機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第52話

 

 

 

コハクが生きていた。

その事実がルリに衝撃を与える。

二年前、自分の前から消えて、行方不明になったコハク。

それが今ここに‥‥ナデシコに乗っている。

火星の後継者が大規模なテロ事件を起こした時、コハクは彼らの手によって囚われて身となっていた。

しかも、主犯である草壁は自分たちが捕まる前に証拠隠滅のため、コハクがいた研究区画を爆破した。

あの時は、後で軍法会議にかけられてもいいから、この場で草壁達、火星の後継者の居る火星遺跡へグラビティ・ブラストを打ち込んで、彼らを一掃してやりたかった。

事件後、自分は大きなショックを受けた。

コハクは‥‥妹は死んでしまったのだと‥‥

地球に戻り、自分はアキトとユリカの二人と再会し、二年前と同じ様にまたアキト達と一緒にひとつ屋根の下で暮らすことが出来たのは嬉しかった。

でも、そこにもう一人の家族が居なかったのはとても辛かった。

ラピス・ラズリーと言う子も自分の事を心配してくれたが、ラピスはあくまでもラピスであり、コハクではない。

なんとか、職務に復帰できたが、自分の心の中にぽっかりと空いた穴はもう埋まることはないと思っていた。

しかし、コハクはまた自分の下に帰ってきてくれた。

はやる気持ちを抑えてルリは軍医にコハクの様態を聞く。

 

「それで、あの不明艦の乗員の様態は?」

 

「体を強く打っているようですが、骨折もなく、もうまもなく目が覚める頃かと‥‥」

 

「ドクター、その乗員と話がしたいので、暫く二人だけにしてもらえますか?」

 

「大丈夫ですか?万が一艦長の身に危険があるかもしれませんよ」

 

「大丈夫です。武器もこうして取り上げてあるわけですし」

 

「わ、わかりました」

 

軍医は渋々と言った様子でルリに不明艦の乗員(コハク)との面会を許可した。

ルリはコハクが眠っているベッドの脇にあるイスに座った。

頭に巻いた包帯が痛々しいが、わずか一月ぶりなのに、再会したコハクは自分より身長も胸も大きく成長しており、姉のルリとしてはなんか納得が出来なかった。

 

(イネスさんみたいにおばさんになっていなくてよかった‥‥)

 

それでもイネスみたいに物凄い年上と言うわけではなく、安心する部分もあった。

 

「うっ‥‥う~ン‥‥」

 

やがてコハクが目を覚ます。

コハクの真紅色の瞳とルリの金色の瞳が見つめ合う。

 

「コハク?」

 

「は、はい?」

 

「コハクっ!」

 

感極まりルリは、コハクに抱きついた。

ルリにとっては二年以上の再会であったが、次にコハクが発した言葉でこの感動の再会は崩されることになった。

 

「あの‥‥失礼ですが、あなたはどちらさまでしょうか?」

 

「えっ?」

 

今、コハクは何て言った?

 

私のことがわからない?

 

それとも忘れている?

 

コハクの言った言葉にルリはショックを受ける。

 

「あ、あの‥‥?」

 

ショックを受けているルリにコハクは戸惑っている。

 

「あ、あなたは覚えていないのですか?私のことを‥‥?」

 

「えっと‥‥は、はい‥‥私と‥あなたは知り合いだったんですか?」

 

コハクの様子から彼女が冗談で自分をからかっているようには見えない。

ならば、コハクは本当に記憶喪失で、自分の事を忘れてしまっている‥‥

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

なんとも気まずい空気が医務室を包んだ。

 

 

月ドックについたナデシコと銀河。

所属不明の不明艦が突如、出現した。

その報は既に地球にも当然通報され、ナデシコからその艦と乗員の報告を受けた宇宙軍総司令ミスマル・コウイチロウはナデシコに通信をいれ、その乗員とコンタクをとることにした。

会見をするために用意された部屋にルリとサブロウタが同席し、コウイチロウとコハクとの間で会見が始まった。

 

『君が通報のあった不明艦の乗員かね?』

 

コウイチロウが不明艦の乗員とされる人物を見る。

もっとも、ルリから不明艦の乗員がコハクであることを伝えられていたが、とうのコハクは自分たちの事を覚えていない‥‥どうやら記憶喪失らしいと言うこともコウイチロウは知らされていた。

