機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第3話

 

 

「‥‥サブオペレーターの‥‥タケミナカタ・コハク‥です‥‥」

 

左胸にネルガルのエンブレーム、左腕にナデシコのエンブレームが入った白いワイシャツに黒ネクタイ、黒のプリーツスカート姿でナデシコのブリッジに入り、ぎこちないながらも挨拶をするコハク。

礼儀正しく頭を下げる。

頭を下げた事でコハクの背中まで伸びた艶やかな金髪があわせて跳ねる。

これまで教育係のエリナ、ゴート、プロスペクター以外の人と関わりをもたなかった事からちゃんと挨拶が出来るかと心配していたプロスペクターであったが、コハクは無事にナデシコのクルーに挨拶をする事が出来た。

まさにエリナ女史の教育の賜物である。

 

「操舵士のハルカ・ミナトよ。ヨロシク」

 

「通信士のメグミ・レイナードです。以前は声優をやっていました。よろしくお願いします」

 

「‥‥ヨロシク‥お願いします」

 

「ねぇねぇ、コハクちゃんって日本人なの?」

 

自己紹介が終わると、ミナトがコハクの事をジッと見つめながらコハクが日本人なのかを訊ねてくる。

 

「えっ?」

 

「そうですよね、なんか名前と顔立ちが一致して居ない様な気がします」

 

ミナトの質問に対して、メグミも同じコハクの容姿をみて、やはりミナトと同じくコハクの容姿と名前が一致していない事に疑問を感じていた様だ。

コハク自身、自分が何処の国の人間なのかは分からない。

でも、タケミナカタ・コハクと言う名前は明らかに日本人っぽい名前である。

だが、コハクの容姿は金髪に赤い眼‥‥どう見ても日本人の特徴とはかけ離れている。

 

「えっと‥‥僕はハーフって言う血筋で‥‥」

 

「へぇ~何処の国のハーフなの?」

 

「日本語上手だね~」

 

ネルガルの方もちゃんとこうした事を計算に入れており、コハクには架空の家族構成を用意しており、コハクにも、もし、家族の事を聞かれたらその架空の家族構成を言うように教えていた。

ミナトとメグミがコハクと話をしている最中、

 

「むぅ~」

 

ユリカはコハクの事をジッと睨んでいる。

その理由は‥‥‥

木星兵器を殲滅後にナデシコの格納庫に帰還したアキトを迎えにいった所、エステバリスから降りてきたアキトは眠っているコハクをお姫様抱っこしていたのだ。

その光景を見たユリカが、

 

「アキトにお姫様抱っこなんて‥‥私だってされたことないのにぃ~!!」

 

格納庫中に響き渡る大声をあげて、アキトはその場にユリカが居る事を認識した。

 

「アキトのロリコン!!変態!!」

 

そして、ユリカはアキトに向かって罵声を飛ばした後、格納庫から走り去って行った。

 

「ちょっ!!ユリカ、お前!!誤解を生む様な事を言うなよ!!」

 

コハクをお姫様抱っこしながらアキトもユリカが走り去って行った通路に向かって声をあげる。

しかし、ユリカとアキトが大声をあげたにも関わらず、アキトの腕の中のコハクは目を覚ます事はなかった。

 

と、そんな訳でユリカはコハクにヤキモチを焼いた為である。

ちなみに同じく格納庫にいた整備員達も羨ましそうにアキトを見ていた。

 

「ルリさん、こちらが先程お話をしたサブオペレーターのコハクさんです。お部屋も同室ですので、仲良くしてあげてくださいね」

 

プロスペクターがルリにコハクを紹介する。

 

「よろしく、タケミナカタさん。オペレーターのホシノ・ルリです」

 

ルリは無表情のままコハクに自己紹介をする。

 

(っ!?)

