機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第35話

 

 

ユリカの父、ミスマル・コウイチロウとのラーメン勝負の結果、アキトとユリカはめでたく婚約に成功し、来年の6月には結婚式を挙げる予定だ。

アキトがラーメンの屋台を引いて早、数ヶ月が経過した。

そして今日は大晦日。

貧乏暇なしと言う言葉通り、アキト達4人は大晦日である今日も休まずに普段通り屋台を引いていた。

ただ大晦日にも休みなく働いているが、世の中の社会人全てが自分達の様に働いているわけではないので、さすがにこの日はお客も少なかった。

それに大晦日はラーメンよりも年越しそばだろう。

今日のお客が少ない理由の1つとしてソレも少なからず影響していた。

ただ、アキトは生粋のラーメン屋なので、大晦日の日だけそばを提供するなんて事はしなかった。

 

「お客さん来ないねぇ~」

 

ユリカが大晦日の夜空を見上げながらポツリと呟く。

 

「さすがにこの日は何処の会社もお休みでしょうから」

 

「そうだね」

 

ルリがそう言うと隣にいるアキトが答える。

屋台のお客の大半を占める会社員は今頃、家でのんびりとしているのだろう。

アキト達はいつも通りの位置に屋台を置いてお客が来るのを待っていた。

屋台を開いてしばらくすると、空からはチラチラと小雪が降ってきた。

 

「見て、雪よ」

 

ユリカが空を見ながらそう言う。

 

「大晦日なんだよな‥‥」

 

アキトも雪を見ながらしみじみと言う。

 

ゴ~~~~~~ン

 

遠くからは除夜の鐘の音が聞こえてくる。

 

「除夜の鐘‥‥」

 

「そうだね‥‥鐘の音を聞くとオモイカネを思い出すなぁ‥‥」

 

ルリの言葉にコハクが答える。

 

「そうですね‥コハク、オモイカネは元気にしていますか?」

 

「うん。『ルリは元気か?』って会うたびに聞かれるよ」

 

「そうですか‥‥」

 

雪がちらつく冬の夜空を見上げながら除夜の鐘の音を聞いていると。

 

「ちょっといいかしら?」

 

いつのまに近くに来たのか、エリナがコハクに声を掛ける。

彼女の様子を見る限り、アキトのラーメンを食べに来た様には見えない。

 

「エリナさん、どうしたんですか?こんな夜遅くに?」

 

除夜の鐘がなったので、既に年が明けて元旦となっている。

それにも関わらず、彼女はアキト達の下を訪ねてきた。

一般企業は流石に休みなのに、エリナはビジネススーツを着ている。

大手企業は年始年末でも休みなし、月月火水木金金のシフトなのだろうか?

 

「コハク、貴女に頼みたい事があるの」

 

(エリナさんの頼みごと‥‥もしかしなくてもボソンジャンプの事でしょうね)

 

隣で聞いていたルリは考えながらエリナの顔を見る。

 

「僕に頼み事ってなんですか?」

 

「貴女にしかできないことなのよ」

 

「僕にしか出来ない事?」

 

「そうよ。火星でナデシコを‥‥戦艦1隻をボソンジャンプさせた貴女しか出来ない事。いよいよ時期が来たって事よ。とにかく付いてきなさい」

 

「ちょっとまってください!」

 

ルリが待ったをかける。

 

「コハクの所属は開発部の筈でボソンジャンプの研究とは無関係の筈です!」

 

「確かに彼女の所属部署は違うわ。でもネルガルの社員であることには変わりないの。そしてこれは会長直々の命令なのよ」

 

エリナは懐から1枚の紙切れを取り出しルリとコハクに見せる。

そこには確かにアカツキの署名でコハクにボソンジャンプの実験に協力するようにとの命令が書かれていた。

 

「いやだって言ったらどうするんですか?」

 

コハクはエリナに尋ねた。

エリナは少しムッとしたが冷静な顔でコハクに近付く。

 

「貴女には選択の権利はないの。最悪の場合は、無理矢理にでも引きずっていく事になるわよ」

 

