機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第28話

 

 

 

 

ナデシコの医務室の前では"手術中"の赤いランプを見つめている人達が居た。

ゴートからコハクが和平交渉の会場で撃たれたとの知らせを聞いて、心配になったクルーが集まっているのだ。

コハクの手術にはカキツバタからナデシコに移乗したイネスも立ち会っている。

手術開始からすでに1時間が経とうとしている。

医務室の前は重い空気に包まれていた。

特にルリは先程から親指の爪を噛んだり、貧乏揺すりしたりと妙にソワソワして落ち着かない様子。

しかし、何かをして気でも紛らわしていないと正気が保てない。

そんな彼女に声をかける事も出来ないユリカ達。

やがてランプが消え、手術室の扉が開き、イネスが出てくる。

 

「イネスさん、コハクは!?コハクはどうなりましたか!?」

 

間髪入れずにルリがイネスに尋ねる。

 

「アレだけの出血で助かったのはまさに奇跡ね。幸い神経や臓器は傷ついていないけど、暫くは安静が必要ね」

 

イネスの言葉を聞いて医務室に漂っていた重たい空気が拡散していく。

あちこちから歓声や安堵の声が漏れる。

 

「それで、コハクには会えますか?」

 

「今は眠っているわ。目が覚めたら連絡を入れるから貴女は配置に戻りなさい。それと艦長、いい加減に着替えてらっしゃい」

 

イネスが指摘したとおり、ユリカは未だに血まみれの制服を着たままであった。

 

「はい。そうさせてもらいます。イネスさん、コハクちゃんのことお願いします」

 

とりあえず、コハクが助かったということで、その場は解散となった。

しかし、コハクが助かっても納得できなかった人物が居た。

それはアキトと九十九であった。

アキトは薄暗くなったゲキ祭の会場で1人荒れていた。

 

「ちょくしょう!こんなもん!こんなもん!」

 

テーブルの上にあったゲキガンガーグッズを手で乱暴に払いのけ、次に壁に張ってあったポスターに何度も何度も拳をぶつけていた。

やがて拳から血が流れ出てきたところで、ポスターに拳をぶつけるのをやめた。

 

「くそっ!俺は何も見えていなかったんだ‥‥好きだったから‥‥スゲー好きだったから‥‥いつも好きな所しか見ていなかったんだ‥‥」

 

部屋の外では着替えを終えたユリカが寂しそうに立っていた。

この時、ユリカはアキトをどうやって慰めていいかわからなかった。

 

「アキト‥‥」

 

九十九も食堂で力なく椅子に座り、酷く落ち込んでいた。

自分が今まで信じていた正義にも上官にも裏切られ、そして自分のせいで1人の少女の命を危険に晒してしまった。

 

「自分は‥‥無力だ‥‥何が正義だ‥‥何が優人部隊だ‥‥くそっ‥‥」

 

九十九は両膝を何度も叩いて悔しがり、そして己の無力さを思い知らされた。

 

「白鳥さん」

 

「お兄ちゃん」

 

九十九の落ち込みぶりを見かねた彼女達が声をかけていた。

 

「白鳥さん。貴方のせいじゃ‥‥」

 

「ミナトさん、ちょっと良いですか?」

 

不意に九十九が顔を上げ、ミナトに聞く。

 

「え?ええ、良いですけど‥‥」

 

「お兄ちゃん」

 

ユキナは兄にただならぬ気配を感じ不安そうに言う。

 

「すまないユキナ。ミナトさんと2人っきりで話がしたいんだ」

 

「わ、分かった‥‥」

 

有無を言わさぬ九十九の表情に大人しく2人を見送るユキナであった。

 

九十九は人気のない通路であるものをミナトに差し出した。

それは戦場に似つかわしくないものだった。

 

「ミナトさん、これを受け取ってもらえますか‥‥?」

 

「なに?」

 

ミナトはそれを受け取って中身を見た。

いや、中身を見るまでもなく、それは箱の形でわかった。

 

「指輪?これは!?」

 

本来なら好きな人からもらえて嬉しいはずである

しかし、状況が状況なだけにミナトには出来の悪いジョークにしか思えなかった。

けれどあの真面目な九十九が状況を考えずジョークを飛ばすなんてことをするはずがない。

そして九十九は信じられない台詞を言う。

いや、ミナトはその箱を見せられたときから予感をしていたのかもしれない。

 

