機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第4話

 

 

 

地球でも有数の大手企業、ネルガル重工が建造した最新鋭艦、機動戦艦ナデシコはスキャパレリ・プロジェクトの為、木星蜥蜴の手によって陥落した火星へ向かおうとしていた。

しかし、ナデシコの力をみた連合軍はその力を手に入れようとナデシコの拿捕を決め、その役目をナデシコ艦長のミスマル・ユリカの父であり、連合宇宙軍第三艦隊提督のミスマル・コウイチロウに命令した。

そして、連合軍との交渉の為、コウイチロウが座上している戦艦トビウメにはナデシコの艦長であるユリカ、副長のアオイ・ジュン、交渉人としてプロスペクターが向かった。

交渉の間、ナデシコのクルーは食堂に軟禁されることとなった。

そのナデシコの食堂はなにやら重苦しく沈黙した空気が漂っていた。

 

~ナデシコ 食堂~

 

コハクは食堂の隅っこで膝を抱え座り込み、顔も膝に埋めている。

あの時ブリッジに居なかったアキト達食堂スタッフとウリバタケ達整備員も事情は知らないが、何やら話しかけづらい様子。

 

「ルリルリ、声かけてあげたら?」

 

「ルリルリって、もしかして私の事ですか?」

 

「うん。ルリだから、『ルリルリ』。貴女の仇名よ。可愛いでしょう?あっ、因みにコハクちゃんは、『コーくん』ね、あの子自分の事を『僕』って呼んでいるから」

 

「は、はぁ~」

 

「それよりも、ルリルリ、あの子に声をかけてあげたら?」

 

「わ、私が、ですか!?」

 

「そうね。あの子、ルリちゃんのためにあそこまで怒っていたようだったし‥‥」

 

「わ、わかりました」

 

ミナトとメグミに言われ、ルリは恐る恐るコハクの元へと向う。

そしてコハクと目線を合わすように膝を折り、声をかける。

 

「コハク‥‥あの‥その‥さっきはありがとう‥‥」

 

ルリに声をかけられピクッと体を震わせて反応するコハク。

 

「でも、キノコさんの言った事も間違っていません。私はマシンチャイルドですし‥‥」

 

ルリがそう言った時、コハクがバッと顔をあげたと思ったら両手を少女の背中へ回し、一気にルリを抱き締める。

コハク自身、どうしてあそこまで怒ったのか理由はわからないが、ルリを人形扱いされて無性に腹がたったのだ。

しかし、その反面、もしあそこで能力を使用し暴れていたら、ゴートの言う通り、ルリが怪我をしていたかもしれないし、ルリに自分の能力をさらけ出してしまうことにも繋がる。

もし、ルリは自分の能力を見たらどんな反応をするだろうか?

きっと、「化け物」と言って恐れおののき自分を拒絶する筈だ。

コハクにとって何故かルリに拒絶されることも無性に嫌で仕方がなかった。

 

「こ、コハク?」

 

突然、コハクに抱きしめられてちょっと驚くルリ。

 

「ルリさん、それは違う‥それは違うよ‥確かに…ルリさんはマシンチャイルドだけど‥ルリは僕と違って人間だ‥‥"ホシノ・ルリ"という1人の人間だ‥‥」

 

ルリを抱きしめる手に少し力が入る。

 

「でも、私は‥‥」

 

ルリはコハクの言った『僕と違って』の部分に違和感を覚えつつもルリは自分がマシンチャイルドであり、マシンチャイルドは人間ではないと言う自覚があった。

それ故にコハクから人間だと言われても戸惑う事しか出来ない。

 

「‥ルリさんは‥温かい‥‥」

 

「コハクも温かいですよ」

 

暫く抱き合っていた2人であったが、

 

「僕はもう大丈夫だから‥‥だからルリさんも自分を人形だとか機械だなんて言わないで‥‥」

 

「‥はい」

 

美少女同士の抱擁姿に食堂の雰囲気は別の意味で沈黙した雰囲気となった。

ある者は顔を赤くし固まり、ある者は手にしていた飲み物を床にこぼし、またある者はこの場にカメラを持ち合わせていないことを酷く悔しがっていた。

 

「なんか仲の良い姉妹って感じね」

 

「そ、そうですね」

 

