機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第2話

 

 

 

タケミナカタ・コハクという名前をもらったその日から彼女は時間が許す限り様々な訓練と教育を受けた。

一般常識から様々な作法とマナー、戦闘教練、プロジェクトに関するコンピューターの取り扱いやいろんな場合を想定したシミュレーション‥‥また教育の中には涙を使った男を落とす女特有の武器の扱いなんてものまで教わった。

エリナがコハクの教育をしている間、プロスペクターとゴートはプロジェクトに必要な人材集めの為に走っていた。

 

 

日本 トウキョウシティー

 

トウキョウシティーの下町の一角にある小さな町工場。

その町工場の表の看板には大きくローマ字で”URI”と書いてある。

下町情緒ある…と言いたいところだが木星蜥蜴の攻撃であちこちの家屋が壊れており、地震災害の後に良く似た光景の中にその建物はこじんまりとあった。

 

「ねぇ、アンタ見つかったらマズイって」

 

この町工場の主、ウリバタケ・セイヤの妻、オリエが一心不乱に工具をいじり何かを作っている旦那に声をかける。

 

「うるせぇな、ココをこうすればリリーちゃんは無敵になるんだってば」

 

「はい、ごめんください」

 

すると突然シャッターが開き、プロスペクターとゴートが入ってきた。

 

「い、いやこれはその、違うんです」

 

ネルガルのバッチを付けた2人を見て慌てるウリバタケ。

この町工場は小さな町工場であるが、ネルガルの下請けの町工場でネルガルからの依頼で機械部品の製作を行っていた。

だが、今回ウリバタケが作業台で製作しているリリーちゃんは全てウリバタケが水増し請求をして不正に得た機械部品で製作していた。

そこへ、ネルガルの人間が来たのだから慌てるのも当然だ。

すると突然作業台に横たわっていたリリーちゃんが突然起き上がり、

 

「コンニチハ。ワタシ、リリー」

 

と、挨拶したかと思ったら、体中の至る所からロケット花火が飛び出る。

 

ドゴン!

 

リリーちゃんのロケット花火攻撃を受けて半開きになった店のシャッターが突如爆発した。

煙がもうもうと上がるが、吹き飛んだのがシャッターだけのところからすると威力はそれほど大きなものではなかったのかもしれない。

その店を遠巻きに見る人々は”またか”といった呆れた表情を浮かべていた。

どうやらこの店ではこういったことは日常茶飯事らしい。

 

「なに?!俺をメカニックに?」

 

ゴートとプロスペクターが黒くすすけた頬をハンカチで拭きながら、ウリバタケに事情を説明する。

 

「違法改造屋だがいい腕だ」

 

「是非ともウチの・・・」

 

「しー!しー!しー!!」

 

ウリバタケは声を小さくしろと合図を送る。

必要はないのだが自然と姿勢を低くし、3人は顔を寄せ合うこととなった。

しかし、お世辞にも耽美とはいえない顔の3人。

その光景は非常に暑苦しい。

 

「よし、すぐいこっ、ぱっといこっ」

 

「いや、ですが条件面や契約面の確認とか‥‥」

 

「いいの、いいの、いいの!あいつと別れられるんだったら地獄だってかまわない」

 

ウリバタケは後ろ目で家族を見る。

だが、ウリバタケの妻であるオリエはなかなかの美人である。

どうしてウリバタケがオリエの下から離れたがっているのか理解できないゴートとプロスペクターだった。

 

 

トウキョウシティー 某一般商社・応接室

 

目の前の女性ハルカ・ミナトは、軽い口調とは反対にソファに背を伸ばして座っており、社長秘書という肩書きが伊達でないことを伺わせている。

 

「お引き受けします」

 

「おぉ、そうですか。では、此方の契約書をご覧になっていただいた後にサインをお願いします」

 

そして、ミナトのサインが書かれた書類をプロスペクターがアタッシュケースに入れている間、ゴートは1つ聞いてみることにした。

 

「ミス・ハルカ。1ついいですか?」

 

「はい?何でしょう?」

 

「どうして我が社の契約を受けようとお考えに?」

 

「それはもちろん、戦艦を操縦したことなかったから」

 

と、ウィンク1つで返された。

そして、その日のうちにミナトは笑顔で今務めている会社の社長に退職届を提出した。

 

「本気なのかい?そんなに社長秘書って嫌なの?」

 