「ミナトさん‥それは必要が無くなったら捨ててもらって結構です」

 

「白鳥さん!?」

 

「自分は‥木星に戻ります!」

 

「何をバカなことを言っているの!?」

 

ミナトは一瞬自分の耳を疑った。

 

「木星に戻る!?白鳥さん、貴方正気なの!?」

 

「はい」

 

「コーくんは貴方を庇って撃たれたのよ!ということは本当に命を狙われたのは貴方じゃない!それなのに木星に戻るなんて‥‥」

 

必ず殺されるに決まっている!

とミナトは二の句を継げなかった。

信じていた仲間に裏切られその上、命まで狙われるなんて、それはどれほど辛いことだろう。

 

「それでも自分は戻らなければなりません。木連全てが草壁のおもいのまま動かされれば和平推進派は発言権を完全に封じられ、戦争はまだまだ継続されます。地球と木連‥それこそどちらかが滅びるまで戦い続けるでしょう。そうなったときに一番被害を受けるのは前線に立つ名もない兵士達や、戦えぬ民間人達です。そうならないためにも自分は‥‥」

 

「どうして!?コーくんが命の危険を冒してまで貴方を庇ったのに!?どうして、白鳥さんはコーくんの行為を無駄にするの!?」

 

「彼女に助けられたからこそ尚更なのです!!ミナトさん!!」

 

珍しく九十九にしては声を荒げる。

こんなに激しく怒っている九十九を見るのは初めてだった。

 

「1人の少女の命を危険に冒し、むざむざと逃げ出してしまったからこそ、『彼女のためにも死ぬわけには行かない‥‥』と自分に言い聞かせ続ける‥‥逃げ出すことしか考えなくなる‥‥それが自分にとっては何よりも苦痛なのです!!」

 

「それでもいいじゃないの!?生きていれば必ず出来ることもあるわよ!死んじゃったら何もかも終わりなのよ!?」

 

「しかし、自分が成すべき事もせずにただ逃げているのは、自分にとっては死んでいるも同然ですから、生きているうちに自分は自分にしか出来ないことをしに行きます。だから‥‥」

 

九十九が言葉を続けようとしたら、メグミが映っている空間ウィンドウが開き、

 

『イネスさんから連絡ありました。コハクちゃんの目が覚めたようです』

 

「‥‥せめて貴方を庇ったコーくんにお別れぐらいは言ってあげて」

 

ミナトは九十九に言ったが、心の中ではコハクが九十九を引きとめてくれることを願っていた。

医務室にはルリ、アキト、ユリカ、ミナト、九十九の5人はコハクが横になっているベッドの周りに集まった。

コハクは血を出し過ぎたせいかやや顔が青白いが普段通りの顔で皆を迎えてくれた。

 

「コハクちゃん大丈夫?」

 

「ちょっと血を出しすぎてまだ体中がだるいですけど、もう心配ありません」

 

「コハク君、君のおかげで命拾いしたよ。ありがとう」

 

九十九が頭を下げ、礼を言う。

 

「いえ、白鳥さんもナデシコの仲間ですから、当然のことです」

 

「仲間?」

 

「はい、共にナデシコでゲキガンガーを見て、同じ釜の飯を食べた仲間です」

 

「そうだよね!コハクちゃんの言うとおり白鳥さんも私たちの仲間よね」

 

ユリカが笑みを浮かべ言う。

 

「しかし、自分は‥‥」

 

「そうっすよ。コハクちゃんの言うとおり、白鳥さんは俺達と分かり合えたじゃないっすか!」

 

アキトもユリカに便乗して言う。

 

「和平交渉は失敗に終わりましたが、まだ手はある筈です。諦めずに次の手を考えましょう」

 

「そうですね。木連にもまだ白鳥さんのような考えを持った人が必ずいるはずです。まだすべてが終わったわけじゃありません」

 

「「「「「白鳥さん」」」」」

 

「‥‥‥そうですね。まだ諦めるわけにはいきませんよね!」

 

「はい♪それに白鳥さんは僕に大きな貸しがあるのですから、戦争が終わったらちゃんと返してくださいね」

 

