機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第34話

 

 

 

紆余曲折がありながらもアキトは漸くユリカへプロポーズをする事に成功した。

10年以上の間、アキト一筋のユリカは勿論、アキトからのプロポーズを断る訳がなかった。

しかし、プロポーズの成功=結婚と言う訳ではない。

現在ユリカは絶賛家出中の身‥‥

結婚をするには親の了承も必要だ。

アキトは既に天涯孤独の身であるが、ユリカには父親がいる。

しかもかなりの親バカな父親が‥‥

そんな親バカな父親相手にあっさりとユリカとの結婚を認められるとは思ってはいないが、それでもユリカと結婚をするのであれば、嫁さんの父親‥アキトにとっては義父になるかもしれないコウイチロウへの挨拶は避けられない道である。

しかし、当のユリカ本人は、「あんな分からず屋のお父様の了承なんて必要ないよ」と言うが、アキトはそうはしたくなかった。

幼い頃に両親を亡くしているアキトは親のありがたみと言うものを知っている。

だからこそ、自分との結婚前にユリカにはどうしてもコウイチロウと仲直りをしてもらいたかった。

母親を無くしているユリカにとってコウイチロウは唯一の肉親であり、ユリカと結婚したら、コウイチロウはアキトにとっても義父になる人物なのだから‥‥

そして、アキトはユリカを説得してミスマル家へと向かった。

ルリとコハクも気になって2人に着いて行った。

すると、案の定‥‥

 

「くぉらぁぁぁぁ!!! もう一度いってみろぉぉ!!!」

 

すさまじい声がミスマル家に響き、その衝撃は家が揺れるのではないかと思った程である。

 

 

事の発端は数時間前、アキトのアパートにて、

 

「よし。今から、お義父(コウイチロウ)さんの所へ挨拶に行く!」

 

と、何か決意したようにアキトが立ち上がり天井に拳を突き上げる。

アキトの気合いは十分だ。

そしてユリカを説得して向かったミスマル家では、一同を出迎えた時、コウイチロウはユリカ、ルリ、コハクに対しては笑みを浮かべて出迎えてくれた。

 

「これは少ないがとっておきなさい。貧乏生活は辛いだろう」

 

コウイチロウはルリとコハクにお小遣いをくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「どうも」

 

コハクとルリは無難に感謝をのべるが、

 

「お父様、さっきから何でアキトを無視するんですか!?」

 

とうとうと言うか、やっとと言うかコウイチロウの行為にユリカが切れた。

 

「うっ‥ユリカがそこまで言うなら無視はしないが‥‥」

 

迂闊だったとはいえ、家に招き入れてしまった以上、いい歳をした大人のコウイチロウはひかざるをえなかった。

 

「で、誰だね?彼は‥‥?」

 

それでも、多少の抵抗はするみたいだ。

一応、火星に住んでいる頃はお隣同士なのだから、コウイチロウはアキトと面識はあるはずだ。

 

「テンカワ・アキトです。お久しぶりですコウイチロウさん。今日は、お父義さんの娘、ユリカのこと出来ました」

 

「むっ?ユリカの事とは?」

 

コウイチロウが眉をひそめ聞き返す。

それにアキトの言う「おとうさん」の部分にも引っかかりを感じる。

 

「はい。娘さんと‥‥ユリカとの結婚を認めてもらいたくやってきました」

 

包み隠す事無くきっぱりと言い切るアキト。

 

「ゆ、ゆ、ゆ‥‥」

 

すると、コウイチロウのサリーちゃんパパヘアーがぶるぶると震えはじめる。

 

「ゆ? 『ゆ』って何だろうね?ルリちゃん、コハクちゃん分かる?」

 

コウイチロウが発した『ゆ』と言う単語を聞いて首を傾げながらユリカはコウイチロウが何を言いたいのかをコハクとルリに訊ねる。

 

「さあ、雪の『ゆ』じゃないですか?」

 

「お湯の『ゆ』か、ユリカさんの『ゆ』かもしれませんよ」

 

ルリは雪の『ゆ』、コハクはお湯の『ゆ』またはユリカの名前の出だしの『ゆ』ではないかと言う。

だが、アキトにはコウイチロウの言う『ゆ』から出る次の言葉が既に予想できているのか、次の一言を「ごくっ」と唾を飲み込んでコウイチロウが言うのを待っている。

すると、アキトの予想通りの言葉がコウイチロウから発せられる。

 