 

「はい。地球防衛軍所属 ホシノ・コハク技術中佐です。はじめましてミスマル総司令」

 

敬礼し、コウイチロウに挨拶するコハク。

ルリから記憶喪失の恐れがあると聞いていたコウイチロウは初対面と同じ形で彼女とコンタクトをとることにした。

コウイチロウとしては最初のナデシコ‥‥自らの一人娘、ミスマル・ユリカが艦長を務めた初代ナデシコを拿捕せよと言う命令を受けた時の事を思い出す。

あの時もコハクは自分に一歩も引かず、堂々と対等な振る舞いで会話をした。

 

コハクの話では、自分が来た地球とこの地球は別の世界であり、自分は別の世界から来たのだという。

注釈が入るが、コハクが来た地球ではガミラス帝国、彗星帝国ガトランティス、暗黒星団帝国と呼ばれる異星人達の宇宙軍が侵攻してきたこと、

自分は試験艦のテスト航海中、事故でこの世界に来たことを話した。

一見、荒唐無稽な話だったが、コハクが提示した波動エンジンの概略を聞く限り、宇宙船の技術も、思考も全く根っから食い違っていた事も分かった。

 

『ふむ‥‥』

 

コハクの話を聞いてどう判断すればいいか、答えに戸惑っていたコウイチロウ。

すると会見場に通信用の空間ウィンドウが開き、ナデシコの通信長が要件を話した。

 

『艦長、会見中申し訳ありません。今、宇宙軍の科学調査隊が不審艦の調査を行おうとした所、隔壁やガトリングガンが邪魔をして調査を出来ないと申しておりましております』

 

「「『‥‥‥』」」

 

通信長の話を聞いて、ルリ、サブロウタ、コウイチロウは唖然とした。

 

「やれやれ」

 

コハクは軍帽を被り、席を立つ。

 

「ミスマル司令、小官は一度、銀河に戻ります。このままではそちらに怪我人を出しかねませんから」

 

『あ、ああ。調査隊の方にはこちらから連絡を入れておこう。彼らに丁重なもてなしをお願いする』

 

「わかりました。では‥‥」

 

敬礼し部屋を出て、部屋の外で待機していた案内係の兵と共にナデシコを降りていくコハク。

ナデシコを降りていくコハクの姿をルリは寂しそうに見る。

 

『ルリ君‥‥』

 

「大丈夫です。ミスマル司令‥‥コハクは必ず記憶を取り戻してくれます‥‥必ず‥‥」

 

 

銀河に戻ったコハクは艦内の警備システムをオフにし、自ら調査隊と同行し、艦内臨検に立ち会った。

そんな調査隊の中に、ナデシコ整備班班長のウリバタケ・セイヤの姿があった。

火星の後継者事件の鎮圧後、地球に戻り、妻であるオリエの出産に立ち会った後、しばらくは地球にある改造屋でメカニックの仕事をしていたのだが、ルリが軍務に復帰するのを聞いた彼は、軍属としてまたもやナデシコに乗艦した。

もちろんそれはルリを心配しての事だった。

コウイチロウやウリバタケにとってルリはまさに自分の娘の様な存在なのだろう。

彼は、格納庫に一機だけあった宇宙戦闘機『スペースウルフ』を物珍しそうに眺めている。

 

「ほほぅ~、見かけはごく普通の戦闘機なのだが‥‥」

 

そこへナデシコの整備員が入って来てウリバタケを見つけると駆け寄ってきた。

 

「いたいた。班長、こっちの方も手伝って下さいよ~!!」

 

「やかましい!俺は今こっちに興味があるんだ!!」

 

「とほほ‥‥」

 

整備員が肩を落とし、疲れた表情で格納庫を去っていく。

 

夕方になり本日の艦内臨検は終了し、明日の午前中からまた臨検が行われる予定となった。

二十二時(地球標準時)明日の臨検に立ち会うため、早めに眠ることにしたコハク。

しかし、なかなか寝付けず、暗くなった部屋のベッドの上であのホシノ・ルリという人物について考えていた。

 

「明かりもつけずに考え事か?」

 