コハクは久しぶりに子悪魔的な笑みを九十九に向ける。

 

「は、はい」

 

「それなら白鳥さん、僕とデートをしてください」

 

「えええええっ!?」

 

「こ、コーくん~」

 

コハクの発言で九十九も驚き、ミナトはジト眼でイヴを見る。

 

「ははは冗談ですよ。まぁデートでないにしろ、ちゃんと借りは返してくださいね♪」

 

ルリを残し、アキト、ユリカ、九十九、ミナトが医務室を出る。

 

九十九は再びミナトと「話がしたい」と言って通路の隅で話をした。

 

「ミナトさん先程の言葉は撤回します。自分も地球と木連との和平の場をこの目で見たくなりました。それにこのまま草壁を放置しておくわけにはいきません。今回の事ではっきりとわかりました。あの男は地球、木星‥いえ、人類にとって脅威となる存在であると‥‥それと‥‥」

 

「それと?」

 

「コハク君の言うとおり、彼女には命を助けてもらった借りがあります。借りを返さないままでは木連男児の名が廃りますから」

 

「白鳥さん」

 

「ミナトさん」

 

2人はそれ以上何も言わず、抱き合い唇を交わした。

 

医務室でルリと2人っきりになったコハクは恐る恐るルリに聞く。

 

「ね、ねぇもしかして‥ルリ、怒っている?」

 

「いえ、そんなことありませんよ」

 

しかし、いい笑顔で答えたルリの額には青筋が立っているようにも見えた。

 

(うっ、やっぱり怒っている)

 

「ふぅ~毎度のことながら、貴女の無茶振りに一々怒っていてはキリがありません」

 

ルリは溜息をつき、やれやれといった表情をする。

 

「ゴメンナサイ」

 

「でも、今回は白鳥さんを助けたということと怪我のためお仕置きは免除しますが、こんな無茶なことはもうしないでください。それと今後はもう少し考えて行動してください」

 

「はい‥‥」

 

ルリはコハクの頭を撫でて医務室を後にした。

 

「ああ言っているけど、ルリちゃん、手術中はかなり動揺していたのよ」

 

隣のベッドのカーテン裏からイネスが出てきた。

 

「イネスさん‥盗み聞きですか?」

 

「出るに出られずという状況だったもの」

 

「‥‥‥」

 

「まぁ、今はゆっくり休みなさい」

 

そう言うとイネスも医務室を出て行った。

 

 

宇宙を航行するナデシコとカキツバタ。

エリナからの通信を受け、ヒナギクでカキツバタへとやって来たユリカ、アキト、イネス、そしてヒナギクのパイロットを務めたリョーコの4人。

 

「なんで、OKしたんだよ、ユリカ」

 

ユリカがアカツキからの共同戦線の提案を受け入れ、一番怒ったのはアキトだった。

 

「オレもテンカワと同意見だ。今更ロン毛と共同戦線なんて冗談じゃねぇ」

 

「とはいえ、このまま宇宙を放浪するわけにはいきませんし、大丈夫です。いざとなれば艦長の私が責任をとります」

 

ユリカは自信有り気にキッパリと断言した。

 

「ユリカ、お前‥本当に大丈夫なんだな?」

 

「うん、多分‥‥」

 

「多分ってなんだよ!多分って!」

 

「議論はまとまったかしら?」

 

「えっ、あ、はい」

 

「それじゃあ早速始めましょう」

 

「始める?なにを?」

 

「アキト君、艦長、思い浮かべて火星を‥‥」

 

薄暗くなったカキツバタ艦内でイネスの身体が青白く光っている。

彼女の身体には何かの文章のような物が浮き上がっている。

 

「イネスさん‥‥?」

 

その光景にアキトは息を呑んで見ている。

 

「キャアアアア!!」

 

するとアキトの背後でユリカの悲鳴が上がる。

アキトがユリカを見ると、ユリカの身体にもイネスと同じような紋章が浮かび上がっている。

 

カキツバタのミサイル発射管からCCの詰まったカプセルが放出されると、CCはカキツバタの周りにボソンフィールドを形成し始めた。

その様子を見たナデシコではメグミが必死にカキツバタに通信を入れているが、一向に応答がなく、終いには「コラ!アカツキ返事しろ!」と、怒鳴り散らしていた。

その間にもカキツバタのボソンフィールドは増大し、カキツバタの艦影はナデシコの隣から完全に消えた。

 

「カキツバタ、ボソンジャンプ」

 

計器でカキツバタの様子を見ていたルリが報告をする。

 

「アキトさん‥艦長、リョーコさん‥‥それに大勢の人も乗っていたのに‥‥」

 

メグミが悲しそうな声をあげる。

無理にボソンジャンプを行えばどうなるのか‥‥?