 

コハクはルリの姿を見て目を見開く。

彼女の脳裏にはあの時の‥‥自身が保護された研究所で一瞬過ぎった銀色の髪に金色の瞳を持ったあの少女の姿が過ぎる。

 

「あの‥‥」

 

「えっ?」

 

「少し顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」

 

ルリはコハクの顔を覗き込みながら訊ねてくる。

 

「あっ、うん‥‥だ、大丈夫。寝起きだから少し頭が働いていないだけだよ。それと僕のことはコハクでいいよ。こちらこそ、よろしくホシノさん」

 

慌てて体裁を整えて、ルリに挨拶をするコハク。

 

「はい。あっ、私もルリと呼んでくださいね」

 

「わかりました。ルリ‥さん」

 

自分で言っておいてなんだが、ルリの事を「さん」付けで呼んだ時、コハクは物凄い違和感を覚えた。

 

《こんにちはコハクさん。SVC2027オモイカネです♪》

 

カラフルな空間ウィンドウを開いてオモイカネがコハクに挨拶をしてくる。

 

「初めまして、オモイカネ。僕の事はコハクって呼んでね♪」

 

《うん、コハク。ヨロシク》

 

ルリに続いてオモイカネにも挨拶をするコハク。

 

「あの‥‥1つ聞いてもいいですか?」

 

ルリがコハクに質問をしてきた。

 

「何でしょう?」

 

「‥貴女は‥‥コハクは‥マシンチャイルドなんですか?」

 

ルリのこの質問にコハク、プロスペクター、ゴートが固まる。

 

「‥‥えっ‥‥えっと‥‥それは‥‥」

 

ルリから視線をずらしながら、なんともバツ悪そうに口ごもるコハク。

 

「まぁまぁルリさん。そういった質問はプライバシーに関わることですので‥‥‥」

 

プロスペクターがコハクの弁護に回るが、コハクとプロスペクターの様子からこれはもう彼女がワケ有りですとブリッジにいた皆に教えてしまったのと同じである。

 

「わかりました」

 

しかし、以外にもあっさり引くルリ。

だが、ルリはコハクのことを完全に諦めたわけではなかった。

 

その頃、連合軍ヨコスカ基地宇宙軍第三艦隊バースでは‥‥‥

 

『この戦時下に民間用戦艦などとは!!』

 

『ネルガルは一体何を考えている!?』

 

『ともかくあの威力を見ては戦艦ナデシコを放置するわけにはイカン!!』

 

『あの艦の艦長は君の娘だそうじゃないか?』

 

『もし、ナデシコの艦長が連合軍への参加を望むのであれば受け入れよう』

 

連合軍上層部から遠回しに『ナデシコを捕まえて来い』という命令を聞くユリカの父、ミスマル・コウイチロウ

 

「提督?」

 

そんなコウイチロウを副官が心配そうに声をかける。

 

「ただちに出撃!機動戦艦ナデシコを拿捕する!」

 

コウイチロウが力強い声で部下に命令を下す。

今この場に居るのはミスマル・ユリカの父ではなく、連合宇宙軍第三艦隊提督、ミスマル・コウイチロウなのだと、彼は自分自身に言い聞かせた。

そして戦艦 トビウメ 護衛艦 クロッカス、パンジーの3隻は第三艦隊バースを出撃していった。

 

 

~ナデシコ 艦内 通路~

 

「ねえ、アキトぉ、どうしたの?何怒っているの?」

 

親鴨の後ろをついてまわる子鴨のように、アキトの後ろをぴったりついてまわるユリカ。

対するアキトはむっつりとしてそれを無視しつつ、すたすたと新しい職場である食堂へ向かっていた。

そんなアキトとユリカのその様子をたまたま居合わせた整備員たちが、何事か?と思いつつ観察している。

アキトはあの後、勝手にエステバリスを動かしはしたが、ナデシコは軍属ではなく、しかもあの時はやむを得ない状況だったので特にお咎めはなしだった。

 

「ねぇ、ねぇったらねぇったらねぇっ!!」

 