さすがミナトは大人の女性なのか表情には余裕があるが、メグミにはちょっときつかったようで顔を赤く染めている。

 

一方、トビウメに行ったユリカ達はというと‥‥

 

~連合軍宇宙軍 第三艦隊 旗艦 トビウメ 応接室~

 

「さあ、ユリカ。たーんと食べなさい。ユリカが好きなフタバ屋のケーキだよ。ショートもチョコレートもレアチーズも一杯あるからなぁ~」

 

プロスペクターが軍の担当者との間で交渉を続けている間、ユリカはトビウメの応接室で沢山のケーキを前にして父親と2日ぶりの団欒(?)を楽しんでいた。

 

「ねぇ、お父様?テンカワ・アキト君。覚えてらっしゃいますか?」

 

「テンカワ?‥‥テンカワ‥‥?うーん‥‥誰だっけ?」

 

「火星でお隣だった方ですわ。私、ナデシコでアキトに会いました」

 

「うーん‥‥ああ、あの火星のテンカワか!!」

 

「ええ、そのテンカワさんです‥アキトのご両親、私達が火星を離れた直後に殺されたそうです」

 

「殺された?それは穏やかじゃないな。それにあの件は事故だったと報告を受けているが‥‥?」

 

どこか芝居がかった父の言い回しに一瞬目を細めるユリカ。

 

「本当にそう思ってらっしゃいます?」

 

「い、いや確かにそんな噂を聞いていないわけじゃないが。お前に聞かせるのは忍びがたくてだなぁ‥‥」

 

髭をいじり、ユリカから目線をずらすコウイチロウ。

やはり、アキトの両親の件は単なる事故ではない可能性もある様だ。

 

「お待たせしました」

 

そこへ応接室のドアを開け、プロスペクターが入ってきた。

 

「結論は出たかね?」

 

「はい、色々協議した結果‥‥ナデシコは、あくまでも我が社の所有物であり、その行動に制限を受ける必要なし」

 

プロスペクターは今までにないほど、まじめな顔でコウイチロウに言い放った。

協議結果は当初のモノと何ら変わりなく、ナデシコは民間企業、ネルガル重工のモノであり、連合軍には一切その運用、制限は認めず、スキャパレリ・プロジェクトの為に火星へ向かうと言う結論に至った。

 

場面は戻りナデシコの食堂では‥‥

 

~ナデシコ 食堂~

 

「あのネルガルのヒゲ眼鏡の人、大丈夫かな?ちょっと頼りないよね?」

 

メグミが軍との交渉に向かったプロスペクターの事を案じる。

 

「人は見かけによらないよ、メグちゃん。大丈夫よ」

 

ミナトは不安そうなメグミを励ます。

 

(確かにプロスさんの実力は計り知れない‥‥交渉術を始めとしてあの人、意外と体術の腕前も凄いからな‥‥まっ、普段から本名を名乗らない、教えない所からして色々と侮れない人だからな‥‥)

 

自らの教育係の1人だったプロスペクターの正確な実力はコハクでもわからなかった。

コハクの問題がルリの手によって解決した後、皆はこの先の事で不安そうな様子だ。

其処に、

 

「何だ?何だ?皆、しけた面しやがって!! よぉし、俺がとっておきの元気が出るビデオを見せてやるぜ! じゃあ~~~ん!!」

 

ガイがこの空気を変えようと普段持ち歩いていた携帯型のビデオデッキをウリバタケに頼んで食堂のモニターに接続してもらった。

 

「スゲー旧式のビデオだから今のテレビに映すの面倒なんだよなぁ~‥‥ホレ出来たぞ」

 

「OK、さあ皆!!これを見て元気になるんだぁっ!!スイッチオン!」

 

ガイの掛け声と共に食堂の照明が落ち、 唯一の光源であるスクリーンに全員の視線が自然と集まる。

そして流れる音楽ともにスクリーンに映し出されたのは‥‥

 

“ゲキガンガー3”

 

「「「「はぁ?!」」」」

 

スクリーンに映し出されたアニメにガイを除く一同はキョトンとする。

 

「何だ?コレは?」

 

ゴートが皆の気持ちを代弁するかのようにガイに尋ねる。

 