「ゆるさ――――んっ!!!!!!!!」

 

コウイチロウの怒声に、ルリとコハクの髪が逆立ち、ユリカは眼をぱっちりと瞬きをして驚いた。

ついでにミスマル家も地震が起きたかのように揺れた気もした。

一方、覚悟をしていたアキトだけがひるみもせず視線をじっとコウイチロウに向けていたのは驚嘆に値する。

別の言い方をすれば、それだけの覚悟を決めていた、ということなのだろう。

 

「許さん、許さん、許さん。馬の骨ともわからん奴に大事な娘をやれるかぁ!!」

 

「馬の骨。素性の解らない者を罵るために使う言葉。この場合はテンカワさんの事でしょうか?」

 

通訳よろしく、ルリが髪の毛を整えながら馬の骨の意味を説明する。

 

「いや。それだとちょっと違うよ。アキトさんはちゃんと火星出身とか履歴ははっきりしているし、何よりユリカさんの幼馴染みでしょう?火星では確かお隣同士だったコウイチロウさんが知らないのはちょっと変だよ」

 

コハクがコウイチロウの言う馬の骨=アキトの構図に矛盾があると指摘する。

 

「なら。誰が馬の骨なんですか?」

 

「うーん‥多分僕かな?僕自身、出生が曖昧だし‥‥」

 

「でも、それだとコハクがユリカさんに求婚している事になりますよ。同性同士の結婚はこの国では認められていませんし、非生産的です。それ以前に私がコハクとユリカさんの結婚なんて認められません」

 

ルリとコハクが漫才の様なやり取りをしていると、

 

「ルリちゃん、コハクちゃん、場を和まそうとしなくていいよ。俺はお義父さんと本音で話したいんだ」

 

アキトは真剣な声でルリとコハクに語るが、視線だけはコウイチロウがから離していなかった。

 

(ほぉ~確かユリカより2つ下の歳なのにあの眼光‥‥挑むようでもなく脅えるわけでもなく、全てを受け止めるかのようにわしと向き合うか‥‥ふっ、面白い‥ならば、君の覚悟、見せてもらおうか?)

 

コウイチロウは今の今までアキトをただの娘を奪いに来たくせ者ぐらいにしかみていなかった。

だが、家に来てから変わらぬ視線。

年に見合わぬ落ち着いた態度が興味を引いた。

アキトも伊達に木連との戦争中、修羅場をくぐってきた訳ではない。

ルリとコハクは、流石にこれ以上はお邪魔虫なので、当事者達を部屋に残して、部屋から出ると、ミスマル家の適当な所で寛いでいた。

すると、ミスマル家に来訪を知らせるチャイムが鳴る。

家の主であるコウイチロウは、現在アキトと戦闘中‥‥ユリカは2人の戦いを見守り中‥‥

そこで、コハクが代わりに玄関先に向かい、来客を出迎える。

 

「はい、はーい。どちら様でしょうか?‥‥っ!?」

 

玄関先で来客を出迎えた時、コハクは目を見開いて驚く。

其処に居たのは木連との戦争で死んだはずのムネタケだった。

コハクが驚いていると、

 

「失礼、お嬢さん。ミスマル提督は御在宅でしょうか?」

 

「あ、あの‥‥ムネタケ‥‥さん‥‥でしょうか?」

 

「おや?私の事を知っているのかい?」

 

「えっと‥‥その‥‥な、ナデシコで‥‥」

 

「ナデシコ?君はもしかしてナデシコの関係者なのかい?」

 

「え、ええ‥‥ナデシコに乗っていました」

 

「そうか‥‥ナデシコの元提督、ムネタケ・サダアキは私の息子だったんだ‥‥」

 

「む、息子!?」

 

「息子が色々と迷惑をかけた様ですまなかった」

 

来訪者は深々とコハクに頭を下げた。

 

「い、いえ‥‥あっ、ミスマル提督は今、ちょっと立て込んでおりまして‥‥」

 

「ん?何かあったのかい?」

 

「その‥‥」

 

コハクはムネタケの父、ムネタケ・ヨシサダに現状を説明した。

 

「そうか‥‥お嬢さんが‥‥」

 

「はい」

 

「本来ならば喜ばしい事なのだろうが、提督はユリカ嬢ちゃんを昔から可愛がっていたからなぁ‥‥」

 

