機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第45話

 

 

元木連将校、草壁春樹率いる火星の後継者鎮圧の為、宇宙軍はネルガルが月で建造している新型ナデシコ級宇宙戦艦、ナデシコCへの投入を決定し、ルリ達はその艦を運用する為の人材収集の為、旧ナデシコクルー達の下を訪れていた。

しかし、昔のナデシコクルーに嫉妬するハーリーとどうしても昔のナデシコクルーの力を必要とするルリとの間に溝が生じ、ハーリーは泣きながら街中へと走り去って行った‥‥。

 

「うっ‥‥ぐすっ‥‥艦長のバカぁ‥‥バカぁ‥‥バカはいいけど、宿舎には戻らないといけないし‥‥どういう顔をして2人に会えばいいんだ‥‥」

 

どの道、夜には宇宙軍の宿舎には戻らなければならない。

そうすれば、嫌でもルリとは顔を合わせる事になる。

あれだけの醜態をさらしておいて今更、どんな顔をしてルリの前に出ればいいのかまだ十代になったばかりのハーリーには分からなかった。

ハーリーは下を向きながら当てもなく街中をトボトボと歩いていた。

すると、

 

「うわぁっ!」

 

「きゃっ!」

 

前を向いて歩いていなかった為、ゴンっというとても痛そうな音とともにハーリーに衝撃が訪れる。

ハーリーは何とか踏みとどまったが、目の前ではドサッと言う何かが倒れる音がした。

慌てて見ると其処には自分と同世代ぐらいの女の子が尻餅をついていた。

 

「ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」

 

慌ててハーリーが倒れている女の子に手を貸して彼女を起こす。

 

「大丈夫‥‥」

 

ハーリーの手を借りて起き上がった女の子は無機質な声で答える。

 

(あれ?この子、なんだか艦長や僕に似ている様な気がする‥‥)

 

ハーリーは眼前の女の子がルリや自分と似た雰囲気を持っている事に首を傾げる。

とりあえずぶつかってしまったおわびにジュースでも買おうと公園の方へと向かった。

公園でジュースを片手にベンチに座る2人。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

特に会話もなく、ハーリーは気まずさを感じている。

チラッとハーリーが隣に座る女の子をチラッと見ると、女の子はちびちびとジュースの缶に口をつけている。

ジュースを飲んでいる女の子は相変わらず無表情のままである。

黙ってジュースを飲んでいるだけの筈なのに何だか空気が重く感じるハーリー。

 

(き、気まずい‥‥此処はやっぱり僕から声をかけるべきなのかな‥‥?)

 

(でも何て声をかけよう‥‥)

 

ハーリーが何かこの気まずい空気を払拭する為、何とか横に居る女の子とコミュニケーションを取ろうと思案していると、

 

「どうかしたの?」

 

意外にも女の子の方からハーリーに声をかけてきた。

 

「えっ?」

 

「貴方、さっき泣いているみたいだったから‥‥それにまだ涙が残っている‥‥」

 

女の子にそう指摘されてハーリーは目尻に残っていた涙を慌てて袖で拭う。

 

「だ、大丈夫です!!」

 

「‥‥そう」

 

再び無言の時間が流れ、2人はちびちびとジュースの缶に口をつける。

ハーリーはこの空気に耐え切れず、恐る恐る女の子に声をかける。

 

「あ、あの‥‥」

 

「ん?」

 

「君の名前‥なんていうの?」

 

「ラピス‥‥ラピス・ラズリ‥‥貴方は?」

 

「僕は連合宇宙軍少尉、マキビ・ハリ」

 

「宇宙軍?」

 

「はい。こう見えて僕は軍人なんです!!」

 

「そう‥‥」

 

ラピスと名乗った女の子は興味なさげに一言呟く。

互いの自己紹介が終わると、また黙ってしまう。

 

(うぅ~気まずい~)

 

ハーリーが自己紹介するまでは何とか成功するもその先の会話が途絶えてしまい、またもや気まずさを感じていると、

 

「ラピスちゃーん!!どこー?」

 

遠くでラピスを呼んでいる声を聞こえた。

 

「あぁー!そこに居た!!」

 

そして、ベンチに座っているラピスを見つけたのか1人の女性の人が駆け寄って来た。

 