「幻の傑作ゲキガンガー3‥全39話‥イヤ~燃え燃えっス」

 

「あれ?でもオープニングが違う」

 

アキトはこのアニメを知っている様子でオープニングが映し出されているスクリーンを見ながら首を傾げる。

 

「分かるか?オープニングは3話から本当のやつになるんだよなぁ‥‥なんだ、お前か?」

 

ガイはオープニングの指摘を受け、目を輝かせていたが、その指摘をしたのがアキトだったことで急にしけた面となるかと思いきや、

 

「お前にゲキガンガーを語る資格はない!!」

 

アキトに鋭い目つきでビシッと指をさすガイ。

 

「杖忘れているぞ」

 

「うっ‥‥」

 

ウリバタケがガイに松葉杖を手渡す。

ゲキガンガーを指摘する事で痛みを忘れていたが、その痛みが今になってやってきたのか彼の顔色はやや悪い。

 

「分かるよ!!火星で子供の時に‥‥」

 

ガイに自分のゲキガンガーについての想いを否定されて、反論するアキト。

 

「だったら、なんでロボットのパイロットが嫌なんだよ!?コックがなんだ!?」

 

「いいじゃないか!!」

 

アキトとガイ‥2人の間で火花が飛び散るぐらい互いに睨み合っている。

2人がいがみ合っている間にもオープニングが終わり、

 

『無敵!!ゲキガンガー発進』

 

タイトルコールが始まると、

 

「「おおおー」」

 

先程まで睨み合っていた2人はいつの間にかスクリーンに1番近い席に座り、手を叩いて喜び、ゲキガンガーを見始めた。

 

「‥バカ」

 

そんな2人の様子を見てルリはポツリと呟いた。

そして食堂に居るクルー達はどうせすることもないので皆でこのアニメを見ることになった。

 

(なんか、このアニメのヒロインの声、ルリさんに似ている様な気がする)

 

ゲキガンガーに登場するメインヒロインのナナコと言うキャラの声がルリに似ている事に疑問を感じるコハク。

このアニメが作られた年代から勿論ルリがアフレコをしたわけではない事は直ぐに分かる。

世の中には似たような顔を持つ人間が3人居ると言うが、似た声を持つ者もいるのだろうか?

コハクがそんな事を思っていると、

 

「しかし、暑っ苦しいな。コイツ等‥‥」

 

「武器の名前を言うのは音声認識なのか?」

 

ゲキガンガー3を見ていたウリバタケとゴートの感想に

 

「違ぁう!何で分からないんだっ!!」

 

と、1人でわめくガイ。

 

「これが熱血なんだよ!!魂の叫びなんだよ!!皆、このシチュエーションに何も感じねぇのか!?奪われた秘密基地!軍部の陰謀!残された子供たちだけでも事態を打開して鼻を明かそうとおもわねぇのか!?」

 

「誰だよ?子供って?」

 

ウリバタケがボソッとツッコミを入れ、瓢提督はいつの間にか居眠りをしていた。

 

「どうした皆?絶対鬼の様に燃えるシチュエーションなのに!?」

 

「よし!!」

 

アニメを見ていたアキトが急に立ち上がり、手には中華鍋をもち、食堂のドアを開けたと思うと、見張りの兵士の頭を思いっきり叩いた。

 

「ぐはっ!!」

 

「俺、今からロボットに乗って艦長取り戻してきます」

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

「俺、火星を助けたい‥‥例え世界中が戦争しか考えていなくても‥それでももっと他に出来ることがある筈‥皆、それを探すためにここにきたんじゃないのかな?」

 

「どうしたの?急に?」

 

今まで黙ってアニメを見ていたアキトが急に熱血漢になり、その理由を聞いてみたミナト。

 

「俺、あの時‥‥ロボットに乗っていた時、コハクちゃんに言われたんです。自分が何かしたいのなら、戦ってでもなんとかしなきゃいけないって、だから俺、もう逃げるのはやめるんです。そして火星に残された人達を助けたい!!」

 

自分の決意を皆に語るアキト。

 

「でも、具体的にどうするんだい?テンカワ。キノコの仲間達が武器を持ってあちこちにいるんだよ?」

 