「僕に勝てるとでも?」

 

「その時は、周りにも被害が及ぶわね‥‥貴女の大事なお姉さんも巻き込まれるかもしれないわね」

 

エリナは、声のトーンをぐっと下げて言った。

確かに周囲からはこちらを監視するかのように大勢の人の気配がする。

恐らく万が一の事を考えてネルガルのシークレットサービスが周囲を取り囲み待機しているのだろう。

エリナの一言でそのシークレットサービスが一斉に襲い掛かってくる可能性が高い。

もし、そうなれば、ルリは勿論の事、アキトとユリカもそのドンパチに巻き込まれる。

その為、コハクは観念したのか「分かりました」と返事をするとアキト達にこの事を伝えた。

 

「‥‥という訳で、これからエリナさんの実験に協力する事になりました。僕の事は気にしないで先に家に帰っていて下さい」

 

(大人はやっぱりズルイ‥‥)

 

ルリは自分の考えが正しかった事を確認すると側に立っていたエリナに声を掛けた。

 

「エリナさん、どうしてもコハクを連れて行くんですか?」

 

「言ったとおりよ。私達にはどうしてもコハクの力が必要なの」

 

ルリの非難の混じった目を真っ直ぐ見ながらエリナが答える。

 

「それとも、コハクを力ずくでも引き止めてみる?」

 

今度はエリナがルリに声を掛ける。

 

「‥‥コハクがそうするというのなら、私は止めません」

 

ルリ自身もコハクが何故、エリナの実験に協力するのか彼女なり理解している。

きっとコハクは自分達の事を守る為にエリナの実験に協力するのだろう。

そうでなければ、コハクがエリナの実験に協力するとは思えない。

 

「ルリ‥‥」

 

コハクはルリが少しだけ悲しそうな顔をしているのに気が付いた。

それはアキトとユリカも一緒だった。

 

「エリナさん、コハクが行くのは止めません。でも、その代わり、私もその実験に立ち会わせて下さい」

 

ルリは決意に満ちた顔でエリナを見ながらそう伝える。

 

「残念だけど、部外者を連れて行く訳には行かないわ、ナデシコを下りた今の貴女はネルガルとは何の関係もないんだから」

 

「部外者じゃありません、コハクは私の妹であり、家族なんです。どんな実験をするのか知る権利がある筈です!」

 

ルリは一歩も引かない。

エリナが少し困った顔をしているとアキトとユリカもルリと同じ事を言う。

 

「そうですよ、エリナさん。俺達は家族なんですから部外者って事はないでしょう」

 

「アキトの言う通り、コハクちゃんがする事を知っておく事は必要だと思います!」

 

(テンカワさん、艦長‥‥)

 

ルリは2人が自分と同じ事を思っていた事に嬉しくなった。

 

「エリナさん、僕からもお願いします」

 

コハクも3人の気持ちが嬉しくなって、自分からエリナにルリ達の同行の許可を頼む。

 

「はぁ~分かったわ、その代わり邪魔だけは絶対にしないでよ」

 

エリナは「負けたわ」といった顔で、ルリ達の同行を認めた。

 

「ありがとうございます、エリナさん」

 

「さあ、はやく行きましょう。時間が惜しいわ」

 

そう言って前を歩き出し、近くに止めてあった車へと向う。

 

「ルリ、ありがと‥‥」

 

コハクは隣にいるルリにも礼を言う。

 

「コハク、もし危なくなったらすぐに止めて下さいね」

 

「分かった」

 

心配そうな顔をしているルリにやさしく笑って答えるコハク。

アキトとユリカは先に屋台を家に置いてくると言って、実験場の場所だけを確認するとルリ達と別れた。

 

「コハクちゃんの事をお願いね、ルリちゃんがいてくれれば安心だから」

 

「はい」

 

エリナに連れられてルリとコハクは先に車でネルガルのボソンジャンプの研究所に向かった。

 

 

~ネルガル ボソンジャンプ研究所~

 

研究所の一室に案内されたルリとコハクはエリナに実験の話を聞いている。

 