(あれ?この人どこかで見た様な気が‥‥)

 

その女性はメガネに帽子を被っていたがハーリーはこの女性をどこかで見たような気がしてならなかった。

 

「もう、1人で先にいっちゃうんだもん、心配したんだからね。めっ!!」

 

「ごめん」

 

「ん?えっと‥‥君はラピスちゃんのお友達?」

 

その女性はハーリーに気づくと首を傾げ、声をかけてきた。

 

「い、いえ‥その‥‥先程、彼女とぶつかってしまいまして‥‥その‥‥」

 

ハーリーは気まずそうにラピスとの邂逅をその女性に説明し、その後ハーリーはこの女性に自分の愚痴を聞いてもらっていた。

彼自身にも分からないが、ハーリーは自然とこの女性に話していた。

ただ、当然ながら軍の機密に関わる事は話してはいない。

 

「へぇ~そうなんだ、艦長さんと喧嘩を‥‥」

 

「はい‥‥僕だって分かっています‥‥僕達だけでは敵には勝てないことくらい‥‥でも‥それでも、艦長には僕を信頼して欲しかった‥‥もっと僕の事を頼ってほしかった‥‥」

 

(なんだか、昔の・・・みたい‥‥)

 

女性は自分の大切な人と今のハーリーの姿が被って見えた。

 

「君はその‥艦長さんの事が好きなの?」

 

「えっ?えぇぇぇぇー!!ぼ、僕が艦長の事を!?」

 

「うん」

 

「ち、違います!!艦長はその‥憧れの人と言うか、僕にとってお姉さんみたいな人と言うか‥‥」

 

ハーリーは女性の言葉にあたふたとする。

ただ、否定する割にはハーリーの顔は赤い。

 

「そっか‥その艦長さんは君のお姉さんみたいな人か‥‥」

 

「は、はい‥‥」

 

(ますます・・・みたい‥‥それなら‥‥)

 

「ねぇ、マキビ君。私の話、聞いてくれる?」

 

「はい?」

 

「これは私の旦那さんの話なんだけど‥‥」

 

ハーリーにアドバイスを与えた。

 

「‥‥で、今では強くなったんだけど、君はまだまだこれからがあるじゃない。喧嘩をしちゃったらな、謝って、悩んだ事が有ったら、誰かに聞いてもらえばいいと思うよ。それに‥‥」

 

「それに?」

 

「それに、甘えるのは年下の子の特権だと思うから思いっきり甘えちゃいなさい。そして、大切な人を守れる強い男になりなさい」

 

「は、はい!!」

 

女性に話を聞いてもらいアドバイスをもらったハーリーの心のモヤモヤはいつの間にか消えていた。

そこへ、

 

「あっ、此処に居たのか!?」

 

女性と同世代ぐらいの男性が近づいてきた。

男性はサングラスをかけていたが、

 

(あれ?この人もどこかで‥‥)

 

ハーリーはこの男性も何処かで見た様な気がした。

しかし、いくら思い出してもこの男性にも女性にも直接な面識はなかった。

 

「ラピスが見つかったら連絡をよこせと言っただろう!?心配したんだぞ!!」

 

「あっ、ゴメン。忘れてた」

 

「全く‥‥」

 

(この人がさっき話の中で出てきた旦那さんかな?)

 

「それじゃあ、私達はもう行くね」

 

「は、はい。話を聞いてもらってありがとうございました。それにアドバイスも‥‥」

 

「うん、頑張れ、男の子」

 

ラピスはその女性と男性と手を繋ぐと街中へと消えて行った。

 

(親子‥なのかな‥‥?)