「ウ~ン‥‥っていうかやっぱ充実感かな?」

 

ミナトは喜々した様子で退職理由を話した。

 

 

トウキョウシティー 某録音スタジオ

 

『さあ、戦いましょう!!』

 

『よーし、行くぞ!!』

 

『『オー!!』』

 

「はい、OKです。お疲れ様」

 

『『『お疲れ様です』』』

 

トウキョウシティーのとあるアニメの録音スタジオにて声優達が、アニメのセリフを入れ終わった時、

 

「メグミちゃん。メグミちゃんにお客さん。ネルガルの人だって」

 

音響担当のスタッフに声をかけられ、メグミが振り返ると、フタッフの隣にスーツ姿の大柄な男が居た。

メグミはその人物に一礼をする。

ネルガルはナデシコの通信士に声優のメグミ・レイナードをスカウトした。

理由として、メグミが声優を務めているアニメがネルガルのスポンサーだということと若い世代を対象とする人気で1番だったということであった。

彼女が自分の担当しているアニメがネルガルのスポンサーであると知るのはもっと後のことである。

 

 

人間開発センター

 

7年前にスカンジナビアのとある研究施設から引き取った少女がここにいた。

施設で天才教育を受けた後、ネルガル傘下の人間開発センターに引き取られ、それ以来、彼女は此処でプロジェクトの為のオペレート訓練を受けてきた。

彼女の養父母に今までの教育費、生活費、そして手切れ金としてスーツケースいっぱいに詰まった金塊を渡すとあっさりと交渉は成立。これ以後、少女の所有権はネルガルに渡り、プロジェクトの要である新型戦艦ナデシコのオペレーターとしての役職につくこととなった。

 

 

ネルガル重工 本社ビル 会長室

 

「ふむ、なるほどねぇ~人材集めの方は順調そうだね?」

 

プロスペクターからの報告書をみたアカツキの感想であった。

 

「それで?我らのお宝、コハクちゃんの方はどうだい?」

 

アカツキはコハクの教育係のエリナに尋ねる。

 

「はい、一般常識、マナー、学力は問題ありません。ただミスター・ゴートからの報告によれば、身体能力はかなり高いということしか分からず、詳細な数値を出すには時間が足りません」

 

「まっ、なにしろ相手はクリムゾンが作り出した生体兵器だものねぇ‥‥詳しく調べたいがそんな時間もないし、突然暴走されるよりはいいか‥‥」

 

「はい。オペレート能力はやはり何年も訓練してきたホシノ・ルリには適いませんが、十分に使えるレベルだとプロスペクターから報告がきています」

 

「そいつはすごいなぁあの艦のAIは癖があるから心配だったけど、そこも流石というべきかなぁ‥‥しかし大変なのはプロジェクトの後半‥‥火星にある“アレ”を手に入れてからだね。その時には彼女には十分に働いてもらわないとね」

 

「‥‥‥」

 

「ボソンジャンプ時代のイヴになりうる大切な宝だからねぇ取り扱いには慎重にね‥‥でも、どうせならアダムもほしいところなんだけどね‥‥」

 

アカツキはパソコンに入ったコハクの経歴データを立ち上げ目を通し、独り言のように呟いた。

 

そして新鋭艦ナデシコの艦長はというと‥‥‥

 

 

トウキョウシティー ミスマル邸

 

「ユリカ!」

 

「ユリカ~おじさんも怒ってるよ」

 

「だってぇこの制服ってダサダサで決まんないんだもん」

 

「気にしたってしょうがないよ・‥‥」

 

部屋の前で腕時計を気にしながら部屋の中の女性に声をかけるナデシコ副長のアオイ・ジュン。

 

「ねぇ、ジュン君。わざわざ連合軍やめてこっちに来ちゃって本当に良かったの?」

 

「ユリカ1人じゃ心配だったから‥‥」

 

「さすがジュン君!最高の友達だね♪」

 

「はいはい」

 

「ユリカ!!こら、ユリカ!!学生気分もいい加減にせんか!!」

 

部屋のドアを叩くカイゼル髭を生やした和服姿の男。

その言動からこの男性はユリカと呼ばれる女性の父親であることが窺える。

 

「だってぇ~」

 

「『だって』だと!?」

 

業を煮やしたのかとうとう強引に部屋のドアを開けようとする。

 

「おじさん。今開けたら‥‥ユリカは今、着替え中だから‥‥」

 

