機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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コーシンです。


第51話

 

 

西暦2201年 九月中旬

 

太陽系――――

 

月軌道 ターミナルコロニー 『カグヤ』

 

「地球標準時午前九時四十分、コロニー内及び周辺に異常無し‥‥」

 

コロニーの管制室で当直の兵が変わり様のない毎日に退屈を感じ始めつつ勤務日誌に記録を記す。

なにせ今年の夏は幽霊ロボット騒動やら元木連将校である草壁春樹を中心とした『火星の後継者』と呼ばれるメンバーが一斉に蜂起し、新地球連合政府及び宇宙軍・統合軍に対し、宣戦布告をし、大戦終結後、初めての大規模なクーデターが起こった。

しかし、軍部に知らない人などいない、と言われている最年少の美少女艦長 連合宇宙軍所属のホシノ・ルリ少佐らの活躍により八月の中旬にクーデターは鎮圧された。

 

その草壁を始めとする火星の後継者らはホシノ少佐に逮捕されたのち、地球へ連行された。

しかし、宇宙軍であるホシノ少佐が逮捕したにもかかわらず、地球へ連行された草壁ら、火星の後継者の幹部達は宇宙軍ではなく統合軍によってその身柄を移された。

ナデシコ副長のタカスギ・サブロウタは統合軍の行動に当然憤慨した。

 

「チィッ、俺達が苦労したのに、良いところだけ、あとからかっさらいやがって‥‥」

 

と、悪態をつく。

とはいえ、統合軍も自軍から三割りの造反者を出し、コロニー奪還においても人材・艦船の被害を出していた。

 

草壁ら火星の後継者の幹部たちは軍刑務所へ収監され、連日、統合軍と新地球連合からの取り調べを受けた。

彼らの目的は、火星の後継者が得たボソンジャンプの研究データの収集であった。

新地球連合・統合軍が堂々と非人道的な実験をするわけにはいかず、テロリストとはいえ、ボソンジャンプに関する研究データは貴重である。

そのため、何としても火星の後継者が得た実験データを得たかった。

しかし、草壁ら幹部は実験データについては頑として口を割らなかった。

下っ端の兵士たちは元から実験の存在すら知らなかった。

実験に関わったとされる研究員はルリが逮捕する前に草壁が口封じのため、全員爆殺していることも判明していた。

ただし、正確には草壁が彼らを爆殺する前に研究員達はコハクの手によって殺されていたが、草壁はそんな事を知り由もなかった。

 

新地球連合政府も統合軍もこのまま草壁を収監したままでは、火星の後継者の残党が草壁の奪還を図る可能性が高い。

それを恐れた新地球連合と統合軍は実験データを得られないのであれば‥と、言うことで、草壁を始めとする火星の後継者の幹部を全員死刑にすることにした。

 

草壁は死刑直前まで、自らの正義の正当性と新地球連合を非難する言葉を残し、処刑場に消えた。

草壁ら火星の後継者の幹部を処刑しても火星の後継者すべてを逮捕したとは限らず、まだ残党が潜伏している可能性が十分にあり、残党軍の攻勢が懸念され、警戒段階が高まっているものの、まったくその傾向は見られず、兵士達の緊張も段々緩みかけてきていた。

 

「ん、何だ?」

 

勤務日誌を書き終え、遅めの朝食であるサンドイッチを食べながら周辺監視用のモニターを見ていたオペレーターの一人が不審な空間変化を探知した。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

不審に思った当直士官がそのオペレーターに声をかける。

 

「偵察衛星より、重力場の変動らしきものを探知! な、何かが出てきます!!」

 

この報告を受け、管制室に緊張が走る。

この世界では波動エンジンもワープ技術も存在しないため、空間歪曲場を正確に探知することはできず、センサーには重力場の変動らしきものという曖昧なものとなった。

 

「っ!?すぐに、周辺の宙域を航行中の艦船の運行を停止させ、退避命令を出せ!コロニー守備隊に臨戦態勢!」

 