ゴソ、ゴソ、ゴソ

 

ポイ、ポイ、ポイ

 

ドリンクコーナーに設置されていた空き缶入れから徐に空き缶を数個取り出してアキトに投げつけるユリカ。

そして、投げられた空き缶の全てがアキトの後頭部に命中する。

ナイスコントロールである。

 

「何しやがる!!いてぇだろうがぁ!!」

 

「だってだって、アキトったら私を無視するんだもん!」

 

「だからってお前なあっ!」

 

「一体何があったの?何に怒っているの?ねぇ願い教えて‥‥それにあのコハクちゃんって子と‥その‥‥ロボットの中でなにしていたの!?」

 

この会話の原因はつい先ほど、コハクの紹介が終わり、ユリカがアキトの部屋に来た(押しかけた)時にあった。

部屋に入った時、湯上りのアキトと鉢合わせしたトラブルがあったのは置いておくとして、その後ユリカがアキトの元に何度も連絡をとったが連絡がつかず心配していたことを告げたとたん、アキトが急に不機嫌になったのだ。

「よく言うよ」の一言と共に‥‥。

それから前述のように無視を決め込んでいたのだが、ユリカの涙目のウルウル攻撃に意地を張り通すことができなかったアキト。

 

「しょうがねぇ 教えてやる。だが、その前に!!」

 

「むっ!?」

 

「空き缶は!!」

 

「屑篭にねっ♪」

 

2人の行動を見て、だあっ、とずっこける整備員達だった。

 

 

アキトとユリカは食堂に場所を変えて、アキトはユリカに事情を説明する。

 

「まず、始めにコハクちゃんのことだけど、あの子は俺がナデシコに乗った時の案内役だったんだよ。案内の最中に木星兵器が襲い掛かってきて‥‥それで‥‥」

 

「怪しい‥‥」

 

「本当だって!!何ならコハクちゃん本人に聞いてみろ!!」

 

「もう『ちゃん』付けで呼び合う関係に‥‥」

 

「だから人の話を聞け!!」

 

さんざん時間をかけ、コハクとのことを誤解だとユリカに分からせた後、ようやく本題の両親の死について話すアキト。

 

「殺された?」

 

「ああ、俺の両親は殺された。 火星を離れるお前の家族を見送った直後にな‥‥」

 

アキトは今でも忘れはしない。あの時の光景を‥‥

ミスマル家の全員が乗った地球行きのシャトルを見送った後、突如空港と隣接する研究所区画で起こった爆発。

それはアキトの両親が勤めている研究所区画だった。

高く立ちのぼる黒煙と炎。

湧き上がる不安を必死に大丈夫だと思い込むことでアキトは走った。

とにかく走った。だが、無常にもたどり着いた現場で見たものは、折り重なるように倒れた両親の姿。

2人とも背中から血を流し、ピクリとも動かない。

それまで我慢して来た涙が一斉にあふれ出し、アキトはただ立ち尽くすだけだった。

 

「俺は真相を知りたい‥‥どうして親父やお袋が殺されたのか‥‥俺は事と次第によっちゃあお前も殺す‥殺す‥かもしれない‥‥」

 

「殺す!?…殺すって‥‥?」

 

驚きに顔を強ばらせるユリカ。

だが、次には何故か頬を赤らめ腰をくねらせている。

 

「やだ、なんかハードボイルドでロマンチック」

 

と、頭の中で自分の都合のいい妄想の世界にダイブしていた。

そんなユリカをほっといてアキトは食堂のスタッフの前まで行って、ぺこりと頭を下げ、

 

「テンカワ・アキトです。よろしくおねがいしまーす」

 

新たな職場の上司と同僚に挨拶をしていた。

 

「おいおい」

 

現実に帰って来たユリカは、自分を置いていったアキトに抗議の声をあげようとした所で、目の前に現れた空間ウィンドウに勢いを殺されてしまった。

 