ジュンは必至に止めようとしたが、扉が開いてしまい2人して部屋の中に入ってしまう。

 

「きゃああああああ!!」

 

その瞬間、ミスマル邸が揺れる様な悲鳴が響き渡る。

 

「あっ!」

 

「ユリカ立派になったな‥‥」

 

ユリカの部屋に図らずも突入してしまった2人は下着姿のユリカの姿を見てしまった。

その直後に2人の顔にドラムバッグが投げつけられる。

 

『我が娘 子供と思えば ナイスバデェ』 by ミスマル・コウイチロウ

 

「ユリカお勤め立派に果たせよ」

 

顔に絆創膏を貼り、娘が乗る車を見送る父の姿があった。

 

九州 長崎県 サセボシティー 

 

ネルガル重工がプロジェクトの為に建造した新型戦艦ナデシコ出港の日の昼近くに、ナデシコが停泊しているドックのある九州、長崎県 サセボシティーにコハクとプロスペクターは到着した。

 

ギリギリまでトウキョウシティーの本社でやり残した書類整理や後任人事、荷造り等の準備に追われていたためである。

 

「いや~ やっとつきましたなぁ」

 

これがサセボシティーに着いてプロスペクターの発した第一声である。

コハクは初めて見たサセボの街を物珍しそうに見ている。

 

「さて、まずはサセボ支社に赴いた後にドックへ向かう訳ですから、ナデシコに到着するのは夜になりますねぇ~」

 

プロスは手帳を広げ、予定を確認していると

 

クゥ…

 

と、小さなお腹の鳴る音が聞こえた。

 

「え、えっと‥‥」

 

プロスペクターがふと隣を見ると顔を赤く染めて、俯いているコハク。

 

「‥‥先に食事にしますか?」

 

恐る恐るコハクに尋ねるプロスペクター。

プロスペクターの問いにコハクは小さく首を縦に振る。

 

 

サセボシティー とある商店街 雪谷食堂

 

サセボシティーのとある商店街の一角に位置する食堂。

戦時中のこの時勢でもこの良心的な値段でここまでの味覚を提供してくれるとは、意外にもここは穴場なのかもしれない。

そんな食堂の1つの席に金縁の眼鏡の男と長い金髪をした少女が座っている。

恋人同士には当然見えず、かといって親子にも見えないなんとも不思議な2人である。

他のお客が2人の関係が気になるのか、それとも興味本位なのか気になるのか2人をチラチラと見ている。

しかし、2人はそんな視線を気にせず注文した品が来るのを待っている。

 

「お待たせしました。ラーメン2丁です。ご注文は以上ですか?」

 

注文した品が机の上に置かれた。

ラーメンを持ってきたのは、ぼさぼさの黒髪にオレンジ色のシャツにジーパン姿の青年だった。

 

「では、いただきましょうか?‥‥ん?どうしましたか?コハクさん」

 

コハクに声をかけたプロスペクターだが、コハクは目の前のラーメンよりもラーメンを運んできた青年のほうに興味があるのか、その青年をジッと見ている。

 

「‥‥‥」

 

「‥‥えっと‥なにかな?俺の顔に何かついているのかな?」

 

無言で穴が開くのではないかと思うほどジッと見られている青年、テンカワ・アキトは自分を見つめる少女に尋ねてみた。

 

「‥‥あの‥あなた、どこかで僕とお会いしませんでした?」

 

「えっ!?」

 

突然目の前の『美』が付くほどの少女から逆ナンのようなセリフを言われ戸惑うアキト。

 

「え、えっと‥‥」

 

あたふたしているアキトだが、コハクは視線を逸らさずアキトをジッと見ている。

 

「おーいテンカワ!!3番テーブルの餃子あがったぞ!!いつまでもサボってねぇで働け!!」

 

厨房の奥からこの店の店主、サイゾウが怒鳴る。

 

「は、はい!」

 

アキトは慌てて厨房へと消えていく。

 

「珍しいですな。コハクさんが始めて出会った人にあそこまで興味を出すとは‥‥」

 

「う~ん‥‥でもあの人、初めて会った人とは思えなかっただけ‥‥」

 

「そうですか‥‥」

 

コハクはなんとも言えない違和感を抱きながらもラーメンを食べると雪谷食堂を後にした。

 