その末路は火星でクロッカスを見て、その後、イネスからの説明を聞いていたので、ボソンジャンプの失敗の恐ろしさは十分に理解していた。

 

「しかし、カキツバタにもナデシコと同じくディストーション・フィールドがあるので、もしかしたら‥‥」

 

ジュンが火星の時の様にカキツバタは無事かもしれないという可能性を指摘する。

 

「しかし、何処に向かったんだ?」

 

カキツバタの行方に見当がつかない。

 

「おそらく火星でしょう」

 

ゴートの疑問にプロスペクターが確信を持ったように言う。

 

「全ては火星から始まり火星で……」

 

カキツバタの行方を言った後、プロスペクターは思い出に耽るように呟く。

 

「それなら、僕たちも後を追いましょう‥‥」

 

医務室に居たはずのコハクがいつの間にかブリッジに上がっていた。

とは言え、制服ではなくパジャマのままで上着はボタンを留めていないちょっと扇情的な格好だ。

そんなコハクの姿を見て男性陣は思わずほんのりと頬を赤く染め、女性陣はそんな男性陣をやや冷ややかな目で見ている。

 

「コハクさん‥‥しかし御身体の方は‥‥」

 

コハクの身体の調子を聞くプロスペクターにコハクは、

 

「傷口はちゃんと縫ってあるから大丈夫です」

 

と、言って傷口をチラッと見せた。

しかし、包帯が巻かれている腹部が痛々しい。

 

「でも、コーくん、ここから火星まで結構時間がかかるわよ」

 

ミナトの質問にコハクはとんでもないことを言った。

 

「だから、僕たちもボソンジャンプをしてカキツバタを追いかけます」

 

「ボソンジャンプって‥‥」

 

「出来るの?チューリップもないのに‥‥?」

 

「カキツバタと同じように艦外にCCをばら撒いてボソンジャンプします。ウリバタケさん、さっき、カキツバタから搬入したコンテナにCCの詰まったカプセルがあるのでそれをミサイル発射管に装填してください」

 

コハクがコミュニケでウリバタケに通信を入れると、ウリバタケは

 

『了解、5分ほど待ちな』

 

と言って早速作業を開始した。

 

それから5分後、ミサイル発射菅からCCが放出される。

 

「ルリ、フィールドの調整よろしく‥少しでもフィールドの出力が弱かったら、クロッカスと同じ運命を辿るからね」

 

「わかりました」

 

ルリは計器に目をやり、フィールドの出力を調整する。

放出されたCCはナデシコの周りに広がり、ボソンフィールドを形成し始める。

コハクはイメージナビゲーターの役割の為、今はフィールドの出力調整とかの操作ができない。

しかし、コハクはルリを信頼している。

あとは自分は無事にナデシコをカキツバタの居る火星へ飛ばすだけだ。

 

「ミナトさん本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

メグミが不安そうにミナトに尋ねる。

 

「ここはコーくんを信じましょう」

 

「ボソン反応増大」

 

コハクの身体が光だし、表面には紋章の様なものが浮かび上がる。

すると次の瞬間、ブリッジが光に包まれた。

何色とも形容できない異様な光‥‥

 

「これは‥‥火星の‥‥チューリップの時と同じ‥‥」

 

ジュンがブリッジの外に広がる光の光景を見て呟く。

やがて光が消え、ナデシコクルーの目の前に現れたのは火星の赤い大地、そして前方には飛行するカキツバタの姿があった。

 

 

~カキツバタ 応接室~

 

ナデシコがボソンジャンプの準備をしていた頃、先に火星へボソンジャンプしたカキツバタでは‥‥

 