当直士官がコロニー全体に警戒警報を発令させる。

先程まで静かだったコロニーが蜂の巣を突付いたような騒ぎとなる。

コロニーの格納庫からはステルンクーゲルが緊急スクランブルで全機出撃する。

守備隊の艦船もすべて、火器管制システムをスタンバイからオンに切り替える。

そんな中、重力場の変動地点から一隻の戦艦が出てきた。

 

「変動‥治まりました」

 

戦艦の出現と共に重力場の変動は治まった。

 

「その宙域に異常は?」

 

「艦影が一つ‥‥質量からして戦艦クラスです!!」

 

「コロニー守備艦隊はそのまま現状待機、一番近くにいる宇宙軍または統合軍の艦船は?」

 

「ナデシコBが近くで哨戒活動中です!」

 

「すぐに連絡を入れろ!」

 

「了解」

 

ターミナルコロニー『カグヤ』からの連絡はすぐにナデシコBへと伝達された。

 

 

銀河 第一艦橋

 

「イテテテ‥‥」

 

キュウパチが手足をばたつかせながらも器用に使い起き上がる。

 

『キュウパチ、あなたに痛いなどという感覚はあるのですか?』

 

銀河がロボットであるキュウパチの発言を聞いて疑問に思ったのか聞いてきた。

 

「なんだよ。銀河、オマエ、ノリが悪いな‥‥」

 

『理解しかねます』

 

「まぁ、いいや。それよりココはドコダ?銀河」

 

キュウパチは銀河に現在位置を訊ねる。

 

『‥‥現在位置を測定‥‥測定完了‥‥月軌道のはずれです』

 

「‥‥妙だナ?一度の大ワープでケンタウルス座から月へ?しかも無理矢理ワープアウトシタノニカ?」

 

『ですが、計測の結果間違いありません。実際に月の存在も確認しています』

 

「強制ワープアウトの衝撃でオマエのカラダがイカれたんじゃないのか?」

 

『失礼な!確かに火器管制と航行システムには若干の不具合が生じていますが観測システムは依然健在です』

 

「『航行システムに』って‥‥オマエそれで帰れるのか?」

 

『ここが月軌道のはずれならば、月に向えば問題ありません。それぐらいの余力はあります』

 

「ソウカ‥‥ならば、針路を月へ向けてクレ」

 

『了解。それより艦長は無事ですか?』

 

「そうだ!!コハク!?」

 

キュウパチが倒れているコハクのもとに駆けつける。

 

「オイ、しっかりしろ!コハク!」

 

キュウパチがコハクの体を揺するがコハクは起きない。

 

「銀河、コハクが起きないぞ!」

 

『呼吸と心拍は確認できています。おそらく脳震盪だと思われます』

 

「でも、頭から血が出ているぞ!どこでもいいから早く病院へ行くぞ!」

 

『了解』

 

銀河は不安定ながらも速力を上げて月へと向った。

 

 

ナデシコB ブリッジ

 

月軌道を哨戒活動中だったナデシコB。

キャプテンシートには軍民では名の知れたホシノ・ルリ連合宇宙軍少佐が座っていた。

火星の後継者事件では、家族と慕ったアキトとユリカ‥二人の生存と再会をすることは出来た。

しかし、ルリにとってもう一人の家族‥‥妹として可愛がっていたコハクが火星の後継者に捕まっていたことにはショックを受けつつも必ずこの手で助け出してみせると決意したのだが、草壁はコハクが居た研究区画を研究員もろとも爆破した。

ルリたちが駆け付けた時、研究区画は原型をとどめておらず、かろうじて人らしきモノの死体が何体かは確認できたが、この区画に何人の人間が居たのか不明であったが、少なくともここに居たとされるコハクの生存は絶望的だった。

それから、ルリは塞ぎ込んでしまった。

八月いっぱいは、休暇として再会したアキトとユリカの下に身を寄せていた。

アキトとユリカもコハクの生存が絶望視されたことに少なからずショックを受けたが、自分よりも大きなショックを受けたルリのメンタル面を心配して、彼女に付き添っていた。

一時は軍から身を引こうとさえ本気で考えたぐらいだ。

アキトとユリカの甲斐あって、多少なりともルリのメンタルは回復したが、アキトとユリカは未だルリは全快していない‥‥いや、コハクが居ない‥コハクが死んだと言うことで、もう全快することはないだろうと思い不安を抱きつつもルリを信じるしかなかった。

