機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第53話

 

 

 

 

「ええええっー!!それ本当なんですか!?アカツキさん!?」

 

アカツキからコハク生存の連絡を受けたユリカは思わず夜中だが、大声を上げる。

なお、二人の養女であるラピスは時間も時間であり、眠っており、彼女の眠りは深く、ユリカの声でも起きなかった。

 

「ああ、ボクもついさっき、連絡を受けたばかりだが‥‥おや?ルリ君からは何も聞いていないのかい?彼女は既にコハク君と接触していると聞いたのだが‥‥」

 

「いえ、何も聞いていません」

 

アカツキは既にアキトとユリカはルリから連絡をもらっている者ばかりだと思っていたが、ユリカのリアクションからどうやら、二人はルリから連絡をもらっていないようだ。

 

「もう!!ルリちゃんったら、なんでこんな大事なことを忘れるんだろう!?」

 

自分だってコハクの件は心配した。

しかし、ルリの方が大きなショックを受けていたことから、それを表には出さなかったが、自分たちも二年間、ルリを騙し続けていたので、お相子だろう。

それにルリはアキトとユリカに黙っていたのではなく、ただ普通に二人に連絡するのを忘れていただけなのだ。

 

「ねぇ、アキト!!」

 

「ん?なんだ?」

 

厨房の奥からアキトの声がする。

 

「コハクちゃんが生きていたんだって!!」

 

「なんだって!?コハクちゃんが!?」

 

ユリカが伝えたコハクの生存。

それを聞いて、アキトは厨房から急いでユリカの居る居間へとやってきた。

テンカワ・アキト‥元ナデシココック兼パイロット。

妻であるユリカと共に火星への新婚旅行へ向う途中、火星行きのシャトルが離陸後に爆発、公式にはそのシャトルの事故で死亡とされていたが、二人はシャトルの搭乗口に向かう途中で、ゴートが指揮するネルガルシークレットサービスの手によって保護されていた。

当初、困惑気味の二人だったが、ゴートの話とコハクが残した手紙を見て、二人はシャトルに乗らなかった。

そして、搭乗予定だったシャトルが目の前で爆発したのを見て信じざるをえなかった。

ネルガルに身柄を保護してもらった後、二人は世界中に居る自分達以外のジャンパーの保護と救出活動を密かに行っていた。

三人の生存がルリをはじめとするナデシコクルーに明かされたのは火星極冠遺跡において草壁率いる火星の後継者との決戦前であった。

火星の後継者鎮圧後、死亡扱いだったテンカワ夫妻とイネスの記録は正式に変更され、アキトは東京の下町に念願だった自分の店を持ち、ユリカは予備役という形で軍務から退き夫であるアキトと二年前にある研究所で保護したラピスという少女を養女とし、看板娘としてアキトと共に店を切り盛りしている。

 

「それで、コハクちゃんが生きているって本当なのか!?」

 

「ああ」

 

「それで、コハクちゃんは今、どこにいるんです!?」

 

ユリカはアカツキにコハクの居場所を尋ねる。

 

「コハク君は、今、月に居るよ。ナデシコと‥‥ルリ君と一緒にね」

 

「月に?」

 

「ああ‥‥だが、一つ問題があってね」

 

「問題?」

 

「何があったんです?」

 

「‥‥実は、コハク君は今、記憶喪失になっているみたいなんだ」

 

「「記憶喪失!?」」

 

アカツキから聞いたコハクの現状に思わず声を上げて驚く二人。

 

「あ、あの、アカツキさん。一つ聞いていいですか?」

 

「ん?なんだい?」

 

「コハクちゃんはあの状況下でどうやって助かったんですか?」

 

「本人から聞いたわけではないが、ドクターイネスは、コハク君は爆発の直前にボソンジャンプをして、助かったのではないかと言う見解だよ」

 

「ボソンジャンプ‥‥」

 

「そうか、コハクちゃんなら、俺達と同じくボソンジャンプが出来るからな」

 