「ええ、でも、今回の件はミスマル提督にもアキトさんにも人生における1つの試練だと僕はそう思っています」

 

コウイチロウには子離れ、

アキトには人生のパートナーを得る為、

コハクの言う通り2人にとって今回のユリカの結婚は善も悪もない、戦いであり試練でもあった。

 

「うむ、そうだね‥‥」

 

いつの間にかコハクはヨシサダとルリと3人でミスマル家の縁側で茶を飲んでいた。

 

アキトとコウイチロウの話し合いは決して穏便なものでなく、表面上は怒鳴り合いでも水面下では互いを見極めようとする熾烈な戦いだ。

だが、意見はユリカが欲しい、ユリカはやらんの平行線であった。

アキトのセコンドにユリカがついているが、コウイチロウは今回の件についは1人の父親として、ユリカの前でも決して甘い顔をせずに、テンカワ・アキトという1人の男を見定めようとしている。

それから両者の話は平行線を辿り、

 

「確か、テンカワ君。君はラーメン屋だな?」

 

ぽつりとコウイチロウが呟く。

 

「はい。まだ屋台っスけど」

 

多少恥ずかしそうにアキトが答える。

 

「収入も不安定だろう。未来もだ。ユリカを幸せに出来るかどうかも解らない。それなのになぜユリカと結婚しようとしたのだね?」

 

今までの態度からは考えられないような、静かな口調でコウイチロウは最後の質問をする。

 

「私はアキトと‥‥」

 

ユリカが何かを言いそうになったが、アキトが視線で黙らせる。

 

「正直、ユリカを‥お嬢さんを幸せに出来るかどうかなんてわかんないっス。もしかしたら、このまま普通にお見合いをして結婚する方がユリカのためなのかも知れない。けど、俺はユリカと結婚したら幸せになれると思います。そして、その思いに答えてくれたユリカの眼を信じたいんです。俺はユリカと一緒に幸せになれるって。そして、ユリカも俺と一緒になったら幸せになれると‥‥だから‥‥」

 

静かにだがアキトは一番にいたかったことを言え、今日一番のすっきりした顔をした。

 

「何度でも言わせてもらいます。お義父さん、ユリカを嫁にください!」

 

事前にウリバタケからのアドバイスを受けておいてよかったと思うアキト。

彼のアドバイスがあったからこそ、今のアキトは心の中で余裕があった。

 

「誰がお義父さんじゃ!!それに、それに、どこの馬の骨ともしらん奴にユリカを、ユリカをだとぉぉ!!」

 

「お義父さん、うちは馬の骨じゃないっス! トンコツと鶏ガラのブレンドっス!」

 

「そうだよ。アキトのラーメンは美味しいんだよ」

 

アキトとユリカの結婚を認めないコウイチロウと自分達の結婚を認めてもらいたいアキトとユリカの意見は真っ向から対立した。

 

「ユリカそれは欲目と言うモノだ」

 

「欲目じゃないよ。ホント目だよ」

 

「お義父さん、お願いします!」

 

「お父様、お願い」

 

しかし、あまりにも2人がしつこいのでコウイチロウは条件をだした。

 

「よし、ならばワシがそのラーメンを食ってやろう」

 

不敵な笑みを浮かべコウイチロウは言い放った。

コウイチロウは自他共に認めるラーメン通だった。

 

「もし、本当に旨ければ結婚でも何でもするがいい!!」

 

その条件とはアキトがラーメンを作りコウイチロウを納得させることだった。

 

「それ本当ッスか?」

 

「当たり前だ!!男に二言はない」

 

連合軍提督としての威厳を放つようにコウイチロウは言い放つ。

こうしてユリカとの結婚をかけてのアキトとコウイチロウとの間で一週間後にラーメン勝負が決定された。

 

 

 

 

「そ、それでどうなったの!?」

 

興味津々と言った様子でヒカルがその先を促す。

コハクは自分の周りの大人達‥‥ヒカル、ウリバタケ、イズミ、リョーコ、ミナト、メグミ、ホウメイガールズを見渡してから答える。

 

「アキトさんとミスマル提督は来週の日曜日にユリカさんとの結婚をかけてラーメン勝負をすることになりました」

 

「ラーメン勝負!?」

 