「ん?キュウパチ‥‥」

 

「艦内巡回は終わったぞ、コハク。艦内に異常は無かった」

 

「ご苦労様、キュウパチ。そしてお帰り」

 

「タダイマ、コハク。しかし、帰る場所があるというのはいい事だ」

 

「そうだね。でも今の私には帰るところが無い‥‥」

 

(そう、銀河の生まれた地球も私にとっては本当の故郷なのか怪しかった。記憶がないというだけでこんなにも不安になるなんて‥‥)

 

「コハクには銀河があるじゃないか。まだコハクには帰る場所が残っているじゃないか」

 

「‥‥キュウパチの言うとおりだね。この子は私の子供でもあり、私の家でもあるんだね」

 

「おう。コハクが眠っている間、俺と銀河がお前を守ってやる。今は安心して眠れ」

 

「ありがとう‥‥ねぇ、キュウパチ‥‥キュウパチは、あの人のことをどう思う?」

 

「あの人?」

 

「ホシノ少佐」

 

「さあな‥‥ただ、あの年齢で艦長職を務めているのだから、優秀な人であると、俺はそう思うがな‥‥コハクはどう思っている?」

 

「わからない‥‥でも、今日始めて会ったはずなのにあの人のことをずっと前から知っているような気がするんだ‥‥あの写真の人ともそっくりだし‥‥」

 

コハクはペンダントを手で弄りながらルリのことを考えていた。

 

 

ナデシコB ルリの部屋

 

ルリは地球にいるイネスに連絡し、コハクと再開したが肝心のコハクが記憶をなくしていることを話して記憶を戻す方法を聞いていた。

 

『そうね‥‥方法として記憶を失う前のことを再現してみたり、体に何かしらのショックを与えて見るというのも一つの手かしら?そのほかに思い出の場所を訪れてみるとか?それがダメだったら自然と戻るしか待つしかないわね』

 

「はぁ‥‥」

 

『そこまで深く考えなくてもいいんじゃないかしら?記憶なんて案外簡単なキッカケで戻るものよ。私なんかマージャンしている時に戻ったんだから』

 

確かにイネスはナデシコに乗艦した当初は記憶喪失状態だった。

それが記憶マージャンをしていると失った記憶が元に戻った。

 

「わかりました。今度時間を見つけてコハクとゆっくり話してみます」

 

『そうしなさい、それじゃあね』

 

イネスとの通信を切り、ルリはペンダントのフタを開ける。

ペンダントの中には満面の笑みのルリがコハクに抱きついている写真が貼ってある。

コハクは恥ずかしいのか頬を僅かに赤くそめ、カメラから目線を逸らしている。

 

「コハク‥‥」

 

ルリはペンダントのフタを開けたまま天井を仰いだ。

 

ナデシコは銀河との衝突で破損したため、銀河の隣で修理中、その間、乗員はデスクワークや訓練を行っている。

コハクの方は調査隊と共に銀河の艦内臨検の立会いとコウイチロウとの会見を繰り返す日を送っている。

 

『それで君は今後どうするつもりかね?』

 

「ミスマル総司令、それについては速答しかねます。判断を下すにはもう少し時間が必要です」

 

『‥‥』

 

「ミスマル総司令、小官は一介の軍人です。不幸にも銀河は指揮系統を失いました。そしてこちらの世界の宇宙艦艇のスペックを拝見し、比較したところ、銀河がこの世界で非常に危険な存在であることも理解出来ました‥‥これがどれ程不安な事か、言うまでもないでしょう?‥‥ですが、小官は銀河の指揮権を他の誰かに委ねるつもりはありません。艦長たる小官が背負わねばならないのです。よりよい明日を迎え、生きるために‥‥」

 

『君の話は分かった。しかし、貴艦には修理が必要であろう?』

 

「この月で、ですか?」

 

「うむ。地球では何かと騒ぎになるのでな」

 

「ありがとうございます。ミスマル総司令!」

 

コウイチロウの手配と尽力で、銀河とコハクの安全は確保されたのである。

だが、今後はどうするべきかを、コハクは一人で考えねばならなかったのであった。

 

 

地球連合宇宙軍本部ビル

 