「無茶すぎます!」

 

カキツバタの応接室でユリカがアカツキに抗議していた。

 

「もし、失敗していたらカキツバタの乗員全員が死んでいたんですよ!!」

 

「ご心配なく、この艦のクルーは皆、それくらいの覚悟は出来ているよ」

 

「でも‥‥」

 

「そんなことより今は乾杯しようじゃないか、この実験は人類にとって大きな一歩となったのだから」

 

アカツキはあいかわらずケロッとした態度でいた。

乗員は兎も角、万が一失敗していたら自分も死んでいたかもしれないのに‥‥

 

その頃、アキトはカキツバタのブリッジから火星の赤い大地を見ていた。

カキツバタがボソンアウトしたのはアキトとユリカの故郷ユートピアコロニー跡地だった。

 

「アキトの故郷だったよな?此処‥‥」

 

「あ、ああ‥‥」

 

リョーコの言葉に頷くアキト。

 

「ユートピアコロニーかぁ‥‥ちょっと妬けるかな」

 

「えっ?」

 

「アキト君と艦長の‥‥」

 

そこにいつの間にかエリナも現れる。

 

「思い出の地か‥‥」

 

「えっ?だから!言ってんだろ!俺とユリカはそんな関係じゃないって!俺とユリカは!俺とユリカは!あーもう!」

 

ドスっ

 

「うっ」

 

アキトの鳩尾にリョーコとエリナの拳が食い込む。

 

「あんた‥いい加減にしなさいよ」

 

「相変わらずのバカヤローだな、テンカワ」

 

「お、お前ら‥‥」

 

「ホント、バカね‥‥」

 

「オレ達もな‥‥」

 

2人は自嘲するかのような笑みを浮かべた。

 

「本艦後方にボソン反応‥‥ナデシコです!木星蜥蜴も動き出しました。」

 

カキツバタのオペレーターが声を上げ報告する。

 

「まさか、コハク‥ナデシコを火星へボソンジャンプさせたの?」

 

ボソンジャンプしたナデシコにエリナはえらく驚いていた。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「ボソンジャンプ成功、フィールド安定」

 

「艦内に異状を認めず」

 

「ふぅ~」

 

ナデシコに特に異状が無いことを聞いたコハクは一息つく。

 

《お疲れ様ですコハクさん》

 

オモイカネがコハクに激励の空間ウィンドウを出す。

 

「‥流石に‥‥戦艦1隻を‥‥火星まで運ぶと‥‥疲れる‥‥」

 

そう言うと額に汗を浮かべ、コハクはシートにぐったりと座るとそのまま気を失ってしまった。

 

「やはり病み上がりの身体で無茶をしていたようですな」

 

プロスペクターはコハクを抱き上げ、医務室へと運んだ。

 

暫くして、カキツバタからユリカ、アキト、リョーコ、イネスの4人がナデシコへ帰ってきた。

帰艦早々ユリカは主要クルーを作戦室へと招集した。

 

「―――と、言う訳で共同戦線です」

 

「まっ、いいけど‥‥」

 

「今更選択肢もないですからなぁ‥‥」

 

「ルリちゃん、地球連合軍と木星艦隊の距離と規模を表示して」

 

「はい」

 

ルリがコンソールに地球艦隊の編成と距離を出す。

 

「地球連合軍は残存艦隊を結集し、月を出発、あと半日で火星に到着します。木星軍の方は‥‥」

 

突然コンソール上に直径一mの黒い円が出現し、米粒ほどの小さい白い点に矢印で『ナデシコ』と表示されていた。

 

「白鳥さん達の話を元に作成しますと、まじめにこのくらいの規模だそうです」

 

「ひぇ~ナデシコが粒々だね」

 

「この大船団も火星を目指しており、あと半日で火星に到着します。つまり‥‥」

 

「あと半日で火星は戦場になるってことね」

 

「はい。どうします?」

 

「相転移砲を使います」

 

こうしてナデシコとカキツバタの共同戦線が始まった。

 

ナデシコから発射された相転移砲によって火星極冠遺跡上空にいた木星の無人艦隊は跡形もなく消滅した。

 

「イヤ~艦長。お見事、お見事」

 