コハクが居たのはあの火星遺跡であり、自分達と同じボソンジャンプ可能体質。

それならば、イネスが言う通り、爆発前にボソンジャンプであの場から逃げて無事なのも頷ける。

 

「それと、コハク君は、あの事件から成長しているよ」

 

「「えっ?」」

 

アカツキからコハクが成長しているという言葉を聞いてドキッとするアキトとユリカ。

 

「ボソンジャンプをして‥‥」

 

「記憶喪失で‥‥」

 

「「成長したって‥‥」」

 

二人の脳裏には偶然にもイネスの姿が浮かぶ。

 

 

「くしゅん!!‥‥うーん‥誰かが噂をしているのかしら?」

 

その頃、ネルガルの施設の某所にて、一人の説明おばさんがくしゃみをした。

 

 

(こ、コハクちゃんが‥‥)

 

(イネスさんみたいに‥‥)

 

「「‥‥」」

 

コハクがイネスみたいに説明好きで、偏屈なオバサンになってしまったのかと顔を引き攣らせる。

 

「ん?ああ、もしかして、君達二人は、コハク君が、ドクターイネスみたいになったと思っているのかい?」

 

アカツキはアキトとユリカの顔を見て、コハクがイネスみたいになったのかと思った。

わかりやすいほど、顔に出ていた二人。

 

「えっ?い、嫌だな~アカツキさんそんなわけないじゃないですか」

 

「そ、そうだよ」

 

二人は否定するが、それが嘘であると小学生でも見抜けるほど、動揺している。

 

「まぁ、そこは敢えて深くは突っ込まないけど、コハク君の今の姿はこれだよ」

 

「えっ?これが‥‥」

 

「今の‥‥コハクちゃん‥‥?」

 

二人は成長したコハクの姿を見て、思わず目が点になる。

 

「どうだい?随分とべっぴんさんに成長しただろう?」

 

アカツキは別にコハクの身内でもないのだが、アキトとユリカに自慢するかのように成長したコハクの姿を見せる。

確かに成長したコハクは同性のユリカでも思わず驚くほどの美人に成長していた。

 

「‥‥」

 

成長したコハクを見て思わずその姿に見とれるアキト。

 

「ア~キ~トぉ~‥‥」

 

自分の旦那がコハクに見とれている姿を見て、ジト目で睨むユリカ。

 

「えっ?」

 

「もう!!今、コハクちゃんに見とれていたでしょう!?」

 

「い、いや、そんなことはないぞ!!」

 

「はっはっはっはっ、テンカワ君も男と言うことだ。テンカワ君もあの時、手を付けて予約をしておけばよかったと後悔しているんじゃないか?」

 

「なっ、何言っているんだよ!?」

 

アカツキからのからかいを受け、アキトは更にパニくるし、

 

「アキトはやっぱり、コハクちゃんの事を!!‥‥アキトの浮気者!!」

 

「だから違うって!!」

 

テンカワ家がカオスな空気となり、沈静化するまでそれから30分の時間を有した。

なお、カオスと化したテンカワ家の様子をアカツキはニヤニヤした笑みを浮かべながら見ていた。

エリナからは、「趣味が悪いわよ」と注意を受けたが、軽く受け流すアカツキだった。

 

「それじゃあ、ボクは伝えることは伝えたから」

 

そう言って、テンカワ家を荒らすだけ荒らして、アカツキは空間ウィンドウを閉じた。

 

アカツキからコハクの生存と今、どこに居るのかを聞いたユリカは、自らの父親であるコウイチロウに連絡を取る。

 

「お父様!!」

 

「ん?おお、ユリカか。どうしたんだね?」

 

「さっき、アカツキさんから聞きました!!コハクちゃんが生きていて、今月に居るんですよね!?」

 

「むっ!?うーん‥‥それは何というか‥‥」

 