長官執務室ではコウイチロウが椅子に座って考え事をしていた。

取り敢えずコハクと銀河の安全の保障はしたが、問題はどう位置づけるかである。

真剣な対応をとらなければならない、それにあまり時間は掛けられない。

モタモタしていると統合軍や統合軍と癒着している軍需企業が強引な手段を使い銀河をコハクから奪う可能性もある。

そうなれば何が起きる事やらと頭痛が止まない状況である。

 

「閣下は信用なさるのですか? あの銀河とか言う戦艦を?」

 

執務室に居た参謀の一人がコウイチロウに聞く。

調査隊の報告書はコウイチロウの元に逐次送られてきており、その報告書を見るだけでも銀河の性能と造艦技術が優れていることが窺える。

しかし、宇宙軍の司令部幕僚達はこの報告をまったく信じていなかった。

 

「おいおい君は見なかったのか?あの艦の資料を‥‥装甲、武器、エンジン、全てが今の我々の技術を上回っている。無理矢理従わせたり、強引に奪おうとすれば、かならず多大な被害が出る。ナデシコでも勝てるかどうかわからんのだぞ‥‥」

 

ナデシコのからの報告では、ルリとハーリーが火星の後継者鎮圧時の様に銀河のシステムをハッキングし、そこから銀河のシステムを掌握しようとしたら、逆にオモイカネが銀河からハッキングを受けたのだ。

艦隊戦に持ち込めば勝てるかもしれないが、銀河一隻のために一体何隻の軍艦と人材を失うのかそれを考えるだけでも恐ろしい。

とりあえず、当面は統合軍の動きを警戒しつつ、コハクとの話し合いを続けるしかなかった。

 

 

月 艦船ドック

 

ルリの悩みは深刻であった。

相変わらずコハクは他人行儀な態度をとってくる。

それがルリを自然に焦らせ苛立たせた。

その苛立ちの様子はクルーが見ても一目瞭然だった。

しかしクルーはその苛立ちの原因を知る由もない。そのためナデシコ艦内ではさまざまな噂がたった。

 

「最近の艦長なんか妙にイライラしているよな」

 

「お腹でも痛いんじゃない?」

 

「やっぱり、あの不明艦のAIに負けたのがくやしいんじゃねぇ?」

 

クルー達が食堂でルリのイライラの原因を話していると食堂前の通路をルリが通っていった。

 

「‥‥こうなったら無理矢理関係を持って私から離れなくしてしまいましょうか‥‥そもそもあの時の屈辱を私は忘れていません。姉の私にあんなことをしておいて自分は忘れるなんて‥‥」

 

なにやら物騒な独り言をブツブツ言って廊下を歩くルリにクルー達は唖然としていた。

 

 

銀河 艦長室

 

連絡用にと渡されたコミュニケと呼ばれる腕時計型の通信機が通信アリの着信音を鳴らし、受信ボタンを押して出て見ると空間ウィンドウが表示され、映し出されたウィンドウにはホシノ少佐が映っていた。

 

「ホシノ・コハク中佐、今日の夜二人でお話したいことがあるのですが、お時間の都合はとれるでしょうか?」

 

ホシノ少佐からの通信を聞き、コハク自身もホシノ少佐とは二人でゆっくり話をしたかったのでこの申し出を受けることにした。

 

「わかりました。では今日の夜七時に‥‥少佐がよろしければ当艦で夕食を取りながらでも‥‥?」

 

「わかりました。では七時に会いましょう」

 

「はい」

 

コハクと夜七時に会う約束をして、ルリは通信を切る。

ちょうどそこに副長のサブロウタがブリッジへと入ってきた。

 

「サブロウタさん。ちょうどいい所に」

 

「はい?」

 

「今日の夜勤当直を代わっていただけますか?」

 

「はぁ、別にいいですけど‥‥何かあったんですか?」

 

「私の‥‥大切な人とちょっとお話をしに行きます」

 

ルリは笑みを浮かべるが、その笑みは不敵なモノを含みサブロウタは背筋に寒気を感じた。

ここでもし、断れば自分は明日の朝日を拝めないのではないかと思うぐらいに‥‥

 

 