プロスペクターとコハクの2人は日が完全に沈み辺りが真っ暗になった後、ようやくナデシコが停泊しているドックへと着いた。

ドック内にある事務所でドックの技師とプロスペクターが最終確認を行い、コハクが後ろでその様子をジッと見ていると警備員がやって来て門前で騒ぎを起こしていた不審な男の身柄を確保したと言ってきた。

拘束した男がいるという部屋に入ると、パイプ椅子に座り、手錠をかけられた青年がいた。

 

「おや?貴方は‥‥」

 

「昼間会った‥食堂の人‥‥?」

 

そこ居るのは紛れもなく、昼間2人が行った雪谷食堂で出会った青年、テンカワ・アキトだった。

 

「ほぉー貴方、パイロットでしたか‥‥」

 

アキトの右手にあるIFSを見てプロスペクターがアキトに尋ねる。

 

「違う!!俺はコックだ!!」

 

左手でIFSのタトゥが描かれた右手を隠すアキト。

 

「っと、先程からわけの分からないことを言っていまして」

 

随伴した警備員が呆れたように言う。

 

「貴方のお名前調べましょう~♪」

 

ペンのような端末をアキトの舌に一瞬つけた後、暫くして電子手帳にアキトの名前と経歴が表示される。

 

「ほら、出た」

 

「遺伝子データ?」

 

「全滅したユートピアコロニーからどうやって地球へ?」

 

身元の内容が内容だけにさすがのプロスペクターも驚いているようだ。

 

「分からない‥‥気がついた時には‥‥地球に居た‥‥」

 

「ユリカさんのお知り合いですか?」

 

「アイツは‥‥アイツの親なら知っている筈だ‥‥俺の両親が何で死んだのかを‥‥」

 

「フ~ム‥‥分かりました‥‥それでは今日から貴方はナデシコのコックさんです」

 

「なでしこ?」

 

「そう、ナデシコです」

 

プロスペクターのバックスクリーンにナデシコの全容が映し出される。

そして3人はナデシコが停泊しているドックへと着いた。

 

「これが、我が社が総力を挙げて建造した機動戦艦ナデシコです!!」

 

自慢気にプロスペクターがアキトに改めてナデシコを紹介する。

 

「随分と変わった形ですね‥‥」

 

アキトは苦笑いをし、ナデシコを見ながら言う。

 

「これは手厳しい。ですがこの2本のブレードこそが本艦の真骨頂とも言うべき物なんですよ。さて、就航までまだ時間があるから先に艦内を見てまわるといいよ‥‥コハクさん、ナデシコの艦内はもう覚えていますか?」

 

「事前に艦内配置図を見たから大丈夫」

 

「それでは、テンカワさんを案内してもらえますか?」

 

「わかった」

 

プロスペクターの申し出にコハクは首を縦に振った。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったね。俺はテンカワ・アキト。君は?」

 

「コハクでいい」

 

「俺もアキトでいいよ。ヨロシク、コハクちゃん」

 

「ん」

 

アキトとコハクは互いに握手をした。

 

ナデシコ・格納庫

 

「此処が格納庫‥‥」

 

『レッツゴー!!ゲキ・ガンガァァァァァっ!!』

 

「な、なんだ?」

 

「‥‥バカ?」

 

2人が最初に訪れたナデシコの先で聞いた第一声がこれだった。

 

「ゲキガンガーじゃなくてエステバリスだっての!」

 

整備班長のウリバタケがぶつぶついいながらメガホンを取る。

 

『おいおい、なんなんだよ!?あんた、パイロットは3日後に乗艦だろうが!!』

 

『いやあ、ロボットに乗れるってきいたもんで一足先に来ちまいましたっ。 いやん、ばかん、あ、どっか~ん』

 

態々一言一言にリアクションをつけてゆくエステバリス。

パイロット自身の性格には問題がありそうなのだが、エステバリスを自分の手足のように操るその技術点ではナデシコのキャッチフレーズ『性格に問題が有るが、能力は一流』の通り、操縦技術は一流なのかもしれない。

 

『諸君にお見せしよう。 ガァイ・スゥパァナッパァァァァッ!!』

 

ポーズを決めるエステバリス。

しーん、と静まり返る格納庫。

そして非常に無理のある体勢で止まっていたエステバリスは当然のごとく重力の赴くままに派手な音を立てて背後に倒れこんだ。 

 

「がははははっ、すげーよなー 手があって足があって、自由自在に操れるんだから」

 

やることをやったからか、暑苦しい男は満足なのか非常にご機嫌。

 