コウイチロウは気まずそうにユリカから視線を逸らせる。

コハクがただ、生存して月で保護されているだけでは、そこまでややこしくはならないが、彼女は別の世界の地球の軍人となっており、その世界の宇宙戦艦の艦長となっていた。

しかもその宇宙戦艦は現在の宇宙軍、統合軍が保有している宇宙艦船よりも強力な力を有している。

そのため、コハクの立場、扱いが難しい立場であるので、コウイチロウとしても予備役となったユリカに伝えにくかったのだ。

しかし、アカツキがユリカに伝えてしまったので、もうコハクの存在について否定することは不可能だ。

ならば‥‥

 

「あ、アカツキ会長にコハク君の事を聞いているのであれば、彼女が今、記憶喪失であることも聞いてあるのだろう?」

 

そう、今のコハクは記憶喪失状態だ。

ならば、それを利用しようとしたのだ。

 

「は、はい」

 

「記憶喪失状態の彼女は今、デリケートなのだよ。だから、無用な混乱を避けるためにユリカには伝えられなかったんだよ」

 

「そうなんですか‥‥」

 

「うむ」

 

「それなら、私とアキトがコハクちゃんの記憶を取り戻して見せます!!」

 

「ん?」

 

なんだか、話が変な方向に向かっている。

 

「だから、お父様、明日一番で月行きを手配して下さい!!」

 

「えっ?えっ?」

 

「それじゃあ、待っていますから」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!ユリカ!!」

 

コウイチロウが止めるのも聞かず、ユリカは通信を切った。

 

「‥‥」

 

コウイチロウは空間ウィンドウを見ていた時のままで固まった。

愛娘であるユリカの頼みを断ることも出来ない。

ましてや明日の朝一と言われてしまい、明日の朝、迎えがこなければユリカはきっと怒るだろう。

コハクとの接触は正直まずいが、ここは視点を変えると、ユリカとアキトとの邂逅は諸刃の剣であるが、二人との再会で琥珀は記憶を取り戻すかもしれない。

コウイチロウはそんな奇跡を信じて、ユリカとアキトをコハクに会わせることにした。

 

ユリカがコウイチロウと通信している間、アキトはルリと通信していた。

 

「ルリちゃん。さっき、アカツキから連絡を受けて、コハクちゃんが生きていたって‥‥」

 

「あっ‥‥」

 

ルリはここでアキトとユリカにコハクの件を話すのを忘れていたことに気づく。

 

「す、すみません。アキトさんとユリカさんにコハクの事を伝えるのを忘れていました」

 

「いや、別に攻めている訳じゃないんだ。ルリちゃんもコハクちゃんが見つかってホッとしただろうし‥‥でも、コハクちゃん、記憶喪失なんだって‥‥」

 

「はい‥‥でも、必ずコハクの記憶を取り戻してみせます」

 

「うん、その意気だ」

 

アキトとルリが話していると、

 

「アキト!!」

 

コウイチロウと通信を終えたユリカがアキトに声をかける。

 

「あっ、ルリちゃんも‥‥ちょうどいいや」

 

「どうしたんだ?」

 

「明日、私達も月に行って、コハクちゃんと会います」

 

「「えっ?」」

 

ユリカが宣言するように言うと、アキトとルリはポカンとする。

 

「コハクちゃんが記憶喪失で大変なんだもん。私達だって、コハクちゃんのために何かできることがあるよ!!きっと!!」

 

「えっ?いや、ユリカ、いきなり明日、月に行くって‥‥お店はどうする?」

 

「コハクちゃんのためだもん!!休店の一週間やニ週間、どうってことないよ!!アキトだってコハクちゃんにお世話になったじゃない!!」

 

「ユリカ‥‥そうだな。ルリちゃん、明日、俺達、コハクちゃんに会うため月に行くよ」

 

「わかりました。では、月でお待ちしております」

 

こうしてアキトとユリカはコハクに会うため、月へ向かうことにした。

 

 

翌朝、ラピスが目を覚ますと、アキトは朝食を作り、ユリカは大きな旅行カバンに荷物を詰め込んでいた。

 

「ん?ユリカ、どこかに出かけるの?」

 

「あっ、ラピスちゃん。おはよう」

 

「おはよう‥‥」

 