 

ハーリーが3人を見送った直後、

 

「ハーリー君」

 

「ハーリー、勘定は割りかんだぞ」

 

自分を探しに来たルリとサブロウタがやって来た。

ルリとサブロウタと合流したハーリーは、

 

「艦長‥‥その‥ごめんなさい!!」

 

ハーリーは早速、ルリに謝った。

 

「ハーリー君?」

 

ルリは突然頭を下げて謝るハーリーにキョトンとする。

 

「その‥‥僕は昔の‥艦長の昔の仲間の人達に嫉妬していました‥‥あの人達は昔の艦長を知っている‥‥そして艦長はあの人達に絶大な信頼をおいていた‥‥それが僕には羨ましくて‥‥そして悔しくて‥‥あんな子供っぽい態度を‥‥本当にすみませんでした!!」

 

「いいよ、ハーリー君。ハーリー君もハーリー君なりに頑張ろうとしていたんでしょう?」

 

「艦長‥‥」

 

「まっ、これで一件落着ってか?でも、ハーリー。お前なんでこうもあっさりと艦長に謝ったんだ?さっきまであんなに意固地だったのに?」

 

「その‥‥色々とアドバイスをくれた人が居て‥‥」

 

「アドバイス?」

 

「はい‥‥あっ、ああぁぁぁぁー!!」

 

突如、ハーリーは何かを思い出したかのように大声をあげる。

 

「どうした?ハーリー、いきなり大声をあげて?」

 

「さっき、アドバイスをくれた人!!何処か見た様な気がしたんですけど、艦長が持っている写真の人ですよ!!」

 

「っ!?」

 

ハーリーの言葉を聞いてルリは目を大きく見開く。

 

「ハーリー君、その人は1人でしたか!?」

 

「い、いえ‥ラピスって子と旦那さんの2人と一緒でした‥‥」

 

「その人達はどっちの方へ行きましたか!?」

 

「あ、あっちの方です」

 

ハーリーが先程まで此処に居たラピスと男女が行った方向を指で指すとルリは駆け出していくが、公園を出たところで辺りを見渡すが、ルリのお目当ての人は見つけることが出来なかった。

 

「‥‥」

 

ルリは悔しそうに顔を僅かに歪めた。

 

 

ルリ達はその日の人材募集を打ち切り、隊舎へと帰る為、電車に乗っていた。

車内ではこれまでの疲労と電車の揺れでハーリーとサブロウタは居眠りをしていた。

ルリは色々と思う所があるのか眠らず、外の夜景を見ていた。

そして、ルリ達が乗る電車の向かい側を快速電車が追い抜いて行く。

何気なく見ていたルリの目はその快速電車に乗っていたある3人の人物達を捉えていた。

 

「っ!?」

 

その3人の人物を捉えた時、ルリの目は大きく見開かれた。

ルリが見た3人の人物は成人男性と成人女性、そしてハーリーと同じくらいの女の子の3人‥‥。

その中で男性の方もルリの存在に気づいたのか口元を優しく微笑む様に歪ませた。

 

「っ!?」

 

向かい側を走る快速電車はルリの乗る電車を追い抜いて行った。

 

 

ルリ達が電車で隊舎への帰路についている頃、トウキョウシティーのホウメイの店にはミナトが訪れていた。

2人はウィスキーが入ったグラスを傾けていた。

 

「それで、アンタも乗るのかい?ナデシコCに‥‥」

 

ホウメイの下にはプロスペクターからナデシコCについての情報が伝わっており、当然ミナトにも伝わっていた‥‥

 

「そうだね。プロスさんから連絡を受けた時はルリルリの様子を見ただけで帰ろうかと思ったんだけど‥‥」

 

ミナトは元々プロスペクターからの話を聞いた後、本当は受けるつもりはなかった。

しかし、プロスペクターの話の内容を聞き、その考えが変わった。

 

「プロスさんの話でコーくんがまさかあんな目に遭っているとは知ったらね‥‥それにきっとルリルリも無理をしているんじゃないかと思って‥‥」

 

「そうだね。アンタの思っている通り、顔にはださないけど、かなり無理をしている。妹を人質に取られている他に艦長としての責務もあって、しかも敵は強い‥‥無理をしない方がおかしいさ‥‥ルリ坊はまだ二十歳にもなっていないんだからね」

 

「こんな時、ルリルリもあの艦長みたいにほげーっとできればいいんだけどね‥‥」

 

「艦長‥か‥‥」

 

2人のグラスの中の氷がカランと音を静かに立てた。

 

 

また一方、同じくトウキョウシティーの下町にあるウリバタケ家では、家族が揃って一家団欒、夕食の時間を過ごしていた。

 

「‥‥なぁ」

 

そんな中、ウリバタケがオリエに何気なく声をかけた。

 

「なに?」

 