『艦長、至急ブリッジまできてください。重大発表があるそうです』

 

「ぴょう?」

 

ユリカがアキトに付きまとっている時、ナデシコ後方の海中では‥‥

 

 

~戦艦 トビウメ艦橋~

 

「ナデシコ捕捉!!行き先は不明!!」

 

海中を潜航しながらナデシコへと迫るトビウメ、クロッカス、パンジー。

 

「レーダーに察知されぬよう慎重に進め」

 

娘の前では親馬鹿なコウイチロウでも職場では冷静沈着な提督であった。

 

「前方にチューチップを発見!!ただし、現在は活動を休止中の模様!!」

 

「かまうな。そのまま前進。トビウメ浮上後は護衛艦深度を上げ、そのまま海中で待機」

 

連合軍の艦艇がナデシコへと迫っていることを知る由もないナデシコのブリッジではスキャパレリ・プロジェクトの説明が行われていた。

 

「今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは、妨害者の目を欺く必要があったためです。 ネルガルがわざわざ独自に機動戦艦を建造したわけは他にあります。 以後ナデシコはスキャパレリ・プロジェクトの一端を担い、軍とは別行動を取ります」

 

プロスペクターはブリッジに集まった面々、ブリッジ要員とエステバリスのパイロット達に告げた。

 

ちなみにアキトはそもそもの所属がコックなのでブリッジにはおらず、食堂のモニターでスキャパレリ・プロジェクトの内容を聞いている。

 

「我々の目的地は火星だ!!」

 

ナデシコの提督である瓢が一同にナデシコの行き先を告げる。

ナデシコの行き先を聞き、その波紋は艦内のいたるところに行き渡った。

食堂に居るアキトがまた故郷である火星に行けると喜んでいるかと思えば。

 

「では現在地球が抱えている侵略は見過ごすというのですか?!」

 

 と、ジュンのように反論も起きた。

 

「それに火星は木星蜥蜴に占領されているんじゃ‥‥?」

 

メグミがプロスペクターに質問する。

 

「それは連合軍の報告を元に地球連合政府が発表したに過ぎません」

 

黙って成り行きを見守っていたコハクが突然口を開く。

すると全員の目がコハクに集中する。

 

「実際に火星全土が木星蜥蜴に占拠されたかどうかを確認した人はいませんし‥‥」

 

一度言葉を切り、コハクは瓢提督をチラッと見る。

 

「ん?ワシの事なら構わんよ」

 

瓢提督の言葉を受け、コハクは一礼すると再び話し出す。

 

「第一次火星会戦後、木星蜥蜴の大群が押し寄せて来たという報告を最後に連合軍は火星と月を見捨て地球圏にのみ絶対防衛線を張り、防戦一方の状態です。でも、もしかしたら火星にはまだ生存している人がいる可能性があるのではないかと僕はそう思っています」

 

「そう!!まさにその通りです!!我々はそういった残された人々や火星の資源を救出するために火星へ向かうのです!!」

 

コハクの言葉に力を得たプロスペクターが断言する。

 

(僕は資源のことなんて一言も触れてないけど‥‥プロスさんも根っからのサラリーマンだな)

 

「でも蜥蜴さんたちが大勢攻めてきて、本当に生きている人がいるのかな?」

 

ミナトは戦場になった土地に人が今でも生きているのかまだ疑問のようだ。

 

「火星には我が社の他にも様々な企業の研究所や実験場、支社がありました。それらの企業施設の地下には社員の避難用シェルターが備えられていましたので、生き残った人がいる可能性は充分ありえます」

 

「まあ、戦争するよりはいいよね」

 

「人助けって事ですよね?」

 

プロスペクターの説明でメグミとミナトは納得の様子。

ナデシコクルーの総意が火星行きに纏まりそうになった時、

 

「残念だけど火星へ行く必要なんてないわ」

 