ルリ自身もいつまでも塞ぎ込んでいる訳にはいかないことは自覚していた。

今の自分は、ナデシコの艦長であり、大勢の部下を預かる身‥‥

塞ぎ込んでいては真面な指揮は取れない。

九月になり、ルリは復帰して、こうして再びナデシコの艦長職についている。

 

そんなナデシコにターミナルコロニー『カグヤ』から所属不明の不審艦が突如出現したため、直ちに現場へ急行し臨検せよという指令が入った。

実際に『カグヤ』が確認した重力場の変動はナデシコでも観測していた。

『カグヤ』からの指令を受けて、ナデシコが遭遇予定宙域に到着すると、レーダーにその不明艦の姿を捉えた。

 

「レーダーに艦影を確認しました。『カグヤ』から報告を受けた不明艦に間違いありません!」

 

ナデシコB乗組員最年少の副長補佐兼オペレーターであるマキビ・ハリ少尉(ハーリー)からの報告を受け、ルリは艦内に警報を発令する。

 

「通信長、不明艦に対して停船命令を出してください」

 

「了解、こちら地球連合宇宙軍、第四艦隊所属ナデシコB。所属不明艦に告ぐ、直ちに停船せよ。繰り返す。直ちに停船せよ」

 

通信長が所属不明艦に停船命令を出すが相手からは一向に返答もなく、速度の若干落ちた程度である。

 

「不明艦、応答ありません!」

 

「‥‥総員戦闘準備!エステバリス隊発進用意!」

 

ルリは攻撃される可能性を考慮し、万が一の事を考えて戦闘準備を備えて待ち受けた。

ナデシコがいつでも戦える状況に入り、いざ接近しようとすると、ハーリーは驚きの声を轟かせてしまい、周囲も視線が少年に集中した。

 

「目標までの距離‥‥っ!?は、速い! 後、数分程でグラビティ・ブラストの射程です!」

 

これには、クルー全員が驚きを示さずにはいられない。

つい先程レーダーで捕捉したばかりだというのに僅か数分でグレビティ・ブラストの射程まで接近して来たのだ。

クルーが固唾を呑んで不明艦の動向を見ていると、ナデシコ搭載AIのオモイカネが突如警報を鳴らす。

 

『警告!所属不明艦、本艦との衝突コース。直ちに回避せよ』

 

「っ!面舵一杯!機関後進!」

 

オモイカネの警報を聞き、ルリは即座に回避命令を出す。

 

「りょ、了解。面舵一杯!機関後進!」

 

ナデシコが回避行動をとる間も不明艦は徐々にその距離を縮めている。

 

『回避不可能!危険!危険!危険!』

 

オモイカネがついに回避不可能という判断を下した。

 

「総員、衝撃に備えて何かに捕まってください!」

 

ルリが全艦に早口で衝撃に備えるよう伝えた瞬間、ナデシコの右舷側フィールドジェネレーターと不明艦の右舷艦首部が接触する。

衝突し、ナデシコのフィールドジェネレーターも傷つくが、相手も傷つくかと思いきや、一方的に傷ついたのはナデシコの方で、相手の艦首の装甲がドリルで削るかの様にナデシコのジェネレーターを傷つけていき、艦首部がナデシコのジェネレーターにめり込むような形になり不明艦は停止した。

 

「‥‥は、ハーリー君‥‥被害を‥‥」

 

衝突の衝撃が収まり、ルリは被害の確認を急がせた。

 

「右舷、フィールドジェネレーター第一から第三ブロックまで破損。所属不明艦は本艦に突き刺さるような形で停止しています」

 

クルーの眼前にはどこか海上艦艇を意識して造られた艦影をもつ戦艦が存在しており、ガラス張りの大きなドームに塔とヘリポートを合わせ持ったような形状の艦橋。

艦首にはナデシコを始めとする地球型の艦船に装備されているグラビティ・ブラストと思しき戦略砲の発射口。

大昔の戦艦に搭載されていた砲身付の砲塔とまるでハリネズミの様に左右に装備された対空兵装らしき機銃群‥‥それらがナデシコクルーに威圧感を与えていた。

 