「‥‥と言う訳でいよいよ貴女にボソンジャンプの実験をしてもらう日が来たわ」

 

エリナがコハクを見ながら改めてそう言う。

 

「それで実験の内容は?」

 

「まだほんの一部の人間しか成功していない、生体ボソンジャンプの実験よ」

 

(一部の人間しか成功していないって‥‥それってすごく危険なんじゃ‥‥)

 

ルリは少し顔を引き攣らせながら考える。

 

「今のところ分かっているのは、火星で生まれたごく少数の人間は生身の体でボソンジャンプが出来るって事。火星の古代遺跡から遺伝子レベルで干渉されてうるからね」

 

「ということは、僕は火星で作られたってことですか?」

 

「貴女の詳しい出生はまだ不明だけど、貴女は何度も生体ボソンジャンプを成功させているじゃない」

 

「それは、そうですが‥‥」

 

「ともかく貴女は生体ボソンジャンプが可能な身体である事だけは確かよ。貴女は今までアキト君達と生活していたから知らないでしょうけど、私達ネルガルの他にもボソンジャンプを研究しているところがあるの。もし彼らが”ヒサゴプラン”を完成させれば、ネルガルには勝ち目がないわ」

 

(ヒサゴプラン‥‥プロスさんも同じ言葉を言っていましたね‥‥あれからオモイカネにアクセスして調べてみてもプロテクトがかかっていて分かりませんでしたけど、いったいどういう意味なのでしょう?)

 

ルリがヒサゴプランについて考えていると、コハクがその疑問を代わりに聞く。

 

「その”ヒサゴプラン”ってなんですか?」

 

エリナはその質問に少し考えるような顔をしながら答える。

 

「‥‥分かったわ‥貴女には事実を教えてあげる」

 

エリナはそう言って説明を始める。

 

「ヒサゴプランとは反ネルガルグループが木連と手を組んで作ろうとしている、ボソンジャンプのネットワークシステムの事よ。彼らは多くのチューリップを使って、宇宙航行の驚異的な迅速化を図ろうとしているわ。もしそんなことをされれば彼らにボソンジャンプの実権を全て握られてしまう。ネルガルがボソンジャンプを独占していくためにも、有人でジャンプする方法を私は解き明かしたいの‥そのためには貴女がボソンジャンプするデータがぜひとも欲しい訳なのよ」

 

(ヒサゴプランにはそういう意味があったのですか‥‥ボソンジャンプのネットワークシステム‥確かに実現できればすごい事になりますね。ネルガルの人が焦っているのも分かる気がします)

 

ルリは頭のなかにエリナの言葉を記憶する。

木星との戦争が終わっても地球から火星までの距離はかなりある。

エリナの言うヒサゴプランが実用化すれば地球から火星までの航行日程を大幅に短縮する事が出来る。

そうなれば、人類の宇宙開拓は飛躍的に向上するだろう。

 

「分かりました。それでジャンプの実験ってどんなことをするんですか?」

 

コハクは話をジャンプ実験内容について戻す。

 

「ただ、ジャンプしてもらうだけよ」

 

「実験するのはいいんですが、その実験は安全なんですか?以前の生体実験での事を忘れた訳じゃありませんよね?」

 

ルリが少し睨みながらエリナに話し掛ける。

エリナはルリの視線軽く受け流して自信たっぷりに答える。

 

「もちろん、安全性は保証するわ。その安全性を確保するために、今日までという時間が必要だったの」

 

ネルガルとしてもコハクをボソンジャンプの実験に使うのは諸刃の剣だった。

万が一にも失敗してコハクが死ぬようなことがあれば、ネルガルはボソンジャンプの実験にとって大事な被験者を失う事になる。

その為、安全には万全を期して今回の実験に望んだ。

 

「本当にそれならいいのですが‥‥」

 

ルリは尚も疑わしそうに答える。

 

「さっきも言ったでしょう。実験の邪魔はしないでよ」

 

「分かっています」

 

ルリが渋々納得したのを確認してエリナがコハクに訊ねる。

 

「どう?コハク。実験に協力してくれる?」

 