『こちらこそカキツバタが囮になってくれたおかげで安心して相転移砲が撃てました』

 

カキツバタのブリッジでアカツキはご機嫌だった。

 

「ちなみに遺跡への一番のりは僕だからね、ズルしちゃダメだよ」

 

カキツバタはグラビティーブラストとレールガンを連射しながら戦場を駆け巡る。

 

「カキツバタ、敵包囲網を突破、攻撃を繰り返しつつ戦線を移動中」

 

「すごい機動力ですな」

 

「カキツバタって強いのね」

 

「とはいえ、火星全ての木星軍を相手にしているのだからユリカ‥‥」

 

「はい、相転移砲続けていきます」

 

「「「「「ええええっ!?」」」」」

 

ユリカの指示に皆声をあげる。

それはカキツバタのアカツキも同じだった。

 

「目標、極冠遺跡中心部」

 

『ちょっと待て!どういうつもりだ!?ミスマル・ユリカ!!』

 

「どうもこうもありません。あんなものがあるから戦争になるんです。相転移砲発射!」

 

「了解」

 

ルリが相転移砲を撃つ。

 

『あーっ!こら待て!』

 

アカツキの悲鳴もむなしくナデシコから相転移砲が遺跡に向かって発射される。

すると遺跡の構造物が突然光だし、分厚いディストーション・フィールドが遺跡全体を覆い、ナデシコの相転移砲を無効化した。

 

「遺跡に相転移砲の効果をキャンセルされました」

 

 

~カキツバタ ブリッジ~

 

「あははははは、当然だよ。分厚い氷に十数にも張ってあるフィールドであそこまで発掘するのも大変だったんだから」

 

強気に言ってはいるが、内心アカツキはヒヤヒヤしていた。

 

「無理しちゃって‥‥」

 

エリナがボソリと呟く。

アカツキはスッと、キャプテンシートから立ち上がるとブリッジを降りた。

 

「どこ行くの?」

 

「ちょっと説得に言ってくる」

 

アカツキはカキツバタに搭載されて居る愛機に乗りカキツバタから出撃し、ナデシコへと向かった。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「もう1発いきます」

 

ユリカが2発目の相転移砲の発射命令を出す。

ナデシコから2発目の相転移砲が発射されるが、結果は1発目と同じ遺跡の分厚いフィールドにより無効化される。

 

「そんな‥‥」

 

「どうする?ユリカ」

 

「もう1発いきます!!」

 

ユリカが相転移砲の3発目の命令をだすが、

 

「ダメです」

 

ルリの一言でナデシコの現状を知ることになる。

 

「えっ?」

 

「エネルギーがたりません。大気圏内では相転移エンジンの効率低下、フルチャージまであと20分」

 

ルリが言うには3発目を撃つにはあと20分かかると言う。

 

「えーっ!なんとかならないの?」

 

「なりません。カキツバタ急速接近」

 

「カキツバタよりエステバリス隊の発進を確認」

 

メグミの報告を受け、ユリカもエステバリス隊の発進を命令した。

 

「くっ、エステバリス隊出撃してください」

 

ナデシコのカタパルトからエステバリス隊が発進した。

その数わずか4機。

目標は火星極冠遺跡、目的は遺跡の破壊。

しかし、前方からカキツバタから出撃してきた38機のエステバリス隊がアカツキ機を先頭に展開していた。

 

「来た来た色男のお出ましよ」

 

「なんか最終回っぽいよね。敵のボスキャラと一騎打ちなんて」

 

「リョーコちゃん。あいつは俺が引き受けた!」

 

「言うじゃないか、テンカワ君」

 

テンカワ機にアカツキが直接通信を送ってきた。

 

「まったく君はどこまでもゲキガンガーだな。ちなみに僕が好きだったアニメでは敵にも味方にもそれぞれ違った正義を持って戦っていたよ。もっと色んなアニメを見るべきだったねぇテンカワ君」

 

「うるさい!!もうアニメなんて関係ない!」

 

テンカワ機がアカツキ機に向って突っ込んでいく。

 

「いいかい?カキツバタの諸君。手出しは無用だよ」

 