衝突後も不明艦は何の反応も起こさないので、ルリはエステバリス隊を発進させ、不明艦を調査させた。

調査の指揮はナデシコ副長のタカスギ・サブロウタが執っていた。

不明艦は周囲をエステバリスが飛んでいてもやはり何の反応も示さず、エステバリス隊は不明艦のあちこちの映像をナデシコに送った。

送られてきた映像を見ると、不明艦は所々損傷しており、幽霊船のような印象もあった。

 

『こちらタカスギ機、艦底部にハッチらしきものを発見!』

 

「どうしますか?艦長?」

 

「‥‥そこから艦内に入れそうですか?」

 

『フタをこじ開ければ何とか』

 

「では艦内に入り、探査と共に生存者の探索をお願いします」

 

『了解』

 

エステバリスはハッチをゆっくり丁寧に開けていき、不明艦の内部へと侵入した。

内部に侵入したエステバリス隊は空気が逃げないように再びハッチの扉を閉め、エステバリスから降り、艦内の捜索に移った。

 

「ココは‥‥格納庫のようですね。見てください、ハンガーに戦闘機のような機体があります!」

 

隊員の一人が言うように確かにハンガーの中に一機だけ戦闘機が置いてあった。

サブロウタ達は一先ず艦載機のことは放置して先を急いだ。

 

 

ナデシコB ブリッジ

 

不明艦の艦内情報が入ってくるまで、ナデシコのブリッジクルー達は、あの艦には一体どんな生物が乗っているのか、とお喋りをしていた。

 

「やっぱり典型的にタコやグレイみたいな感じの宇宙人かな?」

 

「案外白骨化した死体だけとか?」

 

「いや、ここは猿のような宇宙人か黒いマスクにマントを着けてビームサーベルを振り回すような宇宙人じゃないの?」

 

クルーの様子を見て、いくら相手がなんの反応も示さないからといって少々だらけすぎじゃないかと思うハーリーだった。

 

 

銀河 第一艦橋

 

「強制ワープアウトの次は他船と衝突かよ‥‥踏んだり蹴ったりだな‥‥」

 

ナデシコとの衝突でまたも艦橋内を転がるハメになったキュウパチが愚痴る。

コハクはキュウパチがシートを倒し、念のためシートベルトをつけていたため無事である。

 

『キュウパチ、艦内に侵入者!』

 

「侵入者!?」

 

『多分、衝突した艦の乗員‥‥どうする?』

 

キュウパチが艦橋の窓から衝突した艦を覗き込む。

 

「銀河、あの艦のデータは?」

 

『防衛軍の登録艦艇に該当データ無し』

 

「ということは、連中は防衛軍じゃないな‥‥となると民間または‥‥」

 

『海賊、テロリスト、犯罪者』

 

「艦内の警備システムは生きているか?」

 

『火器管制とは別系統だから艦内警備は生きている』

 

「よっしゃ!俺が連中の正体を確かめてくるから、お前は連中の行き先を絞れるように隔壁を閉めてくれ」

 

『了解』

 

キュウパチは銀河から送られるデータを頼りに侵入者の元へと向った。

 

一方、艦内を捜索中のサブロウタ達は念のため拳銃を片手に艦内を捜索していた。

 

「副長、この艦、天井も高く通路も広いですね」

 

「ああ、居住性は良い様だが、何で誰も居ないんだ?」

 

艦内を見る限り、明らかにこの艦は旧木連が使用していたカトンボ級やヤンマ級の無人戦闘艦と異なり、有人艦である。

それにもかかわらず、人っ子一人見かけない。

 

「幽霊船ってことないですよね?」

 

「バカなこと言うな。この世に幽霊なんてものは存在しねぇよ」

 

サブロウタは幽霊の存在を否定する。

 

「で、でも大昔、大西洋で今の状況に似たような話がありますよ」

 

「ほぉ、どんな話だ?それは?」

 