「最新のIF(イメージフィードバック)のおかげだろう?これさえあれば子供だって操縦できるからな」

 

ウリバタケが男の右手にあるIFSを指差して言う。

 

「俺の名はガイ。ダイゴウジ・ガイだ。まぁガイって呼んでくれ」

 

「あれ?おたくヤマダ・ジロウってなっているけど?」

 

乗員名簿を確認するウリバタケ。

其処には確かに彼の顔写真と共にヤマダ・ジロウと書かれていた。

 

「ちがーう! それは仮の名。ダイゴウジ・ガイは魂の名前・・真実の名前なのさ!!木星人め!くるならこい!」

 

セリフを決めた後、突如ガイ(ヤマダ)の顔が青ざめる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、その、足がね‥‥痛かったりするんだな‥‥」

 

ガイはそのままその場に倒れた。

 

「あっ!おたく、足折れてるよコレ」

 

「なんだと!わぁぁぁ!痛ててててー!!」

 

救護用の担架で医務室に運ばれようとしている最中、

 

「おーいそこの少年、少女!!どちらでもいい!」

 

「「ん?」」

 

「あのロボットのコックピットに俺の大事な宝物があるんだ! すま―ん、取ってきてくれー」

 

「宝物ってゲキガンガーの玩具かよ。いくつだアイツ?」

 

ぶつぶつ言いながらも人のいいアキトは、先ほどまでヤマダ・ジロウが乗っていたピンクのエステバリスのコックピットからゲキガンガーの人形を手に取る。

 

「ん?‥来る‥‥」

 

「ん?コハクちゃん?」

 

アキトがふと後ろを見るとコハクは天井を睨んでいた。

 

ドオオオンッ!! 

 

そこへ激しい振動が艦内を襲った。

ガイが格納庫で骨折する少し前、ブリッジでは‥‥

 

「ちょっと!!どういうことよ!!瓢提督は呼んで私達はいらないって!!」

 

連合軍将校ムネタケ・サダアキがゴート相手に金切り声をあげて抗議していた。

その様子を見ていた、ルリ、メグミ、ミナトの反応は、

 

「バカばっか」

 

「あの人達ですよね?火星のコロニーに戦艦を墜としたのって‥‥」

 

「まぁ、キャンキャン吼えたくもなるか」

 

これがおそらく初めて、3人が連合軍将校に会った印象と感想であった。

 

「乗員はすべて各分野のエキスパートです。なかでも艦長は連合大学在籍中、戦略シミュレートで無敗を誇った逸材です」

 

ゴートがムネタケに艦長のプロフィールを簡単に説明する。

 

「で!?その逸材はどこなの!?」

 

「いえ、それが‥‥」

 

ゴートが口ごもっているとブリッジのドアが開き、

 

「あ~ここだ、ここだ。みなさぁん、私がナデシコ艦長のミスマル・ユリカです!!ブイっ♪」

 

「「「「「ブイっ?」」」」」(ゴート、ミナト、メグミ、フクベ、ムネタケ)

 

「またバカ?」

 

(これで皆のハートをキャッチ)

 

ルリが呆れるのも無理はない。

ユリカの後ろでは副長のアオイ・ジュンがユリカの荷物を持ちつつ滝のような涙を流している。

 

再びアキトとコハクが居るナデシコ格納庫では‥‥

アキトがゲキガンガーの人形を手に取り、コハクの様子がおかしいことに気づいた突如、激しい振動が艦内を襲った。

 

「な、なんだ?」

 

『現在、地上軍と木星機動兵器が交戦中、各員戦闘配置につけ!繰り返す‥‥』

 

ゴートが現状を説明するために艦内放送を入れる。

 

「や、奴らだ。奴らが来た‥‥」

 

アキトは木星機動兵器と言う単語を聞くと震え出し、不安そうに天井を見上げた。

木星蜥蜴がナデシコが停泊しているドックを攻撃している光景はサセボシティーからも窺えた。

 

「なんであんな所を?」

 

「木星人の考えている事は分かんねぇな」

 

「あいつ、また震えているのかねぇ~」

 

野次馬の中に昼間アキトが働いていた雪谷食堂の店主のサイゾウの姿があった。

プロスペクターとコハクが雪谷食堂を出た後、サセボシティーの上空で連合軍と木星蜥蜴との間で小競り合いがあった。

その時、アキトはパニック症状を引き起こし、閉店後雪谷食堂をクビになっていたのだ。

 