それを聞いて大人達は目を輝かせる。

その場の勢いなのか売り言葉に買い言葉なのかアキトとコウイチロウとの間でまるで料理漫画の様な内容のラーメン勝負は既に決定事項となっていた。

決戦の地はユリカの実家であるミスマル邸の庭。

当日、アキトはそこに屋台を持ち込みアキトがコウイチロウにラーメンを振舞う事になっている。

そこで、コウイチロウがアキトのラーメンを食べて一言でも「美味い」と言えば、アキトの勝ちで、ユリカとの結婚が許可される。

しかし、このラーメン勝負、アキトにとっては物凄く不利な勝負である。

例え、アキトの作るラーメンが美味しくてもコウイチロウが「美味い」と言わなければアキトの負けでコウイチロウの勝ちである。

勝負としては成り立ってはいない。

でも、ナデシコの大人達は純真である。

アキトはラーメン勝負の為、麺やスープの研究に勤しんでいる。

コハクの話を聞いている大人達もなんだか盛り上がっている。

 

(みんな、どうしてこうイベントが好きなのかな?)

 

大人達は日曜の予定を確認したり、他の元ナデシコクルーに連絡を取っている。

一応、アキトとユリカの人生がかかった大勝負であり、ギャラリーが入れるか分からないのに観戦ムードでいっぱいである。

盛り上がっている大人達をジッと見るコハクであった。

 

 

ザッ

 

沸騰したお湯の中から黄金色の麺が引き上げられる。

 

ザッ、ザッ、ザッ

 

手首をかるく返すだけでザルの中の麺の玉が弾ける。

湯をきられた麺はスープが入っている丼の中へとダイブ。

菜箸でかるく麺をほぐし、上に具材を乗せる。

 

「よし、出来た」

 

完成したラーメンを見てアキトは頷く。

明日のラーメン勝負、アキトは東京風醤油ラーメンで勝負に挑もうとしていた。

勝負の為に特別なラーメンを作るのではなく、普段お客さんに提供しているラーメンで勝負したい。

それがアキトの心情であった。

ありのままの自分を見てもらいたい。

それが、自分が自分らしくのナデシコで得た教訓と経験だった。

アキトは蓮華でまず、スープを一掬い。まずはスープの香りをチェックしつつ、スープの匂いを楽しむ。

それからスープを口に運ぶ。

温度は申し分ない。

少し熱めで、啜る様に飲むと丁度いい感じだ。

こってり系ではない透明感のあるスープは豚骨と鶏ガラの出汁がよく出ている。

出汁のアクの強さも醤油がうまく消しており、絶妙なバランスを保っている。

隠し味に加えたゴマはアキトのオリジナルの味である。

 

「よし、これなら‥‥」

 

額の汗を拭ってようやく表情を崩したアキト。

ラーメンを作っている時は終始無言でまるで戦闘をしている時の様に真剣な表情だった。

いや、コックにとって調理と言う行為は戦闘と同じなのかもしれない。

アキトのラーメンの命は麺よりもスープなのだ。

まだ、日本一、世界一、宇宙一とは言えばないが、今の自分にとってこれが100%の味だ。

この味で美味くないといわれたら、所詮自分はその程度の実力しかなかったと、今の自分には諦めがつくほどの会心の出来だ。

勿論今はこの実力だがそれに甘んじることなく、今後も味を開花させていきたいと思っている。

 

「それが明日のラーメン?」

 

気が付くと隣にはユリカが立っていた。

屋台を手伝う時の服装‥頭には三角巾を被り、割烹着を着ている。

そして手には雑巾と水が入ったバケツ。

 

「先に寝ていて良かったのに‥明日は大事な日だろう?」

 

「うん‥‥でも、明日は私達の結婚が決まるかもしれない大事な日なんだよ。それなのにアキトだけが頑張るってちょっと違う様な気がして‥‥」

 

「でも、明日の勝負は‥‥」

 

「分かっている」

 

明日のラーメン勝負はアキトとコウイチロウの一対一の真剣勝負。

誰もアキトの助太刀、介入は不許可の真剣勝負。

それが絶対のルールだった。

 

「私にはラーメンを作るお手伝いは出来ない‥だから、コレ」

 

そう言ってユリカはアキトに雑巾と水が入ったバケツを見せる。

 

「アキトの屋台、明日の勝負までにはピカピカにしてあげるから」

 

「そっか‥‥ありがとな‥‥」

 