隊員の話では昔、大西洋で漂流している一隻の帆船が発見されたらしい。

船名は『マリーセレスト号』といってアメリカからイタリアに向けて出港した船で、出港から一ヵ月後に洋上で発見され、不審に思った他の船の船員が船内を捜索したが、船内には人っ子一人発見されなかったと言う。

一説にはほんのさっきまで人が居た形跡はあるのに航海日誌は十日前で終わっており、船長の『我妻マリーが‥‥』という謎のメッセージが書かれたメモが残されていたらしい‥‥。

 

「ふん、バカバカしい。大方、嵐で船を捨てて逃げたんだろう」

 

「で、でも‥‥」

 

幽霊船の話をした隊員は自分で言っていて怖くなったようだ。

 

「ふ、副長、通路の先に何か落ちています!」

 

別の隊員が通路にサッカーボールぐらいの大きさがあるボール状の球体が落ちているのを発見した。

 

 

キュウパチは通路に転がって侵入者の様子を窺っていた。

 

「ん?なんだ?コレ?」

 

「何かの部品が衝突のショックで落ちたのでしょうか?」

 

サブロウタ達がキュウパチに近付く。

キュウパチは侵入者の手に拳銃を持っているのを確認し、侵入者を危険人物だと判断した。

一方、サブロウタ達は警戒しながらも通路に転がっているサッカーボール状の物に近付く。

 

「副長、気をつけてください!!」

 

「爆弾かもしれませんよ」

 

「お前ら、いくらなんでもビビリ過ぎだぞ‥‥」

 

サブロウタが隊員の態度に呆れながらボール状の物を手に取ろうとした瞬間。

 

「ていっ!!」

 

突然、ボールが勝手に跳ね飛ぶと、サブロウタの腹部‥鳩尾にクリーンヒットした。

 

「ぐふっ!!」

 

「ハッハッハッ。どうだ、参ったカ!侵入者め!」

 

機械めいた音声と共にサッカーボール状のそれは変形した。

 

「な、なんだ!?こいつは‥‥?」

 

サブロウタ達がキュウパチに銃を向けると‥‥

 

「銀河!やっちまえ!」

 

その言葉が合図になったのか、天井と両サイドの壁からガトリングガンが飛び出す。

 

「お、おいおい‥‥」

 

「マジかよ‥‥」

 

突然、通路に現れたガトリングガンに顔を引きつらせるサブロウタ達。

そして‥‥

 

ダダダダダダダ‥‥

 

ガトリングガンが正射され、急いで通路を走って逃げるサブロウタ達。

 

「なんだよ!?この艦は!?」

 

「やっぱり、この艦は幽霊船だったんだぁ!」

 

サブロウタ達は最初に侵入した格納庫まで押し戻された。

 

「ヤバイなこれは‥‥おい、急いで艦長に連絡を入れろ!」

 

「りょ、了解」

 

 

ナデシコB ブリッジ

 

「艦長、副長より通信が入っています!」

 

「繋いでください」

 

通信長が回線を開くと慌てた様子のサブロウタが空間ウィンドウに映し出された。

 

『艦長!』

 

「どうしました?サブロウタさん」

 

『この艦の内部にとんでもない仕掛けがあった!』

 

「仕掛け?」

 

『天井や壁から機関銃が飛び出してきて前に進めない!何とか出来ませんか?』

 

「わかりました。私とハーリー君とでシステムをハッキングして、不明艦のシステムを掌握します」

 

『お願いします。おいハーリー、なるべく急いでやってくれ!』

 

「わ、わかりました!」

 

サブロウタの慌てた様子から、かなりサブロウタ達調査隊が追い詰められているのだと判断したルリとハーリーは早速不明艦のシステムの掌握を開始した。

順調に不明艦のシステムをハッキングしていたが、突如ハッキングしていた不明艦のシステムがナデシコに逆流してきた。

 

「っ!?艦長、大変です!!オモイカネが不明艦のシステムのハッキングを受けています!!」

 

「っ!?ハーリー君、逆流してきたデータをバイパスに接続!私はシステムの復旧と平行して不明艦のハッキングを続けます!」

 