その頃、ナデシコのブリッジでは‥‥

 

「現在の状況は?」

 

「敵の攻撃範囲は、このドック周辺に集中しています」

 

瓢提督の質問に淡々と答えるルリ。

 

「敵の狙いはナデシコか!?」

 

「そうと分かれば反撃よ!」

 

「どうやって?」

 

「ナデシコの対空砲火を真上に向けて、敵を地上ごと焼き払うのよ!」

 

ムネタケの提案ではこのまま地上にいる迎撃部隊ごと薙ぎ払ってしまう。

 

「上で戦っている兵隊さんごと吹っ飛ばす気?」

 

ミナトがムネタケの提案に異議を出す。

 

「ど、どうせ全滅しているわよ!」

 

「それって非人道的っていいません?」

 

ミナトに続きメグミもムネタケの提案には反対のようだ。

 

「艦長、君の意見を聞かせてもらおう」

 

瓢提督がユリカを見て意見を尋ねる。

 

「海底ゲートを抜けて一旦海上へ、その後グラビティーブラストにて敵を殲滅します!」

 

「そこで俺の出番さ!! 俺がロボットに乗って囮となっている隙にナデシコは脱出!! かァーっ!燃えるシチュエーションだっ!!」

 

「おたく骨折中だろ?」

 

「あっ、そうだった‥‥」

 

肩を貸しているウリバタケに突っ込まれ愕然とするガイ。

 

「囮ならもう出ています。今、エレベーターで陸戦型エステバリスが1機‥‥」

 

「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」

 

ルリの報告にブリッジに居る一同が思わず声をあげる。

 

「メグミさんそのエステに通信繋げますか?」

 

誰が乗っているのか分からないが、ナデシコの為に誰が出てくれているのかを知るためにユリカはエレベーターで地上に上がっているエステバリスに通信を繋ぐように頼む。

 

「ちょっと待ってください‥‥‥繋がりました」

 

木星蜥蜴の来襲にアキトはさっきまでガイが乗っていたエステバリスに乗り、一刻も早くこの場を逃げたかった。

アキトにとって奴らは恐怖の対象でしかなかった。

 

「もう、閉じ込められるのはゴメンだ!俺はコックになるんだ!!」

 

こんな地下ドックでまた生き埋めになるのは御免だ。

自分にはコックになると言う夢がある。

こんな所で死ぬわけにはいかない。

 

『誰だ!?君は!?』

 

「わっ!」

 

突然目の前に現れた空間ウィンドウに驚くアキト。

 

『所属と名前を言いたまえ!』

 

老将に一喝され、ビビリながらも答えるアキト。

 

「テンカワ・アキト‥‥コックです」

 

『あー!!あいつ俺のゲキガンガーを!!』

 

空間ウィンドウを見てガイが叫ぶ。

その理由は、ガイの宝物であるゲキガンガーの人形は現在、アキトが着ているシャツの胸ポケットの中にいたからだ。

 

「ユリカあの人‥‥」

 

「うん‥アキト‥‥?アキト‥‥」

 

何か思い当たることがあるのか、ブツブツと自分の世界に突入したユリカ。

実はこの2人、ドックに着く前にアキトと面識があった。

ドックに行く途中、車のトランクからユリカのスーツケースが落ち、坂道を自転車で上っていたアキトの顔面に直撃、その後荷物整理を手伝ってもらっていたのだ。

 

「ユリカ?」

 

ブツブツ呟いているユリカに恐る恐る声をかけるジュン。

すると、

 

「あ―――ッ!! アキトだ!! アキト、アキト、アキト!!」

 

いきなり、考え込んでいたユリカが叫び声を上げた。

 

「何でアキトがそんなところにいるの?あ、そうか、私を助けに来てくれたんだね。さっすが、アキトはユリカの王子様!!」

 

『ユ、ユリカ?な、何で?お前がそんなところに?』

 

『彼女はナデシコの艦長ですから』

 

いつの間にかブリッジに居たプロスペクターがアキトにユリカの役職を言う。

 

「そうだよ。ユリカはこの船の艦長さんなんだよ!!えっへん!!」

 

両手を腰に当てながら笑顔で言うユリカ。

 

「ユ、ユリカ、アイツ誰?」

 

ユリカの今までにないテンションに戸惑うジュン。

 