夜にコハクとの約束を取り付けたルリは先程とは打って変わってご機嫌であった。

しかし、ルリが浮かべる笑みを見て、クルー達は二つの印象を持った。

一つは何か良いことでもあったのか?ようやく機嫌を直したのではないか?という印象を持つ者。

もう一つは何か良からぬことを考えているのではないだろうかという印象を持つ者。

サブロウタは後者でルリを慕っているハーリーは前者の方であった。

ご機嫌なルリを見てハーリーはサブロウタに何か心当たりがないか聞いてみた。

 

「サブロウタさん。今日の艦長随分と機嫌が良いようでしたが、何かあったんですか?」

 

ここでサブロウタはいつもハーリーをからかうイタズラ心が働いたのか、笑みを浮かべ言った。

 

「今日の夜、艦長個人的に誰かと会うみたいだぞ?」

 

「えええっー!」

 

夜に、個人的、その言葉がハーリーを驚愕させた。

 

「もしかしたら艦長の想い人かもな‥‥そして艦長はその愛する人と‥‥」

 

サブロウタは両手で自らの身体を抱きしめながら、頬を赤らめながら言うと、

 

「さ、サブロウタさん!変な冗談は止めてください!」

 

ハーリーも顔を真っ赤にして、声を荒げる。

彼としてはあのルリが異性と逢引するなんて考えられなかった。

それにサブロウタは暇さえあれば、自分の事をからかってくるので、今回のルリの話もサブロウタが自分をからかっているのだろうと思った。

 

「嘘じゃねぇって」

 

しかし、サブロウタは今回、自分が言っていることは嘘ではないと言う。

 

「そんな訳ありません!だいたい今日、艦長は夜勤当直の筈です。艦長が勤務をスッポカして誰かと密会だなんて!」

 

あの真面目なルリが、仕事をさぼってまで誰かと密会だなんて信じられなかった。

 

「それが、ついさっき艦長直々に今日の夜勤変わってくれって頼まれたんだよ」

 

「そ、そんなバカな‥‥オモイカネ、サブロウタさんの話は本当なの!?」

 

信憑性に欠けるサブロウタの発言にハーリーはオモイカネに確認を取る。

オモイカネならば決して嘘は言わないからだ。

 

『はい、確かに今日の夜勤当直はルリさんからサブロウタさんに変更されています』

 

「そ、そんなぁ~ 艦長がぁ~うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

ハーリーは泣きながらその場を走り去った。

 

 

「うぅ~艦長~‥‥」

 

走り疲れたハーリーがナデシコの通路をトボトボ歩いていると目の前をルリが歩いているのを見つけた。

意を決し、ハーリーはルリが夜に誰と会うのかを聞くことにした。

そして願わくば自分もついて行けないか聞くことにした。

 

「か、艦長!」

 

「ん?どうしたの?ハーリー君」

 

「あ、あのう‥今日の夜どこかに出かけるって、さっきサブロウタさんに聞いたんですけど‥‥」

 

「ええ。その予定ですけど」

 

「あ、あの‥‥その‥‥ぼ、僕も一緒に連れてってもらえないでしょうか?」

 

ハーリーは勇気を振り絞って言った。

しかし、ルリの返事は、

 

「ダメです」

 

「えっ!そ、そんな!?な、なぜダメなんですか!?」

 

「今夜、会う人とは二人っきりで会うと約束しましたから」

 

「ふ、二人っきりって‥‥か、艦長!その人はそんなに大切な人なんですか!?」

 

「ええ。私にとっては、かけがえのない大切な人です」

 

僅かに頬赤くするルリ。

 

「う、うわぁぁぁぁぁ―――!」

 

そんなルリの様子を見てハーリーは再び泣きながらナデシコの通路を走り去っていった。

走り去ったハーリーを気にもせず、ルリは夜、コハクに会う準備のため、部屋へと戻った。

 

 

銀河 艦長室

 

「ねぇ、キュウパチ、夜にホシノ少佐が来るんだけど、さすがに軍服のままじゃマズイかな?」

 

「ソレハ軍務で来るのか?それとも個人的な用か?」

 

「ん~多分個人的な用だと思う」

 

「ソレナラ軍服はヤボって言うもんだぜ」

 

「それじゃあラフな格好でいいよね?」

 