「今日はこれからみんなで、月に行くんだよ」

 

「月?」

 

「そうだよ。月にはルリちゃんともう一人‥‥ラピスちゃんのもう一人のお姉さんが居るんだよ」

 

「私の‥‥もう一人の姉‥‥」

 

ラピスはナデシコに乗艦したばかりのルリと同じように無表情な子であるが、ルリとは違うもう一人の姉の存在にちょっと興味を抱いている様子だった。

 

「ユリカ、荷物はちゃんとまとめてくれよ。それと、あまり必要がないモノも入れないようにな!!」

 

アキトは朝食を作りながら、ユリカに荷物の詰め方に突っ込む。

ナデシコに乗艦時、サセボシティーでユリカと再会した時、彼女は沢山の荷物を用意して、旅行カバンにもデススペースがあった。

 

「わかっているよ!!」

 

(本当に大丈夫か‥‥?)

 

ユリカはどうも普段の生活の中でドジな部分があるので、アキトはやや不安だった。

 

 

朝食を食べ終え、着替えが終わった頃、コウイチロウが手配したハイヤーが来て、テンカワ家の三人は宇宙港からシャトルで月へと向かった。

 

 

月 艦船ドック ナデシコB

 

アキト達テンカワ家一行が月へと向かっている中、

ナデシコでは、

 

「本日、テンカワ大佐とその関係者二名が月へやってきます」

 

ルリがナデシコの乗員にユリカ達が月へとやってくることを知らせる。

 

「テンカワ大佐が?」

 

「どうして月に‥‥?」

 

名字がミスマル姓からテンカワ姓に変わり、予備役とはいえ、宇宙軍総司令のコウイチロウの娘と言うことで、ユリカのことは宇宙軍でもその名が知れ渡っている。

 

「こは‥‥不明艦の乗員に面会するためです」

 

「わざわざ、テンカワ大佐が‥‥」

 

「総司令官の名代じゃないか?」

 

わざわざユリカが不明艦の乗員(コハク)と面会することで、コウイチロウの代理として来るのだと思うナデシコの乗員も居た。

 

 

月 艦船ドック 銀河

 

銀河の艦長室にて、コハクは身支度をしていた。

今日もきっとこの世界の宇宙軍から臨検と事情聴取があるだろうからと思っていた。

そんな中、空間ウィンドウが開き、ウィンドウには自身の姉だと教えてくれてホシノ少佐が映っていた。

 

「あっ、ホシノ少佐」

 

「‥‥ホシノ艦長‥‥本日、貴女と私の家族でもある方々が来ます」

 

ルリもコハクも同じホシノ姓なので、コハクはルリの事をホシノ少佐と呼び、ルリはコハクの事をホシノ艦長と呼んでいる。

ただ、コハクの事をホシノ艦長と呼んでいる時のルリは何だか、辛そうにも見える。

 

「私の‥‥家族‥‥」

 

ルリからこの世界における自分の家族と言われてドキッとするコハク。

勿論、今の自分にはその家族の記憶はない。

どんな人達なのかさえも覚えていない。

 

「その方々は、ホシノ艦長との面会を希望しています。会ってくれますか?」

 

「‥‥」

 

コハクはどうするか迷ったが、自分の家族でもあり、記憶の手掛かりをつかむことが出来るかもしれないと思い、

 

「‥‥わかりました。会います」

 

「そうですか‥‥では、その方々来ましたら、また連絡をします」

 

「はい」

 

ホシノ少佐からの連絡を受け、コハクは自分の家族とされる人達を待った。

 

 

やがて、テンカワ一行を乗せたシャトルが月へと到着した。

出迎えにはルリとサブロウタ、ハーリーの三人が空港へと出向いた。

 

「ルリちゃーん!!」

 

ユリカがルリの姿を見て、駆け寄ってくる。

 

「久しぶり!!元気だった?」

 

「はい。ユリカさんもお元気そうでなによりです」

 

「ハーリー君も久しぶり」

 

「はい、お久しぶりです」

 