突然空間ウィンドウにムネタケの姿が現れると同時にブリッジのドアが開き、ライフルを持った兵士達と共にムネタケが入ってきた。

 

「ムネタケ!!血迷ったか!?」

 

瓢提督がムネタケを一喝するが、ムネタケはそれをあっさりと聞き流す。

 

「提督、この艦をいただくわ」

 

「その人数で何が出来る?」

 

ゴートがムネタケに問う。

 

「わかったぞ!お前ら木星のスパイだな!!」

 

ガイがムネタケを指差すが、兵士にライフルを突きつけられ大人しくなる。

 

「勘違いしないで、動いているのは私達だけじゃないわ‥‥ホラ、来たわよ」

 

そう言ってニヤリと笑うムネタケ。

ムネタケの呟きと共に、ナデシコ前方の海中から連合宇宙軍の戦艦が姿を表した。

 

『こちらは地球連合宇宙軍第三艦隊提督 ミスマルである!!』

 

海中から浮上した戦艦トビウメから通信がナデシコに入った。

 

「お父様?」

 

「「「ええっ!!お父様!?」」」

 

ユリカの予想外の言葉に何人かがユリカを見る。

 

「お父様!!これはどういうことですの!?」

 

『ユリカわかってくれ、パパも辛いんだよ』

 

一体どこまでが本気なのか分からないセリフを言うコウイチロウ。

恐らく半々といったところだろう。

 

「困りましたなぁ。連合軍との話はついている筈ですが‥‥ナデシコはネルガルが私的に使用すると‥‥」

 

『我々に現在必要なのは木星蜥蜴と十分対抗出来る兵器なのだ。それをむざむざ火星へ送るなどと‥‥』

 

「わかりました。では、交渉ですな。早速そちらでお話しをいたしましょう!!」

 

『よかろう。 ただし、艦長とマスターキーは当方で預かる!!』

 

コウイチロウの要求にブリッジのクルーは驚く。

 

「艦長!!奴らの言いなりになる気か!?」

 

「やめるんだ、艦長!!我々は軍人ではない!!軍の命令に従う必要はない!!」

 

ガイと瓢提督は反対し、必死にユリカを止めようとする。

 

『瓢さん生き恥を晒したくない気持ちは分かります。ですが今は堪えてください。ユリカ~パパが間違ったことを言ったことがあるか?』

 

「う~ん」

 

瓢提督やガイ、コウイチロウの言葉を聞いて思案するユリカ。

 

「ユリカ、提督が正しい。コレだけの戦艦をむざむざ火星に送るなんて‥‥」

 

元連合軍士官だったジュンはやはり火星行きには反対の様子でコウイチロウの意見に賛同する。

こんな感じでブリッジが騒がしくなった時、ソプラノ調の凛とした声がブリッジに響く。

 

「ミスマル提督。残念ですがマスターキーの件に関しては承服致しかねます」

 

マスターキーの引き渡しを拒否したのはコハクだった。

コハクは空間ウィンドウ越しにコウイチロウをジッと見ている。

 

「‥コハク?」

 

「コハクちゃん?」

 

突然コウイチロウに反対意見を述べたコハクにルリとミナトは驚きの様子。

 

『‥むっ?君は誰だね?』

 

「ナデシコのサブオペレーターのタケミナカタ・コハクと申します。以後お見知りおきをミスマル提督」

 

スカートの両端を両手でちょっと摘み、頭をさげ、挨拶をするコハク。

 

『ふむ、こちらこそ。それでコハク君、マスターキーを渡せない理由を聞こうじゃないか』

 

「先程確認しましたが、この海域にはチューリップが落とされています。現在は活動を休止中の様ですが、万が一活動を再開した場合、作動キーを抜いたナデシコは、主兵装であるグラビティーブラストはおろか満足に動くことも出来ない丸裸状態になります。敵襲が予想される中、マスターキーを抜き取るのは自殺行為です」

 

『コハク君‥君は連合軍が信じられないのかね?』

 