冷静なホウメイの言葉。

確かに向こうは武器を持って武装している。

今ここで倒した兵士の武器を奪っても全員を相手には出来ない。

 

「それだったら、ブリッジを確保すれば問題ありません」

 

ホウメイの問いに答えたのは、コハクだった。

 

「ブリッジを?」

 

「はい、ブリッジを確保できれば、あとは隔壁を閉めて相手を孤立させて、各個撃破すれば連中を無力化させることが出来ます」

 

「なるほど、それで人選はどうする?」

 

ゴートがコハクの案に賛成し、人選を聞く。

 

「‥‥格納庫にはパイロットの方々と整備班の方々‥‥そちらの指揮はゴートさんが執ってください」

 

「了解した。しかし、ブリッジの方はどうする?」

 

「僕が行きます」

 

「コハクちゃん1人で!?」

 

「平気なのかい?」

 

1人でブリッジ奪還に行くといったコハクにアキトとホウメイは心配そうに声をかける。

恐らくブリッジにはムネタケがおり、ナデシコの通路よりも厳重に警備されている筈だ。

しかし、

 

「いや、コハクなら1人でも問題ない。むしろ大人数で行った方がかえって足手纏いになる」

 

ゴートが冷静に言う。

 

「コハク、くれぐれも能力は使うな。それと‥‥」

 

「無用に人を殺すな‥‥でしょう?」

 

「うむ」

 

コハクとゴートが小声で話していると、

 

「あのぅ~それで私達はどうすれば?」

 

メグミが手を上げながらコハクとゴートに尋ねる。

 

「メグミさんとミナトさんはもう少し食堂で待機していてください。僕がブリッジを奪取したら、連絡を入れますので」

 

「ルリルリはどうするの?」

 

「ルリさんはブリッジ奪還後、すぐ隔壁の操作をやってもらうので連れて行きます」

 

「でも、大丈夫なの?」

 

「大丈夫です。必ずルリさんを守りつつ、成功させます」

 

そう言って、厨房の清掃ロッカーからデッキブラシを片手にコハクはルリと共にブリッジを目指して行った。

幸い通路には巡回の兵士などはいなかった。

相手が丸腰の民間人で皆、食堂に軟禁していると言う事で軍の兵士達も油断していたのだろう。

 

「ちょっとここで待ってて‥‥」

 

ブリッジ前の通路にルリを待たせ、ブリッジへ入っていくコハク。

 

「こ、コハク?」

 

戸惑うルリの前でブリッジの扉が開き、コハクがブリッジの中に入っていくとドアが閉まる。

 

「お、お前は!?」

 

「止まりなさい、それ以上近づくと撃つわよ!」

 

「止まれッ!」

 

ブリッジの中からムネタケらの慌てた軍人達の声、続いて銃声に肉を鈍器で打つような鈍い音、そして軍人達の悲鳴が聞こえる。だが、1分も経たないうちに何も聞こえなくなる。

 

「ルリさん、終わったよ」

 

再びブリッジの扉が開くと中から無傷のコハクが出てきた。そして手にしているデッキブラシには血がついている。

ルリがブリッジに入ると、ボコボコにされて、縛り上げられたムネタケと兵士の姿があった。

 

(プロの軍人達さんを1分かからずに皆倒しちゃったんですか!?)

 

驚きにルリの目が見開かれる。

幾ら艦隊勤務でも軍人であるならば、格闘技などの体術を心得ている筈だ。

しかも相手は拳銃やライフルで武装している。

そんな軍人達がブリッジには多数いた筈。

でも、コハクはそれを1人でデッキブラシのみで制圧してしまった。

自分と対して変わらない年頃の女の子の筈なのにこれだけの事をやってのけるコハクに対して益々興味を抱くルリだった。

 

「さてと‥早速だけど、ルリさん隔壁の操作をお願い」

 

コハクの声で我に返るルリ。

ルリとコハクは自分のシートに座り、オモイカネにアクセスする。

 

《お帰りなさい、ルリさん、コハクさん》

 

『うん、ただいま、オモイカネ』

 

『ただいま』

 

オモイカネと短いやり取りの後、指示通り軍人が占拠しているブロックや通路の隔壁を閉じ封鎖する。

 

「ミナトさん、メグミさん。ブリッジを確保したので上がってきてください」

 