「サブロウタさんも元気だった?」

 

「ウっス」

 

「あれ?ユリカさん、アキトさんは‥‥?」

 

「ユリカ!!お前、自分の荷物ぐらい自分で持てよぉ~」

 

ユリカに遅れて大荷物を持ったアキトと彼の傍に無表情のラピスが居た。

早速手配した宿に行き、荷物を置いてメインであるコハクとの面会に向かう。

人数が多いので、二台に分乗してホテルからコハクの下に向かう。

一台目にはルリ、ユリカ、ラピス

二代目にはサブロウタ、ハーリー、アキトが乗っている。

 

「あれ?ルリちゃん」

 

「はい?なんですか?」

 

「この車どこに向かっているの?」

 

自分たちを乗せているハイヤーが病院ではなく、月にある艦船ドックへと向かっていることから、ユリカはコハクはてっきり病院に居るのかと思ったのに、艦船ドックへ向かっているので、妙に感じるのも無理はなかった。

 

「ミスマル司令やアカツキさんから、聞いていませんか?」

 

「うん。コハクちゃんが記憶喪失で戻ってきたこと以外は何も聞いていないよ」

 

「実は、コハクは今‥‥」

 

ルリはコハクが別世界の地球で建造された宇宙戦艦の艦長であることをユリカに話した。

 

「えぇぇぇーっ!!」

 

あまりにも突拍子の無い話の内容にユリカは思わず声を出して驚く。

ラピスは反対に無表情。

 

「別の世界の地球なんて、本当にあるの!?」

 

「私自身もアニメ・漫画世界の様な内容だと最初はそう思いましたが、コハクが乗っていた戦艦の技術は、現段階の宇宙船技術を大きく上回っているという結論がでました」

 

「そうなんだ‥‥」

 

やがて、ハイヤーは銀河が停泊しているドックへと到着する。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

ユリカとアキトは、ドックに停泊している銀河を見て唖然としている。

これまで見てきた宇宙艦艇とは全く異なるシルエットと大きさに圧倒された。

 

「コハクはこの中で待っています」

 

「艦長、大丈夫ですか?」

 

「俺達も一緒に行きましょうか?」

 

「大丈夫です」

 

今回、コハクと会うのはテンカワ家一行とルリの四人だけで、サブロウタとハーリーは外でお留守番だ。

今回の目的はコハクの記憶を取り戻すことだ。

それにコハクが自分やアキト達に刃を向けるとは思えない。

逆に大人数で行けばかえってコハクを警戒させてしまう。

その為、コハクの関係者のみに絞ったのだ。

ラピスに関しては新しい家族として紹介する機会なので、連れて行った。

銀河のタラップでは、夕食会の時と同じく、キュウパチが一行を出迎えた。

 

「オマチシテオリマシタ」

 

「えっ?」

 

「ロボット‥‥?」

 

銀河もそうだが、これまた見たことのない形状のロボットを見て、唖然とするアキトとユリカ。

なお、余談であるが、ウリバタケが銀河の臨検に立ち会った時、キュウパチにも興味を示しており、キュウパチはロボットながらも身の危険を感じた場面もあった。

 

「艦長の下にゴアンナイシマス」

 

キュウパチの案内の下、一行はコハクの下へと向かう。

 

「艦長、失礼シマス」

 

「はい、どうぞ」

 

部屋の中から女性の声がして、扉が開く。

アキトとユリカは固唾を飲む。

そして、扉の向こうの部屋には昨日、アカツキから見せられた成長したままのコハクが立っていた。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

映像で見たが、こうして改めて本人を前にすると、やはり成長したコハクの姿に見とれてしまう。

 

「はじめまして‥‥になるのでしょうか?‥‥地球防衛軍、宇宙戦艦 銀河 艦長のホシノ・コハクです」

 

「コハクちゃん‥‥」

 

「‥‥」

 

やはり、コハクは自分たちの事を忘れているのだとコハクの自己紹介を受けて改めて認識するアキトとユリカ。

 

「はじめまして、地球連合宇宙軍大佐、テンカワ・ユリカです」

 