「現在の連合軍艦艇ではナデシコを守ることが出来ないので、はっきりとそう申し上げています。現に木星兵器に押され気味だからこそ、木星兵器をいとも簡単に撃破したナデシコの力を見て、態々こうしてナデシコを拿捕しようとしているのではありませんか?」

 

『なっ!?』

 

連合軍の現状の痛い所を突かれ言葉を詰まらせるコウイチロウ。

ナデシコクルーも唖然とした表情でコハクとコウイチロウとのやり取りを見ている。

 

「それとも"また"民間人を戦場に置き去りにするおつもりですか?あの時のように‥‥火星の時のように!?」

 

少し声を上げ、怒鳴るようにコウイチロウに詰めるコハク。

 

『‥‥‥』

 

火星の例を出され、完全に黙り込むコウイチロウ。

そこに駄目押しの一言を言うコハク。

 

「‥‥それとも提督‥‥今、ここで一戦交えますか?」

 

先程とは打って変わって冷たい声と鋭い眼光でコウイチロウに問うコハク。

この言葉でコウイチロウにもナデシコのクルーの間にも緊張が走る。

 

「‥‥」

 

『‥‥』

 

コハクとコウイチロウが互いに視線を逸らさず、無言で見つめ合う。

そして、

 

『‥‥よかろう、作動キーはそのままでよい。至急艦長と交渉人をこちらに寄越したまえ』

 

遂にコウイチロウの方が折れ、ナデシコのマスターキーは抜かれる事はなかった。

 

「ミスマル提督‥‥御英断感謝いたします。そして提督に対する数々の非礼、申し訳ありませんでした」

 

深々とお辞儀し詫びるコハク。

 

『コハク君、年齢に似合わぬ見事なその胆力、このミスマル・コウイチロウ感心したぞ。いつか、ゆっくりと話してみたいものだ。では失礼する』

 

「はい、こちらこそ。それでは失礼致します」

 

再びスカートの両端を両手で摘まみ、深々とお辞儀してミスマル提督を見送るコハク。

 

「ふぅ~」

 

通信が終わり、コハクは左手で額の汗を拭う。

 

「いやぁ~連合軍の提督相手あそこまで言うとは物凄い事をなさいますなぁ~」

 

プロスペクターの呟きに次々にクルーが同調する。

だが、クルーの顔に浮かぶのは笑顔だった。

 

「そうでもないですよ。今も緊張で手が震えていますから‥‥ほら‥‥」

 

ぎこちない笑みを浮かべて皆に手を見せるコハク。

たしかにその手は小さく震えていた。

 

「いやいや、よく言ったぜ、コハク」

 

「そうそう。格好良かったわよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ガイとミナトから褒められ、ほんのりと顔を赤く染めるコハク。

 

「では艦長、トビウメに参りましょうか?」

 

「はいッ!!」

 

「ユリカ、僕も行く」

 

そういってブリッジを出て行くプロスペクター、ユリカ、ジュンの3人。

 

「さて、アンタ達は食堂に移動して貰うわよ」

 

ナデシコのブリッジにムネタケの声が響く。

ライフルを持った兵士が居て、反対にこちらは丸腰‥しかも女性がいるとなってはここで抵抗するのはあまりにも愚作であり、下手に暴れれば死傷者が出る。

そう判断したのか皆は、渋々食堂へ向かう為ブリッジを出て行こうとする。

 

「ルリ、僕達も行こう」

 

「はい」

 

コハクはルリと手を繋ぎ、直接銃口に晒さないよう細心の注意を払いながらブリッジを後にしようとした時、

 

「そこの2人は待ちなさい」

 

ムネタケがコハクとルリの2人を呼び止める。

 

「‥‥」

 

「なんです?」

 

ルリは無言で振り向き、コハクは一応要件を聞いてやるつもりで返事をする。

 