「了解!!‥侵入プログラムをバイパス接続、バイパスに侵入次第データは消去!!」

 

不明艦からの思わぬ反撃に焦る二人。

まさかハッキングするために開いた侵入回路から逆にナデシコが‥オモイカネがハッキングを受けるなんて予想外である。

必死にハッキングを食い止めようとする二人だが、相手の侵入速度のほうが上でナデシコのシステムはどんどんハッキングされていき、艦内部の機能が低下し始めた。

そして不明艦のAIがオモイカネを半分侵食した時、

 

『ダレ?‥‥私に入ってくるのは?』

 

突然砂嵐が映し出された空間ウィンドウがナデシコ艦内のあちこちに現れたが、次第に砂嵐の奥からオモイカネにハッキングを仕掛けて来ている者の姿が明確に映し出されてきた。

そしてそのウィンドウを見たクルーは全員驚きを隠せなかった。

 

「っ!?」

 

「なっ!?」

 

「あ、あれは‥‥!?」

 

『私の中に入ってくるのはダレ?』

 

そう言って表示された空間ウィンドウに映ったのはトーガを纏い頭にオリーブの冠をかぶった十二歳頃のルリの姿が映し出された。

 

「‥‥」

 

「か、艦長?」

 

当然、ルリ本人は言葉が出ず、ハーリーも唖然としている。

 

『私の中に入ってきたのはあなたたち?』

 

ウィンドウに映るルリ(?)がブリッジに居るルリ達を睨む。

意を決し、ルリは相手にコンタクトをとった。

 

「‥‥そう。私はルリ‥‥これは友達のオモイカネ。あなたは誰?」

 

『私は、銀河‥‥ヤマト・改級準同型艦‥宇宙戦艦、銀河』

 

「銀河?」

 

『そう。私はこの艦の心であり、目であり、耳であり、足でもあり、この艦の命そのもの。なぜあなたたちは私の中に入ろうとするの?』

 

「私の仲間があなたの中で危険な目にあっているの。もしあなたがこれ以上中の人に危害を加えなければ何もしない」

 

『彼らは侵入者‥‥彼らは艦長の命を脅かす危険がある。そしてあなた達も‥‥』

 

「私たちはあなたの艦長を危険な目にあわせようとは思っていない。ただあなたたちがどこから来たのか?何が目的なのかを知りたいだけ」

 

『私の目的は地球に帰る‥‥艦長がケガをしている‥だから、私は急いで地球へ帰りたい‥‥』

 

「怪我人がいるのなら、私達が助けるだから、無駄な争いはやめましょう、銀河」

 

ルリは怪我人が居るのであれば、地球へ向かうよりも自分たちが助けると銀河に提案する。

そもそも、銀河‥‥ヤマト・改級準同型艦なんて、艦は宇宙軍でも統合軍でも聞いたことがない。

仮に地球へ向かっても不明艦として呼び止められるのが関の山だ。

事実、ナデシコがこうして臨検に向かったぐらいなのだから‥‥

 

『‥‥』

 

「あなたがすぐに私達のことを信用できないのもわかるけど、艦長を助けたいのなら、お願い、私達を信じて!」

 

『‥‥わかりました。あなたを信じましょう』

 

「本当に?」

 

『あなたの友達、オモイカネは正直な子。オモイカネからあなたのことを聞きました。艦長を頼みます』

 

ルリと共に銀河から浸食されかけているオモイカネも銀河を説得していた。

ルリとオモイカネの説得を聞き、銀河はルリとオモイカネを信じると言ってくれた。

 

「銀河、艦長以外の他の乗員は?」

 

ルリは銀河に艦長以外の乗員の状態を訊ねる。

 

『今、私に乗っているのは艦長一人だけ‥‥艦長は第一艦橋にいます。案内はキュウパチにやらせます』

 

どうやら、あの銀河はナデシコ同様、ワンマンオペレーションが可能の様で乗員は艦長一人だけみたいだ。

銀河は空間ウィンドウを閉じると侵入していたナデシコのシステムも元に戻した。

ルリも銀河へのハッキングを止める。

 