「私の王子様!ユリカがいつもピンチの時にいつも助けに来てくれたの」

 

『ちょっと待て!』

 

「でも、アキトを囮なんて出来ない危険すぎる」

 

『おい、囮って何だよ?』

 

「分かっているわ。アキトの決意の固さ‥‥女の勝手でどうこう出来ないわよね?」

 

『おい、ちょっと!』

 

「わかった。ナデシコと私達の命‥貴方に預ける‥‥必ず生きて帰ってきてね」

 

『コラ!待て、テメェ!!』

 

そんなことをしている間にエレベーターは地上に着いた。

 

『作戦は十分間!とにかく敵を引き付けてくれ!健闘を祈る』

 

ゴートの通信終了共に作戦が開始された。

エレベーターの周りには赤い蜘蛛の形をした虫型地上兵器のジョロが多数居た。

その光景にアキトは火星、ユートピアコロニーの地下シェルターでの光景が過ぎった。

燃える地下シェルター、倒れている人々、群がるバッタ、そして守ることの出来なかった少女の姿‥‥

 

「‥‥ア‥ア‥ああ‥‥」

 

無意識に手が震えて動けなくなるアキト。

その時、震えるアキトの右手に小さな右手が置かれる。

 

「大丈夫、落ち着いて‥‥」

 

「こ、コハクちゃん!?」

 

アキトにとって予想外のことだったのだろう声が裏返っている。

てっきりナデシコの格納庫にいたと思っていたコハクがまさか此処にいるとは思わなかったのだ。

 

「‥‥落ち着いてアキトさん‥‥恐怖は誰もが持つ感情の1つ‥‥でも重要なのはその恐怖に飲み込まれないようにする事‥‥」

 

「コハクちゃん‥‥」

 

「逃げるだけじゃ何もできないし、何も始まりません。自分のしたい事があるなら、戦ってでもそれを勝ち取らないと‥‥ナビゲートは僕がやるからアキトさんはエステの操縦をお願い」

 

「あ、ああ」

 

「それじゃ行きましょうか?」

 

サーモンピンクのエステバリスは思いっきり前方へジャンプした後、街道をローラダッシュで走る。

その後をジョロ達も追いかけてくる。

 

その映像を見ているナデシコのブリッジでは‥‥

 

「コラ~逃げずに戦え!」

 

戦わずいきなり逃げたアキトにガイは納得いかない様子。

 

「いや、見事な囮役だ」

 

敵を躱しながら逃げるアキラのエステバリスの行動にゴートは誉めた。

 

「プロスさんそういえばこの空いているシートって誰のですか?」

 

メグミが誰も座っていない隣のシートに疑問を持ち、プロスペクターに尋ねる。

 

「そこはサブオペレーター席なのですが‥‥そう言えば、コハクさんは何処でしょう?」

 

「コハク?」

 

プロスの発した名前にユリカが「誰?」といった感じの表情でプロスに聞く。

 

「ナデシコのサブオペレーター兼火器管制システム担当の方です」

 

「へぇ~どういった方なんですか?」

 

「そうですね‥‥かわいらしいお嬢さん‥とでも言うべきでしょうか‥‥」

 

「そっか、かわいい娘かぁ~‥‥それでその娘は?」

 

「テンカワさんの案内を頼んだのですが‥‥ルリさん、艦内検索で今どこにいるか検索をかけてもらえますか?」

 

「了解」

 

ドックの注水率を注意しつつ艦内検索をかけるルリ。

 

「‥‥‥検索終了‥‥検索の結果、艦内にはいませんね」

 

「ええっ!」

 

「それ、どういうこと?」

 

「コミュニケの反応では今、高速で移動中‥‥どうやらあのロボットの中にいるようですね」

 

「なんですと!」

 

「そんな!‥‥ロボットの中で‥‥アキトと一緒‥‥かわいい娘‥‥アキトがピンチ!?」

 

アキトが別の意味でピンチなのではないのかと声をあげるユリカ。

 

「‥‥バカ」

 

ユリカの妄想に突っ込みを入れるルリ。

 

一方、アキトとコハクは‥‥

 

「そのままその道をまっすぐ」

 

「くっ」

 

必死でジョロから逃げていた。

 

『ナデシコ発進まであと7分』

 

空間ウィンドウに表示されるタイマーを見てアキトは、

 

「コハクちゃん、あと7分も逃げ切れるの!?」

 

