機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第41話

 

 

 

遺跡の調査も無事終了し、遺跡の謎の解明も古代火星人の説明で少しは解けた。

地球、木連の過激派もナデシコ、古代火星人の登場で早々に撤退して行った。

復路はナデシコで帰る調査団一行。

復路も往路同様10日の長旅だった予定がナデシコのおかげで1日と日程が短縮されたため、残った日程は今回の遺跡の調査報告にあてられた。

地球、木連の過激派もナデシコが居るので、襲ってはこないだろう。

万が一、ナデシコに対抗して宇宙戦艦を投入すれば、それは折角結ばれた地球と木連との和平条約を破る行為であり、それを行えば恐らく両政府は実行者を反逆者として切り捨てるだろう。

 

過激派の襲撃もなく、遺跡の調査が進む中、コハクはナデシコのお風呂場の脱衣所にて、大きな鏡に写る自分の姿をジッと見ていた。

 

「‥‥」

 

遺跡で図らずも自分の前世の姿とこの先、起こるであろう未来を見せられた。

その中でも、前世の自分は男だった‥‥この先に起こりえることも衝撃的な事実であったが、前世が男という事実もコハクにとっては十分に衝撃的な事実であった。

そして、今は女の身体となっている。

当然、今は下着も女物を使用し、普段はスカートを穿いている。

でも、前世の自分が男だった事を知り、女物の下着やスカートを身に着けていると、何だか自分が変態の様に思えてきた。

そして今、コハクの手には自分のブラがある。

 

「‥‥」

 

コハクが自分のブラをジッと凝視していると、

 

「あら?どうしたの?コーくん」

 

ミナトがやってきた。

 

「あっ、ミナトさん」

 

「ん?もしかしてブラ、小さくなっちゃった?」

 

コハクがブラをじっと見ていたことから、サイズが小さくなったのかと問うミナト。

 

「い、いえ‥そう言う訳では‥‥ただちょっと思う所がありまして‥‥」

 

「ふーん‥それよりもお風呂、入らないの?」

 

ミナトは服を脱ぎながらコハクに風呂に入らないのかを尋ねる。

 

「えっ?あっ、は、入りますよ」

 

コハクは慌てて服を脱いでお風呂に入る。

そして、バスチェアに座り、改めて自分の身体を見てみる。

生物兵器とは言え、外見は紛れもなく少女の身体だ。

あの時、前世の自分は『未来も記憶も全部君だけのモノだ』と言っていた。

例え前世の自分が男だったとしてもこの現世では生物兵器とは言え、身体は女なのだ。

今更気にするな‥心の中の自分がそう言う。

自分の前世が男だったのを知っているのは自分だけ‥‥

ならば、このまま黙っておこう。

そう思っていた中、ルリがお風呂に入ってきた。

 

「あら?コハクも入っていたんですか?」

 

「る、ルリ!?」

 

ルリの裸体を見て思わず変に意識してしまう。

今まで何度もこうして2人でお風呂に入ったり、夜、ベッドや布団の中で互いの身体は見慣れている筈なのに自分の前世が男だと分かると妙な気持ちとなる。

 

「コハク?大丈夫ですか?顔が赤い様ですけど‥‥?もしかしてのぼせたんですか?」

 

「い、いや、何でもない」

 

コハクは顔を赤くして湯船に入る。

すると、ルリもコハクを追って湯船に入り、しかもコハクの隣へと寄る。

ルリは普段通りにコハクと接しているのだが、今日のコハクは妙によそよそしい。

そんなコハクを見てルリは、コハクの身体の調子がどこか悪いのかと思い心配して彼女に近づき、身体を密着させる。

 

「っ!?」

 

ルリを益々意識してしまうコハクはついにのぼせて湯船に沈んだ。

 

「こ、コハク!!どうしたんですか!?コハク!!」

 