「おめぇ‥今日、なんかあったか?」

 

「えっ?」

 

ウリバタケの問いにドキッとするオリエ。

彼女は昼間、ルリ達が此処に来た事を亭主であるウリバタケには黙っていた。

言えばきっとウリバタケは自分を置いてまたどこかに行ってしまう。

ハーリーが昔のナデシコに嫉妬したようにオリエもまたナデシコに嫉妬していた。

 

「な、なにも変わった事なんて無いわよ」

 

「‥‥」

 

ウリバタケはオリエの態度を見て、彼女が何かを隠している事はこれまでの夫婦生活の中で理解していた。

しかし、彼は敢えて聞かなかった。

食事が終わり、ウリバタケがビール片手にテレビを見ていると、

 

トントン‥‥

 

正面のシャッターをノックする音が聴こえてきた。

オリエは2人目の子供のオムツを変えており、手が離せない様子だったので、ウリバタケが対応に出る為に重い腰をあげて、

 

「はい、は~い、ったく、今何時だと思ってんだ?」

 

ウリバタケはブツブツと文句を言いながら正面口へと向かう。

その間もシャッターを叩くノックは止まらない。

 

「へ~い、見て分かんないの?今日はもう、お終い、店じまいなんだけど~?」

 

だるそうに来客を出迎えるウリバタケ。

 

「セイヤさん」

 

「あん?‥‥っ!?お、お前はっ!?」

 

ウリバタケは来客者の顔を見てビールの酔いが一気に醒めた。

 

 

 

 

ルリ達がナデシコCの人材集めに奔走している頃、火星の後継者が占拠した火星極冠遺跡では‥‥

遺跡内に設けられた研究室では、研究者達の罵声の飛び交う場所となっていた。

 

「イメージングが乱れている!」

 

「イメージ伝達率低下」

 

「メインシステムに逆流!」

 

「電源を切れ、もう一度やり直しだ!」

 

「システムを再起動させろ!!」

 

研究室の至る所に浮かんでいる空間ウィンドウには『IRUR』の文字‥‥

そこへヤマザキが助手のタカハシを連れて現れる。

 

「あぁ~相変わらずご機嫌斜めですね」

 

やっぱりこうなったかとやや予想通りの出来事にタカハシは慌てる様子もなく呟く。

 

「やはり戦乙女は悪役に力をかしてくれないらしいね‥‥ん?」

 

ヤマザキは遺跡ユニットと融合しているコハクを見て思わず声をあげる。

昨日までは全裸だったコハクにトーガの様な服が着せられていた。

 

「ああ、ミキちゃん達の発案で‥‥裸のままじゃ我々男性スタッフが変態、ロリコンだと言われて‥‥実際、女性スタッフからの視線がきつくて‥‥」

 

タカハシがチラッと研究室に居る女性スタッフを見ながらコハクに服を着せた理由を述べる。

 

「うーん‥‥逆に萌えるねぇ」

 

ヤマザキはトーガ姿のコハクを見て思わず頬を赤く染めた。

 

 

宇宙にあるターミナルコロニーの1つサクヤ周辺は戦場となっていた。

リアトリス級戦艦を2隻くっつけた様な艦影の双胴型宇宙空母から出撃していく多数のステルン・クーゲル。

発射されるグラビティ・ブラストとミサイルの雨霰。

攻撃を受けて撃沈される戦艦や駆逐艦、ジン・タイプの機動兵器。

 

「もう少しだ!もうすこし持たせろ!」

 

「統合軍の包囲網更に狭くなりつつあります!!」

 

「マジン部隊は全滅!!」

 

火星の後継者によって占拠されたターミナルコロニーを奪還すべく統合軍は火星の後継者に対して武力行使を実行していた。

統合軍からは3割の造反者を出したが、残り7割は政府軍としてこうして火星の後継者討伐に乗り出したのだ。

圧倒的戦力を投入する統合軍に対してサクヤの火星の後継者軍は徐々に戦力をすり減らし後退を余儀なくされている。

 

「大丈夫だ!!味方は必ず来る!!」

 

サクヤの管制室では火星の後継者のサクヤ担当の司令官は援軍の到来に希望を繋いでいた。

 