「分かりました、実験には協力します。流石にネルガルが倒産されては今の働き口がなくなってしまいますからね」

 

コハクはゆっくりと答える。

 

「ありがとう」

 

「『嫌だ』って言っても無駄なんでしょう?」

 

「勿論」

 

コハクはエリナの意地悪そうな顔を見て溜め息をもらす。

ルリはそんなコハクを心配そうに見ていた。

エリナは近くにいた所員にコハクを案内させた。

コハクは所員に連れられて実験用の耐圧エステバリスに案内される。

広い密閉された空間にチューリップが固定されており、その上から、コハクの乗った耐圧エステバリスがクレーンで吊り下げられている。

エリナは多くのスタッフと共に遠くからコハクを見守っている。

コハクは用意された特殊パイロットスーツに着替え、エステバリスのコックピットに乗り込んだ。

チューリップと呼ばれているジャンプ発生装置に、エステバリスごと入る事になるらしい。

コックピットの中にエリナの空間ウィンドウが開く。

 

「気分はどう?」

 

「大丈夫です」

 

幾分落ち着いた顔で答えるコハク。

 

「心配する必要はないわ、今回の実験はまったく危険はないんだから。それに貴女はナデシコを火星へ跳ばした実績もあるんだから大丈夫よ」

 

エリナがそう言うと、隣からルリの顔が入ってくる。

 

「コハク、気を付けて下さいね。危険がないといってもあんまりこの人達の言う事はあてになりませんから」

 

「むっ、失礼ね。ちゃんと安全性の確認はしているんだから心配ないわよ」

 

「そうは言いますけど、ちゃんと生体実験して試したんですか?安全確認の段階で成功しているならコハクがジャンプする必要はないはずです」

 

「うっ‥‥」

 

エリナが図星をつかれて焦る。

 

「この人達は無人の機械かコンピューターのシミュレーションで確認しただけのはずです。そんなモノが本当に安全だといえるんですか?」

 

「だ、大丈夫よ!」

 

半ば自棄になりながらそう答えるエリナ。

ルリの方もそれほどエリナの事を疑っている訳ではない、彼女もかつてのナデシコの一員なのだから本当に危険があったらこんな事はしないだろうことは分かっている。

ただ、100%安全性が証明されない限りルリがコハクの事を心配するのは当然である。

 

「コハク‥本当に気を付けて下さいね」

 

さっきまでの言い合いから打って変わってまじめな顔をしてルリが言う。

 

「大丈夫だよ。ルリ、僕は絶対に帰ってくるから、約束するよ」

 

コハクはルリの気持ちが分かって笑顔で答える。

ルリもその笑顔に少し安心して笑顔になる。

 

「まったく2人だけの世界を作るのは実験の後にしてよね。見ているこっちの方が恥ずかしくなってくるわ」

 

コミュニケ越しに見詰め合う2人を見ながら、エリナが嫌みで冷やかす。

 

「はいはい、それじゃあ実験を始めるわよ」

 

エリナはそう言って指示を出す。

エリナの指示のもと、コハクが乗ったエステバリスがゆっくりとチューリップの中へ降ろされていく。

 

「さあ、貴女の行きたいところを心に思い描いて」

 

「突然そう言われても‥‥」

 

エリナにそう言われてもいきなりの事なので少し戸惑うコハク。

 

「会いたい人でもなんでもいいわ」

 

(僕の行きたいところ、会いたい人‥‥)

 

エステバリスの機体がチューリップに完全に入って、通信が出来なくなる。

そしてコハクの視界が真っ白になる。

 

 

 

 

遠くのほうから爆音と何かが壊れ、崩れる音がする。

顔に小さな石や砂がかかりコハクは目を覚ます。

 

「うっ、ウ~ン‥‥こ、此処は、どこだろう?」

 

起き上がり、辺りを見回すと其処は薄暗い廃工場のような場所だった。

しかも自分は先程まで耐久性エステバリスに乗っていたにもかかわらず、今はそれに乗っていない。

エステバリスを置いて自分1人だけジャンプしてしまったのだろうか?