「そうだな。コハクもホシノ少佐と積もる話もあるだろうから、俺は今日の巡回後は第一艦橋に居るぜ。銀河も監視映像はオフにしておけ」

 

『何故ですか?艦長に危険があるかもしれないのに』

 

「相手は十六歳の小娘だ。艦内に入るときに武器を持っていないかチェックすればいいだろう」

 

『‥‥了解』

 

銀河は渋々了承した。

 

「されと、それじゃあ。夕食の準備を始めますか」

 

コハクはエプロンをつけ厨房へと向った。

これから来るゲストをもてなすための料理を作るために‥‥

 

 

「それじゃあ後はお願いします」

 

「了解」

 

サブロウタに当直を任せ、ルリは隣のドックに停泊している銀河のタラップを上がった。

タラップの終点にはキュウパチが居た。

 

「こんばんは。ホシノ少佐」

 

「こんばんは。キュウパチ」

 

「少佐、申し訳ありませんが、手荷物の中身の確認ヲコチラデオコナイタイノデスガ?」

 

「どうぞ」

 

ルリは肩にかけていたハンドバッグをキュウパチに渡す。

ハンドバッグの中を確認したキュウパチは武器の類が入っていないのを確認し、ルリにバッグを返す。

 

「ドウモアリガトウゴザイマシタ」

 

「身体検査はよろしいのですか?」

 

「すでに銀河が行いました。異常無しとのことで‥‥どうぞ、こちらへ」

 

ルリは案内された部屋のドアを開けた。

 

「ようこそ。銀河へ、ホシノ少佐」

 

テーブルの前に白いワイシャツと黒いズボンを穿いたコハクが待っていた。

 

「こちらこそ夕食のお招き、ありがとうございます。ホシノ中佐」

 

互いに社交辞令的な挨拶の後、向かい合う形でテーブルに着き夕食をとった。

夕食の献立はパスタにサラダ、スープ、そしてテーブルの真ん中においてあるバスケットに入ったパン。

 

「本当はワインかシャンパンが良かったんですが、さすがにそういうわけにもいきませんので‥‥」

 

ドリンクはブドウジュースと炭酸飲料が用意されている。

最初は会話のない夕食が始まった。

 

「「‥‥」」

 

ルリは何も言わずに黙々と料理を食べている。

その沈黙に耐えかねコハクはルリに話しかけた。

 

「あ、あの、料理‥‥ホシノ少佐のお口にあいますか?」

 

「‥‥ええ、ホシノ中佐は料理も出来るんですか?」

 

「向うの地球っていうのかな?そこでは記憶のない私を防衛軍の長官が身受をけしいただいて‥‥だから居候というのも申し訳なくて‥‥それに今回の任務は長期間の航海でしたので家事全般は一通り覚えておかなければならなかったので‥‥」

 

「‥‥」

 

(身長や胸だけでなく、女として何か負けた気がします)

 

顔には出さないが、ルリは言い知れぬ敗北感を感じた。

夕食が終わり、デザートのケーキと紅茶を前にしてコハクはルリが知っているこの世界の自分のことを聞いた。

 

「ホシノ少佐、あなたは最初、初対面だった筈の私の名前を知っていた‥‥あなたと私はどのような関係だったのですか?」

 

初対面という言葉を聞きルリはビクッと体を震わせ動揺したが、手にしていたカップをソーサーに置き、コハクを正面から見据え言った。

 

「私とあなたは‥‥家族‥姉妹の関係です」

 

「えっ!?」

 

ルリの言葉を聞き、今度はコハクが動揺した。

 

(姉妹?‥‥姉妹!?でも、ホシノ少佐とは髪の色も瞳の色も違うし‥‥)

 

「えっと‥‥」

 

後の言葉が詰まるコハクにルリは察したのか、

 

「義理の姉妹です」

 

「ああ、成程‥‥」

 

そしてルリはバックから戸籍表を取り出し二人の関係が義理ではあるが姉妹だと言うことを証明し、共に過ごしたナデシコでの話をした。

ルリから過去の話を聞くが、やはり思い出すことは出来ないが、最初に会った時から気になっていたルリのことに関しては納得がいった。

 

「今日はどうもごちそうさまでした」

 

「いえ‥‥昔の私‥‥?なのかな、その時の話が聞けて良かったです」

 