そのターミナルコロニー、サクヤの奪還に動いたのは統合軍第三艦隊だった。

旗艦であるゆきまちづきの艦橋では司令官は勝利を確信していた。

 

「敵の損耗率50%を突破。我が方の損害は3%」

 

「順調だな」

 

「先程、第五艦隊がクシナダを奪還したそうです」

 

「よし、こちらも降伏勧告をだせ」

 

もう間もなく自軍の勝利が決定する直前、ゆきまちづきを衝撃が襲う。

 

「むっ!?」

 

「なんだ!?どうした!?」

 

「エンジンブロックに被弾!攻撃です!」

 

「なっ!?」

 

次の瞬間、ゆきまちづきの至近距離に対艦装備をした多数の積戸気が出現した。

この奇襲により、ゆきまちづきを含む17隻が撃沈された。

旗艦が撃沈され指揮系統が混乱、逆に自分達が包囲殲滅されそうになった第三艦隊はサクヤから撤退した。

 

 

サクヤ攻防戦は火星極冠遺跡に居る草壁達の下にも報告があがる。

最初の奇襲攻撃で17隻撃沈と言う成果に火星の後継者の幹部達は思わず歓声をあげる。

 

「ぶい」

 

ヤマサキが誇らしげにブイサインをだす。

 

「おめでとうヤマサキ博士」

 

「これは大成功。でいいのかな?」

 

「はい。伝達率98%。これでほぼイメージ通りにとべますよ」

 

「そうか」

 

「今回の成功のカギはずばり、これです」

 

ヤマザキは草壁達に今回の作戦の成功のカギとなる代物を見せる。

それは一冊の漫画雑誌だった。

 

「漫画雑誌とボソンジャンプ‥‥わかりやすく説明してもらおうか?」

 

つい先ほどまで失敗続きだったボソンジャンプシステムがこの短時間でいきなり成功した理由が漫画雑誌‥‥普通ならば何故、こんなモノで成功したのは分からない。

それはボソンジャンプに強くこだわっている草壁も同様だった。

その為、草壁はヤマザキに説明を求めたのであった。

 

 

ナデシコCの人材収集から戻ったルリは隊舎の中にある大浴場の湯船の中に居た。

 

「星のきらめきは人の想い‥‥あの人達はやっぱり生きていた‥‥そして、今地球に居る‥‥」

 

ルリはかつての家族だった人達の事を想いつつ湯船に身体を沈めた。

 

「おまたせ」

 

「いえ‥‥」

 

大浴場から出ると外の通路ではハーリーが待っていた。

その後、2人はルリの部屋にてフルーツ牛乳を飲んだ。

フルーツ牛乳を飲み終えると、ルリは真剣な顔でハーリーを見つめ、

 

「マキビ・ハリ少尉」

 

「は、はい」

 

「明日午前8時に長距離ボソンジャンプでネルガルの月ドックへと直行、ナデシコCの最終調整を行ってください」

 

ルリはハーリーに命令を下した。

 

「月へジャンプ‥ですか?ですが、チューリップは使えませよ」

 

「A級ジャンパーによる単体ボソンジャンプです。シャトルでは敵に狙い撃ちにされるので此方の方が早く安全です」

 

「は、はい」

 

「オモイカネをよろしく」

 

その後、ハーリーたっての希望で、ルリはハーリーと手をつないで一緒に寝た。

 

 

その頃、トウキョウシティーのとあるゲームセンターでは‥‥

 

『フルーツ!バスケット!!!』

 

『ぐわぁぁぁぁっ!!』

 

対戦ゲームでヒカルとリョーコが戦っており、ヒカルのナチュラルライチがリョーコのゲキガンガーをボコボコにする。

 

「あぁっ!?ちっきしょー!もっかい勝負だっ!!」

 

「はいはい何度でもどうぞ。力押しのゴリゴリリョーコなんてらっくしょうだもんね!」

 

「っるせー!いくぞ、コンチキショー!軍人さんの底力を見せてやる!!」

 

「いいのですか?これで?」

 

2人の後ろでは何故かゲームセンターの制服を着たゴートが隣に立つプロスペクターに話しかける。

 

「はい。いくらヒカルさんとはいえ2年のブランクは長い‥‥短期間での効果的かつ実戦的な体感シミュレーションとしてこのゲームはまさに最適」

 