 

「それにしても変な所にジャンプしちゃったな‥‥もしかして失敗しちゃったのかな?」

 

ともかくここがどこなのか確認するため歩き出すコハク。

すると遠くの方で人の声が聞こえてきた。それも大勢の人の声だ。

 

「‥‥人がいるみたいだ‥とりあえず行ってみるか」

 

警戒しながらコハクは人の声がする方へと近付く。

 

「本部!本部!」

 

ライフルを肩に背負った兵士がトランシーバー型の無線機でしきりに地上の司令部に連絡をいれているが、未だ地上からの応答はない。

 

「ダメなんじゃない?」

 

「はぁ?」

 

「地上がだよ。地下がこれじゃあ、地上は全滅だよ」

 

兵士の近くにいた老人は自嘲するかのように言った後、ポケットからウィスキーの入ったスキットル(小さな携帯用の水筒)を取り出して中のウィスキーを飲む。

 

「先生、こっちです」

 

隅の方では看護婦と白衣を着た医者が負傷者の救護を行っている。

 

「ありがとう、お兄ちゃん‥デートしよう」

 

「えっ?」

 

「あたしね、アイって言うの」

 

(どこかの地下シェルターなのかな?)

 

柱の影からその様子を窺っているコハク。

すると突然爆発が起こり、近くにいた人達は一瞬で物言わぬ肉片へと変わった。

 

(な、なんだ?)

 

爆破された壁から出てきたのは木星軍の主力虫型兵器のバッタだった。

 

(バッタ!?なんでここに?地球と木連は休戦中の筈なのに‥‥)

 

突然のバッタの出現により混乱するコハク。

一方周囲の人達はバッタの姿を見て、パニックになり、我先にとメインゲートへと逃げ出す。

しかし、ゲートは分厚い隔壁で閉められていた。

 

「只今、手動にてゲートを開けております。もう暫くお待ちください」

 

どうやらさっきの爆発でゲートの開閉装置が壊れたようでパニックになり押し寄せている人々に兵士が説明し、さっきの老人と兵士が鉄パイプを使ってゲートをこじ開けようとしている。

 

「市民の安全を確保せよ!」

 

殿に立つ兵士達がライフルを使いバッタを攻撃するが、あまり効果がない。

 

「僕がアイツを足止めしますからその隙にゲートを!」

 

「お兄ちゃん!」

 

1人の青年が作業用のトラクターに乗り込みバッタの群れの中に突進していく。

 

(あれはアキトさん!?でもアキトさんは確か一度アパートに戻っている筈。なんでこんな所に!?)

 

そう、トラクターに乗りバッタの群れに突っ込んだのは間違いようもないテンカワ・アキト、その人だった。

アキトはトラクターを使いバッタを壁に押し付ける。するとバッタはガックリと項垂れるかのように機能を停止する。

 

「「「「おおおおおぉぉぉぉー」」」」

 

それを見て兵士や避難民は歓喜の声をあげる。

 

「お兄ちゃんスゴイ」

 

みかんを手にした少女がアキトを誉める。

 

「あれ?あの子どこかで見たような‥‥」

 

コハクが少女のことを考えていると、

 

「よし、開くぞ」

 

ようやくゲートが開くようだ。

 

「「あっ!?」」

 

しかし、ゲートが開いた瞬間またもや爆発が起こる。

最初の爆発よりも大きく近くにいた人の数も多くシェルターにいた人のほとんどがその爆発の犠牲となった。

突然背後で起こった爆発に驚き後ろを見るアキト。そこには地獄のような光景が広がっていた。

燃えるシェルター、バラバラになった人の死体、そしてその死体を躊躇なく踏みつけて自分に近付いてくるバッタ達。

 

「あ、ああああぁぁぁぁ‥‥」

 

パニックになるアキト。

するとさっきまで機能を停止していた目の前のバッタまでもが動き出した。

壊れかけたバッタの顔がアキトを睨むかのように見ている。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!」

 

アキトが悲鳴をあげる。

するとアキトの身体が光りだし、身体の表面にはうっすらと紋章のようなものが浮かび上がる。

 