「アンタ達はここに残りなさい。さっきソイツが言っていたでしょう。敵襲に備えるって。だからアナタ達はそれをしなさい」

 

ルリは一瞬、顔を伏せると溜め息をついてムネタケの方へと歩き出そうとする。

 

(なんか‥やだな、この人…)

 

ルリは自分に命令した相手に嫌悪感を持つのはこれが初めての経験ではあったが、権利を持つ者に命令されては従うしかない。

 

「そうそう♪"機械人形"は“人形”らしく、黙って"人間様"の言う事を聞いてればいいのよ♪」

 

ムネタケがその言葉を発した瞬間だった。

コハクの中で何かがキレた。

 

「‥‥って‥言った?」

 

「「えっ?」」

 

ムネタケとルリの言葉が重なる。

 

「‥お前‥今、なんて言った?」

 

(コハク!?)

 

コハクは俯きながら殺気が篭められた冷たい声を発している。

 

「お前‥今なんて言った!?」

 

「ヒッ!」

 

突然の怒声にブリッジの空気までもが震える。

 

「お前、今なんて言った!?」

 

殺気と怒声を叩き付けられたムネタケは後退り、尻餅を着く。

直接殺気を向けられた訳でもない兵士達も思わず後退りする。

 

「お前‥お前も‥お前も‥お前もあいつらと‥‥!!」

 

コハクの脳裏には研究所で非人道的行為を行い続けたあの連中とムネタケが被って見えた。

ゆっくりムネタケに近づいていくコハク。

だが、コハクの様子は先程までコウイチロウと交渉をしていた時の様な冷静さはなく、目つきは鋭く、興奮しているのか息遣いも少し荒い‥‥例えるなら獲物を狩る直前の肉食獣の様だった。

 

「むっ!?イカン!!」

 

様子を見守っていたクルーも完全に動きを止めていたが、コハクの様子に不審をもったゴートがコハクの行動を止めに入る。

 

「コハク!!よせ!!」

 

ゴートがコハクを羽交い絞めにする。

 

「放せ!!コイツは!!コイツは今、ルリを人形なんてほざいたんだ!!コイツはあそこに居た奴等と同類なんだぞ!!」

 

十代の少女なのに物凄い力で暴れる様でゴートもかなり必死にコハクを押さえている。

ムネタケもライフルを構えている連合軍の兵士達、ナデシコのクルー達もゴートとコハクのやり取りを唖然とした表情で見ているだけしか出来ない。

余程興奮しているのかコハクはルリの事を呼び捨てで呼んでいる。

 

「コハク。冷静になれ、今ここで能力を出して暴れればナデシコに居れなくなる。それにルリが傷つくかもしれないのだぞ」

 

「っ!?‥くっ‥‥」

 

ゴートが耳元でコハクに囁くとコハクは途端に大人しくなった。

だが、キッとムネタケを睨むと、

 

「次にルリを機械人形と呼んだり、傷つけるような真似をしてみろ‥その首叩き斬るぞ‥‥」

 

と、警告をした。

 

「ルリ君。君も食堂へ‥‥でないとコハクがまた暴れてしまう。よろしいですな、ムネタケ大佐?」

 

ゴートの問いにムネタケはコクコクと首を縦に振るしか出来なかった。

 

「では、行こうか」

 

「‥わかりました」

 

コハクはゴートに羽交い絞めされたまま食堂へと連れて行かれた。

ルリは表情を崩しはしないが、コハクが何故、今日、初対面の筈である自分の為にあそこまで怒ったのか理解できずに戸惑っていたが、このままこのいけ好かない人達と残るよりもナデシコの皆と食堂に行った方が幾分マシだったので、コハクを羽交い締めにしているゴートの後をついて行った。

 

「‥何なのよ‥何者なのよ…アイツは‥‥?」

 

ブリッジに残されたムネタケの呟きに答える者はなかった。

ナデシコのクルー達も戸惑いながらも食堂へと移動した。

 

 

・・・・続く

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