コミュニケで食堂に居るミナトとメグミを呼び、続いて格納庫確保に向ったゴートと連絡をとる。

 

「ゴートさん、ブリッジ確保しました。格納庫はどうですか?」

 

『早いな、こっちはもう少しかかる』

 

「手伝いますか?」

 

『いや、大丈夫だ。ブリッジをよろしく頼む』

 

了解、と言ってコハクがコミュニケを切る。

そこへ、ミナトとメグミの二人がブリッジへ入ってくる。

 

「それで、私達はどうするの?」

 

「ミナトさんはすぐに艦を動かせるようにエンジンを暖めておいて下さい。メグミさんは艦内に降伏勧告をお願いします」

 

「「了解」」

 

コハクの指示を聞いて、2人はすぐに動き出す。

 

「皆さーん、皆さんのお耳の恋人、メグミ・レイナードでぇす~♪ 艦内にいるキノコさんのお仲間さん達へお伝えします~♪ キノコさんはこちらに捕まっちゃいましたよ!それに隔壁も閉鎖しちゃいました♪~これ以上の抵抗は無駄なので、大人しく降伏してくださぁい♪」

 

メグミの降伏勧告(?)の後にゴートから通信が入る。

 

『ブリッジ!こちらゴート、格納庫奪還に成功した!』

 

ゴートの報告後、海中に待機していた護衛艦が突然海中から飛び出してきた。

活動を休止していたチューリップが活動を再開したのだった。

 

 

~戦艦 トビウメ艦橋~

 

休止中のチューリップが活動を開始したとの報告を受け、ブリッジへと上がるコウイチロウ。

その後ろにはジュンの姿もあった。

コウイチロウがブリッジへと入ると、オペレーターが現状を報告する。

 

「護衛艦 クロッカス、パンジー共に捕まりました」

 

随伴している護衛艦との間に開いた通信回線からは僚艦の悲痛な通信が入る。

 

『こちらクロッカス、我、操舵不能!我、操舵不能!‥助けてくれ!‥うわぁぁぁー!!』

 

2隻の護衛艦は掃除機に吸い込まれるゴミのようにチューリップの中へとその姿を没した。

 

「クロッカス、パンジー消滅!」

 

「ユリカ、コレで分かっただろう?ナデシコは火星に行く余裕などないことが‥今は地球を‥‥アレ?」

 

振り向くコウイチロウしかし、そこにはユリカの姿はない。

 

「ユリカは?」

 

ジュンに尋ねるコウイチロウ。

 

「ア、アレ?」

 

そのジュンもユリカの不在には気づかなかったらしい。

 

『それではお父様ユリカは戻ります』

 

「戻るって何処にだね?」

 

『ナデシコです』

 

「ええっ!ユリカ、提督に艦を明け渡すんじゃあ?」

 

ジュンはてっきりユリカは連合軍にナデシコを明け渡す事を前提でトビウメに来たと思っていたのだが、ユリカは最初からナデシコを軍に引き渡すつもりはサラサラ無かった。

ユリカがコウイチロウの下に来たのは、

 

『え?私はアキトのことが聞きたかっただけなんだけど?』

 

父、コウイチロウがアキトや彼の両親の件について知っているかもしれなかったからだ。

しかし、あまり有力な情報は得られなかったので、さっさとナデシコに帰ることにしたのだ。

 

「ユリカちょっと待ちなさい!」

 

『艦長たるもの例えどんな時でも艦を見捨ててはならないと教えてくださったのはお父様ではないですか!!‥‥それにあの艦には私の好きな人が居ますし‥‥』

 

「なに!?」

 

ユリカの「好きな人が居る」その一言に驚愕するコウイチロウ。

彼にとってユリカのこの一言はまさにグラビティ―ブラスト級の一撃だった。

そんな父親を無視してプロスペクターと共にヘリに乗りナデシコへと帰るユリカ。

ユリカがコウイチロウと話している時、ナデシコでは‥‥

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「休止中のチューリップ、活動再開しました。浮上します」

 

レーダーを見ていたルリが報告する。

 

「了解、ルリさんはチューリップの行動・針路予測をお願い。フィールド調整とグラビティーブラストのチャージは僕がやるから」

 

「了解」

 