「ユリカの夫で、テンカワ・アキト‥‥今は下町で料理店をやっています。それでこの子が‥‥」

 

「ラピス‥‥」

 

互いに自己紹介を終え、椅子にかけると飲み物が提供される。

 

「ホシノ少佐からお聞きしたのですが、テンカワさん達はこの世界における私の家族だとお聞きしたのですが‥‥」

 

コハクが早速、アキト達に本題を切りだす。

 

「そうだよ。血は繋がっていないけど、私達とルリちゃん、そしてコハクちゃんは家族だったんだよ」

 

「そして、今はラピスもその家族の中に入っている。この子は君の妹でもあるんだ」

 

ユリカはナデシコの航海が終わり、火星サミットまでの短い間であったが、アキトのアパートで一緒に過ごした事を話し、アキトはラピスをコハクの妹として紹介する。

そして、四人で一緒に過ごした頃の写真や画像をコハクに見せた。

自らが首にかけている金のペンダント同様、写真にも画像にも自分の幼い頃と思われる姿が映し出されている。

どの写真にもルリやアキト、ユリカと一緒に居る自分と思われるコハクは笑みを浮かべている。

 

「‥‥」

 

コハクは黙ってそれらの写真や画像を見ている。

だが、どれもこれも今の自分には身に覚えがないものばかり‥‥

 

「どう?コハクちゃん、何か思い出さない?」

 

ユリカが尋ねるが、コハクは力なく首を横に振る。

 

「そう‥‥」

 

「で、でも時間はあるんだし、ゆっくりと思い出していけばいいよ。知り合いに記憶喪失だった人が居たけど、その人なんてマージャン中に記憶を取り戻したんだから」

 

アキトはイネスの例えを引き出し、コハクを励ます。

 

「は、はい」

 

(ま、マージャン中って‥‥)

 

コハクはぎこちない笑みを浮かべつつ、返答する。

そして、心の中で本当に記憶ってふとしたことで思い出すものだと思った。

それと同時にもしかしたら、自分もその人みたいに何気ない日常生活の内に記憶が戻るかもしれないとも思った。

 

「ねぇ、コハクちゃん」

 

「は、はい」

 

「向こうの地球ではどんな世界で、どんな世界をしていたの?」

 

ユリカはもう一つの地球の歴史や向こうでの生活を聞いていた。

コハク自身、ガミラスとガトランティスとの戦争は体験していないが、暗黒星団帝国に地球が占領された時は、まだ幼いながらもその幼さを利用して諜報活動をしたりもした。

自分たちの地球と異なり、強力な力を持った外宇宙からの侵略にさらされたもう一つの地球の歴史を聞き、コハクの話だけではまるでSF映画や漫画・アニメの様な話だ。

しかし、地球とガミラスとの戦争は、木連との戦争に通ずるものを感じるので、コハクの言うことが一概にすべて嘘だとは思えなかった。

それと同時に向こうの地球の技術力はこの地球の技術を上回っていることが覗えた。

だが、ナノマシンや人型ロボットの技術に関してはこちらの地球が上回っていた。

 

「コハクちゃんは美人さんだったし、向こうの地球でも彼氏さんとか居たんじゃない?」

 

「「っ!?」」

 

次にユリカがコハクに異性関係を尋ねると、ルリとアキトがピクッと反応する。

 

「確かにお見合いの話は沢山きました‥‥でも、全部断っていたので、親しい異性は向こうの地球ではいませんでした」

 

コハクが向こうの地球で、彼氏は作らなかったと言うとルリもアキトもホッとしていた。

 

(コハクがもう一つの地球でどこの馬の骨か分からない男の人に初めてをささげていないのは嬉しいですが、確かにコハクは美人になった‥‥このままでは、この世界でもいずれ誰かに‥‥)

 

向こうの地球で異性と交流を持っていなかったことに安心したが、こっちの地球でもいずれ、コハクは誰かと交際するかもしれない。

 

(今なら、ミスマル司令の気持ちが何か分かる気がします)