プロスペクターがこの対戦ゲームをヒカルに勧めた訳をゴートに話す。

その間にもヒカルのナチュラルライチはリョーコのゲキガンガーを魔法陣で封じ込め身動きが取れない所へ必殺技をぶち込む。

 

「ああっ!?」

 

「ほらほら、後が無いよ」

 

「くっそー!」

 

「あーあ。また力押し」

 

「それにしてもヒカル君はすごいですね」

 

リョーコをボコボコにしているヒカルを見てゴートは思わず感嘆の声を漏らす。

 

「いえいえ、まだまだ昔の6割。あの化け物と対等に闘ってもらうにはもっと感覚を元戻してもらわないと‥‥」

 

しかし、プロスペクターの見解ではナデシコ乗艦時の頃に比べるとまだまだであるらしい。

 

「奴等の動向はつかめましたか?」

 

「いえ、ただ日本にいることは確かです。奴等の目的は恐らく‥‥」

 

ゴート達、ネルガルのシークレットサービスも火星の後継者動向を探っていた。

そして、その内のある一団が日本に潜伏している所まで突き止めた。

彼らの目的をプロスペクターに伝えようとした時、

 

ポロロ~ン

 

ゲームセンターに場違いなウクレレの音が鳴り響く。

 

「おっ、これで揃い踏みですな」

 

プロスペクターとゴートがウクレレの音がした方を見ると奇抜な衣装を身に纏ったイズミが居た。

 

「ブランク‥長いです」

 

イズミはウクレレを弾きながらそう一言呟いた。

 

 

火星極冠遺跡では、ヤマザキが漫画雑誌とボソンジャンプの成功に関する説明をする為、まずは漫画雑誌の内容を知って貰う為、草壁を始めとする火星の後継者の幹部達と一緒に漫画雑誌の中の漫画を読んでいた。

いい年をしたおっさん達が、顔がくっつくほどの至近距離で漫画雑誌を見ているこの光景は正直に言ってドン引きモノである。

漫画雑誌を読み終えると、ヤマザキは落語の席を設け、

 

「さて、いままでのシステム暴走の原因はズバリ、『夢』です」

 

今回のボソンジャンプの成功の説明を始める。

ヤマザキの周りには遺跡ユニットと融合したコハクの画像や『IRUR』と書かれた空間ウィンドウが浮かんでいる。

 

「生体翻訳機、タケミナカタ・コハクの見る夢がある種のノイズとなっていたのです」

 

そこで一区切りする。

 

「さて、お立ち会い」

 

身体をのりだし全員が注目するようにする。

 

「いままではタケミナカタ・コハクの夢に負けないようにこちらのイメージを増幅する作戦を取っていましたが、今回は日常のほのぼのとした漫画の内容をミックスしてみました」

 

「なるほど、その為の漫画雑誌だったのだな」

 

クサカベが何故かスポットライトをあびながら質問する。

 

「はい。彼女の夢を逆流。今頃、彼女は愛しのお姉様と一緒に平和なほのぼのとした日常生活を送っている事でしょう。まさに我等が技術の勝利!」

 

遺跡ユニットと融合しているコハクの体が発光する。

光の中でコハクはルリの姿が見えた。

 

ルリと同じセーラー服を着て、一緒に学校へと行き、

お昼休みにはルリと一緒に昼食を食べ、

放課後、ルリはコンピュータークラブへと行き、

コハクはテニス部へと行く。

ほんの些細な事で喧嘩をして、

そして、仲直りをする‥‥

夏のある休みの日にはルリと共に海水浴へと行く。

 

「ねぇ、ルリは何処に行きたい?」

 

コハクがルリに何処へ行きたいかと訊ねると、

 

「秩父山中」

 

ルリが行きたい場所をコハクに伝える。

すると、ルリの姿がまるで鏡が割れるように割れ、そこから左眼が赤い義眼の男の姿へと変わった。

 

 

深夜の秩父山中にて、眩いボソンの光がばらまかれ、赤い鬼の様な機動兵器‥夜天光が空から秩父山中に降りて来る。

そしてその機体のコックピットハッチが開き、鎧のようなパイロットスーツを来た男が呟く。

 

「決行は明日」

 