「メグミさんは格納庫の状況を聞いてください」

 

「了解、ウリバタケさん、ロボットの準備は‥‥」

 

メグミが格納庫のウリバタケと連絡を取ろうとしたら、

 

『ちょっと待て!!テンカワ、それはまだ陸戦タイプのままなんだってば!!それは飛べないんだよ!!』

 

ウリバタケの叫び声が聞こえてきた。

 

「まさかテンカワさん‥‥」

 

「‥‥どうやら先走ってしまったようですね」

 

作業をしつつ格納庫で何があったのかを想像する2人のオペレーター少女。

勢いよくナデシコから飛んでいったサーモンピンク色のエステバリス陸戦型。

しかし、短時間にブースターでは高いジャンプ程度が出来るだけで、後は重力の働きにより海へと落ちていく。

 

『なんじゃこりゃ~』

 

エステバリスの通信からはアキトの叫び声がする。

 

『だからソレは陸戦型だって言っただろう』

 

ウリバタケが呆れるようにアキトに言う。

 

「チューリップの針路予測出ました。ゆっくりですが、トビウメに向っています」

 

「了解、ミナトさんナデシコをトビウメとチューリップの間に入れてください」

 

「了解!…でも大丈夫なの?」

 

「チューリップの最大の攻撃は相手を飲み込むことですので、ナデシコを飲もうと口を開いた所に、グラビティーブラストを叩き込みます」

 

笑顔のコハクにつられミナトも笑顔になる。

 

「了解!ナデシコ、全速前進!」

 

海中と海上を跳ねているエステバリスにチュ―リップが触手のようなものを出し攻撃を仕掛ける。

アキトがまたもや囮となっている間、ユリカ達が乗るヘリはナデシコへと帰還した。

 

「あら~ぴょこぴょんぴょこぴょん元気よね~まるで蚤みたい」

 

チューリップとエステバリスの映像を見てミナトが言うが、蚤に例えられたアキト‥‥実に哀れである。

 

「でもあの触手みたいなので叩かれたらまずいんじゃ?」

 

「それは問題ありまあせん。フィールドを張っているナデシコにはあの程度の衝撃ではびくともしませんし、あの触手は獲物を捕まえ、自分の口に放り込む手のような役割をしたものでしょうから」

 

触手に懸念を抱くメグミにルリが冷静に説明をした。

 

「お待たせぇー」

 

ようやくユリカがブリッジへと帰ってきた。

 

「早速だけど、コハクちゃんグラビティーブラスト、チャージ!」

 

「もう、既にチャージを行っています。真空でないのでチャージ率が悪く時間がかかっていますが」

 

「えっ?そーなの?」

 

「はい」

 

「ふみゅう…ミナトさん、ナデシコの針路をトビウメとチューリップの間に‥‥」

 

「もう向かっているわ~♪」

 

「あぅ~私、やる事がないよぉ~」

 

艦長席にへたり込むユリカ。

 

「艦長、ヤマダさんが出撃許可を求めていますが?」

 

格納庫からの通信をユリカに報告するルリ。

 

「「「ヤマダ?」」」

 

聞いたことのない名前を聞き?マークを出すユリカ、ミナト、メグミ。

 

『ダイゴウジ・ガイだ!!』

 

空間ウィンドウにアップで登場するガイ。

 

『さあ、準備は万端行こうか!!』

 

骨折した足をペダルにテープで固定し、空戦フレームで出撃していくガイ。

 

『待たせたなボーヤ、いいか?空中でこの空戦フレームとお前のコックピットを合体させる。掛け声はクロス・クラッシュだ!』

 

『言わなきゃダメ?』

 

アキトは何か恥ずかしいのか、その台詞をどうしても言わなければならないのかをガイに尋ねる。

別に何も言わなくても出来るんだし、態々そんな台詞を吐かなくてもいいじゃないか。

それがアキトの本音だった。

 

『ダ~メ、チャンスは一度だけだ!俺の足はもう持たない‥‥』

 

『ヤマダ・ジロウ‥‥』

 

『ガイだ!ダイゴウジ・ガイ!』

 

『よし、行くぞ!』

 

海中を浮上するアキトのエステバリス。そして合体ポイントへと向うガイのエステバリス。

 