記憶を戻すことは出来なかったが、こうしてゆっくり、コハクと話すことが出来たルリは機嫌よくナデシコへと戻っていった。

 

 

コハクの生還の情報は、地球でも有数の大企業、ネルガル重工の会長、アカツキ・ナガレの耳にも入った。

当初は、銀河とコハクの情報は、宇宙軍でもトップシークレットだったのだが、存在している以上、噂と言うものはどこからか漏れてしまう。

特にネルガルの情報収集力はそれこそ、国の諜報機関並みに綿密で細かい情報網を有していた。

そして、ネルガルはあの木連との戦争終結以降、どうも企業成績が伸び悩んでいた。

反ネルガル派のクリムゾングループを筆頭にボソンジャンプの研究から外され、機動兵器に関してもナノマシンを使うエステバリスではなく、ナノマシンを必要としないステルンクーゲルがシェアーを独占している。

ネルガルが落ち目になっているのと同じように宇宙軍も戦争以降は規模が縮小気味となっている‥‥

 

「まさか、あの爆発の中で生きていたとはねぇ~‥‥」

 

コハクの生存を聞いたアカツキは、表情には出さないが、驚いていた。

 

「しかし、コハクは、テンカワ君同様、ボソンジャンプが可能な体質ですからね‥‥おそらく、爆発に巻き込まれる前にボソンジャンプをして、あの爆発から逃れたのではないかと、イネス研究員はそう言っています」

 

アカツキの秘書であるエリナが、彼にイネスが立てたあの時の爆発でコハクが生き残った仮説を説明する。

 

「なるほど‥‥しかし、それがなんだって、奇妙な戦艦と一緒に現れるんだい?」

 

イネスが立てた、コハクが生きていた仮説に納得するアカツキ。

コハクはこれまで何度もボソンジャンプで命の危険を回避してきた経緯がある。

しかし、コハクが謎の宇宙戦艦‥銀河に乗って戻ってきた事については未だに疑問が残る。

ネルガルもそこまではまだ情報を掴んでいなかった。

 

「その辺については、まだ詳細な情報が入っておらず不明です」

 

「そう‥‥それで、コハク君は今、どこにいるんだい?」

 

「現在は月ドックに居る模様です」

 

「月ドックか‥‥」

 

「ただ、コハク自身についてもう一つ、ある情報があります」

 

「なんだい?」

 

「現在、コハクはどうも、記憶喪失になっているみたいです」

 

「記憶喪失だって!?」

 

「はい」

 

「それに、最後に確認された姿よりも、随分と成長しているみたいです」

 

「ほぉ~‥‥まんま、ドクターイネスの時と同じだね」

 

「そうですね‥‥あっ、これが今のコハクの姿です」

 

エリナはアカツキに確認された今のコハクの姿を空間ウィンドウに表示する。

当初、アカツキはイネス同様、どこかに跳ばされ、再び戻ってきたと言うことで、コハクもイネス同様、中年の女性になっているのかと思った。

しかし、彼の予想に反し、コハクはまだ十代後半か二十代前半ぐらいの美女に成長していた。

 

「‥‥」

 

アカツキは成長したコハクの姿を見て思わず絶句した。

 

「会長?」

 

エリナはジト目でアカツキを見る。

 

「ん?あっ、ああ‥‥随分と綺麗になったじゃないか‥‥」

 

思わず成長したコハクに見とれていたことを誤魔化すかのように成長したコハクの容姿を褒める。

 

「それで、記憶喪失の治療に関してだけど、ドクターイネスに任せればなんとかなりそうかい?彼女も元記憶喪失者だったからね」

 

「ホシノ少佐もその件で、連絡をとったみたいですけど、明確な治療方法はないそうです」

 

「そうか‥‥」

 

「イネス研究員によれば、ふとしたことで記憶が戻るかもしれないと言っていました」

 

「ふとしたことねぇ‥‥ああ、そうだ。テンカワ君と艦長にコハク君の生存を知らせてあげてくれ‥‥最もルリ君が知らせているかもしれないけどね」

 

アカツキはアキトとユリカにもコハクの生存の知らせを送ってくれとエリナに頼んだ。

 

 

 

 

・・・・続く

 




ではまた次回。
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