「「「「「「おお‥‥」」」」」」

 

夜天光の足元に居た編み笠の6人が声をそろえる。

 

「隊長のただいまのジャンプがその証拠ですな」

 

「うむ」

 

興奮のあまり、その中の1人が身体をのりだす。

 

「各ポイントの綿密なるデータの収集がいまこそ役に立つ」

 

「我等のこの後の任務は?」

 

「高みの見物‥‥?」

 

「いや」

 

先頭にいた2人の言葉をさえぎる。

 

「我等は本来の任務にもどるまで」

 

「では‥‥」

 

夜天光のパイロット‥北辰は目を細める。

 

「人形と試験体の確保だ‥‥」

 

男は思い返していた。

恐怖に震える少女の姿を‥‥

そしてその少女を自分の目の前からかっさらい助け出した1人の男の姿を‥‥

 

「ラピス‥‥逃がしはせぬ‥‥そして、救済人・・・・・・・今度こそ‥今度こそ、決着をつけてやる‥‥」

 

北辰達は木連時代からの草壁お抱えの暗殺集団だった。

そのプロの北辰が出し抜かれた‥しかも目の前で‥‥

それにはある訳があった。

北辰は左手で自らの左眼に手を当てる。

彼の左眼は赤い眼となっている。

これはオッドアイと言う訳ではなく、彼の左眼は義眼だった。

義眼故に一瞬、視界に隙が生まれ、対象を奪われてしまったのだ。

 

彼が義眼になった経緯‥‥

それは2年前に遡る。

木連にて政権の座を追われた草壁一派は木連の人間が火星へと移住した後、軍縮で廃棄処分となるかぐらづきに潜伏していた。

その潜伏先に1人の戦乙女が殴り込んできた。

かぐらづきの通路にはバッタ、ジョロの残骸、そして迎撃に向かった同志達の死体‥‥

かぐらづきは戦場のありさまと化した。

そして草壁、北辰の前に現れた戦乙女は此処までの戦いで体力を消耗したのか息をきらし、所々に血を流す傷をつくり、手には日本刀を握った金髪の少女だった。

戦乙女は草壁の姿を見ると、絶叫をあげながら斬りかかって来た。

しかし、そこを北辰が身を挺して草壁を守り、戦乙女を倒した。

ただその代償に彼は左眼を失ったのだ。

北辰と戦乙女の戦いは結果的に北辰が勝利したが、戦乙女は此処まで来るのに体力を消耗していた。

もし、戦乙女が万全の状態で来ていたら結果は違っていただろう。

戦乙女は北辰に敗れはしたが、死んではおらずまだかすかに息があった。

草壁は当初、戦乙女を洗脳して自分の手駒の1つにしようかと思ったが、安易な洗脳では、いつ洗脳が解けるか不明な為、洗脳は見送られた。

しかし、このままみすみす殺してこの戦乙女を手放すのは惜しく、何か手はないかと判明するまで戦乙女は医療用の冷凍ポットに入れていた。

 

(あの時の事を思い出すと左眼が疼く‥‥)

 

自らの左眼を失った日の出来事を思い出し、左眼を覆う手に思わず力が入る北辰だった。

 

また某所では、

 

「明日はイネスさんの三回忌だ‥‥多分、ルリちゃんはイネスさんのお墓に来るだろう」

 

「そうだね‥ルリちゃん毎年来ていたもんね」

 

「・・・、明日俺は、ルリちゃんと会ってこれまでの事を話そうと思う」

 

「‥‥ルリちゃん‥許してくれるかな?」

 

「分からない‥でも、あの子を守る為にはこうするしかなかった‥‥例え、ルリちゃんから罵倒されようが、殴られようが、俺は後悔していない」

 

「‥‥わかった。それじゃあ、私も一緒に‥‥」

 

「いや、・・・はラピスと一緒にユーチャリスの出航準備をしてくれ‥‥きっとアイツも現れるだろうから‥‥」

 

「・・・。‥‥分かったよ。でも、気を付けてね」

 

「ああ」

 

 

その夜、ゴートに非通知でsoundのみの通信が入った。

 

「ゴートさん‥‥」

 

「むっ?その声、・・・・かっ!?」

 