アカツキ機もエステバリス隊から離れ、速度を上げてテンカワ機に突っ込んできた。

2機は互いに手に持ったフィールドランスで一騎討ちを開始した。

正々堂々のタイマン勝負。

なんだかんだ言っても結局やっていることはゲキガンガーのような気がする。

 

「ねぇ、どーする?リョーコ」

 

「どうするって見てるしかないだろう」

 

「リョーコ、ヒカル、テンカワの心配している場合じゃないみたいだよ」

 

イズミの言うとおり、残り37機のエステバリスがパイロット3人娘に向って突っ込んできた。

 

その映像をモニターで見ていた九十九は悔しそうに顔をゆがませる。

 

「こんな時、何も出来ない自分が不甲斐ない‥‥」

 

九十九の手は自然と拳となり力が入る。

出来るなら自分も出撃したい。

しかし、機体がない以上どうする事も出来ない。

 

「テンカワ機遺跡に侵入!」

 

アキトとアカツキの戦いは機体の性能の差が出てきたためか、アキトが不利な戦況だった。

 

「後ろにつかれた!」

 

「アキト!」

 

「テンカワ君!」

 

アカツキ機は遺跡の下層へとテンカワ機を追い詰めていく。

 

「くそっ、このままじゃ‥‥」

 

『念じなさい。ジャンプのイメージを‥‥』

 

「えっ?」

 

突然テンカワ機のコックピットにイネスが映った空間ウィンドウが現れた後、テンカワ機の姿が消えたと思ったらアカツキ機の背後に現れた。

 

「なに!?」

 

「ボソンジャンプ?」

 

「そんなバカな!CCも使わずに、どうやって?」

 

「遺跡の力?」

 

CCを使わずにボソンジャンプをしたテンカワ機にナデシコクルーもカキツバタのエリナも戸惑いを隠せなかった。

 

『ご名答』

 

『3』『2』『1』『ドカーン ワーイ』

 

『なぜなにナデシコ!』

 

火星で艦内放送されたイネスが企画した番組『なぜなにナデシコ』のOPが流れ、空間ウィンドウにイネスの姿が映し出される。

 

『こんにちはイネス・フレサンジュです。皆が大好きだった「なぜなにナデシコ」もついに最終回。今回はボソンジャンプについて考察するわ。難しい話だけど、よく聞いてね』

 

「イネスさん?」

 

「電波発信源特定できました」

 

「遺跡の最下層、14キロ下です」

 

イネスの居場所が特定され、皆はどうやって遺跡の最下層にいつの間にそしてどうやっていったのか、不思議に思っている中、イネスはホワイトボードを使ってボソンジャンプについて説明を始める。

 

「ジョン・ウィーラーとリチャード・ファイマンによれば我々が1つの電波を発生させるとき、2つの電波が放射される。1つは時間を順行する先進波、もう1つは時間を逆行する遅延波。通常遅延波は先進波に打ち消されてしまうから、先進波だけが出ているように見える。だけど、先進波に干渉しない未知の粒子が存在するとしたら、どう?」

 

イネス説明中、アキトとアカツキを始めとし、ナデシコもカキツバタも戦闘行為を中断して、イネスの説明を聞いている。

 

「私はこの粒子をレトロスペクトと名づけた。もし、物質をレトロスペクトに変換させることができれば、その物質は過去へと移動することになる‥‥‥」

 

「じゃあ、ボソンジャンプは‥‥」

 

「そう、我々が、空間移動だと考えてきたボソンジャンプは時間移動だと考えられるわね。で、過去へと送られた物質を現在の時間へと変換する計算をおこなっているのが、この遺跡、つまりこの遺跡は巨大な演算装置だといえるわけ」

 

「それじゃあこの遺跡を破壊すれば‥‥」

 

「おそらくボソンジャンプは自体はもう使えなくなるわね。それより私がここに来たのは別の理由があるの。アキト君」

 

イネスの空間ウィンドウがアキトに近づく。

 

「えっ?俺っスか?」

 

「そうよ。早くここへ‥‥お出迎えしないと‥‥」

 

イネスが静かに言った直後、遺跡ユニットが金色の光を放ち始め、イネスの背後に何かがボソンアウトしてきた。

それはミカンを手に持った少女‥‥アキトがユートピアコロニーで約束を守ることも助けることも出来なかったあの時の少女だった。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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