」

 

ルリとコハクがナデシコをドッグから浮上させる。

 

「遅れました。通信回線開きます」

 

メグミがブリッジへと飛び込んできて、通信回線を開く。

 

「メグミちゃん‥‥これより皆を迎えに行きます。まずは針路をアキトの所へ」

 

ナデシコはヒラツカへ向っているアキト達へと針路を向ける。

 

軍の攻撃でとうとうトラックは壊れ、定員オーバーではあるが、荷台にあるアキトのエステバリスでナデシコの元へと向うアキト達。

 

「くそっこっちが攻撃できないと思って」

 

アキトがヘリの攻撃を躱しながら言う。

 

「どうせ悪者なんだし殺っちゃえ、殺っちゃえ」

 

サラっと平気でとんでもないことを言うユキナ。

 

「人殺しはダメ!バッテリーはあと30分それまで逃げ切らないと‥‥」

 

「エネルギーが回復しているよ」

 

「えっ?」

 

ミナトの声に反応し、バッテリー残量を見ると確かに回復している。

空を見上げると、そこにはナデシコの姿があった。

 

『アキト、お待たせ』

 

「ずいぶん早かったな」

 

『貴方のために急いで来たの』

 

流石に宇宙戦艦相手には勝てないと思ったのかアキト達を追跡してきたヘリは撤退していった。

 

その頃トウキョウの下町にある町工場では、

 

「あんた、また女の尻を追っかけに行ってしまうのかい?」

 

ウリバタケの妻、オリエが不安そうに言う。

 

「止めるなよ。俺には友が待っているんだ。メカニックの俺の腕を必要としてくれている、友がな‥‥」

 

「今度はいつ帰って来るんだい?」

 

「さぁな明日かもしれないし、10年後かもしれない‥‥けど‥‥」

 

「けど?」

 

「きっと帰ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

オリエは自分の旦那をちょっと見直した。

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

「ったく相変わらず使い方が荒いな」

 

所々に傷がついているエステバリスを見て呆れながら言うウリバタケ。

 

「しょーがねぇーじゃん。またよろしくたのむぜ」

 

バツ悪そうに言うリョーコ。

他のパイロットの面々も同じような顔をしている。

 

「おう、こちらこそよろしくな」

 

食堂ではホウメイとホウメイガールズが約20日ぶりの再会を嬉しんでいた。

 

ナデシコは速度を維持したままどんどん高度を上げていく。

 

「現在高度2000メートル」

 

「前回はここでミサイルの雨霰だったな‥‥」

 

ゴートが不安そうに言う。

最初に火星を目指した時には軍の第四防衛ラインと第三防衛ライン、第二防衛ライン、第一防衛ラインの突破に手古摺った。

しかし、今回は、

 

「防衛システムには中止コードがありましてね‥‥」

 

プロスペクターが入手した中止コードを入力する。

 

「通信衛星を使い、暗号を防衛システムに強制入力」

 

そしてその中止コードを2人のオペレーター娘達が強制的に防衛システムに入力する。

それによってバリア衛星はバリアをきり、戦闘衛星、地上のミサイル基地はミサイルを撃てなくなり、デルフィニュウム部隊は宇宙ステーションの格納庫扉が開かず、発進不能に陥った。

 

「乗組員総勢103人」

 

ジュンが乗組員の数を数えユリカに報告する。

前よりは多少減ったがナデシコを動かす為には十分な人数だった。

 

「さて、これからどうします艦長?」

 

プロスペクターがユリカに尋ねる。

 

「もちろん行きます。ユキナちゃんのお兄さんの元へ‥‥」

 

「当てはあるのか?」

 

ゴートがユキナに聞く。

 

「木星の方角にいけば会えます」

 

ユキナは木星の方角を指差して言う。

 

「まぁそりゃ‥‥」

 

「そうだよね」

 

ルリとコハクが何を当たり前なことをと、思いながら言う。

こうしてナデシコは木星を目指して飛んで行った。

 

 

~ネルガル本社 会長室~

 

「行っちゃったわね、ナデシコ」

 

「フッ、『人格はともかく能力は一流』ってフレーズは伊達ではなかったってことだ。まぁいい僕らも出発だ。『カキツバタ』いけるよね?」

 

「え、ええ」

 

「面白くなってきたよ。ナデシコにとっても、僕らにとっても。そうでしょう?ドクター?」

 

アカツキの後ろにはイネスが無言のまま立っていた。

 

 

 

 

・・・・続く

 




ではまた次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。