ルリは慌ててコハクを湯船の底から引き上げ、ミナトと共にコハクを脱衣所まで連れて行った。

脱衣所のベンチにてコハクはルリの膝枕にて身体を冷ましている。

女子風呂の更衣室とは言え、二人は流石に全裸と言う訳にはいかないので、二人は身体にバスタオルを巻いている。

 

「突然、のぼせるんですから、心配しましたよ。体調が悪いのでしたらちゃんと言ってくださいね」

 

「う、うん‥‥ねぇ、ルリ‥‥」

 

「なんですか?」

 

「‥‥その‥変な事を聞くかもしれないけど、僕って‥‥女の子‥なのかな?」

 

「えっ?」

 

ルリはコハクの質問に今更何を聞いているのかと思う。

これまで一緒にお風呂に入って来てルリはコハクの裸姿を何度も見てきている。

実際にこの目で見たことはないが、ルリは男性の身体と言うモノがどんなものなのかぐらいは知識として知っている。

その知識から照らし合わせてみてもコハクの性別はどうみても女性だ。

 

「コハクはどう見ても私と同じ少女ですよ。今更どうしたんですか?そんな事を聞いて」

 

「‥‥ううん‥なんでもない‥‥ありがとう‥ルリ」

 

「?変なコハクですね」

 

コハクを膝枕しながらルリはクスっと微笑した。

 

やがて、遺跡の調査は終わると、調査団はナデシコでコロニーへと帰還した。

イネスが連日、遺跡の調査結果の件で会議場へと足を運んでいる中、コハクは一人、宇宙海図を見ながら唸っていた。

前世の自分が体験した悲劇的な未来を回避するため、コハクが出した結論、それは現時点における草壁の抹殺だった。

草壁はあの熱血クーデターから現在も行方不明で、木連新政権もその行方を追っている。

しかし前世の未来とは言え、草壁は2201年にちゃんと存在していた。

ならば、この現世においてもどこかで生存している可能性は十分ある。

それならば今のうちに草壁を抹殺する事が出来ればあの悲劇的な未来を変えられると思い、草壁が潜伏しているであろう隠れ家がどこなのか予測するコハク。

未来で見た光景では機動兵器、宇宙戦艦を多数保有していたことから、潜伏先はこの火星か木星のどちらかであることは予想がついたのだが、まだどちらに潜伏しているのかわからない。

そしてコハクはもう一手打つことにした。

万が一にも自分が草壁の暗殺に失敗したときのため、最悪アキトとユリカの身柄の安全だけはと思いネルガルシークレットサービスのゴートにも協力をしてもらうことにした。

コハクはゴートにもし、自分が今年(西暦2199年)の6月10日に連絡もつかず、ゴートの前にもそして、アキトとユリカの結婚式にも戻らなければこの手紙の封筒を開けてくれと言って未来の事を記した手紙をゴートに託した。

最初ゴートはコハクの言葉の意味が理解できない様子で首を傾げたが、草壁のことを未来に影響しない程度に話すと理解してくれた。

 

長時間宇宙海図とにらめっこしていて決定打も打ち出せず、気がめいる。

気晴らしにコハクは市場へと出かけた。

戦災からの復興と地球、木星からの移民で火星のコロニーには戦前の様にいくつもの商店が並ぶようになった。

コハクは記念に露店商で銀のロケットペンダントを買った。

 

ナデシコに戻ったコハクは再び宇宙海図を広げ、更にはオモイカネから熱血クーデターの詳しい資料や現在の木連の移民状況など木星に関する資料をかき集め、再び草壁の潜伏先を考えた後、草壁は火星ではなく、木星圏に潜んでいるのではないかと考えた。

火星はこの先、地球、木星からの移民で人口が増えることが予想されるが、反対に木星圏は住民達が火星に移民して、人口が減る‥‥ということで人目も少なくなり、更に、一度探した場所には捜索の手が回らないという『灯台下暗し』的な考えで捜索の手から逃れ、一斉蜂起の時まで密かに力を貯めていると考えた。