『合体ポイントまであと10秒‥‥行くぞ!!クロス・クラッシュ!!』

 

『クロス・クラッシュ』

 

『声が小さい!!』

 

『『クロス・クラッシュ!!』』

 

アキトのエステバリスのコックピットとガイのエステバリスのコックピットが外れ、ガイのコックピットは海へ落ち、アキトのコックピットは空中で飛行可能な空戦フレームへと合体した。

 

『行け、アキト!ゲキガン・フレアーだぁ!!』

 

『ゲキガン・フレアー!!』

 

機体の周りにフィールドを張りながら高速で移動し、チューチップの触手を切断していくアキト。

 

「どうでもいいけど、ゲキガン・フレアーってなに?」

 

アキトの掛け声に疑問を抱くルリ。

 

「艦長、グラビティーブラストチャージ完了しました」

 

火器管制システムを担当するコハクがユリカに報告する。

 

「分かりました。チューリップに向け全速前進!」

 

ナデシコが前進し、チューリップの間合いへと入り、チューリップは口を大きく開け、ナデシコを飲み込もうとするが、その瞬間、グラビティーブラストにより跡形も無く吹き飛んだ。

戦闘終了後、アキトとガイの機体を回収、そしてナデシコは宇宙へと飛んでいった。

 

それを見ていたトビウメでは‥‥

 

「提督追撃は?」

 

副官がコウイチロウに指示を仰ぐ。

 

「追撃?まともに戦って勝てると思うか?作戦は失敗だ。それよりもあの子が好きな人とは誰なのかアオイ君、何か心当たりはあるかね?」

 

ナデシコの拿捕と追撃を断念し、新たな問題である、ユリカの想い人についてジュンに問うコウイチロウであったがジュンは上の空状態で、

 

「ユリカ‥‥」

 

静かに想い人の名を口にした。

しかし、何故この場にナデシコ副長のジュンがいるのかに対して疑問を持たなかったコウイチロウだった。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「あれ?艦長、そう言えばジュンさんはどうしたんですか?」

 

戦闘が終わった後、ブリッジにジュンがいない事に気づいたコハクがユリカに何気なくジュンの行方を尋ねると、

 

「あれ?そう言えばジュン君は?何処に行ったんだろう?」

 

ユリカもコハクに尋ねられてジュンがいない事に今になって気づく。

 

「まさか、トビウメに置いて来ちゃったんですか?」

 

「えっと‥‥あははは‥‥」

 

笑ってごまかすユリカ。

 

「‥‥」

 

そんなユリカをジト目で見るコハク。

 

「どうします?戻ってジュンさんを迎えに行きますか?」

 

「いえ、連合軍が動き出したとなると、この先の防衛ラインで時間を大幅に失う可能性があります。やむを得ませんが、副長抜きで火星を目指しましょう」

 

プロスペクターはジュンを迎えに行く時間が無いと言う。

哀れジュンは置いてきぼりにされることになった。

 

その夜、部屋でコハクが大浴場に行ったことを確認したルリは早速コハクのことを調べた。

余談であるが、同じ性別に近い年頃と言う理由でルリとコハクは同室である。

そして、ルリにはコハクに関して気になることが3つあった。

最初、マシンチャイルドかと聞くと本人もプロスペクターも答えを渋った。

肯定もせず、まして否定もしなかった。

そして食堂でコハクが言った『僕とは違う』という言葉の意味。

自分と同じ年頃なのにプロの軍人相手に勝てるほどの力。

部屋の端末からルリは自分が知る限りのありとあらゆる研究所へハッキングとアクセスをして調べたが、答えは『該当なし』『UNKNOW』といった詳細不明の回答だった。

最後にネルガルのメインコンピューターにアクセスして、ようやくそれらしい項目をみつけたが、厳重なプロテクトがかかっており、閲覧するには以下の項目が書かれていた。

 

・ ネルガル会長の許可

・ ネルガル重役5人以上の許可

・ タケミナカタ・コハク本人の許可

 

以上の項目を1つでも満たさなければ閲覧不可

 

「タケミナカタ・コハク‥‥貴女は一体何者なんですか?」

 

ルリは空間ウィンドウに映るコハクの顔写真を見ながらポツリと呟いた。

 

 

・・・・続く

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