アキトはチラッと自分の屋台に目をやる。

お客がラーメンを食べるカウンターのスペースは勿論清潔にしてある。

当然、ラーメンを作る厨房スペースもだ‥‥でも、屋根や車輪など、料理に直接関係ない部分は清掃が少々投げやりとなっている部分があった。

 

「いつものラーメンなんだね」

 

「うん。いつものラーメンで勝負したいんだ」

 

アキトは自分が作ったラーメンを見る。

 

「勝負の時だけ特別なラーメンを作ってもダメな気がするんだ‥‥ユリカのお父さんに認めてもらいたいのは普段の‥ありのままの俺だから‥‥」

 

「大丈夫だよ、アキトのラーメンとっても美味しいから」

 

「ありがとう‥ユリカ」

 

2人は見つめ合い次第にその距離は縮んでいくと、アキトとユリカの唇が重なった。

 

アキトの屋台はアパートの駐車場に置いてある。

だから、アパートの窓から見下ろせばアキトの屋台を見ることが出来る。

ルリとコハクは窓越しに明日のラーメンを作る勝負の為、ラーメンを作っているアキトの姿を見ていた。

アキトがラーメンを作る姿は普段と変わらない。

変わらないが、ルリはアキトがラーメンを作る姿を見るのが好きだ。

屋台を押している時、チャルメラを吹きながらよくアキトの姿を横目で見ている。

ナデシコでは家族はコハクだけだったが、こうしてアキトのアパートでアキトとユリカとコハクと暮らしてルリはこれこそが家族の姿であり、ルリにとってアキトとユリカも家族だと思っていた。

そんなアキトの姿を見ていると、いつの間にかアパートを出たのかユリカがアキトの隣に立っていた。

2人は言葉を交わしてやがてキスをしている。

それを見たコハクはカーテンを閉めた。

これ以上先は大人になってから、それにアキトさんとユリカさんの2人の世界を邪魔しちゃ悪いと言うとルリは面白くないと言う顔をしたが、すぐに何か思いついた様で、

 

「いずれ、私達も大人になりますよね?」

 

「ん?そうだね」

 

「それなら‥‥今ここで練習をしましょう」

 

「えっ?練習?なんの‥‥?」

 

コハクはルリの言葉に疑問と共に何か嫌な予感を感じた。

 

「キスの練習です」

 

「き、キスっ!?」

 

ルリの言葉に思わず声が裏返るコハク。

 

「で、でも、キスは‥その‥‥男女でやるものじゃ‥‥」

 

「絶対に男女で行わなければならないモノではない筈ですよ」

 

そう言いながらルリはコハクへと迫る。

コハクは思わず後退るが、アキトのアパートは狭く、あっという間に追い詰められる。

 

「さあ‥‥コハク‥‥」

 

「る、ルリ‥‥お、落ち着いて‥‥ファーストキスは女性にとって大事なモノなんだよ‥‥そ、それを妹の僕に使うのはいささか軽率だよ」

 

「私はコハクの事‥好きですし、姉妹と言っても私達には血のつながりはありませんから問題ありません」

 

「問題あるよ!!ありまくりだよ!!ビジュアル的に変だよ!!僕らは女の子同士なのに!!」

 

「私達は美少女ですから、ソッチ系の人には受け入れられます」

 

「ソッチ系!?それ誰に言っているの!?」

 

「さあ、コハク‥‥」

 

「い、いや‥ちょっと‥‥る、ルリ‥‥んぐっ」

 

嫌がるコハクの唇をルリは無理矢理奪う。

ルリとキスをしていると次第にコハクの身体から力が抜けていき、布団の上に倒れてしまう。

すると、ルリはキスを止めるどころかマウントポジションを取ると、コハクの唇をむさぼるかのように激しいキスをする。

口付けで結ばれる唇には舌を挿し入れて、ルリはコハクの口内を蹂躙する。

舌と舌を絡ませて歯茎から頬まで舌の届く範囲全てを愛撫し、唾液を貪り、そして流し込んでは無理矢理味わわせる。

2人の唇の間からは舌を絡ませて唾液を交える水音が響き、空気を淫靡に染め上げていった。

そうした時間がどれだけ過ぎただろうか?