それに木星には今まで木連の戦力を支え続けた兵器生産プラントがある。

今は活動を停止していると言うがそれも完全には信じがたい。

草壁が戦力を蓄えるにはこれまでの木連のやり方同様、無人兵器は絶対に必要な物だ。

プラントを管理する木連の人間が草壁派の人間ならば、簡単に偽ることが出来る。

コハクは白鳥九十九の元に行き、木星へ行くため、火星から木星へ向う輸送船に乗せてくれるように頼んだ。

その際、「あの時の借りはこれでチャラということでいいですから」と言って半ば脅すような形になってしまったが、木星へ行く目途は何とか出来た。

あとは‥‥

 

遺跡の調査報告も終え、地球と木連のサミットは無事に閉幕した。

そして、明日ナデシコは地球へ向け、発進する。

元々ナデシコを動かす為、クルーは軍人ではなく、元ナデシコのクルーを集めており、そのクルーのほとんどが民間人であり、彼らは有給休暇や職場で無理を言って休職してもらった者ばかり‥‥

火星でのサミットが終わればすぐにでも地球へと戻り、また元の仕事に戻らなければならない。

ナデシコ発進の前の日の夜‥‥

そのナデシコのとある部屋で2人の少女が身体を重ねていた。

いつもは受け身である筈のコハクが今日に限っては自らが異常なまでにルリの身体を求めた。

何度も唇を重ねる。

舌をルリの口の中に入れて彼女の口内を蹂躙する。

当分、ルリと会う事が出来ないと思うと自然にルリの身体が愛しく思えてしまう。

だから、今のうちにルリ分を沢山補充しておきたかった。

それに最悪の場合、これが最後の逢瀬になるかもしれないのだから‥‥

 

 

行為が終わった後、ルリは息も絶え絶えであったが、コハクは若干汗をかいた程度でベッドに横たわっている。

 

「ハァ‥‥ハァハァ‥‥ハァ‥‥」

 

「ねぇ、ルリ‥‥」

 

コハクがまだ呼吸の荒いルリに話しかける。

反対にコハクは息切れをしていない。

 

「ハァハァ‥‥ハァ‥‥何です?コハク」

 

「ルリはもう僕がいなくても平気だよね?」

 

「ハァハァ‥‥それは‥‥どういうことです?ハァハァ‥‥コハク、何処かに行くつもりですか?ハァハァ‥‥」

 

「い、いやこの先、働く所も別々になるかもしれないし、ルリが結婚したら離れ離れになるだろうし‥‥」

 

「ハァハァ‥‥そんな先‥‥ハァハァ‥‥のことまだ考えていません‥‥」

 

「そうだね‥‥でも、ルリも僕と同じくらい甘えん坊だもんね‥‥」

 

からかうような笑みを浮かべるコハク。

 

「そ、そんなことありません!」

 

ルリは息を整え、ガバッと上半身を起こし、否定する。

 

「‥‥そう‥‥それなら大丈夫かな?」

 

コハクはルリのその言葉を聞き安心したよう表情になるとそのまま眠ってしまう。

 

「?」

 

ルリはコハクの不可解な行動と言葉に疑問を抱きながらも明日の出港のため、眠りについた。

 

その日の夜、ルリは夢を見た。

何もない真っ暗闇の空間の中でルリはポツンと1人で立っている。

当たりを見回すと、誰かが歩いているのが見える。

目を凝らして見るとそれがコハクであるのがわかる。

 

「コハク、待ってください」

 

ルリが声をかけるとコハクは歩みを止め振り返る。

そしてルリの姿を見て、微笑むとまたルリに背を向け歩いていってしまう。

 

「待って!コハク!!」

 

ルリが必死にコハクを追いかけるが、足に重りがついているのかなかなか進まず一向にコハクに追いつかない。

その間にもコハクはどんどん離れていってしまいとうとうその姿は暗闇の中へ消えてしまった。

 

 

 

 

「っ!?」

 