 

あの親バカの代名詞であるコウイチロウが何故、あそこまでユリカを大事にしていたのか、その気持ちが分かったような気がしたルリであった。

それはアキトも同じ気持ちだった。

 

(どこかの誰かにコハクの初めてがとられるくらいなら‥‥いっそ私がコハクの初めてを‥‥)

 

「っ!?」

 

ルリがちょっとやばい結論に至った時、コハクは思わず体をビクッと震わせる。

記憶喪失になる前、コハクとルリが肉体関係に近い関係になっていることはコハクとラピス以外、ここに居る者は知っているが、何分デリケートな部分なので、誰も触れなかったし、そうした場面の写真や画像、映像なんてある筈がなかった。

そのため、コハクが姉と思っているルリが心の中で獣めいた事を思っているのをコハクは知る由もなかった。

 

その後、アキトが手料理をわざわざ振舞ってくれて、コハクとしては久しぶりにアキトの手料理を食べることになったのだが、今のコハクはそれさえも今回が初めての様に感じた。

 

結局自分たちに会い、昔の写真や画像を見せるだけでは、コハクの記憶は元には戻らなかった。

 

「コハクちゃん」

 

「は、はい」

 

「例え、記憶が戻らなくても、コハクちゃんが私達の家族であることには変わりないからね」

 

「俺達はいつまでも待っているからね」

 

「はい‥‥ありがとうございます。テンカワさん」

 

記憶が戻らなくてもこうして自分を家族として迎えてくれる人がこの世界に居る。

それが分かっただけでも、コハクとしては砂漠でオアシスを見つけたような感覚だった。

コハクは笑みを浮かべ、アキトとユリカに礼を言った。

 

それから、コハクは自身の妹とされるラピスとコミュニケーションをとった。

ラピスは無表情な娘であったが、決して感情が欠落しているわけではなく、ルリの様に感情を表に出すのが不器用なだけだった。

コハクも突然、自分の妹であるラピスと最初はどう接すればいいのか戸惑う場面もあったが、関係はおおむね良好な関係を築くことができた。

 

「そういえば、ルリちゃん」

 

「はい?」

 

「ハーリー君もルリちゃんにとっては弟みたいな子だったよね?」

 

「えっ?ええ‥‥」

 

「それなら、コハクちゃんにとってもハーリー君は弟君なんじゃないかな?」

 

「え、ええ‥‥そうなりますね」

 

「じゃあ、ハーリー君にもコハクちゃんを紹介しないとね」

 

「‥‥」

 

ルリとしては一抹の不安があった。

確かにハーリーはルリにとっては弟の様な存在だ。

しかし、血は繋がっていない。

それはコハクも同様だ。

もしかしたら、コハクがハーリーに取られてしまうのではないだろうか?

ルリがそう考えていると、

 

「私には弟も居たんですか?」

 

「まぁ、ラピスちゃんみたいに血は繋がっていないけどね」

 

「そうなんですか‥‥でも、会えるのであれば会ってみたいです。その子は月には居ないんですか?」

 

ルリの心配をよそにコハクはハーリーに会う気満々であった。

 

「ハーリー君なら、お外で待っているから、呼べば来てくれると思うよ」

 

「そうなんですか?では、ぜひその、ハーリー君とも会ってみたいです」

 

「じゃあ、ハーリー君にも来てもらおう。ルリちゃん、お願い」

 

「わ、わかりました」

 

ユリカが、ハーリーの居場所をコハクに教えると、コハクはぜひ会ってみたいと言って、コハクとハーリーは早速、会うことになった。

ルリがコミュニケで外に居るハーリーと連絡をとり、彼にもここへ来てもらう事になった。

 

コハクの記憶喪失、そしていずれくるかもしれない異性との関係。

ルリの不安と心労はまだ続くことになる。

 

 

 

・・・・続く

 




以前、銀河の画像を見たいと言っていた方へ
アカウント名ステルス兄貴さんの画像ページにて閲覧可能です。よければどうぞ!
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