「あれはボソンジャンプ!?」

 

「お兄ちゃん!まって!」

 

先程の少女がアキトにむかって走っていく。

彼女はどうやら爆発に巻き込まれなかった様だ。

 

「いけない!アキトさん!落ち着いて!!」

 

このままではあの少女もアキトのボソンジャンプに巻き込まれてしまうと思い、コハクもアキトにむかって走り出す。

しかし、止めるのが少し遅かったようでコハクとみかんを持った少女はアキトのボソンジャンプに巻き込まれ、コハクの目の前の視界が真っ白になった。

 

(こんなことで死んでたまるか!ルリと約束したんだ!絶対に帰るって、約束したんだ‥‥)

 

暗い闇の中

上も下も右も左も分からない闇の中

何も感じない闇の中

何も聞こえない闇の中

コハクはそんな闇の中をただ1人漂っていた

自分はこのまま1人寂しくこの暗闇の中で死ぬのか?

ルリとの約束も果たせず死ぬのか?

このまま死んだらエリナさんの前に化けて出てやる!

絶対化けて出てやる!

呪ってやる!!

そんなことを考えていたコハクの目の前に光が射した

光?

コハクは無意識にその光へと手を伸ばす

そして光はやがて1人の少女の姿を映し出していた

その姿は‥‥

 

 

~ネルガル ボソンジャンプ研究室~

 

コハクがチューリップの中に入ってから30分後。

突然警報が鳴り、探査装置が危険度を指し当然ジャンプ実験は中止。

急いでワイヤーで引き上げたエステバリスのコックピットの中でコハクは意識を失ってぐったりした状態でシートにもたれかかっていた。

医務室に運ばれたコハクはその後、検査が行われ、呼吸はしているもののずっと意識を取り戻すことなく眠りつづけていた。

医務室へとやって来たルリ達はベッドに横になっているコハクの姿を見てショックを受けていた。

 

「おかしいわ、外傷も見当たらない、脳波にも特に変わったところはないのに‥‥どうして、どうして目を覚まさないの?」

 

エリナは予想外の事に焦っている。

医者からは、命に別状はないが精神の方に異常があってこのまま意識を取り戻すのは難しいと言われていた。

 

「コハク、コハク、お願いですから目を開けて下さい!」

 

(嫌ですよ。コハク、このまま貴女が目を覚まさないなんて!)

 

エリナの横ではベッドで死んだように眠り続けるコハクにルリが懸命に呼びかけていた。

ルリの後ろには屋台を片づけてきたアキトとユリカ、それになぜかウリバタケの姿があった。

 

「「コハクちゃん‥‥」」

 

「コーくん‥‥」

 

3人ともコハクの事を心配そうに見ている。

 

「エリナさん、これは‥‥これは一体どういうことですか!?」

 

ルリが隣にいるエリナを睨み付けながら彼女に詰め寄る。

 

「危険はないって言っていたじゃありませんか!!」

 

「そ、それは‥‥」

 

エリナはルリの言葉に言いよどむ。

今回の事はエリナにとっても想定外な事だった。

 

「エリナさんが危険はない‥‥そう言ったから私もコハクもエリナさんの言葉を信じたのに‥‥」

 

ルリの言葉にエリナの顔が沈んでいく。

 

「もし‥‥もし、このままコハクが‥‥妹が目を覚まさなかったら‥‥私は絶対貴女を許しませんから‥‥絶対に‥‥絶対にですから‥‥」

 

ルリが殺意にも似た感情をエリナにぶつける。

 

「っ!?」

 

エリナはそのルリの視線に恐怖を感じた。

 

たかが13歳の少女1人に‥‥

しかし、それほどルリの表情も放つ気も凄まじかったのだ。

 

「コハク、貴女は絶対に帰って来るって約束してくれたじゃありませんか‥‥約束を破る悪い子はお仕置きですよ‥‥」

 

ルリはコハクの方に体を向け直すと、コハクの手を握って呼び続けた。

 