翌日、ルリが慌てて目を覚ますと其処にコハクの姿は既に無く、彼女の代わりにテーブルの上にはコハクがしたためた手紙と銀のロケットペンダントが置いてあった。

手紙には「暫く留守にするが、6月10日のアキトさんとユリカさんの結婚式までにはなんとか帰ってくる」と書き始められ、突然旅に出たコハクの目的やどこに行くかなど詳しいことは書かれていないが、ただ一言「未来を守るため」と訳の分からないことが書かれていた。

そして銀のロケットペンダントは形見ではないが、いつでも自分はルリの傍にいるという証だと書かれていた。

中には以前、撮影したルリとコハクのツーショット写真が納められていた。

手紙を読んだ当初ルリは何かの間違いか、いたずらだと思いコハクを探すため艦内を走り回った。

しかし、オモイカネに聞いても艦内にコハクの反応はなく、既に艦内にはいないとの結論が出された。

ショックを受けたルリの姿をアキトとユリカが見つけ、ルリはコハクが突然どこかへといってしまったことを話すと2人はルリを優しく宥めた。

 

「大丈夫だよ。ルリちゃん」

 

「そうだよ。私達の結婚式までには帰ってくるって書いてあるんだし」

 

「でも‥‥」

 

「ルリちゃん。コハクちゃんのことを信じてあげなきゃ」

 

「そうだよ。火星のときもボソンジャンプの実験のときもコハクちゃんは帰ってきたんだ。今度も大丈夫だよ」

 

「‥‥わかりました」

 

「3人で待とう。コハクちゃんの帰りを」

 

「はい」

 

ナデシコの出航時間になってもやはり、コハクは戻ってこなかった‥‥

手紙の通り、コハクは何処かへと行ってしまった‥‥

その日ナデシコは予定どおり、火星を後にして地球へと向けて出港していった。

 

 

2199年 5月初旬――――

 

木星圏において、新地球連合と新木連政権との間で軍縮条約の為、廃艦処分となった大戦中木連の優人部隊 旗艦 要塞戦艦“かぐらづき”などの処分対象の艦艇が集められた。

今回の軍縮条約では木連側はかぐらづきの他にボソン砲を搭載しているかんなづきも処分対象となった。

地球側はナデシコ改級とも言えるゆうがお級の艦船が処分対象となった。

そんな中、処分前にかぐらづきが謎の大爆発を起こす事故が起こった。

また、かぐらづきの爆発事故の他に処分対象だったかんなづきとゆめみづきも処分前に行方不明となる事件も起こった。

木連側はこれが再び戦争の引き金になり得ると考えかんなづきとゆめみづきの行方不明についてはひた隠しにし、その行方を密かに木連側だけで調査を行った。

表側ではかんなづきもゆめみづきも爆破処分したと表明した。

かぐらづきの爆発事故に関して、当初はテロか破壊工作の可能性が指摘されたが、元々軍縮協定で廃棄処分予定だったため、最終的結論は廃棄中の事故としてこの案件は処理された。

 

 

 

 

それから時は流れ‥‥

 

 

2199年 6月10日―――――

 

色んな困難を乗り越え、そして最大の難関であるとされるユリカの父、ミスマル・コウイチロウの了承を得て、結婚の了承を貰い、火星での遺跡調査、サミットを終えたテンカワ・アキトとミスマル・ユリカはめでたく結婚した。

ユリカの希望通りのジューンブライドでの結婚であった。

2人の結婚式には1名を除きナデシコのクルー全員が出席した。

「6月10日には帰る」といってどこかへと旅立ったコハクはついにタイムリミットであったこの日になっても帰ってくることはなかった。

アキトとユリカはコハクが帰ってくるまで結婚を待とうかと思った2人であったが、意外にもルリはその意見に対し反対した。

「艦長達の結婚をコハク1人のために延期させるわけにはいきません。元々6月10日に帰るといっておきながら帰ってこないコハクが悪いんです」と強がっていたが、不安は隠しきれなかった。

アキトとユリカはそれでも結婚式を延期しようかと思っていたが、色々事前予約をしていたので、ルリには悪いと思いつつ予定通り、6月10日に結婚式を挙げた。

 