未だにアキトとユリカが戻ってこない所を見ると、そんなに時間が経っていないのかもしれない。

最初は身をよじってルリから逃れようとしていたコハクがその動きを止め、ルリの愛撫の全てを従順に受け入れるようになった頃にルリは唇を離す。

ルリが唇を離した時、互いの唇には唾液で出来た銀色の橋が出来た。

 

「どうでしたか?コハク」

 

ほんのりと頬を赤く染めたルリがコハクに問う。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

息も絶え絶えになっているコハクは顔を真っ赤にしているが、目の方はトロンとしている。

 

「フフ、どうやら気持ち良かったみたいですね‥‥もう一度‥しますか?」

 

ルリの問いに嫌がっていた筈なのに‥‥血は繋がっていないけど、姉妹なのに‥‥同性同士でこんな事、本当は間違っている筈なのに‥‥理性ではそれを理解できてもコハクの本能はルリを求めていたのだろうか?

コハクは小さく頷くとルリは再びコハクの唇に自らの唇を重ねた。

アキトとユリカが部屋に戻って来ると其処には布団の上で仲良さそうに抱き合って眠っているコハクとルリの姿があった。

そんな2人の姿を見てアキトとユリカは相変わらず仲が良いなと思いつつ苦笑した。

 

 

翌日‥‥

 

竹製の鹿威し。

石灯籠。

五重塔。

池には高そうな錦鯉達が悠々と泳いでいる。

そんな純和風な庭園のあるミスマル邸に元ナデシコの関係者が集まっていた。

そして、昨夜、ユリカの手によってピカピカに清掃されたアキトの屋台が庭の中央に鎮座している。

その屋台の傍には今回のラーメン勝負の挑戦者であるアキトの姿‥‥

一方、もう1人の関係者であるコウイチロウは屋台から少し離れた位置に居る。

着物袴姿で静かに瞑想をしているかのように目を閉じている。

そして、ギャラリーはアキト、コウイチロウと三角形を作る様に2人の斜め前に陣取っている。

ユリカもこのギャラリーの中におり、勝負の行方を固唾をのんで見守っている。

その三角形の真ん中にゆっくりとジュンがゆっくりと進み出る。

ジュンはユリカとコウイチロウからアキト、ユリカ、コウイチロウの共通の顔見知りと言う点からスタートの合図を切る役目を仰せつかった。

 

「それではラーメン勝負‥はじめっ!!」

 

ジュンが勝負のスタートをきると、アキトの手がスゥーッと動き始める。

麺の玉をとり、軽くほぐすとそれを沸騰したお湯が入った鍋へと入れる。

麺が鍋の中であばれるのを確認すると、次に丼とスープの準備だ。

左手前に丼を置き、醤油スープを入れる。

後は麺を入れる直前にお湯を注ぎ、適度な濃さにする。

ギャラリーの皆はアキトの手際の良さに感嘆の声をあげつつ勝負の行方を見守る。

対照的にコウイチロウは沈黙を保ち、机の上のお冷にも手を付けていない。

アキトの方も鍋の中の麺とにらめっこをしており、じりじりと時間だけが過ぎている。

ミスマル邸の庭園では、屋台の傍では鍋のグツグツと言う音、鹿威しのカコンと言う音と池にある小さな滝の水音、そして時々跳ねる錦鯉の水音のみがミスマル邸の庭に木霊する。

動くモノは池の錦鯉と鹿威し、そしてアキトの屋台の鍋の中で暴れているラーメンの麺だけ‥‥

いつもは騒がしく落ち着きのないナデシコの元クルー達もこの庭園の真剣な空気に呑まれ、じっと勝負の行方を見守っている。

やがて、静止していた時間が動き出す。

アキトが鍋の中の麺を鍋から取り出した。

ザルの中で湯切りをし、用意した丼に入れお湯を注ぎ、菜箸で麺を軽くほぐす。

そして具材をトッピングする。

シナチク、なると、チャーシュー、海苔、そして少量のネギ。

最後に菜箸を置き、ラーメンは完成する。

全くの無駄のないアキトの動きにギャラリーからは再び感嘆の声があがる。

しかし、それでもコウイチロウは動かず沈黙を保ったままだ。

アキトは出来上がったばかりのラーメンを持ってコウイチロウの下へと近づく。

 

「ラーメン一丁、お待ち」

 