アキトの膝の上でオペレートをしているコハクに尋ねる。

 

「‥‥そうですね‥このまま普通に逃げていては逃げきれませんね‥‥」

 

「そ、そんなっ!?」

 

「だから、ここら辺で反撃しつつ、敵の動きを鈍らせましょう!」

 

周辺の地図と敵の分布状況が表示されているウィンドウを見てコハクが指示をする。

 

「機体を180度反転し、先頭のジョロにアームパンチ」

 

「りょ、了解」

 

高速で走っていたエステバリスが急に立ち止まり振り替えると、右手が勢いよく飛び、先頭を走っていたジョロの顔面にヒット、体制を崩した先頭のジョロは後続のジョロと衝突し、爆発、さらに後ろから来たジョロ達も急ブレーキをかけ、止ろうとするが間に合わず次々と衝突し爆発ていく。

 

「うぉぉー!!スゲーゲキガンパンチみてぇ!」

 

ジョロを倒して少し興奮気味のアキト。

 

「‥‥次、上方、左40度からバッタが接近‥‥ブースターでジャンプ」

 

「了解!!」

 

上から来るバッタ目掛けてジャンプするエステバリス。

 

「左にいるあのバッタと右にいるあのバッタを捕まえて」

 

バッタの大群の中から今いる位置から1番近いバッタを指差して捕獲を指示するコハク。

コハクの指示通りワイヤーアームで2匹のバッタを捕まえる。すると後方のバッタがミサイルを放ってきた。

 

「ど、どうすれば?」

 

「そのまま、もう少しバッタを掴んでいて‥‥」

 

ミサイルの動きを見て、タイミングを計り、

 

「今だ、前方にバッタを放り投げて!」

 

前に思いっきり投げると掴まれていたバッタはたちまち飛んできたミサイルの餌食となった。

 

(なんかこういうの前にも似たようなことがあった気がする‥‥気のせいかな?)

 

現状にデジャブを感じつつも、目の前の敵に集中するコハク。

地上に着くとまた走り出し、距離を稼いだら反撃、そしてまた走る。そういった行動を繰り返すうちに2人の乗るエステバリスは岸壁に到着する。

 

「ここが合流ポイントです‥‥さっ、アキトさん、行きましょう!」

 

「え?行くって何処に?」

 

「海」

 

コハクは崖下の海を指さす。

 

「‥‥マジ?」

 

「本に気と書いて」

 

コハクが微笑みを浮かべ自分の右手をアキトの右手と重ねると、エステバリスを動かす。

 

「マジと読む~♪」

 

その直後、エステバリスは岸壁をダイブ。

 

「うわぁぁぁぁー!!」

 

アキトの叫び声が響く。

エステバリスはそのまま海へ落下‥‥することなく海から浮上してきたナデシコの上に降り立つ。

 

「ナ、ナデシコ?」

 

『お待たせアキト』

 

「お待たせって‥‥まだ10分経ってないぞ?」

 

『貴方のために急いできたの♪』

 

「敵残存機動兵器、有効射程内に捉えました。グラビティーブラスト、いつでもいけます」

 

火器管制オペレーターがいないので、臨時で務めるルリ。

 

「了解、ルリちゃん♪目標、敵まとめてぜぇーんぶっ!グラビティーブラスト、てぇーっ!!」

 

黒い火線が敵の群に吸い込まれ、一瞬の後に敵の機動兵器は爆発四散する。

 

「敵機動兵器、消滅を確認しました」

 

ルリの報告が上がり、ブリッジが歓声に包まれる。

朝日も昇り、勝利のシチュエーションとしては最高の映像だ。

 

「ウム、よくやった、艦長」

 

「偶然よ、偶然。アタシは認めないわ」

 

「この結果を見れば認めざるをえないだろう」

 

「まさに逸材」

 

フクベ、ムネタケ、プロスペクターがそれぞれの感想を漏らす。

 

グラビティーブラストで吹き飛ばされるバッタを見ていたアキトだったが、胸板に膝の上の少女の頭が置かれる。

 

「えっ?ちょっと!」

 

慌ててアキトが見るとコハクは気持ちよさそうに寝ている。

戦闘が終わって緊張が解けたのか?それとも徹夜明けで眠かったのか?彼女は起きる気配が全く無い。

 

「やれやれ」

 

と、言いつつもアキトはコハクの寝顔を見て微笑んでいた。

 

 

・・・・続く

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