純白のウェディングドレスに身を包んだユリカに女性陣から羨望のため息がもれ、男性陣からも約1名別な意味でのため息が聞かれた。

教会のヴァージンロードをコウイチロウの手にひかれて歩くユリカの姿はいつものあの天真爛漫な姿とは考えられないぐらいの美女だった。

コウイチロウはグッと涙を我慢している様な険しい顔をしている。

やがて、結婚式が始まり、

 

「汝、テンカワ・アキトはこの女、ミスマル・ユリカを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかな時も共に歩み、死が2人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを神聖な婚姻の名のもとに、誓いますか?」

 

神父が婚姻の誓いをアキトに問うと、

 

「誓います」

 

白いタキシードを着たアキトは静かに、そして力強く答える。

アキトの誓いの言葉を聞いた神父は頷き、

 

「汝、ミスマル・ユリカはこの男、テンカワ・アキトを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかな時も共に歩み、死が2人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを神聖な婚姻の名のもとに、誓いますか?」

 

アキトと同じく、婚姻の誓いを神父がユリカに問うと、

 

「誓います」

 

純白色のウェディングドレスを着たユリカは静かに答える。

 

「では、誓いの口づけを‥‥」

 

アキトがユリカの顔を覆っているウェディングベールをゆっくり丁寧に持ち上げる。

そして、お互いの唇と唇の距離が縮まり、やがて2人の唇が重なる。

その瞬間、教会がワッと歓声と拍手に包まれる。

コウイチロウは此処で感極まって漢泣きをした。

 

そして女性陣達にはお待ちかねの時間、ブーケ・トスとなった。

「おめでとう」の言葉があふれる中でユリカが投げたブーケは女性陣の手をすり抜け、綺麗にルリの手元に落ちた。

 

結婚式の後の宴会では、予約していたレストランで店長から全員が出入り禁止をくらうほど盛り上がった。

歌に踊り、手品に漫談、浪曲に演奏、更にはヒーローショーなどお祭り好きなナデシコクルーたちが繰り広げるパーティーは朝まで続いた。

パーティーの最後にはルリが2人のために書いた作文を読み上げた。

あいかわらずの表情が薄く、棒読み口調であったが、十分にアキトとユリカへの愛情がこもった内容の作文だった。

ルリの作文に思わずアキトもユリカも歓喜の涙を流した。

 

こうして多くの人々から祝福されて2人はめでたく夫婦となった。

ユリカの苗字も『ミスマル』から『テンカワ』へと変わった。

 

 

2人の結婚式から9日が経った2199年 6月19日―――

 

テンカワ夫妻は、ルリ達大勢のナデシコクルーに見送られて新婚旅行へと出発した。

行き先は2人の故郷でもあり、2人が出会った思い出の地―――火星‥‥

もう一度、思い出の‥あの火星の草原で自転車を思いっきり走らせたいと、出発前にアキトはそう言っていた。

しかし、それは叶わなかった。

2人が乗った火星行きのシャトルはルリ達が見送る中、突如空中で大爆発を起こし、2人は還らぬ人となった。

空中爆発した為、アキトとユリカの遺体は何も残らなかった。

 

 

シャトルの事故から4日経った2199年 6月21日―――

 

テンカワ夫妻の葬儀が行われた。

誰もが2人の死を認めたくない中、粛々とプロスペクターが葬式を手配した。

アキトの両親は既に他界しているので、喪主にはユリカの父、ミスマル・コウイチロウが立った。

遺体はおろか、骨の一欠片も入っていない空の2つの棺桶をコウイチロウがユリカの遺影、ルリがアキトの遺影を持って見送った。

最後まで葬儀に参列するのを拒んでいたリョーコは髪を以前より短く切って出棺の直前に会場に現れた。

リョーコは最後まで涙を流すまいと決めていたが、最後の最後に「バカヤロー」と叫んで号泣した。

そして変わったのはリョーコだけではなかった。

2人の葬式後、あんなに頻繁に顔を合わせていたり、連絡を取り合っていたナデシコのクルー達はすっかり接触を絶ってしまい、皆はそれぞれの仕事に邁進するようになった。

まるでナデシコを忘れるかのように‥‥

ユリカとアキトの死を必死に忘れ去るかのように‥‥

ジュンと九十九は宇宙軍で順調に出世コースに乗り、ヒカルは複数の雑誌に連載を持つ程の人気漫画家になった。

メグミやホウメイガールズ達は今や人気上昇中のアイドルになったし、リョーコも宇宙軍から新たに組織された統合軍へと編入し、其処のパイロット育成部隊で鬼教官として名を馳せている。