アキトの声を聞き、コウイチロウはゆっくりと目を開ける。

コウイチロウはまず、自分の前に置かれたアキトのラーメンを見る。

具材はいたってシンプルなモノで、特別変わったモノはない。

スープも取り立て変わったモノには見えない。

次にコウイチロウはアキトに目をやる。

すると、アキトと目があった。

アキトもまたコウイチロウをジッと見ていた。

コウイチロウと目があってもアキトは臆することなく、コウイチロウの事をジッと見ている。

アキトの揺るがない視線にコウイチロウはテンカワ・アキトと言う男に少し感心した。

連合軍の提督と言う立場のコウイチロウの眼光の前に恐れおののいて思わず視線を逸らしてしまう連合軍士官が居ると言うのに若いのに肝入が座っている。

それほどまでに今回の勝負に人生をかけているのだろう。

 

「では‥‥」

 

コウイチロウは割り箸を手に取り、箸を割る。

そして箸を丼の中へと入れる。

箸は丼の中から適度にちぢれた麺をつかみ取る。

湯気と共に汁気を含んだ麺がキラキラと太陽の光を浴びて輝いている。

コウイチロウはその麺を凝視した後、口へと運ぶ。

コウイチロウがラーメンを食べた事で思わず身を乗り出すユリカ。

アキトも緊張した面持ちで沈黙を保ってコウイチロウをジッと見つめる。

ギャラリー一同も息を呑んで成り行きを見守る。

皆の視線を一点に受けながらもコウイチロウはひたすらラーメンを口へと運び咀嚼する。

コウイチロウはひたすら食べた。

ラーメンの麺を、ラーメンの具を、そしてラーメンのスープを全て飲み干した。

 

「ふっー‥‥」

 

空になった丼をコウイチロウはテーブルの上に静かに置く。

アキトはジッとコウイチロウの言葉を待つ。

ユリカを含め、ギャラリーも固唾を飲んで待っている。

果たしてアキトのラーメンは美味かったのか?

それとも不味かったのか?

しかし、コウイチロウはなかなか答えない。

 

「どう?お父様。アキトのラーメンは?」

 

なかなか答えないコウイチロウにユリカは遂に痺れを切らしてコウイチロウに尋ねる。

しかし、顔は不安そうだ。

 

「う‥‥」

 

「う?」

 

「‥‥うまい」

 

コウイチロウの内からポツリと言葉が放たれる。

 

「えっ?お父様、今なんて?」

 

「い、いや‥今のは‥‥」

 

「お父様、今『うまい』っていいましたよね?じゃあ、この勝負はアキトの勝ちで、私達、結婚してもいいんですよね!?」

 

ユリカは喜びの声をあげてアキトに抱き付いている。

アキトは戸惑った顔をしてコウイチロウを見る。

 

「‥‥うまい」

 

コウイチロウは観念したかのように言う。

 

「ああ、うまい!!うまかったぞ!!テンカワ君!!」

 

声を上げたコウイチロウの目には涙が浮き出ていた。

それは感動の涙なのか、それとも思わず「うまい」と言ってしまい、ユリカをアキトに嫁に取られてしまった悔しさと後悔の涙なのかは定かではない。

しかし、結果はどうあれ、この勝負はアキトの勝ちだった。

 

「この勝負‥‥」

 

「テンカワさんの‥‥」

 

「「勝ちですね」」

 

唖然としているジュンに代わってコハクとルリが今回のラーメン勝負結果を口にする。

その途端、ギャラリーからアキトとユリカに紙吹雪がかけられ、クラッカーが鳴り響く。

どうやら、皆祝福用に用意し持参してきた様だ。

 

「よかったね、アキト。私達これで結婚できるよ!」

 

ユリカは感極まってアキトに抱き付く。

 

「ありがとうございます。ミスマル提督‥いえ、お義父さん」

 

アキトはコウイチロウに深々と頭を下げた。

ユリカとの結婚を許してくれた事、

自分の作ったラーメンを美味いと言ってくれた事に感謝を込めて‥‥

 

その後、ミスマル邸の庭園はラーメン勝負からラーメンパーティー、宴会の場へと変わった。

アキトとホウメイガールズがラーメンを作り、それを皆に振るまい、途中からは寿司やピザがデリバリーされ、ナデシコの元クルー達は芸などを披露してアキトとユリカの婚約を祝福した。

ただ、その中でコウイチロウとジュンだけは人知れず涙の杯を交わしていた。

 




ではまた次回。
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