「ルリちゃん‥大丈夫。コハクちゃんきっとは帰って来るよ」

 

ユリカがルリの側に座って、話し掛ける。

 

「艦長‥‥」

 

「コハクちゃんは今までにルリちゃんとの約束を破った事があった?」

 

「‥‥ありません‥‥コハクは危険な目に遭っても必ず私の所へ帰ってきてくれました」

 

「なら、信じてあげなきゃ、コハクちゃんの言葉。ルリちゃんが信じてくれたらコハクちゃんもきっと答えてくれるよ」

 

ユリカの優しい言葉に少し落ち着いたルリは黙って頷く。

 

「コハク。私、コハクの事を信じます。ですからもう一度、私にコハクの笑顔を見せて下さい‥‥声を聞かせてください‥‥私のところに帰ってきてくださいね‥‥」

 

コハクの手を握っているルリの目から涙が零れ落ちる。

零れた涙がコハクの手の上に落ちる。

 

 

(なんだろう‥‥?なんだか‥とても暖かい‥‥)

 

コハクは闇の中へと落ちていく意識を繋ぎ止めるような暖かい物を感じていた。

 

(誰?僕を呼ぶのは‥‥?)

 

コハクは体全体に広がっていく温もりを感じながら、心の底から望んでいたものを思い出す。

 

(そうだ‥‥僕はルリと約束したんだ‥‥絶対に帰るって‥‥)

 

頭の中で悶々と、霧がかった意識が段々とはっきりとしてくる。

誰かが側で泣いているのを感じる。

 

(誰だろう‥‥?どうして泣いているの‥‥?)

 

おぼろげながらも泣いているその人物がルリだと感じるコハク。

 

(ルリ、泣かないで。僕は絶対に約束を守るから)

 

コハクは朦朧とする意識の中で、ルリの涙をぬぐうためにゆっくりと手を伸ばす。

 

スッ

 

 

~ルリ 視点~

 

私は自分の涙をぬぐう手の温もりを感じて目を開きます。

目の前にはコハクの手がありました。

慌ててコハクの顔を見ると、コハクが私に向かって微笑んでいました。

私の大好きな笑顔を浮かべて。

 

「コハク‥‥?」

 

私の両目からまた涙が流れます。

今度は悲しみの涙じゃありません。

私はコハクの笑顔に答えるように、笑顔で言います。

 

「お帰りなさい、コハク」

 

コハクはその言葉に少し驚いた顔をしましたが、すぐに笑顔で答えてくれます。

 

「ただいま、ルリ‥‥僕は‥‥約束通り帰ってきたよ‥‥」

 

私の一番聞きたかった言葉。

 

(コハク‥‥約束、守ってくれましたね‥‥)

 

もう、私には涙でコハクの顔がぼやけてしか見えませんでした。

アキトさんたちはそんな私とコハクの事を優しい目で見ていました。

 

「ねっ、ルリちゃん、私の言った通りだったでしょう?」

 

「はい」

 

私の肩に手を置いて笑顔で話し掛けてくる艦長に、私も笑顔で答えます。

私はコハクに抱きつき顔を見ながらもう一度言います。

私のずっと言いたかった言葉を。

 

 

「お帰りなさい、コハク‥‥」

 

 

 

その後、エリナから今回の実験は失敗だと聞かされた。

原因は不明だがコハクはボソンジャンプをすることなく意識を失っていたのだと言う。

コハク自身は何か腑に落ちない所もあったが、今回の失敗により暫くはジャンプ実験に付き合わされることはないだろうと一安心した。

やっぱりルリ(姉)を心配させ、泣かしたくはないから。

研究所からアキトのアパートに帰るとウリバタケが持ってきた酒で新年を皆で祝った。当然ルリとコハクはお茶やジュースのソフトドリンクで祝った。

酒を飲みなれているエリナ、ウリバタケは昼前には帰り、アキトとユリカは昼過ぎに起きてきたが、2人とも激しい二日酔いに襲われていた。

でも、今日は元旦‥‥折角の休みなので4人はアキトのアパートでまったりと過ごした。

 




ではまた次回。
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