イズミは修行に出ると言って世界の彼方此方を旅している。

ミナトはオオイソシティで白鳥兄妹と暮らしながら高校の教壇で教鞭を振っている。

ただ、アキトとユリカの事を思っているのか、ミナトは未だに九十九との結婚には至っていない。

また、アキトとユリカの後を追うかのようにイネスも飛行機事故により行方不明となり、死亡したとの見方が強まった。

それからすぐにイネスの死亡が正式に発表され、アキト、ユリカの葬式の時と同じように祭壇に空の棺が安置されたイネスの葬式が行われた。

アカツキ、エリナ、プロスペクター、ゴートのネルガル組は彼らが恐れていたとおり、反ネルガル企業と木連が手を組んでボソンジャンプへ研究・開発の参入が目立ち、コハクが行方不明になった為、ネルガルはボソンジャンプの研究が遅れに遅れて、ここ最近、ネルガルの業績が悪化し始めた為、仕事に追われる毎日を送っている。

ウリバタケは変わらず、実家の町工場を続けているが、やはりナデシコクルーとの連絡密度は薄くなっていた。

彼がナデシコクルーとの接触が薄くなったのはアキトとユリカの件もあるが、2人目の子供が生まれたことも関係していた。

生まれたばかりの子供の為にウリバタケは必死に働いたのだった。

ホウメイは東京の下町の近くに小さいながらも自分の店を持った。

皮肉にもアキトとユリカの死が皆を‥ナデシコのクルー達を強制的にナデシコから卒業させたのだ。

アキト達が住んでいたアパートも2人の葬儀後しばらくして老朽化を理由に取り壊されてしまった。

半年後、そこには新しいマンションが建った。

隙間風とは無縁の豪華で大きなマンションだった。

アキトの屋台も主が居なくなったので解体され、残ったのは屋台で使用していた底に「アキト&ユリカ」の文字が書かれた丼くらい。

この丼はウリバタケの提案で希望者に配られた。

アキトとユリカが生きていた痕跡がゆっくりとだが確実に消えていく。

そしてコハクも未だ帰らず行方不明のまま‥‥

彼女もアキトやユリカと同じく死んでしまったのではないか?と噂されるぐらいだ。

アキトもユリカもそしてコハクまでもがルリの中では思い出になってゆき、ナデシコのクルー達の中でもナデシコを含め、いつしか遠い過去の存在となっていった‥‥。

 

 

そして、時は流れた‥‥

 

 

2200年 10月15日―――

 

月軌道沖―――

 

「艦長、そろそろ交代の時間です」

 

と、後ろから声をかけてきたのは連合宇宙軍所属、試験戦艦ナデシコBの乗員の1人、サクラ准尉だった。

彼女は最近になってこの試験戦艦ナデシコBに配属された新人オペレーターで士官学校の成績が飛びぬけて良いわけでも悪いわけでもないが、趣味で作ったゲームソフトの出来が良かったと言う理由でナデシコBのオペレーターにスカウトされた。

 

「あれ?艦長、その写真は?」

 

艦長席のパネルの脇にある写真立てに気がついたサクラ准尉が艦長に尋ねる。

写真にはナデシコBの艦長と金髪の少女を真ん中に左側にコック服の青年と右側に長い髪で大人とは思えないほど無邪気な笑顔をした女性が並んでいた。

 

「‥私の家族です‥‥」

 