「タカスギさん、相手のハッキングは出来ませんでしたが、説得は出来ました。その艦の艦長さんが負傷しているようですので、急いで収容してください」

 

そして、サブロウタに現状を伝え、銀河の艦長の救出を命じる。

 

『了解』

 

サブロウタが格納庫を出ると、あのボールロボット(キュウパチ)が待っていた。

 

「ゲッ!」

 

サブロウタは先程、鳩尾に不意打ちアタックをくらった事から、キュウパチに対して、苦手意識を持ったようだ。

 

「誠に不本意だが、事態が事態だ。銀河が認めたのなら仕方がない。ついてきな」

 

サブロウタ達はボールの様なロボット(キュウパチ)に案内され、第一艦橋まで辿り着いた。

艦橋に着いたサブロウタが目にしたのは倒したシートで横たわる一人の女性の姿。

 

「ウチの艦長も美人だが、この人も綺麗な人だ‥‥」

 

女性の顔を見て、思わず一言呟くサブロウタ。

 

「あれ?この人どっかでみたような気が‥‥」

 

しかし、サブロウタはこの女性をどこかで見たことがある気がした。

 

「初対面の女性に何を言っているんだ?お前は!?いいか、くれぐれも艦長に変なことをするんじゃないぞ!」

 

キュウパチが声を荒げてサブロウタに釘を刺す。

 

「俺は、女は好きだが、寝込みを襲ったりはしねぇってぇの!!」

 

サブロウタは木連男子の誇りは失っておらず、意識を失っている女性を暴行するなんてことはしない。

そもそも、そんなことをすれば、今度こそ、銀河はサブロウタ達を生きては帰さないだろう。

負傷者を救助したサブロウタ達はいったんエステバリスでナデシコへと戻った。

 

 

ナデシコB ブリッジ

 

救助者はそのままナデシコの医務室に送られ、銀河から救助された艦長と共にやって来て、「この艦の艦長と話がしたい」と言って、ルリの目の前に来たのはボール状のロボットだった。

 

「‥‥」

 

ボール状のロボットを見て、ルリを含め、ナデシコBのブリッジクルーは唖然とする。

 

「ハジメマシテ。私は宇宙戦艦、銀河運行サポートロボットの98(キュウパチ)と言います」

 

「は、始めまして。ナデシコB艦長 ホシノ・ルリです」

 

「早速ですが、艦長サン。実は銀河はもう自力で航行するのが困難な状況で、どこか近くのドックまで曳航してもらえないでしょうか?」

 

「戦闘でもあったんですか?」

 

「いえ、ちょっとした宇宙災害に巻き込まれまして‥‥」

 

「はぁ、災害ですか‥‥?」

 

理由はともかくとして、銀河をこのままこの宙域に放置するわけには行かないので、ルリは『カグヤ』に連絡をして、曳航用の駆逐艦二隻を手配し、ネルガルの月ドックへと銀河を曳航した。

 

月ドックに間もなく到着する頃、医務室から連絡があり、軍医から艦長に直接話があるとのことなので、ルリは医務室へと向った。

 

「どうしました?」

 

「艦長。実はあの不明艦の乗員の件なのですが‥‥」

 

「ええ」

 

「これが乗員の持ち物です」

 

軍医が机に乗員の持ち物を並べる。

 

軍帽に白いロングコート型の軍服、手袋、白いスカーフ、拳銃、銀縁のメガネ、そして金色のロケットペンダント。

 

「っ!?」

 

ルリはそのペンダントを見て、目を大きく見開いた。

そして自分が首から提げている銀のロケットペンダントと見比べる。

その二つは色が違うだけで、大きさもデザインも一緒であった。

ルリは恐る恐る金のペンダントを手に取りフタを開けた。

そこには自分のペンダントの中身と同じ写真が入っていた。

 

「それで艦長、乗員の身元を調べましたところ、死亡者リストに該当する名前がありまして‥‥その人物が艦長に関係する人物だとわかりました‥‥」

 

軍医がそのリストを表示する。

リストには顔写真と名前が表示されており、名前の部分にはこう書かれていた。

 

「ホシノ・コハク」

 

と‥‥

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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