「はい‥明日、俺はイネスさんのお墓の前でルリちゃんを待ちます。その時、恐らくヤツらも現れる筈です」

 

「自分自身を囮としてヤツらを釣り上げるのか?」

 

「はい‥草壁と同じくアイツらも野放しにしてはならない存在ですから」

 

「わかった。此方でも襲撃できる体制を整えておこう」

 

「お願いします」

 

ゴートは非通知の通信を受けた後、早速行動を開始した。

 

 

翌朝、ハーリーはサブロウタと共に宇宙軍地下ジャンプ実験ドームに来ていた。

ガコンという音とともにエレベーターの戸が閉まり地下へと降りていく。

 

「昨日はよく眠れたか?マキビ・ハリ少尉」

 

「はい」

 

「で?どうだったんだ?」

 

「え?何がですか?」

 

「昨日、艦長の部屋に泊まったんだろう?」

 

「なっ、なんでその事を!?」

 

ハーリーは何故サブロウタが昨夜のことを知っているかと驚愕した。

 

「で?どうだった?艦長、優しくしてくれたか?」

 

「えっ?ええ‥まぁ‥‥」

 

「おぉー言うねぇ、で?」

 

サブロウタはハーリーに昨日の夜、彼がルリの部屋に泊まったことは知っていたが詳しい内容は知らないので、その内容‥昨夜、ルリの部屋で何をしたのかを尋ねた。

ハーリーは昨夜の事を思い出し、頬ほんのりと赤く染めて話し始めた。

 

「フルーツ牛乳をご馳走になって‥‥」

 

「それから?それから?」

 

「手を繋いで一緒に寝ました」

 

「え?それだけか?」

 

「はい」

 

「‥‥」

 

まぁ、ハーリーは11歳の初心な少年なので、サブロウタが想ったような事は無かった。

とは言え、ルリはコハクとの間で既にそれに近い事をしている経験があるとはサブロウタもハーリーも知る由もなかった。

やがて、エレベーターが地下につく。

 

「時間がない。急ぎましょう」

 

エレベーターを降りるとすぐに此処の責任者であるタニ博士が2人を出迎えた。

ハーリーは早速ジャンプの準備をし、サブロウタは管制室で彼を見送る。

 

「システム準備OK」

 

「ジャンパー脈拍、心拍数、共に正常」

 

「マキビ少尉、気分はどうかね?」

 

「なんだか操り人形になった気分です」

 

ハーリーが着ている特殊スーツには沢山のコードがついており、その姿がマリオネットにも見えたので、強ち彼の例えは間違っていないかもしれない。

 

「それは君の体調を確認するためのものだ。ガマンしてくれ」

 

「ハーリー、月で会おうぜ」

 

「はい」

 

「ナビゲータ。ゲート中央にむかいます」

 

「クリスタルシステム稼働」

 

ハーリーの目の前に自分を月へと導く為のジャンパーが現れる。

 

「マキビ・ハリです。よろしく」

 

「よろしくね」

 

「僕、A級ジャンパーの人に会うのは初めてです」

 

「イメージは私がするから貴方はリラックスしてね」

 

「はい」

 

ハーリーが気を静めて、リラックスし目を閉じるとまわりの輝きが強くなる。

そして彼はA級ジャンパーの人と共に月へと跳んだ‥‥

 

その頃、火星の極冠遺跡では‥‥

 

「あれ?」

 

遺跡と融合しているコハクの目の前を掃除していた清掃員がコハクを見て思わず声を上げる。

 

「どうした?」

 

「あっ、いや‥今、戦乙女が動いたような気がして‥‥どこかで誰かが跳んだのかな?」

 

「まさか、気のせいだろう。気のせい」

 

「そうかな‥‥?」

 

もう1人の清掃員は気がつかなかったみたいなので、最初に声をあげた清掃員も見間違えだと思いそのまま掃除を続けた。

彼らは、ボソンジャンプシステムは今、自分達が抑えているので、自分達以外の者がボソンジャンプ出来る筈が無いと思ったのだった。

 

ハーリーが月基地へと跳んだ頃、ルリは喪服に身を包み、同じく喪服を着たミナトと共に某所にある公共墓地へと来ていた。

そこでルリはある再会と真実を知る事になる。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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