ナデシコB艦長――ホシノ・ルリ少佐は首から下げた銀のロケットペンダントを撫でるように触りながら答えた。

 

「もしかしてこの男性の方は艦長のご兄妹ですか?」

 

「少し違いますけど‥‥大体当たりです」

 

「大体当たり‥‥ですか?」

 

ルリの言葉にサクラ准尉は首を傾げた。

一方、艦長席の下にある管制官シートではハタノ准尉とウッドフォーク准尉が小声で話している。

 

「艦長って確か家族はいない筈じゃ‥‥遺伝子操作で作られたって聞いたぜ」

 

「バカ、知ねぇのか?ほら、1年ぐらい前にあっただろう?元ナデシコのクルーがシャトルの爆発事故で死んじまったあの事故‥‥」

 

「ああ、確か新婚一週間ってやつか‥‥?」

 

「そうだよ。新聞に出ていただろう?どうも事故にあったその人達が艦長の親代わりだったらしいぜ」

 

「へぇ~それじゃあ、あの金髪の女の子は?」

 

「艦長の妹さんらしい。まっ、当然血が繋がっていない義理の妹だけどな。なんでも家出したまま行方不明らしいぜ」

 

「それってやばいんじゃねぇ?今頃どっかで野垂死んでいるんじゃねぇの?」

 

「ハハハそうかもな」

 

ルリには2人の会話がちゃんと聞こえていた。

しかし、ルリは特に反応しなかった。

そう今は‥‥だ‥‥。

後日、彼らの部屋のメモリーに保存されていたお宝ともいえる大事なテレビ番組・アニメや画像データがすべて消えていた事は偶然の出来事だと思いたい。

コハクがルリの目の前から消え、次いであのシャトルの事故でルリにとって初めての家族はいなくなった。

涙を流す間もなくあっという間の出来事で、月日も流れ去っていった。

時間が止まり、何もかもが無価値に見えたが、ルリは立ち止らなかった。

自分の居場所は自分で勝ち取ると決めたから‥‥

いつか自分の下に帰ってくる妹に恥ずかしくないように‥‥

そして、出迎える事が出来るように‥‥

自分は前に進んで行かなければならない。

ルリがコハクの事を思っていると、

 

「いつもいっているじゃないですか!部屋に入る時はノックしてくださいって!!」

 

「男同士だろう?そんなつまらないこと気にすんなよぉ」

 

ブリッジのドアが開き、騒々しい声が飛び込んできた。

 

「男同士だってプライベートってものがあるんです!」

 

「お前が艦長の写真を枕元に入れている話だったら、クルー全員が知っているからプライベートとは言わないぜ」

 

「な、なに言っているんですか!?そ、そんな間違ったデマ情報を流すのはやめてください!!」

 

「おや?もしかして図星だった?」 

 

「ち、違います!」

 

漫才を演じながら入ってきたのはかつて木連優人部隊に所属し、現在はナデシコBの副長となった高杉三郎太‥改め、タカスギ・サブロウタ大尉と副長補佐のマキビ・ハリ少尉(通称ハーリー)であった。

この2人はいつもこうして暇さえあればじゃれあっている。

その姿はルリとコハクとはちょっと異なるが、まるで仲の良い兄弟に見える。

 

「か、艦長。僕はそんなことしていませんからね」

 

ルリが振り向いたので顔を真っ赤にして否定するマキビ少尉。

 

「艦長。こいつが枕の下に写真入れたいようなので艦長の写真ください」

 

「そ、そんなこと言っていません!艦長、ホントですからね!!」

 

2人のやり取りをみてルリは小さく微笑む。

今はここがルリの居場所‥‥

今も何処かでこの星空を見ているであろう妹が設計した艦。

ルリが勝ち取った新しい居場所‥‥それがこの新しいナデシコなのだ。

ルリはこの新しい居場所、新しい仲間、新しいナデシコで妹の帰りを待った。

しかし、この約9ヶ月半後にルリは思わぬ再会を果たす事になった‥‥。

 

 

 

・・・・続く

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